歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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59話 「夏色の あきぬ夜空に 赤い花」

 

 突然生まれた亜空間へつながるホール。

 そのホールを潜った男は空中に立っていた。

 

 その男のコードネームは、スペード。

 相対するホロライブメンバーは、フブキを除いた1期生。

 

 一人……夜空メル。

 能力の変わりに、魔力を本能解放に使用。

 よって、吸血鬼本来の力が使える。

 

 一人……アキ・ローゼンタール。

 能力は強化。

 自分、他人に関係なく、一度に一人のみの身体能力を強化できる。

 通称、ムキロゼから派生させた能力。

 

 一人……夏色まつり。

 能力は夏色花火。

 腰に携えた二本のバチで叩いた場所(空気も可)を打ち上げ花火のように軽く爆発させる。

 発色はランダム。

 夏とまつり――即ち、名前から派生させた能力。

 

 一人……赤井はあと(はあちゃま)。

 能力は赤い糸。

 想い人と繋ぐ、訳ではなく、ただ赤い糸を生み出して自由に操る。

 自身や自身の髪に巻いた糸から派生させた能力。

 能力と関係なく、定期的に人格が変わる。

 

 舞台は海岸ステージを少し離れて、砂浜へ。

 悪い足場と狭い活動域の中、4人は敵陣の行動の核となる存在を相手とする。

 

 あいつは、ここから動かしてはいけない相手だ。

 

 空に立つスペードの足は謎のホールに埋まっている。

 あのホールは、どこかの地面と繋がっているのだろう。

 

「そんなとこで見下ろしてないで、降りてきなよ、ビビってんの?」

 

 まつりが手出しできない状況を打破するために、簡単に煽る。

 が、当然耳を貸さない。

 

「どうしよう、まつりちゃん」

 

 アキロゼが憂いた顔でまつりを見た。

 まつりも、どうしようもない。

 全員が冷や汗を流す。

 

「私に任せなさい! レッドストリング」

 

 はあとが両手の袖の内から赤い糸を放出し、スペードの方まで伸ばす。

 出した紐の操作は自由自在。

 長さの限界まで、縦横無尽に操れる。

 

 赤い糸はこの夜の中では非常に目につきにくい。

 そもそもの細さも相まって。

 

 紐でスペードを括って手繰り寄せようと試みたが、容易には捕まらない。

 亜空間を通って逃げたスペードは地上に降り立っている。

 

「いいですか? 単調な動きは却って隙を作るだけです。確かに初披露の能力ですが、果たして有効的な手段でしたか?」

 

 浜の上で砂を踏み、偉そうに助言する。

 攻撃をしてこないのは、体力温存だろう。

 

「相手があなただから、隙をいくら作っても襲ってこないって分かってるからね」

 

 メルがカマかけるように言った。

 スペードが温存主義なことはこの数分で分析した。

 だから好き勝手している訳ではないが、ほぼ攻撃は来ないと思っている。

 まあ、それもここまでとなるが。

 

「ふむ、それも煽りですね? 私はそう簡単に体力を使いませんよ」

 

 メルは舌打ちのように口から空気を漏らした。

 

「……? トランプ……」

 

 不意にスペードは西北西の彼方を見た。

 何か、不吉な予感が全身を駆け巡ったのだ。

 その予感は次第に、体に妙な異変を呼び起こす。

 なんら行動に支障のない異変が。

 

「はっ! 型物・夏提灯」

 

 まつりは視線の逸れたスペードの不意を突き、バチを引き抜く。

 和太鼓(横付け)を叩くように構え、その通りに腕を振る。

 花火のトリガーを引いた。

 スペードのいた場所に、夏の屋台で見る提灯のような型の花火がまつりの目前に開花する。

 そう、スペードの「いた」場所。

 避けられて、もういない。

 

「自爆のように見えて、まるで影響を受けない」

 

 遠目から、美しい提灯型花火を眺め、スペードはそう評する。

 まつりは自身の花火の爆発の影響を受けない。

 基本的に、魔法は意識しなければ、自身の魔力による被害を受けない。

 自分に効果を付与したい場合や、それが本来の使用方法でなければ、基本的に全ての魔法において、使用者に害はない。

 自身の血が身を滅ぼさぬように、自身の魔力は簡単には身を滅ぼさない。

 

「そういえば、言ってましたね、トランプも……」

 

 またしても口にする「トランプ」と言う、カードゲームを示す単語。

 それが人だと、今の発言で、誰もが直感できた。

 

