歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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19話 狂人と狂犬・シオンの書物・一通

「ぉヵゅ、疲れてない?」

「うん、僕は大丈夫だよ~。ころさんこそ、昨日も耐久してたけど大丈夫?」

 

 森に分散した最後のペア。

 おかころペア。

 互いに心配し合う。

 二人とも警戒心のようなものがなく、気楽に仲良く森を歩く。

 こういうとき、大抵ころねが保護者になる。

 例に倣って先頭はころね。

 何故か二人は手をつないでいる。

 

「あんまり気にしてなかったけど、今更ながら暗くてなんか出てきそうだねー」

 

 ふとおかゆが口にする。

 寧ろ何故今まで気にしなかったのか。いや、気にならなかったのか……。

 

「……だいじょぶだいじょぶ。ぉヵゅに手出す奴はこぉねがワンパンしてやるでな」

 

 腰に括り付けているボクシンググローブをパンと叩いて豪語する。

 強気なのは心強いが、果たしてそんな簡単な話だろうか……。

 いくらころねがボクシングができるにしても、単純な近接攻撃が魔法士の集うこの場で役に立つか否か。

 

「あ、そこ蜘蛛の巣あるよ~」

「ひやぁあ!」

 

 目の前の蜘蛛の巣に触れかけて、拒絶反応を示す。

 おかゆの忠告がなければ確実に顔面に蜘蛛の巣を食らっていた。

 ころねは一度おかゆと繋いだ手を離し、側に落ちていた木の枝でその蜘蛛の巣を成敗しようと……

 

「いや、ころさん……手……」

「あ……ごめんね、ごめんねぉヵゅ、落ち着いて」

 

 狂ったように突然涙目になるおかゆ。

 それを見てころねは焦り、急いで棒を投げ捨てると両手でおかゆの手をぎゅっと握る。

 その様子、明らかに正気ではない。

 だが、実は二人にも何故おかゆが豹変してしまったのか分かっていない。

 そして、何故ころねは無事なのかも。

 

 ここまでの道のりで、これと言った不自然さはなかった。

 一体何が原因なのか……。

 

「ころさん、すすも」

「……うん」

 

 おかゆはころねと手をつないでいる間のみ正気に戻る。

 しかも、正気の時とそれ以外の時とでは意識が完全に隔絶されている。

 簡単に言えば、正気状態のおかゆに、狂気状態の自身の記憶はない。

 だからころねもその間はこのことに触れない。

 手はころねが繋ぎたいから繋いでいることにしている。

 

「ぉヵゅ疲れてない?」

「それさっきも聞いたじゃ~ん。だいじょぶだって~」

「……そうだった!」

 

 度々精神の崩壊するおかゆを相手に、ころねは二度にも同じ質問をしてしまう。

 おかゆは天然だと言って笑って済ませるが、ころねは笑い飛ばせるほど心に余裕がない。

 記憶がない分、おかゆの方が精神的には楽なのかもしれない。

 

 それからも二人は雑談で気を紛らせながら森を歩いた。

 しかし、やはり状況は悪しき方向へ動く。

 

 

「……? ぉヵゅ? どうかした?」

「……? 何が?」

 

 手を繋いで歩き続けると、おかゆにある変化が生じてきた。

 本人は自覚していないが。

 

「……手、震えとるでな?」

 

 ころねが繋いだ手を持ち上げてその震える様をおかゆの目に強く焼き付ける。

 途端、おかゆが過呼吸気味になる。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

「ぉヵゅ⁉」

「怖い……寒い……」

「ぉヵゅ! しっかり‼」

 

 次に、ころねから手を離して自分を抱くと、そう呟きながら震える。

 その様子にころねは必死に名前を呼んで正気に戻そうとする。

 が、体の震えは止むどころか増していく。

 これはもう非常事態だ。

 おかゆが歩みを止めてしまった。

 こんな状態で一人放置もできない。

 

「ぉヵゅ、あそこに広い土地があるからあそこまで歩いて」

 

 少し空いた土地を見つけ、ころねはそこまでおかゆを誘導した。

 ひとまずその土地でおかゆを休ませようと試みるが、どうやらそうは問屋が卸さないらしい。

 

「ど~も~、ちょっとご機嫌斜めなぼくで~す」

 

 ここでもまた一人、異臭の漂う男が現れる。

 声の雰囲気と、漂う狂気の臭いがあの爆弾魔に似ている。

 肌でそれを感じ取った。

 

「こぉねも今機嫌がよくないから、早く消えな」

 

 おかゆを背後に庇いながら狂人と対峙する。

 狂人は然程怒っていなさそうだが、ころねは相当来ている。

 おかゆは既に目の色を失いかけている。

 ころねが手を離していることも影響していると思われる。

 

「だって怒るでしょ、普通。このぼくの狂気の領域に今日で三人も踏み込んだのに、気が狂ったのは一人だけ。しかも不完全」

 

 今の狂人の言葉、聞き捨てならない。

 ころねの耳が、ピクリと反応した。

 

