5期生は中央エレベーターが目的地だ。
この4人は、まだノエルが石を回収していることを知らない。
無い石を眼にして、初めて無駄な行動だと知れる。
「ねえおまるん。能力ってどうすればいいの?」
一直線に中央塔に向かう中、能力開花しないねねが、第一人者に伝授を願った。
能力と言っても、自分が得意なのは歌くらい。
その歌も、歌姫というそらがいて、まるで霞みそうで……。
「どうと言われても……とりあえず自分と言えば、なこととか浮かべてみたら?」
「うーん……自分と言えば……」
走りながら、唸る。
悩みに悩み、結果……
「金魂キラキラ金曜日?」
「もうー、やめなー」
結論が変態極まりない。
ラミィが中途半端な眼と声で返した。
確かに、ねねといえば金曜日とか銀色の魂とかBLEAC*とかだが。
「じゃあねねちゃんはあのアニメから着想を得てみるとか」
ぼたんが流石の視点で案を出す。
物の見方が違う。
「うーん……銀魂からか……」
「バカ、正式名称出すな」
お、怒られる。
「でも主人公、剣使ってるし」
「別に主人公じゃなくてもよくね?」
「まあ、そうだけど……」
逆にキャラが多すぎて誰から盗もうかと、悩むのだろうか?
さあ、そうこう話している間に、もう半分を通過した。
あと少しだ。
「ゅーっ!」
「ちょっ! だいふく⁉︎」
突如、だいふくが壺ごと逃げ出した。
今まできた道を引き返し、途中で道を逸れて何処かへと姿を眩ます。
それを咄嗟に追いかけて、ラミィもまた道を逸れる。
「「ラミィ⁉︎」」
「ラミちゃん⁉︎」
3人は、急展開に付いていけず、二人を見逃しかけるが、ポルカがハッとして走り出した。
「二人は先行っといて! こっちは何とかするから」
ポルカが後ろ手に大きく振って、小道に入って行く。
置いて行かれたぼたんとねねが、無人の大通りに佇んでいた。
「ねねちゃん、行こう」
「う、うん……」
ねねには不安しかなかった。
そしてただ、ぼたんの背後を追いかけて塔へ向かった。
*****
わためとルーナは、ココの計略により街へ逃れた。
しかし、ルーナの体力は相変わらずで、事務所まではまだあると言うのに既に立ち止まっている。
「ルーナたん、事務所まで頑張って」
わためは爆速を発動できるが、怪力はない。
体力切れのルーナを担いでは走れない。
当然一人置いて行くなんて薄情な事も……。
「わためちゃ……先帰ってていいのらよ……」
ぜぇぜぇと、荒々しく息を吐きながら、ルーナがわために石を渡す。
その石をわためは受け取り、服のポケットにしまった。
「石はわためが持ってもいいけど、置いていけないよ」
ルーナを一人残すことは、ココを一人残すことと全く意味が異なる。
「強がりじゃないのら……だから、先に行ってて」
「……」
本当に、状況を考慮した上で、ルーナは選択している。
重要なのは、石を事務所に隠すことではない。
石の行方を眩ますことだ。
緊急時にいつでもどこにでも逃げれるわためが、早くこの場から離れた方が得策だ。
わためが動く際にルーナが足枷にならないため、今この場で別れていた方がいいと、自覚がある。
それこそ、先見の明。
「……次会う時、絶対、元気に会うのらよ」
「……絶対だよ?」
悩みのタネを払拭する作戦。
ルーナの決意を前に、わためは受け入れるようだ。
過去に類を見ない、ルーナの目付き。
二人は別れた。
別れ、わためは一人、街中を走る。
目的地は一先ず事務所と設定しているが、場合によっては変更。
例えば、追われた時や、他のホロメンに出会った時。
敵を引き連れて拠点には帰られないし、もし誰かと遭遇して助けを求められれば、助けない理由はない。
能力は使わず、小走りに事務所を目指す。
「大滝!」
「っ!」
駆けるわために突如大剣が落下してきた。
危うくラム肉になる所を、スレスレの位置で回避したが、バランスを崩して転倒してしまった。
「いったたたた……」
運良く怪我はないが、追撃がさらにわために襲い掛かる。
「闇凪!」
「わっ!」
「大滝!」
「とっ!」
「絡繰!」
「まっ!」
「大滝落とし!」
「ちょっ!」
あの温厚なわためが、次第に語気を強めて、危機感を露わにする。
しかし、その癖して見事に全て回避していた。
今の連撃を転倒した状態から回避したことは正直、凄すぎるとしか表現する言葉が浮かばない。
「ふぅ……びっくりしたねぇ!」
緊張で顔の引き締まった、ゆる〜いわためが突如現れた危険と向き合う。
向かい合った危険は、巨大な一つの剣を片手に笑みを浮かべていた。
「嬢ちゃんつえーじゃねぇか。クラブの野郎といい勝負しそうなほどにな」
大剣を回し、肩に掛ける。
強靭な肉体とは言え、どうやったらあの大剣を片手で振るえるのか。
「え、ええ? そ、そうかな〜?」
敵を前に照れるなって。
「ああ……つえー羊なら、いい肉になりそうじゃねえか」
「ひぃ……こわいこわい、ねぇ?」
こんな屈強な剣士、相手にできない。
ルーナの先見の明は流石だ。
未来を知って初めて意味を知る。
「おい、K」
「ウェーンヒッヒッ、私の出番だヨ。ほうら、この通りサ」
大剣使いの合図と共に新たな危険が迫り来る。
声と共に現れたのは、人間ではなく巨大な大量の……触手?
