歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

25 / 122
25話 見張りの危険性

 見張りの仕事は楽じゃあない。

 

 見張りと言っても見張るだけではない。

 

 襲撃でも起きようものなら撃退の必要がある。

 

 こんな場所で、静かに見張りしながら待期、なんて生ぬるいことはあり得ない。

 

 ロボ子を見送った、暇人三人の下へ忍び寄る危険な影。

 

「……標的確認」

 

 短刀を両手に気配を殺して、車へと忍び寄る。

 ゆっくり、ゆっくり。

 

 

 

 

          *****

 

 

 

 

 ロボ子がみこの神具に乗って飛んでいった後、三人は周囲を警戒しながら会話をしていた。

 

「だいじょぶかな……」

「まあ、心配は分かるけど、ロボ子さんなら怪我とかはしないんじゃない?」

 

 そらが遙か遠く、塔の方角を見つめて憂えているとえーちゃんが微かに笑う。

 だが、励まし方が何というか……。

 確かにロボ子は一応鋼鉄のロボット。

 魔法や鉄具でも傷はつかない。

 でも、束縛や呪いなどロボットにも効く厄介な力は幾らでも存在する。

 死にはしないが、捕まる可能性は十分にあると言うことだ。

 

「ロボちなら大丈夫だと思うにぇ。根拠は無いけど」

 

 みこもそらに笑いかける。

 みこはなんだか無邪気だ。

 そんな性格が、好かれる理由であることは言うまでも無いが。

 

「そう、だね」

 

 そらは曖昧な笑い方をする。

 気が気でない様子。

 でも、かといってもう一人行くのは寧ろ足を引っ張ることになる。

 そのもどかしさも含めて感情が揺さぶられているのだろう。

 

「私たちは引き続き見張りね」

 

 えーちゃんが自分たちにできることを、と車の運転席に座って二人に言った。

 エンジンは掛けないが、万が一に備えていつでもすぐに発信できるようにしておく。

 

「でも、見張りって正直すること無くない?」

 

 みこが言ってはいけないことを言ってしまう。

 それも仕方が無い。

 だって、みこの領域分割の力を使って侵入阻害の手段を取っているのだから。

 所謂結界。

 簡単には侵入できまい。

 

「そんなこと言ってるといやな予感が……」

 

 咄嗟にフラグセンサーが反応するそら。

 頬を掻きながら口元を引きつらせる。

 みこには神から戴いた有り難い力が有るのかもしれないが、そらとえーちゃんは至って普通の人間。

 みこほど余裕ではいられない。

 

 

 バチィッ‼

 

 

「ひゃっ! 何⁉」

 

 突然、何かが干渉して電撃が迸るような音が響いた。

 仰天して音源を見るそら。

 最も驚きを見せたのはそらだったが、えーちゃんも相当、みこは別の意味で戦慄していた。

 

「ま、まずいにぇ……!」

 

 みこがぐるっと身を回す。

 勢いで巫女服がはためく。

 

「みこさんが妙なこと言うから!」

「みこのせいじゃないよ!」

 

 若干冗談交じりでえーちゃんが言うと、みこが強く反論した。

 やはり言霊とは存在するのか。

 

 三人は鬼気として辺りを見回す。

 結界が割れたというのに、どこにも人の姿が見えないのだ。

 勝手に割れただけなら一安心だが、確実に誰か居る。

 

 視認ができない。

 これ以上意識を注いでも意味を成しそうも無い。

 なら……

 

「神具・人形(ひとがた)

 

 みこが服の内側から一枚の白紙を取り出す。

 その薄っぺらい紙をかっこよく人差し指と中指で挟む。

 

 次の瞬間、一人の人が姿を現す。

 

 ……いや、存在を見せた、と言うべきか。

 そいつは容姿を隠すような黒の衣装で身を纏っている。

 まるで、そう……忍者のように。

 

「天下五月雨」

 

 声と共に現れ、声が届くよりも早く攻撃を繰り出す。

 短刀、手裏剣、クナイなど、忍者から連想できる小型の飛び道具を一点集中して投函する。

 その先とは、そら。

 最も狙いやすい位置にいたためだろう。

 

「そら!」

「――!」

 

