歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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83話 凶報

 

 間も無く。

 手元にある、契約解除の書類。

 7月1日をもって、ホロライブを卒業する。

 

「早ぇなぁ……」

 

 一年半ほどの活動。

 人生が終わるわけではない。

 寧ろ新たな人生のスタート。

 

「なんつぅかな……アイツら」

 

 反論は多いだろう。

 でも、決まった事で、決めた事。

 

「……」

 

 悲しき通達が、社内に行き渡った。

 

 

 

          *****

 

 

 

 悲報が流れる数日前。

 

 社内で会話をする数名。

 偶然出会い、流れで談話していた。

 

「今度のゲームの試遊会、全員参加だったよね?」

「そうそう、なんか専用のハード使うらしいよ」

「SAOじゃん!」

「コクーンやん」

 

 VR世界に潜って行うゲーム。

 かなたとあくあは記憶に一致するアニメの例を挙げた。

 

「どんなゲームなの?」

「要項読んだ?」

「読んでなーい」

「魔王を倒すRPGみたいのだって」

「SAOじゃん」

「分かったから」

 

 やたらとSAOを強調するあくあ。

 まあ、内容的には間違っていない。

 実際に、マップを進み最後の城を攻略して、魔王を討伐するゲーム。

 例のゲームも似たものだ。

 

「いやー、デスゲームか〜」

「デスゲームではないよ⁉︎」

 

 メルの呟きにかなたの鋭いツッコミが入る。

 デスゲームなんて進んでやるものでない。

 

「でも、ホントにデスゲームやったらさ、やっぱあくたんとか、フブちゃんとか強そうだよね」

「いや、やらないよ」

「もう、ノリ悪いぞ」

 

 デスゲームをしたら、の仮定。

 そんな仮定があれば、みんな死ぬ。

 

「その面子が強いってのは納得なんだけどさ、仲間守って死にそう」

「ああ、弱者を庇うかっこいいタイプ!」

「そう!」

 

 勝手に膨らんでゆく妄想。

 フブキはこの場にいないのに……。

 

「ゲームにもよるけどね」

「実際の身体能力なら即全滅だもん」

「いや、その場合はあやめ先輩とか、魔法ありならシオン先輩とか」

 

 現実に起こした際の実力は群を抜いて高い2人。

 でもやはり、仲間を庇って死にそう。

 ホロメン皆そうなりそう。

 

「僕はなー、凄く中途半端なとこでしれっと終わりそう」

「雑魚死じゃんそれ」

「いやマジで、絶対そうなるわ」

「あたしもそうなる気がする」

 

 かなたの弱気発言に便乗したフレア。

 いや、フレアのみならず、大抵のメンバーはそう思った。

 

「フレア先輩はなー、なんやかんや言って終盤まで生きてそう」

「いや、そんな事ないと思うけどな……」

 

 望まぬ仮定の話題で盛り上がる者達。

 

「さて……そろそろ行こうかな」

「お、仕事?」

「夏祭り準備。『陰キャの目覚め』ってのを売り出すらしい……」

「……多分買います」

 

 なんだろう、食べ物だろうか?

 食べると陰キャになる的な?

 

「あたしも、迷路作らないと」

「透明のやつ?」

「そうです」

 

 そんな感じで、次々と退室していく。

 最後に、かなたが1人ぽつんと残った。

 ここで待ち合わせがある。

 珍しく会社での対面を所望された。

 

 数分後、無作法に扉が開けられ、ココが入室してきた。

 

「ココ、話って何?」

「いきなりだな、ちょっと屋上行かね?」

「なんで屋上?」

「いいからよ」

 

 分析。

 ココの雰囲気の僅かな変化は、日頃そばで生活するかなたには大きすぎた。

 例え他の誰も気付けずとも、かなたには見抜けないはずがない。

 だが、それがこれから話す内容に起因しているなら、聞くだけ野暮。

 カツカツと靴音を鳴らし、屋上への階段を一段一段登った。

 ココの足取りが重い。

 かなたは、ココの背後にピッタリとくっついた。

 

 屋上に出ると、すうっと風が吹き付ける。

 かなたの天使の輪っかがよく回る。

 

 ココが、柵に手をかけて街を見下ろした。

 まだ、かなたは隣に並ばない。

 少し、横顔を見ることに抵抗を感じた。

 

「いいなァ……ここは」

「……」

「夏祭りの準備、進んでっか?」

「まずまず……」

 

 不穏な空気を肌で感じ取る。

 切り出し方が奇妙で、その先の話題に憂慮する。

 かなたの機嫌を伺う話題振りが、珍しくココから成されたのだ。

 

「かなた、オメェよォ……」

 

 チラと振り返り、かなたの目を見た。

 視線が交差した時間は1秒にも満たない。

 

「何……?」

「……はぁ」

 

 邪念をかき消すための嘆息が、重々しくココから溢れる。

 梅雨の時期で、ジメジメとした空気が屋上にも漂っている。

 