「まつりちゃんの技、めっちゃ綺麗でめっちゃおしゃれ」

 

 はあちゃまが微かに笑みを浮かべて、機嫌良く言った。

 場違いながら、それらしいとも思うほか3名。

 

「はあちゃまもおしゃれな事したーい! レッドストリング〜!」

 

 両袖からスペードを狙って空中に赤い糸が飛び出す。

 その2本は左右に分岐して綺麗な弧を描き、スペードを一度通り過ぎて上から拘束を狙う。

 スペードは無視するような勢いで亜空間を伝って回避。

 赤い2本の糸はスペードのいた場所で交わり停止する。

 

「見て! 赤いハート!」

 

 糸で描かれた赤色のハート型。

 これがやりたかっただけ。

 

「……ここからじゃ、見難い」

 

 アキロゼが半笑いで指摘した。

 暗い夜空に細い赤糸があったところで、目に止まるだろうか?

 意識しても、辛うじて見える程度だ。

 

「え、じゃあさー、まつりちゃんあれ光らせてよ」

「それ意味なくない?」

「えー、ないよー、全く」

「じゃあなんで⁉︎」

「んーー、なんとなく!」

「まあ、だと思ったよ……」

 

 これはまだ狂人の域ではないが、戦闘中とは思えない言動。

 流石ははあちゃま。

 全てを狂わせるパーツだ。

 

「さて、私もどうやら傍観していられないようですので」

 

 スペードが、二人のコントをスルーしてホールを通過。

 はあちゃまの真後ろに移動した。

 そして、予備動作短く片足の蹴りを撃ち込んだ。

 衝撃ではあちゃまの体が砂浜を滑った。

 大量の海の砂が全身を纏った。

 

「ぶうぇぇっ! ぺっ、ぶぇっ! ぶわあー、砂の味がする!」

 

 見た目以上の耐久度で、軽い擦り傷がある程度だった。

 

「アキちゃんナイス!」

「いや、私はムキロゼだ」

「ここでその設定いらないって」

「設定ではない、私はムキロゼだ」

「だからいいって……」

「……」

 

 筋肉を強調するムキロゼポーズ。

 をしたアキロゼが、ムキロゼだと主張。

 メルはそれを否定。

 肝心なのは、ムキロゼが設定かどうかではなく、能力によりはあとの肉体が一時的に爆発的に強化され、硬くなった、と言う事だ。

 今はもう、能力を切った。

 

「アキアキまではあちゃまみたいになったら大変でしょ?」

「え、はあちゃま大変なの? やったー、あはははは!」

「……いや、やった、て何?」

「……まつりちゃんの言う通りだね」

 

 はあちゃまの意味不明っぷりには、ホロメンいつも頭を悩ませている。

 ムキロゼは現れたところで大変ではないが、今は現れないでほしい。

 強いのかもしれないが……。

 

「でも、設定じゃないから、偶に出てきても文句言わないでね」

「なにその前振り、絶対また出てくるじゃん」

「あっはっはっはっはっ!……ふぅ」

 

 アキロゼの予言じみた一言にまつりが突っ込む。

 それにはあちゃまが大笑いした後、小さく息をつくと、放つ雰囲気がガラッと変わる。

 

「まったく……」

 

 はあとが愚痴っぽく漏らして、全身の砂を叩いた。

 微量の塩で粘着性が上がり、落ちにくい。

 

「あ、はあとちゃんがあらわれた」

「んな野生のポ◯モンとか魔物みたいな……」

「……? 敵は私じゃなくてあの人でしょ」

 

 連なるジョークを、帰って来たはあとが止めた。

 敵のように扱われ、本物の敵を指して現実に呼び戻す。

 

「そうだよ、変な設定の話とかに時間割いてられないよ」

 

 メルもそうだと同意し、空に佇むスペードを見上げた。

 

「だから設定じゃ……」

 

 アキロゼは悲しそうに渋々と同じ敵を見上げる。

 

「今の茶番、わざわざ傍観してたの?」

 

 敵の典型、負けフラグとなる行為にまつりは首を傾げた。

 中学生の女の子ヒーローが変身する時、戦隊ものの男性ヒーローが変身する時、敵は変身中に攻撃しない決まり、法則がある。

 だがそれは、アニメや特撮のご都合主義。

 リアルではない。

 

 何故、スペードは傍観していたのか……。

 

