歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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85話 魂(かたち)

 

 夏祭り。

 

 この日は配信をとるため、敷地への入場はホロメンのみ。

 出店で売り込むもよし、遊びに徹するもよし、風流に花火を眺めるもよし。

 

 夏の風物詩とも言える祭り。

 一部のメンバーにとっては、会長と遊ぶ最後の機会となる。

 だから全力で楽しむ。

 

 

 

          *****

 

 

 

 スイカ屋台という、出店でまずあり得ないような品。

 その店頭に立つのは我らがドラゴン、桐生ココ。

 祭り会場の入り口である鳥居の前に構えた店。

 当然、真っ先に目に飛び込む。

 ホロメン皆、ある程度の情報共有はあるため、この位置にスイカ屋台があると知ってはいるが、やはり目立つ。

 

「おお、やってんねえ」

「ココ!」

 

 大鳥居を一番に潜っていた3人が、調整を終えてスタート地点へ戻ってきた。

 3人とは、主催組の「PEBOT」だ。

 皆ニコニコと笑みを絶やさず、気さくに接してくる。

 殆どのメンバーが浴衣で祭りに参加する中、ココは何故か着ぐるみを着ていた。

 

「スイカくれー」

「おうよ、この自家製スイカとっとと配って回るんじゃ」

 

 ココも普段より調子を上げて破顔する。

 ポイポイポイとスイカを投げ飛ばす。

 

「スイカ投げんなや」

「っと、あぶね」

「拾えねえ」

 

 PEBOTを火切に次々と客は押し寄せる。

 その全てに無作為にスイカを渡した。

 

「ねえっ、この骸骨の頭なに?」

 

 ぺこらが屋台側の骸骨の頭を一瞥して苦笑まじりに尋ねた。

 ぺこらの一言でココと他数名の注目が骸骨くんへ集まるが、生きてはいない。

 サイアクなめにあわされたりはしない。

 

「顔はめパネルっすね。こうやって骸骨になる事ができますよ」

 

 ココが後ろに回り、頭の位置に骸骨の頭を重ねた。

 ツノがはみ出ているが、見事に噛み合っている。

 ドラゴンスケルトンの誕生だ。

 

「すげぇ、ピッタリだ」

「あははは」

「へへっ」

 

 周囲に祭り開始に湧くホロメンの騒音と、スイカを齧る音が響く。

 

「スイカを食べた後に、この頭に種を飛ばして遊べばいいんっすよ」

「そんな事すんの?」

「汚ねぇぺこだ」

 

 実際にタネを飛ばしたものはいなかった。

 PEBOTの移動と同時に、ココも屋台をセルフ型に変更して3人と祭りを回ることにした。

 遠路はるばるやってきたEN、IDのメンバーもいるが、今ここで無理に会話に誘導する必要はない。

 この狭い会場内で、屋台巡りをしていればいずれすれ違うさ。

 

「どこ行きますか?」

 

 ぼたんが先頭に立ち、意見を待った。

 主催者として土地を完全把握するぼたんが先導すれば、誰よりも安心感を持てるだろう。

 

「お化け屋敷気になるんよね」

「ああ、お化け屋敷ね」

「いいっすねぇ」

「やってんのかなぁ」

 

 トワがお化け屋敷を候補に出すと、多数決が即刻完了する。

 しかし、残念な事にお化け屋敷は開店前だった。

 

「じゃあ先にフレア先輩の迷路行きましょう」

「おっけぇー」

「おけぺこ〜」

 

 色々と開店していない屋台も多く、時間を考えるならとぼたんはそう提案した。

 フレア作、透明迷路。

 ポルカ作、出張型ATMの隣に敷かれたガラス張りの迷路。

 ……迷路の隣に、ATMがあるのだろう、きっと、本当は。

 

 迷路に最も苦戦したのはココで、最も容易くクリアしたのはぼたんだった。

 

 続いては、ラブリーボート。

 カップルボートとも言える。

 

 2人1組でボートに乗る、小さなアトラクション。

 トワココ、ぺこぼたで乗船して楽しんだ。

 愛のボート(仮)が沈没する姿は実に見ものであった。

 

 そして流しそうめん。

 そうめんを流すには巨大すぎるウォータースライダーのような建造物。

 実際、ボートに乗って滑り降りるメンバーは多かったし、そうめんは微塵も流れなかった。

 

