絶望でしかない。
パワフルなころねが、機材破壊の段階で気絶しダウン。
J戦での消耗により、あやめは全力が出せても、あと2発程度。
しかも、覇気を解放し続けられない。
ロボ子がAに捕まり、数撃受けたのち、地面へ投げ飛ばされ、大きな損傷。
おかゆの力のネタがバレ、Aはこまめに電磁波で人の位置を探るようになった。
ミオのタロットも、有用性の高いものはもう無い。
あくあの莫大な魔力も、その他のメンバーの魔力も、シオンの憔悴により間も無く貯蓄の限界へ。
そらの力は、先刻以来、如何なる仲間の危機にも発動してくれない。
初めての手詰まり。
絶望と死の淵。
Aは、酷く暴れ回るでも無く、この場のメンバーを制圧。
もはや、誰一人抵抗する素振りも、気力も見せず、地に伏し、壁に埋もれ、天を仰ぐ。
「根性が足りてないなぁ」
圧勝を見せつけて、Aはため息をついた。
周辺に転がる生存者たち。
息はあれど、意識はないものばかり。
「早く事を起こして正解だったな」
もう一年、準備期間を与えていたら、ホロメンが勝利していた可能性は十分にある。
急いては事を仕損ずる、と言うが、善は急げ、とも言う。
今回の作戦は、後者をとって正解だった。
「石は持ってなさそうだな……」
片脚を持ち上げ、複数のホロメンに影を落とす。
早期に芽を摘む。
つまり、殺す。
この場の誰がどうなるか分からない。
「悪いが死んでもらう」
踏み潰されれば、ロボ子でもない限り、死は免れない。
受け方によっては、原型を留めない可能性もある。
「ん――!」
そこへ、突如三つの光が突入。
振り下ろした脚に自ら潰されるように潜り込んだ。
「ダイヤモンドクリスタル」
足の着地点中央に、巨大なダイヤの踏み台が現出された。
いくら力自慢の巨大ロボも、ダイヤ結合を踏壊すほどの怪力はない。
足裏と地面とに空間ができ、倒れたホロメンたちはギリギリ潰されない。
「ティンクルダスト」
大量の小さな星屑が、辺りに転がる意識のないものを入り口へと引き寄せる。
「みんな! みんな! 生きてる⁉︎」
飛んでくる仲間たちに声を張り上げ、意識覚醒を促すのは、かなた。
「一足遅かった!」
テンポの悪さ故に防げなかった仲間の負傷。
すいせいが苦い顔で巨大ロボの顔付近を睨む。
側にはポルカもいる。
「意識あるのはどれくらい!?」
すいせいがAから視線を逸らす事なくかなたに聞いた。
「3人くらい」
かなたは感覚で答えた。
反応のあったミオとロボ子とはあと。
耐久面から、ころねとあやめの復帰は早めに見込める。
「今更何人増えようと、結果は変わらん」
Aの腕がすいせいとポルカに向けられた。
「そんな訳あるか! お前だってどうせ疲れるだろうが!」
すいせいは一切の躊躇を見せず、Aへ突撃した。
ポルカは逆に、かなたの方へと退がる。
「かなたん、ここは任せて」
「うん」
ポルカが怪我人の防護、かなたが残りの怪我人の回収と立ち回りの交代。
すいせいは一人でAの気を引く。
「だめ……! 逃げないと……」
ミオが腹を抱えてよろよろと立ち上がる。
その目に揺らぐのは、圧倒的な差から芽生えるAへの恐怖心。
ミオはたった二つ格下のQを仲間と撃破した。
その上でこの表情。
本能が告げる。
QとAとの差は、たった二つの階級では埋まらない。
存在する階級の最大がAであり、甘んじてそこに座している状態。
「あやめの本気でも通用しないんだよ、あの装甲」
「あやめ先輩の剣が……⁉︎」
この場の誰よりも力を持つ存在の全力で無傷。
なら……勝ち目なんてないじゃない。
「だからって見捨てらんないじゃん!」
すいせいが綺羅星に立ち、Aの周囲を飛び回る。
能力の性質上、攻撃の際には一時停止をする必要があるため、難しい。
たまに、星が回転し、すいせいが逆さまになることがあるが、足は星から離れない。
どうやら、能力使用時のすいせいには特殊な『重力』が働いているらしい。
「ハエのようで鬱陶しい」
Aは両腕ですいせいに攻撃を仕掛ける。
しかし、あと数センチの所で回避する。
そんな小競り合いが十数秒……。
かなたが怪我人の回収に成功。
「すいちゃん!」
もういい。
