歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

43 / 122
43話 高みにて

 

 1期生が動き始めて数分後、ゲーマーズは西の展望塔屋上へ向かった。

 西の展望塔は、国の中では比較的西側に位置している有名な観光スポット。

 本来は最上階で絶景を楽しむ場だが、屋上には封印された白い石が存在する。

 それを守りに行くのがゲーマーズ。

 彼女らに封印を解く力は無いためその場で護り続ける必要がある。

 もし封印が解かれても、相手方に石を悪用されなければまだ巻き返しの見込みはある。

 兎に角冷静に、だ。

 

 だが、第一関門は敵の有無や戦闘能力以前の問題だった。

 

「おかゆん大丈夫かー!」

 

 先陣を切るフブキが声を上げて背後のおかゆを激励?する。

 そう、問題はおかゆの持久力問題。

 フブキの真後ろにころねとミオが張り付いているが、おかゆだけが遠い。

 もう間もなく展望塔には着くが、寧ろここからが鬼門。

 なんせ塔はエレベーターが展望デッキまでしか通っていないため、そこより上は階段で上る必要がある。

 あの、遙か高い展望塔の屋上へ、だ。

 そう考えただけで絶望的。

 そしておかゆの持久力不足は如実に表れている。

 だが、こんな裏世界のど真ん中で一人放置も出来ない。

 

「はあ、はあ……ごめんね、僕どうしても体力が無いから……」

 

 開いた距離を徐々に詰めながら必死に返答する。

 やがて三人のもとに辿り着く。

 

「はあ、はあ、……」

 

 呼吸を乱すおかゆを白眼視する者はいない。

 三人が優しく背中を撫でたりして落ち着かせるが、落ち着いては居られない。

 

「どうしようか……」

 

 ミオが困り果てたように頭を抱える。

 可及的速やかに展望塔へ向かいたい。

 だが、疲労困憊のおかゆは看過できない。

 

「ごめんね……最悪、僕のことは、置いていっていいから……」

 

 ぜぇぜぇと疲労を露わに苦笑する。

 その嘲笑的な笑みが更に3人の心を掻き乱す。

 

「……フブキもころねも大丈夫なんでしょ?」

「うん」

「平気」

 

 フブキもころねも、まだ体力は残っている。

 ならば、おかゆが塔を登り切る体力さえあればいい。

 

「おかゆ、塔までは自力で頑張って。そうしたらウチがいいことしてあげるから」

 

 ミオは勘案した結果、そう指示した。

 普段よりも冷静に、それでいて頼り甲斐のある威厳もある。

 だが、何故わざわざ「いいこと」と言う婉曲的な言い回しをするのか。

 まさか、物で釣るつもりか?

 

「い、いいことって言われると……セクシーみおーん推進委員会の僕的には相当凄いことを考えちゃうんだけど……」

 

 呼吸荒くも輝く目でミオを見つめるおかゆ。

 いつもの輝きとは比にならない。

 おかゆもおかゆで、何を期待しているのか。

 

「おかゆが思うほどいいことじゃないよ」

「あはは、分かってるって……ありがと、僕はまだ大丈夫だから」

 

 おかゆの最後の微笑みで、今の一言が場を和ませるものだと把握した。

 遅れて、何か諧謔的な言葉を返すべきだったかも、と似合わず思った。

 でも、おかゆがここにいる意味を強く感じれてよかっただろう。

 

 ミオが何を意図して発言したのか、不鮮明であるが、4人はすぐさま塔へ向けて再度走り出す。

 迷惑かけまいと、おかゆが必死に背後を走っていたのを、みんな感じていた。

 

 そして、やはり誰とも遭遇することなく4人は塔に辿り着いた。

 誰もいない不穏さが4人の感情を揺さぶる。

 夜なのに明るい人のいないこの街で、人が動力源となるものは全て停止している。

 街の電光掲示板や店の自動扉、エレベーターやエスカレーターは電力尽きぬ限り動き続ける。

 しかし、街の車はアクセルブレーキを踏めぬため、街中で全て停止している。

 その光景から察するに、この世界は、現実を模倣して制作した裏世界。

 模倣した瞬間の物の位置がそのままの場所に残っているのだ。

 だから、街で停車している車はほぼ全て動かすことができる。

 

