「おい兎田ァ! ぴょこぴょこ動き回って邪魔だー。どけよおめぇ!」
「あぁ⁉︎ 折角加勢に来たってのに何様ぺこだよ! みこ先輩のエイム力がないのが悪いぺこだろ!」
「あんだと! 当てにぇように意識してやってんのに。もう当たってもしんにぇぇからな!」
「当てようにもどうせぺこーらには当てれねぇぺこだから、要らない心配ぺこだよ。杞憂ってやつぺこな」
「なにをぅ⁉︎ 先輩に向かって何て事言いやがんだぁ! 一言二言、いや、全ての言葉が無駄に多いにぇ!」
「はぁあ⁉︎ 喋んなって言いたいぺこか!」
「そうだよ! 何なら加勢もいらにぇよ、どうせ兎田の『しけしけきっく』なんか当たっても意味にぇぇし〜」
「それならみこ先輩の『しけしけしけしけびぃむ』の方が意味ねぇぺこだろ」
「それなら兎田は『しけしけしけしけしけしけきっく』にぇ〜〜」
「しけの数増やして対抗とかどんだけ幼稚ぺこだよ」
「始めたのはおめぇだろうがよぉ」
「一回ならいいぺこよ、天丼じゃねえから」
「屁理屈いってんじゃねぇ!」
………………。
………………。
………………。
………………。
このように、スタジアム付近の大神社ではぺこみこの口論が発生していた。
その仲間割れを前に唖然として言葉も出せないラヴ。
ぺこらが援軍として駆けつけ、不意打ちを撃たれた際には肝を冷やしたが、寧ろ好都合な展開だった。
敵ながら、二人の喧嘩が見ていて純粋に愉快だった。
暇もせず、二人を足止めができる。
小学生同士の言い争いを眺める保護者のように、ラヴは成り行きを見守っていた。
やがて口論は終わり告げ、どうなるかと言うと……。
「ボコボコにすっぞ!」
「ならその前にボッコボコにしてやるぺこ」
そう、戦争が始まる。
ラヴは高み……ではないが、見物するためにそばの岩に腰を下ろした。
「さて、どっちが勝つか……」
勝ったやつをラヴが倒す。そんな安直な算段。
正直なところ、どちらが勝とうと、ラヴは負けない。
ぺこらの能力は蹴られた瞬間に感じた。
全く同じ能力だと。
しかも、成長方向は違えど、ラヴはその上位に位置する。
みことのタイマンも、ぺこらが来る前の様子から、まず勝てる。
もし負ける可能性があるとすれば、二人が突如結託してラヴ討伐にかかる場合と、他の援軍が駆けつける場合のみ。
どちらも可能性としては十分だろう。
「ま、一応警戒ってとこか」
二人が結託、とは元々の絆があると言う意味。
油断を誘う様子ではないため、その絆があるかどうかが鍵だ。
援軍の警戒については正直無理だろう。
気配を感じ取る力なんてない。
「ぺこちゃんキック、くらえぺこ!」
ぺこらが地を蹴り空を蹴り、空へ飛び上がると急降下してみこに蹴り込む。
勢いでスカートがひらめくから、その下がよく見える。
とは言えただのスパッツですが。
「……方向転換、上手いな。ウサギだからか」
ラヴはぺこらの身軽さと能力の操作性に一人感心した。
感心している間に、ぺこらのほぼ垂直キックはみこに迫る。
「ふんだ! そんな『しけしけキック』、てんたいでエリートのみこはくらったりしにぇぇよーだ」
ぺこらの蹴りはみこの頭上付近で結界と衝突。
激しい衝撃波を放って威力を殺した。
ぺこらはそのまま足への反発を利用して、空へとまた飛び出す。
反発を利用しているため、通常より移動速度が僅かに速い。
空を蹴るのと、壁を蹴るのでは足に掛かる抵抗力が異なるからだ。
抵抗力が大きいほど、そのベクトル方向を変換した際の跳躍力も増す。
空を蹴ってできるのは精々方向転換か、威力保持程度。