 えーちゃんが叫んだときには既に雨は降り止んでいた。

 

「人柱」

 

 そらに命中した数多の武具。

 今の猛攻、回避できるはずもなければ耐えられるはずもない。

 でも、そらは不動で無傷。

 

「そら! コンテナに!」

 

 何故無事なのか、きっとみこの仕業だ。

 それを瞬時に理解し、そらへ適切な指示を出す。

 

「噂に聞くほどではなさそうだな、歌姫」

 

 そらを見つめる忍者が落胆したように呟く。

 

「寧ろ、貴様の方がよく香るぞ」

 

 口元を覆って、鼻も見えないのに何が香るだ、気色悪い。

 忍者としての見た目以上に性格や性癖は歪んでいそうだ。

 そう直感したみこ。

 

「こちとらアイドルなんで、そーゆーの止めてもらえますー?」

 

 日頃から配信で危険なラインを攻める割に、やはりここではそうなる。

 まあ、自分で言うのと他人に言われるのとでは相当差があるのは当たっているが。

 

「忍者と巫女か、多少古典的な出会いだな。面白い」

 

 言葉の意図は納得できるが、そんな言い方で口にされると気分が悪い。

 

「だが拙者は忍。任務遂行のために手段は選ばぬ」

「……参考までに忍者さん、その任務とか教えてもらっても?」

 

 危険を承知でえーちゃんが車窓から顔を出して忍者に尋ねる。

 

「無論、歌姫の抹殺」

 

 強まる語気。

 同時に手に握る手裏剣。

 

「みこさん! この人、ここの人じゃありません!」

「「え⁉」」

「鋭い! 拙者は刺客也」

 

 姿がバレた以上暗殺は失敗だが、目的に変更なし。

 身バレしたところで、警察や衛兵が捕獲できなければ結局は同じこと。

 

 えーちゃんの忠告に目を剝く二人。

 えーちゃんの忠告はどんな意味か。

 ここの者じゃない、と言うことは、ここの敵の法則に従わないと言うこと。

 それ即ち、忍者は魔法を所持していない可能性が高く、逆に身体的に能力が高いと想像できる。

 暗殺者を名乗るほどなのだから。

 

 ここまで来てまさかの別陣営。

 しかも歌姫の抹殺……?

 歌姫って……。

 

「忍法・分身の術」

 

 忍者が魔法のように分裂する。

 

「忍術!」

 

 みこが危機感を得る。

 忍術は非常に厄介な業として有名だ。

 最も厄介なのは当然魔術。

 だが、それに匹敵するレベルで忍術も危険だ。

 忍術とは様々な忍法をひっくるめて言う。

 分身、身代わり、変身、水走り、影移動、煙幕などなど。

 

 どれもこれも敵を翻弄する非常に厄介な術ばかりだ。

 

「えーちゃん、車!」

「分かってますっ!」

 

 分身した忍者でも、本体は一つで他は全て実態がない。

 しかし、実態を持つ者がどれか分からなければ全てに警戒する必要があるのは当然。

 分身と本体を合わせ数は5。

 一人が開いたコンテナの中にいるそらへ、二人が車の運転席にいるえーちゃんへ、二人が神具を操って戦況を動かすみこへと向かって走る。

 

 最も危険に思えるのはそらだが、ここで安直な発想は排除。

 みこの直感ではえーちゃんが最も危険。

 だから叫んだ。

 

 えーちゃんがそらをコンテナに乗せてトラックを発進させる。

 遠くには離れられないので、限界までこの周辺を暴走する。

 案の定、えーちゃんの下へ走った一人が本体だった。

 

 だが、車の発進に間に合わず途中で断念した様子。

 分身が全て消失し、忍者一人がぽつんと残る。

 

「まやかし程度ではどうにもならんな」

 

 三人の直感とみこの実力、車の速度やえーちゃんのドライブテクなどを見て把握したようだ。

 短刀二本を両手に持ち、みこを前にして構える。

 まずは戦場に強く影響する存在を意識して戦うようだ。

 

「みこち!」

「大丈夫だにぇ!」

 

 そらが開いたコンテナからみこに叫ぶが、みこは振り返ってグッと親指を立てる。

 

「なんたって、えりーとだから!」

 

 みこちは何だかんだで強い……。

 私は……護られているだけで良いのだろうか?