一旦逃げよう。
「逃すと思うか?」
すいせいの方向転換を妨害するように、スタジアムの観戦席から余った鉄材が飛翔する。
その瓦礫が綺羅星に衝突し、すいせいは落下する。
しかし、そこは見事に新たな星を生み出して、転落死を回避。
勢いに乗せて避難。
「帰り道がねぇって話だよ」
機械に使用されていない鉄材たちが、全ての入り口を塞いだ。
電磁結合の能力で固まり、生半可な力じゃびくともしない。
「しまった、道が!」
退路を断たれ、前方には無敵。
こちらの抱える負傷者は山ほど。
「空からは⁉︎」
「この人数を一度には運べない! 往復にしても、無防備になったメンバーが危ない!」
肝心な時にシオンが使えない。
瓦礫を破壊できる唯一の存在であるあやめも、まだ起き上がらない。
「動けるメンバーで戦うしかない!」
すいせいの号令で動いたのは、かなたのみ。
ポルカは負傷者の防衛役として。
ロボ子、ミオ、はあとは……。
「できないよ……」
完全に心が折れている。
立ち向かうどころか、抗う事にさえ、恐れている。
「かなたん!」
すいせいが、ロボの脚への砲火を指示。
かなたは拳を握り、すいせいは星屑を無数に現出させる。
「うおぉりゃぁ!」
「ティンクルダスト!」
かなたの全力ストレートから放たれる風圧砲。
すいせいの星屑砲。
生身で食らえば後方に吹き飛ぶ攻撃。
しかしそれは、この巨体にしてみれば、そよ風にすらならない。
「お前らも、絶望しろ!」
すいせいとかなたの背後から、瓦礫が突如飛んできた。
死角からの強襲に、2人は成す術なく撃たれた。
「っ――!」
「はがっ!」
かなたの左翼が損壊し飛行不全、更に肩や脚への強打で骨にヒビが入る。
すいせいは、運悪く脇腹付近に鉄パイプが突き刺さり、吐血した。
2人の意識は一瞬だけ、世界から隔絶された。
「放送したやつを恨んで死ね」
確実に避ける手段と力を失った。
そこを狙い、巨大な右の鉄拳。
回避はできず、4人の手も間に合わない距離。
2人の脳裏に走馬燈がよぎ――
「おりゃぁ!」
可愛く勇ましい咆哮と共に、塞がれた退路の瓦礫が破裂する。
開かれた道から現れる1人の仲間。
「あ?」
Aの手が止まった。
ある程度の硬度を誇る結合を突破され、少々気が揺れた。
「ごめん、みんな、大丈夫?」
舞い降りた救世主、その名は、桃鈴ねね。
ここへの集合を伝達した張本人。
「ねねち……」
当てられる複数の絶望の目。
心苦しい感情たちからの抑圧。
折れた心の騒めき。
たった一眼で、ねねは事態を把握した。
考える事は、得意じゃない。
でも、行動力は抜群だ。
「ねねが来たから、もう大丈夫!」
「…………」
威勢だけ……には見えない。
張った胸が、見せつける背中が、掲げた拳が、輝かしい。
「みんな、諦めちゃダメ」
「ああ、お前か、放送してたやつは」
Aのターゲットがねねへと移る。
「心が負けたら、立ち往生しちゃう」
……。
「ねねの長所は、諦めの悪さ」
「何を言ってやがる」
……。
「折れるな心。負けるな気持ち」
…………。
「みんなの心はねねが引き受ける!」
ねねが爆速で正面から突っ込む。
無鉄砲すぎる特攻に、Aでさえ、肝を抜かれる。
「自殺願望か? 時間が稼げるとでも?」
巨大な鉄の拳が、正面からねねを迎え撃つ。
本気のころねが弾かれ、全力のあやめの攻撃で無傷の、あの凶器。
それが今度は、生身のねねへ。
「不屈の精神。スーパーねねちパーンチ!」
倒れた仲間を想う。
絶望に打ち拉がれる仲間を想う。
その苦しい心、挫折した精神。
それは、ねねが受け取り、糧となる。
これは、折れた心を力に変え、絶望に希望を見出す、不屈のヒーローの力。
変哲のないねねのパンチと、ロボの鉄拳の、正面衝突。
真っ向からの力比べ。
ピシッと鉄屑の接合が軋む。
ねねの華奢な腕が、全く後ろに押されない。
「これがねねの! 不屈の力だァァァァァァァ!」
「な……ぁっ!」
次の瞬間、ヒビも裂傷も、全てが一瞬で拡大。
Aの接合した巨大ロボの右腕が、肩から大崩壊して無造作に弾けた。
大量の鉄の瓦礫。
パイプ、土管、鉄骨、スポーツ用のあれこれ。
それらが、ひしゃげて地面へと次々に飛散する。
