歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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26話 森を抜けろ

 走っている。

 一人、二人、三人、四人、五人、六人。

 ぺこら、るしあ、メル、アキロゼ、まつり、はあと。

 

 ぺこらが機転を利かせて共感覚を使用していたことが功を奏した。

 一匹の野ウサギが捕えたのだ。

 シオンが空から降ってくる光景を。

 あくあが魔導書を持ってフブキと塔内から飛ばされてきた所を。

 

 それを目撃して選択肢は絞られた。

 帰る!

 

「ぺこらのそれ、ホント便利だね」

「あ、ありぺこです……」

 

 まつりの関心に、ぺこらは身を縮めて恐縮です、的な反応をした。

 

「皆ちゃんといるよね?」

 

 たまにメルが振り向いて後方に全員追っているか確認してくれる。

 ぺこらが案内で先頭、そしてメルがその後ろ、後は適当に。

 

 メルが振り向くたびに、皆が小さく顎を引く。

 

「――?」

 

 懸命に走る中、ふと二人が周囲を見回す。

 

「どうしたの?」

「……何か、呼ばれたような気が……」

 

 はあとが真横にいたアキロゼに聞くと、そんな奇妙なことを言い出した。

 

「ぺこら、何か聞こえた?」

 

 るしあが最も耳が良いと思われるぺこらに聞くが、何も聞こえないと言う。

 

「いや、聞こえたよ、まつりも」

 

 しかし、もう一人、まつりは聞こえたと主張。

 二人には絶対に聞こえた声。

 でもその声は他のメンバーに決して聞こえない。

 

「それって一回だけ?」

「今のところは……」

「なら、気のせいかもしれないから、先を急ごう?」

「……そうだよね」

 

 一度だけの声。

 偶然二人が空耳を聞いた、と言う可能性の方が高い。

 ぺこらに拾えない声を二人が拾うことは困難だからだ。

 アキロゼとまつりは、取りあえず納得して速度をもとのように早めたが、内心では、声に応えなければならない気がしていた。

 でも急いで逃げないと、またいつ追っ手が来るやも知れない。

 

 兎に角、走る。

 

 まだまだ走る。

 

 多分、あと半分くらい。

 

「……まつりちゃん」

「……アキアキ」

 

 しばし無言で走って、またしても先程の二人が奇妙なアイコンタクトを取る。

 もはや幻聴の域ではない。

 そう確信して、二人は行動に出る。

 

「ごめん、ちょっと別行動させて」

「え⁉ ここから⁉」

「危険ですよ!」

「分かってる。でも行かないといけない気がするの」

 

 まつりとアキロゼの申し出を、他のメンバーは猛反対。

 後輩からも言われるが、それでも退かない。

 

「行くって、どこに」

「……多分こっち」

 

 こんな戦況で二人が別行動に走ることは言語道断。

 でも、二人の目があまりにも真摯で、断れなかった。

 

「なら、そのウサギを話さないでください。逸れると後で探せなくなります」

 

 ぺこらが、まつりの抱える野ウサギを見て忠告した。

 そのウサギが命綱だと。

 

「分かった。行くよ、アキアキ」

「うん」

 

 二人は、方向を転換し今までとは直角になる方角へ進んでいった。

 

「……大丈夫かな」

「……メルかるしあちゃんが付き添った方がよかったかも」

 

 メルが二人の姿が消えた後、思いつく。

 だが、時既に遅し。

 

「いざとなったらきっとなんとかしますよ」

 

 るしあがあまり期待できない励ましで二人の意識を戻す。

 

「……じゃあ、また進んで……え?」

 

 ぺこらが先頭で進んでいた方向を向き直し、共感覚を発動する。

 そして、冷や汗を流して硬直した。

 

「ぺこら?」

「……この先に、野ウサギが一匹も居ないぺこ」

「それってどういう……」

「道が分からんぺこ!」

 

「「「ええっ‼」」」

 

 ぺこらの叫びを超える驚きの声が森に響いた。

 

「どどど、どうすんの」

「お、落ち着いてるーちゃん。今までこっちに歩いてたから、こっちに進めば良いぺこな?」

 

 これまでの進行方向が合っているのは確実なため、現在向いている方角が入り口。

 それさえ分かれば後は真っ直ぐ進むだけ。

 簡単ではないが、四人で注意を払って歩けばなんとかなる。

 

「そうだね、慎重に、方向が大きく変わらないように進もう」

 

 メルが冷静に進むように促すと、三人はうんと返事した。

 そして、指示通り迷わないように、それでもできるだけ早く森の草木をかき分けて歩む。

 