 ……何か、何か役に立つ方法は無いか?

 

 そらはみこに頷いた後、内心でそんなことを考えていた。

 

 

「いざ、尋常に――参る!」

 

 全く正々堂々戦う気の無い第一発の後、そんな台詞を吐いて襲いかかってくる忍者野郎。

 みこも素直に真剣勝負する気などさらさら無い。

 どんな手を使っても、ここは……推しは……仲間、親友は護ってみせる。

 

「ノット尋常に――やってやるで!」

 

 みこが不敵な笑みを浮かべて手を叩く。

 特に神具の召喚に作法は無いが、礼や拍になれてしまってつい叩いてしまう。

 

「神具・神鏡(みかがみ)

 

 現出したのは一枚の鏡。

 鏡とは太陽を反射する、第二の太陽。

 太陽の熱気を、光線を反射する。

 

「忍法・火遁の術」

 

 忍者が煙幕を周囲に張った。

 火薬の臭いで鼻がツンとする。

 視界も煙で薄暗く曇っていく。

 

 適当にみこは先刻忍者がいた位置に光線を放ったが、見事に空振り。

 

 視界が閉ざされれば、もう聴覚だけだ。

 嗅覚は潰されようとそうでなかろうと、人間には酷使できない器官だ。

 あとは……第六感だろうか?

 戦闘の経験則的なものもある。

 

 いや、違う! まずい!

 

 この煙幕に乗じて車に接近する気だ。

 みこには車の位置が見えないが、術者本人が見えなくなるほど愚かでは無いはず。

 

「神具・御幣!」

 

 あまり使いたくなかったが、これを使う。

 みこは即座に御幣を現出させて地面に突き刺す。

 

「天罰!」

 

 御幣を突き立て、天を仰ぐと御幣が消滅し天空が鳴り響く。

 僅かに、ゴロゴロと叫んで、次の瞬間落雷が発生。

 

 煙幕で正確な位置は皆目見当もつかないが、忍者に落ちてくれたことは分かる。

 近くに雷が落ちて地響きや轟音が起こる。

 非常に体が振動するが、集中力は一切揺るがない。

 

 次第に煙幕が晴れた視界の先、忍者が無傷で息を切らしながらみこの正面に立っていた。

 

「神鳴りとは、非科学的な」

 

 天候を神様が操るという図式に批判的な態度を見せる忍者。

 

「おめぇが使う忍術も同じだろ……」

 

 ついみこがツッコミをかます。

 やはりホロライブは芸人?としての血が、こういう場面でも現れるのだろう。

 

「……一つ、気になることがあるにぇ」

 

 そんな温暖な一コマを終え、ふと切り出した。

 

「ふむ、答えられる範囲で答えてやってもよいが?」

 

 忍者は忍ぶ者のであるくせに、どうしてこんな時は都合よく話す雰囲気になるのだろうか。

 

「歌姫=そらちゃんで、解釈はあってるの?」

「まさかとは思ったが知らないようだな、そいつのことも、歌姫のことも」

 

 晴れた空、静かな森。

 車のエンジン音と四人の呼吸音。

 

「解釈は恐らく正しい、と言ったところか」

「恐らく?」

「ああ、まだ見込み段階だ」

「……なのに暗殺を?」

「危険な種は早期殺傷に限る」

 

 なんて理不尽か。

 まだそらが忍者の言う歌姫かどうか判別できていないのに。

 

「なるほど……」

 

 ボソッと、何かを納得したように呟いた。

 誰が……?

