歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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52話 消えた猫

 

 一人の少女が眠っている……。

 とある小さな一室。

 施錠された一室。

 

 高級ではないが、そこまで悪くないベッドで眠っている……。

 

 部屋は休憩用のようだ。

 微かに外で波の音が聞こえる。

 微かに外で……何かの音が聞こえる。

 これらは、客観的に見て。

 

 その少女は、眠り続けて気付かない。

 

 彼女が目覚めるまで、あと少し、時間がかかるようだ……。

 

 

 

          *****

 

 

 

 展望塔。

 

 吹き付けるのは冷たい風。

 

 猫耳。

 犬耳。

 狐耳。

 狼耳。

 

 これらは、よく風の音を拾う。

 風の音は、うるさくて案外厄介だ。

 声での意思疎通の妨げになる。

 

「何をしても無駄だ」

 

 4人が必死に息を切らして、汗を冷やす中、Qは涼しげな顔をして正面に敵を捉える。

 

「……どうする?」

 

 フブキが汗を拭い、3人を一瞬だけ、横目に見た。

 髪が邪魔で、あまり顔は見えなかった。

 

 足元に散らばった粉雪は全て溶け、水と化している。

 邪魔だ。

 

「ごめん、中々使えるカードがなくて……」

 

 ミオが未だに何もアシストできていないことに表情を曇らせる。

 

「いや、僕も何もできてないし、それに、多分相当な細工をしないとあの人には通らないと思う」

 

 おかゆがミオを慰めるように分析結果を話す。

 

「パンチが当たりさえすれば、ワンパンなのに!」

 

 ころねも得意の拳が一切合切無効化されることに苛立ちを覚えている様子。

 

 そう、脅威的なQの絶対防衛能力、それこそが……バリア。

 自身を中心とした球型のバリアを展開することが可能で、そのバリアは可視化でき、本人の望まぬもの全ての侵入を防ぐ。

 何をしようと、近づくことすらできない。

 バリア内への侵入方法は、どうにかしてバリアを破壊する、瞬間移動などでバリアに干渉せずに侵入する、Qに侵入許可を出させる、のどれかだ。

 

「分かるだろ、俺が攻撃に全く適さない理由が」

 

 バリアを展開したまま、Qが訴える。

 本気で行く、と言いつつ本気で4人をここから逃さないだけ。

 本気で襲い掛かっても、中々何もできないだろう。

 

「まあ、攻撃手段はたった一つ、あるが」

 

 ……撤回。

 どうやら、秘策があるらしい。

 

「ここでおとなしくしていれば、手を出さないでおいてもいいだろう」

 

 無駄な提案だ。

 結果の見える交渉に意味はない。

 

「国が崩壊すれば、結局同じだから」

 

 国が壊れて、革命が起これば、結局は命の危機。

 ここで無理をしてでも、世界を守る必要がある。

 

「どうやら、勘違いされているようだな」

「……勘違い?」

「ああ、俺たちが石を使ってこの国を滅ぼすつもりとでも思ったのか?」

「……」

 

 まさか、違う……のか?

 いや、きっと虚言だ。

 こんな大掛かりなカラクリを使って、今更弁明などできるものか。

 

「お前たちは人生を謳歌しているようで、あまり不満はないだろうが、俺たちはこの世界の仕組みに不満を持っている」

 

 自分語りか。

 鬱陶しいが、聞く価値はありそうだ。

 

「人は義務の中で教育を受け、社会に貢献させられる。お前たちも流石にあるだろう、義務教育を受けたことくらい」

 

 あるに決まっている。

 なんなら、4人は学生。

 義務教育の課程を終えて間もない。

 静かに話を聞く。

 無言は肯定、と言われるため、Qは肯定と判断して話を続ける。

 

「ではお前たちは果たして、優秀な成績を収めていただろうか?」

 

 更に問いかける。

 ……何となく、言いたい事が分かってきたかもしれない。

 

「少なくとも、俺よりは優秀ではないだろうな」

 

 しれっと自慢を交えてまだまだ語る。

 

「だが、お前たちは確実に俺よりもいい人生を送っている。これはまだ一例に過ぎない」

 

 やっぱり。

 永遠に疑念を生む世界の問題だ。

 

