歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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第一章 何人集まるかな?
2話 会社設立にあたって


「失礼します」

 

 

 そらは元気よく扉を叩いた。

 外観は少しボロい感じの事務所だったが、中へ入って驚いた。

 まず事務所のある階へ上がった時に映り込んだ廊下の綺麗さ。

 建造物自体の汚れや微かな罅は散見できたが、それを凌ぐほどの圧倒的な綺麗さだ。

 廊下の汚れは丁寧に拭き取られ、隅から隅まで手入れが行き届いている。

 異動したばかりなのか段ボールが積まれているが、その段ボールの積み方も几帳面で通路の端、通行の邪魔にならない位置になるべく小さくまとめてあった。

 扉にも丁寧な字で「ホロライブ」とかかれた掛け札も付いていた。

 

 やはり、アイドル事務所というだけあって細かな手入れも決して欠かさない熱心さがある様子。

 そんな事務所からデビューできる事がそこはかとなく嬉しい。

 正しくアイドルだと思わせてくれるから。

 

 扉を開くと人がいた。

 勿論それは承知していたが、そこそこスペースのあるオフィスに複数の作業用機材が並ぶ中、中で作業をしていたのがたった一人だった。

 そらの入室に素早く反応し、抱えていた機材を置くとにこやかに笑って、

「どうも、いらっしゃい」

 と挨拶を返した。

 入社初日からメンチを切るような社員はいないだろうし、大抵の人間は第一印象を良くしようと心掛けるため、ここで第一印象をどうこう言っても特に何もないが、何となくこの人は親切そうに思えた。

 

 眼鏡をかけた青髪の女性スタッフさん。

 見たところ作業途中だが、今時間を貰ってもいいのだろうか?

 と、そう考えていたが、その女性は置いた機材をそのままにして優しい笑みを浮かべたままそらに歩み寄った。

 そして、

「こんにちは、ときのそらさんですね、待っていました」

 眼鏡をちょいっと触って整えた後、視線をそらへと向けた。

 声に優しさを感じる人だ。

 そう感じると同時にその人の服にも視線が向いてしまう。

 黒をベースとした服には水色で「ロゴ」と「hololive」と書いてある。

 社員の指定服なのだろうか……?

 ……ダサくはないが、なんとも評価しにくい上に触れにくい服だ。

 

 一瞬静まりかけるが、空気を悪くするわけにはいかないと、そらは咄嗟に口を開く。

 

「は、はい! 今日からこのホロライブのアイドルになります、ときのそらです、宜しくお願いします!」

 

 道中の軽やかな気持ちはどこへやら、そらは少し緊張し早口で声を大にして挨拶する。

 

「宜しくね、あ、私は友人Aです」

 

 ……。

 少し、理解に手間取った。

 

「……あ、ユージン・エーさんですか?」

「違います、『友人A』です!」

 

 少し言葉が強くなるが、怒ってはいない。

 予想していたリアクションだったのかもしれない。

 友人A(以後、えーちゃんとします)は持っていたメモ帳に同じく持っていたペンで、丁寧に「友人A」と記してそらに差し出した。

 とても変わった名前だ……と、しばし無言になる。

 

「それに関しては触れないでください」

 

 あ、心を読まれた。

 

「は、はい、分かりました……えっと、えーさん」

「みんなからえーちゃんって呼ばれてるから、そう読んでください」

 

 呼称に戸惑いを見せたそらに微笑で誘導する。

 

「はい、それじゃあ、えーちゃん」

 

 学校でもそこそこ友達の多いそら。

 持ち前のコミュニケーション能力を存分に発揮し、早速ちゃん付けの呼称を受け入れる。

 えーちゃんも「はい」と応じる。

 

「すみません、社長を呼んできますのでちょっと待っててもらえますか?」

 

 だが、その次には少し申し訳なさそうに頭を下げた。

「あ、はい」

 そらが答える頃には既にえーちゃんは扉を開けていた。

 最後にもう一度すみませんと言って扉を閉めると、足音を遠ざけていく。

 

「……」

 

 一人になってしまった。

 誰もいないアイドル事務所なんてあるのだろうか?

 それともやっぱり設立開始間も無くだと普通なのかな?

 でもそう言えば、応募要項でも面接でも、少し特殊なアイドル事業との説明だったかも……。

 もしかして、変なところに入っちゃったのかな……?

