ゲーム開始初っ端から、ルート分岐。
草原から森へ続く道へ入りわずか10数秒で二手に分かれていた。
看板が丁寧に立てられており、右側は森の道、左側は荒野の道と記されていた。
合わせて簡易マップも添えられており、どちらのルートでも同様に城へ辿り着けるようだ。
「違いはなんだろう……」
マップの道を無視して、このまま一直線に行けば城への最短ルートだが、その森は到底通れたものではない。
「二手に分かれよう」
全員を大きく二つのグループに分けた。
選考理由などは特にないが、極力実力が偏らないよう。
シオンとあやめは分けたし、回復役になれるシオンとちょこも別。
他には物理役のノエルところね、極めて能力の近いフブキとラミィ、防衛型のロボ子とルーナ、攻撃無効のメルとみこ、など。
役職ごとにうまく分かれ、どちら側にどんな困難が訪れても対処できる体制を構成する。
その他は均等に。
結果――
右の森ルート――みこ、フブキ、はあと、あやめ、スバル、ちょこ、ミオ、ぺこら、マリン、フレア、ノエル、ルーナ、トワ、ぼたん。
左の荒野ルート――そら、すいせい、ロボ子、まつり、メル、アキロゼ、シオン、あくあ、おかゆ、ころね、わため、ラミィ、ねね、ポルカ。
均等に14人ずつの配分。
そして、存在しない第3のルート。
中央ルート――AZKi、かなた。
AZKiの開拓能力を使い、中央突破を少人数で試みる。
かなたは天使の加護で攻防ともに優れた存在。
敵の目に付かぬよう小数で挑むが、万が一に備えての護衛兼回復役。
もう数人を護衛につけようか悩んだが、かなたの一言「それは嫌な予感がする」で却下された。
「じゃあ、気をつけて」
「そっちもね」
左右組がルート分岐前最後の言葉を交わす。
「かなた、しっかり頼むぞ」
「うん」
「中央は見つかりにくい代わりに、一度見つかれば木々に囲まれ過ぎて逃げ道がない」
「かなたん、ごめんね私強くないから」
「んーん、大丈夫。何があっても護るから」
中央ルートは注目を集めない閉塞された空間であるため、バレた時は詰み。
だからこそ、極力小数で挑むこととなった。
「城門前で会おう」
こうして、3班に分かれ敵城を目指し始めた。
そんなメンバー、右ルート――。
「さっさとクリアしちゃうわよー! はあちゃまについてきなさい! うおおおおおおおおぉぉぉぉ!」
「ちょ、はあちゃま! 危ないよ」
突然はあちゃまが意気込んで1人勝手に突っ込んで行く。
道は舗装されており、安定した通路ではあるが、先に何が待ち受けるか見えぬ中、この暴走はまずい。
何一つ情報がない、闇の状態。
数名が止めたが構わず遠くへ。
追いかけようと、何人かが動きかけるが……。
「みこが追う、先が怖いからみんなは集団行動の方がいいにぇ」
「分かった、お願いする」
くねった道の先に進み、既に見えなくなったはあちゃまをみこは追いかけた。
全員立ち尽くして、呆然としていた。
「……狂ってないと、気がもたないよね」
「あれは……それとはまた別なんじゃない?」
「どうかな……」
少し、談笑して気分を紛らせる。
勝算が極めて低いこのデスゲームに参加させられたことにより、あのはあちゃまが更に狂気を持ったのかもしれない。
精神的苦痛などから逃れたい時、その手段として本能的に新たな人格を作り出すことがある。
二重人格はそんな風に生まれる。
はあちゃまが二重人格になった理由は誰も知らないが。
「……行こうか」
あやめが先陣を切って進み、他のメンバーも静かに続く。
のだが、1人立ち止まり進もうとしない者がいる。
「……フレア?」
「どうしたん?」
フレアが周囲を異様に見回して何かを警戒している。
それに真っ先に気付いたのはノエル。
ノエルの言葉で全員が反応した。
道以外は殆ど木で埋め尽くされているため、何かが隠れていても気付けない。
「先行ってていいよ」
「は、何で?」
「いいから行ってて。後から必ず追いかける」
マリンが不安げに眉を曲げ、フレアを呼ぶが拒否。
何者にも屈さない凛々しい瞳に、皆が臆す。