空中に跳ねたぺこらは何度か空を蹴ってみこの周囲を跳ね回り撹乱する。
「どうせ『しけしけキック』じゃ結界を破れないにぇ」
みこは周囲を動かれて目が追いつかないが、結界にいるため安全とたかを括っている。
ドガッと、そばの岩が破裂した。
砕けた幾つもの岩の破片が、結界に飛翔してくる。
「これならどうぺこだ!」
岩の破片を蹴って結界にぶつけまくる。
物凄い、石の雨。
「っと……流れ弾に気をつけねえと」
ラヴの顔面に外れた石が飛んできた。
能力を使って瞬時に手で弾いた。
「ざんね〜ん、ききましぇーん」
「なら、こうじゃっ!」
岩の欠片を一つ残らず吹き飛ばすと最後にまたぺこらが飛び掛かる。
が、今度は結界に向けるのは足ではなく手。
さらに細かく言うなら、手の中のとある石。
その石は黄金に輝く。
「アレは……!」
ラヴはその石に全てを奪われる。
愕然と光景を眺めつつ、その黄金の石を凝視していた。
バリっと、耳障りな音に合わせて結界が破れる。
そのままぺこらは体を半回転させてみこに蹴りを撃ち込む。
「ず、ずるぃぞ兎田!」
「有効活用ぺこ」
ぺこらの蹴りはみこの幻出した大幣に命中した。
互いに反発して距離を取るぺこみこ。
みこはずざーっと後方に地を滑り、ぺこらは抵抗力を利用して後方に飛び退けた。
そのタイミングで、唐突にラヴが介入してきた。
ぺこら目掛けて猛スピードで襲い掛かる。
「むっ!」
「きぃっ!」
ラヴの奇襲の拳をぺこらは奇跡的に足で受け止めた。
互いの能力が衝突し、互いの抵抗力が暴走する。
が、あまり普段と変化なし。
反発しあってまた、距離が開く。
「悪いな、石持ってるんじゃ、無視できねぇからよ」
ぺこらが意図せず見せた五石のうちの一つ。
中央エレベーターの金色の石に興味を示した。
「あ、やべ、そう言えば……」
ぺこらは、ノエルに託されたことを思い出す。
何故これをぺこらが持っているのか。
少し前のことに思念を巡らせ、記憶を辿る。
「あー……見せちゃまずかったぺこだな」
ぺこらは自身に冷笑を浴びせて、そっと懐に石を仕舞い込んだ。
「それ持ってんなら何でここ来てんだよ」
みこも突如対応を変えてぺこらへの敵対意識を解いた。
「水差して悪いな」
ラヴはぺこらを狙って踏み出す。
ぺこらは跳躍して空へ逃げる。
が、ラヴはその速度を凌駕して距離を詰めた。
「うっ! がっ」
ラヴも中空で気体を蹴りぺこらを追うと地面に蹴り付けた。
今回ばかりは命中して、ぺこらは地に真っ逆さま。
「人形……がない!」
みこはラスト3枚目の人形を内ポケットから抜き取ろうとしたが、ない。
だって、すいせいがパクったから。
「んっ」
まずい、このままだとぺこらが致命傷だ。
そんな時、ぺこらは空気を蹴った。
高速落下で、体の向きは変えられないが、足は伸ばせる。
背中を地面に向けたまま空を蹴ると激しい勢いのまま斜め方向に地面に向かう。
せめて垂直の衝突を免れるための措置。
ズザァーーっ、と激しい土煙と音を立ててぺこらが滑走したり、軽く地面をバウンドしたり……。
「ウサギちゃんのお陰で、こんな応用法知れたよ」
空中で定期的に跳ねながら地を転がるぺこらを見下した。
ぺこらの力不足で足のみに働く特殊能力。
そこから編み出した応用が、まさか敵に盗まれるとは。
しかも、相手は全身のどの部分に掛かる抵抗力も操作できる。
「兎田!」
滑走による摩擦で主に背中を大きく負傷。
更に数回跳ねたことと、一度目の地面への衝突で幾つかの痣。
可愛いアイドルには似つかわしくない怪我を負った。
