歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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81話 囲まれる自分

 

 あの時のことは、きっと忘れられないだろう。

 自分という存在が確立するための、最重要工程だったはずだ。

 

 他のメンバーとは違うスタート。

 0期生と括られるも、各々のデビューは特徴的。

 まるで人知れずこの世に生まれたように。

 

 2期生がデビューする前、「さくらみこ」という少女が、ホロライブの挑戦的な活動の軸として動いていた。

 二進も三進も行かないような、拙い活動。

 動画編集は得意ではなかったが、頑張って覚えた。

 肯定感の薄い中で、応援してくれる人たちの言葉を浴びて、成長を続けた。

 

 駆け出しても、転んでばかり。

 上手くいかないことばかり。

 

 七転び八起きの精神で転んでは立ち上がる。

 立ち上がってはまた転ぶ。

 そんな活動を繰り返していた。

 

 ある日、イベント情報が入った。

 リスナー……即ちファンに、足を運んでもらう、一対一の対面トークイベント。

 1人約1分の時間、指定したメンバーと会話をする、ありきたりなイベント。

 

 知名度もなく、自分を目当てに来てくれた人が、どれだけいただろう?

 その夜に指を折って数えてみた。

 

 一人きり、声を上げて泣いた。

 

 配信で、みんなと話した。

 

 ここからだ。

 

 この悔しさをバネに、殻を破る時だ。

 ここで息絶えるな。

 この時配信に来て、言葉をくれたみんなが、ファンだ。

 ファンに応えると、誓う。

 それが、このイベントの意味。

 そして、泣いた夜。

 

 

 

          *****

 

 

 

 さくらみこチャンネル登録者100万人突破。

 ホロライブが勢力を増し、100万人突破が増加する。

 その例に漏れず、古のメンバーさくらみこも。

 

 大きな存在になった。

 でも、夢の存在になれていない。

 

 憧れたのは「ときのそら」。

 

 長年の活動で、みこは気づいた。

 さも当然ながら、自分はそらになれないと。

 誰しもが確立する自分らしさ、いわゆる個性。

 キャラ作りの時期を乗り越え、本来の姿を見せつける近年。

 

 振り返る活動休止の約100日間。

 復帰配信の涙。

 

 涙を流す度に、強くなっている人生。

 強くなっても溢れる涙。

 

 涙と、経験と、リスナーが強くしてくれた。

 

 

「みこち〜、100万人おめでと〜」

 

 会社で出会ったそらにお祝いされた。

 ゆるふわな調子でにっこりと笑う姿が素敵だ。

 憧れの存在はいつだって眩い。

 

「そらちゃん、ありがと……」

 

 少し照れ臭そうに鼻を赤らめて、姿勢を低くする。

 自分は、どうやって「ときのそら」の隣に立てばいいのだろう?

 

「ねえみこち、100万人突破した人は会社に一つ願い事を叶えてもらえるって知ってる?」

「……? 迷信?」

「んーん、ころねちゃんとか、ぺこらちゃんとか、マリンちゃんとか、みんな何かお願いしたらしいよ」

「そうなんだ〜」

「みこちは、何かないの?」

「……お願い事かぁ〜」

 

 今の生活に、満足できている。

 大変だった過去も、幸せで満たされる今のためと思える。

 加えて願いなんて、欲深くないだろうか?

 そもそも、欲しいものって、何だ?

 

 100万人という巨大な目標を突破した一部の者が得てしまう燃え尽き症候群。

 新たな目標が定まらず、足踏みしてしまう。

 

「……どうしたの?」

「え、っと……」

 

 言葉に詰まった。

 そらの純真な瞳に、心が澱む。

 

 100万人記念に叶える願い。

 それは、自分のためであって、いいのだろうか。

 

「みこ、神様の使いだからあんまりお願い事しないんだよにぇ……」

 

 ジョークに触れた。

 あまり、面白くない。

 ウケ狙いではないから。

 

「あ、みこち!」

 

 そこへ、すいせいも居合わせる。

 口に何か含んでいる。

 カラカラ音を立てて、時折、ちゅぱちゅぱと鳴る。

 飴か……。

 

「何かあった?」

「別に」

「特に何もないよ」

「ふーん」

 

 みこの微かな表情の変化を見切った完璧な洞察力。

 だが、2人に否定されて口は噤んだ。

 

「星街こそ、なんか用?」

「いや、時間的にいると思って。100万人おめ」

「それだけかい」

「そんだけ、でもありがたく思え」

「あいあい、ありがと」

 

 ビジネスが浮かび上がる。

 ビジネスの輪に何故最強アイドルがいるのか。

 

