歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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67話 最終局面への航路

 

「声を上げて、さあ出航だ、我ら宝鐘海賊団!」

 

 空飛ぶ船上、数名は呑気に「Ahoy‼︎我ら宝鐘海賊団☆」を歌う。

 

「さっきの放送と言い爆発と言い、荒れてるよな……」

 

 その中で決して緊張感を解かないスバルが憂いたように崩れたラジオ塔を見つめた。

 

「ねねち、大丈夫かな……」

 

 そのスバルの横に並び、放送した張本人、ねねの安否に視点を当てる。

 誰もが同じ不安を抱えるのだ、関係のいいもの同士での感情は計り知れない。

 

「大丈夫だと思うよ。一緒にトワ様もいるはずだから」

 

 唯一事情を知るわためが、慰めるようにまつりのさらに横に並ぶ。

 3人の空気を悟り、歌を歌う呑気者どもも次第に声を潜め始める。

 

「トワちんが?」

「うん……まあ、色々あってね」

 

 様々な問題を孕む会話なため深くは語らずわためは濁す。

 まつりも深く追及はしなかった。

 

「向こうの心配も分かりますけど、我々も多分気楽にとは行きませんよ」

 

 船長気取りのマリンが帽子に手を当てて3人の背後から語りかけた。

 

「ま、到着事態に難航しなくても、向こうについてからは、一筋縄じゃいかないよね」

 

 パッと気持ちを切り替えて、まつりは自分の頬を叩くと難しい顔をした。

 

「ねえ……」

 

 そんな会話の最中、ルーナが声量もトーンも控えめに輪に入り込む。

 明らかに元気がない。

 仲が良くなくとも見て取れる浮かない顔。

 これに気付けないのは、鈍感なんてレベルにない。

 

「どしたの?」

 

 わためがいつも以上に穏やかな声質でルーナの目を見た。

 他3名の視線も合わさり、ルーナに意識が集中する。

 そんなことにルーナは臆さないが、言葉に詰まっていた。

 喉元に思いが引っ掛かって言い出せない状態。

 

「もしかして、あやめとおかゆのことか?」

「……うん」

 

 自分を逃すために敵と相対した仲間二人。

 その安否。

 ルーナは背中を預け続けて、相手の背中は守れていない。

 ただ逃げることに必死で、何もできなかった。

 それを、今思い返すと情けないと思った。

 

「二人なら大丈夫だ。おかゆは知らんけど、あやめは桁外れに強い」

 

 正直おかゆに強そうなイメージは持てないが、あやめは鬼神として底知れない力を秘めている。

 おかゆの目利きの良さを踏まえれば、問題はない。

 

「二人がどうかしたんですか?」

 

 事情も状況もイマイチ理解できてないマリンにはパッとしない話題。

 ラジオ塔の爆散を目の当たりにして初めて裏世界の恐ろしさを実感したが、一度も敵を見ていないため、まだ少し恐怖心の後押しが足りない。

 

「まあ、それも後々話すよ」

 

 スバルはそう話を切って別の輪の中に入りに行く。

 

「何してんすかそれ」

 

 はあととメルとアキロゼが何か大きな紙を広げて書き込んでいた。

 

「あ、聞いてスバルちゃん、これ」

 

 アキロゼが食い気味にスバルを引き寄せてその紙――地図を見せる。

 地図は国全体を縮尺した国内地図。

 そこの数カ所に丸が書かれていた。

 

「私たちは南東の海岸から出発して今大体この辺」

 

 出発した海岸と中央エレベーターの中間あたりをペンで指して解説を始める。

 

「で、みんなの証言を元に今わかってる一部のメンバーの位置は大体こんな感じ」

 

 西の展望塔にころね、ミオ、フブキ。

 中央エレベーターにポルカ、ラミィ。

 中央エレベーターから少し南西の辺りにあやめ、おかゆ。

 中央エレベーターから少し北西にフレア。

 

「他にも別の場所にいるけど、今は……」

 

 そう言ってその点を効率的に線で結ぶ。

 

「このルートで全員拾っていけないかな?」

 

 一瞬思考が固まった。

 

