北のスポーツスタジアム。
世界一の規模のスポーツ用のスタジアム。
サッカーや陸上などの大きな大会が開催されるときは、大抵このスタジアムが使用される。
野球スタジアムはまた、別の位置にある。
さて、このスポーツスタジアムにも、石があるのだが……。
「……あと二つだな」
この場には全部で三つの石が既に集められていた。
1人の男性が手にしている。
二つはどこからか、盗ってきたものだ。
そのスタジアムに潜む、二つの影。
そらとロボ子だ。
2人はmiCometの支援により、無傷無戦でスタジアムに到達。
しかし、スタジアム内に佇む巨大な影を前に突入を尻込みしていた。
「……手遅れだったとこがあるみたいだね」
「でも、逆に二つはまだ残ってるってことだよね」
楽観視と達観視。
思考に良し悪しはない。
「どうする?」
ロボ子が正面の巨大な鉄の塊を見て作戦参謀に行き詰まる。
鉄の塊、それが尻込みの理由。
何とその大きさ、高さで言えばこのスタジアムの屋根ほど。
鉄屑で作られたような、無秩序なゴミの集まりのような……巨大ロボ。
作動するかは分からないし、動くにしても人の操作が必要なのかも分からない。
「うーん……多分あの規模だと、機動プログラムを導入するのは難しいと思うから、操縦士が1人以上いると思うけど……」
ロボ子がロボットとしての推測を立てるが、その1人がすぐそばにいる。
であれば、あの男が操縦するのだろう。
あれが動けば、石奪還どころではない。
「取り敢えず2人でスタジアム内を回って、何かないかとか、確認しよう」
「そうだね」
今の2人……いや、もっと言えば、ほかのホロメンも敵うとは思えない。
ロボ子はそう判断し隠密行動を決め込む。
スタジアム内を探り、他の敵がいないか、男に隙は生まれないかなどを確認する。
その途中、とある物を見つけた。
それは、何かしらを継なぐ電気ケーブル。
こそこそと隠れながら、そのケーブルを辿るとスタジアムの中央、あの巨大ロボに繋がっていた。
つまり、ロボットにはこのケーブルが必要、という事だ。
そうとなれば、反対側がどこに繋がっているかを見に行かなくては。
恐らく操作機器や電源コンセント。
それさえ断ち切れば作動できなくなるが、迂闊に切断は危険を伴う。
切って良いコードかを見て決めなければ。
「なんだ貴様ら」
コードの反対側へ向かおうと振り返ると、先ほどの男に通路を塞がれていた。
「やけに荒れてると思えば、ロボットと……何だお前は」
しまった!
背後を取られた。
……荒れてる?
「どうした、コードでも抜きに行くのか?」
一度配線に目配せしたあと、男は2人をじっと見た。
中々鋭い目つき。
迫力があり、威圧から恐怖を覚える。
更にロボ子は、もう一つ、嫌な感覚に全身を痺れさせた。
「うわっ!」
ロボ子は瞬時にそらを抱えて逃げた。
ひとまず、スタジアムから出よう。
完全に逃げの姿勢だと判断した男も、追っては来なかった。
スタジアム外へと出て、木々の影に隠れた。
「ど、どうしたの突然」
そらは声を潜めて、身を屈めながらロボ子の顔を覗き込んだ。
ロボ子は意外にも汗をかいていた。
「……ごめん、ちょっと嫌な電気が走ったから、やばいと思って」
「電……気?」
ロボ子の腕や脚を見回しても一見普通だ。
そらは再びロボ子の顔を見た。
「時間がないのは分かるんだけど、ちょっとだけ全身の整備させて」
「整備って……いいけど、何するの?」
「表面パーツと内部パーツの組み替え」
そう言ってロボ子は身体改造に熱中していた。
そらは静かにその様子を見守り、偶に指示に従って部品を交換したりしていた。
*****
ホロライブ事務所、屋上……。
ぼたんとわためが冷たい風を受けて、遠くを眺めている。
しかし、それぞれの見据える物は、異なっていた。
見ている方角は、同じだというのに……。
「ええっと……」
わためは、ぼたんが背負っている獲物を一瞥して軽く口角を上げる。
なんて聞こうか。
と言うか……どうしてわためも呼ばれたの?
