止まらないホロライブのコンセプトは実現。
その存在は止まることなく世界に更に名をとどろかせていく。
これでもうホロライブの名を知らぬ者はいないだろう。
それほどの盛況。
この先のライブはかなり先まで既に決定している。
マリン、すいせい、フレア、ココ、かなた、わため、ルーナ、トワのデビューライブ。
その後、あくあの周年ソロライブ『あくあ色すーぱー☆どり~む♪』。
更に更に、もう5期生の募集も始まっており、また過去に類を見ないほど応募が殺到しているらしい。
さあ、今日は誰に焦点を当ててみようか――?
*****
快晴。
温暖。
天気良好、視界良好、波風良好。
最高の出航日和。
山小屋から出てきて都会で暮らし始めたけど、未だに船には乗れていない。
でも、もうすぐその夢は叶いそう。
今回のデビューライブには間に合わないけど、ステージとしての大型船を海に作ってもらえるらしい。
しかも、ほぼマリン専用の船となるらしい。
なんとその船、しっかりと海賊船仕様で、弾さえあれば大砲も放てるし、出航しようと思えばちゃんと帆を上げて大海へ乗り出していくこともできる。
あ、でも、その海賊船、もしかするとマリン号ではなく、アクアマリン号になるかも……。
まだ検討中なため、ライブまで分からない。
もうすぐ海賊の世界に一歩近づく。
そんなウキウキとは別の感情の高揚。
純粋にライブへの高揚。
ただ、やはり大半のホロメンが抱える問題。
ダンス。
そう、ダンス能力。
マリンは中でも特に苦手な方だと思っている。
お尻も年齢も関係なく、普通に苦手。
けど正直、そこは仕方ないと思っている。
元々そういう性分では無かったのだから。
得手不得手は人それぞれならそれでもいいと思う。
何より気になるのは……と言うか、まあ、たまに唐突に思うことがある。
配信者は、当然視聴者の方――リスナーやメンバーの事が好きだし、逆はもっとそう。
なんだけど……。
船長みたいなおばさんに誕生日祝ってもらったり、撫でられたり、好かれてキミたちは嬉しいの?
いや、ピッチピチの17歳だけども。
嬉しいの?
いやいや、可愛いし良いだろうって。
そういうもんか……。
リスナーに褒められるたびに、照れを「ふーん」って言葉で誤魔化して話は区切る。
そのたびに納得してるけど、またふと思う瞬間がある。
生まれ持った性格上、気になる。
気遣いができすぎるとホロメンの中でも評判の高いマリンが、そこに意識を向けないはずがない。
だってそもそもアイドルを目指してここに入ったのと違うし。
何度も言ってきたことだけど、ホロライブサマーとかに興味を持って入ったわけだから。
でもみんながアイドル船長を見たいって言うならそれも良いけどね。
ってな訳で、ライブに向けて――出航~。
ホロライブ内では数少ないコミュ強。
メンバー内でも会話率に差が出るのが普通だが、マリンは殆どのメンバーと話している姿が容易く想像できるほど、全員と積極的に会話して、絡んでいく。
先輩にも、後輩にも自ら歩み寄って話の輪を広げるのが得意。
凸待ちへの出現率も高い。
そのトーク力は最強かもしれない。
そんな事はさておき、今日も今日とて事務所へ向かう。
その後にレッスンと現場の様子見に行く事になっている。
のんびりと町中を歩いていると、とある人影が目に入る。
人混みに紛れ、静かにその人の背後に歩み寄り……
「桐生ちゃ~~~~~~~~ん」
と声を掛けた。
「げっ、その声は……」
マリンの声を聞いて嫌そうに声を漏らしながら振り返る。
「真島――!」
「誰が真島じゃ!」
マリンの軽いジョークに臨機応変にボケ返すのは期待の新星、桐生ココ。
結局マリンのツッコミで一度芸は終了する。
「どうしたんすかセンパイ」
そしてまた普通に世間話を始める。
「いや、どうもせんけど、偶然ココさん見つけたから」
一対一で会話するのは初めてかもしれない。
が、別に緊張感はない。
シナジーがある……と言うより、何かが噛み合っている、と言うべきか。
「センパイはこれから仕事ッすか?」
「そうなんですよ。あれ、ココさんはもしかして仕事じゃない?」
「あー、私は単にshoppingですね」
そんなノリで会話しながら、偶然にも同じ道のりをしばし歩く。
「そういやココさん、かなたさんと同居するって話出てましたけど、あれってどうなったんですか?」
いつか聞いた同居の話。
相当気が合うらしく、ワンちゃん同居ありじゃね?的な感じで話が進んでいるらしい。
マリンは背の高いココを見上げながら尋ねた。
「あー、今検討中ッすね。なんかすいせいセンパイも来るかもって話なんすよ」
「4期生のケツモチ?」
「そうっすね」
その場にいない先輩になんてことを……。
まあいないからいっか。
「船長もそう言えば船出来るみたいなこと言ってましたよね?」
「あ、船長の海賊船ね」
「それが出来たら、そこに住むんッすか?」
「んー……流石にそれはなしだワ。セキュリティー的に」
「鍵なかったら襲われますからね」
普通の世間話かと思えばまたその方面に……。
「あ、それじゃあ私こっちなんで」
ある程度進んでココが自分の道を指し示す。
「ああ、それじゃあまた」
「うっす、マリンパイセンも頑張ってください」
軽く別れの言葉を交わしてそれぞれ別方面に歩みを進める。
あと少しで事務所だが、ここまでずっと妙な視線を感じていた。
変装は上手くないけれど、普通にしていればバレない程度。
声も張ってはいなかったし、正直簡単にはバレないと思っていたが、どうやら勘付いた鋭いリスナーがいるらしい。
走るか?