 

 途中から歩みに変わったため、速度は落ちたが、それでもそこそこ時間が経ったし、まもなく森の入り口に着くはずだ。

 そう励まし合いながら、四人は静かな森の中を進む。

 進んで、進んで……

 

「うっ……」

 

 突如、ぺこらが鼻を押さえた。

 動物の嗅覚は人間よりも敏感、きっと何かを感じたのだろう。

 だが、臭いが異様なのだろうか、顔を歪めてまるで呼吸したくないかのような顔色で振り向く。

 

「……きっとこの臭いが、ウサギたちが居なかった理由ぺこ」

 

 鼻が曲がりそうだと文句を言いながら訴える。

 三人は臭わないらしい。

 

「しかもこの臭い……」

 

 覚えがある。

 ここまで酷くはなかったが、この森に踏み入れて間もなく鼻を突いたあの刺激と同じ。

 火薬の臭い。

 

 その臭いは、あの時と同様に、もう少し進むと他のメンバーにも感じ取れるようになった。

 

「この臭い、まさか……」

「……戻ってきた?」

 

 鼻に残る火薬臭。

 それは、あの爆弾魔の空間に漂う危険な香り。

 しかも、目の前にはあの時の空間。

 茂みから様子を伺うが、人の気配はない。

 警戒しながら、そっと一歩、小さな空間に足を踏み入れる。

 

「そう、戻ってくるのは当たり前。来た道は戻るよね」

「またでた……」

 

 再放送、爆弾魔の登場。

 誰かが嫌そうに呟く。

 

 あの火傷痕、見るだけで気分が悪くなる。

 

「流石に疲れてるでしょ? そこを僕がどどーん、ってね」

 

 魂胆を暴露し、早速愉悦に浸る。

 まだ何一つ、状況は変化していないのに。

 妄想が激しい変態と言うことか。

 

「るしあちゃん」

「はい、メル先輩」

 

 ぺこら、はあとより数歩前にでて交戦の構えを取る。

 戦闘員が非戦闘員を護らなければ。

 

「ふひひ、一瞬で木っ端微塵にしてあげるから」

 

 爆弾魔と二人の間にバチバチと火花が走る。

 先手はどちらか、爆弾魔か?メル&るしあか?

 

 サ、サ、サ、サ……。

 

 どこからか、草木の揺れる音。

 何かが走る音。

 そして更に何かが叫ぶ音。

 

「「「「「何⁉」」」」」

 

 敵味方共に、同じ反応で音のする方を見た。

 

 

「「ぅぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおお!!!!」」

 

 

 だんだんだんだん声が近づき――

 

「「どっけぇ!」」

 

「ぶべっっっっ!」

 

 突如、茂みからとある二人が飛び出し、拳と武器で爆弾魔を殴り飛ばして、即座に意識を刈り取ってしまう。

 そして華麗に、力強くどんと地面に着地して、互いを見て、

 

「気済んだ?」

「いや、まだ!」

「あたしもまだ!」

 

 怒りの感情が強めな二人の登場。

 しかも爆弾魔を一撃で沈めたパワーに唖然として、言葉も出せない四人。

 二人は何故か未だに四人に気付いていない。

 

「「マリン!」」

 

 二人は、自分たちが飛び出した茂みの奥に叫ぶ。

 

「ちょ、ちょっと待ってよ~。二人とも……元気すぎ……」

 

 遅れて、年寄りのようによろよろの歩き方で現れたのは、我らが船長、宝鐘マリン。

 

「はぁ、はぁ……あれ?……ぺこらと、るしあと……メル先輩と、はあちゃまじゃん……」

「「え……? ホントだ!」」

 

 マリンが声にして、初めて存在に気付いた二人。

 息ぴったりで、実に仲のよさげな二人。

 そう、不知火フレアと白銀ノエルだ。

 

「ど、どしたん? 二人して……」

 

 るしあが少し声を震わせて尋ねる。

 三人が四人に近づきながら二人はこう語る。

 

「聞いて! フレアが傷つけられたのに何も出来なかったの」

「聞いて! ノエルが倒れてたのに何も出来なかったの」

 

 ああ…………つまりてぇてぇ?