「……! ねえ、2人ともこれから用事ある?」

 

 そらが陽気に2人の肩をとんと叩いた。

 すいせいの目よりも煌めいている。

 

「「ないよ」」

「じゃあ……ね?」

「「……?」」

 

 そらのお誘いで、遊びに出た。

 朝からの仕事で、午後の時間は空白。

 その時間を有意義に活用する。

 

 雑貨屋へ入り、商品を物色。

 玩具屋へ行き、主に人形を物色。

 服屋へ行き、様々な服を試着。

 一般女性のようなショッピングルートを周り、ゲーセンへ行ったり、公園へ行ったり。

 

「ほらみこち、これ買ってあげまちゅよ」

「だまれ! ぶっっっ飛ばすぞ!」

 

 雑貨屋で赤ん坊をあやす道具を見せてニマニマするすいせい。

 そらと仲良く小物を見ていたみこはキレ芸をして、直様ガラガラを元の場へ返しに行く。

 

「そらちゃん、みこちゃん、あそぼ、私とあそぼ」

「恥ずかしくねえの?」

「あれ、みこちゃん、あそばないの?」

「そ、そらちゃん……?」

 

 ぬいぐるみを動かして腹話術を頑張るすいせい。

 極めて高い声でぬいぐるみが2人に迫る。

 年不相応に見える光景に、唖然とするみこだったが、そらが乗り気だった。

 そらはギリギリ腹話術ができていなかった。

 

「みこちこの洋服合いそう」

「そらちゃん、こっちのワンピ着てみてよ」

 

 買わないのに試着しまくるやつ。

 みこはそらに着せ替え人形にされ、逆にそらに願望の服を着せて喜んでいた。

 すいせいも自分の服を見ていたり、たまにネタを持ってきた。

 申し訳ないので、みんな一着は買った。

 

「すいちゃんゲーム上手いよね〜」

「そらちゃんも上手い方でしょ」

「…………」

 

 ゲームの腕前。

 すいせいは卓越しているが、そらもそこそこ。

 みこは黙って後ろについて回った。

 

「ねこ!」

「ねこだね」

「ねこだ」

 

 公園に猫の群勢がいた。

 10以上の野良猫が一ヶ所に集まっている。

 全部白猫。

 

 シロネコ、シロネコ、シロネコ、シロネコ…………。

 

「シロネコ……」

「デッカいキツネ」

「フブちゃん!」

 

 猫の軍団の中に、どうやって紛れていたのか、白上フブキがいた。

 ぽけーっ、と三人を見つめている。

 

「何してるの、こんなとこで」

 

 そらが視線を合わせて尋ねると、フブキは「ぁ」と何か発しかけたが、周囲の猫が騒々しくて掻き消えた。

 数匹のネコが、フブキに威嚇するように「キシャーっ」と。

 

「……うわっ、スゴイや」

 

 フブキはネコたちから逃げるように去って行った。

 三人にチラッと目配せして、じゃあね、と合図された。

 

「……何してたんだろ」

「さあ……」

 

 ここに用事はないはず。

 

 よく分からないけど、みこは1匹のシロネコを抱えた。

 抱っこして、ベンチに座る。

 

 ミャー、ニャー、ニャー……。

 と、全てのネコが、みこに纏わりつく。

 みこの懐に潜り込んだり、膝に乗ったりして、丸くなる。

 

「すごい……私も」

 

 そらが物欲しそうな目で見つめる。

 欲に負け、1匹を抱えるが、直ぐにみこの肩に逃げられた。

 すいせいが抱えても、同じだった。

 

「悲しいけど……いい光景」

「似合う」

 

 客観的意見。

 みこの主観では、猫に囲まれるだけ。

 他者から見れば、みこに集まる白い猫たち。

 見たことがない、目に浮かぶ風景。

 

 猫は皆眠り、みこに信頼を預ける。

 

「……これが」

 

 自分の見る世界観。

 みこの側で、白い猫たちが寝ている世界観。

 

 大台を突破したみこが、目指していく形を手にした。

 形容できる夢を確立できた。

 

 この姿が、配信の形態であることこそ、みこの、あるべき姿。

 

 夕陽が次第に弱まる時間。

 猫たちも解散を始める。

 

「……帰ろっか?」

「そうだね」

 

 ………………。

 

「今日は、ありがとう」

 





 皆様どうも、作者です。
 今回、投稿に期間が空いたのは、作者がかの有名な病に罹ったからです。
 熱は出ましたが、生きてました。
 で、今回から復活です。

 さて、今回は少し不思議な回だったのでは?
 短めですし。

 ま、ではまた次回。
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