そのぺこらを背後に庇うようにみこは前へ出た。
背後で意識を昏倒させるぺこらを強く呼び気絶を阻止。
強い眼力でラヴを睨み付けた。
「さっきまではお前らでやり合ってたろ。何で俺が手出したらキレんだ?」
ラヴは腑に落ちないといった目で俯瞰する。
怒ってないが、納得できない。そんな感じ。
「ガキ同士の喧嘩に手出す大人がいるかよ」
止めるための介入でも、手は上げないだろう。
ぺこらとみこが子どもで、ラヴは全く無関係な大人。
二人の喧嘩と、ラヴの介入は意味が違う。
「分からねえな……その理屈は、イマイチ」
「仲の良い友達同士と、無関係のもの同士で、例えばキモいとか、死ねとか言ったら、色々意味が変わってくるだろうが。それと一緒だよ」
「友達にそんなこと言うのか、最近の子どもは困ったもんだな」
「言うよ。それが愛情表現になるから」
「そりゃ、息苦しいな。変革の余地ありだ」
子どもたちは、互いに罵詈雑言を浴びせて愛情を表現する。
気軽に不適切な単語を並べ立てて、笑い合っている。
そのように、一部のホロメンも互いにそんな事を言っている。
アイドルらしからぬ、汚い言葉も時には飛び出す。
でも、そこには明確な愛がある。
喧嘩も同様だ。
喧嘩するほど仲がいいとも言うではないか。
「が、ま、いいや、どうだって」
ラヴは空中を土台に跳躍。
ぺこらの前に立ち
大幣を使って迎え撃とうと身構えるみこ。
ここぞ、というタイミングで大幣を振り回そうとした瞬間、ラヴはみこを通過してぺこらに蹴り込んだ。
「チッ」
咄嗟の判断で間に挟んだ大幣が、間一髪、その蹴りを受け止めた。
「なに兎田狙ってんだ」
激昂したように頭に血を昇らせて、みこが叫んだ。
よろよろと立ち上がるぺこらの真横へ移動すると、またラヴと向き合う。
ぺこらが驚いたように、みこの背中を揺らぐ視線で見つめた。
思ってた以上に、頼もしい背中だ。
「お前なら狙わないのか? 俺の立場にいたとして」
質問返し。
納得しかない返し。
石を持っているのはぺこら。
今傷を負っているのもぺこら。
みこを狙う意味がない。
「分かった、ろ!」
ラヴがみこを狙うように直進。
みこはぺこらを守るために全神経を注ぐ。
ラヴはみこの目前でターゲットを切り替え、みこの真横を通る。
みこはそれを事前に察知して大幣を現出し……
「うぐっ……っ」
ラヴはみこを側面から蹴り飛ばした。
「安直な思考で読み易い動きだな、呆れるよまったく」
ラヴは肩を竦めて失笑する。
蹴りで弾かれたみこは、少し距離を置いて脇腹を抱え、しゃがみ込んでいた。
ラヴにはみこを狙う意志がない、と思わせ、みこ自身の守備力を低下させた。
他人の守備力は、心を掴めば操作できるもの。
「頭も腕もイマイチ。それで勝ち組ってのが本当に理不尽だよな」
ここでもそんな話。
彼らの行動理念はやはり、実力主義の世界への変革。
「勝ち組……?」
苦悶の表情に疑問の表情を足して、みこはゆっくりと立ち上がりながら首を傾げた。
ぺこらも、背中を意識しながら立っている。
「分かんないか? お前らは圧倒的に人生の勝ち組。もはや幸せな人生を手にしたも同然。俺にも及ばない頭と腕でありながらな」
そして辟易するよ、と加える。
みこはその話を真正面から考えつつ、ぺこらのそばに回る。
「比べて俺は負け組同然。頭も腕も立つのに、醜くこんなことするザマよ。あ、一応言っとくがこれでも、初めての犯罪だ」
それはもう、真っ当な人生だったと自身の行いに不満はなさげだ。
一体何が、こうも大きく素質の異なる二人にまるで真逆の人生を与えたのだろうか?