いや、体力的に無理。
それに突如走り出したら、それこそ怪しい。
あと数分だけ我慢だ。
その数分を耐え忍んで事務所に到着。
中に入れば流石に視線は感じなくなった。
そして、その中でまず出会ったのは……。
「あ、船長」
「おお、ミオ先輩じゃないですか~」
事務所で人と会うことは意外にも少ない。
それは殆ど事務所に来る機会が無く、その中でも人との出勤?が被ること自体が激レアだからだ。
未だに対面でまともに会話もしていないメンバー同士も多くいる。
「丁度よかった、今度服とか買いに行く予定話そうと思ってたから」
「あー……もうそんな時期ですか……? ちょっと早くないです?」
もうすぐ季節の変わり目。そこまで早いことはないが、別に今出なくても良いかもしれない。
「まあこの先予定が合わなくなったりとかするかもしれないからさ」
と、ミオは既に行く気満々。
マリンもミオとのショッピング自体は楽しいのでこの場で約束を取り付ける。
マリンのライブが終わったら行こうとの話だ。
可愛い服を着せさせられるのは恥ずかしいが、楽しみにしておこう。
その場でミオとは別れ、目的の階へ。
そこのとある部屋にあくしおを発見した。
何か話していたようだが、マリンを見つけると中断して部屋から出てきた。
「船長~」
「仕事?」
「そりゃあここには仕事以外無いでしょ」
「確かに」
少し距離が近いあくしおを微笑ましく見ながらマリンは笑う。
「何話してたん?」
中での様子を尋ねてみると……
「あ、そう、船長今度ウチ来なよ」
とお誘いを受けた。
一緒に住め、ではなく、一緒に何かしよう、って意味で。
同棲の意味を一瞬考えたのは多分かなココが頭にあったから。
「かに鍋するんだけど、もう一人くらいいても良いくらいの量はあるから」
「え、そう? なら行くわ」
あまり躊躇うことなく承諾。
かに鍋か……季節的には最高だね。
これもライブ終わりに楽しむとしよう。
しかしこの二人って一応同棲なんだよな……。
同棲するってどんな感じなんだろうか?
「船長?」
あくあがマリンの目を気にして声を掛けるが視線は合わない。
「あ、何でも無い。その日なんか持ってくワ」
「え、いいよ別に」
「まあ断られてもなんか勝手に持って行くけどね」
「……そうだろうね」
基本的に人の家にお邪魔するときは何か差し入れを持って行くのが社会人としての基本。
ふっ、こんな所でもブラック企業時代の経験が役に立つとは。
季節も相まって、みかんをよく思い出すぜ……はあ……。
「んじゃ、二人とも頑張って」
「船長も」
こうしてまた別れる。
後日開催したかに鍋会で、マリンの提供した紅茶にほんのすこ~しだけ二人が苦しんだことはどうでもいいこと。
ようやく打ち合わせ等に入り、次の場所へ向かうのだが……。
「遅い……」
待ち合わせに来ない者がいる。
……いや、来ない者しかいない。
3期生全員でマリンの船の様子を見に行こうと話したのに、誰一人集合場所に来ない。
遅れて皆が皆バラバラに到着した。
ごめん、待った?に対し、マリンだけは嘘の「全然」。
まったく……お祝いの品でも探しに行ってたのか?
