歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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48話 長所

「待ってよシオンちゃん」

 

 箒を手に事務所を出ようとするシオンを、あくあが呼び止めた。

 シオンは軽く帽子に触れた後、あくあの方へ振り返る。

 

「ん、何?」

「せめてどこに行くのかくらい教えてよ」

 

 2期生で、この拠点に残って防衛に回ろうと、一応予定していた。

 なのに突然、嫌な予感がすると言って出て行かれては堪らない。

 きっと凄い考えが、彼女にはある。

 でも、せめて行き先くらいは知りたい。

 

「じゃないとまた……」

 

 また、あの時みたいになったら……。

 

「……決めてない」

「え、どういこと?」

 

 折角答えてもらっても、理解できない。

 まさか、無策?

 

「行く場所は決まってないってこと」

「じゃ、じゃあ何しに出ていくの?」

「ほら、やっぱり結局それも聞いてくるじゃん」

 

 先程、せめて行き先だけと、そう言ったのに。

 結局全て話したら、意味ない。

 

「……分かった」

「何が……?」

 

 繋がらない返答にシオンは眉を寄せた。

 

「あたしも行く」

「は? 何で?」

「何するのか教えてくれないなら、自分で確認する」

「危ないから」

「やっぱ危ないんじゃん! なら尚更……」

 

 自覚はある。

 シオンはあくあよりも、断然強い。

 同じ状況でも、危険度は異なる。

 

「……」

 

 無視して行っても、あくあはシオンについて来られないため、問題ない。

 だが、もしあくあがシオンを追って独り身で街に繰り出せば、余計に危険。

 何故自分がここを離れるのかを考えるのなら、もう連れて行くしか……。

 

「……分かった」

 

 こんな時、仲の深い友人って、ほんと困るよね。

 お節介でさ。

 ま、助かってるけど。

 

 あくあの顔がぱぁっと明るくなった。

 お互いにお互いの事好きすぎぃー。

 

「でもその代わり、指示に従って」

「まかせんさい!」

 

 何の自信だろうか?

 

 シオンは事務所を出て、箒にまたがる。

 背後には、陰キャップを被ったあくあも。

 二人はそのまま、どこかへ逃避した。

 

 

 

 その様子を、医務室の窓から眺めていた三人。

 ちょこ、スバル、あやめ。

 部屋の明かりはつけずに、小さな照明器具で明かりを確保して話し合う。

 

「シオンの考えは多分、余でも理解できないから」

 

 あやめは遥か彼方へと飛び去った、シオンだった光を見つめて呟いた。

 

「だよな……」

 

 スバルは瞳に影を落として頷いた。

 ちょこは懐中電灯を使いながら、医療体制を簡単にだが整えている。

 よく見えないが、ガサガサと音だけは響く。

 

「気になるなら行ってもいいわよー」

 

 その雑音の中から、ちょこの声が届く。

 スバルの目を見ていたかのようなセリフだった。

 

「は? 別に気には……いや、してるけどさ……」

 

 壁に寄り掛かっていたスバルが素早く身を起こしたが、すぐに脱力して肩を落とす。

 集団行動とは言え、不安因子は大量にある。

 特に仲の良いメンバーは、弱点もよく理解しているため、永遠にその疑念は尽きることはない。

 

「スバル一人で行ったところで――」

「あやめ様も連れてけば?」

「そしたらちょこ先が大変だろ」

 

 優しさには感謝するが、ここが陥落したら……

 

「別に良いんじゃない? ここ、潰れても」

「「……」」

 

 正直、三人ともそれが頭に過ぎった。

 

「簡易的な医療セットはちょこが持ってるし、重症患者も能力で何とかなるから」

「……確かに、わざわざ避難場所がここである意味はないかもしれない」

「いやでも、集合場所がいるだろ? 怪我した人がどこへ行けば良いのかとかさ……」

 

 迂闊には選択できないことをスバルは提言した。

 ここを捨てるにしても、突飛な行動だ。

 守れるに越したことはないのだから。

 

「そもそも、シオンの目的も分からない中で動くのは危険じゃないか?」

「……いや、でもシオンはここにいない方がいいと思う」

「そうよね……」

 

 シオンがここの防衛のために場を離れたのなら、それこそ捨てられない。

 だが、そんな可能性、発言者のスバルですら考えていない。

 もしそうなら、言うはずだ。

 言わないことに利益がない。

 

「ちょこ先生がいるからって理由で2期生をここに置いたけど、正直、余もシオンも中では充分腕が立つ方」

「同じ持ち場に固めて置くのは、勿体ないよな……」

 

 そんな理由でシオンが動いたわけではないが、結果としては良かったのかもしれない。

 あくあまで付いていくのはシオンとしても誤算だったろうが。

 

「でも、だからって簡単に捨てる事は……」

 

 容易に決断できない事態に陥っている。

 事は重大。

 棄てて占領された拠点に、誰かが戻ってきてしまったら?

