歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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30話 Say!ファンファーレ!

 ころねのライブ、おかゆのライブ、そらのワンマンライブは大成功。

 またしてもホロライブは大躍進。

 

 その躍進に合わせて、更にライブの開催が決まっていく。

 

 フブキの誕生日ライブ、ノエルのライブ、るしあのライブ、ぺこらのライブ。

 

 この順番で、それぞれライブがある。

 三期生はデビューライブに近いが、フブキは初の誕生日ライブという、新たな試みだ。

 そらのワンマンライブに連なって、ホロライブの内なる可能性のお披露目だ。

 

 

 

          *****

 

 

 

 ほんとうに現実なのだろうか?

 

「ーっ!」

 

 っと、危ない危ない。

 とつぜんに叫んだら、何事かと思われる。

 ひとりで興奮しがちな自分を制御する。

 とんでもなく嬉しい。

 息を荒げながら届いた歌詞に眼を通す。

 

 おもしろい歌詞とリズムだ。

 茶番みたいなネタや例の方まで歌詞の中に登場する。

 でっかいパソコンのモニターに映る歌詞とそれを眺めるフブキ。

 すごく嬉しいことだ、初のオリジナルソングが出るというのは……。

 よくよく考えれば、ホロメンでそらに次いで二人目か。

 いや、確かまつりのファンメイド曲も出ていたから、それを入れれば三人目か。

 ついこの前デビューして(体感)、早速オリ曲に出会えるとは。

 もう感無量!

 

 のんびりしたテンポと推し活を感じるアップテンポ。

 場所によってのリズムの表現も面白い。

 所々から作詞作曲者の思いも伝わってくる。

 

 かつてない規模のライブになるだろうから、これくらいは必要だ。

 らしさ、を追求するために、自分もほんの少し監修した歌詞だけあって、更に感情が……。

 

 元気な状態、万全な状態でステージに立つために、今から体調に気をつけないとならない。

 気持ちが高まりすぎて発熱、なんて事は許されないし許せない。

 

 にこにこ……と言うより、クスクス?と笑うフブキ。

 せきせき込み上げる感情を抑えて急いでレッスンへ向かう準備をして、家を出る。

 

「ーーーーぅ」

 

 のんびりとした室内から外へ出ると、小さく深呼吸して空気(気分)を入れ換える。

 でぇふくでも買っていこうかと思ったが、今回はやめた。

 

 

 ご機嫌なまま事務所に到着。

 挨いて……。

 拶って……。

 

「『おっはこーんでーすよー』」

 

 始めの一言は上機嫌なリズムのある挨拶。

 めずらしい程の快活さは、きっと新曲の影響。

 まあ、すぐに恥ずかしくなって小さくなるのだが……。

 しょんぼりしたみたいに、しゅん、となっていて、実に彼女らしい。

 

 うー、と小声で音を鳴らしていると、マネージャーに慰められた。

 お昼のお弁当をそれと同時に貰った。有り難い。

 

 しゃきっと気を引き締めて、気持ちを改めると早速作業へ入る。

 べつに、作業といっても、そんな大がかりな物ではない。

 りょうりょうとした部屋で色々と打ち合わせ。

 を早々に済ませて、歌の練習へ。

 

 しどろもどろな様子で練習を始めたが、次第に慣れてきていた。

 てんでん、仕事をしているが、やはりここでの主役はフブキ。必然的に目立つ。

 

 ゲシュタルト崩壊しそうな程に同じ歌詞を見つめ続けた。

 

「ーーーーーー」

 

 ムードを変える音。

 ときおり、そんな声にならない音をフブキが上げるのだ。

 過度な練習は却ってライブの質を落とす結果に繋がる。

 ごりごりと削れる体力。

 すこーしだけ休憩を入れよう。

 

「そんなに焦らなくても良いんじゃない?」とマネージャー。

「んー……焦ってはないんだけど……」

 

 なんとも言えない感覚に苛まれている自覚はある。

 毎時、毎分、毎秒膨れ上がるその感情の正体は不明だ。

 日数が少なくなっているから、焦っているの……かな?

