歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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53話 腹心

 

 北のスポーツスタジアム。

 世界一の規模のスポーツ用のスタジアム。

 サッカーや陸上などの大きな大会が開催されるときは、大抵このスタジアムが使用される。

 野球スタジアムはまた、別の位置にある。

 

 さて、このスポーツスタジアムにも、石があるのだが……。

 

「……あと二つだな」

 

 この場には全部で三つの石が既に集められていた。

 1人の男性が手にしている。

 二つはどこからか、盗ってきたものだ。

 

 そのスタジアムに潜む、二つの影。

 そらとロボ子だ。

 

 2人はmiCometの支援により、無傷無戦でスタジアムに到達。

 しかし、スタジアム内に佇む巨大な影を前に突入を尻込みしていた。

 

「……手遅れだったとこがあるみたいだね」

「でも、逆に二つはまだ残ってるってことだよね」

 

 楽観視と達観視。

 思考に良し悪しはない。

 

「どうする?」

 

 ロボ子が正面の巨大な鉄の塊を見て作戦参謀に行き詰まる。

 鉄の塊、それが尻込みの理由。

 何とその大きさ、高さで言えばこのスタジアムの屋根ほど。

 鉄屑で作られたような、無秩序なゴミの集まりのような……巨大ロボ。

 作動するかは分からないし、動くにしても人の操作が必要なのかも分からない。

 

「うーん……多分あの規模だと、機動プログラムを導入するのは難しいと思うから、操縦士が1人以上いると思うけど……」

 

 ロボ子がロボットとしての推測を立てるが、その1人がすぐそばにいる。

 であれば、あの男が操縦するのだろう。

 あれが動けば、石奪還どころではない。

 

「取り敢えず2人でスタジアム内を回って、何かないかとか、確認しよう」

「そうだね」

 

 今の2人……いや、もっと言えば、ほかのホロメンも敵うとは思えない。

 ロボ子はそう判断し隠密行動を決め込む。

 スタジアム内を探り、他の敵がいないか、男に隙は生まれないかなどを確認する。

 

 その途中、とある物を見つけた。

 それは、何かしらを継なぐ電気ケーブル。

 こそこそと隠れながら、そのケーブルを辿るとスタジアムの中央、あの巨大ロボに繋がっていた。

 

 つまり、ロボットにはこのケーブルが必要、という事だ。

 そうとなれば、反対側がどこに繋がっているかを見に行かなくては。

 恐らく操作機器や電源コンセント。

 それさえ断ち切れば作動できなくなるが、迂闊に切断は危険を伴う。

 切って良いコードかを見て決めなければ。

 

「なんだ貴様ら」

 

 コードの反対側へ向かおうと振り返ると、先ほどの男に通路を塞がれていた。

 

「やけに荒れてると思えば、ロボットと……何だお前は」

 

 しまった!

 背後を取られた。

 ……荒れてる?

 

「どうした、コードでも抜きに行くのか?」

 

 一度配線に目配せしたあと、男は2人をじっと見た。

 中々鋭い目つき。

 迫力があり、威圧から恐怖を覚える。

 更にロボ子は、もう一つ、嫌な感覚に全身を痺れさせた。

 

「うわっ!」

 

 ロボ子は瞬時にそらを抱えて逃げた。

 ひとまず、スタジアムから出よう。

 完全に逃げの姿勢だと判断した男も、追っては来なかった。

 

 スタジアム外へと出て、木々の影に隠れた。

 

「ど、どうしたの突然」

 

 そらは声を潜めて、身を屈めながらロボ子の顔を覗き込んだ。

 ロボ子は意外にも汗をかいていた。

 

「……ごめん、ちょっと嫌な電気が走ったから、やばいと思って」

「電……気?」

 

 ロボ子の腕や脚を見回しても一見普通だ。

 そらは再びロボ子の顔を見た。

 

「時間がないのは分かるんだけど、ちょっとだけ全身の整備させて」

「整備って……いいけど、何するの?」

「表面パーツと内部パーツの組み替え」

 

 そう言ってロボ子は身体改造に熱中していた。

 そらは静かにその様子を見守り、偶に指示に従って部品を交換したりしていた。

 

 

 

          *****

 

 

 

 ホロライブ事務所、屋上……。

 

 ぼたんとわためが冷たい風を受けて、遠くを眺めている。

 しかし、それぞれの見据える物は、異なっていた。

 見ている方角は、同じだというのに……。

 

「ええっと……」

 

 わためは、ぼたんが背負っている獲物を一瞥して軽く口角を上げる。

 なんて聞こうか。

 と言うか……どうしてわためも呼ばれたの?

