歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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76話 代償

 

 大破した船とロボットの破片が、瓦礫が、雨のようにバラバラと降り注ぐ。

 両腕を損失した機体の硬さに、偶然通用した突撃。

 根拠もなしにぶつけたが、運が悪ければ船のみの破裂となったわけだ。

 

 しかし、見事な爆発で勝利を飾った。

 

 爆煙の中、マリンを連れたスバルとメルがゆっくりと舞い降りる。

 更に、煙幕の奥からロボ子がAを引き摺って出てきた。

 破裂の衝撃でこちらも運良く気絶しているようだ。

 至る所に破片が刺さっていて、痛々しい。

 

 何故か、Aの気絶に連動して地に埋まった台座も出現した。

 ご都合主義な展開だが、好都合。

 

「ぁぁ……スバル先輩の鬼!」

「そんなん言われたの初めてだわ……」

 

 複製物であるにも関わらず涙を流すマリンにスバルは呆れ顔。

 そこへ丁度、破れた海賊旗の切れ端が舞い落ちてきた。

 それで涙を拭う。汚い。

 

「まあどちらにせよ、船は墜落してたよ」

「そんな! なんで!」

「…………もう誰も、特殊能力使えないでしょ」

 

 シオンが周囲を見回す。

 申し訳なさを表情に隠して。

 

「っと……ほんとですね」

 

 ぼたんが小石を投げた。

 虚空を貫いて、地に落下。

 ご存知の通り、能力は捕捉で対象に必中。

 

「おい、スバル狙うな」

 

 スバルの真横をすり抜けた事と、ぼたんの視線から察した。

 外れたため大して咎めないが。

 

 あくあ、すいせい、フブキたち現出型の者も、一切生成できない。

 

「しかし、イマイチ理解できないね、この魔力の仕組み」

 

 ミオが疑いをかけるように婉曲的に尋ねる。

 だが、ミオの発言を理解できない人の方が多い。

 

「シオンが制御するにしても、各々に魔力が備わってるはず。なのに、魔力切れが全員同時っておかしくない?」

 

 シオンが制御して魔力が尽きた。

 ならば、そこから先は制御なしで乱雑に各々が自身の魔力を使用する。

 つまり、貯蓄限界の到来はまばらでなければ不自然だ。

 

「説明は省くけど、シオンが最後に全員の魔力使用を停止させたの」

 

 制御書でスイッチのオンオフを切り替えられる。

 その切り替えにシオンの魔力が必要。

 魔力切れを感じ、ギリギリまで粘って元栓を閉めた。

 

「ま、説明してたら時間がね」

 

 さっとおかゆがフォローした。

 にこっと笑い、一度落ち着くよう全員に促す。

 

「おお、おかゆ先輩起きたんだ」

「うん、今さっきの爆発でね」

「ころさんとすいちゃん以外はみんな起きたよ」

 

 背後で倒れるころね、そして少し離れた位置で寝ているすいせいを見て眉を寄せる。

 

「そうだ! ころさんは目立った外傷無いけど、すいちゃんは早く止血しないと」

 

 鉄パイプ一本分の穴を開けられた。

 そこから溢れる血の量は異常だ。

 放置すれば死に至る……のだが。

 

「ちょこの能力も消えてるのよ」

 

 唯一の回復特化者が消滅し、シオンも魔力不足。

 治癒ができない。

 危機的状況だ。

 

 

「おおすげえな、もう終わってんのか」

 

 

 聞き知らぬ男性の声。

 いや、シオンだけは記憶に新しい。

 あの魔術師が、ノーカードとトランプ、そしてえーちゃんとAZKiを引き連れてこの場へと姿を表す。

 

「A……」

「マジかよ」

 

 淘汰された巨大機体の残骸と気絶したA。

 仲間の二人には信じ難い光景だったはずだ。

 すたっとスマートに着地を決め、計5名が全員の正面に立つ。

 

「「誰⁉︎」」

 

 えーちゃんとAZKiを人質と勘違いした者たちが牙を剥く。

 能力もない中で、実に勇ましい。

 

「皆さん、落ち着いてください。彼らは協力者です」

「ハッ、誰が!」

 

 協力関係を否定するようにノーカードが鼻を鳴らす。

 しかし、トランプはその様子を見て宥めた。

 二人では敵わないと見定めている。

 シオンも同様に。

 

「協力って……」

 

 トランプと直に対峙したあくあが気弱に言葉を漏らす。

 その先は篭って聞こえない。

 

「気持ちは分かります。ですが信じる他に道はありません」

 

 えーちゃんの意見に反論は出ない。

 ただ、えーちゃんの意図と他のメンバーの捉え方は少し異なる。

 殆どの者には、信じて頼る以外突破口がない、と聞こえたはずだ。

 

 だが、分かる者にはこう聞こえる。

 もし嘘だとしても抗う術がない、と。

 

 そもそも、前提としてトランプとノーカードが2人して嫌々ながらに従っている事がおかしい。

 あれだけ強い2人が、苛立ちながらも言いつけに従う。

 つまり、2人を凌駕する力の持ち主。

 もっと言えば、2人を同時に相手しても圧倒する力の持ち主。

 

