大破した船とロボットの破片が、瓦礫が、雨のようにバラバラと降り注ぐ。
両腕を損失した機体の硬さに、偶然通用した突撃。
根拠もなしにぶつけたが、運が悪ければ船のみの破裂となったわけだ。
しかし、見事な爆発で勝利を飾った。
爆煙の中、マリンを連れたスバルとメルがゆっくりと舞い降りる。
更に、煙幕の奥からロボ子がAを引き摺って出てきた。
破裂の衝撃でこちらも運良く気絶しているようだ。
至る所に破片が刺さっていて、痛々しい。
何故か、Aの気絶に連動して地に埋まった台座も出現した。
ご都合主義な展開だが、好都合。
「ぁぁ……スバル先輩の鬼!」
「そんなん言われたの初めてだわ……」
複製物であるにも関わらず涙を流すマリンにスバルは呆れ顔。
そこへ丁度、破れた海賊旗の切れ端が舞い落ちてきた。
それで涙を拭う。汚い。
「まあどちらにせよ、船は墜落してたよ」
「そんな! なんで!」
「…………もう誰も、特殊能力使えないでしょ」
シオンが周囲を見回す。
申し訳なさを表情に隠して。
「っと……ほんとですね」
ぼたんが小石を投げた。
虚空を貫いて、地に落下。
ご存知の通り、能力は捕捉で対象に必中。
「おい、スバル狙うな」
スバルの真横をすり抜けた事と、ぼたんの視線から察した。
外れたため大して咎めないが。
あくあ、すいせい、フブキたち現出型の者も、一切生成できない。
「しかし、イマイチ理解できないね、この魔力の仕組み」
ミオが疑いをかけるように婉曲的に尋ねる。
だが、ミオの発言を理解できない人の方が多い。
「シオンが制御するにしても、各々に魔力が備わってるはず。なのに、魔力切れが全員同時っておかしくない?」
シオンが制御して魔力が尽きた。
ならば、そこから先は制御なしで乱雑に各々が自身の魔力を使用する。
つまり、貯蓄限界の到来はまばらでなければ不自然だ。
「説明は省くけど、シオンが最後に全員の魔力使用を停止させたの」
制御書でスイッチのオンオフを切り替えられる。
その切り替えにシオンの魔力が必要。
魔力切れを感じ、ギリギリまで粘って元栓を閉めた。
「ま、説明してたら時間がね」
さっとおかゆがフォローした。
にこっと笑い、一度落ち着くよう全員に促す。
「おお、おかゆ先輩起きたんだ」
「うん、今さっきの爆発でね」
「ころさんとすいちゃん以外はみんな起きたよ」
背後で倒れるころね、そして少し離れた位置で寝ているすいせいを見て眉を寄せる。
「そうだ! ころさんは目立った外傷無いけど、すいちゃんは早く止血しないと」
鉄パイプ一本分の穴を開けられた。
そこから溢れる血の量は異常だ。
放置すれば死に至る……のだが。
「ちょこの能力も消えてるのよ」
唯一の回復特化者が消滅し、シオンも魔力不足。
治癒ができない。
危機的状況だ。
「おおすげえな、もう終わってんのか」
聞き知らぬ男性の声。
いや、シオンだけは記憶に新しい。
あの魔術師が、ノーカードとトランプ、そしてえーちゃんとAZKiを引き連れてこの場へと姿を表す。
「A……」
「マジかよ」
淘汰された巨大機体の残骸と気絶したA。
仲間の二人には信じ難い光景だったはずだ。
すたっとスマートに着地を決め、計5名が全員の正面に立つ。
「「誰⁉︎」」
えーちゃんとAZKiを人質と勘違いした者たちが牙を剥く。
能力もない中で、実に勇ましい。
「皆さん、落ち着いてください。彼らは協力者です」
「ハッ、誰が!」
協力関係を否定するようにノーカードが鼻を鳴らす。
しかし、トランプはその様子を見て宥めた。
二人では敵わないと見定めている。
シオンも同様に。
「協力って……」
トランプと直に対峙したあくあが気弱に言葉を漏らす。
その先は篭って聞こえない。
「気持ちは分かります。ですが信じる他に道はありません」
えーちゃんの意見に反論は出ない。
ただ、えーちゃんの意図と他のメンバーの捉え方は少し異なる。
殆どの者には、信じて頼る以外突破口がない、と聞こえたはずだ。
だが、分かる者にはこう聞こえる。
もし嘘だとしても抗う術がない、と。
そもそも、前提としてトランプとノーカードが2人して嫌々ながらに従っている事がおかしい。
あれだけ強い2人が、苛立ちながらも言いつけに従う。
つまり、2人を凌駕する力の持ち主。
もっと言えば、2人を同時に相手しても圧倒する力の持ち主。
「石はここの3つと……もう2つは誰が?」
