歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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38話 Lacking

 hololive 2nd fes. Beyond the Stage。

 

 大盛況だった。

 Day1,Day2共にかつて無い盛り上がりを見せた。

 

 訳あって、現地ライブは出来なかったけど、コメントやネットの様子から、世界トップクラスの盛り上がりだったことは確実。

 

 だが、今回は詳細については割愛させてもらおう。

 

 2ndliveが成功した。

 その事実をここに記す。

 もし、その成功ぶりが気になるのであれば、やはり自分の目で確かめることが一番だ。

 

 さて、その後についてだが……やはり、色々ありすぎた。

 

 クリスマス歌リレー、ポルカのデビューライブ、正月カートレース大会、あくあのチャンネル登録100万人突破、ぼたんのデビューライブ、マリンのチャンネル登録100万人突破、ラミィのデビューライブ、はあとのチャンネル登録100万人突破、ホロライブ公式のチャンネル登録100万人突破、ココのチャンネル登録100万人突破と、まるで毎日が記念すべき日。

 

 そして、その様々な記念日の合間合間に、複数のオリジナル曲が発表された。

 とある、プロジェクトのために――。

 そう、Bloomのために。

 

 「今宵はHalloween☆Night!」「BLUE CLAPPER」「百花繚乱花吹雪」「至上主義アドトラック」「Candy-Go-Round」「でいり~だいあり~!」「Suspect」「STARDUST SONG」「Dreaming Days」「あすいろClearSky」。

 

 これは、ホロライブのアイドルプロジェクト。

 日頃、芸人などと呼ばれるが、この日は絶対にそうは言えない。

 何より、思えない。

 

 そんなライブにするべく、出演者は努力を重ねてきた。

 

 

 これは……その歴史の中に眠っている、語り継がれるべきお話。

 

 

 

          *****

 

 

 

 冬の日差しに照らされ、一人の少女が歩いている。

 太陽は、しっかりと少女を照らしているが、冬の冷気はその暖かさを物ともせず襲いかかる。

 冷気が少女の金髪を吹き上げると、冬の日差しに照らされて金髪が煌めいた。

 

 異世界からこの世界に来て、ホロライブに入社して……。

 毎日が楽しい。

 忙しさこそあれど、やっぱりその間が全盛期って言うし。

 まだまだ頑張れる。

 やる気と根気は、人一倍あるから。

 

 毎日、会社までの道のりも気分がいい。

 

 桃鈴ねね。

 夢は宇宙一のアイドル。

 

 街の騒音を聞くたびに、今まで見てきたライブの喧騒がよみがえる。

 アイドルとして、ホロライブでデビューする以前から数多くのアイドルを目にしてきた。

 そのライブの光景。

 アイドルとしての様。

 想起するたびに、勇気とやる気がわいてくる。

 

 自分もやってやるぞ!

 と言う、強い思いが。

 この高揚感が。

 桃鈴ねねに力を与えている。

 

 そして、間もなく、待ちに待った、Bloomがある!

 

 

 

 Bloom――そう、花咲くホロライブ。

 夢のようなアイドルプロジェクト。

 

 なんと、世界初で『魔法を使用したライブ』が、ホロライブで開催される。

 そもそも魔法師が少ないこの世界。

 魔法を使えても、基本的には規制が掛けられ一般使用は認められない。

 だから、会社が動いて、使用許諾を得てくれたのだ。

 その代わり、会場は定められた場所。

 衣装も魔法対策の施された素材の物を使用すること。

 この二つが最低限のルールとされた。

 

 また、魔法使用と言っても、シオンの黒魔術を酷使するのではなく、国から魔法の演出用の機材を借りて使用する。

 

 この試みが成功するか否か……。

 それはまだ分からないが、新たな扉を前にしていることは確かだ。

 

 その、大きなライブに、ねぽらぼの出演が決まった。

 この日のためにいくつも公開されたオリジナル曲の内の一つ、BLUE CLAPPER。

 ねぽらぼの曲として最高の曲が出来た。

 皆にも是非、家で手を叩いて応援して欲しい。そんな曲。

 有名な歌にもあるように、幸せなら手を叩こう。

 手を叩いたら、きっと幸せになれる。

 

 楽しみだ――。

 

 