「じゃあおめえが……」

「そうそう、ぼくがやったんだよ? 僕、猫又おかゆ~、なんてね?」

「おめえの指。全部切り落としてやるでな」

 

 狂気に染まった男に、狂気に染まった目で対峙する。

 狂人はふざけておかゆの物真似を披露する。

 その声が完璧におかゆ本人のそれで気味が悪い上に、ころねからすれば虫唾の走る侮辱行為。

 指を切り落としても、ぶっころねしても物足りない。

 何が何でもころねの手で、しばきあげパンチングで打ちのめさなくては気が済まない。

 

 おかゆは木の陰に座らせてころねがグローブをはめる。

 ここは特殊能力者の集まりだと聞いた。

 もし複数の能力を所持できないとしたら、恐らくこの狂人に闘える能力はない。

 きっと他人の精神を崩壊させる力だ。

 それが効かないころねとしては、十分に闘える敵だ。

 何故効かないかは不明瞭だが、不幸中の幸いだ。

 

「え、殴り合うつもり? か弱いぼくと?」

「しばかれたくなかったら、ぉヵゅを元に戻して」

「ん~。じゃあ殴れば?」

 

 狂人が嗤う。

 

「じゃあ殴る」

 

 ころねが踏み込んで猛ダッシュで狂人めがけて走る。

 あの腹立たしい顔面に殴り込んでやる。

 

 一撃、真っ正面に思いっきりパンチを打ち込んだ。

 が、狂人は意外と身軽に躱してみせる。

 

「俺にそんなクソみてぇなパンチが当たると思ってんのか、おい」

 

 身を翻して、ころねと距離を取ったあと顔を上げた狂人の人相が豹変していた。

 変わったのは外見ではなく人格。

 柔軟な雰囲気だった狂人から、柄の悪い頑固そうな狂人に早変わり。

 人格の変化に合わせて、身体能力まで上がったかもしれない。

 先程の様子からは想像できない瞬発力を見せてくる。

 

 そんな狂人の顔を見て、背筋が一瞬凍る。

 眼光が、ころねの体を拘束するようで気味が悪い。

 

「俺の能力が精神崩壊を引き起こすだけのものだと思ってたのか? あ? バカか?」

 

 愉悦を感じているような嘲笑で狂人が喋る。

 一人称の変化にまるで違和感を感じさせないのもまた、ころねを恐怖の渦に引きずり込む。

 

「俺は他人の精神を崩壊させてその崩れた破片を自分に取り込むことで、人格だけに留まらず多少の運動能力や知識、場合によっては声質や外見を盗むことが可能な能力だ」

「じゃあおめぇまさか……!」

「だからさっき揶揄って見せてやっただろ」

 

 自分の能力の優れた部分を抜粋して自慢する。

 そこからある一つの胸糞悪い見解にたどり着いたころね。

 言葉にしたくない。

 男はそれを察して敢えて間接的にころねに答えを想像させる。

 しかも悪趣味な性格はここだけに留まらない。

 

「ほら、僕、猫――」

「その顔と声で喋るな!」

 

 変わらない顔でおかゆの声を吐き出す狂人にころねが怒鳴り、堪えがたい怒りを込めた一撃を放つ。

 だが、相手も簡単には食らわない。

 気色悪い冗談を中断させ、またあの瞬発力で回避する。

 

「ぼくのこと嫌いみたいだね」

「たりめーだ、ぼけ」

「実はぼくも君嫌いだから。だって能力効かないんだもん」

「知るか、あほ」

「ぼくの能力が効かないのは、同じ狂人だけだから」

「残念、こぉねは狂犬」

 

 

 そこからは、互いに一撃も当たらない殴り合いが続いた。

 

 

 

          *****

 

 

 

 魔術の塔、最上階、展望デッキ。

 ガラス張りの円形の天井。

 見合う二人。

 

 シオンと、謎の男性。

 

 何度も魔法を打ち合ったが、互いに一向に崩れない。

 

「もう分かっただろ? これ以上は無意味だ」

 

 男性はシオンに語りかける。

 これ以上の魔法の応戦は何も生まないと。

 

「魔導書だけは返して貰わないと困る」

 

 シオンはまだまだやる気だ。

 元々キリッとした眉毛を更にキリリと整わせる。

 

「俺だってずっとここにいられては困る。これからまた別の本を探しに行かなければならない」

 

 シオンのものではない魔導書を開きため息をつく。

 

「お前も感じるだろ? この森に踏み込んだ侵入者達」

「……」

「まあ気付くよな。特殊能力に関する文献を持っている時点で相当の強者のはずだからな」

 

 シオンの仲間のことを指して言う。

 そして、シオンがそれに気付いていると、核心を突く。

 

「世界に100人程しかいない魔法使いの中でも15人しか持たない特殊能力を付与する魔法。それに関する魔導書の中でもお前の書は相当な内容らしい」

「まだ不完全で使えるものじゃないし、シオンにしか開けないから」

「それに関しては安心を。ウチには俺やお前よりも優秀な魔術師がいる」

 

 誰だろう?

