「ウェッヒッヒッ! 逃げます、逃げます、其の少女」
歪な存在、ネームはK。
遠方の何かを延々と触手を操って追いかけているようだ。
「すばやいネ、すばやいヨ。実にユカイ。ユカイツーカイ、気分はソーカイ」
正体不明が、存在不明を追いかけ回す謎の構図。
誰を追っているのだろう?
その様子を、こっそり見ていた少女は、心拍数を上げて身を潜めていた。
「……な、何なのら」
わためを先に事務所に送り、後で必ず元気に会うと約束した少女。
我らが姫、ルーナ姫。
極力息を抑えて、そっと経過を見張る。
「誰かを追ってるのらけど……まさか……」
場所とタイミング。
ルーナの脳裏によぎるのは、最悪の状況。
わためなら、逃げれるかもと踏んでいたが、コイツ、明らかにヤバい。
「とっくに幕開けるノサ、楽しいゲーム」
周囲に人はいない。
独り言……?
何とも気味の悪い。
「ヒッヒッヒ、お楽しみクラブにご招待」
Kは不可解な笑い声をあげている。
「…………」
ルーナはさらに息を潜める。
「……んや、逃げたほうがいいのら」
わためとの約束を今一度想起した。
元気に会う。
その約束を。
見えない人を気にするよりも、自分を優先しよう。
ここでルーナが囮を買ったら、別れた意味がない。
「……よし」
ルーナは足を動かした。
この場を退散するために。
「羊も中々早いのネ」
「……」
自分に力なんて無いのだけれど、力が漲った。
退散するために歩み始めた足は、Kの背後を取るために駆けていた。
大量に蠢く触手。
わためと思われる逃亡者に気を取られ、完全無防備な背中。
ルーナは拾い上げた鉄パイプを、全力で振りかぶる。
「おらぁぃ!」
ゴンッと、鈍い音に合わせて、Kの頭が取れるように傾く。
前方に首が折れ、到底生きれるとは思えない様な有様となる。
触手も、蠢く物も、動作が止まり、全てが枯れたように散ってゆく。
沈黙と静寂。
ルーナは鉄パイプを捨ててその場を退散した。
「……世界が回る」
Kの声がした。
「回るよ世界……」
ヤバい。
咄嗟にルーナは物陰に身を潜めた。
逃げたかったが、なんせ道が一本道で、見通しがいいから。
建物や看板の影に隠れる他、視界から外れる術がなかった。
「世界を回すのだあれ?」
Kの首が360度回転し、周囲を確認した。
そう、首だけが回った。
「ひっ……」
物陰から見たその姿が、気持ち悪く、ルーナは怯えた。
その恐怖で、一瞬、足が竦んだ。
「おい、どうしたんだよK」
そこへ、別の男が姿を現した。
ガッチリとした体格の、Kより剛腕そうな男。
「驚きました、突然に。首が折れてさあ大変」
「もっと警戒しとけっての。んで、まだこの辺にいんのか?」
文章構成が論外な話し方を正しく汲み取り、大剣を持った男が周囲を見回す。
「逃げても近く、逃げずとも近く、まだまだ時も遠くなく」
「おーけー、なら俺はちょっと離れて探すぞ」
Kの言葉で意思疎通できるのは、長年の付き合い故か。
ある意味暗号だ。
大剣男はどこかへ行ったが、Kが未だに近い。
ルーナはこの場から動けずにいる。
呼気が、律動が、分かる。
自身の動揺が、分かる。
動けない。
(なんで殴っちまったのら……)
そんなの当然。
わためと思われる逃亡者を護るため。
(自分のこともままならねぇのに……)
だって当然。
仲間を守るため。
「すぅ、はぁ、すぅ、はぁ、乱れる呼吸。感じる、ます」
Kがまた、独り言を呟いて……
「罪人くん、ボクのこころを受け止めて」
ほっ、と掛け声に合わせて、触手のような塊がルーナの下へ襲い掛かる。
真正面から、迫り来るカオスにルーナは見事反応した。
バッと道路に身を投げ、華麗に回避した。
「んなぁぁーー!」
ルーナも逃げた。
見つかった以上、隠れる隙もない。
「ハーハッハッ、キミもソナタも、逃げ逃げる」
蠢く半生命体の暴走。
ルーナの貧弱な走力を追う、Kの能力。
当のKはどんな仕組みか宙に浮いている。
ルーナには見えないが、背から伸びる触手が地について支えている。
つまり、触手を脚に高みから見物。
その形容は、気色悪いと言えよう。
「いやあぁぁぁ!」
あんな半生命体に触れられたくない。
女性としてでなく、生物として心から思う。
「遅いようだなプリンセスガール。我にかかれば、なんのその」
太い触手に細い触手。