 謎の宝箱トラップに色んな人を嵌めた後、氷上ボートレースへ。

 ボート漕ぎは拙い操作の者が多く、逆に接戦だった。

 ただ、観客からすれば、どの船も止まって見えただろう。

 

 そして今度はみこめっとのお化け屋敷。

 開店はしていたが、残念ながら定員オーバー。

 また時間をあけ、後ほど伺うこととする。

 

 よって、次の場所は「まがまが作」地下迷路。

 フレア邸への通路も開始直後の死亡事故も対策された、もう何一つ不備がないであろう迷路。

 看板に埋め尽くされたスタート地点から地下へ真っ逆さまに転落し開始。

 

「ハズレ、罰ゲーム……モノマネ……?」

「モノマネっ――!」

 

 ココのモノマネ、一体何が聞けるのか。

 通話の先で誰かの鼻笑いが聞こえるが、既に数名この通路で引っ掛かっている。何もココが初ではない。

 

「……ふぁっふぁっふぁっふぁっ!」

「あれ、ぺこら先輩⁉︎」

「ふぁっふぁっふぁっ!」

「あれ、なんか増えた」

「HA!HA!HA!HA!HA!HA!HA!」

「ふぁっふぁっふぁっ!」

 

 通話内で増殖するぺこら。

 本人も通話内に入るが、声を発してはいない。

 

「おいなんかめっちゃぺこーらいるぺこなんだが」

 

 喧騒の中、ココは道を引き返し、ゴールを探す。

 

「カリだ」

「Hi! Cocoセンパイ!」

 

 そういえば、この迷路用の通話にキアラもいた。

 オリーの声やムーナの声も確認済みだ。

 EN、ID勢も参加しているんだったな。

 

 だが、そこで別々の道を選択し、ココはまたしても孤立。

 その間にまたしてもぼたんが一番乗りでゴールの鐘を鳴らしていた。

 初参加でも脳内マップは完成しているなだろうか?

 頭の作りが気になる。

 

「通話多いし分けようか……」

 

 ココがチャットにEN翻訳で通話の分担を宣言してVC部屋を移動すると、ムーナとオリーが参加した。

 実際に迷路ないでも3人に遭遇し、みんなで仲良くゴールした。

 

 ゴール直前にぼたんから射撃大会開始数分前の通達が入ったので、迷路をクリアした者から射撃場へ向かう。

 

 チーム分けやルール説明など、かなり時間を要した。

 人を射抜く者から、射撃を妨害する者、眠たい者、無意識に不正を働く者、それら全てを寛大な心で微笑み見守る主催者。

 視聴者も参加者も愉快な時間だったが一人一人の一射入魂の熱弁は割愛させてもらう。

 

 射撃大会が終わり、ココはどこへ行こうと悩んでいた。

 

「おいなんかキモいのいんな⁉︎」

「あ、ココち」

「ココせんぱーい!」

 

 わためとイオフィ、そして謎の生命体「藤木」に遭遇した。

 聞いた所、ぺこらのくじ引きで当ててしまったらしい。

 そこそこに可愛がってはいるが、置き所に困っている様子。

 

「どこに置こうか……」

「私のスイカ屋に置くか?」

「スイカ屋――」

 

 ココの提案にクスッと笑い3人で向かう。

 鉄格子で囲ったりと、色々試みたが勝手に逃げ出すので別の場所へ。

 

「ならもう、ヤグラ前にすっか」

「え、邪魔じゃない?」

「本日の主役みたいにしてやろうぜ」

 

 ヤグラ前の看板のところに藤木を囲った。

 そして、マグマを流し込み、元気を与える。

 簡潔にまとめたが、こんな感じだった。

 

 そこで2人とも分かれ、次は何をしようか……?