 

「お~い、フレア、ノエちゃん? 船長は? マリンちゃんの事は?」

 

 マリンが大袈裟な身振り手振りで二人の視界に入り込み、アピールする。

 私をもっと心配して、と。

 

「「だってマリン何も怪我してないじゃん」」

 

 二人のハモりに驚きながら、四人が三人を見比べると、確かにその差は著しい。

 ノエルの鎧は傷があるし、一部は破損している。

 フレアも肩からの出血や、全身にかすり傷が目立つ。

 それに比べて、マリンは体力で完全に敗北しているものの、目立った外傷は何一つない。

 

「でももう歩けん……。フレアー、負ぶってよ」

「おおおお可愛そうに、疲れ切って頭がおかしくなったんだね」

 

 マリンが地面にバタリとへたり込む。

 それを見下ろしてフレアがジョークを言う。

 

 

「……三人とも、何があったの?」

 

 二人の負傷やマリンの疲弊、その割に平常通りで不安が募った。

 メルが杞憂を含めて心配する。

 他の三人も同様の疑念というか、憂慮があったようで、うんうんと説明を促した。

 

 そこで三人はようやく、何があったのかをそれぞれが分かる範囲で説明する。

 

「団長が起きたときには皆倒れてて、マリンの手にメイスが握られてたから多分マリンが倒したんだろうなって思った。で、男の人に手錠掛けて、二人が起きるのを待ってた」

 

「あたしが起きたらノエちゃんが隣にいたかな。で、二人で情報を交換し合って、あたしが気絶したのと同時にマリンが来た事は確実だった」

 

「船長は正直あまり覚えてないけど、目の前にフレアが飛んできて駆け寄ったら気絶しちゃって……。そこからは本当に、怒ってたことしか覚えてない」

 

 らしい。

 

「そうだったんだ……」

 

 四人は不可思議な勝利に素直な納得は出来なかったが、無事でよかったとだけ伝えた。

 

「ってかちょっと待って」

「どした、マリリン」

 

「……船長が起きたとき、隣にフレアもノエちゃんもいなかったんだけど」

「もうそれはいいから!」

 

 明るくしようとしているのか、それとも純粋に不満だったのか。

 気遣いのマリンと言われるほどだから前者か?

 

「それより、ここに戻って来てんじゃん。早く塔に行かないと」

 

 フレアが当初の目的を思い出し皆を急かすが、四人が現在の各戦況を単調に伝えるとすぐに理解してくれた。

 

「それじゃあ、寧ろここに来て正解だったって事?」

「そうなるね。ラッキーじゃん」

「じゃあさっさと森を抜けよ」

「おk」

 

 全員、道筋が見えてきた。

 勝ち星まであと少し。

 この森を抜けて全員で事務所に帰る。

 この森に潜む者が大胆に会社に攻め込むことは無いはずだ。

 

 さあ、急いでここを……。

 

 

「……ぺこーらたち、どの方角から来たぺこだっけ?」

「…………」

 

 ぽかーんと口を開けて全員が押し黙る。

 誰かがこの非常事態を一言で解決してくれることを願って。

 

「……もしかして、やばいやつ?」

 

 沈黙を破ったのははあとの現実を叩き付ける言葉。

 その言葉に全員が我に返る。

 すると途端に場が騒然とし始める。

 やばい、まずい、困った、迷った、やらかした、などと言葉を挙げて。

 

「どうしようか……」

 

 新たな案を模索すべく、全員で唸りながら頭を全力で回転させる。

 

 そんな彼女らの下に、天下泰平へと導く一声が降り注ぐ。

 

「アアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――!」

 

 叫び声だ。

 この声、聞き覚えがある。

 いや、ホロライブメンバーが分からないことなどあり得ない。

 大きくなく、小さくない声量。

 何かの機材を使ったのだろうか。

 

「「そら先輩‼」」

 

 全員が同時に声の主を言い当てた。

 それと共に声のした方へ走った。

 真っ直ぐ、真っ直ぐ、真っ直ぐ。

 木々が多くて直進は困難だが、唯一木々を無視して一直線に進める者がいる。

 それがるしあ。

 るしあが直進し、それを目印に進めば逸れることはない。

 

 

 こうして、メル、はあと、るしあ、ぺこら、ノエル、フレア、マリンは見事に三人の待つトラックまで帰り着いた。

 

 

 現在の集合人数10/22。

 

 

 

          *****

 

 

 

 自分の耳と感性を信じてぺこらたちと道を分けたアキロゼとまつり。

 何がここまで二人をかき立てるのか、二人自身判然としていない。

 だが、その漠然とした感情もすぐに消え去った。

 二人は、肌で感じるままに道を選んでいき、辿り着いたのは……ずっと変わらない景色と全く同じ景色を持った場所。つまり、何の変哲もない森の中、ということ。

 

 その何の変哲もない森の中に、唯一目を引く――否、視線だけでなく、全ての感覚を持っていかれるような存在があった。

 