「あたしがスナのライフル持ってたら変?」
ぼたんが風に髪を靡かせ、珍しく耳をぴょこぴょこと跳ねさせながら聞く。
でも、顔が向いてくれない。
「いや……似合うし、イメージ通りだけど……一般人はライフルなんて持ってない……よね?」
ど正論で突き刺すが、ぼたんはあまり動かない。
アホ毛がゆらゆらと揺れている。
「知ってる? 銃って自作しやすいし、わりかし手に入り易いんだよ。逆に、銃弾は精密な物が作りにくいから自作は難しいし、裏でも中々手に入らないらしいよ」
「……ええっと?」
「安心して、あたし、銃弾一発も持ってないから」
「そ、そうなんだ……」
つまり、趣味で銃だけは持ってるって解釈でいいのかな?
あまり深く、詮索する必要は、少なくとも今はない。
ぼたんは決まっていたポーズを崩して、地に寝そべり、スナイパーを北側に向けて構え、照準を合わせていた。
定期的にカチャッと聞きなれない音が響く。
弾がないのに、何を撃つ気だろう。
それとも、何かを捕捉するだけ?
いや、そんな事は、どうでもいいか。
ぼたんにも何か、やる事が、あるんだろうから。
「何か……モヤモヤしてる?」
「……まあね」
わためが僅かに言葉を選んだ、それをぼたんは察知した。
悩む、とか、困る、とか、そんな言葉では適さないない事が、様子から読み取れていた。
それが、わためをここに連れ出した理由なのだと、理解した。
「いいよ」
直訳すると、話聞くから思ってる事言って、だ。
ぼたんも今更打ち明ける事に迷わない。
態々、呼び出したのだから。
「ねねちゃんの事」
自己嫌悪の渦に落ちた話?
不遇にも失敗や悪運被害が続き、現在進行形で迷走しているねね。
トワが追いかけたが、やはり気掛かりなのだろうか?
「あたしは、ねねちゃんは凄い人で、いろんな方面で実力のある人だと思ってるから、あんな風に凹んだままでいて欲しくなかった」
純粋な、仲間への配慮と尊敬、そして激励。
ぼたんには完全なる善意であった。
それに、ねねは今回においても、何かしらのトリガーを引くこととなる気がする。
「だからさっき、ああ言ったけどさ……」
さっき、とは、医療室でのことだ。
ねねに「どうするか」を説いた話。
「ほら、あたしってさ、よく怒ってるとか言われるからさ……」
冷たい風がまたしても髪を攫う。
わためのマントが、小さく旗めいた。
ぼたんの銃が、相変わらずカチャカチャと音を立てる。
「偉そうなこと言って、悪く思われてないか……って」
銃のセッティングは終わったようだ。
風の音だけが辺りを騒がす。
「案外、気にしてるんだね」
一歩、わためがぼたんとの距離を詰めた。
心地よい靴音が一度だけ鳴る。
「ちょっと心外……」
「あはは……そうだね、ごめん」
「……いや、そんな気にしてないから」
気にしてない、ってどちらへの解答?
「でも、わためが案外って言ったのは、わためが気にしてないから」
「……そりゃあ、人それぞれだし」
「そうじゃないよ」
首を振った。
ぼたんはスコープを覗いていた。
良い物、見えるのかな?
