歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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34話 めげない、しょげない、諦めない

 ネット社会には様々な問題がある。

 動画配信業は当然ながらネットに生きる職業。

 時折発生する障害は仕方が無いこと。

 でもとある期間、仕方が無いでは済まされないほどの暗黒時代が訪れた。

 その問題とは、大きく言うと二つ。

 

 一つは、誤BAN。

 センシティブに掛かるはずの無いものが自動感知のアカウント停止に引っかかってしまった。

 中には、少々攻めすぎたこともあったが……。

 

 二つ目は、一部のメンバーの収益化剥奪。

 何故だか一部のメンバーの収益化が動画配信サイトから剥奪され、収入が入らない時代がやって来た。

 正直なところ、これが何より厄介だった。

 

 と言うのも、収入が入らないと何より生計が成り立たないため、真面な生活が送れない。

 生活が崩れると、配信する体力は勿論、メンタルまでも疲弊し、うつ病やそこから繋がって体調不良なども引き起こりやすくなる。

 そして、生活に資金をつぎ込みすぎると配信のための企画や動画制作にお金を使用できなくなり、活動にも制限が掛かり始める。

 

 この被害は入りたての4期生には強く響いたし、ASMRを行っていた人たちにもかなりの痛手となった。

 

 

 

          *****

 

 

 

 人生、そう簡単にはいかないな。

 人生を振り返り、改めてそう思う。

 でも、上手くいかない人生でも、一度も――。

 いや、一度もは言いすぎかな。

 でも、あまり不幸に思ったことはない。

 寧ろ、今ここに居るだけで、人生の全ての幸運を使っていると思えるほど。

 ホロメン、誰一人として平坦な人生は送ってないけど、その中でもかなたは割と尖ってる方だと思う。

 

「おら、かなたそ、おめぇの分」

「あ、ありがと」

 

 この日、ココとかなたは朝からの事務所に来ていた。

 最近はただひたすらに朝マックを手に、朝の仕事に向かう。

 昼は食べなかったりするけど……。

 だって、収入が少ないから……。

 

 このお金だって、わために借りたものだ。

 収益停止を喰らった二人は、同期で相棒とも呼べる仲の彼女に少量借金……?をしていた。

 

 過酷な人生には多少の耐性がある。

 二人には。

 

 メンタルが強いとは少し違って。

 

「お~、今日も喰ってんねぇ~?」

 

 昼下がり、昼食に朝マックを食べ始める二人の下にわためが声を掛けた。

 同期は事務所で出会う確率が他のメンバーよりは高い。

 偶然居てもおかしくはない。

 

「ん、羊」

「わためも昼?」

 

 わためのゆるふわな声に微かに場が和む。

 だが、ココの声はそれとは対象によく響くため、相殺されている感じ。

 

「んや、わためはもう食べたから……」

 

 と言いながら二人の食事の小さな空間に歩み寄ると、ポケットから色々取り出す。

 

「ポテチ」

 

 が大量に出てきた。

 

 一人で食べるようだとしたら、えげつない。

 差し入れのつもりか?

 ここではよく色んなホロメンがおやつタイムも取っているから。

 

「多過ぎでしょ」

 

 かなたの冷静な突っ込み。

 少し口角が上がっているのが、二人には分かる。

 

「適当に取って食べて良いよ」

 

 雑にテーブルの上に散らばった複数種のポテチの袋を示して笑った。

 

「流石相棒、気が利くじゃねえか」

 

 ココがいつもの機嫌の良い笑いでわために礼?を言うと。

 一つの袋を適当に選んで味を確認した。

 

「あ、それは全部食べんでもらえると……」

 

 新作の期間限定フレーバーだった。

 わためも実食はまだらしい。

 おいしそうだが、重そうな内容。

 アイドルには敵かもしれない。

 

 かなたとココが昼食を終えると、三人で楽しげにお菓子雑談を始めた。

 

「わため、借りてるのにホントに良いの?」

 

 かなたが気まずそうに、ポテチとわためを見比べる。

 ココは隣で普通に食べているが……。

 

「おん、勝手に買って来ただけだからね、全然気にしなくて良いよ。うん、『勝手に買って』来ただけだから」

 

 新作のポテチをパリパリと幸せそうに味わいながら、大事で無いことを二度言った。

 

「そう?」

「おら、天使も食え!」

 

 遠慮がちでいるとココにポテチを三枚ほど口に突っ込まれる。

 わためのだじゃれには突っ込まないくせに。

 

「ほへひ……突っ込むな、下手したら口切れるだろ」

 

 口の中のポテチを噛んで飲み込んでココにマジレスした。

 それはわりぃと控えめに誤るが、別に誤んなくて良いよって思った。

 

「……」

 

 わためは自分のだじゃれが無視されたことを残念に思いながら次々とポテチを口に入れていく。

 次々に入れていくと言っても、そこは男女の差?なのか、きちんと一枚ずつ丁寧に味わいながら。

 絶対に袋から口に流し込むことはしない。

 下品だし、何より勿体ない。

 

「そう、そう言えば今日ここに来る時ね、危険な目に遭ってさぁ~」

 

 わためがあまり危機感のない声の調子で二人に話題を持ちかけた。

 

「どうした? 畜生みたいに焼き肉にされかけたか?」

「あ、もしかすると近いかも!」

「え、うそ⁉」

 

 ココの冗談の一言が的に近いと言われてかなたが珍しく表情を変えたように驚く。

 アイドルが焼き肉にされましたなんて報道、絶対に聞きたくないからね。

 色んなアイドルを推す者としてね。

 

「捕食者側の獣人の熱い視線を感じたんだよねぇ~」

「なにそれ怖い」

「ねぇ~? こわいねぇ~?」

 

 ホントに怖がってる?