「いえ……そのつもりなど無かったはずですが」

 

 まつりに言われて初めて自分の愚かさに気がついたようだ。

 まさか、4人の茶番に心動かされたわけでもあるまい。

 額に手を当てて小さく首を横に振る。

 何か邪念を振り払うように。

 

「油断は禁物ですね、ご好意感謝」

 

 まつりの呼びかけに敬意を示す。

 まつりはしまったともろに口にした。

 無意識に傍観していたのなら、黙って切り込むべきだった。

 

「まあいいや、やる気になったんでしょ?」

 

 まつりは表情、主に目つきを大きく変えて笑った。

 そのまつりを含め、4人を睥睨する男の威圧的な視線。

 

「ええ、まあ、想定外……というより、規格外の事態ですので。誰がやったのか、トランプが負けたようです」

「……」

「私の能力を知るあなた方、放置して報復には向かえません。一度見過ごして対策でも打たれると堪ったもんじゃない」

 

 無理矢理こじつけたような理由だ。

 対策されるからと言って自身の行動に制限をかけていては、作戦遂行は難しいはず。

 既に想定外の事態が発生しているのなら、多少の危険を冒してでも助っ人に行けばいい。

 ホロメンなど、元より大した敵と見做していないのだから。

 

 このスペードという男。

 色々と読めない部分が多い。

 脳内設計図が、まるで整っていないようだ。

 

「悪いけど、たった今、早速作戦思いついたんだよね。お前に勝つための」

 

 まつりの笑みが深くなる。

 メルもアキロゼもはあとも、えっ、と口を揃えて驚愕した。

 嘘か真か、敵も味方も判断に戸惑っている。

 

「みんな、ちょっと……」

 

 まつりは3人を一箇所に集める。

 作戦会議、というか作戦伝達。

 

「今度は傍観しませんよ」

 

 スペードが一つのホールを潜ってまつりの背後へ移動。

 横腹に全力の回し蹴りを打ち込む。

 

「ぐっ……」

 

 はあちゃまの時よりは綺麗に受け身を取るが、骨が軋むような威力。

 アキロゼの強化なしでは、まともに受けられない。

 男女差に加えて、運動能力の差だ。

 

 側にいた他の3人。

 アキロゼとはあとはすぐに身を引いた。

 メルはスペードの脚を捕まえに手を伸ばした。

 

 だが、スペードはすぐさま足元に広げたホールに入り遠くへ距離を取る。

 

 まつりはその一瞬で、はあとにだけ作戦の第一歩を伝える。

 

「分かったわ」

 

 はあとは力強く頷いた。

 

「みんな、行くよ!」

 

 まつりの号令。

 誰一人、気を引き締めない者はいない。

 

「威勢も調子もいい事で」

 

 スペードは誰を目掛けてか、駆け出した。

 素の実力で、相当速い。

 真っ直ぐ4人の中心あたりを目掛けて走り、ある程度接近すると標的をはあとに定めた。

 まつりが耳打ちしたことを危険視したためだ。

 策は本物だと見たようだ。

 

「赤繭」

 

 はあとの全身を赤い糸が覆った。

 まるで蚕の作り出す繭や、その他蛾が成長する過程で成るように。

 その容姿、赤く血に染まった繭のよう。

 

「はぁっ!」

 

 スペードは的を変えず突っ込み、強めに蹴りを入れた。

 しかし、硬いのか柔らかいのか、微妙な感触に威力は抹消された。

 

「……!」

 

 その背後を取ったのはメル。

 靄となって姿を消し、そして現す。

 形成されるメル本来の形。

 霞みがかった全身は、完全に生成する前にスペードを掴みにかかったが、彼は右側へと身を投げ、ホールへ逃げた。

 中空へ身を投じ、華麗に空に浮き立つ。

 

 残念、空振りだ。

 

「はあとちゃん!」

「はあちゃまよ!」

 

 赤繭を破り捨てると、またまた変貌、狂人はあちゃま。

 糸を駆使してスペードを地上へ引き戻す。

 とは言え、当たりはせず、勝手にホールを抜けて地上へ降り立つのだが。

 

「なら、これはどうでしょう?」

 

 空に巨大なホールが生まれた。

 4人の頭上を完全にカバーする大きさ。

 そのホールから落下してくるのは……大量の岩石。

 一体どこから引っ張って来たのか。

 

「自分の身を!」

 

 アキロゼが各々に呼びかけた。

 みんな、自身を守ることで手一杯。

 