 ライブに出演する者が一堂に会した。

 理由は勿論、ライブの打ち合わせのスケジュールや、今後の予定――主にレッスンについてだ。

 

 基本的にはソロレッスンだが、やはりユニット曲等は合同練習が必須。

 魔法の関係もあり、相当大変なスケジュールだった。

 

 でも、全員の闘志が燃え上がる。

 既に熱気で冬を忘れそうな程。

 

 

 

 ――翌日。

 

 早速レッスンの開始だ。

 ダンスレッスン。

 キュッキュッ、と靴のこすれる音は聞き慣れた。

 冬でも汗を掻くほどの練習。

 動くと汗が床にはねる。

 

 ボイスレッスン。

 防音室の中、よく声が通るため自分の声が分かる。

 まだまだ、足りない。

 

 次の日は休み。

 でもその次の日はまたレッスン。

 

 でも、ねぽらぼで練習だから楽しみにしていた。

 

 妥協はしないし、手も抜かないけど、楽しみながら合わせていく。

 リズムとステップにずれが生じた。

 歌声が上手く重ならなかった。

 一人、出遅れた。

 ステップでつまずいた。

 

 まだまだ、始めたばかり。

 4人に慢心はない。

 気持ち面持ちは上々。

 まだまだ、足りない。

 

 ――。

 

 

 ある日――。

 

 

 練習前にねねは事務所に呼ばれた。

 

 中々に仕上がってきた今、毎日のレッスンが楽しい。

 その日も、レッスンを楽しみに家を出て、独りぼっちで冬の日差しを受けて歩いた。

 毎日寒いのに、外に出ることが憂鬱じゃない。

 それが、自分の中でも信じられない。

 

 毎日のこの出勤?が夢への道のようだ。

 

 打ち合わせの調整が要件だときいて、早めに家を出た。

 

 

 集合した部屋には、えーちゃんとねねのマネージャーだけ。

 ねねが入室したが何故か既に空気が重い。

 ねねの入室に、二人は即座に反応した。

 えーちゃんは眉を寄せて、マネージャーは目を伏せるような挙動を見せた。

 何だろう……この不安感。

 

 ねねは状況が読めず二人に聞いた。

 

「何かあったんですか?」

 

 ねねの言葉に口を開きかける二人。

 正直反応が微妙だ。

 その、普段はあり得ない微妙な反応が更にねねの心に襲いかかる。

 

 少し戸惑いを見せ、僅かな静寂が訪れる。

 その静寂、全く静寂では無かった。

 皆、自身の鼓動が五月蠅くて。

 

 早めにここに着いたが、ねねは後にレッスンが控えている。

 早くしないと、他の三人に迷惑を掛けてしまう。

 そう思って、会話を促しかけた時、えーちゃんが、重々しく口を開いた。

 とても、ゆっくりと。

 

「近々、開催されるBloomの事なんですが……」

 

 メガネが一瞬ずれた。

 それをねねは目で追った。

 

 空間に酸素が、まるで足りない。

 

 えーちゃんが、そこまで言ってメガネを直すと、少し息を吸った。

 

「……本当に申し訳ありません」

「な、何が……」

 

 申し訳なさよりも、圧倒的に心を支配している悔しさ。

 それをねねは感じ取れた。

 だって、あんな顔、見たことがない……。

 

「……発注にミスがあって…………ねねさんの、ライブ用衣装の製作が……間に合いません……!」

 

 えーちゃんが真摯な目で、悔しさを表情の裏側に滲ませて、ねねに告げた。

 一瞬、言葉が飲み込めなかった。

 あんなに、ゆっくり、話してくれたにもかかわらず。

 

「……え?」

 

 ねねは、側のマネージャーに視線を向けた。

 向けると、マネージャーは視線を逸らしかけた。

 でも、強い意志で、絶対に逸らさなかった。

 

 その目は、乾ききっているのに、泣いているようだった。

 まさか、泣き枯らした、なんてことはないだろう……。

 だって……。

 衣装……。

 

「衣装なら……」

「専用の衣装が無いと、規制に反するため…………ライブには……!」

 

 追い打ちをかける。

 一瞬の間でも、希望を見せることが、辛かった。

 既に、えーちゃんも泣き枯らしていた……なんてことは……。

 だって……。

 衣装……くらい……。

 

 太陽が……隠れ始めた。

 冬が……襲いかかってきた。

 雨が降りそうだ……。

 