 

「あたしがスナのライフル持ってたら変?」

 

 ぼたんが風に髪を靡かせ、珍しく耳をぴょこぴょこと跳ねさせながら聞く。

 でも、顔が向いてくれない。

 

「いや……似合うし、イメージ通りだけど……一般人はライフルなんて持ってない……よね?」

 

 ど正論で突き刺すが、ぼたんはあまり動かない。

 アホ毛がゆらゆらと揺れている。

 

「知ってる? 銃って自作しやすいし、わりかし手に入り易いんだよ。逆に、銃弾は精密な物が作りにくいから自作は難しいし、裏でも中々手に入らないらしいよ」

「……ええっと?」

「安心して、あたし、銃弾一発も持ってないから」

「そ、そうなんだ……」

 

 つまり、趣味で銃だけは持ってるって解釈でいいのかな?

 あまり深く、詮索する必要は、少なくとも今はない。

 

 ぼたんは決まっていたポーズを崩して、地に寝そべり、スナイパーを北側に向けて構え、照準を合わせていた。

 定期的にカチャッと聞きなれない音が響く。

 弾がないのに、何を撃つ気だろう。

 それとも、何かを捕捉するだけ?

 

 いや、そんな事は、どうでもいいか。

 ぼたんにも何か、やる事が、あるんだろうから。

 

「何か……モヤモヤしてる?」

「……まあね」

 

 わためが僅かに言葉を選んだ、それをぼたんは察知した。

 悩む、とか、困る、とか、そんな言葉では適さないない事が、様子から読み取れていた。

 それが、わためをここに連れ出した理由なのだと、理解した。

 

「いいよ」

 

 直訳すると、話聞くから思ってる事言って、だ。

 

 ぼたんも今更打ち明ける事に迷わない。

 態々、呼び出したのだから。

 

「ねねちゃんの事」

 

 自己嫌悪の渦に落ちた話?

 

 不遇にも失敗や悪運被害が続き、現在進行形で迷走しているねね。

 トワが追いかけたが、やはり気掛かりなのだろうか?

 

「あたしは、ねねちゃんは凄い人で、いろんな方面で実力のある人だと思ってるから、あんな風に凹んだままでいて欲しくなかった」

 

 純粋な、仲間への配慮と尊敬、そして激励。

 ぼたんには完全なる善意であった。

 それに、ねねは今回においても、何かしらのトリガーを引くこととなる気がする。

 

「だからさっき、ああ言ったけどさ……」

 

 さっき、とは、医療室でのことだ。

 ねねに「どうするか」を説いた話。

 

「ほら、あたしってさ、よく怒ってるとか言われるからさ……」

 

 冷たい風がまたしても髪を攫う。

 わためのマントが、小さく旗めいた。

 

 ぼたんの銃が、相変わらずカチャカチャと音を立てる。

 

「偉そうなこと言って、悪く思われてないか……って」

 

 銃のセッティングは終わったようだ。

 風の音だけが辺りを騒がす。

 

「案外、気にしてるんだね」

 

 一歩、わためがぼたんとの距離を詰めた。

 心地よい靴音が一度だけ鳴る。

 

「ちょっと心外……」

「あはは……そうだね、ごめん」

「……いや、そんな気にしてないから」

 

 気にしてない、ってどちらへの解答?

 

「でも、わためが案外って言ったのは、わためが気にしてないから」

「……そりゃあ、人それぞれだし」

「そうじゃないよ」

 

 首を振った。

 ぼたんはスコープを覗いていた。

 良い物、見えるのかな?

