歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

88 / 122
88話 ゲームを始めます

 

 突然放り出された世界。

 小さな平原があり、正面には森へと続く道がある。

 メンバーの中に欠けているものはいない。

 

 ――ここは、ゲームの世界。

 

『皆さん、本日はこの私が開発したゲームの試遊回にご参加いただき誠に有難うございます。ここはバーチャル空間。そして、あなた方はこれから魔王討伐を目指し魔王城へ向かって頂きます』

 

 男性の声が天から響き渡る。

 よくある天の声。

 これはこのゲームを開発したマスターが録音した音声のようだ。

 

 つまり、ホロメンが質問したとしても返答はない。

 

「RPGってたけど、そういうのか」

「ドラクエ的な感じになるっぽいね」

「SAOは……?」

「ベイカー街は……?」

「あるわけねぇだろ」

 

『ルールは簡単。そちらのスタートボタンを押すとゲームスタート。みんなで協力して幹部4人を倒し、城の最上階に住む魔王を討伐してください』

 

 メンバーの背後に赤と青のボタンが一つずつ世界観の調和を乱すように設置してある。

 青にはスタート、赤にはクリアと書いてある。

 だが、赤いボタンにはバリアのようなものが掛かっており、今は押せない。

 

『魔王を討伐すると赤いボタンが押せるようになるのでここへ戻ってそのボタンをプッシュ! そうすれば世界に平和が戻りゲームクリアです』

 

「簡単なルールだね」

「難易度の程は別としてになるけど」

「にしても、まるで現実にいるみたい」

「それどころか、ゲーム要素がすごく少ないっていうか……」

「装備とかもないしね」

 

 普段通りの服装と装備。

 真新しさこそないが、ゲーム世界に持ち込めると思えない装備が全て揃っている。

 あやめの刀やノエルのメイス。

 シオンの魔法やその他の特殊能力も全て使用可能だ。

 

『因みに――皆さんの力は現実と全く同じで、一度ゲームオーバーになると復活はできません。そして、全員がゲームオーバーになった暁には、そのまま現実世界の皆さんも死んでいただきまーす』

 

「「「――は⁉︎」」」

 

 一同、一声漏らした後、絶句する。

 

『質問等は一切受け付けません。じゃあ――死ぬ気で頑張れ』

 

 音声が切れる音がした。

 小さな草原で静寂の中、ホロメンは顔を見合わせる。

 

「「…………」」

 

 そして、青く光るスタートボタンを見つめる。

 安全装置のように輝く青が、恐怖心に語りかけてくる。

 みんなの心を脅やかしてくる。

 

「演出……だよね!」

「……じょ、冗談だろう! ゲームなんかで……」

「SAO……?」

「ベイカー街……?」

「あるわけ……」

 

 ゲームの天候は快晴で固定されているが、ここの草原に限り、影がさす。

 ゲームを開始できない。

 開始しなければ、クリアできず出られない。

 もはや八方塞がり。

 

「……このゲーム結構マジかも」

 

 数秒目を閉じ、開いたシオンが口も開く。

 また魔法か何かで危機を感知したのか。

 

「千里眼が使えない。装備もそうだけど、ホロメンのことを理解しすぎてる」

「どういう……」

「一部の能力は対策されてるし、あやめちゃんの刀も……」

「え、余?」

「刀、抜いてみた?」

「え?」

 

 シオンの警鐘から危機感の波紋が広がる。

 あやめは初めて腰に携えた2本の刀を抜いてみる。

 その刀身、阿修羅も羅刹も見事な光沢を誇る。

 まさにあやめの美しき愛刀。

 

「羅刹が……!」

「直ってるじゃん!」

「そう、つまり……」

「現実のものがそのままここに転移してるんじゃなく、ホロメンを知った上でプログラミングして作ってるってことになる」

 

 ロボ子がシオン同様の見解に辿り着いた。

 シオンの千里眼が使用できないのも、プログラムにより使用を制限されているから。

 身体能力はリアルのままにこちらに来ている。

 現に、成長した最新の能力は使用できる。

 

「シオンちゃん、千里眼なんか使えたの……?」

「ん? 言ってないっけ?」

「初耳なんだが」

「この帽子の星形の瞳あるじゃん? これが千里眼」

「マジで⁉︎」

 

 帽子も服も道具の一部。

 マスターが設計する際に能力を一定範囲まで弱めたのだと推測できる。

 だが、そんな推察よりも、絶妙なタイミングで明かされた力にメンバーは驚嘆していた。

 

「でもさ、そんなにホロメンのこと知ってる奴が作ったゲーム……でしょ?」

「……クリア、できんのかな」

 

 言葉にすると震えが止まらない。

 あやめのデバフは解除されたが、シオンは逆にデバフを付与された。

 釣り合いとしては変化なしと言ったところ。

 

「これがゲームで、製作者がゲームマスターなら、薄くても勝ち筋は用意してるんじゃない?」

「そうだよな……運用試験はしてある筈だし、ゲームとして面白くするならクリアの可能性を1%でもチラつかせないと」

 

 ホロメン全員を消す事が目的なら、その希望は微塵もないだろう。

 だが、そう仮定した場合、この状況が既におかしい。

 

「確かに、一理ある」

「でも……」

 

 希望があれど死へ立ち向かう勇気がない。

 裏世界の時とはまるで違う。

 既に生殺与奪権がマスターに握られているのだから。

 しかも、このゲームは、間違いなく誰かがゲームオーバーになる。

 自分がそうなった時……。

 自分がどうなれ全滅かクリアかの二択であることは理解していても、この世界のゲームオーバーとは即ち……一度死を味わうという事。

 死に戻りなどと言う力をアニメで見たが、一度死ぬだけで人間の心は壊れかねない。

 凄惨な死を迎えれば現実に帰れても、心を無くす可能性がある。

 植物人間のようになれば、それはもはや死亡と同様。

 

