歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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62話 後輩の背中を押せたら

 

 トワは、事務所を飛び出したねねを追って同じく事務所を出た。

 しかし、しばらくしてその姿を見失う。

 

「やべえわ、カッコつけて追いかけてきたのに」

 

 早々にヘラりそうな気分に心を呑まれる。

 人はこんな時、記憶に濃い場所を求めやすいと言うが、既にこの近辺はねねの記憶に強く残っている場所とは言えない。

 多分。

 知らんけど。

 

「しゃーないし、直感で行くか」

 

 ねねの気持ちになりきり、どこへ行くか、妄想する。

 正直分からない。

 

 本当に当てがなく、テキトーに走った。

 誰かが通った形跡もあるはずがなく、孤独で街を走る虚しい気持ちになる。

 

「……誰や」

 

 正面、明るい暗闇の中に、真っ黒の服装でこちらへ向かい来る。

 味方とは思えない気配がある。

 悪魔の暗視で、黒かろうとよく見える。

 

「魔臭、悪魔の匂いだ」

 

 一般男性じみた、よく聞くような声で言ってトワを見た。

 僅かに出た鼻を鳴らして、ほんのり口角を上げた。

 

「こんな時に……」

 

 ねねを探している真っ最中に、敵なんかと遭遇してしまうとは。

 (つくづく)運のない。

 トワは手足を武術の手合いのように構えた。

 悪魔の尻尾が珍しく揺れた。

 

「希少、貴様らのグループは多種多様な種族で構成されていて、実に興味深い。一体、どのような味がするのか、どんな要素で構成されているのかと」

 

 より一層深く笑い、ブラックも戦闘の構えをとる。

 格好はトワと似通って、武術の手合いのような構え。

 2人の闘いはきっと、闇が深い。

 

「なんや、喰うのがアンタの能力的なん?」

「明察、万物を喰らい、万物を我の力の源とする能力。それこそ『暴食』」

 

 そう言って、腕の袖を上げる。

 黒服で隠していたその腕は銀色に輝く。

 それは正しく金属光沢。

 腕が金属でできている。

 

「鋼鉄、それを喰らえば鋼となる」

 

 まるでロボットやサイボーグ。

 そんな右腕の構造。

 

「業火、それを喰らえば炎となる」

 

 口から火を吐き、周囲を照らし威嚇する。

 

「軟物、それを喰らえば軟体となる」

 

 左腕の袖を上げると、そちらは鋼の腕とは対照に柔らかく柔軟すぎる性能を持っていた。

 

「食欲、それは生への欲求。食事、それは力の摂取」

 

 トワは黙って能力分析を続ける。

 

「啓発、我は美食家などでは決してないが、人の数倍、食を理解し、食という行為の悦楽を常に身に刻んでいる」

「どうでもえーわ、そんな啓発」

 

 トワは鬱陶しい自惚のような演説に毒づいた。

 能力だけ聞ければいい。

 食への理解とか、悦楽とか、そんな面倒なことはどうだっていい。

 食へは、感謝さえ持てばいいんだ。

 

「不審者すぎて重要なこと聞いてなかったけど、もしかしなくても戦うつもりやろ?」

「愚問、両者既に、その態勢であろうに」

 

 まあ、見逃してはくれまい。

 なんとなく、コイツはトワを狙って相手しに来たと、勘が告げているから。

 

「逃げてもなー……」

 

 逃げた先でねねに遭遇するとまずい。

 いや、ねねに限らず、誰かに遭遇するのは危険だ。

 遭遇相手、敵味方問わず。

 

「金剛、鉄拳制裁」

 

 ブラックが先制攻撃を仕掛けてきた。

 鋼の右腕をトワに向けて全力で振るう。

 後方に跳ねて身軽に躱すとトワは紫色の闇の魔弾を手元に生成する。

 

「金剛、鉄鞭(かなむち)

 

 トワが避けて開けた距離を、ブラックは腕を伸ばして詰める。

 伸びた腕が振り回されて、鞭のようにトワを横から襲った。

 奇襲に対処できずトワは両腕でガードしただけだった。

 

「いっ……!」

 

 骨が折れそうな衝撃。

 罅程度なら、入っているかもしれない。

 二度と食らいたくない。

 

「自在、部位の素材変更は如何なる時も」

 

 ブラックの右腕は、肘から手先までが鋼鉄、肘から肩までがスライムのような質に変化しており、スライム部分を伸ばして鞭のように扱ったと思われる。

 