「それで、それは間違っているから世界を変えるって言うの?」

 

 フブキが問い質した。

 

「そうだ、この世界を糺すんだ、俺たちの手で」

「だからって、こんな悪質なやり方……!」

「悪質なやり方? 自分の心に聞いてみろ、俺はお前たちのやり方のほうが気に入らない」

 

 4人に、僅かに湧き上がる感情があった。

 感じた。

 それは、同じ感情だと。

 

「確かにここに来れたのは、実力とは違うかもしれないけど、きっとここに来た意味と理由、そして到達できた意味と理由がある」

 

 今模索中だ。

 自分の配信の方向性もついに固まり、ホロライブとして会社が目指す地点もようやく形になってきた。

 これから、自分達がここにいる意味を作りに行くんだ。

 その点では、Qの言うように、今はまだ、この場に不適切な存在なのかもしれない。

 

「分かっていないようだな。お前たちがその場に至ったのは『運』だ。この世界で上り詰めるには、暴力による実力行使を除けば、殆どが『運』だ」

 

 なるほど?

 面白い。

 それはホロメンもよく口にしている事だ。

 今の自分がここにいるのは、奇跡だと。

 だが、リスナーは果たしてどう思っているだろうか。

 

 Qの言葉を繰り返す。

 「人は義務の中で教育を受け、社会に貢献させられる」だ。

 そして、成績優秀者よりも非優秀者の方が裕福である事が多々あると。

 どうやら、ホロメンの活動が気に入らないようだが、考え方が少し偏っている。

 

 義務教育の課程で習うことはなにも学力関連だけではない。

 そして、そこで得た学力ではないある意味「特殊な能力」を使って、ホロメンたちはここへ来たのだ。

 学力はこの際置いておこう。

 彼女たちは、この「特殊な能力」を見事駆使して、社会に潜むリスナーと言う存在に力を与えている。

 彼女たちに救われた人は、幾人もいるはずだ。

 人一人を救う事でさえ、困難なこの世界で、彼女たちは幾人もの人生を照らした。

 彼女たちが、この社会に貢献していないことなどない。

 それに、推活をしているリスナーに、不満などない。

 

 もし外野が何か言っているのであれば、そんなアンチテーゼは知識不足だ。

 持つ力を、如何に駆使して生きていくのか。

 世界が求めているのはまさに、彼女たちのような革新的な存在なのだ。

 彼女たちの人気こそ、世界への必要さを物語っている。

 

「確かに運は大事。でも、残念なことに人生の中で運は上下する」

 

 ミオが体験談のように口にする。

 占い師の、経験だろうか。

 

「運が必要だとしても、運に全てを任せて生きる人なんていない。あなたはそれを……分かってるの?」

 

 ミオの悲しげな瞳がQを見た。

 

「そう、その読めない要素が人生に強く影響するが故に、人を狂わせるんだ」

 

 悲しきかな、もはや平行線。

 これ以上、対話で得られる情報は無さそうだ。

 

「もはや、水掛論だな。俺とお前たちは、分かり合えない」

 

 そう結論付けると、Qは見限ったように動き出した。

 バリアを展開したまま、歩いて来る。

 

「落ちてもらおうか」

 

 バリアで無理やり場外に押し出すゴリ押し技だ。

 純粋だが、抵抗しようのないやり方。

 単純ゆえに強力。

 

「やばい!」

 

 フブキの声に合わせて、4人は固まらないように散らばる。

 バリアの半径自体は大きくはない。

 上手く回避すれば何とかなる。

 

 だが、ここで非常事態が発生する。

 

「しまっ……!」

「おかゆ!」

 

 バリアを避ける過程で背後に跳んだおかゆが、濡れた地面に足を滑らせて屋上から落ちかけた。

 なんとか片手で淵に掴まるも、体を持ち上げる腕力がない。

 猫とはいえ、これほどの高所は生きていられない。

 

「おかゆん!」「おかゆ!」

 

 ころねが真っ先に駆けつけたが、その瞬間おかゆの手が外れた。

 

「おかゆ!」

 

