熱い、冷たい、熱い、冷たい、熱い、冷たい……。
ただそれだけだった。
目の前で、燃え盛る劫火と、吹き荒ぶ大雪。
どっかの大将同士の戦いのようだ。
「ああ、冷たい冷気だな。俺の熱い熱気と張り合うなんて」
「冷たい……冷気? 熱い……熱気?」
境界より冷気寄りのポルカは敵の言葉に首を傾げた。
「あなたが、ししろんとねねねに手を出したの?」
ラミィは冷気を放ちつつも、まだ手は出さない。
ここで先手を打てば、有利だが、それだとやっている事が、コイツらと同じだ。
やられたらやり返す。
それは正しい事ではない。
コイツらを攻撃するのは、あくまでもこの世界を救い、この裏世界を脱出するため。
決して、私情などない。
「誰の事? もしかしてちょっと前に来た二人組?」
多分それだ。
「手を出したって言ってもねー、オレも仕事だし、ちゃんと危険が危ないから離れろとは言ったよ?」
「危険が……危ない?」
「まあ、自分の力を過信し過ぎた結果だよね」
「過信……し過ぎる?」
ポルカが、都度都度首を傾げる。
コイツは多分アレだ。
頭が悪い。
「そうかも」
ラミィは首肯した。
ぼたんは自分の失敗だと言っていた。
過信していたかは別としても、多少の驕りがあったのかもしれない。
「まあ、一人は勇敢に向かってきたけど、もう一人はただ真っ直ぐ直立してただけだし」
「真っ直ぐ……直立?」
「ほんと、弱いのに何しにきたんだかね?」
ほう?
そんな事言っちゃうんだ?
「色んな意味で脳みそが足りてなさそうだな」
ポルカが珍しく少し悪口を言った。
脳みそが足りない、とは、文法的にも、ねねのことに関しても。
「ねねがいないとししろが無事に戻ってこれなかったし、お前に立ち向かわなかったのは弱いからじゃないぞ」
よっ、さすがポルカ。
「いやいや、あれは弱者の人だよ。オレには見なくても分かる」
「弱者の……人?」
「キミさあ! さっきからなんなの⁉︎ オウム返しばっかりして! 全く失礼だぞ!」
「いやいやいや、お前のそれがおもろいから。一応言っとくと、熱い、冷たい、危ない、し過ぎる、真っ直ぐ、の人、は意味が重複してるから」
「……は? あ、分かった、そういう事か!」
一瞬歪んだ顔がパッと明るくなる。
意味を理解したか。
「つまりキミはバカだ。何故ならオレがキミの言っている事を理解できないからだ」
「うぜえ! 純粋にうぜえ!」
ポルカが朴を引き攣らせて、眉を動かす。
なんたる暴論。
正論に暴論で返すとは。
もはや指摘の意味もない。
「おまるん! そんなのはどうでもいいの!」
「そ、そうだね……」
ラミィに注意される。
気になるのは痛いほど分かる。
だが、時と場合を考えよう!
「さて、それじゃあ、始めようか? あ、因みにオレ、レッド」
熱波が街を襲う。
「ラミィたちがあなたを相手にするのは、裏世界を出て、いつも通り配信やアイドルするためで、私情なんかないけど言わせてもらえば……」
かこつける、とか、言い訳、とかじゃない。
別にぼたんが怪我させられたから、とか、ねねを泣かせたから、とか、そんな事で氷漬けにはしない。
「あなたはねねを侮った。そしてラミィ達のことも」
「うんうん」
「それがあなたの敗因」
「うん?」
婉曲的……かな?
まあ、そんな感じの勝利宣言。
「ねねを甘く見たのが裏目に出て、ラミィ達は勝利を手にする」
「なーに? 予言? せめて勝ってからいいな」
「ここであたし達が負けようと、お前らの計画が失敗に終わればそれは勝ち」
「じゃあ、もしそうなった時のために、灰にしてあげる」
それでは、始めようか?
今度こそ。
「熱波烈風」
「冷気旋風」
渦巻く、冷気と熱気。
レッドの能力は烈火。
ラミィは能力なし。
……そして、ラミィは雪女でもない。
では、何故、こんなに吹雪くのだろう?
原理はフレアと同じ。
エルフは聖霊を使い、魔法を使う。
フレアがきんつばから炎のエネルギーを貰うように、ラミィもまた、だいふくがいる事によって氷のエネルギーを得られる。
だから、だいふくが逃げた時、見過ごせなかった。
一人で街を捜索させられなかった。
しかし、こんな熱気と冷気が充満するこの領域で、ポルカは大丈夫だろうか?