 

「……? ポルカがボッチで……何してんだ?」

 

 複数個ある通話サーバーの中、ポルカが1人だけのものがある。

 

「ちょっかいかけとくか」

 

 ココはサーバーに入り声を掛けた。

 

「ポルカ」

「わぁっ! はいっ! はい! 何ですか!」

 

 乱入に仰天した声が耳を突く。

 普段の絶叫ほどではないが。

 

「ぼっちで何してんのかって、ちょっかいかけに来た」

「あははっ! えー、ポルカはね今ね、高みの見物してた」

「おお、じゃあ私もいくわ、高みの見物席」

「あ! ポルカはそこじゃないけど、ってかポルカも行きた〜い」

 

 ココが建築した高みの見物席にはいないが、そこに集合することとなる。

 しかし、今のポルカ。

 ココにちょっかいかけられ、嬉しいのか、フレアといる時のような、どちらかと言うと甘えモードに入っている。

 これが……最後だからだろうか。

 

「いた!」

「おう、こっちだポルカ」

「よっ――だああああああああああああ!」

「ポルカぁーーー⁉︎」

 

 流しそうめん台を上り到達する高みの見物席。

 ポルカが流しそうめん台からジャンプすると、足場を踏み外し下へ転落した。

 絶叫が遠ざかる。

 キアラからチャットで「ripol」と告げられた。

 

「ふはは、ポルカ……!」

「待っててぇ! すぐ戻る!」

 

 すぐ戻ってきた。

 その後眺めを楽しみ、帰り際またポルカが転落した。

 

 「ripol」

 

 ついでにココも落下した。

 

 そして、ようやく待ちが引いたお化け屋敷にポルカとココで挑んだ。

 みことすいせいの手厚いもてなし?を受けて楽しむお化け屋敷。

 途中で入る「花火開始直前」の知らせ。

 楽しみつつ早急に屋敷を出て、皆の待つ、高みの見物席へ舞い戻る。

 

 ゴタゴタとしつつも、楽しい花火大会の締めくくりとなる花火が上がる。

 ぺこらの花火がきれ、皆で写真を撮り、解散となる。

 

 これが、花火大会。

 兎田建設主催、夏祭り。

 

 

 

 終了後、とある時間。

 

「会長……」

「何だよ、シケたツラしやがって」

 

 ココと「ねぽらぼ」が話している。

 JPの中では、ココと関わる機会が最も少なかったメンバー。

 

「ねね、ココ先輩と全然喋る事なくて、ずっと後悔してて……」

「今喋れてんよ」

「もっと、みんなと、いろんな事がしたかったのに……」

「まあ確かに私も、ねねちゃんとはあんま話す機会を作れなかったとは思ってるけど」

 

 5期生の言葉。

 ねねの第一声から。

 

「でも卒業したって私はいるから、いつでも遊びに来ればいいよ」

「……うん、いく」

 

 メソメソとしつつも、必死に涙を堪えるねね。

 ポルカは口を閉じて俯き、ラミィは目を細めて、ぼたんは必死に笑顔を作り。

 

「おーい、しんみりさせんなよ!」

「へへ……だって……」

 

 ぼたんの茶化すような言葉に、ねねも苦笑を紛れさせる。

 その苦笑は微かにだが伝播する。

 全てを受け止めるようなココの笑みで、空気が穏やかになるのを感じた。

 こんな時も、涙を見せず笑っているココは先輩としても、人間性も、カッコいい。

 

「じゃあ次、あたし、獅白ぼたん行きます」

「あいよ」

「……ぅん」

 

 ねねからぼたんへ。

 空気を変えたい。

 涙で前が見えないまま、お別れなんてしたくない。

 

「あたしもね、悲しいのはあるんですけど……泣いてお別れってのはやっぱ寂しいんで、堪えてね、頑張りたいと思いますよ」

「そうだな」

 

 よく、メンタルが強いとリスナーに囁かれるメンバーでもあるぼたん。

 だが、実際は1人の女の子である。

 皆が勝手に強いと理想を押し付けるフブキやぼたん、おかゆ、すいせいなどは、決して強いわけではない。

 弱い姿を、表に出さないだけである。

 

「卒業後もね、会長のことは気にせず話していいって、聞いてるんでね、もう、どんどん話して、名前をね、語り継いでいきたいと、思ってます」

「ああ、そうだね。別にそこはもうOGとして桐生ココの名前は幾らでも使ってっていいんで。例の人、みたいにぼかす必要とかないから」

 

 存在が消されるわけではない。

 チャンネルも残り続ける。

 だからこそ、その存在を、偉大な龍の存在を、後世へと語り継いでいかねばならない。

 