Aの支配下から、一時的に逃れた鉄具たち。
「……驚いた」
偽りのない乾いた感嘆の声が響く。
ねねの力を認め、『強敵』と認識したようだ。
「だが、俺の結合は電磁結合。何度壊れようと、再生する」
形の悪い鉄材たちが、また召集される。
「あがぁぁっ!」
すいせいに刺さった鉄パイプが体ごと引き寄せられ、全身を激痛が巡る。
強引にパイプが吸われ、やがてスポッと抜け、血が噴き出る。
そんな事も構わず鉄材が一点に集う。
集まり、固まり、再び形成される似た形の右腕。
「俺の結合は大きいほどその硬度も増す。今のロボの硬さは、鉄の比じゃないぞ」
再生が続くようでは、意味がない。
魔力などの貯蓄量は、恐らくねねが劣る。
なら、別の方法で落とすか……もしくは。
「ん、これは……?」
たった今、Aが復活させた右腕に違和感を覚えた。
結合が不完全状態にあり、右腕だけ硬度が弱い。
鉄同士が密着しておらず、僅かな隙間ができている。
いわゆる、欠陥。
「はあちゃまっちゃま〜」
狂喜を見せるはあちゃまが、両腕を全力で引くと、右腕がまた壊れた。
「バカな!」
「糸を間に忍ばせたのよ! これでもう、くっ付けさせないわよ!」
はあちゃまの目は、迷いも絶望も既に失せている。
ねねの登場が、全員の心をひっくり返した。
「みんな、勝ちに行こう!」
ミオの目に光が宿る。
ロボ子の体が軋み、唸る。
すいせいが、血を飲んで朦朧とする意識の中、立ち上がる。
ポルカの苦笑が、着色される。
かなたの拳と羽が、咆哮を上げる。
倒れている者たちの心が共鳴する。
全員の魂に、不屈が灯された。
もう、この場の誰も、根負けしない。
「とおっ!」
ねねが、先陣を切り、駆け出し跳躍。
高く高くジャンプ……出来なかった。
「あれっ?」
勢いを誤り、前方にすっ転んだ。
ずざーっと地を滑り、ダサく、みっともなく、転がる。
「ねねち! どしたの⁉︎」
「あはは……エネルギー切れた」
ねねの力は一般ガールのそれに戻された。
出鼻が挫かれる。
ねねは早速戦力外へ。
「ふざけやがって」
「のあああ! タイム! ちょっとタイム!」
突然の脅威の登場、そして喪失にAは呼吸を乱す。
そしてまずは、と、転んだねねを踏み潰す。
無力となったねねは慌てて起き上がり、両手でTの字を作って対抗。
何の意味もない。
無情に放たれる一撃。
「ん、なあああああああああああああい!」
倒れていたはずのルーナが影に入り込む。
威厳の力が発動し、ロボの脚が二人との接触寸前で停止。
動かないもどかしさと歯痒さに、怒りが積もる。
「みんな、寝てんじゃねえ!」
ルーナの語尾が消滅した喝入れ。
たった一言で全員は奮起しない。
けれど、数人くらい、起きろ。
「ぐおおおおっ! ティンクル、ダストー!」
すいせいが、星に跨り、星々を従えて勝負を挑む。
やはり狙うは顔面。
操縦席を剥がせば、操作が困難になる、と踏んでいる。
「安直な方法で倒せると想うな!」
アンバランスに残った左腕が、星屑を真っ向から弾いて向い来る。
複数の星を飛ばした状態で、突然の方向転換はできない。
「何もなければ」、すいせいは星ごと吹き飛ばされる。
「うっぐ……ま、任せた……」
落ちた。
星からその身を投げ捨て、星だけを真っ直ぐに向かわせる。
――否、違う。
すいせいの背後に隠れていた。
この人が。
「鬼神か!」
「覇気解放は、あと――一発」
そう、こちらも倒れていた少女、百鬼あやめ。
一つの愛刀を携え、流れる血と汗と付着した汚れを纏い、おまけに最大限の覇気を纏い。
これが、ラストの一撃。
これで覇気は、数日使えなくなる。
けど!
「星ごと消えろ!」
先程は効かなかった斬撃。
片腕取れたらどうだ。
前回でも、ピシッとしなりを与えた。
これなら、どうだ!
心の奥底から、力が溢れる。
欠けたツノが痛む。
血の流れの勢いが、増す。
吹き出る汗が、増す。
「鬼神一刀流・大金星」
巨大な星形の斬撃跡が、光として眩く残る。
…………。
ガジャァッ‼︎
と、荒々しい崩壊音が耳と鼓動を襲う。
なんと、あの左腕を、あやめが星形に斬り伏せた。
攻撃が、通じた!
