歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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36話 その花は雪溶けに咲う

 

 5期生ともなると、先輩たちに憧れて入った、と言う者が殆ど――否、全員がそうだ。

 

 世界を震撼させるほどの熱い魅力を持ったあの人たちみたいに、アイドルではないアイドルをしてみたいと……そう願って。

 

 

 5期生。

 

 雪花ラミィ。

 ユニーリア出身のハーフエルフ。

 見た目に反して寒いのが嫌いらしい。

 重度のホロオタク。推しは船長。

 

 獅白ぼたん。

 ギャングタウン地方出身のゲーマーのホワイトライオン。

 好きな食べ物は角巻わため。

 色々と面倒くさがりだが多分5期生の中で一番しっかりしてる。

 

 桃鈴ねね。

 異世界の宇宙からやって来たオレンジ担当。

 シオンとksgkシナジーがある。

 加えて、歌唱力は歌姫級でダンスも得意な方。

 

 尾丸ポルカ。

 サーカスの座長を目指すフェネック(クウォーター説もある)。

 低気圧に弱くメンヘラっぽい。

 遅刻……。マジで急すぎるゲリラ……。は「稀によく」ある。

 

 

 

 ざっくり、こんな感じ。

 

 

 いよいよ純粋な人間比率が低くなる。

 しかし皆個性的でよくはある。

 

 

 その5期生。

 活動開始1~2ヶ月ほどして、ある一人に変化があった。

 その一人とは――ラミィ。

 

 そう、雪花ラミィ――。

 

 ――――。

 

 

 

 

          *****

 

 

 

 憧れた。

 

 初めて見たライブはNSS。

 森で彼女たちを知って、あの時のライブには行けなかったけど……。

 それでもあの人たちを追いかけるように配信を点けて、そして巡り会った。

 あの感動的な瞬間に――。

 

 憧れだ。

 

 初めて見たライブで心を奪われた。

 その時からもう熱が冷めない。

 ライブ前から、何かに囚われたように追いかけて、街へ出て、何度も選考用の書類を送っていたが、そこへ油を投下したみたいだった。

 いつも、大好きな配信を傍らに添えて。

 

 憧れだった。

 

 彼女たちと同じ世界に立って、同じ世界を見たかった。

 彼女たちみたいに配信をして、リスナーと言葉を交わすその感覚を知りたかった。

 彼女たちのように自分を知ってもらいたかった。

 

 彼女たちみたいに…………。

 

 

 ――――。

 

 

 私は5期生としてこの世界に足を踏み入れた。

 同期は三人。

 ホロライブ好きは私と同じだった。

 そして、ホロライブが好きと言うことは、今このホロライブに入った仲間三人も好きという事。

 出会って、話して、少しだけ見えた性格から好きになれた。

 皆優しいし面白い。

 やっぱり個性の塊だ。

 

 好き。

 もう好き。

 もう大好き。

 

 私もこの中でしっかり頑張っていこう、って、心に決めた。

 決意を胸に初配信からやって来た。

 ……のに。

 

 自分の歌に自信が無かった。

 自分の声に自信が無かった。

 色々と「素晴らしい授かり物」があるのに、どうしても自分を魅せる勇気が足りなかった。

 

 声を抑えた。

 歌を殆ど歌わなかった。

 先輩と積極的にコンタクトを取らなかった。

 

 みんな清楚って……ううん、これは違うの。

 たくさんメンバーにスパチャまで……違うの、これは……。

 エゴサしてて見つけたたくさんの応援コメント。

 ……ち、違うって。

 「私」はそんな……。

 

 こんなに人気なのは――多くの人が見ているのは、先駆者たちの努力故。

 そこに新たに加入した四人。

 その中で、自分は浮いていた。

 他の誰もが、そう思っていなくても。

 自分の中では確実に。

 

 先輩方が凄く遠い所に立っていて、そして5期生は今スタート地点に立っている。

 でも、私はそこから数歩後ろで足を竦ませている。

 みんなが前にいるんじゃない、私が後ろに下がっている。

 

 一歩、頑張って踏み込んでも、まだ距離がある。

 

「ラミちゃん、今度のコラボさ――」

 

 ししろん、いつもリードしてくれる。

 

「ねえラミィ、この前のさ――」

 

 ねね、いつも人一倍楽しそうで元気がもらえる。

 

「いやいやいや、俺のラミィだから!」

 

 おまるん、面倒くさい時が稀にあるけど、いつも気遣ってくれてる。

 

 

 …………何をやってるんだろう。

 何のためにここへ来たのか。

 

 近くでホロメンを見たいから?――違う。

 彼女たちに幸せをもらったように、もっと多くの人にこんな感情を届けたかったから。

 そして自分の姿を見てもらって、好きになってもらって。

 

 なのに、自分を魅せていない。

 

 皆が知る雪花ラミィは本物じゃない。

 偽物の私なんて存在しないけど、本当の私じゃない。

 必死に、選考書類を送った勇気は?