「でも、やっぱりもっと……ねねちゃんとおんなじで、色々話せたんじゃないかって、思ってて、そこだけはね、反省してるんで……」

「反省するようなことじゃねぇよぉ」

「へへっ……」

「だってやっぱ……もうちょっと……声、かけれたんじゃ、ないかってっ……おもってて……っ!」

 

 後悔は数知れず。

 気付くのはいつも、後戻りできない所まで来て。

 基本それが、人生である。

 

「ちちろ″ぉん……!」

「でもそれは……! ホントに後悔してで……」

「…………ぼたんちゃぁん!」

「へ、えっへへ…………」

「しんみりしちゃいけねぇったのは、オメエだろう! 言ったこと守れよォー」

「へへ……ごめんなさぁい!」

 

 まだ、卒業じゃあないから、今だけは涙も許される。

 

「はぁい、次尾丸ポルカぁ!」

「ポルカー!」

「アッはは、ポルカー、だよ」

 

 持ち前の声量で場を支配するよう心がけて、言葉を贈る。

 

「ポルカはなんか、色々やりたかったゲームとか一緒にできて、良かったんですけど、やっぱり獅白とかと同じで色々、なんか先輩たちみたいに企画とか考えれなかったし、だからそことかは残念だなって思ってる」

「うんうん」

「だからこれからはね、会長の意思を継いでなんか、色々企画やったりとかできたらいいなぁーって思ってる」

 

 感情が欠壊しそうで焦る。

 

「先人たちの思いとか、会長とかの意思とか、色々、反芻して……自分の中で。そしてこれからに、繋げていきたいと思いました!」

「はい!」

 

 意思表明のように誓ってポルカは元気よくラミィにバトンタッチする。

 景気良くなった空気を締め括るラミィ。

 

「ラミィは……もうずぅーーっと言ってるけど、ココ先輩の朝ココ! アレがもうほんとに凄いと思ってて」

「朝ココかぁ……もう懐かしいなぁ」

「主流だった夜配信を無視して朝、昼に配信するっていうのがもうすごく革命的で、ラミィずっとアレで元気もらってて」

「……惜しいことしちまったなぁ、そりゃぁ」

「んーん。ラミィ、だからここに来て、昼配信したいって思って」

「だから、昼雑とか取ってたんか」

「会長に倣うようだけど、今のラミィの在り方は以前からのホロライブを尊重してのもので、その中には当然、ココ先輩も含まれてて……だからっ!」

 

 ココに貰ったもの。

 尊敬の対象であるココが残した物を後輩が残していく。

 まるで当然のようにある今を作り上げたのは、紛れもなくココである。

 

「ラミィももっと会長と話したかったけど! 後悔もあるけど! 大事なものを、大切な事を、教えてもらえて……っ、よがったって……!」

 

 ココと関われなかった悔しさを語る5期生。

 貰ったものを語る5期生。

 

 一歩を踏み出せれば、もっと積極的に動ければ、自分は未熟であったと、後輩だからと受け身でいたのだと、気付かせてくれた。

 この卒業は別れであり、ステップアップである。

 ココが残した物は、言葉でも物でもないが、確かにそこにある。

 ホロライブの新たな在り方。

 目に見えない程当然の姿こそが、桐生ココの意図せず遺した、形而上の(すがた)

 心にココは宿らないが、その思いが、確かにそこに宿り続けている。

 だからこそ、桐生ココは永遠に生き続けるのだ。

 

「……仕方ねえ後輩だなぁ、ったくよォ〜」

 

 ココは笑顔で4人を抱擁した。

 その偉大さは確かに4人の心に刻まれ、4人は先輩へと成長する大きな台の上へと両足を乗せた。

 この涙を心に蓄えて、大きな台から目の前の巨壁を越える事で、進化する事ができる。

 涙は人間の弱さだが、その弱さを乗り越えて人は強さを得る。

 だからこそ、泣けるこの今を大切にし、枯れ果てる程涙を流す。

 

 ホロライブの桐生ココと対面で話すのは、この日が最後になるだろうから。

 卒業ライブは、ピカピカの照明を浴びるココをしっかりと目に焼き付けたいから。

 これが最後であれ。

 

 

「あり″がとう、ココ会長‼︎」

 

 





 皆様どうも、作者です。

 投稿がまた遅くなりました。
 書くためにアーカイブ見てたら心が苦しくなるんですよ。
 だから許してくだせぇ。

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