「車を使わなくて正解だったね」

 

 フブキが到着して、一つ振り返る。

 

「渋滞が凄かったし、車じゃ通れない道も多かったからね」

 

 ころねもその意見に首肯する。

 背後ではおかゆが延々と息を切らしていた。

 

「……ぉヵゅ、大丈夫?」

 

 ころねがそっと手を添えて顔を覗き込む。

 走った距離は相当。

 ころねはまだしも、何故フブキとミオも元気なのだろうと不思議に思える。

 

「うん……」

 

 蹲るような動きで低い頭を更に下げて頷く。

 このまま連れて行けるのか?

 

「ねえ、これから上に上がるわけだけど、3人は能力とかって使えた?」

 

 フブキが塔の入り口前で突然話を振った。

 え、と3人が一瞬困惑したが、確かに、仲間の能力把握は戦況を大きく左右する要素だ。

 自動扉を抜け、エレベーター前で4人は立ち止まる。

 そして、上マークのボタンを押すと、エレベーターを待つ。

 

「私は名前通りの能力」

 

 とフブキは自白から入る。

 この場で証明はしないが、嘘をつく意味がないので確実だ。

 

「ウチはコレ」

 

 ミオがポケットから数枚のカードを取り出して見せる。

 計22枚、タロットカードの大アルカナの全てだ。

 

「こぉねはシオンちゃんが言ってたから、特に能力とか考えてないよ」

 

 ころねは拳を突き出して、過去に負けず劣らずで、素の腕力で勝負するつもりだ。

 因みに、シオンの言っていたことは、「ある程度実力がある人は能力を使うと却って不利に働くから」だ。

 可能なら手に馴染んだものを、がいいらしい。

 

「僕はまだ考えてないけど……悪戯できるといいな」

 

 おかゆが息を整えながら、ははっと笑う。

 

 各々、自分の個性や特徴、特技などから能力を考案している。

 

 エレベーターが来た。

 展望階まで登り、そこから屋上へ走る予定。

 全員で警戒しながら乗り込む。

 

「おかゆ、さっき言ってたいいこと」

「……ああ。本当に何かあるの?」

「あるよ、ホントに」

 

 ミオがポケットから先ほどのタロットカードを取り出し、一枚を抜き取る。

 それをおかゆの背中にパンと貼り付けるように押さえると、

 

「正位置、STRENGE」

 

 大アルカナNo.8。

 力のカードが光り輝き、消滅する。

 それを代償として、おかゆに力が漲る。

 いや、潜在能力が解放されたか。

 

「これでしばらくは体力が保つはず」

 

 ミオが言っていた「いいこと」とはこのことだった。

 わざわざ妙な言い回しをしたのも、本当に説明し難いことだったから。

 

「すごいね。その枚数分できるの?」

 

 率直且つ単純な感想。

 手札の数だけ似たような効果が発動するなら十分優秀だが、そう甘くはない。

 

「一応ね……。でも、使い道がないカードが大半だから」

 

 そう、圧倒的に使用に向かないカードがほとんど。

 と言うより、そもそもタロットカードは一枚に決まった意味はなく、時と場合によって都度意味を変える。

 状況によって使用時の効果も変化するのだ。

 瞬時の頭の回転が求められる力だ。

 

 エレベーターの高度が上がり、耳鳴りが始まる。

 数秒で慣れる。

 そして、扉が開く。

 

「行こう」

 

 4人は、真っ先に立ち入り禁止の柵の方へかける。

 その柵を越えて屋上へ向かう。

 おかゆがずっと真後ろを着いてきたことは、誰もが驚いた。

 

 コンコンコンコン、と4人のバラバラな靴音が響き渡る。

 獣人の敏感な耳にはよく響いたはずだ。

 

 やがて扉が目の前に現れる。

 ガチャッと開き、様子を確認。

 人はいない。

 目前の石の台に駆け寄る。

 白の石があるはずの封印の台座だ。

 

 あるはずだった……。

 