「違ぇな……いや、違うな……」

「……」

「雑談じゃないんだよ……」

 

 踏ん切りがつかず、1人右往左往するココの背中を、かなたは変わらず見つめていた。

 負傷していたかなたの羽はもう、完治している。

 包帯も取れて、今まで通り、風に合わせて時折揺れている。

 

「言うことがある」

「……うん」

「多分、直ぐに伝達は入るだろうけど、かなた! お前には、先に話さねえとって思ったんだ」

 

 勢いよく振り返り、真っ直ぐに見つめる。

 背後に小さく見える景色を置いて、ココが柵のそばに立っている。

 

「私は、ホロライブを、辞める」

「……………………」

 

 温い風が気持ち悪く頬を掠める。

 触覚が一瞬だけ敏感になって、その気持ち悪さが一層増している。

 正面に立ち開かるようなココを真っ直ぐ凝視しているけれど、視界にはまるで何も映らない。

 風の音よりもうるさく耳鳴りがする。

 

 聴き間違えたりしない。

 上達した日本語は、もう誰が聴いても違和感のない、完璧な状態。

 そう、当初は日本語も得意ではなくて、

 

「え……」

 

 唐突に、無造作に、一言だけ置いた。

 整理するように語る脳内から突如、疑問符が浮上して、言葉になった。

 

「聴き間違えでも、言い間違えでもない」

 

 2度、言葉を繰り返すことはせず、ココはそれが真実だと伝え直す。

 

「理由はまあ……色々だな」

 

 細部までは言葉にせず、濁すが、かなたは当然ながら理解者だ。

 

「なにいって…………。……」

 

 片手を上げて、訂正させたがる。

 その自分を、愁色に塗れた顔の自分を、懸命に抑止して、口を噤む。

 

 嘘であって欲しい。

 けれど、こんな手の込んだ嘘を、ココはしない。

 ココの決断を、「冗談でしょ?」なんて言葉で返すのは、違う。

 

「なんで、僕に……?」

「水クセェなぁ……」

「――?」

「私とお前が今まで築き上げた仲があんのに、会社の伝達が先に耳に入るようじゃぁ、筋が通らねえと、思ったんだ」

「――相談くらい、いくらでも乗ったのに……水くさいよ」

 

 涙腺が緩んで、温い涙が薄らと浮かぶ。

 悲しいとか悔しいとか、沢山の感情が籠る。

 

「わりぃな……」

「――」

「おめぇはよ、どうせ止めようとするから、決断が苦しくなると思ったんだ」

「……」

 

 空の彼方から、太陽が照らしてくる。

 涙が目元で煌めく。

 ココの畏まった口調と決意で揺らがない表情が強くのしかかる。

 今までに感じたどんな重圧よりも重たい。

 

「――」

「……」

「――いつ、卒業するの?」

「ん……7月1日だな」

「あと……1ヶ月半」

「だな……」

 

 徐々に口数が減り、空気すらも重くなる。

 呼吸音が届く。

 実に感情のこもった呼吸だ。

 

「その日は……」

「卒業ライブをやる予定だ」

 

 卒業を華やかなものにし、誰もが快く見送れるステージを作る。

 まだ、ココと会社の数名のみしか知らない。

 

「夏祭りには、出るよね?」

「勿論だ」

 

 卒業ライブよりも側近で行われる行事。

 

「私も出店すっから」

「そうだったね」

 

 かなたは個人的な出展はなかった。

 だから当日は、思う存分巡る予定だった。

 いや、現在でもそのつもり。

 ココが卒業すると知った今でも、路線変更はない。

 いつでも出会えるかなたより、出会いにくくなるメンバーと楽しむべきだ。

 

「忙しくなるね」

「ああ、ここがさ――正念場だな」

 

 不自然に聞こえた文章の繋がりを、かなたは苦笑して流した。

 

「私はこれから仕事だけどよ、天使はなんかあんのか?」

「帰ってしなきゃいけない作業が――ある」

「そっか、じゃあ……ありがとな」

「やめてよ、そんなのは」

 

 ココはかなたを通り過ぎて、扉を抜けて、階段を降りて行った。

 

「…………」

 

 喪失感。

 心に穴が空いて、脳の思考が停止して、全身から力が抜けた。

 着いた膝がジンと痛む。

 まだ、やりたい事が。

 

「僕は……っ」

 

 ココの卒業を受け入れられない。

 本当は、やっぱり嘘なのかもしれないと、救いを求めるバカがいる。

 これは悪い夢だと言い聞かせる愚か者もいる。

 

 涙を飲んで、鼻水を啜って、喉を掠らせて、散々体力を消耗した後、かなたはゆっくりと帰るべき家へと足を運んだ。

 

 





 えー、どうも。
 今回は卒業への道その1でした。

 夏祭りがあって、卒業ライブ、って感じですかね。
 冒頭で少し触れた、ゲーム試遊会も気になりますね。

 卒業ライブの後は唐突に雰囲気変わってバトル章に突入します。

 ええ、まあ。
 それではまた。
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