 そらだ。

 

「えーちゃん、出して」

「え?」

「突進」

 

 まさかの発言にえーちゃんが数秒戸惑う。

 コンテナと運転席は小さな窓でお互いが見える。

 そこから見つめ合い、視線で何らかの意思を疎通。

 目的も作戦も不明だが、いいだろう。

 

 そらとも第一号として、そらのお気の召すままに。

 ただし、そらの命最優先で。

 

「荒いけど落ちないでね」

 

 えーちゃんが発信させる前にコンテナの扉を閉め、外からの侵入を防ぐ。

 基本的に戦況は、音と、運転席の脇にある小さな窓からのみで確認。

 

 そして、せかせかと準備を――。

 

「はっ」

 

 走り出すトラックに数個のクナイが投げられる。

 が、みこが大麻を召喚しそれをトラックの前に通して、クナイを全て受け止めさせる。

 目的通りクナイが全て大麻に突き刺さった。

 

「轢いても、責任は取りませんし、保険も下りませんからね!」

 

 えーちゃんが窓を開けたままそう叫ぶ。

 なんだか現実的な話をするな……こんな時に。

 これほどの強者なら正当防衛になってくれると思うが。

 

「心配ご無用。車に轢かれるほど動きは鈍くない」

 

 いや、当たり前のように言うけれども、普通の人間は車の猛突進は簡単に避けられないが……?

 

 忍者が普通の人間で無いことはそうなのだが。

 

「忍法・影縫い」

 

 向かい来る車をギリギリまで引き寄せて、地面に手裏剣を突き立てた。

 その手裏剣はトラックの影をその場に縛り付け、動きを完全に封じる。

 突然の強制停止にえーちゃんとそらは慣性により強い衝撃を受けた。

 

「ぐっ! ダメ! びくともしない」

 

 えーちゃんがアクセルをいくら踏んでも、当然バックしても、車は微動だにしない。

 手裏剣一つで完全に自由を奪われた。

 

「忍法・分身の術」

 

 更に分身でみこを惑わせてくる。

 全員を意識していたらそらとえーちゃんを護れない。

 危険を覚悟で二人の身の安全のみを考える。

 

「神具・注連縄」

 

 みこはここで領域の分割を行う。

 トラックだけ空間をずらして、簡単には侵入できないように結界を張る。

 一度この忍者に割られた過去があるが、みこを相手にしながら早々に破壊することはできまい。

 

「端から狙いは貴様よ、神の遣い」

 

 気がつけば忍者がみこのすぐ側に居る。

 短刀を握りしめ、首元をシュッと一閃。

 確実に斬られた。

 

「――!…………流石に……肝が冷えたで……」

 

 その一撃必殺級の殺傷能力の高い小技にみこは酷く汗を流す。

 後方に退いて、忍者をしっかりと見て視線を離さない。

 その時、右手に持っていた人型の首の部分が勝手に切断され地にひらひらと舞い落ちて、光となって消えていった。

 厄災を肩代わりする人型だが、当然在庫に限りはある。

 みこが基本持ち歩くのは二枚だけ。

 今回は危険度を見て三枚。

 

「神具・神鏡」

 

 みこは急いで迎撃用の鏡を現出。

 そして光線を幾度も放って、忍者と距離を取る。

 

「忍法・土遁の術」

 

 みこの放つ光線はどれも空を切る。

 それは忍者がどこかに消えてしまったから。

 

 消えられると、もういつも通り耳を頼るしか無い。

 研ぎ澄ませ。

 集中して、微かな音を確実に拾うんだ。

 

 

 ……。

 

 ……。

 

 キン……。

 

「――そこ!」

 

 微かな金属音を拾い、当たりを付けて砲撃する。

 何でも焼き尽くせそうな光線が一直線に筋を造る。

 

「外れだ!」

 

 しかし、忍者は真逆の方向から現れ、みこを襲った。

 してやられた!

 金遁の術だ!

 

 それに気付いたときには、反射で体を翻していた。

 

 だが、この至近距離からの短刀は避けきれず、肩に小さな刀が刺さってしまう。

 

「イッテぇ!」

 

 生まれて初めて、こんな激痛を味わった。

 今回ばかりは人型も発動が間に合わなかった。

 

 更に、嫌らしいのは……

 

「効くだろう? その毒は」

 

 そう、短刀に塗られた毒。

 嫌らしくも毒が体を蝕む。

 

 体は動くが、精々手足が少し程度。

 忍者の手には別のナイフが。

 

 それで心臓を一突きにされればもう生きていられない。

 手が痺れて巫女服の内ポケットから人型を出すこともできない。

 

 

「みこさん!」

 

 