「朱はシオンが持ってる」
シオンがそっと懐から取り出し、箱推しに渡す。
これで四方の石は揃った。
「それじゃあ、これからの動きを伝える」
「え、待って、金の石は?」
駆け足で指示出ししそうな箱推しが伝達を始める前に、ノエルが待ったをかけた。
自分がぺこるしに託した金の石の事が、誰からも上がらない。
「団長、ぺこらとるしあに石を渡したんよ」
「そうか……よし、それも含めて話をしよう」
数秒仮面の額に指を当て、その後箱推しは頷いた。
説明は長いため、簡潔にここに纏めよう。
この裏世界を元に返すには、四方の石を封印し、最後に中央の石を元の位置へ置く。
そして、それを合図に四方で最後にもう一度魔法をかける。
北のスタジアムはシオン、南のホロライブ事務所は箱推しとえーちゃん、西の展望塔はトランプ、東の海岸ステージはノーカードが受け持つ。
ロボ子、そら、かなた、ココの証言からみこのいるかもしれない大神社。
シオンの証言からトワ、るしあのいる崩壊したラジオ塔。
それぞれにも人員を送る。
大神社にはココ、ラジオ塔にはフレアを派遣する。
ほかは中央エレベーターに金の石を返すために、中央棟の安全確保。
きっと数名の敵がいる。
ぺこらの所在は誰も知らないため、探しようがない。
だから、るしあが石を持っているに賭ける。
「あずきちも無事だったんだね」
「うん、あの仮面の人とえーちゃんのお陰でね」
そらは説明の後、早速AZKiに声をかけた。
AZKiは優しく笑った。
「じゃあ、中央は任せるけど、一つだけ」
箱推しがホロメン全員を見回して、最後にシオンに当て留める。
指を一つ立て、アドバイス。
「なにも命かける必要はないけど、代償ゼロで超えられるほど容易い山でもないって事、分かってほしい」
「…………」
シオンは一瞬目を伏せた。
重々承知していると、その挙動が示している。
「勿論、ホロメン誰一人、悪い事なんてしてないけどね」
箱推しは最後に加えて笑うと、満足したようにえーちゃんを連れて飛び去っていった。
それと同時に嫌々ながら、敵陣2人も二手に分かれて飛び去る。
「ちょっと待ってよ」
まつりが軽く挙手をして注目を集める。
言いたい事は、察しがつく。
「まつりたちはホントに行くべきなの?」
能力を失くしたものの本心だ。
「正直言うと、行きたくないし、行けない」
「まつり先輩、諦めなければ……」
「ごめんね、ねねち。これはそう言う問題じゃないんだよ」
不屈の精神をまつりに与えようとするねねだが、まつりが言わんとする事は心云々の話じゃない。
「まつり達にはもう、能力がない。敵はきっとまだ居るし、なんなら数名が復活しててもおかしくない」
「まあ、ifを考えるなら、最悪の全員復活済みを考慮するべき」
「スキル所持者であるココちやシオン、ロボロボだって怪我こそ治ってるけど、疲労や消耗した体力は回復してない」
「敵も同じ条件だとしても、今のままじゃ無謀だよ」
皆に語りかけ、シオンを信頼して。
そう、この演説はシオンに頼み込むため。
先程箱推しが投げた言葉の意図は、シオン以外にも理解できた。
きっと、仲間に負担をかけたく無いんだろう?
「…………」
「シオン!」「シオンちゃん!」「シオンたん!」「シオン先輩!」
情けないと、思うさ。
だけど、今は頼っていくしかない。
元来、ホロメンの運動神経は圧倒的に悪い。
素直に勝負を挑んでも、返り討ち。
それを補うにはもう、特別な力に頼る他ない。
「……体力と疲労は、どうしようもない」
「それって……!」
「能力なら、何とかできる」
皆の瞳に希望が宿った。
それと、決意。
身を削って、突き進む決意。
だが、シオンは未だ躊躇を見せる。
皆、他人の為に優しくなれる事は知っている。
だから、他人が傷つく事を、簡単には許容しない。
希望の発芽に言葉を交わすメンバーを、シオンは一言、こう制す。
「でも、皆その代償が許容できる?」
「だ、代償って……?」
率先して言葉を欲するマリン。
そのマリンの目を、シオンは視線で貫く。
「理論とかの細かい説明は分からないと思うから省くけど、船長の魔力を使う」
「え、船長?」
マリンは自身を指して、シオンを見て、周囲を見て、またシオンを見る。
マリンの魔力が一般人に比べて多い事は、大体が知っている。
でも、それの何が問題なのか。
全員の魔力の元栓を、シオンの魔力で操作していたのなら、可能なのでは?