「わためでも、ぼたんちゃんが怒ってない事は分かったし、ねねちゃんを思っての優しさだって理解できたから」
風が鳴いている。
わための言葉は温かい。
「ねねちゃんが意図を汲めないなんて、有り得ないって思って……」
と、そこまで言って、少し黙ると、
「いや、寧ろ当然すぎて何も思わなかったよ。優しさだな、とか、怒ってないな、とか、そう言う感情に関する事は、何にも」
と、訂正した。
美しかった、その、綺麗な言葉が。
冷える身体を、強く温めてくれた。
「そう……」
ぼたんは安心したように、小さく漏らした。
そっとスコープから目を離す。
振り返る途中に、わためがいた。
「それに、わためは好きだよ。ぼたんちゃんの、思いに素直なとこ」
晴れやかな笑顔だった。
見慣れたはずの景色が、そこにはあった。
「あたしもわためぇのこと好きやで……」
「え?」
「食材として……」
「ひぃや〜、怖いねぇ?」
わざとらしく、わためが数歩距離をとって我が身を抱いた。
本当に、見慣れた景色だった。
わためが先輩で良かった。
突如間近で小さな発光が起きた。
その発光した位置に、小さな何かが出現する。
「来た!」
ぼたんは現れた小さな物質をライフルに込め、瞬時にスコープを覗き、標的を確実に捉えに行く。
「ぼたんちゃ……」
「しっ、黙って」
お、怒っ……てない!
そう、ぼたんちゃんは簡単に怒らない!
よね?
ぼたんが集中力を高めると、何となく、オーラが見える気がする。
そんな物、一切出てないが、そう見える。
「墜ちろ!」
ぼたんの一聲に共鳴して銃声が響き渡る。
発射の激しい勢いにぼたんの全身が数センチ後方へ押され、ライフルの銃口から、たった一発、そう唯一の銃弾が風も音も引き裂いて、目に見えぬカーブを描き標的を撃ち抜いた。
このライフルにスコープをつけて見える距離は精々3キロ。
しかもそれは、充分の視力と良好な視界があってこそ。
しかし、今ぼたんが撃ち抜いた存在は約5キロ離れた場所にいる。
どうやって撃ち抜いた……?
いや、そもそも、弾はないんじゃ……。
「ふう……ま、後は何とかするでしょ」
標的がまだ強く呼吸を続けている。
片足潰しただけでは、あの男はくたばらないようだが、相当戦力は削れただろう。
あとはポルカとラミィが、根性でどうにかするさ。
「な、何をしたの?」
「ん? まあ、スナイパー的な仕事」
「弾は、持ってないんだよね……?」
「ああ、今のはおまるんが能力で作り出した、ライフル用の弾。一発限りのね」
「ってことは……」
「そう、2人に頼まれてた手助け」
ポルカがぼたんに告げた作戦。
相手が何であろうと、障害物の少ない上空へ放り出せれば、ぼたんが「確実に」狙撃できる。
だから、予めこの作戦を告げていた。
残念ながら、意識は刈り取れなかったが、これ以上2人に加勢はできそうもない。
こちらにも、危機が迫っている。
「わためぇ、これ持って下降りといて」
ぼたんがライフルをわために突き付ける。
視線はまた、北の方角を向いている。
何かを目に捉えている様子はない。
しかし、戦況把握と圧倒的な判断力、作戦参謀向きの頭脳を持ち合わせる彼女のこと。
きっと計り知れない策が……。
「分かった」
わためは何か決意したように屋上を後にした。
こんな都会では、ライオンの住む草原やサバンナのように、風は颯爽と吹き抜けない。
ただ冷たいだけの風が身体を冷やすだけである。
ここは屋上。
「さて……よっと」
ぼたんは柵を越えて屋上から飛び降りる。
何度か屋根を経由して負担を軽減しながら、急いで正面入り口前に降り立った。
「待ちなよ、侵入者」
正面玄関、扉前にいた不審者の背後を取り、ぼたんは揚々と声を放った。
「悪いけど、そこは通せんわ」
事務所防衛戦が、始まる。
作者です。
今回は少しそらろぼ、そしてしっかりししわたでした。
小ネタは特にないです。
あまり出番のない方々も、もう間も無くしっかり活躍するのであと少し待ってくだせえ。
あ、おかゆん、3周年めでたい。
それと、かなたん復帰決定もめでたい。