 また重傷を負ってちょこ先生に治してもらうなんて、申し訳が立たない。

 しかも、それが敗戦結果だとしたら尚更。

 

「大全、我は決して無意に今まで街を徘徊していた訳ではない」

 

 ブラックが一度顔をなぞってつぶやいた。

 

「数刻、我はあらゆる力を求め、食に努めた。所以、食後約12時間のみ、我はその成分を体内に宿す」

「鬱陶しいんやけど、その喋り方。なんか面倒いわ」

 

 トワはブラックの暑苦しい口調に文句を垂れて、言葉を無視するような態度を取った。

 数秒前に受けた一撃のダメージが、ヒリヒリとする。

 再び同箇所に命中すれば、確実に骨折以上。

 しかもどうやら、まだまだ体内に保管している成分はあるようで。

 

「畢竟、約12時間、貴様は決して我に敵わん」

 

 バチバチとブラックから電気が迸る。

 微量だが、身体から放電している。

 電気すらも食したと言うのか。

 炎もそうだが、一体どのように無形物を食べるのか。

 それが叶うのであれば、コイツは空気にも変化できることになる。

 無形物に変化されれば、敵わないのは確然たる事実。

 

 12時間という時間制限、耐久戦しようとも、12時間では国が陥落してしまう。

 真っ向勝負では力不足。

 

「事例、貴様が加護を所有していようとも」

「……」

 

 慧眼さは侮れないようだ。

 トワはブラックの確言に思わず尻尾を立てた。

 

「……じゃあ、かかってこいや」

 

 そして、威嚇するように、全身の毛を逆立てるように牙を剥いた。

 トワの目が、悪魔的に煌めく。

 

「周章、しかしそれもまた仕方無し。焦燥、それもまた、仕方無し。慈悲、故に我より手を下す」

 

 ブラックが鋭い牙を薄白く光らせた。

 

 トワは構えを解く事なく、冷静に迎撃に備える。

 ブラックの動きに合わせて動こう。

 

「……?」

 

 何やら、微かに音がした。

 プルル、という着信音。

 トワじゃない。

 

「……反復、エース?」

 

 ブラックはまるでトワを敵と見做さないように、直様電話に出た。

 

「何……」

『ブラック! 今すぐラジオ塔へ行け、不自然な電源が付いた』

「何故……⁉︎」

『知らんが、好にさせるのはまずい。お前が間近だ、急げ』

「承知」

 

 ブラックは敏速な対応を見せ、トワを放置してラジオ塔へ駆け出す。

 

「あ、待て!」

 

 一瞬思考停止したが、トワは迷わずブラックの背を追う。

 会話は聞こえた。

 誰だか知らない、何だか知らない、が、何かキーとなる行動のはずだ。

 邪魔などさせない。

 

「笑止、待てと言われて、待つ道理など無い」

 

 ブラックは鼻で笑って加速した。

 足が速い。

 体の構造が違えば当然か。

 

「誘引・魔刻」

 

 トワが右手で銃を撃つような仕草をブラックにした。

 立てた人差し指と中指、その先端あたりから闇色の魔弾が発射されブラックの背に打ち込まれる。

 

「加護、やはり貴様……」

 

 ブラックは一応魔弾を回避し、トワを、目の奥に映る影に投影した。

 

「泰然、今はよそう。向後、再び相見えた時、祓うとする」

 

 ブラックは一度止めた足をまた動かし始めた。

 

「は? なんで……」

 

 トワは加護の力が効かない事に怯んだが、やはり迷わず後を追う。

 

「遊撃、魔の誘幻」

 

 トワから、他人には見えない薄紫色の糸状の靄が飛び出してブラックに刺さる。

 目に見えぬように、実体がないため刺さった事に気が付かない。

 この糸を通じて相手の魔力を読み取り、力を盗むことができる。

 これも加護の力によるもの。

 魔力とは、悪魔由来の力であり、加護を持つ悪魔はそれを魔力から分析し、魔力由来の魔法や能力をコピーして使うことができる。

 

「……いや、マジであり得んわ」

 

 能力分析の結果が出た。

 先程ブラックが述べたように、食べたものの材質を体に取り込む能力だ。

 つまり、何かを食べる必要がある。

 この能力を一時的に借りている間は問題ないが、効果を破棄した時、体内の残骸が後遺症を引き起こす。

 トワには使えない。

 

 だからブラックは言ったのだ。

 たとえ加護を持っていても、と。

 