5人で徒歩で浜辺へ向かった。
この5人をグループ分けすると、頭の中にこの2グループができないかい?
うーぺーるーぺー、ホロファンお姉さん組。
そこからさらに分割すると……ノエフレとマリン。
悲しきかな、マリンが余る。
何故そんな風に頭に浮かぶのか。
それはマリンの性格上の問題。
良い意味でマリンは特定の誰かとの関わりがあるというより、誰とでも関わるという点がある。
そのせいもあって、マリンと言えばこの人!と言う人が出てこないのだ。
だからって、今ぼっちになっているわけではないが。
「いやー、マリンのライブが終わったら、次はフレアじゃね」
ノエルが楽しみ~みたいな顔で口にした。
フレアは少し照れるように緊張し、ぺこらとるしあもそうだねー、って同意。
「先に船長でしょ⁉ 船長のも楽しみにしててよ⁉」
目先のライブを通り越して更に先のライブに注目する他のメンバー。
あれ、なんかいつもよりSっ気が強くない?
確かにそういうの好きだけどさ……。
「うん、楽しみ。マリンの船!」
「ライブでしょ⁉」
どうしたどうした。
ドMへの大サービスか。
おかしいな……船長はボケ役の方が似合うはずなのに。
「大丈夫、みんなちゃんと応援してるから」
マリンが割と傷ついてるかも、と一瞬思ったるしあが軽くフォローを入れた。
ありがとう、るしあ。
君は優しいね。
かといって、他が優しくないとは言わないけど。
「全員のライブが終わったら、3期生ライブってのもしてみたいよね」
「そうだねー」
デビューしてすぐに立てた3期生内での今最大の目標。
全員のデビューライブが終わって、ようやく踏み出す道。
力を付けて、スケジュールを合わせて、歌とダンスも合わせて、会社に確認を取って、ステージを押さえて……観客を、自分たちの手で、より多く集めて。
アイドル目指して入った者が少ない中、その夢だけはこの五人が共通して絶対に譲れない夢だ。
ファンタジーが、ファンタジーに留まらないような……!
「そのためにぺこーらたちはもう決めてきたぺこだから」
「そう、あとは二人」
「くぅ~、ラストかぁ~……」
締めの位置に配属される必然性に声を上げるフレア。
特に意図された順序ではないが、フレアがラストは妥当というか、正答だと思う。
ぺこらもるしあもマリンも歌は問題ない。
ノエルは……伸びしろがある!
それに対するフレアの圧倒的な歌唱力。
ダンスの質が皆ほぼ同等なのだから、アイドル面で最も秀でているのがフレアと言っても過言ではない!はず!
「適任でしょ。寧ろ他にいないレベル」
褒め倒すようなマリンの攻撃。
フレアに10のダメージ(体力は100)。
「そうそう、フレアはスタイルだって良いしね」
るしあの攻撃。
フレアに10のダメージ。
「え、それってるしあにないものの話?」
ノエルの攻撃。
るしあに50のダメージ。
るしあの攻撃力が上がった。
「はああああああ⁉ そんな脂肪の塊なんかどうでもいいし! ねえぺこら!」
「え、な、なんでぺこーら……?」
るしあの無意識の攻撃。
ぺこらに10のダメージ。
「ほらノエル! そんなにあるんだから牛乳よこせ!」
「ちょっ、団長胸はあっても牛じゃないから牛乳は出ませんが?」
るしあの攻撃。
ノエルに5のダメージ。
「るしあるしあ、諦めなー」
マリンが胸を強調するように胸を張ってるしあを煽った。
るしあに30のダメージ。
「うっせえ!」
「いや、マリンはお尻でしょ」
「へ?」
突如後ろから刺された。
「マリンは胸よりもお尻の方が目立つからね」
「ふ、フレア……? フレアはそんなこと言わないよね?」
「今言ってんじゃーん」
「認めなマリリン」
「尻デカ……」
「うるせええええええええええええええええええ!」
切れてないが、マリンが切れる。
「ぺったんこ共は黙ってなー!」
まず貧乳二人に制裁。
しかし延々と続いていた口論はそこまでだった。
海辺に到着したのだ。
そして、その壮大なステージ(船)に驚愕して全員が絶句した。
ステージになるだけあって、まず第一に巨大。
次に、まだ完成していないのに既に会場に錨とロープで押さえられていること。
更に、側面に備え付けられた、今にも発射できそうな大砲の数々。