「え?」

「だから、全員回収して向かえば、それこそこっちも人員増加で無敵なわけよ」

 

 案を提唱したのは誰なのか。

 はあとが煌めく目でスバルを見つめ高らかに笑う。

 メルがいるということは、風で船を動かすことも考慮済みのはず。

 あとは浮遊のスバルが承諾すれば作戦は完成だ。

 

「いや、悪くないとは思いますけど、全員がまだそこにいる可能性の方が低くないですか?」

 

 懸念点は一つではないが、主にその辺り。

 あとは、敵の強襲を凌げるかなど。

 

「いなければ向かったってことでオッケー。いたら時間短縮でさらにオッケー」

 

 この船の速度なら大した時間ロスにはならない。

 街中に簡単に船を着けられない難点もあるが、誰かの能力でどうにかなるだろう。

 

「……分かりました」

 

 スバルは勝手ながら承諾した。

 仲間が多いに越したことはない。

 

「みんなそれでいいか?」

 

 意味のない確認を取る。

 

「異議あーり」

「はいマリン!」

「仕切りは船長のはずです」

「知らんがな」

「という訳で、皆さんいいですか?」

 

 面倒なので、みんな親切心を使う。

 ああ、勿体ない親切心。

 

「それ、ダメなのら」

「……え?」

「ルーナたん?」

 

 唯一作戦内容に異議を唱え、ルーナが確固たる想いの目で首を横に振っていた。

 

「ふーたんは、まだ敵を倒せてないと思うのらよ」

「――! フレアが?」

「何でそう思うの?」

 

 誰も、フレアに立ち開かるKと言う強敵の、本当の強敵さを知らない。

 

「ルーナ、一回本気であいつ殴ったら、首が折れた……」

「え! マジで⁉︎ 怪力じゃん!」

「んーん、全力だったけど、感触がまともじゃなかったから……」

「……ワザと首を折ったってこと?」

「うん」

 

 人間としてあり得ない行為。

 首が折れれば簡単に死ねる。

 いや、それ以前に自力で首を折るなんてできない。

 

「でも戦ってるってことは、その首、戻ったんだね?」

「……」

 

 察したアキロゼの問いにルーナは口を噤んで頭を縦に動かす。

 化け物を前にした恐怖を、思い出したのだろうか。

 

「それって不死身……」

 

 辿り着いた答え、その絶望感。

 アンデッド族なら非常に厄介、能力由来でも極めて厄介。

 更にルーナはワンテンポずらして、腐敗させる力や触手の存在を明かす。

 

「待ってルーナたん。それわためも追いかけられたよ」

「知ってる、のらよ」

 

 ここで初めてわために明かされる。

 どうしてわためがターゲットから外れたのかを。

 

「じゃあ、ルーナたんのお陰で……」

 

 あのまま的となっていたら、わためのみならず、ポルカとラミィにも被害が及んでいた。

 わためは誠心誠意の謝罪とお礼をルーナにそっと告げた。

 

「しかし、そうとなるとそこに近づくのは危険どころじゃないですね」

 

 客観的に見てマリンは回収反対の意見を唱える。

 同調する者は多かった。

 

「……じゃあ、回収じゃなくて、加勢に行くのはどう?」

 

 珍しく、わためが過激にもそんな発案をした。

 温厚なわための希少な提案は最もだ。

 しかし、それは結局船で向かうと言うこと。

 接近の危険性の話でもあるため、賛同は得ずらい。

 

「話聞いてたか? お前が言っても腐肉になるだけだと思うけど」

 

 スバルはわための実力を知らないが、実力派のフレアが絶望的ならまず勝ち目はない。

 数の暴力で押せる敵とも思えない。

 

「それは……」

 

 反論の余地はない。

 お世辞にも、わためは強くない。

 存在が、却って足手纏いとなる可能性も否定しきれない。

 

「みんな! 中央エレベーターだよ!」

 

 メルが割と目先まで迫る中央塔を指した。

 一旦会話が途切れ、近場にラミィとポルカがいないかを上空から捜索。

 ぐるりと一周、早々に塔を一周するが2人の姿はない。

 変わりに、大層な美術品が創造されていた。

 

