歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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44話 潮風香る防衛ステージ

 

 ゲーマーズが事務所を出るのと、時を同じくして一期生もある場所へ向かった。

 ゲーマーズの向かう西の展望塔に対し、一期生は真逆の方角の、東の海岸ステージ。

 

 唯一フブキだけが一期生から外れてゲーマーズ側で行動しているが、今のところ支障はない。

 

 やはり走る。

 どのメンバーも体力にあまり自信はない。

 だが、走らなければならない時は、やってくる。

 

「みんなは海岸ステージの構造って知ってる?」

 

 まつりが先頭を駆けながら、背後を振り返る事なく問う。

 海岸ステージの構造を把握していないと、どこに石が置かれているのか分からない。

 いや、そもそも一般人であれば、構造を知っていても石の在処は知らないはず。

 

 誰一人として知っていると答えた者はいなかった。

 

「……まつりも実は知らないんだよね」

 

 まつりが初めて振り返り、えへへと頰を掻く。

 明るい夜に照らされて、まつりの髪がたまに光る。

 

「そっか……でもそれは責められないしね」

 

 アキロゼが皆同罪だとまつりを慰めるように微笑む。

 メルもはあとも「そうだよ」と付ける。

 寛厚なメンバーにまつりは口許を綻ばせた。

 

「一先ずあっちに着いたら、石を探そう」

「そうね。でも分担と共同どっち?」

 

 メルの的確な案に対し、はあとが意見する。

 分かれての探索か、合同での探索か。

 

「うーん……そこは到着してからかな。人の有無によっても左右されるから」

 

 まつりは臨機応変にと言って走り続ける。

 その通りだ。

 もし他の人がいれば、状況は大きく変化する。

 折角立てた計画も瞬時に崩壊して烏有に帰すだろう。

 

「シオンちゃんが言ってたけど、ホントに人がいないね」

 

 街中を走る4人。

 この4人も0期生と同じことを口にする。

 ただ、不自然さを提唱したのは、事務所で待機していた時のシオンだ。

 0期生の出発直後辺りで、敵でさえも気配があるのに存在を感じないと唸っていた。

 

「広告の音だけが五月蝿いってのも逆に怖いね」

 

 街中を走れば、耳に届くのは電光掲示板の広告が騒ぐ音だけ。

 人の声は何一つ聞こえない。

 無の中に4人だけが彷徨っている、そんな哀切感に満ちている。

 

「ねえ、来た時より暗くなってない? 微々たる変化だけど……」

 

 メルがビルの隙間から夜空を見上げて余念を口にした。

 本当に余念であれば良いと思って。

 

「……そう? 私は分かんないけど」

「まつりも」

「はあちゃまも分かんない」

 

 賛同者は0だった。

 やはり気のせい。

 そう結論付け歯牙にも掛けなかったが、まさかいい着眼点で重要部分を穿っていたなんて、誰も考えまい。

 

「じゃあ気のせいだね」

 

 メルも深く考えず流した。

 

 そうして、また走力に力を注ぎ、走ることに専念する。

 先頭から、まつり、アキロゼ、メル、はあちゃま。

 特に並びに意味はない。

 

 もう全力疾走。

 兎に角我先にと石を回収しに行く。

 それが最優先。

 

 しばらく走って、ビルの高さも低くなり始めた頃、弱々しい風に乗って微かな潮の香りが鼻を撫でた。

 間もなく海岸へ出る。

 海岸ステージは、一面砂浜の中に一つだけ大きくステージが存在している設計。

 ステージだけは海上にあり、砂浜付近の人工橋から入ることができる。

 

 その特殊な構造のステージが遂に見えてきた。

 

 そして目と鼻の先だったステージに到着。

 

「取り敢えず、みんなで散らばって中を探そう」

 

 まつりが指示を出すと皆首肯して二つある橋に二手に分かれた。

 まつり&アキロゼペアとメル&はあちゃまペア。

 ステージへ行くと、何層か地下があるので、更にそこから各個人で行動することになる。

 何も示し合わずに行動したため、定期的に誰かとすれ違ったりしたが、中々石は見当たらない。

 

 そして、4人の苦労の末――

 

「あった――! これだ……」

 

 最下層に隠し扉を発見し、石の在処まで辿り着いたのはまつりだった。

 光り輝く石が頑丈そうな土台の上にガラスケースに覆われて置いてあった。

 話によれば、この石に封印はかかっていないらしい。

 

「よし……」

 

 まつりは腰に添えていた2本のバチを取り出しガラスケースを叩き割ろうとする。

 