「詳しい事情なんて分かんにぇぇけど、みこはみこが勝ち組なんて思った事、この人生で一度もないにぇ」
「ま、分かってて活動してたら、そりゃもう悪徳商法みたいなもんだろ」
その理屈には頷き難いが、みこは終わっていない言葉を続ける。
「でも、みこは一度も自分や他の人が負け組だなんて思ったこともねぇ!」
真摯に言葉に向き合って、一瞬で出た答え。
人と人で格差はあるし、人は平等ではない。
みんな違ってみんないい、と言うと聞こえがいいか。
「自分が負けてるって理由つけて、みこは自分の人生を放棄したりしない」
「おいおい、発想の飛躍だぞ。俺だって人生放棄はしてないだろ。現にこうやって変革しようって尽力してる」
「あ、そうか……ごめんなさい」
「お、おお……気にすんな」
突然謝罪され、ラヴも動揺した。
ぺこらも呆れていた。
「みこ先輩、ちょっと変われぺこ」
届かない背中の火傷に触れるような素振りをして、ぺこらがみこの肩を掴む。
そして、無理矢理前後で立ち位置交代した。
「アンタは多分かなり努力して頑張ったんだと思うけど……」
他人の人生に何があったか知らないけれど、きっと皆んな必死こいて生活してる。
どんな境遇の、どんな存在であれ。
「人生に勝敗があったとして、勝者が努力してないと思うなぺこ」
ぺこらの言いたいことはそれだった。
勝利を掴むものは、それがどんな勝利であれ、努力をしている。
敗者を凌駕する量の努力を重ねて得た勝利。
「兎田、カッコつけたんならもう下がってろよ」
「人が折角決めたのに、ひどい言い草ぺこだな」
みこはぺこらがみこよりマシにセリフを決めたことに嫉妬して水を差す。
「耳が痛ぇよ。知ってること言われんのは」
ラヴのその言葉が二人には気の毒に聞こえた。
きっと、過去に努力しなかった自分がいたのだろう。
みこもぺこらも、幼少期はお世辞にも幸福の人生とは言い難かった。
今でこそ幸せに包まれてはいるが、昔もそうとは言えない。
実際に、その結果として義務教育の敗北を実感している。
「昔から、不都合なことには耳塞ぐ逃げ腰野郎なんでね」
ラヴは臨戦態勢に入る。
それは耳を塞ぐのではなく、口を塞ぐために。
自分のではなく、相手の。
「兎田、下がってろ」
みこは仕返しのようにぺこらの肩を掴み、前後の立ち位置を交代した。
「いいぺこ!」
ぺこらもやり返す。
「いいから!」
みこがやり返す。
ぺこらがやり返し、みこがやり返す。
返し返し返し返し返し返し返し返し返し返し返し返し。
「いっつも溶岩で死んでる先輩に比べりゃ、こんなんただの擦り傷ぺこ」
「あんだとぉ!」
「ホントに、ただの擦り傷だから」
「……おめぇ」
ぺこらの瞳に灯る光を見た。
月光を受けて煌めく兎の目。
特有の眼光が、敵を見据えていた。
「茶番ってのは、どの程度まで許容すりゃいんだ?」
何となく、ちょっと待ってみたが、二人の芸は終わりだろうか。
そんな意図でラヴが唸る。
顎に手を当て、頭を掻き、敵を見た。
「っし、ま、もうよさそうだな」