というのも、ポルカ低気圧敗北部。
上昇気流と下降気流の連鎖と気圧の異常変動が懸念される。
もし、一瞬一瞬で周囲の気圧が変動するほどの影響力を二人が持っていれば、ポルカは立っていられまい。
「あれ?」
ポルカがいない。
レッドの声で初めてラミィも気付くが、信頼は高い。
ラミィは直ぐに向き直った。
「知ってるかい? 氷は炎に勝てないんだよ。何故なら温度に下限はあるけど、上限はないから!」
空気の熱量が上がる。
レッドの周囲は近寄れぬ高温だ。
ラミィの冷気も絶対零度までは操れないため、対抗が非常に難しい。
「ラミィ!」
上空から声がした。
「おまるん⁉︎」
どんな技を使ったのか、少し高い建造物の屋根瓦にポルカが立っている。
そのポルカが両手で何かの入れ物をレッドに放り投げた。
目を凝らしてみればそれは、灯油入れだ。
ラミィはすかさずそれを冷凍して固める。
硬直した灯油は綺麗な放物線を描いてレッドの熱気圏に……
大爆発が起き、微かに地が揺れた。
「……参っちゃうな、これじゃあ容易に易々と熱くできないなー」
これで、傷は与えれずとも、行動制限はかけれた。
もう少し、時間稼ぎとして喋らせてもよかったが、やっぱり流れは大事だ。
「氷の利点は形がある事」
ラミィの周囲に氷塊が幾つも出現する。
鋭利な
氷の利点は形があることによる世界の広さ。
形があれば、攻防どちらにおいても様々な扱いができる。
一方、無形の炎は熱いカーテン。
熱さえ攻略できれば解決する。
まあ、行うは難し、ではあるが。
飛翔する氷塊。
そう易々とレッドは食らわない。
予想以上の軽快な動きで能力を使わずにある程度を回避。
残りは熱風で水分に変えて浴びる。
「きゃー冷たい冷水」
乙女のように叫ぶレッド。
相変わらず言葉がおかしい。
服や肌に水がかかり、染みたりしているが、それらは一瞬で蒸発した。
「なんだよ。メラメラの実か?」
ポルカがその異常性からとある漫画の能力を思い浮かべた。
それは、自分自身が炎となり、あらゆる攻撃を無視するというもの。
対抗するには、覇気を要するが、当然備わっていない。
「やめなー、危ない橋渡るのは」
ラミィの真横にポルカが降り立てば、早々にお叱りを受ける。
危ない橋とは、メラメラの方?
それとも、屋根瓦に乗る行為のこと?
間違いなく前者か。
「ごべーん、おでが悪がっだー」
「だからやめなー!」
罪を重ねるな。
確かに、日頃配信でやってはいるが。
「つまらなーい。なんの話してるかさっぱりだもんなー」
レッドは両手を頭の後ろに回して、退屈そうに体を伸ばした。
「何? もっと冷やして欲しいの?」
「暇ならポルカのサーカスでも披露しようか?」
ラミィもポルカもまだまだやる気だ。
日頃の軽快なトークを保ちつつも、戦場に赴く。
二人ならではな戦だ。
「おー、それはすごい楽しみ」
レッドの目が光った。
もはや、構文の不自然さは指摘不要だろう。
この先も割愛するとしよう。
「じゃあラミィ、作戦だけ念頭において、あとはテキトーにぱーって」
大雑把で、打ち合わせの意味がない。
けれど、分かった。
「でも……簡単じゃないよ」
そう、問題はどうやってあいつにその目的の行動を取らせるかだ。
思い通りに人は動かない。
味方はともかく、敵が指示に従うはずもない。
「そこを何とかするの!」
「はいはい」
勢いで突破するスタイル。
でも、頭脳戦は正直ポルカ任せ。
ラミィは能力に卓越しているから、その方面から叩く。
「桜吹雪」
ラミィの一声で、風が吹き荒れ、吹雪が発生する。
桜の要素が見当たらない至って普通の、少し強い吹雪だ。
「おお、これは凍結しちゃう」
レッドは凍り始めた体表に炎を纏い、氷を溶かす。
そのまま吹雪の中に立ち、平然と立ち尽くし続く。
吹雪の中、炎が立ち尽くすから、雪が煌めき、まるで桜のよう。
「例えば空から〜、車が降ってきたり〜」
空から一台の赤い乗用車が降ってきた。
レッドへと、一直線に。
「わあお、今日の天気は吹雪のち車だー!」
レッドが見上げれば、視界には車しか映らない。
車がお尻を下に落下してくる光景だ。
直ぐに退散。
真後ろ、地を伝って炎が燃え広がる。
その炎上を瞬間移動するような速度で移動し、圧死を避けた。
先程の爆発も、こう避けたわけか……。
「冬凪」
大寒波が一帯を襲う。
世界が凍りつく。
凍てつく風が、全てを氷山へと変えてゆく。
「オレにはそんな効果は効かないよーん」
体を燃やし寒波を恐れないその姿勢。
「……おう!」
レッドの右肩に切筋が入った。
服が切れ、さらに肌も切れ、軽く出血する。
似たような怪我を幾つも負い始める。
原理はかまいたちや乾燥によるひび割れに近い。
「おかしいなー、全然あったかいのにー」
切れた肌など厭わずに笑う。
「確かに、思ってた0.5倍くらい強いかも」
つまり、想像してたより弱いってこと?