全てが迫り、ルーナを捕捉する。
幾度か巨大な触手が叩き潰しにくるが、機動力には優れておらず、それらは何とか回避した。
だが、小さな触手は動きが素早い。
一つ一つの殺傷能力こそないが、簡単に追いつかれ……
「いやっ!」
足を掴まれた。
そのまま引き摺られ、宙吊りにされる。
「私の心、目覚めるます」
足掻けど藻掻けど、ルーナを縛る枷は外れない。
それに、今もし外れたら、地に落下して、痛いですむか……。
「ひっ……」
大小様々な触手が、ルーナに向く。
その恐怖。
あの重力師に石を渡せと迫られたとき以上。
わために先に行けと言った自分のバカ。
友のために命を賭した自分のバカ。
後悔で、命は救われない。
「百火・不知火」
もしそれで救われたのなら、それはただの奇跡。
「んなああああ」
突如降り注ぐ火矢の雨が触手を焼く。
焼け千切れ、ルーナは地へと真っ逆さま。
それを勇ましくキャッチしたのは、街を駆け回っていたハーフエルフ。
「こりゃ大変、さあ大変。自由の世界からお出ましサ」
燃え盛る炎が身を焼かぬよう、Kは触手との接合部を切断し、地に骨折しながら飛び降りる。
「怪我は無い?」
脚に怪我が無いか配慮しながらそっとルーナを下ろす、そのかっこよさ。
何かに熱くなっているようだ。
「あ、ありがとう……なのら、ふーたん」
不知火フレア。
それが、ルーナを助けた者の名だ。
「ウェーンヒッヒッ、楽しいネ、楽しいヨ。一人と遊んだその後にゃ、他の二人とも遊べるサ」
不可解な笑みを浮かべている。
辺りがカオスに包まれる。
「ねえルーナちゃん、ノエル見なかった?」
「え……? み、見てねえのら……」
「……そっか」
ずっと探し求めている大事な仲間。
内一人。
ここにフレアが居るのも、探し求めて辿り着いた結果。
振動と騒音に惹かれて来れば、今に至る。
「ルーナちゃん、ここはあたしに任せて」
「……」
どうしよう……。
また……。
ココに続いてまた……。
護られるのか……。
「我を恐れよ、何でも出来るぞ」
Kが笑って触手を暴れさせる。
多方向から押し寄せるカオス。
「逃げて!」
「っ――!」
フレアがいくつもの触手を焼き尽くさんと火矢を放つ。
それでも、圧倒的な質量が襲いかかる。
しかも、非道なことに、全てがルーナを狙っている。
焼けども焼けどもルーナとの距離は詰まる一方。
「いだっ!」
ルーナが触手に足を掛けられ転倒した。
そこに、いくつもの触手が追い打ちを掛ける。
焼いても焼いても、伸びる触手が……。
バシュッとルーナの近くで音がした。
恐る恐る視界を開けば、フレアの大きな背中があった。
「早く……」
フレアが片手で触手を掴んで押さえ込んでいるようだ。
声を出せないほど力んでいる。
今、ルーナに意識を向けられない。
それが、強く出ていた。
ルーナは再び起き上がり、奥歯を噛み締めて走り出した。
「陽炎」
道を覆う、炎の壁が出来上がった。
「ハッタリ炎など、意味なしサ」
Kはフレアの張った偽の壁を臆することなく、幾つもの触手をさらにルーナへと伸ばす。
それをフレアは動かず、振り向かず、手で掴んだ触手を離さず、矢で射抜く。
が、焼き切れず、ルーナへ届いたその触手が、串刺しにしてしまう。
「こりゃあまあ、ビックリだねぇ」
串刺しとなったルーナが、炎へと姿を変えた。
「何人たりとも……ぅっ……不知火に近寄ること、叶わず」
得意の身代わり術だ。
ルーナは丁度、角を曲がり、もう姿は見えない。
もう、追えまい……。
「追いましょネ、プリンセスガール、また、追いましょネ」
Kが標的を全て無くしたように空を見上げた。
すると、シュルシュルと触手が引いて、消滅してゆく。
フレアは力無く、その手を離した。
「ぅっ……」
バタリとその場に倒れ、動けない。
腹からの出血が酷い。
……そうだ、フレアは手で触手を受け止めたのではない。
腹で受け止めたのだ。
その、腹に刺さった触手を抜けないように手で押さえ込んでいた。
それが外れると、大量出血は当然。
意識が朦朧とし、立つどころの話ではない。
「待て……!」
地の冷たさと血の熱さを肌で感じながら、フレアは声を振り絞った。
「死人に構うのは、死人の役目。ボクも私も、我らはさらばサ」
フレアの横を素通りし、軽やかな足取りで道を進む。
死人?