律儀に時間をくれたラヴもとうとう動く。
ぺこみこのどちらに狙いを絞るでもなく、突っ込む。
「ふっ!」
「あ、兎田!」
ぺこらが真っ向勝負を挑みにかかった。
急な動向にみこはぺこらを止めきれず。
正面から二人はぶつかり合う。
脚と腕が衝突。
互いの抵抗力を駆使して相手への反発力を強めるが僅かばかりラヴが勝る。
微量ながらに押されていくぺこらの力。
男女格差であり、能力使用経験の格差である。
「おらっ!」
「チッ」
側面から大幣がラヴに強襲したが、ぺこらからの反発を活用して後方へ退散、大幣は虚空を貫く。
更にぺこらがもう一度ラヴを正面から蹴り込みにいく。
が、ラヴはその脚を涼しい顔をしながら片手で受け止めた。
能力からの実力差が如実に表れている。
無策タイマンでの勝利はゼロに等しいだろう。
「みこ先輩!」
「あ、んだ?」
ぺこらが確信した弱点を突くためにみこを使おうとするが、それをラヴは危険視してぺこらに襲い掛かる。
攻防を繰り広げながらの会話は難しい。
それでもぺこらには勝機が見えている。
伝達するために多少の無理をしてみるが……。
「みこ先輩! こいつは、ぐっ!」
蹴り飛ばされ、中断。
べまこらの軽い体は容易く吹き飛び地を転げる。
大地に今一度背を預けたが、すかさず起き上がる。
「能力……がっ!」
また、ぺこらを蹴り抜く。
腕で壁を作って威力を弱めたが、やはり吹き飛ぶ。
「い、ってぇ…………」
「喋ると次は骨が折れるぞ」
本来なら今の一撃で一本ほど折れていた。
抵抗力の防御で凌いだことで、ヒビ程度に収まったわけだ。
「……」
「おいテメェ、みこの方がポンコツだぞ! こっち狙えよ」
人生初めてのポンコツ宣言。
仲間のためなら惜しくはない。
「戦闘能力はお前の方が上だ。自覚しろ」
みことぺこらの実力差を今の一瞬で押し測った結果、ラヴはそう結論づけた。
確かに間違いはない。
みこが劣っているのは発想力のみ。
みことぺこらは一度黙り込んで睨み合う。
ぺこらは考える。
長い言葉での伝達は奇襲対処に迫られて不可能。
短い言葉で伝えるにも、みこが果たして飲み込めるか。
最悪、みこに超結界さえ展開してもらえればいい。
だが、その展開の仕方も指示をしたい。
一言では到底伝わらない。
どうする?
みこは考える。
ぺこらが突き止めた弱点は何だ。
みこに、何をさせたい。
望む助力は。
このタイミング、と言うことは、発覚はついさっきのはず。
ぺこらが、手柄独り占めなどのクソみたいな思考を持ってなかったとして。
敵の行動の、不自然な点は何だ。
どうする?
「ベクトル!」
ぺこらは一単語、叫んだ。
ラヴの強襲は目を疑う速度。
「くっ…………?」
防御の構えをしたぺこら。
しかし、二人の間に割り込んだ大幣が代わりに攻撃を受けていた。
その一瞬、ぺこらはラヴを側面から蹴り込みにいく。
「これ!」
ぺこらがラヴの脇腹を狙った一撃を放つが、見事に外れた。
単純に避けられた。
だが、ぺこらの言う「これ」とは?
「ベクトル」の意味は?
