歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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78話 正体と賞金

 

 皆を送り出したシオンは、スタジアムの台座の前まで歩いた。

 はあとの糸で拘束したA、そして、治癒後のすいせい、ころね、マリンも近くへ連れてきた。

 

 一度魔法で封印をかけ、魔法式を展開しながら金の石からの合図を待つ。

 

 この時シオンは動けない。

 一度魔法を切れば動けるが、再構築は大変だし、合図が来た瞬間に対応できない。

 それを分かっていたのだろう。

 Aが能力で手元に鉄具を引き寄せ、自力で糸を切った。

 そのまま、息を潜めてシオンへと忍び寄る。

 確実に、殺意を持って。

 

「っ……!」

 

 そのAの首元に、背後からそっと刃物を突き付けられる。

 

「動いたら殺すよ」

 

 Aには見えないが、黒のフードを被っている。

 そのフードの中で赤い瞳を煌めかせ、ニヒッと笑う。

 

「能力使っても殺すよ」

 

 刃物を電磁力で吹き飛ばそうと画策した脳内。

 それも推察済み。

 言葉だけで完全に行動を封じる。

 

「はい、いい子」

 

 黒フードの少女はポケットから小さな金属の輪を取り出し、それを開く。

 すると忽ち輪の面積が拡大し、Aの胴体を腕ごと束縛する。

 

「……誰?」

 

 シオンは背後に語りかけた。

 振り向くことすらできない。

 魔法式を切ってないから。

 

「……」

 

 返事はなし。

 そして、世界を戻した直後にシオンが振り返ったそこには、その少女はいなかった。

 

 

 

          *****

 

 

 

 黒フードの少女。

 彼女は、トワとるしあの下へ現れた者と同一人物。

 名前は沙花叉。

 ブラックを捕らえ、格納した後、シオンの下へ向かった。

 その場でAを再拘束したのも彼女。

 そしてその後更に、彼女は大きな活躍をしていた。

 

「えっと……この辺?」

 

 スタジアムから出て、何とも言い難い路地へ来た。

 電話での指示通り、所定の位置に立つ。

 数秒後座り込む。

 

「なぁんで沙花叉がこんなこと……」

 

 新人の扱いが酷い。

 そんな感じの愚痴を吐いて数秒暇を潰した。

 残りの数分はどうやって暇を潰そうか?

 指定の時間まであと5分ほどはある。

 

「はぁ……暗殺リストも落としちゃったし、こよちゃんの防衛パッチも壊しちゃったし、総帥にこき使われるし」

 

 あまり好成績ではない。

 だが、成果はあった。

 

「ま、当初の目的は果たしたし、何より……」

 

 口元がニヤける。

 顔が妙に歪み……表現し難い……気持ち、悪い表情になる。

 

「ぐへっ!」

 

 思い返す後ろ姿。

 初めてみた張本人。

 

「話しかけられたし」

 

 恥ずかし過ぎて返答はできなかったけど……。

 

 紫咲シオンと言う沙花叉にとって神々しい存在を脳内で浮かべ、言葉を幾度も再生し、時間を潰す。

 やがて、目の前に一つのホールが現れる。

 そこからひょいっと石が飛び出て来た。

 

「これだなー……」

 

 金色に輝く石。

 沙花叉はそれを拾うと中央塔へ歩いた。

 時間にして20分。

 走れば15分だが、あんまり変わらない。

 疲れるし。

 中央塔の階段を登り、立ち入り禁止の台座へ。

 石を乗せると……光った。

 

「はぁ〜、やっと終わった〜」

 

 大きな欠伸と伸びをして、更に上へ登る。

 侵入禁止のドアから外へ出て、風を浴びながら夜景を見下ろして迎えを待った。

 

 

 これが、ホロメンたちを救った影ながらの功労者。

 これが、誰も知ることのできない、真実である。

 

 

 

          *****

 

 

 

 傷も完治して、全員で事務所に集うことができた。

 今回の事件は、ホロメンだけの問題ではなく、国の存続に関わる重大な事件。

 国側への情報共有のため、多くのメンバーが事情聴取を受けた。

 

 

 様々なことが起こり、どう状況整理すればいいのか迷っていた。

 結果、話し合いで丸一日が潰れてしまった。

 

 全てを整理したえーちゃんが、翌日に説明のため再招集をかけた。

 

 

 えーちゃんが開示した整理結果はこうだ。

 

