皆を送り出したシオンは、スタジアムの台座の前まで歩いた。
はあとの糸で拘束したA、そして、治癒後のすいせい、ころね、マリンも近くへ連れてきた。
一度魔法で封印をかけ、魔法式を展開しながら金の石からの合図を待つ。
この時シオンは動けない。
一度魔法を切れば動けるが、再構築は大変だし、合図が来た瞬間に対応できない。
それを分かっていたのだろう。
Aが能力で手元に鉄具を引き寄せ、自力で糸を切った。
そのまま、息を潜めてシオンへと忍び寄る。
確実に、殺意を持って。
「っ……!」
そのAの首元に、背後からそっと刃物を突き付けられる。
「動いたら殺すよ」
Aには見えないが、黒のフードを被っている。
そのフードの中で赤い瞳を煌めかせ、ニヒッと笑う。
「能力使っても殺すよ」
刃物を電磁力で吹き飛ばそうと画策した脳内。
それも推察済み。
言葉だけで完全に行動を封じる。
「はい、いい子」
黒フードの少女はポケットから小さな金属の輪を取り出し、それを開く。
すると忽ち輪の面積が拡大し、Aの胴体を腕ごと束縛する。
「……誰?」
シオンは背後に語りかけた。
振り向くことすらできない。
魔法式を切ってないから。
「……」
返事はなし。
そして、世界を戻した直後にシオンが振り返ったそこには、その少女はいなかった。
*****
黒フードの少女。
彼女は、トワとるしあの下へ現れた者と同一人物。
名前は沙花叉。
ブラックを捕らえ、格納した後、シオンの下へ向かった。
その場でAを再拘束したのも彼女。
そしてその後更に、彼女は大きな活躍をしていた。
「えっと……この辺?」
スタジアムから出て、何とも言い難い路地へ来た。
電話での指示通り、所定の位置に立つ。
数秒後座り込む。
「なぁんで沙花叉がこんなこと……」
新人の扱いが酷い。
そんな感じの愚痴を吐いて数秒暇を潰した。
残りの数分はどうやって暇を潰そうか?
指定の時間まであと5分ほどはある。
「はぁ……暗殺リストも落としちゃったし、こよちゃんの防衛パッチも壊しちゃったし、総帥にこき使われるし」
あまり好成績ではない。
だが、成果はあった。
「ま、当初の目的は果たしたし、何より……」
口元がニヤける。
顔が妙に歪み……表現し難い……気持ち、悪い表情になる。
「ぐへっ!」
思い返す後ろ姿。
初めてみた張本人。
「話しかけられたし」
恥ずかし過ぎて返答はできなかったけど……。
紫咲シオンと言う沙花叉にとって神々しい存在を脳内で浮かべ、言葉を幾度も再生し、時間を潰す。
やがて、目の前に一つのホールが現れる。
そこからひょいっと石が飛び出て来た。
「これだなー……」
金色に輝く石。
沙花叉はそれを拾うと中央塔へ歩いた。
時間にして20分。
走れば15分だが、あんまり変わらない。
疲れるし。
中央塔の階段を登り、立ち入り禁止の台座へ。
石を乗せると……光った。
「はぁ〜、やっと終わった〜」
大きな欠伸と伸びをして、更に上へ登る。
侵入禁止のドアから外へ出て、風を浴びながら夜景を見下ろして迎えを待った。
これが、ホロメンたちを救った影ながらの功労者。
これが、誰も知ることのできない、真実である。
*****
傷も完治して、全員で事務所に集うことができた。
今回の事件は、ホロメンだけの問題ではなく、国の存続に関わる重大な事件。
国側への情報共有のため、多くのメンバーが事情聴取を受けた。
様々なことが起こり、どう状況整理すればいいのか迷っていた。
結果、話し合いで丸一日が潰れてしまった。
全てを整理したえーちゃんが、翌日に説明のため再招集をかけた。
えーちゃんが開示した整理結果はこうだ。
まず、敵に関する情報。
最重要目的は石の強奪と国家への叛逆。