あまり良くない頭を回転させる。
何が変だった。
今のラヴの不自然な所は。
戦闘シーンとしてなんの変哲もない一コマ。
攻撃を当てれず、攻撃を躱し……。
「……」
「おせぇぺこ」
「やれやれ……」
みこの細かな変化をぺこらは見逃さない。
ぺこらの言葉で、ネタバレを悟ったラヴ。
だが、肝心なのは打つ手立て。
みこには未だに倒すプロセスが浮かばない。
ぺこらには浮かんでいるが、先と同様、伝える手立てがない。
しかも、その方法が正攻法とは言えない、ただの力業。
能力者のぺこらでなければ発想できない。
せめて、みこに近づければ……。
「ふっ!」
ぺこらは空へ駆け出す。
それを追跡するラヴ。
みこも大幣に乗って空へ舞い上がる。
幾度となく繰り返した攻防戦を、今度は空中で行う。
特に理由はないが、ぺこらが空へ出たことで全員が合わせた。
星が弾けるように衝突を繰り返し、熾烈な争いを繰り広げる3名。
まるで拮抗した実力のようで、実際はラヴが上手。
単純明快に、2対1で対等以上に戦えているからだ。
ある程度の激戦を繰り広げると、両陣営に分かれて地面に降り立った。
「みこ先輩……」
そのチャンスでぺこらは策を授けた。
しまった、とラヴが気づいた時にはもはや手遅れ。
ぺこらは一時的に相手の意識を逸らすために空の攻防に出たのだ。
「いけんのか、ホントに」
「さあ、運次第」
「なら、幸運うさぎ、発揮しろよ」
ぺこらはそっと丁寧に首肯して飛び出した。
強く大地を踏み込んで、前方に思い切り跳躍。
一直線にラヴへ向かう。
策有りと判断しつつも、逃げずに立ち向かうラヴ。
ぺこらが地面に脚をつき、二度目のジャンプに圧力をかけた時、みこが動く。
「神具・注連縄、超結界」
ぺこらとラヴを内側に閉じ込める超結界が展開。
そこまで大きくはない、球状の結界。
突然の領域制限にラヴは一瞬だけ冷静さを欠いた。
その間に、二度目の跳躍を完了してぺこらが空へ飛び出す。
警戒心を高め一旦脚を止めたラヴ。
ダン……ダン……ダン、ダン、ダン。
と結界を足場としてぺこらは結界内部を飛び回り続ける。
その理由は数秒もせずに発覚することとなる。
かろうじて目で追えるぺこらの移動速度。
通常の反発がかかる結界を足場に球体内を飛び回れば当然速度は増してゆく。
ぺこらの速度は瞬く間に視界から外れるほどに昇華、ラヴはその危険性を理解し自身も同じ技を繰り出そうと踏み込む。
その僅か一瞬、ラヴの抵抗力操作は足に集中し無防備となる。
「がはぁ!」
背後から、鉄球で撃たれるような衝撃を受け蹌踉めく。
跳躍する隙を、与えられない。
直様ぺこらの動きを懸命に追うが、見えるはずもない。
どこからくるか分からなければ、抵抗力を張れない。
何故なら、ラヴはほぼ一方向のベクトルにしか抵抗力を張れないからだ。
無闇に張っても、効果を生まない。
「ぐっ、がっ、はっ、がっ、ぐぁ、がぁ、だっ、ぐぉ、がぁ、だはっ……」
逃げる隙も、守る隙もなく、ラヴは幾度となく撃ち抜かれる。
意志のある弾丸のような脅威。
数度蹴られても意識を保っていることは流石だ。
そして偶然、その背が結界に触れた。
「ふっ、ここまでだ」
ラヴの抵抗力が結界の結合に亀裂を生み、崩壊させる。
その瞬間、結界から解き放たれたぺこらは空へと吹き飛ぶ。
二度ほど空を蹴ってラヴに蹴りかかりにいくが、
「どっちから来るか分かってりゃ守れらあ!」
目でも追えぬ速度でも、正面から来ると事前に分かれば止められる。
多分迫り来るぺこらに抵抗力を張る。
来た、正面から音速のウサギが。
「なっ……っ!」
次の瞬間、ラヴは背後から巨木に撃たれた。