 そんな強者の気配、全く感じない。

 感じ取れないほどの強者か……。

 

「どうする? ここで魔法を展開しても、お前が疲れるだけだぞ?」

 

 それでもやるか?と挑発する。

 ここは敵地。

 相手が生活しやすいように環境整備されている。

 魔法を放てば魔力が枯れていくが、相手はこの魔界に近い空気から魔力を吸収している。

 それに対し、シオンは自分の血を対価に魔法を展開する。

 自分の血を無限化することはできるが、超特殊な条件下でしか作動しない。

 しかし、あの魔導書には特殊能力の記述の他にも、大事な記述や大切な物が入っている。

 負ける戦いでも引き下がれない。

 

 と言うか……冷静すぎないか?

 

 これだけ侵入されて、目の前に自分と同等レベルの魔術師がいるというのにまるで余裕。

 自分の実力と環境に自信があるから?

 いや……にしても隙が多すぎる。

 

 

 シオンは、無言で一発、光線を放つ。

 

 それは軽々と消滅させられた。

 

「俺の相手をするよりも、お友達を助けに行って安心させてあげた方が堅実だぞ?」

 

「そんなことは心配してないし」

 

 だって、我らホロライブぞ?

 ホロライブ嘗めんな。

 

 

 もうしばらく詮索を入れながらシオンは男と対峙した。

 

 

 

          *****

 

 

 

 車待期組のゼロ期生とえーちゃん。

 まさかな事に、えーちゃんとロボ子以外誰もスマホを使えなかった。

 みこはいつものポンで家に置き忘れ。

 そらは意外にも充電切れ。

 

 そんな4人のもとに一通の電話が入る。

 

 えーちゃんのスマホにとある人からとある連絡。

 

 スピーカーモードにして皆で聞く。

 そして頼まれたことを了承し、通話を終了する。

 どうやら騒げない状況らしい。

 

「どうする? 塔のてっぺんのシオンちゃんを連れて帰るって言っても簡単じゃないと思うけど……」

 

 そらが眉を寄せて困り顔を見せる。

 一般人のそらには何も浮かばない。

 

「そうですね…何十回も登るのは大変ですし、変な力を持つ人たちや、そもそも森を抜けるのも厄介そうですね」

 

 えーちゃんもシオン救出の方法が難解だと頭を抱える。

 だが、そうは考えない人とは少し離れた二人がいた。

 

「みこち、この前神具を浮かせてそれに乗ることができるって言ってたよね?」

「言ったよー。でも塔までは少し届かないかも」

 

 少し危なそうな会話。

 今の会話だけで二人がしようとしていることが想像できる。

 

「いや、大丈夫。塔に届かないなら、塔の頂点に直線で飛ばさずに、それより手前で塔より少し高い位置に飛ばしてくれればそこからボクが自力でジャンプするよ」

「まさか天井突き破って最上階から突入するつもり⁉」

 

 ロボ子の計算のあと、そらが驚きを隠せずに言う。

 みこもロボ子もうんと答える。

 

「ボクなら壁を突き破れるし、相当の魔法でもない限り無傷でいられるから」

 

 自分が鋼鉄の機械でもあることを巧みに使ってシオンを連れ帰る魂胆だ。

 

「でも、最上階からどうやって降りるつもりですか?」

「それは多分シオンちゃんが魔法でどうにかできると思う」

 

 ある意味賭けのような要素だが、恐らく可能。

 最悪飛び降りてロボ子が下敷きになれば大丈夫。

 

「もっと安心安全な方法が望ましいですけど……仕方ないですね」

 

 対抗策がないため反対できない。

 こうなれば力ある者のゴリ押しでどうにかしてもらおう。

 力こそパワー。

 

 

 全員車から降りる。

 

 みこが神から与えられた謎の力で大麻を現出。

 それを巨大化させ宙に浮かせる。

 そして、それに跨がらず上に直立するロボ子。

 高性能なことに完璧なバランスを保っている。

 

 

「「気をつけて」」

「いくよ!」

「うん!」

 

 みこの念により、巨大な大麻が森の上を塔の方めがけて飛んでいった。

 

 

 

 




 どうも、作者です。

 さて、今回までで殆どのメンバーのシーンを描きました。
 残るは一名ですかね。
 さて、その一人は果たして……?

 そして、おかころはやっぱりこのペアでないとと思いましてね。
 でもあの狂人、手強そうです。
 それと普通に許せませんね、自分で書いてて早く消えろと思いました。

 あと、0期生とシオンの描写もありましたね。
 ここまでで先も述べた通り1名以外は登場しました。
 そして、これも以前述べた通り全員の活躍あってこその命、任務遂行と考えています。
 今の状況ではまだ全員が必須とは言えないですね。

 これからの地味でも肝心な活躍にご期待を。

 それではまた。
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