 がんばり、が空回りしている気はしている。

 愛情、恩情、熱情、好情、激情……などの前向きで熱い感情。

 しれっとその中に隠れている感情があることに、気がついてはいる。

 

 くいっ、くいっ、と首を左右に傾けて軽く気分を紛らせる。

 

「て言いつつも本当は?」

「あ、焦ってないって! ホントに」

「れ――。……」

 

 もぅ、本当に?といった顔でフブキを見た後何かを言いかけて留まる。

 ここで数秒二人が停止する。

 

「れ……?って?」

 

 もどかしくて聞き返す。

 手厳しい言葉か激励の言葉。

 を言いかけた……に違いない。

 

 出しかけた言葉が気になるが、答えてもらえなかった。

 

 しばしそんな雰囲気で休憩した後、もう少し練習し、その日は終えた。

 

 

 

 たくさん練習して、喉が心配になり、仕方なくその日の配信は休みにしたのだが……。

 くすくすと隣で笑う親友がいる。

 

「なに……? そんなに声、変?」

 

 りすのように頬を膨らませる狐。

 がやがやと騒がしい町中だが、その微かな笑い声がフブキの耳にはよく響く。

 

「ちがうちがう!……あ、いや、ちがわないけど、ちょっと違う」

 

 では何が可笑しいのか。

 すぐにそんな感じの事を聞き返そうとしたが、ミオの方から切り出してくれた。

 

「歌に熱中してるのとかを見るの……じゃなくて、感じるのが久しぶりだから」

 

 と苦笑交じりに。

 からかうように笑ってるあたり、少しは面白がっている節がある……。

 スカーレットスカイがそんな二人の道を照らしている。

 

 テンポを合わせ、横並びで歩く二人。

 

「ーー、ーーーーー、ーーーー……」

 

 ジオラマ映像のようにフブキとミオだけがこの世界から浮いてみえる。

 はっきりと。

 まるで、不自然さを感じないほどに。

 

 だから何だという話ではあるのだが……。

 まあ、それを指摘するのは野暮という物だ。

 

 だいぶ歩いた所、上記のようにフブキが超小声でオリ曲を鼻歌で歌い始めた。

 恥辱という言葉を忘れたように、珍しく、しかし今述べたように、とても小さな音で。

 ずっと意識していて頭から離れないのだろう。

 かなり簡単にそんな無意識的な内心が読めてしまう。

 

 しばらく無言で聞いていたミオだが、彼女はまだ新曲のことを知らない。

 いかんせん、本人以外には基本的に知らされないから。

 けれど、もし本人が他言すればそれは当然知れ渡る。

 

 どれだけ聞いていても、音源が頭に浮かばなかったためミオはそこで一旦声を掛けた。

 支障が無ければ歌ってもらっても構わないのだが。

 

「えっと……それ、今日練習してきた曲?」

 

 合っていなかった歩幅を合わせて、横に並ぶと控えめに尋ねた。

 

「っ――。すぅーー……」

 

 てんと考えずに歌っていたが、そう言えば、と静かに息を吸って誤魔化す。

 

「ほ、ほら、まあ、そ、そういうときもあるから……」

 

 らいじょうぶ、と呂律を上手く回せずに続けた。

 届けられない歌があることが少しだけもどかしい。

 けれど、まあ、サプライズとして、黙っておかなくては。

 

「まあね、そういうときもあるよねぇ~」

 

 すましたような表情で大丈夫だよと暗示するミオ。

 よりによって彼女に誤って聞かせてしまうなんて……。

 

 こうなったら、逆にアドバイスを求めてみようか……?

 

 のたうち回るような感情にそう促された。

 声に出し掛けた言葉を出すように促す感情。

 を押さえ込む感情……を押さえ込んで押さえ込んで、唐突に――

 

「『Say!』って部分があるんだけどさ……あ、歌う曲の歌詞ね……」

「ほ、ほう……突然だね……」

 

 らしくない切り出しに多少の戸惑いを見せるミオ。

 その様子を見てフブキも我に返り、自制した。

 ので、ミオは少し間を置いた後に、

 

「顔色少し悪いから気をつけてよ? それで、その歌詞がどうしたの?」

 

 上下するフブキの様子からも分かるとおり、確実に疲れている。

 げに、ミオの指摘通り顔色が少し芳しくない。

 てっきり寝不足なだけかと思ったが、いや、そうなのだろうが、いつものそれとは違うらしい。

 みなまで言う必要は無いだろうと思い、そこで止めるが。

 

「ん……」

 

 なぞった自分の頬の艶が少し落ちていた。

 でも、あまり気にせず軽く返事すると、自分が歌をどう歌うべきかを尋ねた。

 手で自分の感情を小さく表現しながら。

 

「を……で、……ば……て……」

 