 それこそ崩壊が近くなり、勝機は薄れる。

 危惧すべきは他にも山ほど。

 特に実力に自信のないスバルは、強い決定権を持てない。

 

「賭け」

「……は? なんて?」

「賭けだよ、賭け」

「あやめ様?」

 

 暗がりの中、窓のそばへ歩み寄り、黒い夜を眺めるあやめ。

 薄い月明かりに瞳を輝かせる。

 

「まだ余たちは敵という存在を一度も確認していないけど、間違いなく闘い慣れした屈強な戦士のような者たち」

「……そうね」

「そんな強敵相手に、逃げ道のないこの裏世界」

「言ってしまえば絶望的だな」

 

 文字通り明かりの少ないこの世界に囚われている。

 

「みんなで寄って集って全力を出して、必死に頭を使っても、まだ敵わないと思う」

「……あやめやシオンならまだしも、スバルやちょこ先とかはな」

「否定できないわね……」

 

 悔しいが、実力差だ。

 

「余たちにもう一つ必要なもの、それが、運」

「運……か」

「それで『賭け』と?」

 

 あやめは最後、そっと頷いた。

 瞳の揺らぎで、その行動が首肯だと判断できた。

 

「『ちょこ先生を置いてこの場を離れてもここが陥落しない』に賭けて、余とスバルが街へ繰り出す」

「賭け事に勝てる運をここで発揮するってことか……」

「因みに、もし、失敗したら?」

「……宝くじは、当てたいから買うよね?」

 

 失敗は眼中にない。

 心のどこかで信じてなければ、賭け事なんてしないし、乗らない。

 

「そんな言い方すんなよ……退きにくいだろ」

「ホントに――」

 

 姿はよく見えないが、困ったもんだと、声で表情が見えた。

 多分呆れ顔だ。

 でも多分、苦笑している。

 

「ちょこ先」

「スバル」

 

 二人は盲目状態でも見つめ合い、意思疎通を図る。

 どうやら、できたようだ。

 

「それじゃあ、早速動こうか」

「そうしよう」

 

 あやめとスバルは特にない準備を即座に終え、そそくさと一階へ降りていった。

 

「……そういえばスバルって、能力あるの?」

 

 1人残ったちょこは、独り言を呟いた。

 スバルは気掛かりで助けに行きたい、と内心が漏れ漏れだったが誰をどう助けるつもりだろうか?

 囮役でも買って出るのか?

 

 まあ、そこは信じて任せるとして……。

 ちょこは窓際で外を眺める。

 事務所入り口を見下ろし、二人が出て行くところを見届けるために待機。

 

「……」

 

 一向に出てこない。

 まさか、別口を使った?

 いや、でも、意味ある?

 

 待てども待てども誰も出てこないことに不自然さを覚え、ちょこは一瞬焦燥感に駆られた。

 

「……」

 

 まあ、あやめがいて妙な事は起きないだろう。

 スバルも頭は良く回る。

 策があるのかもしれない。

 

「ちょこ先!」「ちょこ先生!」

 

 突如、廊下から大声で呼ばれた。

 弾けるようにちょこは飛び出す。

 

「トワ様⁉︎」

 

 スバルがトワをおんぶして、更にその背後をあやめが支えていた。

 トワは意識は有るものの、四肢を捻って自力で歩けなくなっていた。

 

「治療頼む」

「早くベッドに」

 

 ちょこは先駆けてベッドへ。

 そして簡単に医療具を用意すると、そこへトワを寝かせる。

 

「……何があったの?」

 

 片腕に手を翳し、淡い光を放つちょこが静かに問いかけた。

 

「降りたら事務所の入り口前におったんよ。手を動かせないから扉を開けなかったんだって」

「他のみんなは?」

「……さあ」

「さあって……」

 

 トワの苦々しい表情が映る。

 そう、治療のために、この場だけ少し強めの照明をつけている。

 だから映る。

 

「襲われて、みんなを逃すためにココが残って、他のみんなはバラバラ……だから分からん」

 