 手を伸ばし、手を掴んだ。

 体勢がきついため、引き上げれないが、ころねは自分が落ちないように踏ん張る。

 おかゆの身体は、完全に宙に浮いていた。

 

「こ、ころさん……」

「だい、じょぶ……!」

 

 おかゆが不安げに真っ直ぐ上、必死に腕に力を込めるころねを見上げる。

 笑いかける余裕もなく、頭が赤くなり始める。

 一瞬でも気を緩めると、落ちてしまう。

 

「丁度いい、二人で落ちろ」

 

 Qがころねの無防備な後ろ姿目掛けて駆け出す。

 バリアはずっと展開されたまま。

 

「コンフリクトアイス」

 

 フブキの掛け声と同時に氷の壁がバリアの前に立ち塞がった。

 直後、Qのバリアと衝突。

 しかし、フブキが懸命に力を奮い、氷の崩壊を防ぐ。

 

「ミオ……!」

「うん!」

 

 足止めは10秒と持たない。

 ミオは一瞬の判断でころねの元へ急ぐ。

 が、Qは標的を突如ミオに変更して突進を図る。

 ミオはバリアと接触し後方に弾かれた。

 咄嗟の判断でフブキが受け止めなければ、きっとミオまでも落下していただろう。

 

 だめだ、容易にころね側に近づけない。

 再びころねを蹴落とすべく走るQ。

 先ほどと全く同じように、フブキも壁を展開。

 そしてミオは……

 

「No16.THE TOWER」

 

 塔のアルカナカードを正位置で使用。

 意味は崩壊。

 光り輝くカードをQのバリアに押し付けバリアの破壊を試みる。

 バリアがビリビリと激しく音を立てるが、中々崩れる様子はない。

 

 壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ壊れろ!

 

「くぅっ! ころね! 早く!」

 

 魔法制御に限界を感じてきたフブキが苦悶の表情で叫んだ。

 

「わがっ……てる……!」

 

 渾身の力を込め、ころねがおかゆを引き上げようとするが、上手くいかない。

 力を込めると、たまに手が滑って離しそうになってしまう。

 

「……ころさん」

「だいじょぶ、だから……!」

 

 二人は風の音と共に、バリアの炸裂音を聞く。

 

「……手、離して」

「やだ!」

 

 二人にだけ聞こえる声で、おかゆは言った。

 

「僕が合図したら――」

「いやだ!」

 

 絶対に見放さないと、ころねは必死におかゆの目を見た。

 いつもの光る目があった。

 

「ころさん、時間がないから!」

「いやだ!」

 

「信じて! いくよ!」

「やだ!」

 

 おかゆの身体が風で軽く揺れた。

 

「3!」

「だめ!」

 

 おかゆが身体を前後に軽く揺らした。

 

「2!」

「だめっ!」

 

 止まらないカウント。

 おかゆの脚が、壁に当たった。

 

「1!」

「うああああああ!」

 

 ころねは、手を離した。

 同時におかゆは壁を蹴り――

 

 ブン、と聞き慣れた音と共に、何かがおかゆを掻っ攫った。

 遅れて香るガスの臭い。

 案外、臭くはない。

 

 ころねの目に浮かぶ涙が真っ逆さまに地上へと落ちて行った。

 

「遅くなったな、おかゆ!」

「な、なんだ!」

 

 おかゆを拐った正体が、空中を飛び回っている。

 上手く視界に捕らえられないQが声を上げた。

 

「なんだかんだと言われたら」

「答えてあげるが世の情け」

 

 塔の周囲を走り回るそれから、聞き慣れた声とどこかで聞いたような口上セリフ。

 

「おいバカ、お前らやめろ!」

 

 その二人を「運転手」が抑止した。

 

 そう、おかゆを拐った正体、それは、空飛ぶ車だ。

 そして、搭乗者はおかゆを含めて3名。

 

 1人、

 

「諸々セリフ飛ばして、百鬼あやめ!」

 

 2人、

 

「諸々セリフ飛ばして、猫又おかゆ!」

 

「銀河はかけないけど、夜空を駆ける、あやおかの2人には!」

「ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ!」

 

 まるで打ち合わせていたように噛み合うセリフ。

 あやめとおかゆのセリフが決まり、2人が運転手を見た。

 ほら、もうひと枠、空いているよ、と。

 