 

「わためでも、ぼたんちゃんが怒ってない事は分かったし、ねねちゃんを思っての優しさだって理解できたから」

 

 風が鳴いている。

 わための言葉は温かい。

 

「ねねちゃんが意図を汲めないなんて、有り得ないって思って……」

 

 と、そこまで言って、少し黙ると、

 

「いや、寧ろ当然すぎて何も思わなかったよ。優しさだな、とか、怒ってないな、とか、そう言う感情に関する事は、何にも」

 

 と、訂正した。

 美しかった、その、綺麗な言葉が。

 

 冷える身体を、強く温めてくれた。

 

「そう……」

 

 ぼたんは安心したように、小さく漏らした。

 そっとスコープから目を離す。

 振り返る途中に、わためがいた。

 

「それに、わためは好きだよ。ぼたんちゃんの、思いに素直なとこ」

 

 晴れやかな笑顔だった。

 見慣れたはずの景色が、そこにはあった。

 

「あたしもわためぇのこと好きやで……」

「え?」

「食材として……」

「ひぃや〜、怖いねぇ?」

 

 わざとらしく、わためが数歩距離をとって我が身を抱いた。

 本当に、見慣れた景色だった。

 わためが先輩で良かった。

 

 突如間近で小さな発光が起きた。

 その発光した位置に、小さな何かが出現する。

 

「来た!」

 

 ぼたんは現れた小さな物質をライフルに込め、瞬時にスコープを覗き、標的を確実に捉えに行く。

 

「ぼたんちゃ……」

「しっ、黙って」

 

 お、怒っ……てない!

 そう、ぼたんちゃんは簡単に怒らない!

 よね?

 

 ぼたんが集中力を高めると、何となく、オーラが見える気がする。

 そんな物、一切出てないが、そう見える。

 

「墜ちろ!」

 

 ぼたんの一聲に共鳴して銃声が響き渡る。

 発射の激しい勢いにぼたんの全身が数センチ後方へ押され、ライフルの銃口から、たった一発、そう唯一の銃弾が風も音も引き裂いて、目に見えぬカーブを描き標的を撃ち抜いた。

 

 このライフルにスコープをつけて見える距離は精々3キロ。

 しかもそれは、充分の視力と良好な視界があってこそ。

 しかし、今ぼたんが撃ち抜いた存在は約5キロ離れた場所にいる。

 どうやって撃ち抜いた……?

 いや、そもそも、弾はないんじゃ……。

 

「ふう……ま、後は何とかするでしょ」

 

 標的がまだ強く呼吸を続けている。

 片足潰しただけでは、あの男はくたばらないようだが、相当戦力は削れただろう。

 あとはポルカとラミィが、根性でどうにかするさ。

 

「な、何をしたの?」

「ん? まあ、スナイパー的な仕事」

「弾は、持ってないんだよね……?」

「ああ、今のはおまるんが能力で作り出した、ライフル用の弾。一発限りのね」

「ってことは……」

「そう、2人に頼まれてた手助け」

 

 ポルカがぼたんに告げた作戦。

 相手が何であろうと、障害物の少ない上空へ放り出せれば、ぼたんが「確実に」狙撃できる。

 だから、予めこの作戦を告げていた。

 残念ながら、意識は刈り取れなかったが、これ以上2人に加勢はできそうもない。

 こちらにも、危機が迫っている。

 

「わためぇ、これ持って下降りといて」

 

 ぼたんがライフルをわために突き付ける。

 視線はまた、北の方角を向いている。

 何かを目に捉えている様子はない。

 しかし、戦況把握と圧倒的な判断力、作戦参謀向きの頭脳を持ち合わせる彼女のこと。

 きっと計り知れない策が……。

 

「分かった」

 

 わためは何か決意したように屋上を後にした。

 

 こんな都会では、ライオンの住む草原やサバンナのように、風は颯爽と吹き抜けない。

 ただ冷たいだけの風が身体を冷やすだけである。

 

 ここは屋上。

 

「さて……よっと」

 

 ぼたんは柵を越えて屋上から飛び降りる。

 何度か屋根を経由して負担を軽減しながら、急いで正面入り口前に降り立った。

 

「待ちなよ、侵入者」

 

 正面玄関、扉前にいた不審者の背後を取り、ぼたんは揚々と声を放った。

 

「悪いけど、そこは通せんわ」

 

 事務所防衛戦が、始まる。

 





 作者です。
 今回は少しそらろぼ、そしてしっかりししわたでした。

 小ネタは特にないです。

 あまり出番のない方々も、もう間も無くしっかり活躍するのであと少し待ってくだせえ。

 あ、おかゆん、3周年めでたい。
 それと、かなたん復帰決定もめでたい。
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