「スカーレットスカイ」

 

 はあちゃまの頭上は幾重にも重ねた赤い糸で覆われ、岩石を防ぐ。

 

 メルは霞となって消え、アンデッドの力を見せる。

 

「おらおらおらおらおら」

「おりゃおりゃおりゃおりゃ」

 

 ムキロゼは肉体を強化して岩石を生身で破壊して蹴散らす。

 また、まつりは何度もバチで空を打ち、大花火で落下石を粉砕する。

 

「ふむふむ、では」

 

 スペードの意味深な首肯と同時に、ホールから降ってくるものが変わる。

 海水だ。

 

「わっぷ!」

「ぐっ……」

「ひゃ」

 

 大量の水は人を押し流すのに十分すぎるが、メルは霞のため効かない。

 ムキロゼは強化した肉体で力強く濡れた砂を踏み締め、身を留める。

 

 問題ははあちゃまとまつり。

 水流に抵抗できず、海側へ流される。

 このままでは海の果てまで流れゆく。

 特にまつりは距離が離れて沖まで向かう。

 

「はあちゃま!」

 

 ムキロゼがはあとの糸を数本掴んで引き止める。

 

「まつりちゃんにも糸を巻くんだ!」

 

 ムキロゼの指示ではあちゃまは更に流れるまつりの体を糸で括った。

 流れが荒く、水面が激しく揺れる。

 海が荒れた時のような波だ。

 

「メルちゃん、引き上げを手伝ってくれ!」

 

 ムキロゼは視界に映らない仲間を呼ぶ。

 すると、荒れた水流の中にメルが姿を現す。

 持ち前の怪力で強く踏ん張りながら、ムキロゼと共に糸を引いた。

 

「はっ! 二人とも後ろ!」

 

 はあちゃまが二人の背後から迫るスペードを見て喚起した。

 しかし、警告を受けても避けれない状態。

 奇襲を理解しつつも受けることを覚悟する。

 ホールは一度に二つ以上作れないことは既に見抜いている。

 

「ぐっ……」

 

 スペードの蹴りがムキロゼを横から撃ち抜く。

 一度水流が止む。

 スペード自身が流されないためにだ。

 だが、海の荒れが引くまではあと数秒。

 その数秒間に、ムキロゼは多くの拳と蹴りを受けたが、決して糸を離さず、体制を崩すことはなかった。

 

「メルちゃん、引くぞ!」

「うん!」

 

 海が静かになり始め、二人は息を合わせてまつりとはあとを一気に引き上げた。

 

「ぶはぁっ!」

 

 はあちゃまとまつりが海から引き上がる。

 砂浜に落下。

 濡れているとは言え、ソフトな感触で痛みは柔らかい。

 

「あ……ありがど……じぬがどおぼっだ……」

 

 まつりが砂浜に転がって、泣くような声で礼を言う。

 ゾンビのような声。

 目元が濡れているのは、もしかすると涙で、鼻元のは鼻水かもしれない。

 

 はあとは静かに立ち上がった。

 まつりとは対極的で、冷静だった。

 

「なるほど、無形物には無力……でないにしろ、弱点ですね」

 

 一つ弱点を手に入れ、顎に手を当てる。

 全体的に水には抵抗しようがないと分析した。

 否、もっと言えば、形ないものに弱い。

 火、水、気体など。

 4人は圧倒的な物理型特化。

 ギリギリまつりは炎を操るとも言えるが、気体、水、業火に巻かれれば勝ち目はない。

 

「はあちゃま……どう?」

「私、はあと! 準備はできてるから、あとは運」

 

 またしても人格がひっくり返っていた。

 まつりははあとの返しに頷いた。

 しかし……今日はやけに人格転換が頻繁に起こる。

 何かしら、理由はありそうだ。

 

「ううん、それより今は……メルメル、アキアキ、いくよ!」

 

 まつりは濡れて張り付いてくる服を気に掛けながら二人に合図をした。

 メルもアキロゼも、気が引き締まる。

 腹を括り、全力を持ってスペードと相見える。

 

「ミラーカ」

 

 メルが霞となって消える。

 アンデッドの一種である吸血鬼の力。

 姿の見えないままスペードへ接近、背後で自身の体を形造りながらスペードの襟を掴もうとした。

 しかし、直感で避けられる。

 追撃のまつり。

 バチを振ってメル諸共花火の餌食とするが、ホールで空に逃げられた。

 

