41話 超異能対戦の開幕
ねねが完全に以前の様子を取り戻した。
いや、寧ろ活力が以前よりある。
そのねねに、触発されて更に活気付くホロライブ。
やはり、一人一人の成長で、ホロライブ全体が急成長していく。
うなぎのぼりのホロライブの人気。
この世界に、ホロライブは、なくてはならない存在になってしまった。
本日も様々ある。
AZKiがこの国を出て、えーちゃんと二人でライブに行っている。
場所は獣人の国と呼ばれる場所らしい。
マリンは、出来上がった船で、ライブに向けて練習している。
備え付けられた少しの機材を使用して。
あと、たまに小部屋のベッドで寝たり……。
ノエルは、よく分からない騎士団のよく分からない集会に顔を出している。
そして、それ以外のメンバーは珍しく全員が事務所に来ている。
理由はもう時季開催される大型企画への調整を兼ねた打ち合わせ。
開催こそ会社にオファーあってのものだが、自由が効く内容なためほぼメンバー主導になる。
えーちゃん、AZKi、マリン、ノエルはこの打ち合わせが決まる以前に予定が入っていたため、後から伝達してもらう事になっている。
事務所の会議用の大きな部屋。
その部屋の椅子の数が足りない。
僅か数個だが足りないので、数名が立って話を聞く。
中には膝の上に座る人たちも。
会議の進行は基本各期から一人代表で出て行っている。
そら、フブキ、スバル、ミオ、フレア、ココ、ぼたん。
このメンバーが代表となった。
勿論、各期内で満場一致で選出された。
意外にも、会議中はみんな熱心に話し合っていた。
今回の企画が待ち遠しのかもしれない。
会議が終わる頃は間も無く夕暮れ。
そろそろ一部のメンバーは、お腹も空き始める。
本日はここで一旦切り上げとなり、解散しようとした時、事件は起きた。
バチバチバチッッ、という、強力な電撃が迸るような怪音が会議室に10秒ほど響き続けた。
騒然とする会議室よりも音が耳に強く響いて、鼓膜が裂けるかと思うほど。
何の音?
とほぼ全てのメンバーが不安と困惑に眉を寄せている中、一人が急いで付近の窓に駆け寄り、降りたスチールシャッターの間から外を除いた。
そのとあるメンバーの焦りを見て、他のメンバーに更に負の感情が伝播する。
そして、一部のメンバーは少しずつ、何が起きているのかを察し始める。
「不味い……!」
窓の付近に駆けつけて、外の様子を確認した唯一の存在、そうやはりシオン。
シオンは、外の光景を目にした途端、その一言を口にした。
「今のって、もしかして結界やバリアに何かが干渉した音?」
結界知識のあるみこが、シオンに聞いた。
そらが今の一言に以前の出来事を思い出す。
そう言えば、森にいた時も少し似た音と同時に結界が消えていた。
口は挟まなかったが、そらは何かを感じ取ったようだ。
「それだけじゃない……」
みこの言葉に、寧ろそれ以上に不味いことがあると言わんばかりの返答をしてシャッターを上げた。
まるで、外を見てみろと言うように。
横に長い窓に、みんなが集まる。
本当に全員。
外を見つめた。
いつもと変わらないし、さっきまでと変わらないような街の風景がある。
「空が……黒い」
誰かが発見した一つ目の異変。
言われて皆が見上げれば、昼間のように明るいこの世界なのに、空がまるで夜空のように暗い。
夜の中に、昼が佇んでいるような、そんな世界が創り上げてある。
「待って! 人がいない!」
また一人、誰かが別の異変を見つける。
見下ろした街の中、人っ子一人いなかった。
人の横行が閑散している、ではなく、全く、いない、だ。
しかも、街の道路の車たちが、完全に止まって動かない。
街中の電光掲示板も広告も点灯していて、正常に作動しているが、人がリアルタイムで制御しているものの全てが停止していた。
畢竟――人が消えた事を示す。
「ねぇ、これって……」
そらが、先程感じた事を口にしようと控えめな声を出す。
いつもの落ち着いた声が、より一層静かだ。
「えーちゃんが話してた……」
そう、将来起こり得る、『襲撃』。
この会社にある一つの石。
加えて、室内に一本の電話が入る。
フレアのポケットに入っているスマホが、着信音を奏でている。
一部のメンバーはこの着信音に聞き覚えがある。
これは、ノエルからの着信だ。
「もしもし、ノエル!」
この状況から真っ先に危惧していたこと。
それこそがノエル、マリン、AZKi、えーちゃんだ。
転移?した瞬間から危殆に瀕するような蹉跌はないだろうが、超常現象、非常事態に臨機応変に対応できるほど万能でもない。
フレアは躊躇なく声を大にしてスマホに声をかけた。
直ぐにスピーカー状態に変更。
場にいる全員で共有しようとしたが……。
「……た、ぜ…………ば……………………ぁ…………」
「何⁉︎ 雑音がすごいよ!」
まるで一昔前のテレビの砂嵐のような雑音が響き続ける。
そして、その耳障りな音の背景として、微かに誰かの声がする。
しかし、その言葉はもはや単語の形を留めておらず、そもそも声の主がノエルであるかの判別もつかない。
空間に緊迫の砂嵐が吹き荒れる。
そしてやがて、プツン、と通話が切れた。
「ノエル……」
スマホの画面に暗幕が降り、ホーム画面が映る。
フレアが息を呑んで、冷や汗を流す。
悪感情と負の空気が跳梁跋扈して、掻き乱してくる。
「ダメ、この距離ですら繋がらない!」
フブキが機転を利かせてミオに通話をかけたようだが、ミオのスマホは一向に着信音を奏でない。
「行かなきゃ……!」
フレアが使命感と衝動に駆られて扉を突き破ろうとする。
「待って!」
それを静止させたのはシオン。
フレアの焦燥も重々承知だが、シオンの普段は畏まった眉も少し不安に曲がっている。
「みんな……どうかよく聞いて」
本を展開し、シオンは現状を説明し、これからの取るべき行動を説いた。
*****
約5分の短い作戦会議。
概略を記す。
この国にある五石。
それらが悪用されると、最悪力が失われ、国が少しずつ滅びると言う。
そして、その配置。
北のスポーツスタジアムに黒の石。
東の海岸ステージ裏に白の石。
西の展望塔に蒼の石。
南のホロライブ事務所地下に朱の石。
国の中心にある魔界と天界と繋ぐエレベーター付近に金の石。
この内、北の黒の石に何らかの接触があった模様。
そして、この世界は現実とは完全に乖離した裏世界で、ホロライブメンバー以外に恐らく味方はいない。
つまり……ホロメンが、ここで動かなければ、最悪国が崩壊する。
誰も全く自覚無し。
それも当然。
そもそもその伝承の蓋然性が乏しい。
実際に廃れた過去が鮮明でないのだから。
そして、これから通るのはただの隘路ではない。
最悪……いや、もっと高い確率で、命を……。
だが、元の世界に戻る道も今は塞がれている。
矜持ゼロ、凡才程度の能力。
何をどう生き抜けと?