こいつの言葉は一部がおかしいから、本当は1.5倍といいたいのか、本当に煽っているだけなのか区別がつかない。
「大炎界」
冬景色が、瞬く間に灼熱地獄に変貌する。
氷は全て溶け、水となり、殆どが蒸発。
一瞬で汗が吹き出し、体が熱を帯びる。
「はい、もういっちょ!」
ポルカが再びレッドに灯油を投げた。
しかし、ネタは明かされている。
爆発は避けられるだろう。
その予測通り、レッドは後ろに引いた炎の道を移動して、回避。
元いた場所が爆発して、爆炎が上がった。
曇って、よく見えない。
その煙幕に、ポルカは突入した。
煙に紛れた奇襲作戦。
「オレの耳の聴覚は凄いんだよ?」
音で接近を察知したレッドは音に向けて一筋の炎を放った。
パン、と煙幕から手を叩く音。
手袋越しだろうか、そんな、少し低い拍音だった。
炎がポルカを襲ったのは、煙幕から姿を現した直後だ。
迫り来る炎は上半身を焼こうとしている。
普通は、その辺りを狙うだろう。
だから、ポルカは派手にスライディングを決めて回避。
そして、炎が自分に移らないように、手に現出した油付きロープを炎に接触させつつ背後へ投げた。
炎は強制的にロープに燃え広がり更にポルカの接近を許す。
あと僅かの距離だが、戦闘慣れしているだけあり、レッドは足でポルカを蹴飛ばそうとする。
そこへ突如、数多の氷塊が飛散してくる。
滑っているポルカの頭上を通過して、レッドに襲い掛かるが、レッドが熱風を放ち氷を溶かす。
近場のポルカも火傷しそうだが、回避するどころか更に距離を詰める。
ポルカの背後にはだいふくがいた。
冬のオーラで纏ってあるため、ある程度の熱気は弾けるようだ。
スライディングでレッドの足元を通過。
足にロープを引っ掛けて、そのまま引くと、見事に転倒。
ポルカは急いでそこから離れる。
ロープを消滅させて、手にワイヤーを現出、適当な屋根に引っ掛けて高くジャンプすると屋根瓦に着地した。
流石はサーカス座長を目指す者。
「ラミィ!」
「分かってるって……八海山」
転倒から復帰までの間に、雪の囲いが完成する。
レッドを雪の壁、剃り立つ雪山の如く囲う。
「うわぁ! なんて巨大な巨壁。でも残念無念また来年、オレの炎渡は地上じゃなくても使えるよ!」
レッドは雪の囲いが、ドーム型でないことを突いてそらに火を放つとその火柱を伝って遥か上空へ逃げた。
まさか、空へも逃げれるとは……なんて微塵も思っちゃいない。
「折角だから、火の雨でも降らせてあげるよ」
「空へ逃げたな、チェックメイトだ!」
ポルカが右手で銃の形を作って、格好だけ、パン、と撃つふりをした。
レッドは地上へ火の雨を放とうとしていた。
「何の冗談か……!」
ピュッと、
一筋の閃光が突き抜ける。
目にも留まらぬ速さで、レッドの右脚を貫通した。
「ああああああああああああ、脚がぁ!」
みるみる落下してゆくレッド。
高度は下りに下がり、間も無く地に衝突する辺りでラミィが氷柱を作り、レッドごと固めて磔にする。
殺しに来たのではないから、死んでもらっては困る。
「なにが……」
「ウチには超腕利きのスナイパーがいるんでねー」
「す、スナイパー……?」
「あなたがみすみす見逃した、ラミィたちの仲間」
「……あいつか!」
今さら理解してももう遅い。
足を撃たれては、もう立てないだろう。
「……見てきたでしょ? オレは足がなくても動ける……」
レッドの体温が上昇し、氷柱がダラダラと溶け始めた。
「しぶといねぇ」
ポルカがやれやれと肩を竦めた。
どうやら、まだ続くらしい。
スナイパーさんにも、援護は一発限りと打ち合わせた以上、もう頼れない。
この距離での物質生成は、ポルカにも結構負荷がかかる。
「まだまだこれからが本番だよ」
凍てつく束縛を解き、レッドは右足を緩めてバランス悪く立つ。
「……ラミィ、もう援護がない」
「分かってる」
今度こそ、確実にここで落とすために、開演しよう。
雪降るサーカス、第二幕を。
小ネタ。
ラミィちゃんの技名は、実在する日本酒の銘柄です。
但し、配信で飲んでいるかは確認してないので、多分飲んでないです。