「完全にこちらのミスです」

 

 えーちゃんが、視線を落とさずに、必死に訴える。

 が、そんなことは関係ない。

 

 誰が悪いとか、誰も悪くないとか、どうでもいい。

 

 ねねの目が……少しずつ潤み出す。

 もはや、あふれ出す全てを止めることは、誰にも出来なかった。

 

「じゃあ……BLUE CLAPPERは……?」」

 

 感情が言葉に乗る。

 震える声が、虚しく、室内で小さくなっていく。

 

「ラミィさん、ぼたんさん、ポルカさんには出演してもらう予定です」

「……よかった……」

 

 よくない。

 全くよくない。

 何で自分だけ――。

 でも、そんなこと言えない。

 表に出せない。

 

 だって……誰も悪くない……。

 それが実に憎たらしい。

 もし、悪い奴がいれば……どれ程気が楽だったか。

 強いて……強いて、この問題を引き起こした悪が居るとすれば……それはこの世界だ。

 この世界の、不条理がそうだ。

 

 泣く泣く――本当に、泣いて、リスケした。

 

 なんだ……このスケジュール……。

 こんなことって……。

 

「……」

 

 沈黙。

 沈黙だ。

 暖房の稼働音が、プロジェクタやPCが熱を吐く音が、それぞれの律動が、耳を澄ますまでも無く響いてくる。

 まるで騒然としている。

 

 騒がしいのは、感情だけでいい。

 

「……今日は、えっと……帰ります」

 

 今日、この短時間で今までの疲労が突如押し寄せた。

 体がだるくなってきた。

 リスケの結果、この後の練習は無くなった。

 

 この心の痛みは、夢じゃない。

 知らないほどの、傷。

 これが、夢であるものか。

 

 疲れ切ったねねは、静かに強く扉の取っ手を握り、開き、ゆっくりと、去って行った。

 綺麗に整えられていた後ろ髪が、今のねねの感情と、不釣り合いだった。

 無言で見送る二人はそんなことを感じた。

 

 

 会社を出ると、一段と寒かった。

 服装は変わっていないから、きっと気温が下がっている。

 そうでなければおかしい。

 

 沈んだ表情で空を見上げれば、雲間から冬の太陽が小さく顔を見せている。

 雲自体は多くない。

 雲の色も悪くない。

 今日は、雨も雪も降りそうにない。

 ――いや、雨は……やっぱり分からない。

 

 今の心模様には……雨の方が似合う。

 

 いっそのこと、雨に濡れてしまえば、自分が世界から浮いて見えないから……。

 今は、寒い風に吹かれるだけ。

 太陽を隠す雲も、遂に持ち場を離れて、日差しが再び差し始める。

 ねねは、一歩も動いていない。

 

「……」

 

 そうだ……。

 このことを――ライブのことを、皆に伝えに行こう。

 もう伝わってるかも知れないけど、せめて自分の口で。

 

 決意は堅い。

 傷は深い。

 風は冷たいし、空は青い。

 

 早く皆のところへ行こう……。

 

 

 ――――。

 

 

 どれだけ時間を掛けて歩いたか分からないし、今が何時かも分からないけど、寒くない。

 冬だからか、乾燥が激しい。

 が、余り気にならない。

 

 そんなことよりも、三人に会うことが、とても気がかり。

 伝達してすぐ帰ろうと、そう決めているはずなのに――。

 この思いを分かって欲しい、少しでも支えになって欲しいと思う自分がいる。

 

 レッスン室のある建物の前で、自分の影を眺めていた。

 見ていると、いつか影が消えた。

 おもむろに空を見上げれば、また雲がかかっている。

 薄灰色の曖昧な雲。

 降るなら降れ。

 

 脚が重たい。

 手が上がらない。

 視線が定まらない。

 

 決意は堅い。

 傷は深い。

 風は冷たいし、空は青い。

 

 奥歯をかみしめ、意味も無く目を擦る。

 目頭が久々に熱い。

 まだ、感情の整理が出来ていないようだが、レッスン室に入った。

 建物に入って、レッスン室に着くまでは短かった。

 だってそもそも、入り口の割と近くにあるから。

 

 暖房が暖かい。

 廊下に人はいないけど、扉の前に立つと何故か急かされた。

 時は無慈悲にも流れるから、迷わずに扉を開く。

 