 そこへトラックが乱入。

 結界の内側からのすり抜けは可能なため、二人が手裏剣を抜いて出てきたのだろう。

 みこの名を叫び忍者へ猪突猛進。

 短刀をみこに突き立てることなく、忍者はトラックを避ける。

 臨機応変に動きを変更するのが得意な辺り、やはり忍者なのだと思い知る。

 

「し……神具……大麻」

 

 みこが動けない状態で、左手に大麻を現出。

 忍者が離れている隙を上手く狙えている。

 地に横たわった状態で、首を大麻に向けると「修祓」と静かに叫ぶ。

 

 すると、みこに取り憑いた汚れ――即ち痺れ毒が効能を失う。

 

「いっ……」

 

 なんとか立ち上がるが、右肩の出血がどうしても痛い。

 利き手側の肩がやられ、動きが全体的に鈍くなる。

 苦痛に顔を歪めた。

 

「大丈夫ですかみこさん」

 

 車窓から身を乗り出して尋ねる。

 その際、なにかをみこに投げた。

 小さな二つの何かを……。

 

 小さく頷かれた。

 そういうことか。

 

「忍法・影縫い」

 

 一瞬の隙に狙いを定めて、また手裏剣が影を縛る。

 トラックのエンジンがまたしても意味を成さなくなる。

 

「神具・神鏡」

 

 不動でも、出来ることはたくさんある。

 頭を使えば、何個でも。

 

 光線が手裏剣に当たる。

 すると、手裏剣が捕えていた車の影が無くなる。

 これで影縛りは対策可能だ。

 影さえ無ければ縛れない。

 容易い事よ。

 

「忍法・火遁の術」

 

 影縫い打ち消しからの追撃……が出来れば完璧だったが、肩の痛みがどこまでも弊害となる。

 みこの判断力と機動力を半分以上も削っている。

 またしても忍者が動き出した。

 煙に姿を消し、三人を惑わす。

 

 この場合、闇雲でもえーちゃんは車を出すべきだ。

 確実にそらが狙われている、それが分かっているのだから。

 ……だが、えーちゃんもみこもその場を動かず、ただ両耳に耳栓を付けた。

 その動作は当然忍者には見えていない。

 

 煙に紛れたまま忍者はそらの隠れるコンテナに急接近。

 錠は掛けられていないため開閉は自由。

 入り口まで近づき、今まさに開こうとしたその時、独りでに……ではなく、そらが自ら扉を開けた。

 流石に扉前まで接近されれば気がつくもの。

 音と気配を頼りに実行し見事に成功。

 

 驚きつつも忍者は短刀を抜き、斬りかかろうとする。

 そして、すぐに自分が万事休す状態であることに気付く。

 

 そらが開いたコンテナの扉。

 目の前には、そらと大きなスピーカー。

 そらの手には、まだ新しいマイクが――

 

「アアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーー‼‼」

 

 そらの絶叫がマイクを通し、スピーカーから超音量で森中に放たれた。

 森がざわめき、鳥たちが一斉に飛び立つ。

 

「――‼」

 

 そう、このトラックは電気自動車。

 しかも、機材運びようとして、僅かなコンセントと機材が常時搭載されている。

 乗せたまま来るか迷ったが、結局持ち込んで正解だった。

 

 忍者が鼓膜が破れそうな爆音に耳を必死に塞ぎ、反射反応で目を瞑る。

 

「神具・大麻」

 

 みこが大麻を現出、それをロボ子を投げ飛ばしたときのような特大サイズに増幅させた。

 そして、空中で振り回して振り回して振り回して振り回して――遠心力を時間限界まで付けて、忍者にぶつける。

 回転により、舞っていた煙は全て吹き払われたのも計算内。

 

「っ――!」

 

 忍者の苦悶の表情も苦痛の声も、その体も、全て空の彼方まで吹き飛んでいった。

 まるで10万ボルトで吹き飛ぶ彼女らのように……。

 

 

「「「…………」」」

 

 

 勝利……なのか?