「石はここの3つと……もう2つは誰が?」

「朱はシオンが持ってる」

 

 シオンがそっと懐から取り出し、箱推しに渡す。

 これで四方の石は揃った。

 

「それじゃあ、これからの動きを伝える」

「え、待って、金の石は?」

 

 駆け足で指示出ししそうな箱推しが伝達を始める前に、ノエルが待ったをかけた。

 自分がぺこるしに託した金の石の事が、誰からも上がらない。

 

「団長、ぺこらとるしあに石を渡したんよ」

「そうか……よし、それも含めて話をしよう」

 

 数秒仮面の額に指を当て、その後箱推しは頷いた。

 

 

 説明は長いため、簡潔にここに纏めよう。

 

 この裏世界を元に返すには、四方の石を封印し、最後に中央の石を元の位置へ置く。

 そして、それを合図に四方で最後にもう一度魔法をかける。

 

 北のスタジアムはシオン、南のホロライブ事務所は箱推しとえーちゃん、西の展望塔はトランプ、東の海岸ステージはノーカードが受け持つ。

 

 ロボ子、そら、かなた、ココの証言からみこのいるかもしれない大神社。

 シオンの証言からトワ、るしあのいる崩壊したラジオ塔。

 それぞれにも人員を送る。

 大神社にはココ、ラジオ塔にはフレアを派遣する。

 

 ほかは中央エレベーターに金の石を返すために、中央棟の安全確保。

 きっと数名の敵がいる。

 

 ぺこらの所在は誰も知らないため、探しようがない。

 だから、るしあが石を持っているに賭ける。

 

 

「あずきちも無事だったんだね」

「うん、あの仮面の人とえーちゃんのお陰でね」

 

 そらは説明の後、早速AZKiに声をかけた。

 AZKiは優しく笑った。

 

「じゃあ、中央は任せるけど、一つだけ」

 

 箱推しがホロメン全員を見回して、最後にシオンに当て留める。

 指を一つ立て、アドバイス。

 

「なにも命かける必要はないけど、代償ゼロで超えられるほど容易い山でもないって事、分かってほしい」

「…………」

 

 シオンは一瞬目を伏せた。

 重々承知していると、その挙動が示している。

 

「勿論、ホロメン誰一人、悪い事なんてしてないけどね」

 

 箱推しは最後に加えて笑うと、満足したようにえーちゃんを連れて飛び去っていった。

 それと同時に嫌々ながら、敵陣2人も二手に分かれて飛び去る。

 

「ちょっと待ってよ」

 

 まつりが軽く挙手をして注目を集める。

 言いたい事は、察しがつく。

 

「まつりたちはホントに行くべきなの?」

 

 能力を失くしたものの本心だ。

 

「正直言うと、行きたくないし、行けない」

「まつり先輩、諦めなければ……」

「ごめんね、ねねち。これはそう言う問題じゃないんだよ」

 

 不屈の精神をまつりに与えようとするねねだが、まつりが言わんとする事は心云々の話じゃない。

 

「まつり達にはもう、能力がない。敵はきっとまだ居るし、なんなら数名が復活しててもおかしくない」

「まあ、ifを考えるなら、最悪の全員復活済みを考慮するべき」

「スキル所持者であるココちやシオン、ロボロボだって怪我こそ治ってるけど、疲労や消耗した体力は回復してない」

「敵も同じ条件だとしても、今のままじゃ無謀だよ」

 

 皆に語りかけ、シオンを信頼して。

 そう、この演説はシオンに頼み込むため。

 先程箱推しが投げた言葉の意図は、シオン以外にも理解できた。

 きっと、仲間に負担をかけたく無いんだろう?

 

「…………」

「シオン!」「シオンちゃん!」「シオンたん!」「シオン先輩!」

 

 情けないと、思うさ。

 だけど、今は頼っていくしかない。

 元来、ホロメンの運動神経は圧倒的に悪い。

 素直に勝負を挑んでも、返り討ち。

 それを補うにはもう、特別な力に頼る他ない。

 

「……体力と疲労は、どうしようもない」

「それって……!」

「能力なら、何とかできる」

 

 皆の瞳に希望が宿った。

 それと、決意。

 身を削って、突き進む決意。

 だが、シオンは未だ躊躇を見せる。

 皆、他人の為に優しくなれる事は知っている。

 だから、他人が傷つく事を、簡単には許容しない。

 

 希望の発芽に言葉を交わすメンバーを、シオンは一言、こう制す。

 

「でも、皆その代償が許容できる?」

「だ、代償って……?」

 

 率先して言葉を欲するマリン。

 そのマリンの目を、シオンは視線で貫く。

 

「理論とかの細かい説明は分からないと思うから省くけど、船長の魔力を使う」

「え、船長?」

 

 マリンは自身を指して、シオンを見て、周囲を見て、またシオンを見る。

 マリンの魔力が一般人に比べて多い事は、大体が知っている。

 でも、それの何が問題なのか。

 全員の魔力の元栓を、シオンの魔力で操作していたのなら、可能なのでは?