「間違いなくラミィの仕業だな……」

「勝って、先に向かったみたいだね」

 

 国の玄関口の一つ、塔の入り口前。

 そこに佇む、美しき氷像。

 氷の中に、何者かが埋まっていることが、遠目に確認できた。

 それがレッドであることは、誰にも分からないが、敵であることは脳が勝手に理解していた。

 

「初っ端空振りか……」

「下手したらただの時間ロスですね」

「いやいや、しゃーなし、次はいるかもしんないじゃん?」

 

 出鼻を挫かれ、作戦変更に移りそうな空気をまつりが抑えた。

 持ち前の明るさに誰もが苦笑して頷いた。

 まだまだこれから。

 その意気込みで、次は少しスタジアムから離れるが、南西へ船を進める。

 もちろん、メルの天候操作で。

 

 やがて二人を残した場所まで船は進行、またしても全員で甲板から街を見下ろし、仲間を探す。

 広い街の中、定まらない場所から探す至難の業。

 なかなか見当たらず、結局ここもハズレとなる。

 ……かに思われた時。

 

「おかゆ!」

 

 一人がおかゆの存在を目につけた。

 その指と視線の先、確かに手を振るおかゆとあやめがいる。

 

「あくたん、おかゆん見つけるの早いね」

 

 まつりが揶揄うようにクスクスと笑うとあくあは紅潮して溶けるように消えた。また帽子を使って隠れたようだ。

 別に恥ずかしがる必要はなく、寧ろ誇れる才能である。

 活用の機会は限定的すぎるが。

 それに、それが「湊あくあ」だと、もはや誰もが理解している。

 本人が受け入れるかは別として。

 

「ちょっと行ってくるね」

「は、ちょっ!」

「ええ‼︎」

 

 アキロゼが甲板から飛び降り二人を迎えに行った。

 自身の爆発的な肉体強化能力で高層ビルほどの高さでさえも難なく着地する。

 能力詳細を知らない一部のメンバーは目玉が飛び出ていた。

 

 誰もがアキロゼの強行に度肝を抜かれている隙に、はあとがロープとも言えるほど太めの赤い糸を船の柱に強く括り付けていた。

 

「何してるの?」

「流石にアキちゃんやあやめちゃんでも、ここまでジャンプはできないわよ?」

 

 さも当然とはあとは詳しく語らずにそのまま紐を持って下の様子を伺う。

 アキロゼが丁度空を見上げて手を振っている。合図だ。

 合図に合わせ、はあとは紐を地上へ垂らす。

 力任せによじ登るには高すぎる位置。

 果たして、どうするのか。

 

 周囲は難色を示しながらも静観している。

 そして、あやめとアキロゼがしっかりと紐を掴んだのだろう、二度ほど強く紐を引かれた。

 

「フレキシブル」

 

 単純な英単語一つ。

 技名と思われるその一声に連動して勢いよく紐がシュルシュルと縮む。

 下から叫び声が聞こえ、それは次第に大きくなる。

 

「「「ぁぁぁぁあああああああ!」」」

 

 突如船上に飛び込んでくる計3名。

 ロープを掴んだあやめとアキロゼ。

 そして、そのアキロゼに掴まるおかゆ。

 

「いでっ!」

「わぶっ!」

「おっ……と」

 

 アキロゼが勢い余り、柱に激突。

 掴まっていたおかゆも激突するかと思われたが、何故か都合よくアキロゼがクッションになる。主に胸あたりが。

 そして、あやめは最も綺麗に、洗練された動きで多少振らつきながらも甲板に着地できた。

 

「わ、ごめんアキちゃん、大丈夫?」

「い、いいさ、これくらい、ははは」

 

 即座に飛び退いたおかゆは謝罪してアキロゼに手を差し伸べた。

 言葉遣いこそムキロゼだったが、鼻にダメージを喰らい、涙を滲めせたその目は明らかに乙女だった。

 

「これ、はあちゃまの?」

 

 あやめは僅か数センチまで縮んだ紐を見て、はあとを一瞥した。

 

「私の能力よ」

 

