歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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84話 嘆きのリスナーたち

 

 悲報は数日して社内へ通達され、さらにその数日後、配信を通じて、全世界に報じられた。

 学校の昼休みに、或いは会社の昼食時間に、或いは家で配信を心待ちにしていた暇人の一時に――。

 

 

 

 ダンッ、ガンッ、ゴンッ、と何かが暴れる騒音。

 その部屋へ、誰も近寄ろうとしない。

 心配はあれど、声を掛け辛い。

 加えて誰1人、未だに心の整理ができない。

 

「『たつのこ』の奴……30分は暴れてる」

「だってよ……あんな知らせ急に来たら……」

「自分の推しが……って考えると、恐ろしいよ」

 

 リスナーズ拠点、リビング。

 数名の暇だったリスナー達がこの日もまた集まっていた。

 そして、あの悲報を受け、『たつのこ』は2階の個室に篭って暴れ始めた。

 

「珍しく、『箱推し』も傷心してたっぽいからな」

 

 『箱推し』もまた、知らせを受け自室に篭った。

 残ったメンバーで最年長、且つ最も心が整理できている『ろぼさー』は、頭を掻きながら呟いた。

 絶望感と喪失感が突然と押し寄せ、全ての感情が停止してしまうほど。

 それを、『箱推し』と『たつのこ』以外が辛うじて耐えられたのは、きっと推しではないからだ。

 

「『箱推し』の苦々しい顔は、初めて見た」

「私ですら、初です」

 

 初期の頃からいた『おにぎりゃー』の発言に対し、側近の『百鬼組』が同調した。

 感情を持てないと自嘲を見せ続けた『箱推し』の変化は、奇しくもこのタイミングだった。

 

「『たつのこ』も、これから皆で楽しもうって仲間入りした矢先に……」

 

 リスナーズ拠点に来て僅か数日の『たつのこ』。

 ここから、推しへの愛を高め合う仲間と楽しむはずだった。

 それに何より、『たつのこ』がここに来たのは、掲げる目標が夢だったからだ。

 

 2階の廊下を歩く音が小さく響いた。

 誰かが扉をノックした。

 扉が開いた。

 何かが壁にぶつかった。

 

「何が目標だ! お前の言葉は嘘だったのかよ!」

「…………」

「ふざけんな! 会長は俺の全てだ! 何又もかけてるテメェとは違うんだよ!」

「…………」

「黙れクソが! クソ、クソクソクソ!……ちくしょぅ……」

「…………」

「うっせぇ、もう意味ねえ!」

 

 言い争いのうち、『たつのこ』の言葉は聞き取れた。

 そして最後、ドタドタと力任せに階段を駆け降りる音と揺れが響く。

 咄嗟にろぼさーが廊下への扉を開くと、玄関から『たつのこ』が飛び出す瞬間が見えた。

 バツが悪そうに顔を顰める一同の元へ、遅れて『箱推し』が静かに階段を降りてきた。

 

「悪いな、騒がしくて」

「いや、いいんだけど、それはサ……」

 

 無性に気になる会話の内容。

 傷心した2人が上でどんな衝突をしたのか。

 口を開きかける面々。

 

「そろそろ、話しては?」

「人も集まってきてんだし、話すべきだぞ」

 

 『箱推し』の最終目標。

 それは、『ろぼさー』と『百鬼組』、そして『たつのこ』のみが知る。

 概要として、ホロメンを守る体制を作ると説明はした。

 いざという時、動けるようにと。

 だが、日々『箱推し』が部屋に篭り、何をしているのかは謎のまま。

 自室への不法侵入を試みた数名もいたが、バリアで弾かれる始末。

 何故かそこだけは、『箱推し』も徹底していた。

 

「部屋、見たいのか?」

「「気になる」」

「傷つくかも知れない、としても?」

「え……まあ、気には、なる」

「ああ」

「なら来い」

 

 7人ほどを率いて、『箱推し』は階段を上がり、閉ざされた自室へ。

 無駄とも思える緊迫感に圧迫されながら、フローリングの上をゆく。

 新築のこの家のフローリングは踏んでもあまり軋まない。

 自室前で一度立ち止まることもなく、無造作に扉を開けた。

 内装を知らない後続の者たちは、ひとつ息を飲んで部屋へと踏み込む。

 

 カチッと電灯のスイッチが押され、室内に明かりが灯る。

 

「……? 文字だらけの壁?」

「あ、ポルカって書いてあるサ」

「ゴホッ……こっちにはふーたんだ」

「全員の名前があるが……俺よりも辛口だな」

「てか、辛口とかのレベルじゃねぇだろ、コレ」

「全部……爆発的暴言だろ」

 

 事情も目的も知らない5名が、少し気分悪くして言葉を交わし合う。

 そして、冷めた視線が『箱推し』へと突き刺さった。

 考え得る「最悪のまさか」の展開でないにしろ、いい趣味とは言えない。

 全ホロメンの名前と、その下へ連なる「アンチコメ」の数々。

 