だが、反論の余地も議論の時間ももはやない。
続いて、作戦を記す。
と言っても、これからどう動くか、のみ。
基本行動は安定の各期ごと。
0期生は北のスポーツスタジアムへ行き、黒の石を防衛。
フブキを除く1期生は東の海岸ステージへ行き蒼の石を防衛。
2期生はこの場に残り経過観察と一応拠点防衛。
ゲーマーズは西の展望塔屋上へ行き白の石を防衛。
3期生は街の様子を偵察に、とかこつけてフレアがノエルを探しに。
4期生はこの会社の朱の石を持ってここより南の丘の方へ逃げ隠れる。
5期生は中央エレベーターの金の石を防衛。
となっている。
石の防衛に関しては、石を持ち去っても問題ないらしいので、そこは各自の判断で、だそうだ。
肝心なのは、悪の手に渡らない事。
そしてなによりも肝心なのがこの次の話題。
「でも、私たちが簡単に守れるものかな……?」
一人が半数以上の心情を代弁した。
そうだ。
この場にいるもので言えば、素で戦力に数えられるのは、ロボ子、みこ、シオン、あやめ、ころね、フレア、るしあ、かなた、トワ、ココ、ラミィだ。
案外多いかもしれない。
ふと思うだろう。
だが、以前森で起きた出来事を想起してみてほしい。
シオンが押され、あやめが互角以下、メルとるしあでようやく一人、フレアとノエルは一時ダウンし、みこは大きな傷を負った。
あの時は当たりが良かったが、毎度上手く事は運ばれない。
まだ、敵がいると決まったわけではないが、シオンの見立てでは強者の気配が10以上。
前回以上に危うい。
数が増えたとは言え、やはり戦闘には圧倒的に向かない。
「……みんな、こんな時にアレだけど……厨二病、してみない?」
突如、シオンが場違いな発言をする。
厨二病⁉︎
「何言ってんの?」
「厨二病って、あの腕が疼いたり、心眼が解放されたりする?」
呑気に構えてはいられないため、できる限り端的に。
「ずっと作ってた魔法があって、それを皆にかければ、一時的に『特殊能力』を持つことができる」
「「特殊能力⁉︎」」
何十といるメンバーの殆どの声が重なった。
それほど意表をつかれた、驚愕すべき事実。
「って言うか、もうかけた」
「「ええっ⁉︎」」
どうやら、既に反対しても手遅れのようだ。
何人かは自身の体を見つめ、様々試すが何も起きない。
「能力は魔法だから、難しいものは使えない。もしかすると、開花しないかもしれない。だけど、もし、開花を望むなら、出来る限り想像が簡単で、出来る限り単純で、出来る限り自分から連想できるものがいい」
誰一人として、意味を理解できて――
「おお! 来たァァァァァァァ!」
いないと思いきや、ポルカが急に叫ぶ。
耳が痛い。
そんな彼女の手には、謎のステッキが。
まるでマジックやサーカスで使用するような。
「凄い! 厨二病の素質がある」
多分貶されていた。
けれど、ポルカは能力発動に爽快感が横溢しているため、無関心。
だが、その能力発動の出来栄えを見ても、割と巧妙だ。
初体験ではもっと拙劣だったり、杜撰だったりと、酷い様が見受けられるはずだ。
ポルカが持つ素質なのか、それともホロメンの魔法適正が高いのか。
どちらにせよ、ポルカの能力発動を目の当たりにして、多数が己の新たな力を開花させれると希望を得た。
過信こそ身を滅ぼしかねないが、微かな自信に繋がったのであれば幸い。
全員が能力を完璧に操作できるまで敷衍する暇は、少なくとも今はないのだから。
各々、不安に煽られながら、まもなく行動開始。
「「気をつけて!」」
事務所に2期生を置いて、全員が持ち場へ向かった。
が、最終的にそこに残ったのは、ただ一人だった。
どうやら、想定と異なることが、多すぎたらしい……。