 取りあえず、色々と聞いたが、詳細は頭に入ってこなかった。

 れば、だから、を、それで、などの接続詞だけはよく聞き取れる。

 

 ばらばらに散ったフブキの単語を寄せ集めて、彼女の言った言葉を再構築。

 

「『Dive!』とか……あと、ファ――最後の部分とか」

 

 まあ、大体は分かった。

 だいぶ困っているらしい。

 まだ披露する曲が完成していない、と捉えて問題ない。

 だから、焦りが見えるのだ。

 

 道は大通りから外れていく。

 のんびりとした歩調をミオが少々テンポを上げて、前に立つ。

 途轍をしっかりと立てよう。いつも帰路を決めているように。

 

「中途半端に悩むと延々とどっちつかずのままになっちゃうから」

 

 世の中、間を取るなんてそう簡単にはできない。

 界隈として括られる中に片足ずつ突っ込むことは器用な者でも難しい。

 を脳内で完璧に理解すれば、少なからずどちらかに体が傾く。

 

「越度の無いように浮かべて。フブキなら、推しにどんな歌い方を望む?」

 

 え……? えっと……。

 よし、考えてみよう。『私の大好きなホロメン』がステージにいるときを……。

 

 うんと声を張って、私たちに呼びかけるように、コールを促してほしいかも……?

 

「『Say!』……的な……?」

 

 ほんの少し、照れながら、感情を表現してみる。

 らんらんとした熱い眼差しで夕陽が二人を見つめる中、少し頬が赤らむ。

 推定、白上の心拍数、およそ毎分120。

 しんと静まった一瞬は、体感相当長かった。

 

「おー、いいんじゃない?」

 

 仕覚万全な状態で挑もうと、そんな想いが強く伝わる。

 事象的には多少プラシーボ的なものが働いているかも知れないが、それでも感情がよく伝わる。

 もし、そうだとしても、世界一のすこん部がこれで満足できるのだから、何も心配要らない。

 止息数秒――。

 

「まるで聞いてなさそうな沈黙があったけど……」

 

 らしくないフブキの様子に引いているのだろうか、と不安になる。

 

「なんでも気にしすぎだって。もしダメだったら、それで反省して次に繋げればいいんだから」

 

 いいんじゃない、もっと気楽で――って?

 

 全身全霊の推し活には、全身全霊のステージを、は間違いなの?

 

「力、正位置。行動は控えましょう。長期的な視野で未来実現の強い意志を持つことが重要です」

 

 でも、と言いかけたフブキにミオが一枚のタロットカードを見せて助言する。

 すぐに言葉を呑みこんで再思考。

 

 かなり高い確率で当たる彼女の占いとそれによる助言。

 らっぱを吹くだけでは意味がないと。

 夢幻なり。

 

「を……。私を……。私が……」

 

 書き記せない、言い表せない、感情表現できない、このしこり。

 

「きっとウチの占い当たるから気をつけなー」

 

 からかうように笑って違う道を選んで、ミオは帰っていった。

 えも言わぬことであったかな?

 

 

 

 

 たちまちにライブ当日がやって来た。

 ららら、と喉を鳴らして調整を掛けた。

 

 

 追伸――全ホロメン、全リスナーへ。

 いかがお過ごしでしょうか?

 かつてない白上の最高のライブをご覧いただけますでしょうか?

 けして消えない想い出を。

 続く物語を。

 けして潰えぬ相思相愛を。

 

 

 ようこそ、白上のライブへ。

 うんと盛り上げよう、この一日を。

 ともに創ろう、このライブを。

 もっと笑おう、この日々の中で。

 

 

 にっこりと、偽りの無い、純白なスマイルが会場に熱気を与える。

 

 

 繋縛されたその心を解いて、そして真っ白に染め直す。

 ぐっと引きつける、彼女の全て。さあ、ご一緒に――Say?――

 

 

「『ファンファーレ‼』」

 

 

 

 




 どうも、作者です。
 さて、今回は伝説の小ネタ回でした。

 ここまで読んでいて、かつネタを見つけた人はおりましたか?
 PCだとわかりやすいんですが、スマホだと見つけにくいんですよね……。
 仕様上どうしてもそうなってしまうんです。
 あと、内容と文章が支離滅裂としているのはもう本当に申し訳ない。

 はい、それで答え合わせと言いますか、まああれですよ。
 *****以降の各文の頭文字と一部の『』内を順番に並べると……!
 なんと……!

 暇があったらもう一回見てみてね。

 それではまた次回。

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