 口調こそ普段通りでも、その声の震え具合から、内心は読み取りやすい。

 片腕の治療が終わり、片脚へ。

 

「……あやめ」

「うん」

 

 二人が決意の視線を交わしたが、それを見兼ねて――

 

「助けに行っても寧ろ邪魔になる」

「どうして?」

 

 スバルが感情論を持ち出そうとする前に、ちょこが冷静に問い返した。

 

「重力師だった……。だからココ以外は力不足で立つことすらできない」

「…………」

「……そう」

 

 スバルもあやめも押し黙る。

 ああ、無理だ、それは、確かに。

 あやめでも。

 

 片脚が終わり、反対側へ回り、あとは片腕片脚の治療。

 

「……シオンちゃんとあくたんは?」

「イヤな予感がするって出てった」

「ふーん……で、二人はどこに行こうとしてたん?」

 

 まず間違いなく気づくよな。

 

「丁度どっかの応援に行くつもりだったとこ」

 

 あやめが横目に窓の外を一瞥して答えた。

 案外、脳内では行動手順が纏まっているのかもしれない。

 そう思ったから、トワは、

「なら、いいよ。行ってきて」

 と、二人の外出許可を出す。

 

「いや、でも流石に今は――」

 

 と、スバルもあやめも、負傷したトワを見て躊躇する。

 そうなるだろうと思っていた。

 だが、よく見ろ。

 

「ありがと、ちょこ先生」

 

 トワは何事もなかったように上体を起こした。

 ちょっと腹筋が痛い。

 

「待って、あと擦り傷とかを軽く手当てさせて」

 

 こんな風に、もう完治する。

 

「――はやっ」

 

 驚異的速度。

 これこそが、ちょこ先生が得た能力――人体干渉、だ。

 生物の傷口や患部に触れる事で、干渉できる。

 魔法の使用は限りあるが、それでもちょこがいれば医療問題は解決する。

 そして、もうトワは動ける。

 つまり――

 

「トワが残るから、どうせ向かう当てもないし」

 

 他の誰がどこにいるか、正直分からない今、トワは直感頼りで動く気にはなれない。

 いや、正確には、そんな直感がスバルやあやめほど強くない。

 誰かをここに残すなら、トワが最善だ。

 

 初めは渋っていた二人もすぐに決断した。

 行動を起こすなら、早めに。

 でないと、手遅れになる。

 

 二人は、今度こそ事務所を飛び出して行った。

 トワも、擦り傷切り傷の手当てをしてもらった。

 

「こっちは普通なんやね」

 

 複数貼られた絆創膏を見てトワが笑う。

 小さな傷は、魔法を使うだけちょこの負担が大きく、マイナスになる。

 怪我を治す代償に、さらに大きな傷を負うのはナンセンス。

 しかも、ちょこはまだまだキーとなる。

 

 絆創膏付近は少し濡れている。

 傷口を水洗いしたからだ。

 消毒は一部の免疫も殺すと言われており、あまり良くないらしい。

 唾つけるのは当然、口内の菌を移すことになる。

 結局、水流しからの絆創膏が古典的ながら、最も効く。

 

「……二人は、どこに向かったのかしら」

「さあ……ゲーマーズのとこじゃない?」

「……やっぱり?」

 

 あの二人が、ゲーマーズの中に加われば、OKFAMSの完成だ。

 もし小説や漫画内の戦いなら、それは所謂、アツい展開。

 

 ただ、果たしてこの戦乱の中、真っ直ぐ展望塔に辿り着けるだろうか?

 

「まあいいや、ちょこ先生なんかやることある?」

「いや、何も」

「うそやろ⁉︎」

「することなんて何もないわよ」

 

 怪我人なし、この場を離れる必要なし。

 することも、できることもなし。

 いつもなら、ベッドに突っ伏して寝るような暇さ。

 

「トワもどっかの助っ人行こうかな……」

 

 現状打破に貢献できないことが不満となり、トワはそんなことを言い出す。

 本心と冗談、半々といったとこだろう。

 

「じゃあ何か防衛体制をテキトーに整えておいてもらえる?」

「んな雑な……」

 

 その防衛は意味をなさないと、既に切り捨てている。

 まだ何もしていないのに。

 しかし、することもないので……。

 

「まあ、折角やし動くか……」

 

 面倒臭そうに立ち上がるトワ。

 ちょこは医療器具を片付けていた。

 

 

 そんなこんなで、約5分後。

 

「誰かー!」

 