その巨木は、みこの神具・大幣。
ぺこらはラヴに接触する直前で空を蹴り空へ逃げたようだ。
「くぅ、まだ!」
真っ直ぐ崖へと吹き飛ぶラヴはまだ意識がある。
衝突する背中部分に抵抗をかけてダメージを無くそうとするが、それすら失敗に終わるのである。
一瞬だけ頭上に差す影。
勢いを殺さぬまま、ぺこらが空から飛翔中のラヴを狙う。
判断の遅れたラヴはそのまま腹に強烈な一撃を受け、地面に捩じ込まれた。
「月下のエリートすーぱーぺこちゃんキック」
強靭な肉体を誇るラヴも、遂に鎮まる。
結界の破損にも冷静に対処したぺこみこの勝利となった。
そしてそこへ響き渡る、一つの国内放送。
ねねだ。
スタジアムへ行けと、指示が出た。
切れ方が不審で、安否が心配だが、最もスタジアムに近いであろうここ二人はそちらへ向かうべきだ。
本来であれば。
「兎田――」
「行く」
「ダメ、絶対に!」
「問題ないぺこ!」
「死んでも生き返るゲームとは違う、みこも付き添うから、一旦戻るぞ」
「余計なお世話ぺこ!」
「みこの事嫌ってもいいから、強引でも連れて帰る。石のこともあるから」
「……でも」
「兎田がまだ、重要な戦力だから、ここで一旦退いておくの、分かれよ」
「……」
半ば強引に話を進め、ぺこらとみこは一度事務所に帰る事を決断する。
ぺこらの背中の傷は消して小さくない。
みこにももう人形は残っていないため、保険がない。
そして何より、ぺこらが石を持っている以上、直行はできない。
「ほら、行くぞ」
みこは大幣に自分とぺこらを乗せて事務所へ飛んだ。
その間、ぺこらはみこに決して背中を向けることもなかった。
そして、みこも背後のぺこらを一度も見ることはなかった。
それでも、数個ほどの会話を展開させた。
「そう言えば、人形が無いって言ってたぺこだけど……」
まだ多少拗ねた雰囲気でぺこらが口を尖らせながら聞いた。
正面を向くみこには見えないが。
「ああ、どうせ星街だにぇ……あいつぜってー許さにぇぇ」
口頭ではそう悪態を付くが、みこ自身は特に気にしていない。
ぺこらが良ければ別にそれでいい。
「でも、それがすいちゃんの補助になるなら別にいいぺこでしょ……」
「いや、無理だにぇ」
「……? 何故にぺこ?」
「神具の本領発揮能力がないと使えないからだよ。星街にその力はない。だから星街が持ってても意味ないにぇ」
「ふーん……」
後輩としては、全く可愛げなくぺこらは相槌を打った。
「それより兎田」
「なに」
無愛想な返答がまた風に流れる。
「確かその石、金色だったよにぇ?」
「うん、ノエールがこっち来て直ぐに確保したって……」
ふと思い出した。
ノエルとるしあは、無事だろうか。
「だとしたら、ワンチャンみこたちはスタジアムには行かない選択をするよ」
「はあ? 何で?」
ぺこらが久々に大きい声を出した、がやはり風音の方が強い。
「詳細は追って話すけど、中央の石は封印の役割があるから早めに元の場所に戻した方がいい……はず」
「曖昧……」
「仕方にぇぇだろ」
「ま、仕方ないぺこ」
と、大凡この二つを二人は題材に会話したが、会話時間よりも無言時間の方が長かった。
かと言って、二人がその時間を不満に思うことは、きっと無かっただろう。
例えこの先、滅多に重ならないペアでも、二人には、絶対的な絆があるから。
前回より投稿までに時間が空きましたが……
どうも、作者です。
今回は宣言通りぺこみこでした。
喧嘩しつつ二人も見事に勝利を収め、一度事務所へ戻るところなんですが。
あれ?
って、なったら正解です。
次回こそは1週間も経たずに出したい。
あ、次回は……うーん……バトルはないかも?
ではまた。