「そうするとどうなるの? 船長が数日動けないとか?」
「え、こわ」
と言いつつ、動けないだけならそこはマリンが良ければいい。
寧ろ、ホロメンに看病してもらうとか言って発情しそう。
「方法とか色々相まって……船長の魔力が消滅する」
「「……っ」」
マリンとシオン以外、息を飲んだ。
冷や汗が、全身を伝った。
妙に熱い。
風が、涼しい。
「当然、消滅すれば復活はしないし、永遠に特殊能力は開花しない」
もっと言えば、シオンの作る小道具も使えないし、その他魔力を使用する行為は一切再現不可能となる。
ここで全員に力を与える代償として、マリンの一生分の魔力酷使権の剥奪。
これを、ホロメンが赦すだろうか?
敢えて言う、赦さない。
「いいですよ」
「「……‼︎‼︎」」
本人なら、結論はそうだろう。
シオンは驚かない。
しかし、他は絶句。
「待って、ダメでしょそんなの」
「発破かけたクセしてだけど、まつりもそれは……」
「マリンの一生の可能性を潰すって事でしょ?」
言わずもがな、策は他にない。
決断の時だ。
全てを守る為に、仲間一人の魔力を犠牲にできるか否か。
「他の人じゃ……ダメなの……? あてぃし、とか……」
おどおどと視線を彷徨わせながら、あくあが提案する。
自分自身の魔力容量の良さも知っている。
「全員から少しずつ搾取ってのはできない」
「じゃあやっぱ……」
「容量のサイズから、あくあ、フブキちゃん、船長の誰かになる」
「マリンちゃんを選んだのは、まだ能力が出てないからだね?」
「そう」
揺らがない候補。
選択肢はもう、するか、しないか。
本人以外、誰もが迷う。
だから、本人が強く引っ張らなければならない。
「時間を無駄にできないから、シオンたん!」
「……いいんだね?」
「はい」
「もう二度と、魔力は吹き返さないよ?」
「それでみんなが、救われるなら」
シオンはマリンの覚悟を前に力強く顎を引いた。
そして、何かを手に、屈み込む。
地面に大きな魔法陣を描き始めた。
あくあは以前目にしたものよりも、複雑な作りであると直感した。
描かれる絵や模様の数、入り組み具合、サイズ、あらゆる点で前回のそれを越えている。
「真ん中に」
マリンを魔法陣中央、三日月マークの上へ直立させる。
緊張の面持ちで陣へ入り、数度喉を鳴らした。
痛いのか、はたまた何も感じないのか……。
「船長のことは守ってくださいね」
唯一の要望を口にすると、魔法陣が紫色に輝く。
淡い光を漂わせながら発光し、マリンの力を奪う。
その時間、僅か3秒ほど。
「っ、マリン!」
意識を失くし、倒れかけたところをノエルが抱き止めた。
体内のエネルギーが一度に全て抜ければ、必然。
急な脱力で失神したのだ。
全員の脆弱だった覚悟は確固たるものへと昇華していく。
体力は根性で振り絞る。
力は戻った。
今一度、戦え。
護るために。
「シオンは封印の件でここに残る」
「護衛はいる?」
「いや、石探しに人員を割いて」
「分かった」
シオン、ココ、フレア以外は坂を下って中央塔へ向かう。
「よし、行こう!」
AZKiが先頭に立ち拳を掲げる。
呼応する仲間。
そして……
「新ルート開拓!」
力強く片足を踏み込むと、視認可能な透明な直線通路が形成された。
スタジアムから一直線に、中央塔へと繋がる道が。
「能力、開拓」
最短距離を進む事のできる能力。
それがAZKiの開拓。
通路は建造物をも貫通し、その路上に立つものも建造物を無視して直行できる。
戦闘にこそ不向きだが、サポートとして完璧な能力。
「行ける人は先行って!」
その通路に真っ先に飛び出すのはわため。
続いて、アキロゼ、メル、スバル、あやめ、ミオ、かなた、ポルカ。
更に後続に普通速度の者たち。
「これで、終わらせるよ!」
「「オォ‼︎」」
最終作戦、決行。
作者でございます。
さて、今回はまたすこーし魔力の話でした。
たまに出る理論の話はやっぱ、面倒ですかね?
でも、曖昧な状態で展開させると、後々困るので。
そして、船長の魔力が消滅。
つまり今後、船長は戦えない……?
あずきちもご都合主義的な能力でしたが、当然この先、誰の能力も本質は変わらないので、今後はそうならないはずです。
能力の初開花は、どうしても都合良くなってしまうんです。
まあ、そんな訳で、今回もありがとうございました。
それではまた、次回。