ゲーマーズが事務所を出るのと、時を同じくして一期生もある場所へ向かった。
ゲーマーズの向かう西の展望塔に対し、一期生は真逆の方角の、東の海岸ステージ。
唯一フブキだけが一期生から外れてゲーマーズ側で行動しているが、今のところ支障はない。
やはり走る。
どのメンバーも体力にあまり自信はない。
だが、走らなければならない時は、やってくる。
「みんなは海岸ステージの構造って知ってる?」
まつりが先頭を駆けながら、背後を振り返る事なく問う。
海岸ステージの構造を把握していないと、どこに石が置かれているのか分からない。
いや、そもそも一般人であれば、構造を知っていても石の在処は知らないはず。
誰一人として知っていると答えた者はいなかった。
「……まつりも実は知らないんだよね」
まつりが初めて振り返り、えへへと頰を掻く。
明るい夜に照らされて、まつりの髪がたまに光る。
「そっか……でもそれは責められないしね」
アキロゼが皆同罪だとまつりを慰めるように微笑む。
メルもはあとも「そうだよ」と付ける。
寛厚なメンバーにまつりは口許を綻ばせた。
「一先ずあっちに着いたら、石を探そう」
「そうね。でも分担と共同どっち?」
メルの的確な案に対し、はあとが意見する。
分かれての探索か、合同での探索か。
「うーん……そこは到着してからかな。人の有無によっても左右されるから」
まつりは臨機応変にと言って走り続ける。
その通りだ。
もし他の人がいれば、状況は大きく変化する。
折角立てた計画も瞬時に崩壊して烏有に帰すだろう。
「シオンちゃんが言ってたけど、ホントに人がいないね」
街中を走る4人。
この4人も0期生と同じことを口にする。
ただ、不自然さを提唱したのは、事務所で待機していた時のシオンだ。
0期生の出発直後辺りで、敵でさえも気配があるのに存在を感じないと唸っていた。
「広告の音だけが五月蝿いってのも逆に怖いね」
街中を走れば、耳に届くのは電光掲示板の広告が騒ぐ音だけ。
人の声は何一つ聞こえない。
無の中に4人だけが彷徨っている、そんな哀切感に満ちている。
「ねえ、来た時より暗くなってない? 微々たる変化だけど……」
メルがビルの隙間から夜空を見上げて余念を口にした。
本当に余念であれば良いと思って。
「……そう? 私は分かんないけど」
「まつりも」
「はあちゃまも分かんない」
賛同者は0だった。
やはり気のせい。
そう結論付け歯牙にも掛けなかったが、まさかいい着眼点で重要部分を穿っていたなんて、誰も考えまい。
「じゃあ気のせいだね」
メルも深く考えず流した。
そうして、また走力に力を注ぎ、走ることに専念する。
先頭から、まつり、アキロゼ、メル、はあちゃま。
特に並びに意味はない。
もう全力疾走。
兎に角我先にと石を回収しに行く。
それが最優先。
しばらく走って、ビルの高さも低くなり始めた頃、弱々しい風に乗って微かな潮の香りが鼻を撫でた。
間もなく海岸へ出る。
海岸ステージは、一面砂浜の中に一つだけ大きくステージが存在している設計。
ステージだけは海上にあり、砂浜付近の人工橋から入ることができる。
その特殊な構造のステージが遂に見えてきた。
そして目と鼻の先だったステージに到着。
「取り敢えず、みんなで散らばって中を探そう」
まつりが指示を出すと皆首肯して二つある橋に二手に分かれた。
まつり&アキロゼペアとメル&はあちゃまペア。
ステージへ行くと、何層か地下があるので、更にそこから各個人で行動することになる。
何も示し合わずに行動したため、定期的に誰かとすれ違ったりしたが、中々石は見当たらない。
そして、4人の苦労の末――
「あった――! これだ……」
最下層に隠し扉を発見し、石の在処まで辿り着いたのはまつりだった。
光り輝く石が頑丈そうな土台の上にガラスケースに覆われて置いてあった。
話によれば、この石に封印はかかっていないらしい。
「よし……」
まつりは腰に添えていた2本のバチを取り出しガラスケースを叩き割ろうとする。
「――え!」
その寸前、忽然と石が姿を消した。
……いや、そんなことは無い。
見た。
まつりはその光景を目の当たりにした。
石が土台の下から生えてきた手に盗まれた瞬間を。
「誰!」
まつりは驚嘆と同時に土台へ駆け寄り、その土台を蹴り倒した。
そこで初めて、土台の中に空間がない事を知る。
「どういうこと……」
意味がわからない。
脳内が途中で考察を放棄するほどに。
「――誰!」
背後に何者かの気配を感じ、まつりは振り返った。
がそこに人はいなかった。
「……いや、兎に角戻ろう!」
まつりは急遽全員をかき集めるために奔走した。
ステージ地下で全員を探索して回り、物の数分で収集完了。
生じた奇怪事件を伝達し一度事務所に戻る旨を確認。
4人でステージに出て橋を渡る。
と――
「これはこれは、お待ちしましたよ」
一人の男性が礼儀正しく腰を折って挨拶をしてきた。
一見誠実そうで、服装が実に清潔だ。
だが、果たしてまつりたちの前に立ちはだかる存在が、友好的だろうか?