 残念、空振りだ。

 

「もう〜、まつりちゃん」

 

 花火に打たれたメルが頬を膨らませてまつりに抗議した。

 まつりは「あはは」と笑いながら謝る。

 

「ごめんごめん、どうせ効かないからいいかなって……」

「吃驚はするんだよ?」

「き、気をつけます……」

「まつりちゃん、それより、またハズレよ!」

「本当に、攻撃を避けられてばかりだな」

 

 はあとの歯軋りとムキロゼの腕組み。

 ムキロゼからはやけに強者の風格を感じる。

 

 ムキロゼははあとの間近にいる。

 奇襲攻撃に最も対処しづらい仲間を庇いやすくするためだ。

 

「たぁっ!」

 

 スペードがまつりの真横に移動して海へと蹴り飛ばした。

 アキロゼの強化もないため、ガッツリと海へ吹き飛ぶ。

 

「まつりちゃん!」

 

 はあとが叫ぶ。

 幸い、まだ底が浅い。

 脇腹が痛いが急いで上がれば……。

 

「ぶわっ!」

 

 そこへ大量の海水がピンポイントで放出される。

 圧倒的水流で、一気に沖側へ押される。

 みるみる足の着かない底深い沖へ。

 

「まつりちゃん、待ってろ!」

 

 ムキロゼが海へ飛び込んだ。

 

「メルちゃん、そっちは任せた」

 

 強そうな筋肉は見えないが、ものすごい速度のバタフライで海を進む。

 まつりも懸命に足掻き、水没を回避して待つ。

 

「ふんっ!」

「ぐばっ!」

 

 スペードが砂浜からまつりを蹴り飛ばした。

 ホールに足だけを突っ込んでまつりを蹴ったのだ。

 まつりは痛みと共にさらに沖へ。

 

「ぐっ!」

「メルちゃん!」

 

 はあとは何もできず唇を噛む。

 ムキロゼはバタフライを続けてメルに支持するように力一杯声を張る。

 そうだ、メルはこちらを任された。

 こちらとは、スペードの妨害のこと。

 これ以上、沖に蹴られては救えなくなる。

 

 メルは砂を蹴った。

 飛ぶようにスペードに一直線。

 渾身のパンチを狙うが、当たるはずもない。

 空中に避けるまでもなく回避。

 見事に空振ったその隙にまたホールをまつりの下まで繋げて蹴りを狙った。

 

「ぐぅっ!」

 

 はあとが間に割り込み、蹴りを身体で受け止めた。

 腹を抉られて一瞬意識が飛び掛ける。

 何とかスペードの脚に掴まって、場は動かなかったが、目眩で世界に蜃気楼がかかる。

 しかしはあとは然としてその手を離さず、スペードの行動を封じる。

 

「くっ! このっ!」

 

 2度ほど追加で利き足でないが、蹴り込みが入る。

 でも、離さない。

 

「デッドリィブロウ」

 

 メルははあとが奇跡的に捕らえた敵をすかさず殴り飛ばした。

 メルの超怪力による超破壊的な一撃。

 綺麗なほど腹に打ち込んだ。

 はあとが同時に手を離し、スペードは遠くへ吹き飛ぶ。

 

 メルは一旦迎撃をやめ、膝が浸かる程度まで海へと入る。

 

「不死の冷気」

 

 アンデッド特有の冷気放出で周囲数メートルを凍らせる。

 ムキロゼとまつりの上陸を早めるために。

 それが功を奏した。

 二人は凍り付いた海面に上陸し、ムキロゼがそのまつりを抱えて2人の元へ戻った。

 

「がぁっ……はあ、はあ、はあ……あ、ありがと……はぁ……」

 

 泳いだムキロゼ以上にまつりは疲労が目立つ。

 まあ、ムキロゼ……いや、いまはアキロゼが強化状態で運動しても、疲労は少ないから、当然である。

 流れある海面でもがくことは、体力を減らすことに貢献してしまっている。

 寧ろ、まだ元気な方でマシだ。

 

「ちっ!」

 

 腹に一発ぶち込まれたスペードは、一旦空へ逃げた。

 

「なっ! なんですかこれは!」

 

 空でスペードの驚愕の声がした。

 見事、アタリだ。

 

「はあ、はあ……やっと……」

「やっと罹ったわね!」

 