ああ……もう死ぬからか。
でも、死にたくない。
いや、死ねない。
やりたい事も、やらないといけない事も、いっぱいある。
それに……!
……あれ?
何だか少し、あのゲームに似てるかも……。
あたしは結局、能力なんて手に出来なかったけど、もし……。
もし能力でない力でも、手に入るなら。
ここであたしは、あの「ヒーロー」みたいに、立ち上がりたい。
「待て!」
「おやあ?」
フレアは立ち上がった。
顔面蒼白だというのに、元気溌剌としていた。
出血も目立つ。
「何があっても、必ずあたしが、お前を……!」
フレアの身が、炎のような光に包まれた。
まるで靄がかったように身が霞む。
霞の中に、確かに姿があるのだが、少しずつ、見た目が変わって行く。
それが本当に、どこかで見たようで……。
「さあ、お前の本気を見せてみろ」
何処からともなく、カッコいいBGMが流れてきそうなセリフを吐き、フレアは開眼した。
オーラを覇気で吹き飛ばし、その正体を表す。
今までとは違い、右手に掴んだ獲物は、弓ではなく槍。
火の槍だ。
「キミもなかなかやるもんだねぇ」
Kは再び触手を伸ばす。
どうやら、敵と認識したようだ。
「……」
今日はステキな日だ。
花は咲いていないし、小鳥1匹囀っちゃいないが、こんなステキな日はこいつみたいな奴は……。
そう……。
「ここで燃えろ」
フレアの闘志は最高潮。
変身した時、傷は何処へ行ったのだろう?
熱いも熱い。
熱すぎる。
「業火の
大量の槍が空中からKを囲う。
物量で攻めるタイプ。
避けられない。
Kはその炎槍の悉くを浴びた。
「ウェーンヒッヒッ!」
その炎獄の中での高笑い。
その笑い声を潰すため、フレアは手の中の槍を全力で投げた。
Kの顔面を貫き、そのまま真っ直ぐ後ろの壁に衝突するまで身体を持ち上げた。
もう一度、大量の炎槍がKを囲い、その周りに突き刺さる。
そして、爆発のような炎柱が立った。
普通の生命体は灰になる猛攻。
一撃とは呼べない一撃に、このKという生物は……
「ウェーンヒッヒッ、胸が高鳴る、どうすりゃいいの!」
無傷と言えよう。
「今燃え尽きたら?」
フレアは軽快なジョークで返す。
目の輝きが違う。
「中々なことをするもんだねえ!」
「教わったから。必殺技は最初に使うべきだって」
「それは大変、カオスだネ、カオスだヨ」
「どうせほぼ不死身なんでしょ?」
会話が繋がる程度には、互いに余裕がある。
この流れ、フレアが『不死身のフレア』になって世界を救うため立ちあがるヒーローになるはずなのに。
不死身は相手。
相手は、不死身のカオスな謎生物。
「いくら私が強いとて、そうは言えぬぞファイアーガール」
「へえ、認めるんだ?」
「我が最強得るときにゃ、人類残らず滅ぶ時」
案外、謙遜型なのかもしれない。
「ボクはKで上がある。Aに上がれぬ未熟者」
自分のネームはK。
そして、彼らのネームではKよりもAの方が強い。
その事実が証明になる。
格差社会の格差を受け入れる、無駄に誠実な奴だった。
Kの触手が暴れ回り、周囲のビルの窓ガラスを割った。
そのガラスの破片が腐蝕し、原型をとどめなくなる。
そこから立ち込める空気。
腐ったガラスのニオイがする。
「キミの敗北は確実サ。必殺技が効かぬなら」
大量の半生命体がフレアをターゲットとして捉える。
対面する、フレアの目に迷いはない。
「あんたには101%勝てるだろうね。誤差は1%ってところかな」
ホネのニオイも、スシのニオイもしないけど……。
くろいかぜがないている。
サイアクなめにあわされるよかんがする。
フレアが、炎槍をKに突き付けた。
「ここからが本番だ」
ノエルを探すつもりが、仲間のために立ち向かうこととなった。
フレアはこれより、何時間かけたとしても、サイアクを乗り越えていく。
どうも、作者です。
いや〜、ライブ、最高でしたね。
なんて余韻に浸ってたら、もうこんなに時間が経っていました。
夢とは一瞬なんですね、悲しい。
何度もアーカイブ見ましょうか。
あ、すいちゃん、おたおめ!
さて、今回はフレアちゃんと言うことで、小ネタはアンテとデルタです。
小ネタとかの規模じゃないので今回はガチでやばいかも。
では、また次回。