 なんかかなたとは違って感情が読みにくいな、わためは。

 

「おめぇが家畜みてぇにポテチ食って大きくなるからだろ」

「あ」

「あ」

 

 禁忌に触れた。

 女子、しかもアイドルに体重の話はいけないぞ!

 あと年齢とトイレも。

 

 ココは約2000年も生きてるからもう色々気にしないのかもしれないけど、わためは逆に羊年齢三歳だぞ!

 かなたは純粋に学生だし。

 

「でもまあ、わため、深夜に食べるのは止めよう?」

 

 ココの言葉も一理あると、かなたは中立の立場にいる。

 

「……気をつける」

 

(……多分続けるな)

 

 二人して内心そう思ったが、お口チャック。

 

 

 そうこうして体重増加のひとときは過ぎ去った。

 この後減量の時間。

 三人はそれぞれの向かうべき場所に向かった。

 

 

 

          *****

 

 

 

 異世界。

 異世界は、いくつあるのだろう?

 アキロゼは異世界のハーフエルフだけど、その異世界って、どんな世界だったのかな?

 異世界人は稀にこの世界に飛んでくる。

 男女でその確立に差は無い。

 

 異世界に関する研究は現在少しずつ進行中で、パラレルワールドの一種とされている。

 そして、平行した別世界が特異点にて干渉することにより、その極小の範囲内にいた存在がどちらかの世界に空間移動してしまうのではないか、と。

 

 ……難しい話はどうでもいい。

 実は、噂によると、この国にまた新たな異世界人が来たらしい。

 入った情報は噂の範疇なので、事実とは反するかもしれないが、金髪であることは確かだと言われる。

 異世界人は、この世界に転移すると、生活がままならなくなるため、異世界庁により生活補助を受けられる。

 

 アキロゼはその情報を聞いて、自分がこの世界に来たときのことを思い出した。

 

 この世界に来たばかりで、収入がないというレベルですらなかった。

 だが、今ではホロライブに入れて、生計もしっかりと立てられる。

 

 感謝している、この人生。

 

 動画配信業の不景気?

 そんなの関係ない。

 私は今の仕事に満足している。

 だからもっともっと頑張りたい。

 

 皆だって、この時代で配信をそれぞれ頑張っている。

 何があろうと、私は私の道を進む。

 

 何があっても、『めげない、しょげない』。

 

 

 

 そんなある日、あの桐生ココが新たなゲームをホロメンに伝えた。

 恐竜などの古龍たちが存在する世界で生きるサバイバルゲームだ。

 知られていなかったそのゲームに、ホロメンたちはみるみる嵌まっていき、多くが廃人と化した。

 そして、その廃人の一人となったアキロゼは、そのゲームのマイキャラをムキムキの男性に設定し、通称ムキロゼとして皆に親しまれた。

 彼女のそのキャラに弟的存在が出来るのは、もう少し先だが。

 

 アキロゼはここからが驚異的だった。

 色んな困難が立ちはだかり、襲いかかってきても、決してめげることなく進み続けた。

 この会社で言うならば、決して止まることはなかった。

 カッコいい彼女のその姿に惚れた者は多かったのではなかろうか?

 

 彼女はいつでも笑っている。

 素敵なエルフだ。

 

 いつでも『諦めない』と、胸を張って言えるのは誰でも出来ることじゃあない。

 まず、胸が無いと胸は張れないから。

 

 ……どこかのチアガールが怒ってる気がする。

 ……気のせいかな?

 

 兎に角、出来ることはやる。

 出来ることをやる。

 

 何でもかんでもどんとこい!

 寝落ち配信?

 寝言配信?

 ちょっと記憶にございません。

 

 もしそんなことがあったとしても、それを含めて私を認めて欲しい。

 

 不景気を吹き飛ばす存在が、ホロライブには居たのだ。

 アキロゼという、最強エルフが。

 

 優しくされると簡単に惚れちゃう、チョロインな面もあるけど……。

 でも、それはそれ。

 

 アキロゼの強みは、「めげない、しょげない、諦めない」。

 彼女の人生に、苦難なんてあってないものだったのだ。

 

 




 皆さんどうも、最近投稿の遅い作者です。

 言い訳させてください。
 色違い厳選が大変で!
 6期生が可愛すぎて!
 パソコン壊しちゃって!
 ……申し訳ない。

 次こそは次週中に投稿したいです。
 特になにもないですが、また怠けちゃうかもしれないので、意識だけ表示しておきます。
 少しはやる気が出ると思うので(決してやる気がないわけではない)。

 さて、今回は収益化剥奪の話でした。
 あまり詳しく触れることはいけないかもしれない、そんな話です。
 五期生全員分の小さな伏線も全て張り終わりましたし。

 あ、今更ですが谷郷さんについてちょっと。
 作中では敢えて「社長」と示しているのですが、これは権利的に一応です。
 タレントに関する二次創作は承認されていますが、当然ながら社長はタレントではないので。
 勿論谷郷さんは好きですし、尊敬していますが。
 それでも権利は大切なので、そこはご了承ください。
 ただ、えーちゃんがタレントなのかは、自分の中ですごく悩みました。

 はい、それではまた。

 ねねち復活、6期生デビュー&収益化、3rd.fes.&リアルイベントの開催、めでたい!

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