 疲労困憊で必死に宣言しようとしたまつりを遮り、はあちゃまがスペードにビシッと人差し指を向けた。

 メルもアキロゼも、作戦を知らないため、動揺が隠せない。

 

「これは……糸!」

「そう、はあちゃまがずっと空に仕掛けてた糸に絡まったの」

 

 はあとの糸は、空中に浮くことも可能。

 物理法則完全無視の自由機動の糸だ。

 

「ふっ、しかし私が空では手が出せないでしょう? やがて糸も解けます」

 

 時間さえあれば、またスペードは稼働する。

 

「……だから、その前に倒す!」

 

 まつりは力強く宣言した。

 体力少ない中、しっかりと足を張って立つ。

 

「メルメル、アキアキ、お願い」

 

 簡潔に打倒法を伝授。

 きめはまつりが貰う。

 

「「オーケー!」」

 

 これで決める。

 

「レッドバインド!」

 

 はあちゃまの糸がさらに数本スペードに絡まる。

 解くまでに短くて1分はかかる。

 

「くっ、小癪な真似をしますね……ん、何を……」

 

 海、水面を駆ける1人の少女が目についた。

 メルだ。

 吸血鬼は、水面を歩ける。

 走り走り、疾走し、スペードの真下あたりで立ち止まる。

 

「アキアキ!」

「行くぞ、まつりちゃん!」

 

 アキロゼが肉体を強化。

 ムキロゼとなり、まつりを抱えるとまつりを全力で投げた。

 

「あわわわわわわわっ!」

 

 向かい風に当てられ、顔が破けそうだった。

 スペードは嘲笑を浮かべた。

 投げた所で、ここまでは届かないと、たかを括っているから。

 

「強化、まつりちゃん!」

 

 アキロゼが強化対象を自身からまつりに変更、まつりの身体能力が大幅に上昇。

 そのまま飛ばされ、落下地点はメルのいる海上。

 

「メルメル!」

「行くよ!」

 

「ま、まさか……くっ、このっ!」

 

 2人の掛け声と配置で作戦を理解。

 スペードは懸命に足掻き、糸を解こうとするが、一向に解けない。

 

「「せーの!」」

 

 まつりはメルの重ねた手に足をかけ力強く踏み込むと、メルの怪力での反発で高く空へ上昇。

 みるみるスペードが近づく。

 彼はホールを展開しようにも、空に立つために展開したホールに片足を突っ込んでしまっている。

 その状態でホールを閉じれば、足が切断される。

 足は糸で動かせない。

 

 畢竟……回避策、無し。

 

「観念しな、ワープ野郎!」

「畜生!」

 

 まつりは両手でバチを構える。

 和太鼓を、叩くように。

 

 赤い糸で包まれた空。

 隙間なく、決して飽きない光景に。

 夏色に、星の輝くその夜空に。

 夏の風物詩が、大きな音で一面を照らす。

 

「特大、夏色大花火‼︎」

 

 特大の海上花火が半径数キロを照らし出し。

 半径数キロに、その轟音を轟かせ。

 

 スペードという強敵を、沈めることに成功した。

 

「はあちゃま!」

「はいはーい、よっ!」

 

 まつりは、打ち上げ後に落下する星のように海上向けて真っ逆さま。

 同様に、花火に打たれたスペードも。

 

 見兼ねたまつりは、はあちゃまにスペードを海に落とさぬよう指示した。

 そして本人は、メルに王子のようにキャッチされる。

 

 4人は、濡れた服で、砂浜の砂を強く踏み締めた。

 押し返される、砂っぽい感触。

 気絶したスペードをはあちゃまの糸で縛り、地に放ると、4人は顔を見合わせる。

 

「ん」

「……」

 

 まつりが拳を中央へ。

 

「ふふっ!」

「やったね!」

「サイキョー!」

 

 4人の拳が、小さくコツンとぶつかり合う。

 

「ぅーーー――」

 

 誰かが喉奥で音を振動させて、その後はみんなで――

 

「「やったーー、勝ったー」」

 

 と、歓喜に声を揃えた。

 

 見事。

 東の海岸、海上ステージ付近の砂浜にて、スペード、撃破。

 

 

 また一つ、勝利を収めた。

 

 

 





 作者でございます。
 今回は1期生の見せ場でしたが、軽くネタっぽい戦い方にしました。

 次回はいよいよ、ずっと欠番だったあの人が……!

 あ、そらちゃん、お誕生日おめでとう。
 そして、ぺこちゃん、喉お大事に。

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