 

「そうするとどうなるの? 船長が数日動けないとか?」

「え、こわ」

 

 と言いつつ、動けないだけならそこはマリンが良ければいい。

 寧ろ、ホロメンに看病してもらうとか言って発情しそう。

 

「方法とか色々相まって……船長の魔力が消滅する」

「「……っ」」

 

 マリンとシオン以外、息を飲んだ。

 冷や汗が、全身を伝った。

 妙に熱い。

 風が、涼しい。

 

「当然、消滅すれば復活はしないし、永遠に特殊能力は開花しない」

 

 もっと言えば、シオンの作る小道具も使えないし、その他魔力を使用する行為は一切再現不可能となる。

 ここで全員に力を与える代償として、マリンの一生分の魔力酷使権の剥奪。

 これを、ホロメンが赦すだろうか?

 敢えて言う、赦さない。

 

「いいですよ」

「「……‼︎‼︎」」

 

 本人なら、結論はそうだろう。

 シオンは驚かない。

 しかし、他は絶句。

 

「待って、ダメでしょそんなの」

「発破かけたクセしてだけど、まつりもそれは……」

「マリンの一生の可能性を潰すって事でしょ?」

 

 言わずもがな、策は他にない。

 決断の時だ。

 全てを守る為に、仲間一人の魔力を犠牲にできるか否か。

 

「他の人じゃ……ダメなの……? あてぃし、とか……」

 

 おどおどと視線を彷徨わせながら、あくあが提案する。

 自分自身の魔力容量の良さも知っている。

 

「全員から少しずつ搾取ってのはできない」

「じゃあやっぱ……」

「容量のサイズから、あくあ、フブキちゃん、船長の誰かになる」

「マリンちゃんを選んだのは、まだ能力が出てないからだね?」

「そう」

 

 揺らがない候補。

 選択肢はもう、するか、しないか。

 本人以外、誰もが迷う。

 だから、本人が強く引っ張らなければならない。

 

「時間を無駄にできないから、シオンたん!」

「……いいんだね?」

「はい」

「もう二度と、魔力は吹き返さないよ?」

「それでみんなが、救われるなら」

 

 シオンはマリンの覚悟を前に力強く顎を引いた。

 そして、何かを手に、屈み込む。

 地面に大きな魔法陣を描き始めた。

 

 あくあは以前目にしたものよりも、複雑な作りであると直感した。

 描かれる絵や模様の数、入り組み具合、サイズ、あらゆる点で前回のそれを越えている。

 

「真ん中に」

 

 マリンを魔法陣中央、三日月マークの上へ直立させる。

 緊張の面持ちで陣へ入り、数度喉を鳴らした。

 痛いのか、はたまた何も感じないのか……。

 

「船長のことは守ってくださいね」

 

 唯一の要望を口にすると、魔法陣が紫色に輝く。

 淡い光を漂わせながら発光し、マリンの力を奪う。

 その時間、僅か3秒ほど。

 

「っ、マリン!」

 

 意識を失くし、倒れかけたところをノエルが抱き止めた。

 体内のエネルギーが一度に全て抜ければ、必然。

 急な脱力で失神したのだ。

 

 全員の脆弱だった覚悟は確固たるものへと昇華していく。

 体力は根性で振り絞る。

 力は戻った。

 今一度、戦え。

 護るために。

 

「シオンは封印の件でここに残る」

「護衛はいる?」

「いや、石探しに人員を割いて」

「分かった」

 

 シオン、ココ、フレア以外は坂を下って中央塔へ向かう。

 

「よし、行こう!」

 

 AZKiが先頭に立ち拳を掲げる。

 呼応する仲間。

 そして……

 

「新ルート開拓!」

 

 力強く片足を踏み込むと、視認可能な透明な直線通路が形成された。

 スタジアムから一直線に、中央塔へと繋がる道が。

 

「能力、開拓」

 

 最短距離を進む事のできる能力。

 それがAZKiの開拓。

 通路は建造物をも貫通し、その路上に立つものも建造物を無視して直行できる。

 戦闘にこそ不向きだが、サポートとして完璧な能力。

 

「行ける人は先行って!」

 

 その通路に真っ先に飛び出すのはわため。

 続いて、アキロゼ、メル、スバル、あやめ、ミオ、かなた、ポルカ。

 更に後続に普通速度の者たち。

 

「これで、終わらせるよ!」

「「オォ‼︎」」

 

 最終作戦、決行。

 

 





 作者でございます。
 さて、今回はまたすこーし魔力の話でした。
 たまに出る理論の話はやっぱ、面倒ですかね?
 でも、曖昧な状態で展開させると、後々困るので。

 そして、船長の魔力が消滅。
 つまり今後、船長は戦えない……?
 あずきちもご都合主義的な能力でしたが、当然この先、誰の能力も本質は変わらないので、今後はそうならないはずです。
 能力の初開花は、どうしても都合良くなってしまうんです。

 まあ、そんな訳で、今回もありがとうございました。
 それではまた、次回。
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