 懸命に準備して付けてきた自信は?

 どこにあるの?

 

 勇気と自信を付けようと、先輩を見れば、余計に不安が積もっていく。

 勇気と自信を付けようと、周りを見回せば、怖さが更に押し寄せてくる。

 

 どうしよう……。

 このままじゃ……。

 

 

「ラミちゃん? 大丈夫?」

「ん? 大丈夫」

 

 ある日、事務所にいたぼたんにそう聞かれた。

 理由は顔色や態度、表情が優れないから。

 彼女は洞察力が他の人より秀でている気がする。

 

「そう? なんか悩んでるんなら聞くけど」

 

 大丈夫でないことを既に察している。

 その上で、話すかどうかを強制しない。

 当然と言えば当然だが、申し訳ない気持ちにさせられる。

 

「ありがとう……でも、本当に大丈夫だから」

 

 微笑むラミィ。

 ラミィはいつも楽しそうだ。

 でも、いつも満足できていない。

 

「……それは、あたしだから言えないこと? それともそれ以外にも?」

「……えっと……」

 

 戸惑うラミィ。

 なぜだか今日は押しが強い。

 

「そっか……。もしあたし以外に持ちかけれるなら、先輩たちは流石に厳しいけど、ねねちゃんとおまるんなら今すぐでも呼んだら来てくれると思ったから」

 

 自分が力及ばずであるなら、と代わりの相談相手を提示してくれる。

 確かにその二人には話しやすいだろう。

 

「い、いいよ、流石に突然呼び出すのは迷惑だし……。それに本当に元気だから」

 

 まあ、そうなるよな。

 こんなことで動くようなら、とっくに悩みを打ち明けてくれてるはず。

 

「そっか、しつこくごめん」

「……こっちこそごめんね」

 

 どんどん負の感情が悪化していく。

 負のスパイラルで、悪化の一途を辿っていく。

 

「あれ? ラミィいんじゃん」

「ん、ホントだ」

 

 そこへ、聞き覚えのある、とてもよく響く声がした。

 声は二つ。

 声の主は今話題となっていたもう二人の同期。

 

「あー……」

 

 ぼたんが何か気まずそうに声を漏らした。

 タイミングミスった。

 そんな言葉が彼女の脳内にあったのかもしれない。

 

「え⁉︎ もしかして今呼んだの⁉︎」

 

 まさか、とラミィが珍しくあたふたとし始める。

 冷静になればまず不可能。

 光速でも壁を壊して来ないとできない。

 

「あ、間が悪かった感じか」

 

 ポルカが状況から失敗に気づく。

 が、取り返しは効かないのでもう隠すわけにはいかない。

 

「こっそりラミィの悩みを解決しようの会でしたー」

 

 ねねが笑って「わー」と拍手する。

 渇いた拍手の音が何度も室内に響く。

 

「おいおいおいおい、あまりにも酷いネーミングだな」

「じゃあおまるんなんか考えてよ」

「んー……ラミィ攻略会議」

「……割といいかも」

 

 自分よりはいいかも、などと二人で小さなコントを始める。

 ぼたんはどうでも良さそうに二人の話を流す。

 ラミィは惑いに戸惑い、もはや冷静でいられない。

 

「ごめん、心配だったからあたしが勝手に二人と相談したくて呼んでたの」

「え……」

 

 ぼたんがそんな面倒なことを態々?

 ラミィが心配で?

 

「いっそもう言っちゃうけど、困ってるんでしょ?」

「…………うん」

 

 流石にここまでされては嘘をつき通せない。

 そのための会議……というわけか。

 そんなこと、わざわざ……。

 

「まあ、解決できるできないの問題は別としても、人に話すだけでも気持ちが軽くなるから」

 

 ポルカがポルカらしくラミィに話すように促す。

 ねねもポルカの言葉に同意、と首を数回縦に振る。

 

 「取りあえず座ろ?」と、ぼたんが促したことによって、全員がテキトーな席に着いた。

 

「……なんて言うか、自分に自信が持てなくて……」

 

 と、抽象的にではあるが、ラミィが重々しく口を開いて言った。

 

「……自信がないから、何をしようにも勇気が出なくて」

 