 まず、敵に関する情報。

 最重要目的は石の強奪と国家への叛逆。

 それに失敗し、A、K、J、トランプ、ノーカード、スペード、クラブ、ラヴ、ジョーカーC、レッドが逮捕された。

 ジョーカーM、ダイヤ、Q、ブラックは行方不明に。

 彼らを動かした黒幕が存在するとも言われた。

 だが、それ以上は出て来なかった。

 

 次にホロメンに関する情報。

 そら……巻き戻る力の発現。歌姫の力に起因するものと思われる。

 ロボ子……一部機器の破損で修理と機能改善に勤める必要がある。

 すいせい……大怪我をしたが、治癒により目立つ後遺症もなし。ただ、1週間以上の安静が必要。

 みこ……こちらも大怪我をしたが、同じく後遺症はなし。

 シオン……魔力の酷使により1ヶ月間は魔法を使わない方がいい。

 あやめ……大怪我により数日寝たきりだったが、起床後の体調は問題ない。ただ、愛刀破損による精神的負荷が大きい。

 ころね……怪我は大きくなかったが、疲労が大きかった。キレて全力を出した結果と思われる。憑依神獣の出現は人生初だそうだ。

 マリン……魔力の消滅により、今後一切の魔力行使が不可能となった。本人は、あまり気にしてない。そんな事より船が無事でよかったと涙していた。

 フレア……一度受けた腹の傷は後遺症すら無く消滅したまま。不思議な復活の力も解明できていないが、弓を手放したことに清々していた。

 ねね……不屈の力の発現。

 

 その他。

 箱推しとえーちゃんは情報共有などのため、協定を組んだそうだ。

 そして、沙花叉は箱推しとの契約の上であの場に立ち入ったらしい。

 

 

「そう! トワさ、こんなん拾ったんやけど」

 

 トワは大事に保管していたリストを取り出す。

 知らぬ名前が多く書き連ねてある。

 線で消された名前もある中、一つだけ知る名前、ブラックがある。

 更に、リストの最後のページには……。

 

「これ、シオンちゃんよね?」

 

 シオンと思しき写真が挟んであった。

 トワとるしあの話から、これは暗殺相手を纏めたブラックリスト。

 その最後に意味深に馳せられた写真。

 

「シオンが……ターゲットの一人ってこと?」

 

 何も知らなければ、そう行き着きやすい。

 しかし、思考を凝らせばそれは否定できる。

 シオンだけ写真なのは不自然だ。

 

「理由はどうあれ、まあ、一応警戒はしといた方がいいって事」

 

 軽い伝達事項はこの程度。

 続いて、重すぎる伝達事項。

 

 

「……皆さん、非常に重大な話があります」

 

 えーちゃんが、数枚の紙と剣幕な表情を持ち出す。

 

「私も、箱推しさんに聞いて初めて知りました」

「……?」

「裏社会、指名手配」

「……し、指名手配?」

 

 犯罪者にお金をかけて、国総出で捕らえることを促す仕組み。

 見かけたら通報を、捕らえたら連絡を、それに応じて、指定された金額が贈呈される。

 そんな、ありきたりな仕組み。

 

「通常の指名手配は、国が逃亡中の犯罪者を捕らえるために行います」

 

 誰もが知る事を前おく。

 

「ですが、この裏社会指名手配は、ある個人が勝手な思いで存在を抹消してほしい、若しくは捕らえてほしい者に賞金をかけて、裏社会の人間に働きかける仕組みです」

「ねえ……まさか……!」

 

 ばん、と一枚紙をボードに貼り付ける。

 

「『鋼鉄ロボ』ロボ子さん、賞金50万円」

 

 ロボ子の写真にWANTEDと書かれ、500000yen、とも。

 驚愕の悲鳴たちを打ち砕くように、えーちゃんはまたボードに紙を貼る。

 

「『兎長』兎田ぺこら、賞金50万円」

 

 同様にぺこらの写真の手配書。

 

「『海賊』宝鐘マリン、賞金50万円」

 

 そしてマリン。

 

 一律50万でかけられた賞金。

 しかし何故、この3人なのか。

 そんな疑問はすぐ消えた。

 

「『協賛の星』星街すいせい、賞金100万円」

「『桜花の巫女』さくらみこ、賞金100万円」

「『被虐の化猫』猫又おかゆ、賞金100万円」

「『最悪のハーフエルフ』不知火フレア、賞金100万円」

「『天声の天使』天音かなた、賞金100万円」

「『永久(とこしえ)の悪魔』常闇トワ、賞金100万円」

 