 コイツは強い。

 圧倒的に。

 トワが相手取るにはレベルが高い。

 が、味方の妨害はさせない。

 

 徐々に2人の距離は開いていく。

 そして遂にラジオ塔へ辿り着く。

 いち早く塔についたブラックは、トワが着く頃にはエレベーターで放送室のある階へ向かっていた。

 待ち伏せの危険もあるが、走るよりエレベーターを待つ方が早いと踏んでトワはエレベーターを呼ぶ。

 が、ある階から動かない。

 壊れているようだ。

 

「くっそだりぃー!」

 

 仕方無し。

 トワは敢えて非常階段を走る。

 エレベーターを壊すなら、通常階段も真っ先に潰すはず。

 運が良ければ、非常階段だけ気付かれない。

 

 ……なんてことが、今日の不運なトワにあるはずもなかった。

 

「あいつマジで!」

 

 崩落した扉前。

 加護を使って破壊できるだろうか?

 

「普通にはキツイなぁ……」

 

 通常の威力では、ある程度のヒビを入れられる程度。

 かなり分厚いので、何発も撃つのは地道な事。

 

「……」

 

 トワは一つ下の階へ。

 一撃でぶっ壊す方法が浮かんだ。

 

「悪魔的やなー、やっぱ悪魔だわ」

 

 トワが入ったのは何もない普通の部屋。

 肝心なのは、この上の部屋が何か。

 

 そう、この上の部屋は放送室。

 当然防音室だ。

 この天井は、他の場所に比べて比重が大きい。

 表面を崩せば、重さに耐えきれず崩落するはずだ。

 

 問題は、途中で聞こえたねねの放送。

 この真上には、ねねがいる。

 ブラックの声も入っていた。

 奴もいる。

 

「……まあ、何とかするか」

 

 地面が抜けて落ちても、この高さなら死にはしない。

 最悪、トワがなんとかする。

 羽もある事だし。

 

 トワは両手に魔弾を生み出す。

 天井へ放つと天井に直撃する時にそれぞれがぶつかる。

 衝撃により二つの魔弾は破裂、爆発的な威力で全てを吸い込むような力を放った。

 

 天井が軋み、ひび割れる音が鳴る。

 ピシっ、ピシピシっ。

 と。

 そして、ポロッと天井のカケラがトワの足元に落下。

 そこから連鎖して、細かいカケラがまずはパラパラと、そしてカケラは大きくなり、瓦礫となって天井が一瞬で崩壊を始める。

 パリンっ、とどこかで窓ガラスの割れる音が響く。

 

 天井の崩落により落下してくる2人。

 どうせブラックは体の材質を変えて耐えるだろう。

 ねねだけを意識しよう。

 

「うわぁーー」

 

 ねねが悲鳴と共に落ちてくるが、瓦礫が邪魔で到底助けられない。

 

「やばっ! ねねね!」

 

 瓦礫を回避してねねに迫るも、キャッチまでは漕ぎ着けられない。

 後輩に、怪我させてしまうのか。

 

「モーション・零」

 

 全ての自由落下が停止した。

 ねねも、ブラックも、瓦礫の全ても、空中で漂うように停止した。

 その隙に、トワがねねを捕まえて安全な場所へ。

 直後、落下が再開し、ブラックは瓦礫上に落下した。

 

「2人とも、離れるよ」

 

 ねねとトワを助けたのは、ホロライブ最強の魔法師、紫咲シオン。

 シオンは箒なしでここへ飛び込んできたようだ。

 窓を割り、侵入したと思われる。

 その窓に2人を誘導する。

 

「トワは自分で飛べるから」

「ねねち、行くよ!」

「え、シオン先輩?」

 

 窓から飛び降りる、の視線。

 トワは余裕の羽ばたきで宙に浮く。

 

「ここにいると逆に死ぬよ」

「いや、飛べるのは分かるんだけど、そう言う問題じゃなくてただ純粋にこの高さから自分の足で降りるのは……」

「いいから!」

「ちょっ、せんぱーーーーい!」

 

 うだうだと喋り、勇気を見せないねね。

 放送した時の勇気はどこへやら。

 そのねねの背を無理矢理シオンが押して、ねねは窓から落下する。

 非常に高い位置からの落下。

 着地は不可能。

 だが、シオンがいてそんな途轍はない。

 

 箒を持たないシオンが、ねねに続いて自ら飛び降りる。

 空中を歩くように駆け回りながらねねに魔法をかけ浮遊状態にすると、ラジオ塔から引き離す。

 トワにも指示して、塔から距離を取らせると。

 