 扉を開くと、空気の熱さを感じた。

 熱い。

 一瞬で視線が集まる。

 視線の向け所に困惑した。

 いつもの安心する三人の優しい目。

 それが却って心情を揺さぶる。

 

 目頭が熱すぎる。

 

「ねね!」

 

 ポルカが気さくに声を掛ける。

 レッスン室特有の床が照明を反射する。

 実に眩しい。

 

「ねねねが来ないから、体調崩したかもって丁度話し合ってたところよ」

 

 ラミィがいつもの声で優しい言葉を掛ける。

 レッスン室特有の壁が音を反響させる。

 実によく声が通る。

 

「大丈夫? あんま元気なさそうだけど」

 

 ぼたんが静かに素早く歩み寄って額に手を当ててきた。

 レッスン室特有の熱気が体温を上げる。

 実に温かい手だ。

 

「うん、それは大丈夫」

 

 熱なんてない。

 そう、熱がない。

 今は、何にも熱が入らない。

 

「そう? 練習できそう?」

 

 ……。

 

 ……。

 

 まだ知らないらしい。

 

 荷が重い。

 

 この口から、どう頑張って伝えるか。

 皆は既に練習準備完了だ。

 やる気ある三人。

 だって、初めての大型ライブ参加だから。

 

 言わないと、三人の練習時間を無駄にしてしまう。

 

 でも、この情熱に水を差したくない。

 ……いや、違う。

 このジレンマは、もっとわかりやすい。

 

 この葛藤は、とても簡単な二択によって、行われている。

 

「……うん、すぐ準備する」

 

 抗えなかった。

 もう、泣きたかった。

 

 4人で必死に歌った。

 4人で必死に踊った。

 4人で必死に合わせた。

 汗を流して、息を切らして、心臓をバクバク言わせて。

 

 楽しかった、と同時に、悲しかった。

 夕焼けの差し込むレッスン室、トレーニングの終了を迎え、これからどうするかなどを話し合おうとしたところ、ねねがそそくさと動き出した。

 

「ごめん、やっぱり体調悪いかもしんないから、先帰るね」

 

 やっぱりもう、練習はいいや……。

 

 足早に部屋を出た。

 背中に感じる視線に涙を堪えて。

 

 

 ねねのその様子。

 不自然極まりない。

 察しの悪い者でも、同期となれば分かる物がある。

 通じる物がある。

 

「……どう思う?」

 

 と、ぼたん。

 

「どうって言っても……変としか」

 

 表現に悩むポルカ。

 

「……」

 

 無言で扉を見つめるラミィ。

 

 ここは照明の反射が眩しい。

 ここは声がよく響く。

 

「心配だね……」

「……何か、前のラミィみたい……」

 

 ぼたんの一言にラミィがそんな言葉を漏らした。

 

「「……」」

 

 それについて二人が少し押し黙った。

 

「――あ、ラミィみたいって言っても、状況が似てるって話ね?」

 

 決して、悩みの種が同じではないか?という意味では無いと、念を押す。

 が、流石にそれは杞憂。

 

 ……と、そこで再び扉が開いた。

 

「――? あ、えーちゃん」

 

 なんと、えーちゃんがこんにちは、と声を掛けながら静かに入ってきた。

 三人に寄ると、お疲れ様ですと労って、微かに曇ったメガネを拭く。

 

「どうしたんすか?」

「ええ、ちょっと……ライブの件で一つ変更点があるので……」

 

 メガネをかけ直しながら、気まずそうに少し声を抑えていった。

 

「あ、でも、丁度今さっきねねねが帰ったんですけど」

「……ねねさんは、ここで練習を?」

「……? はい」

 

 えーちゃんの馬鹿げた質問。

 ここに練習意外なにしに来る?

 不穏な空気が流れ始めるが、3人はまだ察せない。

 こんな理不尽な世界の運命のことなど。

 

 

「……心構えをしておいてください」

 

 

 恐ろしい前置き。

 三人は緊迫した表情で息をのんだ。

 何を、どう、身構えれば良いのか。

 

 えーちゃんに連れられ、同じ建物内の小さな部屋へ移動した。

 その間、誰一人として喋ることは無かった。

 

 そして、到着した小部屋で、3人は、あるいは4人は、泣いていたかも知れない。

 

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