極めつけはマリンのマークが大きく記された海賊旗。
今は折りたたまれているが、それがマリンマークであることは分かった。
「なんか……スケールが違うね」
「ねー」
その大きな姿を見上げ、二人が感心したように声を絞り出した。
海でのライブなんて、ロマンに溢れている。
「皆もここでライブする?」
「え……こんな場所で……?」
マリンが誘うとぺこらが少し消極的だった。
まあ、ファン以外の人の目に着く場所はね。
「るしあは割と賛成かも」
「団長もやってみたい」
「あたしは……まあ、皆がするなら」
「…………じゃ、じゃあ、まあ」
決まりだ。
フレアのライブが終わるまでは無理だろうけど、いつか五人でここにも立ちたい。
3期生ライブを開催するまでの通過点に置きたい。
「でもマリン、3期生のライブの夢も分かるけど、マリンのデビューライブが間近なんだよ?」
「ホントにそれ。大丈夫ぺこか?」
歌は上手い方だし、ダンスも苦手なりに十分頑張っている。
でも半分ほど現実逃避してる感がある。
「アイドルっぽいことするのにまだ実感湧いてないんじゃない?」
「ギクッ!」
マリンがフレアの図星に、効果音のような一言を吐く。
「どした? 年のせいでギックリ腰?」
「違うわ!」
皆笑っているが、内心天丼に飽きているかもしれない。
「マリンは可愛い方だから安心しなって」
「え、そんなこと気にしてたの?」
フレアが加えたフォローに他三名が意外そうな顔をする。
そ、そんなに意外か?
みんな普通思うでしょ……自分って本当に好かれるほど可愛いか?とかさ。
「まあ、マリンがアイドル目的でここに入ったとは思ってないぺこだけど」
ぺこらがそんな感じはしたよと、当時の直感を口にする。
まあ端から見てもそれは流石に伝わるよね。
「でもさ、フレアの言うとおり一応マリンは可愛いぺこだからね?」
い、一応……?
ありがとう……。
「ほら、例えばスバル先輩とかって可愛いじゃん?」
「……ノエル?」
「た、例えばだって! 参考例!」
可愛い人の例として、ノエルの口からスバルが挙がる。
それを見て他の四名はノエルをマジマジと見つめる。
「皆も思うでしょ⁉ ねえ⁉」
何故か必死に同意を求める。
いやまあ、ホロライブのメンバーは、みんな互いに可愛いと思い合っているけども……。
「思うけどもさ……必死だね」
ノエルが隠れアヒージョであることは割ともう知れ渡っているが、こう見ると本当なんだと思える。
「思うでしょ⁉ マリンも他の人に思われてるって」
そこに帰結する。
もう、自分がアイドルになったことを認め、諦めるしかないのだ。
自分が人に好かれる存在であると自覚して、腹をくくるしかないんだ。
「分かったら諦めてアイドル道進みなー」
え、皆そんな良いこと言ってくれるの?
「最悪ホロメンが可愛いって言ってくれるって」
何その絶妙に辛いフォロー。
いやだな……哀れむホロメンの顔を想像するの……。
ああ、好かれるように頑張ろ……。
「え、どう? マリン、安心した?」
るしあがマリンの心境の変化を察知して顔を覗き込んだ。
自分よりも背の低い数少ないホロメン。
ちっちゃい子って可愛い。
「少し」
短い単語。
さては喜んでるな……?
そういうとこやぞ、可愛いって言われてんのは。
「……じゃあ船長はこれから地獄のダンスレッスンがあるから」
全員が空気を読んで黙っていると、マリンが解散を宣言する。
短い時間の会場見学だったが、別の視点から有意義な時間だった。
これから大海へ出る覚悟も決まったし。
ようやく本当に山小屋から解放されたのかもしれない。
そうに違いない。
「それでは~……出航~」
マリンは海賊帽子を深く被り、潮風に服を靡かせて、憂鬱なレッスンへと足取り軽く向かった。
同期四人と制作途中のマリン号に静かに見守られながら。
どうも、作者です。
少し期間が空いて申し訳ないです。
特になにもなかったですが忙しかったんです。
そういうことにしてください。
もしかすると偶に期間が開くことがあるかもしれませんが、四章完結させるまでは失踪しませんので。
その後は分からん。
で、今回は船長回でしたが、年齢とかに触れましたが、嫌だった人がいたら申し訳ない。
次回は……誰かな?