 上記6名、一律100万円の懸賞金。

 名前を呼ばれた者は、気が気でない。

 だが、まだ続く。

 

「『紫苑の魔術師』紫咲シオン、賞金300万円」

「『修羅の鬼神』百鬼あやめ、賞金300万円」

 

 以上2名は更に上へ。

 

「『歌姫の素質』ときのそら、賞金500万円」

 

 そらは更に更に上へ。

 もはや、非現実の範疇だ。

 

「そして……」

 

 えーちゃんが、最後の一枚をド派手に貼り付けた。

 

「『不屈の歌姫』桃鈴ねね、賞金1000万円」

 

 衝撃を重ねる展開。

 最高額を記録したのは、大ヒーローだったねね。

 しかも、その手配書の通り名のような部分に誰もが目を引かれ、度肝を抜かれた。

 

「ちょっ! 歌姫⁉︎」

 

 そう、不屈の歌姫。

 不屈の力が、まるで歌姫の能力と思わせる記し方。

 歌姫は世界に一人のみ。

 もし、これが事実なら、その一人はねねになる。

 そうなって、終わりのはずだというのに……。

 

「ま、待って……」

「理解が……」

「うん……や、ほんと……」

「ああ、追い付かねえ」

 

 手配書の製作者が、間違えた?

 にしてもあり得ない。

 

「ねねが……歌姫……」

 

 本人も、その力は未だ馴染んでおらず、歌姫の力と呼ぶに相応しいのか、判別できない。

 確かに、Aの最高硬度を突破した破壊力は凄まじいものだったが……。

 

「いいですか、これは、箱推しさんに聞いた一つの見解です」

「……うん」

「ねねさんは、異世界宇宙人である、という点に注目して下さい」

「……?」

 

 誰しもが知る事実。

 ねねは、異世界のタオタオ星からやって来た宇宙人。

 この世界に転移した時のことは、ねねの記憶にも新しい。

 因みに、アキロゼも異世界人。

 

「ねねさんが歌姫でありながら、そらにも依然歌姫の素質が予見されるのは、ねねさんが異世界の歌姫である可能性があるからです」

「え……?」

「そ、それって……」

「この世界『には』、一度に歌姫が一人しか生まれませんが、他の世界からやって来たとしたら? 同時に二人存在できないと証明できますか?」

「そんな極小の可能性……」

「その可能性を、偶然、奇跡的にも、引いていたら? ねねさんの歌の素質は皆さんもよく知っているはずです」

 

 歌姫と呼ぶにも申し分の無い美声。

 

 一年に、たった5本指で数えられる程度しか現れない異世界人。

 その選別時に、奇跡的にも歌姫を引き寄せてしまったのなら。

 本当に、この世界には歌姫が二人、存在しているかもしれない。

 

「……手配書とか、歌姫云々に関しては、大体分かった。あんまし納得は、出来ないけど」

「ねえ、箱推しって……何モンなの?」

「その手配書も、あいつから貰ったんじゃないの?」

 

 えーちゃんは黙り込む。

 正直、協定を組んだものの、えーちゃん自身、箱推しの輪郭は掴めてない。

 素顔すら、見たことがない。

 

「それなら、これ」

 

 だが、意外にもシオンが一つの薄い本を差し出す。

 ただ薄いだけで、如何わしいものではない。

 

 その本には番号と顔写真、そしてその人に関する詳細が書かれている。

 

「魔術師評価表、丁度昨日発行されたやつ」

 

 魔術師評価表とは、世界の魔術師の力を総合評価してランキング形式で示したもの。

 一年に一度発行される。

 巻頭は一位の魔術師に独占されていた。

 

「一位、『不明』、写真もunknown……」

 

 表紙を独占するには余りにも情報不足。

 全くもって役立たずな評価表。

 名前も写真も不明では、載せる意味がない。

 

「『不明』は通り名」

「え!」

「そういう名前ってこと?」

「そう」

 

 流石はシオン。

 魔術に関しての知識が群を抜いている。

 皆が興味を持ってその本に集まり、次のページへ。

 

「二位、『W(ダブル)

「それ『W(ワット)』て読む」

「は? ふりがなふれよ」

 

