1期生が動き始めて数分後、ゲーマーズは西の展望塔屋上へ向かった。
西の展望塔は、国の中では比較的西側に位置している有名な観光スポット。
本来は最上階で絶景を楽しむ場だが、屋上には封印された白い石が存在する。
それを守りに行くのがゲーマーズ。
彼女らに封印を解く力は無いためその場で護り続ける必要がある。
もし封印が解かれても、相手方に石を悪用されなければまだ巻き返しの見込みはある。
兎に角冷静に、だ。
だが、第一関門は敵の有無や戦闘能力以前の問題だった。
「おかゆん大丈夫かー!」
先陣を切るフブキが声を上げて背後のおかゆを激励?する。
そう、問題はおかゆの持久力問題。
フブキの真後ろにころねとミオが張り付いているが、おかゆだけが遠い。
もう間もなく展望塔には着くが、寧ろここからが鬼門。
なんせ塔はエレベーターが展望デッキまでしか通っていないため、そこより上は階段で上る必要がある。
あの、遙か高い展望塔の屋上へ、だ。
そう考えただけで絶望的。
そしておかゆの持久力不足は如実に表れている。
だが、こんな裏世界のど真ん中で一人放置も出来ない。
「はあ、はあ……ごめんね、僕どうしても体力が無いから……」
開いた距離を徐々に詰めながら必死に返答する。
やがて三人のもとに辿り着く。
「はあ、はあ、……」
呼吸を乱すおかゆを白眼視する者はいない。
三人が優しく背中を撫でたりして落ち着かせるが、落ち着いては居られない。
「どうしようか……」
ミオが困り果てたように頭を抱える。
可及的速やかに展望塔へ向かいたい。
だが、疲労困憊のおかゆは看過できない。
「ごめんね……最悪、僕のことは、置いていっていいから……」
ぜぇぜぇと疲労を露わに苦笑する。
その嘲笑的な笑みが更に3人の心を掻き乱す。
「……フブキもころねも大丈夫なんでしょ?」
「うん」
「平気」
フブキもころねも、まだ体力は残っている。
ならば、おかゆが塔を登り切る体力さえあればいい。
「おかゆ、塔までは自力で頑張って。そうしたらウチがいいことしてあげるから」
ミオは勘案した結果、そう指示した。
普段よりも冷静に、それでいて頼り甲斐のある威厳もある。
だが、何故わざわざ「いいこと」と言う婉曲的な言い回しをするのか。
まさか、物で釣るつもりか?
「い、いいことって言われると……セクシーみおーん推進委員会の僕的には相当凄いことを考えちゃうんだけど……」
呼吸荒くも輝く目でミオを見つめるおかゆ。
いつもの輝きとは比にならない。
おかゆもおかゆで、何を期待しているのか。
「おかゆが思うほどいいことじゃないよ」
「あはは、分かってるって……ありがと、僕はまだ大丈夫だから」
おかゆの最後の微笑みで、今の一言が場を和ませるものだと把握した。
遅れて、何か諧謔的な言葉を返すべきだったかも、と似合わず思った。
でも、おかゆがここにいる意味を強く感じれてよかっただろう。
ミオが何を意図して発言したのか、不鮮明であるが、4人はすぐさま塔へ向けて再度走り出す。
迷惑かけまいと、おかゆが必死に背後を走っていたのを、みんな感じていた。
そして、やはり誰とも遭遇することなく4人は塔に辿り着いた。
誰もいない不穏さが4人の感情を揺さぶる。
夜なのに明るい人のいないこの街で、人が動力源となるものは全て停止している。
街の電光掲示板や店の自動扉、エレベーターやエスカレーターは電力尽きぬ限り動き続ける。
しかし、街の車はアクセルブレーキを踏めぬため、街中で全て停止している。
その光景から察するに、この世界は、現実を模倣して制作した裏世界。
模倣した瞬間の物の位置がそのままの場所に残っているのだ。
だから、街で停車している車はほぼ全て動かすことができる。
「車を使わなくて正解だったね」
フブキが到着して、一つ振り返る。
「渋滞が凄かったし、車じゃ通れない道も多かったからね」
ころねもその意見に首肯する。
背後ではおかゆが延々と息を切らしていた。
「……ぉヵゅ、大丈夫?」
ころねがそっと手を添えて顔を覗き込む。
走った距離は相当。
ころねはまだしも、何故フブキとミオも元気なのだろうと不思議に思える。
「うん……」
蹲るような動きで低い頭を更に下げて頷く。
このまま連れて行けるのか?