直感、逃げろ!
「っ……!」
わためは颯爽と駆け出す。
これは対峙してはならない相手。
人間ですら敵わぬ相手。
羊には到底敵わぬ相手。
走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る走る。
逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる逃げる。
大通りを、車の隙間を、ビルの隙間を、明るい場所を、暗い場所を、人気のない世界を、とにかくどこにでも、逃げ回る。
だって、永遠に得体の知れない物体が迫ってくる。
カオスのニオイがする。
やばいまずい、やばいまずい、やばいまずい、やばいまずい。
背後から大量の触手が!
不定型の化け物が!
カオスが!
押し寄せる。
あんなもの、ただのラム肉じゃ済まない。
きっと、肉になった瞬間に、その肉が腐って、灰になって、跡形も……。
「こ、怖……っ!」
緩さも削り取れるほど、恐怖する。
どうせ死ぬなら、ぼたんに食われた方がまだマシだ。
あの触手は視覚を持っている。
だから相手の姿が見えないのに、追い続けてくる。
撒くためには、ひたすら曲がり、身を隠せ。
角を曲がり、曲がり、くねり、捻り、もう自分がどこにいるかも分からないほど小道を颯爽と駆け抜けた。
走り、走り、走り……。
息を切らして、また曲がり角を曲がって。
汗をかいて、また小道を抜けて……。
「ゅーーーっ!」
「わっ……っととっ、がっ!」
「ゅぎゅっ!」
飛び出し注意、なんて看板がないので、互いに飛び出した結果、衝突。
事故には気をつけよう……。
ではなく。
「だいふく!」
「え! わためぇ⁉︎」
「び、びっくりしたぁ……ポルカちゃんとラミィちゃん!」
偶然遭遇したのは、ポルカとラミィ。
ほぼ同時に別方向に向かった筈だが、互いに訳あって出会った奇跡。
ラミィは、今わためが衝突して壁に吹き飛んだだいふくのもとへ走り、拾い上げた。
「ご、ごめんね……?」
「いやいや、寧ろ助かりました」
「え? そうなの?」
わためもラミィの側へ駆け寄り、だいふくの様子を確認する。
が、ポルカが安堵したように笑った。
そして、軽く二人がここに至った経緯を説明した。
「そうだったんだ」
「うん。それより、わためこそ何してたの?」
「あ、そう言えば……!」
僅か数秒の丁寧な説明を聞き終え、立場が反転すると、わためは思い出す。
自分が恐怖とカオスに追われていたことを。
「……収まった?」
だが、不思議なことに、完璧すぎるほどのタイミングで、追跡を逃れた。
もう、暴れ狂う形容し難い蠢く何かは、そこにはいない。
まるで存在しなかったように静まり返っている。
その静寂に畏怖しながら、わためも二人に経緯を話す。
「じゃあ、さっきのはわためが……」
「うん」
「……これから事務所に?」
暴動の音は、ある程度近辺には響いていたようで、二人も謎の音は聞き取っていたらしい。
「いや……」
「……?」
「このまま事務所は安直だから、別の場所がいいかも」
わためは、襲撃を予測して事務所には戻らない選択をする。
確かに、事務所にいる人間が石を持つのは、単純すぎる。
あそこを拠点にするとは言ったが、正直捨てる覚悟でいるのだから。
「分かりました。じゃあ、それは覚えときます」
「あ、もう向かう?」
「ええ、寄り道が過ぎましたから」
ポルカとラミィは、ここから真っ直ぐに中央エレベーターへ向かう。
先行させた仲間が心配だ。
まあ、あの二人なら大丈夫だとは思うが。
「……」
「わため、来る?」
「おまるん……」
物憂げに見ていたわためをポルカが誘ったら、ラミィが抑えるように言う。
わためは今、行き場に迷っている。
二人と共に動けば、最悪石をどちらかにパスすることもできる。
「そうしようかな」
まあ、もし何かあれば、わためが真っ先に逃げるだろうが。
三人は、中央塔へ向かった。
また、遠くで少しだけ荒々しい音が響いたが、やがて止む。