 肯定に近いが一部を否定。

 「はあちゃま」ではなく「はあと」であると、一人称が証明していた。

 思わず苦笑してあやめは甲板に軽く腰を下ろした。

 

「…………」

 

 誰もが言葉を呑んだ。

 息と唾を同時に飲み込むと、空気が重くなる。

 軽いノリでAhoyを歌っていたとは思えない空気の変化。

 それはあやめの登場によるものだ。

 アキロゼも、彼女を前にした途端視線を盗まれた。

 しかし、口にして問えない。

 あやめの心の余裕のなさが、目に見えて明らかだったから。

 おかゆも、自分から話すことではないと感情を抑え口をつぐんだ。

 だが、そんな沈黙はあやめ自身がその点に触れて破った。

 

「気にせんといて。これは余が敵を侮ってただけだから」

 

 そっと欠けたツノに触れ、自嘲気味に笑った。

 誰も気にせずにはいられないが、かける言葉も浮かばない。

 数秒にも満たない沈黙がまた流れる。

 

「大丈夫、放送も聞いてた。ツノが折れても戦力は変わらんから」

 

 その言葉に違和感を持てたのはおかゆだけだろう。

 ツノの欠けた部分はポケットにしまっており、割れた刀は割れた部分も合わせて鞘に収めてある。

 刀まで折れていると、勘付けた人はいない。

 

「人集めてるんじゃない?」

 

 船の軌道として、この位置にいるのはおかしいと指摘して図星をつく。

 凍りついた空気も核心を火切りに少しずつ暖かさを取り戻す。

 

「あ、ああ。この後は展望塔行って、フレアんとこ行ってスタジアムだ」

 

 地図を見せ簡易的なプランを伝える。

 異論を唱える者はいないがあやめは一つ追加注文を申し出た。

 

「多分だけど、この辺にノエルちゃんがいる」

 

 展望塔とフレアの位置、その中間あたりを示す。

 

「どうして?」

「こっちの方から、ノエルちゃんのメイスが飛んできた」

「っ……!」

 

 絶句して言葉を失う一同。

 まさかノエルが……。

 そう思う者も少なくない。

 それでも、あやめは諦めきれない。

 ノエルが簡単にくたばるとは到底思えないのだ。

 

「そこで余を下ろして」

「待ってあやめちゃん、気持ちは分かるけど、相手のことが分からないんだよ」

「だからって見捨てる理由にはならんよ」

「そうだね、でもノエルも馬鹿じゃないから、武が悪いと判断したらちゃんと逃げるはずでしょ?」

「それを確認して、まだ対峙してたらの話」

 

 まつりが冷静になるよう宥め、口論に出るがあやめは一向に退く様子を見せない。

 寧ろ感情が昂って強く応戦している。

 

「落ち着いてあやめちゃん」

 

 仲裁しようとアキロゼも参戦する。

 まつり以上に声に冷静さを込めて。

 

「気持ちは分かった、でも、そこに行くのがあやめちゃんである必要はないよね?」

 

 誰もが驚愕するまさかの切り返しだった。

 

「何言って……だって、余がこんな!…………いや、ごめん」

 

 強いはずのあやめがこのザマ。

 他の人たちで太刀打ちできるとはお世辞にも言えない。

 

 しかし、一度色々な事を冷静に分析してみよう。

 

「おかゆんに傷一つないところから察するに、ほぼ一騎討ちで勝ったんでしょ」

「……うん」

 

 あやめではなくおかゆが答えた。

 それがどれほど強いかは言うまでもない。

 他のメンバーが複数人でほぼ互角以下と言う中一騎討ちの勝利は大きい。

 殆どが運要素や相性の要素に頼る一方、あやめは完全に実力による勝利であることも着目したい。

 

「それはあやめちゃんの強さを物語ってる」

 

 満場一致の事実。

 誰もが同意し、あやめの強さを肯定する。

 

「でも、今のあやめちゃんは体力を消耗してるし、少なくとも冷静に敵と対峙できない」

 

 Jとの戦いで消費した体力は大きいし、今の心情のまま未知数の敵と対峙すれば冷静さを欠くことは目に見える。

 