 廊下からいつもは緩いはずの声がした。

 トワとちょこが足並みを揃えて廊下へ飛び出すと、そこにはぼたんを抱えたわためとねねの姿があった。

 わために外傷はないが、ぼたんは確実に歩けないし、ねねは何故か顔が泣き枯らしたように赤く腫れている。

 

「トワ様!」

「わため!」

「じゃなくて……ちょこ先生、ぼたんちゃんを」

「早くこっちへ」

 

 奇跡の再会に驚愕するトワとわため。

 けれど今はそんな感情はどうでもいい。

 負傷者の手当てを。

 

 的確に感情を整理して、わためがねねとぼたんをリードしてベッドへ。

 

「待って……」

「どうしたの?」

 

 速やかな治療が求められる中、何故かぼたん自身がちょこに待ったをかける。

 ちょこの疑問に合わせて、ほぼ全員が首を傾げた。

 

「……治療ってどれくらいかかりますか?」

「脚だけなら……5分も要らないけど……」

「…………えっと、すんません、お願いします」

 

 素直にぼたんは体を寝かせた。

 ふぅっ、と息を吐いて、軽く気持ちを抑えた。

 

「獅白ぼたんが怪我するなんて珍しいじゃん。どうしたん?」

 

 まさか、触れてはならないとは思うまい。

 うっかり話題にしてしまったトワ。

 誰もトワを咎められず、ただ、真実を答えるしかなかった。

 その間に、ちょこが能力をかけていた。

 

「中央塔に行ったら、襲われた」

「……それだけ?」

「そう」

「……違う」

「違わないでしょ」

 

 簡潔すぎて何の説明にもならない話に、ねねが口を挟んだ。

 すると、ぼたんが少し強めに反抗した。

 

「ねねが……ねねが何もせずに見てるだけだったから……」

 

 暗闇で俯くねねの顔は、全くと言っていいほど見えない。

 それで空気が重いのか……。

 確かにそれなら、ぼたんの説明に誤りはない。

 だが、ねねが自分に不満を持つことも理解できる。

 

「ねねちゃんは悪くないでしょ……?」

 

 わためは既に事情を聞いていたのか、ねねにそんな温かい言葉をかけた。

 

「そんなことない、だってまだ……」

 

 能力を得られていない。

 いや、能力がないのは普通だ。

 頭を回転させても何も出ないし、地の実力もない。

 全く役に立てない。

 

「ああもう! じゃあそれでいいから!」

 

 ぼたんが少しだけ声を張った。

 視線がぼたんに集う中、ねねだけは何かに怯えて萎縮した。

 

「ねねちゃんが悪かった。でもだからどうするの」

 

 極論、誰が悪かろうと、どうだっていい。

 肝心な事は、その次なる手だ。

 

「誰が悪くてもいいけど、もし自分がダメだったと思うんならせめて――! せめて、自分にできることを自分なりに探しなよ……」

「そうだけど……」

「おまるんにも言われたでしょ……」

 

 遠回しすぎて、まるで誰にも伝わらないあの言葉。

 5期生内では伝わっている。

 

「それに……諦めの悪さは『長所』なんじゃないの?」

 

 自分の得意なものに乗せられたセリフ。

 あれは一体誰の曲?

 その曲に含まれるそのフレーズは、どんな意味がある?

 

 語気の強まったぼたんと、静寂に包まれる室内。

 そして、喧騒に包まれるねね。

 

「――――っ!」

 

 ねねが部屋を飛び出した。

 

「ねねちゃん!」「ねね!」

 

 トワとわためだけが、叫んだ。

 

「……トワ様、お願いしてもいい?」

「ホンマに手のかかる後輩だわ」

 

 ぼたんが少しだけ目を伏せ、語気を弱めてトワに頼む。

 トワは満更でもない様子でねねの後を追った。

 

「ぼたんちゃん……」

「…………」

 

 わためがそっと柔らかい声でぼたんの名を呼ぶが、反応はなかった。

 

「はい、治療は終わり」

「……ありがとうございます」

 

 ちょこの相変わらずな声にいつもの調子を少しだけ取り戻す。

 するとぼたんは、早速ベッドを降り、廊下へ出ようとする。

 

「待ってぼたんちゃん、そんなすぐに動いたら……」

「……じゃあ、わためぇ、ちょっと付き合ってよ」

「……どこに行くの?」

「屋上」

 

 ぼたんはわための通せんぼをすり抜けて屋上へ向かった。

 その途中で自分のデスクに少しだけ寄って……。

 

 

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