 

 バタッとみこが倒れ込んだ。

 完全に脱力している。

 

「みこち!」

 

 そらがコンテナから飛び降りて駆けつけた。

 えーちゃんも遅れて側による。

 

「大丈夫?」

 

 定型のように聞くが、勿論こんな状況、こんな大怪我、大丈夫なはずがない。

 

「痛み以外は……」

 

 一度力を抜くと、もう立てそうになくなった。

 護る必要もなくなって、力を振り絞る気力が一気に無くなったのだ。

 肩程度と思うかもしれないが、刃を突き立てたのは一流の暗殺者。

 上手く刺さったため出血がやはり響いている。

 無理をして動いたことも出血量を増やす原因となった。

 これ以上はたとえ動けたとしても、そらが決してそれを許可しない。

 

「ごめんね、私たち何も出来なかったから……」

 

 そらが偶然持参していた少し大きめのタオルで止血しながら表情に影を落とす。

 

「それは仕方ないにぇ。普通のアイドルはあんな時逃げるだけだから」

 

 逃げずに立ち向かっただけでも勇敢。

 しかも頭脳とその場にある道具を巧みに使って撃退の大事な一手を炸裂させた。

 何も出来ない事なんてない。

 寧ろ頭も使わず無策にただの授かり物の力を乱撃していたみこだって何も出来ていない。

 

「みこは二人が無事でよかったにぇ……ただ……」

 

 視線がえーちゃんに向いた。

 僅かにずれた視線。

 目と目が合っていない。

 

「襲撃の理由を知らないと、すっきりしないかも……」

 

 力の無い力強い顔。

 視線が訴えかける。

 これはどういうことなんだ、と。

 私は何から仲間を護ったのか。

 何から護るために負傷したのか。

 名誉だけでは、生きていけない。

 いつか後ろから刺されてしまう。

 

「……話します。でも、これを話すときは、全員に」

 

 観念したようにえーちゃんが白状することを約束する。

 他のメンバーにも同時に、と言う流れは理解できる。

 三人はそれを約束して、他のメンバーの帰りを待った。

 

 そして、忍者や他の刺客がその後襲ってくることは無かった。

 

 

 

 みこ&そら&えーちゃん対忍者――忍者撃退成功、みこ負傷。

 

 よって、

 

 ホロライブ陣営、脱落者なし、みこ負傷。

 

 敵陣営、変化なし。

 

 第三勢力、退散。

 

 

 

          *****

 

 

 

「……申し訳ございません。歌姫の暗殺に、失敗しました」

 

 遙か彼方へと飛んでいった忍者が、一本の電話を入れた。

 自分の居場所は分かっているが、今から戻っても、辿り着くころには歌姫達は既にその場を退散しているだろう。

 事務所襲撃は現実的でない。

 だから今回、事務所を離れた隙を狙えと、命が下っていたのに。

 

『気にするな、俺の人選ミスだ。お前は何も悪くない』

 

 電話の向こう側からそんな励ましが。

 全く励みにならない。

 

『だが、たった今お前の昇格は無くなった』

「……はい、仕方の無いことです」

『そうだな』

「……」

 

『代わりのジョーカーが気になるか?』

「……え、ええ」

『ついこの間、丁度良い適性を持った奴がいてな』

「能力の、ですか?」

『ああ、重力師だ』

「賢明かと」

『……安心しろ、お前をチームから外したりなどはしない』

「……」

『エース、キング、クイーン、ジャック、ジョーカー、ハート、スペード、クラブ、ダイヤ、そして昼と夜と……切り札』

「……」

『役は揃った。お前も含め全員が戻ったら作戦立案と決行日についての会議だ』

「……はい」

 

 まだまだ、ホロライブに安寧が訪れる様子はない。

 

 




 今回も最後までありがとうございます。
 作者です。

 今回はやっと、そらみこえーちゃん、でした。
 みこちって神様の遣いだから、もう少しエゲツない力でも使わせられそうですが、ぶっ壊れ能力はシオンだけで十分かと。
 いや、るーちゃんやロボ子さんも結構やばいかも。
 制限のない不死身や超火力、超防御力って強すぎない?

 これで大方戦いはお終い。
 いずれのチームもできる限り見たことあるような組み合わせにしたつもりですが、一期生とぺこるしは意外だったかも。

 さあ、後は帰るだけ。
 帰りにも何か一波乱ありそう……。

 では、また。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。