「それは……」

 

 正論に言葉を詰まらせ、視線を床に落とす。

 己の感情はよく理解している。

 多少ムキになっていることも、体力が擦り減っていることも自覚はある。

 

「それに、あやめちゃんは戦う事を前提にしてるよね」

 

 当然の確認にあやめは一瞬首を横に傾けた。

 その後、意図を理解するまでに時間はそう要さない。

 

「アキロゼなら、もしもの時人1人抱えて逃げるだけの力はあるから」

 

 能力故に、力には自信がある。

 右腕に力を入れて、腕力をアピールした。

 甲冑で重量のあるノエルだろうと、難なく抱えてかなりの速度を記録できるだろう。

 あやめは強く瞳孔を開いてアキロゼの目を見た。

 強い、強い意志を感じた。

 あやめよりも、強い。

 強いあやめなんかより、ずっと強い。

 

「……行くんスか、アキ先輩」

 

 状況なだけに、2人に全ての選択権はない。

 スバルやマリン、メル、他のメンバーの同意も必要だ。

 だからこそ、スバルはアキロゼを見た後、全員を見回した。

 

「人が増えると、万が一の時に逃げられないから、私1人で行くよ」

 

 決意の目をしている。

 正面からそんな目をされては、頷く他に選択肢がない。

 

「――い」

 

 スバルが頷き、同調するように全員が頷いた。

 その時、遠方から微かに何かを呼ぶ声が聞こえた。

 風の音もあり、聞き取れたのは僅か数名。

 その数名が声を辿って顔を向けたため、全員がその方角を見た。

 

「おーい!」

 

 声の主は甲板から見ても、案外近場にいた。

 と言うのも、船との距離が数メートル程度しかないからだ。

 

 辿り着いたのは展望塔。

 その屋上でミオところねが声を張り上げて手を振っていた。

 ただ、もう1人いるが、その人物はミオにしがみつき項垂れていた。

 

「みおしゃ」

「ころさーん!」

「フブちゃん?」

 

 三者三様の反応で3人に手を振りかえす。

 ここで更に3人を船に引き上げようと試みる。

 距離が近いうちに済ませたい。

 

「フブキ、氷の道作って」

「いやだよぉ」

 

 ミオが腰を掴むフブキの手に触れて頼むがあっさり断られる。

 

「氷で滑って落ちたらどうするの」

「大丈夫だよ、多分」

「いやだよ、落ちたくない」

「でも、船が……」

 

 ミオの懸念もフブキの不安も理に適っている。

 ころねは何も提案できず唸っているばかり。

 

 ここでの救世主は、またしてもアキロゼ。

 一度甲板を蹴って難なく塔に飛び移る。

 堂々かつ軽やかな動きに3人は驚き少し体を蹌踉めかした。

 その際、フブキが落下を恐れて大声で叫んだため、耳が痛い。

 でも、鼓膜はなくならない。

 

「あくたーん!」

 

 見えないあくあを呼んで、アキロゼはフブキをひょい担ぐ。

 

「わ、わー! アキちゃん下ろして、下ろしてぇ! 死ぬ! 死んじゃう!」

 

 高さを感じないよう、配慮して頭を背中側に回したのに、効果はない。

 まあどうせ、恐怖は一瞬だ。

 

「あくたんいーい?」

 

 船は遂に再接近を終え、次第に塔から離れ始める。

 時間はあまり取れない。

 あくたんからの返答はなかったが、代わりにルーナが親指を立てた。

 

「いくよー、ハイッ!」

「ぎゃあああああああああああ‼︎‼︎」

 

 フブキはアキロゼの腕力に任せて船に吹き飛ぶ。

 フブキの頭の中、走馬灯のように過去の思い出が駆け巡る。

 流す涙と垂れる涎が宙を舞い遥か底の地面に落下し、星屑のように煌めく。

 たった数秒が、何十秒にも思えるほどの恐怖心。

 それを乗り越えて辿り着くは甲板。

 ではなく、その上に張られた水のシャボン。

 人が多数入れるほどのサイズの水のシャボンにフブキは突っ込んで威力をなくす。

 遅れてその中にミオところねも突っ込んできたが、目を瞑っていたフブキは気がついてなかった。

 