「――え!」

 

 その寸前、忽然と石が姿を消した。

 ……いや、そんなことは無い。

 見た。

 まつりはその光景を目の当たりにした。

 石が土台の下から生えてきた手に盗まれた瞬間を。

 

「誰!」

 

 まつりは驚嘆と同時に土台へ駆け寄り、その土台を蹴り倒した。

 そこで初めて、土台の中に空間がない事を知る。

 

「どういうこと……」

 

 意味がわからない。

 脳内が途中で考察を放棄するほどに。

 

「――誰!」

 

 背後に何者かの気配を感じ、まつりは振り返った。

 がそこに人はいなかった。

 

「……いや、兎に角戻ろう!」

 

 まつりは急遽全員をかき集めるために奔走した。

 ステージ地下で全員を探索して回り、物の数分で収集完了。

 生じた奇怪事件を伝達し一度事務所に戻る旨を確認。

 4人でステージに出て橋を渡る。

 と――

 

「これはこれは、お待ちしましたよ」

 

 一人の男性が礼儀正しく腰を折って挨拶をしてきた。

 一見誠実そうで、服装が実に清潔だ。

 だが、果たしてまつりたちの前に立ちはだかる存在が、友好的だろうか?

 

「何、あんた」

 

 まつりが少し語気を強めて男を睨む。

 石が消えた事とこの男、何か繋がりを感じる。

 全く持って根拠はないが。

 

「私はスペードです。無論、本名ではありませんが」

 

 組織内のコードネーム、といったところか。

 男は親切にネームを名乗る。

 

「我々の任務はですね、石の回収に加えて、歌姫に繋がる糸を全て断つこともあるんですよ」

 

 男が遺憾そうに呟く。

 辟易しますと鼻を鳴らしながら、どことなく嬉しそうに。

 

「……何が言いたいのかハッキリしなよ」

 

 まつりが腰のバチに手を添えた。

 アキロゼは後方で様子を伺う。

 メルは目を光らせて展開を見極める。

 はあとは狂気的に一度笑って、まつりの真横に並ぶ。

 

「石は今ここでエースに預けます、このように」

 

 男が堂々と右手の上に乗せた光る石を4人に見せびらかす。

 その石は、まつりが確保し損ねた大切な五石のうちの一つ。

 「やっぱお前が」と言う前に、男がその石を真横に投げ捨てた。

 「あっ!」と声を出す前に、石は何かに吸い込まれて姿を消した。

 先刻、まつりが目にしたように。

 

「そして私は、ここであなた方を根絶やしにするのです」

 

 構いませんか?と無駄な了解を求む。

 

「……まつりちゃん、逃げた方が良くない?」

 

 アキロゼが男の威圧感を前に尻込みする。

 3人も男の気迫には圧倒されているが、ここでは退けない。

 

「いや……あいつ能力、多分やばい」

 

 男がアホらしく返答を待っているうちに小声で会話する。

 

「あいつはある意味瞬間移動できる能力だと思う」

「……としたら、逃げても無駄って事かな?」

「いや、そうじゃない。今こっち側は一つ以上の石を握ってる」

「「うん」」

「それをコイツが本気で狙いに行ったら、多分すぐに奪われる」

 

 そこまで説明されて、ようやく理解した。

 誰一人逃げてはならない理由が。

 

「コイツがここで私たちにかまけるってなら、足止めになるってことね」

 

 はあとが核心を突く。

 そう、その通りだ。

 こちらが持つ唯一の石の所在が不明の今、この男は普通の男。

 わざわざ他の仲間が街中を捜索する中、コイツが動く必要はない。

 無鉄砲に能力を使っても、不要な魔力を割くだけ。

 今のうちにコイツをここに留めて、あわよくば倒したい。

 

 もし、ここで1期生がこいつの相手をせずに逃げれば、4期生の石が発見された瞬間にこちらの持ち石が無くなる。

 敵方の動きを見るに、きっと相手側には情報の伝達手段がある。

 だから、今ここで、この4人が、こいつを相手にする必要がある。

 誰か一人でも逃げて、この男を4期生の側に誘導してはならない。

 

「――いくよ!」

 

 まつりが声を上げた。

 今、潮風を受けながら、火蓋を切る。

 

 

 

 東の海岸ステージ、第一フェーズ。

 

 スペード――能力、???。

 

 夏色まつり――能力、???。

 アキ・ローゼンタール――能力、???。

 赤井はあと――能力、???。

 夜空メル――能力、???。

 

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