「しゅーばしゅばしゅば、ってアホか!」

 

 しっかりとボケツッコミをかまして車を操縦する。

 

「スバル! あやめ!」

 

 ミオが声の主を言い当てた。

 

「よ……かった……」

 

 ころねは、その場に膝をついた。

 膝をつく位置を間違えれば、落ちていたかもしれない。

 そんなことも考えれないほど、安心感に満ちていた。

 

「援軍か……参ったな」

 

 Qは頭を掻いた。

 数が増えようと、負けない自信があるが、倒せる自信は無くなってくる。

 

「ありがとうスバルちゃん」

「気にすんな」

「3人のとこにお願い」

 

 おかゆがスポーツカーの助手席でスバルに頼む。

 スバルは運転席、あやめは席でもない絶妙な位置にバランスよく座っている。

 

「悪い、それはできねんだ」

「え、何で!」

「スバルの能力の欠陥だ」

 

 スバルはそう自己評価した。

 欠陥、という表現は少し印象が良くない。

 

「スバルの能力は浮くだけなんよ。だから、空中で止まれんのんよ」

「……?」

「スバルは『浮遊』能力によって、一定質量以下の触れたものを真上にのみ浮かせられる。けど、空中じゃ人や物は下以外に動けない、動力がないとな」

「動いてるじゃん」

 

 それだと、車が空を駆けているこの状況の説明がつかない。

 

「ああ、だから地面でアクセルやブレーキをかけて、その勢いを保ったまま空中に出れば、風の抵抗以外での減速がないから、逆に一定スピードで走れるんだ」

「じゃあ、止めるには……」

「あの塔の頂上じゃ幅が無さすぎる。一回道路に停めて、また上がるしかねえ」

 

 一般人に能力を与えても、それほど有能な物は中々生まれない。

 厨二病的な思想や知識が有ればまだしも、スバルのような一般アイドル(芸人)には到底。

 スバルが、数少ない普通の人間であることも、作用しているかもしれない。

 

 種族によって、適性は異なるからである。

 

「じゃあ、早く下に!」

「ああ、待っ――」

 

 おかゆの指示に頷きかけ、振り返る。

 急に。

 何かに弾かれるように。

 

「おい! 聞いたか今の!」

 

 スバルが、あやめとおかゆに剣幕な表情で尋ねた。

 

「え?」

「何?」

 

 2人は互いに見つめ合い、よくよく耳を澄ますが、何も聞こえない。

 

「別に何も聞こえない……」

「んなわけあるか! 今のは……!」

 

 車が大きく旋回、進行方向を変更した。

 

「ちょっと、スバル!」

「わりぃ! 時間がねぇ、そいつは任せた!」

「え、ええ!」

 

 スバルはおかゆを連れ去っていってしまう。

 

「…………」

 

 塔に残された3人。

 しばし硬直していた。

 

「ふう、援軍かと思えば、逃げたか……好都合だが……」

 

 Qは拍子抜けしたようにそう笑う。

 しかし、そう言いつつも、キョロキョロと何かを意識している。

 

「……スバルちゃんは目鼻が効くから、ここは私たちで切り抜けられるって、信じてるんだと思う。何が最優先か、判断できる人だから」

 

 ころねはスバルの素質をそう分析すると、ここは3人でと強く意気込む。

 フブキもミオも、その点へのスバルへの信頼は厚い。

 

「そうだね」

「じゃあ……行こうか」

 

 3人はQを前に構えを取る。

 さあ、どうバリアを切り抜けていくのか……!

 

「しかし……一体猫のやつは、どこへ行きやがったんだ」

 

「「「…………え?」」」

 

 おかゆの仕掛けた罠に、Qは嵌っている。

 こんな男1人にOKFAMSは贅沢すぎる。

 

 





 作者です。
 今回はOKFAMSでしたが、はてさて、あやおかスバは一体どこへ行ったのでしょうか?
 逆に1人減って、Qは倒せるの?
 おかゆが仕掛けた罠とは?

 因みに、今回のパロ的なやつはポケ○ンです。
 さすがに分かりますね。

 あ、フレアちゃん、おたおめ。

 ではまた次回。
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