「何、あんた」
まつりが少し語気を強めて男を睨む。
石が消えた事とこの男、何か繋がりを感じる。
全く持って根拠はないが。
「私はスペードです。無論、本名ではありませんが」
組織内のコードネーム、といったところか。
男は親切にネームを名乗る。
「我々の任務はですね、石の回収に加えて、歌姫に繋がる糸を全て断つこともあるんですよ」
男が遺憾そうに呟く。
辟易しますと鼻を鳴らしながら、どことなく嬉しそうに。
「……何が言いたいのかハッキリしなよ」
まつりが腰のバチに手を添えた。
アキロゼは後方で様子を伺う。
メルは目を光らせて展開を見極める。
はあとは狂気的に一度笑って、まつりの真横に並ぶ。
「石は今ここでエースに預けます、このように」
男が堂々と右手の上に乗せた光る石を4人に見せびらかす。
その石は、まつりが確保し損ねた大切な五石のうちの一つ。
「やっぱお前が」と言う前に、男がその石を真横に投げ捨てた。
「あっ!」と声を出す前に、石は何かに吸い込まれて姿を消した。
先刻、まつりが目にしたように。
「そして私は、ここであなた方を根絶やしにするのです」
構いませんか?と無駄な了解を求む。
「……まつりちゃん、逃げた方が良くない?」
アキロゼが男の威圧感を前に尻込みする。
3人も男の気迫には圧倒されているが、ここでは退けない。
「いや……あいつ能力、多分やばい」
男がアホらしく返答を待っているうちに小声で会話する。
「あいつはある意味瞬間移動できる能力だと思う」
「……としたら、逃げても無駄って事かな?」
「いや、そうじゃない。今こっち側は一つ以上の石を握ってる」
「「うん」」
「それをコイツが本気で狙いに行ったら、多分すぐに奪われる」
そこまで説明されて、ようやく理解した。
誰一人逃げてはならない理由が。
「コイツがここで私たちにかまけるってなら、足止めになるってことね」
はあとが核心を突く。
そう、その通りだ。
こちらが持つ唯一の石の所在が不明の今、この男は普通の男。
わざわざ他の仲間が街中を捜索する中、コイツが動く必要はない。
無鉄砲に能力を使っても、不要な魔力を割くだけ。
今のうちにコイツをここに留めて、あわよくば倒したい。
もし、ここで1期生がこいつの相手をせずに逃げれば、4期生の石が発見された瞬間にこちらの持ち石が無くなる。
敵方の動きを見るに、きっと相手側には情報の伝達手段がある。
だから、今ここで、この4人が、こいつを相手にする必要がある。
誰か一人でも逃げて、この男を4期生の側に誘導してはならない。
「――いくよ!」
まつりが声を上げた。
今、潮風を受けながら、火蓋を切る。
東の海岸ステージ、第一フェーズ。
スペード――能力、???。
夏色まつり――能力、???。
アキ・ローゼンタール――能力、???。
赤井はあと――能力、???。
夜空メル――能力、???。