わためは、酷く聞き覚えのある音で、不安に駆られていた。
「ルーナ先輩が気になりますか?」
「……うん」
約束して置き去りにしたとは言え、どうしても杞憂で済むとは思えない。
この音も、もしかすると……。
そう考えるだけで、羊でも鳥肌が立つ。
「無理にこっちに来なくても……」
「いや、ルーナたんのとこに戻ったら……別れた意味がなくなるから」
「……」
信頼と約束破り。
それだけは、引き起こしたくなかった。
「ねえ、あれって……火事?」
「以外に、見えねぇな」
「……」
天を衝くタワーの麓付近。
そこが赤く光り、周囲の空気がゆらゆらと揺らめきながら、黒煙を上げている。
本物の火事を目にしたことはないが、テレビで見たところ、あんな感じ。
「フレアの仕業……なんて規模じゃないな」
あの範囲は、フレアの火力を上回っている。
完全に炎特化型の魔法だ。
三人の目が、赤く揺らめく。
「……ぼたんちゃん! ねねちゃん!」
わためが、遠く正面に二つの影を発見し、素早くかけた。
出遅れて、速度も遅れて、ポルカとラミィも。
「何があったの⁉︎」
わためがぼたんにそっと触れながら、尋ねる。
そう……。
二人の服は一部が焼け、顔には煤や埃をつけ、一部に火傷を負っている。
加えてぼたんは、脚を捻ったのかねねの支え無しには碌に歩けないようだ。
そんな、大怪我のぼたんに、わためは尋ねた。
ねねには……尋ねづらかったから。
「どうしたの!」
遅延した同期の言葉も、さらに二人に降りかかる。
「ごめん、失敗した。けど大丈夫、気にしないで」
ぼたんは見た目以上にスッキリしており、切り替えも早い。
石の獲得には失敗したが、案ずる必要はないと。
「ただの失敗でなんでこうなんの? 何があったの!」
ただの失敗では説明がつかない。
責め立てる気はないが、知らずには先へ進めない。
「あたしがバカやって、敵の罠にかかったの」
「ちがう……ねねが……ねねが、何もできなかったから……っ」
「そんなことないって、ホントにねねちゃんは悪くないから」
「ご、ごめんっ……。ごめん……!」
身体的に傷付いて怪我をしたぼたん。
精神的に傷付いて涙を流すねね。
二人が罪を取り合う。
「おまるん!」
ラミィが、熱気と冷気を放ちぼたんとねねの脇を通り過ぎる。
「待ってラミちゃん!」
それを止めたのは、他でもないぼたん。
流石に誰もが驚愕した。
「石はなかった。多分敵も持ってない」
ぼたんは聞いた。
敵が、石がないことを嘆いていたその声を。
だから分かる。
今、中央に石はない。
「行くだけ意味がない。それよりもみんなで戻ろう」
判断力が最強クラスのぼたんの意見は、誰もが聞き入れて然るべき。
この場においても、様々なものを守るためには聞くべきだ。
だが……聞き入れると、守れないものがある。
「ししろ、もはやそう言った話じゃないんだよ、これは」
ポルカが、そっとぼたんの肩に手を乗せた。
その、反対の手には、ステッキが握られている。
「わため、色々ごめんだけど、やっぱりこの二人と一緒に事務所に」
「……分かった」
「それからねね」
「うん……」
「自分だけだぞ、そんなこと思ってんのは」
「……ぅん」
「ほら、おまるん!」
「分かった!」
「まって!」
また、ぼたんが呼び止める。
今度は何⁉︎
「……敵は業火を操る。気を付けて」
「……」
「ふっ。なあししろ、ちょっといいか?」
「……」
「じゃあ、任せたぞ、三人とも」
ポルカは、ぼたんに何かを耳打ちしてラミィと中央塔へ走った。
いつしかの雪辱を晴らしに。
作者でございます。
ねねち、おたおめ!
さてさて、いよいよどのメンバーも分散してきましたが、この先戦況はどうなるでしょう。
らみまる、ししねね、ししわた、わたねね……。
そして姫はどうなった?
事務所は本当に無事なのか。
次回は二期生場面。
そしてその次からは、ついに第二ラウンドへ。
まあ、ご期待を。
ではまた。