「フブキ!」「フブキちゃん!」

 

 薄暗くて、気味の悪い、何もない森の中、木に横たわり眠っているように動かない白上フブキの姿がある。

 

「フブキ、フブキ起きて!」

「フブキちゃん、フブキちゃん!」

 

 枝や木の葉で傷を負うことも咎めず、二人はフブキの下へ駆けつけて必死に覚醒を促す。

 しかし、呼吸はしているものの一向に目覚める気配がない。

 二人は一瞬で理解した。

 このために呼ばれたのだと。

 絶対的な確信を持てる直感だった。

 

「アキアキ、なんとかするよ」

「うん、取りあえずここをでないと」

 

 フブキが何故こんな過疎地で気絶しているのか、皆目見当もつかないが、動けない以上肩を貸して連れて行くしかない。

 フブキの右腕をまつりが、左腕をアキロゼが肩に回してゆっくりと立ち上がる。

 

「お、重い……」

「聞かれてたら怒られるよ」

「でも、意識のない人はホントに……」

 

 まつりが一般女性への禁句を漏らすが、反論しようがない状況。

 全体重が二人に掛かっているのだから、平均的に考えて、自分との体重が1.5倍になったようなもの。

 無理もない。

 

「フブキの脚とか、引きずっちゃう……」

「仕方ないよ。放置するよりはマシだから」

 

 極力慎重に運んだが、どうしても足や頬などの露出した部位に切り傷が複数付いてしまう。

 アイドルが、女子の肌が、フブキが、なんて言ってられない。

 命あっての何とやら。

 

「でも、道ってこっちであってるの……?」

「いや、正直自信ない」

 

 この二人もまた、道が分からない。

 自らの意思で付いて来てくれる野ウサギもぺこらがいないと役に立たない。

 仕方ない、このまま進むしか……。

 

「アアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ――!」

 

 そして加えて、この二人もまた、天下泰平に導く声を聞いた者だ。

 はあと、メル、ホロファン達と同じように、即座にそらの声と聞き分け、声のするほうへ進んだ。

 

 時間を掛けて歩き続け、二人は開けた場所に出た。

 トラックも、メンバーも、何もかも揃った、完璧な光景。

 

「来た!」

 

 誰かが三人の帰還に声を上げた。

 

 どうやら、三人が最後のメンバーだったようだ。

 

 これにて、全員集合だ。

 

 

 因みに、軽く補足しておこう。

 

 シオン、ロボ子、スバル、あやめ、ちょこは、シオンの案内のもと、真っ直ぐ道を進み、難なく脱出。

 ホロファン&はあと、メルチームに次いでの到着。

 

 その次におかゆ、ころね、ミオ、あくあのチーム。

 塔から走り始めたためそこから真っ直ぐ走れば車はなくとも、この円形の森は抜けられる。

 その計算で走っていたが、途中で四人もあの声を聞き、方向を転換、見事にこの場へ生還。

 三番手だった。

 

 そして、その直後にこの三人。

 

 フブキを急いでコンテナに寝かせる。

 既にコンテナ内では、みことフレアが横になっていた。

 

 こうしてメンバーは完全終結。

 再び全員で配慮しながらコンテナに乗り込みさっさとこの森を離れる。

 

 まだもう一段階分の森をこの車で逃げなければならない。

 急げ急げ。

 新たな追っ手が来る前に――。

 

「出します」

 

 えーちゃんがアクセルを踏んで発進させる。

 いざ、帰宅――

 

 

「よくもやりやがったなお前ラあああああああ!」

 

 

 ――――――――。

 

 

 発進と同時、森から塔の主が突如現れ、雄叫びを上げてトラックに迫ってきた。

 

 

 ――――――――。

 

 

 生還のための、ラストバトルは、まさかのチェイス型。

 対戦相手は塔の主。

 こちらの戦闘員は――全、ホロライブメンバー。

 

 

 さあ、本日の、最終決戦と行こうじゃないか、天の女神よ。

 歌姫よ――。

 

 

 




 どうも、作者です。

 さあ、間もなく終わりを迎える本章ですが、最後はやっぱり集大成。
 今回の能力のおさらい的な回となります。
 次回とその次で、二章も完結。
 カーチェイスなんて、アニメらしくていいですね。

 そして、近況を……。
 実は今、超絶大変な小ネタを仕込んだ回を製作中で、それが中々進まないんですよ。
 投稿したら、後書きにで小ネタの見つけ方を発表しますが、少し投稿までにお時間いただくも。
 極力急ぎますが、どうか。

 それでは、また。

 今日も配信に被り申し訳ない。
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