 

 奇妙な空気に段々とネガティブ思考を強めていくそら。

 それでもやっぱり、持ち前の明るさで気を立て直す。

 そんなことない!と気持ちを震わせ、服の皺や髪の乱れを整える。

 そして、その完了と同時に再び扉が開いた。

 どうやらえーちゃんが戻ってきたようだ。

 しかしながら、その背後に社長の姿はない。

 面接の際に一度会っているため、そらにも顔は分かる。

 

「すみません、今忙しいようで……」

 と、謝罪から入る。

 

「代わりに私が説明しますから、どうぞ荷物を置いて座ってください」

「はい」

 

 えーちゃんの促すままに席に座り、持参物をデスクの脚のそばに寄せた。

 椅子の座り心地がとても良かった。

 そう思い、少し周囲を見直すと、ようやく気付く。

 並んでいる椅子もデスクも、全て長時間労働用の道具だ。

 長時間椅子に座ることを強いられるようなチェアーに、画面が三つもあるゲーミングパソコンのようなもの、そして一つのデスクにはいくつかのものが置けるスペースがある。

 床を見れば配線もぐちゃぐちゃしていて物凄く複雑そうだった。

 

「えーっと、それじゃあときのそらさん」

「はい」

 元気よく返事、これ大事。

「ゲームとかって好きですか?」

「……え?」

 

 残念ながら、大事と胸を張ったことを早速忘れてしまう。

 突然無縁そうな話に持っていかれて、硬直してしまった。

 な、なぜ今ゲームの話を……?

 

「すみません、一応関係のある事なので」

 

 えーちゃんがそらの内心を察して先回りするとそう付け足してくれる。

 

「は、はい、まあ、結構好きですけど……ホラーとか」

 

 話の流れのままに言葉を選んで答える。

 ホラーの単語にえーちゃんは少し反応したが、そんな事は一切気にならなかった。

 

「歌とかは?」

「大好きです」

「じゃあ、友達との雑談とか、テレビを観るのは?」

「お話はよくします。テレビもアイドルのライブとか歌番組とかはよく見てました」

 

 なるほど、と小さく呟きながらえーちゃんはメモ帳にサラサラと何かをメモしていく。

 まるで面接のようだ。

 

「あの……これってどんな意味が……」

 

 杞憂だと信じていた事が次第に現実味を増してきて、流石に聞かずにはいられなかった。

 小さく挙手してそらは物申す。

 

「今から説明しますね」

 

 そういうと、えーちゃんは近くに置いていたパソコンを開きカタカタと何かを打ち始める。

 待つこと約1分、えーちゃんが開いたパソコンの画面を、対面するそら側へと向けてマウスを一度右クリックする。

 

『初めまして〜、初めまして〜、彗星の如く現れたスターの原石、ソロアイドルの星街すいせいでーす』

 

 すると、突如動画が再生されて、そんな可愛らしい自己紹介が聞こえてくる。

 一瞬音量に驚いたが、それを誤魔化すように視線をパソコンの画面へと移した。

 

『…………』

 

 その後も動画は進み続けるが、そらが最も注目したのは題名と名前だ。

 題名は「星街すいせい」初配信。

 名前はそのまま「星街すいせい」だ。

 えーちゃんの濃い青髪とは対照的に、空色のような明るい青髪でサイドテールを一つ作っている。

 そして、よくよく見ると蒼い目には天然の白い星形が存在していた。

 とても可愛らしい声をしており、その声で動画を配信しているようだった。

 

「この子は最近配信活動を始めたアイドルで、星街すいせいって言うんですけど、どう思いますか?」

 

 なんとも抽象的な質問をされる。

 これは試されているのか、と身構えながらも、どう対応するべきか浮かばず結局思ったままを口にする。

「可愛いと思います。パッと見アイドルらしさが色濃く出ていますし」

 そら自身、率直すぎる感想だと思った。

 素直すぎて逆に上手く良さを伝達できていない。

 

「ときのそらさん、貴女にはーーいえ、当会社のアイドルはアイドル活動と合わせてこの配信活動もしてもらいます」

「え、えええっ!」

 

 驚愕しデスクをバンっと叩きつけて、そらは身を乗り出した。

 驚くそらに逆に驚くえーちゃん。

 衝撃に眼鏡が少し傾き、そらの身に付けていたリボンも少し歪む。

 驚きあい、沈黙して見つめ合う二人。静まり返った室内で時計の秒針がカチカチと音を鳴らしている。

 