 初見では読めない。

 不明も、ふりがなさえあれば気が付けたかも。

 

「めっちゃ悪そう」

「いかにもやってそうな顔」

 

 笑みが深く、狂気じみたツラだ。

 

「それは喜劇の仮面、素顔じゃないよ」

「普通に考えてこんな顔ないだろ」

「え、そう? 悪いすいちゃんって感じ」

「おい」

 

 妙な茶番を始める。

 

「えーっと、三位、箱……推し⁉︎」

「え、ウソ⁉︎」

「うわ、マジやん」

 

 次のページの名前、そして写真に映る喜怒哀楽の仮面。

 正真正銘、あの箱推しだ。

 世界評価三位の魔術師であった。

 しかし……

 

「1から3まで素顔不明って……この本大丈夫か?」

「それな」

 

 仮面が素顔のようなものとも言えるが、素顔でいられると気付けない。

 

 と、まあ、箱推しの順位も知ったところで……

 

「シオンたんはどこかな〜」

 

 マリンがシオンを探してページを捲り始める。

 捲り始めて2ページほど。

 4位以降は、1ページに2人載っている。

 

「ええ⁉︎」

 

 マリンの鈍く響く声に、皆がまた集う。

 

「6位、『紫咲シオン』!」

「うひょーー!」

 

 シオンのしけた顔の写真と共に、情報が記載されていた。

 昨年の評価では10位。

 そこから6位までの上昇はかなり大きい。

 

「貸して!」

 

 シオンが羞恥に頬を染めて一旦本を取り上げる。

 そして更に2ページほど進んでもう一度バン、と机に叩きつける。

 

「シオンなんかより皆、こいつの顔だけは覚えといて」

 

 そこには1人の女性と1人の男性。

 

「どっち?」

「男の方」

 

 ありきたりなつまらない男の顔。

 モテなさそうだが、気持ち悪くもない。

 評価順位は10位。

 今更ながら、総数は113人だ。

 また一年で、大勢増えた。

 

「いいけど、なんで?」

「こいつ、去年はリストになかった顔」

 

 即ち、新人。

 新人が10位は、確かに恐ろしい。

 突然上位に見知らぬ顔が現れれば、当然警戒するし、顔も覚える。

 

「へえ、確かにそりゃやべえ……けど、悪い奴とは限らないんじゃね?」

「んーん、間違いなく気狂い」

「根拠は?」

「順位は基本最下位周辺から名前が載り始めて、少しずつ上位へと評価が変化する」

「まあ、そうですよね」

 

 だから強いとは納得できるが、だから凶悪とは繋げられないはず。

 

「どれだけすごい論文を出したとしても、デビューは50位前後が関の山。それを10位でデビューするには、頭や技術以外の面でアピールするしかない」

「滅茶苦茶世界に貢献したとかは?」

「この評価表の順位策定の基準の一つは凶悪性。一位は間違いなく世界レベルの犯罪者で、10位圏内も基本は相当なもの」

「箱推しはまだしも、シオンたんは?」

「勿論例外もあるけど、それは正当に、地道に積み上げて来た場合に限る」

 

 これが、シオンが危険視する根拠。

 

「こいつはヘタしたら、来年には3位辺りにいるかもしんない」

 

 魔術エキスパートのシオンの太鼓判付き。

 警戒して然るべき存在だということだ。

 

「……みんなさ、積もる話もあるだろうけどさ、楽しい話しない?」

 

 ぺこらが包帯を巻いた右腕を挙げた。

 数名は首を傾げていた。

 

「ほら、ぼたんちゃん」

 

 ぺこらがぼたんを促す。

 こんな暗い話ばかりでは、エンターテイメントは繰り出せない。

 我々は、動画配信者だ。

 

「急っすね、ま、いいけど」

 

 ぼたんが全員の目の届く位置へ立つ。

 大きく注目を集めて、宣言する。

 

「6月27日に、うさ建主催の夏祭り、うさ建夏祭りを開催します‼︎」

 

 今年もホロライブの夏を、初める時が来た。

 

 





 皆様、どうも、作者です。
 ようやっと、4章完結です。
 読んでくださっている方々には感謝しております。

 さて、これより5章が始まるわけですが、5章は再び日常編ですね。
 6章ではまたバトルですが、次のバトルからは、完全に活躍しないメンバーも増えます。
 4章が長すぎたので。
 5章も10〜15話だと思います。

 それではまた次回。
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