「ねえ、これから上に上がるわけだけど、3人は能力とかって使えた?」
フブキが塔の入り口前で突然話を振った。
え、と3人が一瞬困惑したが、確かに、仲間の能力把握は戦況を大きく左右する要素だ。
自動扉を抜け、エレベーター前で4人は立ち止まる。
そして、上マークのボタンを押すと、エレベーターを待つ。
「私は名前通りの能力」
とフブキは自白から入る。
この場で証明はしないが、嘘をつく意味がないので確実だ。
「ウチはコレ」
ミオがポケットから数枚のカードを取り出して見せる。
計22枚、タロットカードの大アルカナの全てだ。
「こぉねはシオンちゃんが言ってたから、特に能力とか考えてないよ」
ころねは拳を突き出して、過去に負けず劣らずで、素の腕力で勝負するつもりだ。
因みに、シオンの言っていたことは、「ある程度実力がある人は能力を使うと却って不利に働くから」だ。
可能なら手に馴染んだものを、がいいらしい。
「僕はまだ考えてないけど……悪戯できるといいな」
おかゆが息を整えながら、ははっと笑う。
各々、自分の個性や特徴、特技などから能力を考案している。
エレベーターが来た。
展望階まで登り、そこから屋上へ走る予定。
全員で警戒しながら乗り込む。
「おかゆ、さっき言ってたいいこと」
「……ああ。本当に何かあるの?」
「あるよ、ホントに」
ミオがポケットから先ほどのタロットカードを取り出し、一枚を抜き取る。
それをおかゆの背中にパンと貼り付けるように押さえると、
「正位置、STRENGE」
大アルカナNo.8。
力のカードが光り輝き、消滅する。
それを代償として、おかゆに力が漲る。
いや、潜在能力が解放されたか。
「これでしばらくは体力が保つはず」
ミオが言っていた「いいこと」とはこのことだった。
わざわざ妙な言い回しをしたのも、本当に説明し難いことだったから。
「すごいね。その枚数分できるの?」
率直且つ単純な感想。
手札の数だけ似たような効果が発動するなら十分優秀だが、そう甘くはない。
「一応ね……。でも、使い道がないカードが大半だから」
そう、圧倒的に使用に向かないカードがほとんど。
と言うより、そもそもタロットカードは一枚に決まった意味はなく、時と場合によって都度意味を変える。
状況によって使用時の効果も変化するのだ。
瞬時の頭の回転が求められる力だ。
エレベーターの高度が上がり、耳鳴りが始まる。
数秒で慣れる。
そして、扉が開く。
「行こう」
4人は、真っ先に立ち入り禁止の柵の方へかける。
その柵を越えて屋上へ向かう。
おかゆがずっと真後ろを着いてきたことは、誰もが驚いた。
コンコンコンコン、と4人のバラバラな靴音が響き渡る。
獣人の敏感な耳にはよく響いたはずだ。
やがて扉が目の前に現れる。
ガチャッと開き、様子を確認。
人はいない。
目前の石の台に駆け寄る。
白の石があるはずの封印の台座だ。
あるはずだった……。
「ない!」
「まさかもう――!」
手遅れだった。
衝撃を受けて目配せしていると、バタンっと扉の閉まる音がした。
「…………」
咄嗟に振り返ると、そこには見慣れぬ男性。
無言で4人を見ていた。
「…………」
出方を伺うように、4人も無言で警戒、牽制する。
標高が高いから、風が冷たくて寒い。
フブキの前髪がチラッと揺れる。
ミオのポニーテールが大きく横に振れる。
ころねのおさげが靡く。
おかゆの短髪でさえも風を感じる。
「……!」
牽制を続けた結果、先に動いたのは男性。
だが、襲いかかることも、話しかけることもなく、唯一の扉の前に胡座をかいて座り込んだだけ。
その道を塞ぐように。
この寒波の下のコンクリートは寒いだろうに。
「……ここの石、どこにあるか知ってる?」
動く手立てがないと判断し、フブキが迎撃準備を整えながら質問する。
別に、何と答えようと、信頼度は低い。
男は静かに頷いた。
「どこにあるの?」
男の手がそっと挙げられ、その右手は0期生の向かった北のスポーツスタジアムを指している。
「……しゃべれないの?」
男は首を横に振る。
「まあいいや……道を開けてくれる?」
「無理だ」
「……」
初めて、男が口を開いた。
ただ一単語、ハッキリと明確に、示した。
それはできないと。
「俺の目的はお前らをここに止めること」
そして、重たい腰を上げて、のっそりと立ち上がった。
その動作に警戒し、ゲーマーズはサッと臨戦態勢をとった。
つい、咄嗟に。
ミオが内ポケットに手を入れる。
フブキは両手を構え、「魔法」を扱う準備をする。
おかゆは「あの拳銃」を男に向けて構える。
ころねはいつでも殴れるように拳を握る。
「そうピリピリするな。俺は他の奴らと違って殺しは正直得意じゃない」
男は肩を竦めて謙遜するように言う。
その表情、まるで4人を敵としていない。
男の実力が垣間見える仕草だ。
「なら、そこをどいて」
おかゆが少し強気で銃を見せつける。
銃口を男の方へ向け、威嚇するように。
……寒い風が両者の間を吹き抜ける。
「もう一度言う、無理だ」
「撃つよ?」
「……構わんが、それを合図に俺も本気を出すぞ?」
おかゆの偽拳銃がカタカタと音を立てて震える。
引き金にかけられた手が、震えているからだ。
この引き金を引けば、火蓋が切られる。
4人を戦場へ送り込む事となる。
「……」
「さあ、来いよ」
「……」
男の挑発にも乗らず、おかゆは自我をしっかりと保つ。
震える手を、そっと下ろしながらふぅっと息を吐く。
刹那――
一筋の光と耳を切り裂く轟音が轟き、落雷が発生した。
その雷電は一直線に男に向かっていた。
4人の目前で、目を焼く閃光が弾け、視界が白む。
普通の人間なら確実に死に至るが、そんな事はあり得ないと踏んで放たれた一撃。
その発動者は、フブキの横で一枚のカードを左手に構えていたミオだ。
左手にあるカードは「大アルカナNo.20 JUDGEMENT」、審判のカード。
今、この場で審判が下された。
「合図はあった」
落雷の閃光で目が眩み、視界朦朧とする中、男がつぶやいた。
「これでも
男が遂に、出口を明け渡す。
それと同時に、ゲーマーズとQとの闘いが始まる。
第一フェーズ、西の展望塔屋上。
ゲーマーズ対Q。
Q――能力、???。
白上フブキ――能力、???。
大神ミオ――能力、カードイメージ。
戌神ころね――能力、なし。
猫又おかゆ――能力、???。