「お前らに話した、ホロメンを守る体制を作るってのとは、また違うが、これが俺の最終目標」

 

 全員と向き合い、感情のない目で言い切った。

 

「あんたが書いたコメント……じゃないのネ?」

「まさか。感情がないにしても、好きな人にそんなことはしない」

「好きな人の悪口溜め込むのも、爆発的なイカれ具合だと思うけどな」

「今更ですよ、この人のイカれ具合の話など」

 

 『座員』の確認を肯定するが、返答は実に奇妙で『SSRB』のツッコミもよく分かる。

 だが、『百鬼組』は当然だと顔色変えず、タバコを一本咥えた。

 

「おい副流煙」

「未成年はいませんでしょう?」

「そういう問題じゃ、ねぇ」

「っと……はぁ……」

 

 狭い部屋での一服に『おにぎりゃー』が忠告するが火を灯そうとしたので、強引にタバコを奪う。

 そして、『おにぎりゃー』はそれを食べた。

 残念そうに溜息をついて、新しくタバコを抜き取る『百鬼組』。

 渋々別室へと移り、ベランダで一服しに向かう。

 

「アイツ、ニコ中で副流煙とか気にしないクズタイプ?」

「最近タバコの味知って嵌ってる」

「言えば聞く辺りまだマシサ」

「俺的には……ッ、コホッ……タバコは勘弁してもらいたい」

「まあ『エルフレ』はな、毎日咳が爆発してっからな」

 

 話題が逸れ、『百鬼組』のタバコへと。

 或いは無意識的に、アンチコメントから逃避していたのかもしれない。

 

「ここまで来たなら、最後まで聞いてけ」

 

 『箱推し』は現実に引き戻させ、アンチコメントを直視させる。

 やはり、見るだけで気分が悪くなる。

 イラっとする、悲しくなる、バカバカしくなる。

 今すぐ部屋中のアンチコメを油性ペンで塗り潰したい。

 いや、それは手間だ、黒ペンキをぶっかけたい。

 

「俺の最終目的はアンチ撲滅」

「まあ、こんな事するなら、それ以外もうないのサ」

「どっちみちこれはキショいけど」

 

 フォローに周りがちな『座員』と辛辣に刺突する『一味』。

 基本消極的に傍観する『エルフレ』。

 常に仲裁できるように見守る『おにぎりゃー』。

 全てを爆発させたい『SSRB』。

 

「でもさ、アンチ撲滅って、正直鬼畜だぞ、難易度」

「ああ、ホロメンの地獄耐久の比じゃない爆発的難しさだと思う」

 

 注意勧告が効かないから、悩まされている。

 当然運営が対応してはいるが、結局いつまでもアンチは存在し続け、配信業を妨害する。

 この部屋を見たところ、アンチコメントと合わせて、それを発した者のアイコンとネームも残してある。

 だが、ここからリアルに辿り着くのは至難の業。

 技術ある情報科の者でも不可能に近い。

 それをこの数だ。

 

「キッパリ言うと無理だ」

 

 辛辣だが正論。

 魔法は情報機器に侵入できない。

 世界評価第3位の魔術師であれど、こればかりは生涯の内に成し遂げられるとは思えない。

 

「個人情報特定に関しては、今コイツが研究してる最中だ」

「……そんな事してんのか」

「精査、鑑定して情報を繋ぎ、個人を特定。これができれば国の防衛システムや動画配信サービス会社にも有益だしな。何事も悪用されれば悲惨だけど、開発してかないと、悪事を抑えられないから」

 

 『ろぼさー』は世界的にも有名な情報技術士。

 工学などでも一流だが、最近はロボ子さんの配信を見ながらその研究に勤しんでいる。

 

「成果の出る目処は立ってんの?」

「正直、手応えは薄いなぁ」

 

 天才でも、デカすぎる壁は易々と越えられない。

 過去の偉人たちは、一つの功績に生涯を捧げている者も多い。

 『ろぼさー』がそうならないとも限らない。

 手応え薄いと答えているが、実質なしに近い。

 

「じゃあサ、もしそれが可能だとして、どうすんのサ?」

「コホッ……確かにッ……暴力行為に出るわけには、いかないだろうし」

「それは考えてある」

 

 アンチを特定して、そいつをどうするのか。

 罪に問う事は不可能ではないが、あまり大きな罪には問えない。

 それに、罪に問うたとして、本人にアンチの悪意を真に知らしめる事はできない。

 

「俺の魔法を使う」

「えっと……感情を操るやつ?」

「そうだ」

 

 世界で唯一『箱推し』だけが使える魔法。

 他人の感情を操ることが出来る力。

 

「アンチなどの荒らしコメ、暴言、その他諸々により得る心の傷。その時の人間の感情をアンチ本人に与える」

「えぇ……それって……バイオレンスじゃないけどさ」

「アンチと一緒だろ」

 

 同じ思いをさせるとはつまり、同じことをしていると同義。

 アンチを敵視するリスナー達は、あまり得策と思わない。

 