それに失敗し、A、K、J、トランプ、ノーカード、スペード、クラブ、ラヴ、ジョーカーC、レッドが逮捕された。
ジョーカーM、ダイヤ、Q、ブラックは行方不明に。
彼らを動かした黒幕が存在するとも言われた。
だが、それ以上は出て来なかった。
次にホロメンに関する情報。
そら……巻き戻る力の発現。歌姫の力に起因するものと思われる。
ロボ子……一部機器の破損で修理と機能改善に勤める必要がある。
すいせい……大怪我をしたが、治癒により目立つ後遺症もなし。ただ、1週間以上の安静が必要。
みこ……こちらも大怪我をしたが、同じく後遺症はなし。
シオン……魔力の酷使により1ヶ月間は魔法を使わない方がいい。
あやめ……大怪我により数日寝たきりだったが、起床後の体調は問題ない。ただ、愛刀破損による精神的負荷が大きい。
ころね……怪我は大きくなかったが、疲労が大きかった。キレて全力を出した結果と思われる。憑依神獣の出現は人生初だそうだ。
マリン……魔力の消滅により、今後一切の魔力行使が不可能となった。本人は、あまり気にしてない。そんな事より船が無事でよかったと涙していた。
フレア……一度受けた腹の傷は後遺症すら無く消滅したまま。不思議な復活の力も解明できていないが、弓を手放したことに清々していた。
ねね……不屈の力の発現。
その他。
箱推しとえーちゃんは情報共有などのため、協定を組んだそうだ。
そして、沙花叉は箱推しとの契約の上であの場に立ち入ったらしい。
「そう! トワさ、こんなん拾ったんやけど」
トワは大事に保管していたリストを取り出す。
知らぬ名前が多く書き連ねてある。
線で消された名前もある中、一つだけ知る名前、ブラックがある。
更に、リストの最後のページには……。
「これ、シオンちゃんよね?」
シオンと思しき写真が挟んであった。
トワとるしあの話から、これは暗殺相手を纏めたブラックリスト。
その最後に意味深に馳せられた写真。
「シオンが……ターゲットの一人ってこと?」
何も知らなければ、そう行き着きやすい。
しかし、思考を凝らせばそれは否定できる。
シオンだけ写真なのは不自然だ。
「理由はどうあれ、まあ、一応警戒はしといた方がいいって事」
軽い伝達事項はこの程度。
続いて、重すぎる伝達事項。
「……皆さん、非常に重大な話があります」
えーちゃんが、数枚の紙と剣幕な表情を持ち出す。
「私も、箱推しさんに聞いて初めて知りました」
「……?」
「裏社会、指名手配」
「……し、指名手配?」
犯罪者にお金をかけて、国総出で捕らえることを促す仕組み。
見かけたら通報を、捕らえたら連絡を、それに応じて、指定された金額が贈呈される。
そんな、ありきたりな仕組み。
「通常の指名手配は、国が逃亡中の犯罪者を捕らえるために行います」
誰もが知る事を前おく。
「ですが、この裏社会指名手配は、ある個人が勝手な思いで存在を抹消してほしい、若しくは捕らえてほしい者に賞金をかけて、裏社会の人間に働きかける仕組みです」
「ねえ……まさか……!」
ばん、と一枚紙をボードに貼り付ける。
「『鋼鉄ロボ』ロボ子さん、賞金50万円」
ロボ子の写真にWANTEDと書かれ、500000yen、とも。
驚愕の悲鳴たちを打ち砕くように、えーちゃんはまたボードに紙を貼る。
「『兎長』兎田ぺこら、賞金50万円」
同様にぺこらの写真の手配書。
「『海賊』宝鐘マリン、賞金50万円」
そしてマリン。
一律50万でかけられた賞金。
しかし何故、この3人なのか。
そんな疑問はすぐ消えた。
「『協賛の星』星街すいせい、賞金100万円」
「『桜花の巫女』さくらみこ、賞金100万円」
「『被虐の化猫』猫又おかゆ、賞金100万円」
「『最悪のハーフエルフ』不知火フレア、賞金100万円」