『あー、あー、繋がりました!』

 

 天の声が共鳴した。

 それは、ゲームマスターの録音ではなく、現実世界からのリアルタイムの通話。

 声の主は不明だったが、直様あの人に変わる。

 

『友人Aです。皆さん、戸惑ってると思いますが、接続が短いので単刀直入に言います』

 

「えーちゃんの声だ!」

「外の人も気づいたんだ!」

 

 外部からの通信に、新たな希望が一瞬芽生えた。

 

『こちらからゲームの停止はできません。皆さんでクリアしてください』

 

 だが、外部からの強制終了の望みは絶たれる。

 クリアしろ、と言う指示も暴論でしかない。

 イバラ道ひとつだけと知っても尚、前進への恐怖が勝る。

 クリアして、果たして自分はどうなるのか……。

 

『心が崩壊する事に恐怖しているのは分かりますが、それは完治させれます! ですから、例え死の苦しみに心砕けようとも、仲間が何人消えようとも、たった1人だけでも、そのボタンを押してください!』

『違法アクセスを感知、セキュリティ暗号を解析……』

『お願いします‼︎』

『マスター以外のコードを確認、通信セキュリティを破壊します』

『ババっ――ババババっ――――ババっ――――――――』

 

 えーちゃんからの通信はセキュリティプログラムの妨害によりノイズへと変わる。

 ブロックされるえーちゃんの声。

 そのやり取りに恐怖心は増す。

 

「…………」

 

 今のえーちゃんからの指示は恐ろしい。

 まるで、仲間が何人も脱落すると言っている。

 心も壊せと言っている。

 死を体験しろと言っている。

 

「――――」

「シオン、行くわ」

「……余も、行く」

「ボクも……」

「メルも行くよ」

「みこ、だって……!」

 

 強いと自覚ある面々が名乗りをあげた。

 強者が慄いて、尻込みして、ダサい姿を見せていては、勝てるものも勝てない。

 士気は勝率を上げる重大な要素だ。

 最後のみこ辺りは泣きそうだったが。

 

「みんな、ここはもう、進むしかない」

 

 こう進言したのはそら。

 自分がホロライブの軸になっている自覚を持ち、こんな時、鼓舞激励するのが役目だ。

 創始者であり創造神。

 強者どものどの言葉より、そらの一言こそ、彼女たちに強く響く。

 

「私は、みんなを守ったりできないけど、頑張る」

 

 そらの無計画な意気込み。

 信憑性も信頼性もない言葉に、果てしない信頼が集まる。

 

「怖い人は、ここに残ってて」

 

 座り込んで絶望していた烏合の衆たちが立ち上がる。

 怯える心を掻き消すように、瞳に光が宿る。

 皆に不屈の精神が宿る。

 

「ゲームを……始めます!」

 

 そらが勢いよく……

 

「「始めます‼︎‼︎」」

「――――っ」

 

 振り返ると、絶望を抑えつける希望の光がそらの背を押していた。

 ボタンに向き直り、振り上げた手を一度胸へ。

 大きく深呼吸して――

 

「ゲーム、スタート!」

『ゲームがスタートされました』

 

 

 

          *****

 

 

 

 ゲーム開始の少し前、現実世界。

 管理兼監視室には、えーちゃんとゲームマスターがいる。

 

「今回はお誘いありがとうございます」

「いえ、私も丁度いい試験プレイヤーを探していたので」

 

 と、何ら変哲のない会話を広げる。

 ホロメンが専用ハードを身につけた事を確認して、マスターがゲームを開始する。

 こうしてホロメンはデスゲームに囚われたわけだが――

 

「ゲームを始めるな!」

 

 突如、部屋の扉をバンと開き男性が現れた。

 仮面をつけた2人の男性。

 

「っ――!」

「動くな!」

 

 登場したのは箱推しと「ろぼさー」。

 無断で侵入したが、事態が事態。

 計画の発覚を予感したマスターが何かに手を伸ばしかけたが、箱推しが魔法で動きを固める。

 

「ろぼさー!」

「ああ」

「ちょっと、箱推しさん⁉︎」

 

 戸惑うえーちゃんを通り越して、「ろぼさー」はゲームを司る機体に繋がるPCを触り始めた。

 その間に、箱推しが事情を説明する。

 

「そんな……でも、どうやってその情報を?」

「情報経路は遮断させてください」

 

 詳しくは語らず箱推しはマスターを拘束する。

 

「やっぱり、クリアするしかないぞこのゲーム」

「だろうな……中と繋げるか?」

「やってみる」

 

 「ろぼさー」は今一度パソコンと向き合う。

 

「中に接続できたら、えーちゃんさん、ホロメンに簡潔に説明して下さい」

「…………わかりました」

 

 そして、ゲーム開始時と繋がるわけである。

 「ろぼさー」のハッキングテクを駆使した戦いも存在するが、それは省こう。

 

 後は、見守るのみである。

 そして、もしかすると、この窮地……。

 また、予期せぬ何かが起こるやもしれない。

 





 皆様どうも、作者です。
 さて、第6章「デスゲーム編」が始まりました。
 今回のバトル章からは、完全未活躍のメンバーも出てきますが、最終章までの活躍率は平等にしたいので、推しの活躍はそのつもりで気長にお待ちください。

 次回は早速1人目の……。
 おっと、ではまた次回。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。