「……みんないっとって。団長が残っとくけん」
「でも……」
「……行こう」
2人ずつ削れていく想定外の展開に混乱するものが多いが、あやめなどの気を強く持てる存在が、的確に状況を見極める。
ここで何人も脚を止める必要はない。
ボスの存在と場所が分かる以上、手っ取り早くそこに人員を割いて、ゲームを終わらせる。
急いては事をし損じると言うので、冷静に的確に、但し素早く詰めていく。
「2人とも、ちゃんと追いかけてこいよ」
「「うん」」
姿も見えず、声も聞こえなくなる。
それを待っていたように、ノエルが口を開いた。
「どしたんフレア、急に……」
「誰かがあたしのこと見てる」
「誰かが?」
「視線を、感じる」
危険を察知し、その危険が仲間に及ばないよう距離を取った。
話せば皆残ると言い張るだろう。
だがこれは、城の敵を討つゲーム。
ここで全員を足止めしてはいけない。
それにフレアは、そこそこに強い自信がある。
「ヒヒヒヒヒ」
「「――‼︎」」
脳内に、声が木霊した。
耳からではなく、脳に直接声が吹き込まれる感覚。
初体験だが、これがテレパシーか。
言葉が直接響くので、籠る感情も完璧に伝わる。
嘲笑だ。
2人を揶揄う笑みの声。
「ノエル」
「フレア」
2人は武器を取り、戦闘体制を取る。
メイスと炎槍。
「ヒヒヒヒヒ!」
「――――」
「シヒヒヒヒヒ‼︎」
「ぐっ――――!」
「ぇ……?」
フレアが奇妙な声?を漏らした。
何かを喰らい、何かを吹いたような音。
ノエルが素早く振り返ると、その肩に倒れかかってきた。
そう、フレアが脱力して、ノエルに凭れたのだ。
「フレア――⁉︎」
「い″っ……」
フレアが胸元を押さえている。
その手が真っ赤に染まっている。
血だ。
しかもその位置……。
「心臓……!」
心臓を何かで撃ち抜かれ、致命傷。
苦悶の咳を響かせて吐血する。
口、鼻、傷口の三箇所から流血し、フレアの意識は凄まじい勢いで現実と乖離しはじめる。
ぐらぐらする視界の先、困惑で眉を寄せるノエルが見える。
「ヒヒヒヒヒ!」
「ぐっ……! 誰!」
声が脳に直接響くため、主の居場所が特定できない。
周囲に八つ当たりするように怒鳴った。
「上」
「うえ……⁉︎」
見上げた先。
一瞬何も見つからなかった。
次の瞬間、目前に漂うそれを見て、脳がバグる。
「何だ……お前……」
目玉が浮遊していた。
右目か左目かもわからない、白い球体に赤い血管が通っており、正面には黒い瞳がある。
至って普通の眼球が、ただ一つ浮遊している。
得体の知れない無生物に感情もバグる。
フレアを傷つけた怒りを、ぶつけたい。
「ぼくちゃんはただの目ん玉。ちょぉーっと色々できるね」
目が合い、脳内に言葉を送信される。
声の主だ。
そしておそらく、フレアを傷付けた張本人。
「魔王軍の幹部の1人だけど、少し揶揄いに来たんだ」
「揶揄う……はは、これが⁉︎」
「そうだよ? 30人もいるんだ、1人や2人居なくなったっていいでしょ?」
「お前ッ‼︎」
「じゃあ、ぼくちゃんは別の所行くね」
「あ、まっ……」
「……ああ、ごめんごめん、苦しくてごめんね」
宙を漂い、道を進みかけた目玉が思い止まった。
2人を見て、妙なことを口走る。
いや、口はないか。
「うぶっぉッ――!」
「――‼︎ フレア!」
瀕死のフレアにレーザービームが放たれ、腹に風穴が開く。
もう、内臓がどう吹き飛んだかも想像できない。
なんだ、今の目から放たれたレーザーは。
なんだあの、気色悪い生物は。
木々の騒めきに乗せて、目玉の高笑いが遠ざかってゆく。
「フレア! フレア‼︎」
「目からビームだよ、じゃぁね」
「フレア‼︎」
「の……ちゃ……」
「フレア‼︎」
「ぶほっ、ごほっ……」
「死んじゃダメ……! 大丈夫、すぐにちょこ先生のとこに――!」
内臓が破壊されてもう生命を保てない。
フレアが口を開けば、言葉よりも血が多く飛び出る。
ノエルの顔に吐血してしまうが、構いなし。
必死に涙を堪え、抱えたフレアの傷口を手で覆う。
無理だ、傷口が大きすぎて、どう覆っても塞がらない。