「『天声の天使』天音かなた、賞金100万円」
「『
上記6名、一律100万円の懸賞金。
名前を呼ばれた者は、気が気でない。
だが、まだ続く。
「『紫苑の魔術師』紫咲シオン、賞金300万円」
「『修羅の鬼神』百鬼あやめ、賞金300万円」
以上2名は更に上へ。
「『歌姫の素質』ときのそら、賞金500万円」
そらは更に更に上へ。
もはや、非現実の範疇だ。
「そして……」
えーちゃんが、最後の一枚をド派手に貼り付けた。
「『不屈の歌姫』桃鈴ねね、賞金1000万円」
衝撃を重ねる展開。
最高額を記録したのは、大ヒーローだったねね。
しかも、その手配書の通り名のような部分に誰もが目を引かれ、度肝を抜かれた。
「ちょっ! 歌姫⁉︎」
そう、不屈の歌姫。
不屈の力が、まるで歌姫の能力と思わせる記し方。
歌姫は世界に一人のみ。
もし、これが事実なら、その一人はねねになる。
そうなって、終わりのはずだというのに……。
「ま、待って……」
「理解が……」
「うん……や、ほんと……」
「ああ、追い付かねえ」
手配書の製作者が、間違えた?
にしてもあり得ない。
「ねねが……歌姫……」
本人も、その力は未だ馴染んでおらず、歌姫の力と呼ぶに相応しいのか、判別できない。
確かに、Aの最高硬度を突破した破壊力は凄まじいものだったが……。
「いいですか、これは、箱推しさんに聞いた一つの見解です」
「……うん」
「ねねさんは、異世界宇宙人である、という点に注目して下さい」
「……?」
誰しもが知る事実。
ねねは、異世界のタオタオ星からやって来た宇宙人。
この世界に転移した時のことは、ねねの記憶にも新しい。
因みに、アキロゼも異世界人。
「ねねさんが歌姫でありながら、そらにも依然歌姫の素質が予見されるのは、ねねさんが異世界の歌姫である可能性があるからです」
「え……?」
「そ、それって……」
「この世界『には』、一度に歌姫が一人しか生まれませんが、他の世界からやって来たとしたら? 同時に二人存在できないと証明できますか?」
「そんな極小の可能性……」
「その可能性を、偶然、奇跡的にも、引いていたら? ねねさんの歌の素質は皆さんもよく知っているはずです」
歌姫と呼ぶにも申し分の無い美声。
一年に、たった5本指で数えられる程度しか現れない異世界人。
その選別時に、奇跡的にも歌姫を引き寄せてしまったのなら。
本当に、この世界には歌姫が二人、存在しているかもしれない。
「……手配書とか、歌姫云々に関しては、大体分かった。あんまし納得は、出来ないけど」
「ねえ、箱推しって……何モンなの?」
「その手配書も、あいつから貰ったんじゃないの?」
えーちゃんは黙り込む。
正直、協定を組んだものの、えーちゃん自身、箱推しの輪郭は掴めてない。
素顔すら、見たことがない。
「それなら、これ」
だが、意外にもシオンが一つの薄い本を差し出す。
ただ薄いだけで、如何わしいものではない。
その本には番号と顔写真、そしてその人に関する詳細が書かれている。
「魔術師評価表、丁度昨日発行されたやつ」
魔術師評価表とは、世界の魔術師の力を総合評価してランキング形式で示したもの。
一年に一度発行される。
巻頭は一位の魔術師に独占されていた。
「一位、『不明』、写真もunknown……」
表紙を独占するには余りにも情報不足。
全くもって役立たずな評価表。
名前も写真も不明では、載せる意味がない。
「『不明』は通り名」
「え!」
「そういう名前ってこと?」
「そう」
流石はシオン。
魔術に関しての知識が群を抜いている。
皆が興味を持ってその本に集まり、次のページへ。
「二位、『
「それ『
「は? ふりがなふれよ」
初見では読めない。
不明も、ふりがなさえあれば気が付けたかも。