「ない!」

「まさかもう――!」

 

 手遅れだった。

 衝撃を受けて目配せしていると、バタンっと扉の閉まる音がした。

 

「…………」

 

 咄嗟に振り返ると、そこには見慣れぬ男性。

 無言で4人を見ていた。

 

「…………」

 

 出方を伺うように、4人も無言で警戒、牽制する。

 標高が高いから、風が冷たくて寒い。

 フブキの前髪がチラッと揺れる。

 ミオのポニーテールが大きく横に振れる。

 ころねのおさげが靡く。

 おかゆの短髪でさえも風を感じる。

 

「……!」

 

 牽制を続けた結果、先に動いたのは男性。

 だが、襲いかかることも、話しかけることもなく、唯一の扉の前に胡座をかいて座り込んだだけ。

 その道を塞ぐように。

 この寒波の下のコンクリートは寒いだろうに。

 

「……ここの石、どこにあるか知ってる?」

 

 動く手立てがないと判断し、フブキが迎撃準備を整えながら質問する。

 別に、何と答えようと、信頼度は低い。

 

 男は静かに頷いた。

 

「どこにあるの?」

 

 男の手がそっと挙げられ、その右手は0期生の向かった北のスポーツスタジアムを指している。

 

「……しゃべれないの?」

 

 男は首を横に振る。

 

「まあいいや……道を開けてくれる?」

「無理だ」

「……」

 

 初めて、男が口を開いた。

 ただ一単語、ハッキリと明確に、示した。

 それはできないと。

 

「俺の目的はお前らをここに止めること」

 

 そして、重たい腰を上げて、のっそりと立ち上がった。

 その動作に警戒し、ゲーマーズはサッと臨戦態勢をとった。

 つい、咄嗟に。

 

 ミオが内ポケットに手を入れる。

 フブキは両手を構え、「魔法」を扱う準備をする。

 おかゆは「あの拳銃」を男に向けて構える。

 ころねはいつでも殴れるように拳を握る。

 

「そうピリピリするな。俺は他の奴らと違って殺しは正直得意じゃない」

 

 男は肩を竦めて謙遜するように言う。

 その表情、まるで4人を敵としていない。

 男の実力が垣間見える仕草だ。

 

「なら、そこをどいて」

 

 おかゆが少し強気で銃を見せつける。

 銃口を男の方へ向け、威嚇するように。

 ……寒い風が両者の間を吹き抜ける。

 

「もう一度言う、無理だ」

「撃つよ?」

「……構わんが、それを合図に俺も本気を出すぞ?」

 

 おかゆの偽拳銃がカタカタと音を立てて震える。

 引き金にかけられた手が、震えているからだ。

 この引き金を引けば、火蓋が切られる。

 4人を戦場へ送り込む事となる。

 

「……」

「さあ、来いよ」

「……」

 

 男の挑発にも乗らず、おかゆは自我をしっかりと保つ。

 震える手を、そっと下ろしながらふぅっと息を吐く。

 

 刹那――

 

 一筋の光と耳を切り裂く轟音が轟き、落雷が発生した。

 その雷電は一直線に男に向かっていた。

 

 4人の目前で、目を焼く閃光が弾け、視界が白む。

 普通の人間なら確実に死に至るが、そんな事はあり得ないと踏んで放たれた一撃。

 その発動者は、フブキの横で一枚のカードを左手に構えていたミオだ。

 左手にあるカードは「大アルカナNo.20 JUDGEMENT」、審判のカード。

 今、この場で審判が下された。

 

「合図はあった」

 

 落雷の閃光で目が眩み、視界朦朧とする中、男がつぶやいた。

 

「これでもQ(クイーン)。本気で行くぞ?」

 

 男が遂に、出口を明け渡す。

 それと同時に、ゲーマーズとQとの闘いが始まる。

 

 

 第一フェーズ、西の展望塔屋上。

 ゲーマーズ対Q。

 

 Q――能力、???。

 

 白上フブキ――能力、???。

 大神ミオ――能力、カードイメージ。

 戌神ころね――能力、なし。

 猫又おかゆ――能力、???。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。