「マジックブラスト!」

 

 右手の人差し指を何かを操作するように動かす。

 刹那、ラジオ塔が大爆破する。

 下階、中階、上階。

 あらゆる場所から同時に爆発が発生し、粉々になって完全崩壊する。

 

「な……」

 

 トワとねねはあまりの規模の爆発に絶句していた。

 いくら敵が敵でも、やり過ぎではないか、と。

 

「アイツの能力じゃこの程度で死んだりしないよ」

「…………でも、これは」

「んや、これで向こう側も連絡手段を失くすから」

「え……あ、電波……?」

 

 ねねとトワは敵の情報交換法を間近で目にしているから合点がいく。

 ラジオ塔は電波塔の役割も果たしている。

 しかもこの国の核となる電波塔だ。

 これで通話は叶わない。

 

「なるほど、それでここに来てたわけか……」

 

 トワはシオンの行動手順にも理解が及ぶ。

 それと同時に違和感も生まれる。

 

「ん、ちょい待ってや、電話はまだしも、なんでアイツの能力知ってんの?」

 

 ブラックの発言は「ずっと食事をしていた」だった。

 誰かと会った様子はない。

 何故、シオンが能力を知っているのか。

 盗み見た?

 

「天才だから」

 

 シオンは冗談めかして答えるとねねと自分を地に下ろす。

 

「ねねちは色々知ってるみたいだから、スタジアムに向かって」

「走って?」

「うん」

「えぇ〜……」

 

 明からさまに嫌そうな顔。

 そう遠くはないが、そう近くもない。

 走るにしては大変な距離ではある。

 

「箒がないから式組みもできないしさ。それとも、アレの相手する?」

 

 シオンは倒壊したラジオ塔の残骸から這い出てくるブラックを指して尋ねる。

 やはり、あの程度では無傷で健在。

 あの高さから、真っ逆さまに地面に落ちれば流石に鋼鉄でも割れたり凹んだりするが、倒壊する瓦礫にぶつかりながら落下する事で落下の勢いが弱まっている。

 小さな攻撃を複数回与えても、鋼鉄には効かない。

 

「うそ……アレで無事って……」

「ほら、早く行って」

「ねねねはキーパーソンになってるはずなんよ。だから、行きな」

 

 シオンに便乗して、トワもねねを後押しする。

 ねねは、放送こそが自分の役であり、自分の勤めを終えたと、誤解している。

 みんながみんな輝ける場所がある。

 それは決して一つや二つ、一度や二度限りの希少枠ではない。

 突き進む限り、壁が立ちはだかり、それを乗り越える度に見られる景色、立てる舞台が存在する。

 敵の作戦を聞いているねねが、スタジアムに行く事に大きな意味があるはずだ。

 全員に放送で指示をしたねねが、スタジアムに行かないで、士気が高まるはずがない。

 少なくともねねがスタジアムに行く事で、人の心の支えになれる。

 

「……分かった」

 

 ねねは2人の真摯な視線に負けて、自分の弱さに押し勝って、走り出した。

 トワとシオンは、笑って見送った。

 気をつけて、と一言だけ添えて。

 

「……でも、異色じゃない? この2人って」

 

 トワがシオンに軽口を叩く。

 確かに、トワとシオンが2人きりとは珍しい。

 しかし、この2人でブラックを相手にすれば、負けはしないだろう。

 

「……? そうだね、じゃあ、しばらく任せた」

「はあ?」

「頑張って!」

「ちょぉーーーーーい!」

 

 シオンはトワを置いて空へと飛び出した。

 トワは大声で呼び止めるが、シオンは無視して消え去る。

 ぽつんと残るトワ。

 ヘラりそう。

 

「貴様、よくも……!」

 

 ブラックがいつの間にやら直ぐそばまで迫っていた。

 

「は、いや、待て待て。あの爆破はトワじゃなくて、別の人が……」

「譴責! 仲間なら共犯。無用、問答、まずは貴様だ」

 

 み、見捨ててないよね⁉︎

 

「後輩に任せんなやー!」

 

 トワは後輩の背中を押したが、シオンは後輩に全てを任せましたとさ……。

 

 





 どうも、作者です。
 さあ、ねねちの活躍はまだ止まりませんよ。
 そして、ずっと活躍が見られなかったトワ様にもスポットが。
 まだまだ光の当たってないメンバーは多くいます。
 これからですね。

 あ、一期生の皆様、4周年めでたい(多少のズレ)。
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