 悔しそうに顔を伏せる。

 涙を堪えている表情が目に見えて分かる。

 三人は知っている。

 ラミィは表と裏で様子が異なっていたから。

 でも何で自信が持てないのか、何故勇気が必要なのか、詳細は分かってあげられない。

 

「そっか……」

 

 一同が沈黙した。

 

「……自分のペースでゆっくり――って言いたいとこだけど、その結果が現状だから困ってるんだよね……?」

 

 ぼたんがラミィの俯く横顔を見ながら声を掛けた。

 特にラミィの表情は変化しなかった。

 

「――少しずつ変えていくとかは出来ないの?」

 

 ねねが簡単な案を出す。

 簡単と言っても、考案が簡単なだけで、決して実行は簡単ではない。

 

「いや、少しずつ変化するって基本的に無意識下で起こるものだから、意識して徐々にってのは難しいと思う」

 

 ポルカがその難しさを示すことによって早速その案は崩れた。

 次なる案を各々模索し始めた。

 よってまたしても無言。

 

「……」

 

 ラミィはその静寂に不安が募り、そっと顔を上げた。

 

「「「……」」」

 

 見れば、三人が時を忘れそうな程に頭を抱えている。

 

「ぁ……」

 

 何かを言おうとしたが、喉元でつっかえる。

 言葉が浮かばないのではなく、言葉に出来ない。

 

 何をしているんだろう……ラミィは。

 

 仲間が、こんなに悩んでくれている。

 自分のために。

 こんな素敵な仲間に囲まれているのに、何を怯えているのだろう。

 

 今、ラミィを推してくれる人がいても、その人が果たしてこのまま推し続けてくれるのか。

 将来、違う自分を見せた時、その人たちがそばにいてくれるのか。

 そう、それが怖い。

 自分がそれを見せることによって、ホロライブに妙な影が差してしまうのではないか。

 そう、それも怖い。

 いや、言ってしまえば、もっともっと、たくさん怖いことだらけ。

 

 だけど、この三人を見て、ちょっと勇気が湧いてきた。

 

 リスナー全員を釘付けにするなど無理な話。

 この先離れていく人は少なからずいる、けれど。

 必ず誰かが将来の古参になってくれるはず。

 そして、将来新たな未来古参を得られるはず。

 

 自分がそうだった。

 リスナー側の気持ちは、分かっているはず。

 もし、たくさんの人が離れてしまって、悲しくて、泣きたくなった時、ここに仲間がいるから、泣きつこう。

 

 先輩たちと絡むのだって、怖いけど……。

 自分の大好きな先輩たちは、すごく優しい。

 一リスナーとして、知っている。

 相談を持ちかけるようなことは、できなくても。

 ちょっと先輩の優しさに甘えることは、いいよね?

 

 

 そうだ、だから、もうやめよう、立ち止まるの。

 

 

 自分を変えるのは難しいけど、これからやることは自分を変えることではない。

 私はずっと私だから。

 今まで見せていたのは、恐怖に震えるただの自分。

 

 

「みんな、ありがとう」

 

 

 三人にそう笑ったことは、覚えている。

 

 

 ーーそれから数日後。

 リスナー側からすれば、雪花ラミィは変わった。

 きっと、何も言わずに離れた数名もいるのだろう。

 きっと、何も言わずに惚れた大勢がいるのだろう。

 

 でも、ラミィの見せたかった、本当の自分を魅せられている。

 それが、何よりも嬉しくて、楽しくて、幸せなことだと知った。

 

 先輩の方から声をかけてくれて、どんどん絡んでいくようになった。

 やっぱり、自分の最推しなだけあって、いつも力をくれるんだ。

 

 今、ラミィを知った人はあの時の私を知らない。

 あの時の自分は自分と思えないし、今思うと少し恥ずかしいかもしれない。

 ……でも、無かったことにはしない。

 スタートラインから一歩引いたところに立っていた。

 そう思ったけど……。

 自分のスタート地点が、他の人より少し後ろにあっただけなのかも。

 そう考えたら、やっぱり一歩目からの記録が自分にも、動画としても、そして新たなファンの人達の中にも、残っていた方が、世界が広がる。

 その方が、雪花ラミィの成長量が、多く見えるでしょ?

 

 

 とある物語は、一度も凍ったことがない。

 いつも、その物語の主人公は、色とりどりの花に囲まれているらしい。

 しかも、その主人公が目にした花は、全てが咲き誇っていたと言う。

 

 そしてまた、新たな花が重たい雪を押しのけて、笑顔を向けるので、主人公が独りぼっちになることはなかったそうだ。

 

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