「こんなこと!」
あり得ないと、思っていた。
左腕の破壊で、硬度は更に低下する。
それでも、鉄の硬さに上乗せの硬度。
覇気の使えないあやめでは太刀打ちできない。
まだ、Aを裸にできていない。
せめて、あやめの通常を超えるパワーが必要だが……。
「かなたん、聖力は?」
「ごめん、本人に当てれないと意味がないの」
怪力のメル、魔法師のシオン、ムキムキのアキロゼ、超人のココ。
この4人はいない。
いたとして、今の4人の力が通用するかも懐疑的。
あやめは覇気の機能不全。
ねねはエネルギーの枯渇。
唯一パワー充分のころねは、まだ起き上がらない。
「誰か、すいちゃんを!」
すいせいが、今の大胆な行動で完全に気絶した。
出血が原因だ。
あやめは着地できたが、すいせいはミオにキャッチしてもらった。
「規格外だ!」
たった一人、ねねの登場で盤面がひっくり返った。
A一人で盤石な状態を維持できるはずだった。
もし、自分を退ける者がいるならそれは、歌姫だけだと思っていた。
「モルティステラ・ラグナロク」
周囲の鉄を含む瓦礫が全て宙に漂う。
はあちゃまは急いで糸を巡らす。
二度と再生させないために。
「意味ないわよ!」
「お前こそ意味ねぇよ!」
威勢よく構えるはあちゃまだが、Aは固より再生の意思などない。
一度に結合できる量は決まっているが、電磁力での操作に基本限度はない。
右腕の一部だったもの、左腕の一部だったもの、入口を塞いでいたもの、正しい位置にあったもの、役立たずのまま転がっていたもの。
このドームの鉄という鉄全てが上空へと吸われるように集う。
糸に引っかかったからと言って、はあちゃまが鉄材を操れる訳ではない。
無作為に宙の鉄を絡め取り、上空で複雑に絡まり合う。
そんな糸は、単純には操れない。
「まとめて砕けろ!」
鉄屑の豪雨がスタジアム全域に降り注ぐ。
飛来してくる鉄の数は膨大。
散らばった配置の、満身創痍なメンバー。
漏れなく防衛は不可能だ。
このままでは、誰かしらが死んでしまう。
幾度もの窮地は、幾度もの奇跡で、切り抜ける!
キラキラキラッ、と閃光が頭上を吹き抜け、一直線に散々に弾ける鉄屑を吹き飛ばした。
鉄材が、燃えたり、凍ったり、銃撃を受けたり、大砲を喰らったり、艶やかな光線に消されたり。
方法こそ様々ながら、それらは纏まって一つの危機を退けた。
「次から次へと――‼︎」
Aの視線――ロボの頭が、スタジアムの外へ向く。
彼方から、飛んでくる、先程も見た海賊船。
電磁波で感知すれば、そこには更に10名ほどが乗っている。
宝鐘マリン。
何もできないから、せめて格好つけている。
大空スバル。
武器庫から大砲を持ち出し、素手で投函。
浮遊で一直線に飛び、鉄屑を粉砕した。
夜空メル。
天候操作で船の操縦。
紫咲シオン。
魔法陣から魔法的なビームを発射。
鉄屑に風穴を開けた。
癒月ちょこ。
乗船中の負傷者の傷の手当て。
ほぼ完治。
獅白ぼたん。
武器庫から大量に拳銃を持ち出し、目に見える鉄材たちをとにかく銃撃。
必中なため、攻撃速度が速い。
白上フブキ、雪花ラミィ。
雪や氷を大量に放出し、鉄材を弾いたり、たまに凍らせたり。
不知火フレア。
炎の槍を投げ、鉄屑を吹き飛ばしたり、焼き払ったり。
アキロゼ、白銀ノエル、桐生ココ、角巻わため。
この距離では無力。
近接に備える。
「皆さん! 来ましたよ!」
良いところがなく、マリンは自慢の迫力で強調する。
上空の鉄は全て場外へと吹き飛び、磁力操作の圏外へ。
そして、船が到着する。
「全員降りろ!」
スバルが乗船員に命令する。
ただ一人メルは残して。
マリン以外は指示に従い、華麗に場内へ着地する。
「ちょっとスバル先輩⁉︎ 何するつもりですか!」
「分かってんだろ! これが手っ取り早い」
「ダメダメダメダメ! 船長の大切な船なんですよ!」
「こっちの世界だから問題ねぇよ! 行くぞ。メル先輩!」
「ぎゃあああああああああああ!」
巨大船、アクアマリン号。
メルの暴風とスバルの浮遊で、大撃進。
船首をAに突き付けて、勢いのまま、大突撃。
「やめろぉーー!」
次の瞬間、巨大な二つの造形物が跡形もなく大破し、スタジアムは激震した。
どうも皆様、作者です。
さあ、今回でA戦も終了……?
もしそうでも、どうやって現実へ戻るのでしょうか?
スタジアムにいない4名に、ホロメンじゃない人たちもいます。
その答えは次回。
そして更に、最後の一人も……!