「ご、ごめんなさい……でも、私、配信なんてしたこと……」

 

 時計の律動に耳を傾けているうちに冷静さを取り戻したそらはゆっくりとチェアに腰を下ろして自身の不適合さを提示する。

 ハッキリ言って、歌って踊って、上手くいけば握手会とか、くらいにしか考えていなかった。動画の編集技術も、配信方法も、ましてやどう映って、どう投稿すればいいのかなども分からない。

 

「大丈夫です。初めのうちは人も少ないので私たちがサポートしますから」

「そ、そうなんですか……?」

「はい、動画配信に関しては、私たちが主にリードしますので」

「ま、まあ……それ、なら、いい、ですけど……」

 

 ある程度のサポートが入るならと妥協を見せるが、その返事はどこかぎこちない。

 それに、えーちゃんも私たちと称しているが、えーちゃん以外に誰がいると言うのか。

 まさかこの会社の人員は社長を含めてまだ二人なのか?

 そして自分で三人目……。

 不安が積もりに積もる初出勤。

 軽かった気持ちがどんどんどんどん重くなっていく。

 

「ああ、それと……」

「……はい」

 

 更に言葉を続けるえーちゃん。

 一瞬、まだ何か……と嫌悪感を見せかけたがグッと堪える。

 印象大事、印象大事!

 それに何より、私はアイドル!

 

「社長が今必死にメンバーを集めているんですけど、中々知られない道なので人が集まらないんです」

「まあ、はい、私も知りませんでしたし」

 

 えーちゃんの発言にたった今起きた実体験を例に挙げる。

 

「ですので、もし……あ、無理にする必要はないんですけどね、もし可能であれば、誰か数名をスカウトしてきてくれませんか?」

「す、すかうと、ですか?」

「はい」

「どんな人を?」

 

 キョトンと可愛らしい目でえーちゃんを見るそら。

 理解が追いつかないまま話を進めているように見えた。

 

「それはときのそらさんの独断でどうぞ。見た目が可愛いでも、聞いた声が綺麗だったでも、ゲームが上手いでも、動画配信に情熱を持っていたでも……他にもたくさんあるでしょうけど……」

 といくつか列挙し指折りで数えていく。

 

「まあ、これは言った通り必ずではありませんけど。将来的に人をたくさん増やしたいと思っているので、もしスカウトできたら、ユニットとかも組めるようになるかもしれません」

「ユニット……」

 

 その単語にそらは微かに反応を示した。

 ユニットを組みたいという欲望はあった。

 人と話す事が好きな分、やはり仲間と共にステージに立てばソロライブとの景色の差は格別だろう。まあ、まだソロライブも開いた事がないが。

 とにかく、仲間は欲しい。

 その欲情故に、そらは当然のように決めた。

 

「分かりました、探してみます!」

 

 威勢のいい声にえーちゃんもうんうんと笑って頷く。

 

「それじゃあ今から仕事の打ち合わせとかその他諸々の話するからこっちに来てくれる?」

 

 面接のような時間が終わり、ようやくアイドルらしい仕事へと移る。

 途端にそらは体が軽くなり、はいっと大声を上げて席を立った。

 そして、えーちゃんに連れられて初めての仕事を体験した。

 

 




 続けてこちらも読んでいただきありがとうございます。
 作者です。
 星街すいせいさんについてですが、結構悩みました。
 そもそも、登場させる方全員そうなんですが、デビューのタイミングをリアルと合わせるか悩みに悩んでいて、それで結局全ては合わせないことにしました。
 まあ、理由として後から登場させることを決めた場合や作品の都合上順番通りは難しいなどなどありまして……。それでここにこれを記したのも、デビューの時期についてここで触れておかないと、例えばここでそらの次に突然五期生でも出てこようものなら、あ、ほかの方は出ないのかな?なんて思われそうだったので……。
 えーちゃんも実際とは色々違ってしまうわけですし……。

 もしこの設定についていけないと言う方は見限ってくださって結構です。
 結構なのですが、できれば読んで欲しい!最後まで!

 よっしゃ!
 ここからが登場ラッシュになるでー……多分。
 頑張ります。

 それでは、有り難うございました。
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