 最後にアキロゼは自力で跳んで甲板に戻る。

 その手には一つの武器が握られていた。

 

 アキロゼの到着後、パン、とシャボンが弾けた。

 

「ぶわっ」

 

 水が弾け、飛散する。

 しかし、水分は全て空中で消滅した。

 あくあの能力で生成し、除去したのだ。

 フブキ、ミオ、ころねの体に付着したり、服が吸収した水分も同時に蒸発するように消えた。

 

 ころねとミオはすぐに立ち上がり、状況把握に努めるが、フブキは嘔吐いて動けないでいた。

 別の表現を使うなら、ミオっていた。

 いや、ギリギリ吐いてはいなが。

 

「ミオちゃんこれ……」

 

 あやめが誰よりも早くアキロゼの持った一つの武器に焦点を当てた。

 その武器とは、間違いなくあやめの元に降ってきたあの武器。

 ノエルのメイス。

 

「えっとね、ウチが呼んだ幸運の代償、かな」

「……? どういうこと?」

 

 まるで言葉からは、ミオが悪い。

 そんな意味で捉えられた。

 

「ウチがカードを使って奇跡を無理やり誘発したの、そして降ってきたのがこれ」

 

 アキロゼからメイスを受け取り、ミオが全員に見せた。

 お陰で勝利を物にしたが、予想外の場所に影響を与えていた。

 

「その話だと、展開的にはあやめ先輩のところにメイスが降ってきて、それをJ?が投げ飛ばしたら偶然ミオ先輩の奇跡とぶち当たった……って感じですね」

 

 マリンが総括して状況を整理。

 あやめは頷くが、ミオたちは口をぽかんと開けていた。

 

「ミオちゃんの奇跡に関係なく、余の所にメイスが降ってきたんよ」

「……そうなんだ」

 

 ミオは安堵したように吐息を漏らすが、安心できる要素などない。

 ただ、罪悪感から解放されたことはミオの心の縛りを解いたことになる。

 冷静か否かはあやめの態度を見れば分かるように、戦場では命取りの要素となり得る。

 

「でもこれで、行かない選択肢は消えたね」

 

 ミオから再びメイスを受け取り、アキロゼはさらなる決意を言葉にした。

 ルーナがそのアキロゼの背を見た後、側のわために振り向く。

 わためと、目があった。

 ルーナの薄明るいオッドアイが、わために何かを訴えている。

 

 わためはルーナだけに分かる首肯をして、静かにフブキに歩み寄った。

 背中を摩り、まるで吐き気を抑えているようだが、その影でそっと耳打ちする。

 言葉を聴き終えたフブキに、もはや様態の悪さは見当たらなかった。

 意を決した強い眼差しがわためを見つめていた。

 

 船上の者たちは、各々覚悟を決め、遂に最終局面へと駒を進めていくこととなる。

 果たしてその最終局面が、世界にどんな影響を及ぼすのかは予測ができないが、ホロメン達に迷いはない。

 彼女たちが勝利しよう、敗北しようと、少なからず、世界に確変が起こることは避けられないだろう。

 

 そして、船上にいない者たちも、各々の役割を果たすため、最後の一手のため、迷いなく突き進んでいく。

 例えどんな障壁があろうと、どんな予想外な事態が起きようと。

 そう、例え、想定外の味方、敵が現れたとしても……。

 

 

 





 皆様どうも、作者です。
 いやぁ、ずっと間も無く最後って言ってる気がする。
 終わる終わる詐欺みたいですね。

 でも、どうかここで飽きないでください。
 実は6期生登場の目処も立っておりますので。
 ……え?
 ENはどうしたのかって? IDはって?
 ふっふっふ、ご安心を、目処は立っております。
 でも、6期が先だと思います。

 いやしかし……。
 佐命ちゃんの件は非常に残念ですね。
 ただ、今回は騒動ではないようで、悲しくも快く、ですかね。
 もちろん、私個人の感情ですが。

 さて、積もる話もありますが、今回はここで。
 次回は……ふーたんかな?
 ではまた。
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