そう、ノエルには何もできない。
「……まか……せ……」
「ダメっ!」
パリンっ、とガラスが砕けるような音がした。
「…………ぁぁ」
血に塗れた両手がわなわなと痙攣する。
目前は滲み、どんな奇襲も避けられないだろう。
「フレアァァァァァァァッッッッ‼︎」
天を仰ぎ絶叫した。
滲む視界の先に晴天が広がっている。
当然ながらその場にはもう、不知火フレアの姿はなかった。
*****
「……今、声したよな?」
微かに響いた何者かの声。
それを感知したのはほぼ最後尾のスバル。
前を歩くメンバーや真後ろのルーナにも尋ねる。
「2人に何か……あったんじゃ」
「戻っちゃいけんよ」
「…………」
「進んだ意味を考えて」
キツくなるが、あやめは振り向くことなく淡々と告げた。
皆の顔に影が落ちようとも、あやめだけはこの態度を貫かなくてはならない。
腐りそうなほど暗く重い空気の中、歩みを進める一同。
会話を弾ませようとする者もいない。
心こそ屈してはいないが、気分は最悪。
「ねぇしゅば、おんぶして」
「……しねえよ」
「おんぶちて」
「……んな気力ねえって」
「…………」
ルーナが元気付けようと甘えるが、スバルは苦笑して流す。
ルーナも2度目で諦めた。
トボトボと重たい足を引き摺るように歩き……。
数秒後。
「しゅば…………」
「おんぶはしねえって……」
バタっ、と倒れた。
「ん……?」
急いで振り向き、うつ伏せのルーナに駆け寄る。
「おいルー――! どうしたこれ⁉︎」
ルーナを仰向けにし、手の中に抱える。
その胸……心臓には穴が空いており、致命傷を負っていた。
「ちよこ!」
………………。
「おいちよこ!……? は? おい! 何で誰も……」
いない。
この場には、ルーナとスバルだけ。
そう言えば、周囲の木々が静かだ。
鳥の囀りがない。
あるのはスバルとルーナの乱れた呼吸音だけ。
「結界だよ」
「――! なんだ!」
「こっそり結界内に招待したんだ」
「――! 目……」
空に目玉が浮遊している。
スバルは得体の知れない存在に戦慄しながらも、しっかりとルーナを抱きしめ、その身を庇うように覆う。
テレパスには一切触れず、スバルはただ単に怒りと恐怖に震えていた。
「ルーナに何した!」
「こうした!」
「お″ぉぇっ!」
「っ! ヤメロォッ!」
眼球から発射されたビームがルーナに直撃する。
ルーナが激しく吐血し、グッタリと力をなくす。
スバルは咄嗟にルーナを抱きしめる。
「ヒヒヒヒヒ、じゃあね」
目玉が消えた。
「ルーナ! 頑張れ! すぐちよこのとこに連れてくからな!」
「…………」
お姫様抱っこして、スバルは立ち上がる。
重たい。
軽く走るが、速度が出ない。
道を囲う森が騒ぎ始めた。
「…………」
「抱っこで悪いな。治したらおんぶなんて、いくらでもしてやるから」
必死に足を動かす。
ルーナの絶え絶えの呼吸音が、スバルの心拍を上げる。
「ご……ぇん……」
「大丈夫だ! スバルに任せろ!」
聞こえぬように振る舞い、スバルは一心不乱にちょこを求める。
ルーナの血塗れた泣き顔も、今のスバルには映らない。
「大丈夫だ! 安心しろ!」
軽い……。
重さが、体重が、消えていく。
見るのが怖くて、一瞬だけ視線を落とすと、血塗れた微笑が映る。
「……あり、がとぅ」
手元には、何も残らなかった。
「…………ぉい」
消えゆく命を、手中で感じた。
手の中にいた大切なものが、消え去り、鮮血で汚れた両腕が瞳に映る。
スバルには何もできなかった。
「ぐッ――! ッンだよコレ‼︎」
これが、デスゲームか。
「クッソがァァァァァァァ‼︎‼︎」
姫森ルーナが、消えた。
どうも、作者です。
これで本格的にデスゲームっぽくなりましたね。
このように、この章では消えていく感じなのですが、極力グロテスクな表現は控えます。
そして、今回の敵はメチャクチャ強いです。
4章の敵の平均戦力の6、7倍くらいかなと。
まあ、ゲームなので。
今章のキーは、誰になるでしょうか……。
ではまた次回。