「分かってる。でもこれは、俺にしかできないことだ」

「必要悪って言いたいのか? でも犯罪だぞ」

「いいんだ。俺の犯罪は今に始まった事じゃない」

「「――⁉︎」」

 

 耳を疑う発言が飛び出す。

 

「俺は昔、先生の元で魔法を習ってた。その先生は別にいい人間じゃない。だからそう言う事だ」

「……」

「幻滅したか?」

「「…………」」

「ここは自由な場所だ。気に入らなかったら出ていって構わない。それも踏まえて、今日の事を全メンバーに伝えといてくれ」

 

 やや強引に話を締め、『ろぼさー』以外を退室させた。

 扉の外でコソコソと話しながら、一階へ降りて行く。

 

「『たつのこ』は放っとくのか?」

「俺が追っても刺激するだけだ」

 

 『箱推し』はぐったりとしたようにPCデスク前のチェアに座る。

 

「この機械たち、故障はないか?」

「ちゃんと稼働してる」

「近々また新型持ってくるから」

「助かる」

 

 デスクとPCの裏――いや、デスク周辺にある機械たち。

 全て『ろぼさー』がその技術を持って作り上げた機械。

 特定の単語を含むコメントを自動抽出しコピーし、時間帯、アイコン、ネームを全て記録。

 同じアイコン、若しくはネームが現れた場合は一つのフォルダに纏める。

 このように各メンバーのフォルダを作り、更にその攻撃する者の名前ごとに振り分け。

 よってどの時間帯にどのメンバーに何者が出没するのかを割り出せる。

 ここまでをフルオートで行う機械を『ろぼさー』に開発してもらった。

 だが、コンピューターが記憶する「不適切単語」を回避するアンチコメも複数存在する。

 それは当然、自身の目と手を使って抽出し、記録する。

 

 感情ある人間ならば、間違いなく何かしらの感情に苛まれ放棄する作業。

 感情がない事を利点として、『箱推し』はこの貢献方法を選んだ。

 いわば、『箱推し』にのみ許された、イカれたボランティア活動。

 

「どうするんだ? 今日の告白でみんな出てったら」

「…………」

「アイツら集めたのは別の理由だろ?」

「その辺にしてやってください」

 

 突如扉が開き、一服終えた『百鬼組』が入ってきた。

 服からは微かにタバコの香りが漂う。

 

「こう見えて、落ち込んでるんですよ」

「ニコチンは補給できたのか?」

「ええ、残念なことに」

「……?」

「心配なさらずとも、今まで私と彼で色々解決してきたのですから。いざという時は私が戦場に立ちます」

「……まあ、俺も出るけどさぁ」

 

 3人では心許ない。

 だからこそ同士を募った。

 本人たちは何一つ知らないが。

 

「敵が敵だ。俺でも相手にならない奴は出てくる」

「数の暴力に持ち込む気なのか?」

「いや、今目前に控えてる『城主戦』は、俺の相性が悪い上に、数が意味を成さない。出来れば相性のいい誰かをぶつけたい」

「まごまごしてたら先にホロメンとぶつかるぞ」

 

 慎重になるが、万全を期すために選択を誤れば、更に悲惨な運命を辿る。

 最も危惧すべきは、その魔の手がホロメンに触れる事。

 

「あ、それと、この前の……なんだっけか、あの、秘密結社」

「holoXか? 交換条件はすでに果たしてあるから気にするな」

「こちらは情報と未来計算の依頼でしたが、対価に何を?」

「敵の情報とお金、それと社員1人の同行」

「だからまた貯蓄減ってんのか」

「悪いな」

「いや、お前の金だから好きにしていいけども……もう研究発表しないなら、限界があるんだぞ?」

「考えないとな……」

 

 始まりの3人は、頭を抱えた。

 今のこの拠点とメンバーには不足している事が多い。

 

「……でも、どんな未来よりも」

「……そうだよな」

「会長、ですね」

 

 結局何より、ホロメンを一に考えるなら、目先の会長卒業が大敵だ。

 推しの卒業、推しメンの仲間の卒業に正面から向き合わなくてはならない。

 

 それが何より恐ろしい。

 夏祭りと卒業ライブ。

 涙を拭く準備、今からしなければならないだろう。

 

「ネットも今、持ちきりだしなぁ……」

 

 スマホでスイスイと画面をスクロールする『ろぼさー』。

 瞳が光を反射している。

 

「……おい、『箱推し』……これ!」

「……⁉︎」

「これは……」

 

 事態は動き出した。

 





 作者でございます。
 どうも皆様、お久しゅうございますが、何日振りだと思いますか?
 はい、なんとほぼ一ヵ月ぶりです。
 投稿が遅れた理由は特になにもありません。
 中には、失踪したかと離れた人もいるでしょう。
 ですが、次章も決まっている上に、holoXを未登場のまま終わらせられません。
 と言うわけで、次回は1週間圏内で投稿したいです。

 待たせた上に、ホロメンが出なくてすみません。
 あ、それと、別シリーズの投稿も検討中です。
 では、また。
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