「めっちゃ悪そう」
「いかにもやってそうな顔」
笑みが深く、狂気じみたツラだ。
「それは喜劇の仮面、素顔じゃないよ」
「普通に考えてこんな顔ないだろ」
「え、そう? 悪いすいちゃんって感じ」
「おい」
妙な茶番を始める。
「えーっと、三位、箱……推し⁉︎」
「え、ウソ⁉︎」
「うわ、マジやん」
次のページの名前、そして写真に映る喜怒哀楽の仮面。
正真正銘、あの箱推しだ。
世界評価三位の魔術師であった。
しかし……
「1から3まで素顔不明って……この本大丈夫か?」
「それな」
仮面が素顔のようなものとも言えるが、素顔でいられると気付けない。
と、まあ、箱推しの順位も知ったところで……
「シオンたんはどこかな〜」
マリンがシオンを探してページを捲り始める。
捲り始めて2ページほど。
4位以降は、1ページに2人載っている。
「ええ⁉︎」
マリンの鈍く響く声に、皆がまた集う。
「6位、『紫咲シオン』!」
「うひょーー!」
シオンのしけた顔の写真と共に、情報が記載されていた。
昨年の評価では10位。
そこから6位までの上昇はかなり大きい。
「貸して!」
シオンが羞恥に頬を染めて一旦本を取り上げる。
そして更に2ページほど進んでもう一度バン、と机に叩きつける。
「シオンなんかより皆、こいつの顔だけは覚えといて」
そこには1人の女性と1人の男性。
「どっち?」
「男の方」
ありきたりなつまらない男の顔。
モテなさそうだが、気持ち悪くもない。
評価順位は10位。
今更ながら、総数は113人だ。
また一年で、大勢増えた。
「いいけど、なんで?」
「こいつ、去年はリストになかった顔」
即ち、新人。
新人が10位は、確かに恐ろしい。
突然上位に見知らぬ顔が現れれば、当然警戒するし、顔も覚える。
「へえ、確かにそりゃやべえ……けど、悪い奴とは限らないんじゃね?」
「んーん、間違いなく気狂い」
「根拠は?」
「順位は基本最下位周辺から名前が載り始めて、少しずつ上位へと評価が変化する」
「まあ、そうですよね」
だから強いとは納得できるが、だから凶悪とは繋げられないはず。
「どれだけすごい論文を出したとしても、デビューは50位前後が関の山。それを10位でデビューするには、頭や技術以外の面でアピールするしかない」
「滅茶苦茶世界に貢献したとかは?」
「この評価表の順位策定の基準の一つは凶悪性。一位は間違いなく世界レベルの犯罪者で、10位圏内も基本は相当なもの」
「箱推しはまだしも、シオンたんは?」
「勿論例外もあるけど、それは正当に、地道に積み上げて来た場合に限る」
これが、シオンが危険視する根拠。
「こいつはヘタしたら、来年には3位辺りにいるかもしんない」
魔術エキスパートのシオンの太鼓判付き。
警戒して然るべき存在だということだ。
「……みんなさ、積もる話もあるだろうけどさ、楽しい話しない?」
ぺこらが包帯を巻いた右腕を挙げた。
数名は首を傾げていた。
「ほら、ぼたんちゃん」
ぺこらがぼたんを促す。
こんな暗い話ばかりでは、エンターテイメントは繰り出せない。
我々は、動画配信者だ。
「急っすね、ま、いいけど」
ぼたんが全員の目の届く位置へ立つ。
大きく注目を集めて、宣言する。
「6月27日に、うさ建主催の夏祭り、うさ建夏祭りを開催します‼︎」
今年もホロライブの夏を、初める時が来た。
皆様、どうも、作者です。
ようやっと、4章完結です。
読んでくださっている方々には感謝しております。
さて、これより5章が始まるわけですが、5章は再び日常編ですね。
6章ではまたバトルですが、次のバトルからは、完全に活躍しないメンバーも増えます。
4章が長すぎたので。
5章も10〜15話だと思います。
それではまた次回。