歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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89話 最初の犠牲

 

 ゲーム開始初っ端から、ルート分岐。

 草原から森へ続く道へ入りわずか10数秒で二手に分かれていた。

 看板が丁寧に立てられており、右側は森の道、左側は荒野の道と記されていた。

 合わせて簡易マップも添えられており、どちらのルートでも同様に城へ辿り着けるようだ。

 

「違いはなんだろう……」

 

 マップの道を無視して、このまま一直線に行けば城への最短ルートだが、その森は到底通れたものではない。

 

「二手に分かれよう」

 

 全員を大きく二つのグループに分けた。

 選考理由などは特にないが、極力実力が偏らないよう。

 シオンとあやめは分けたし、回復役になれるシオンとちょこも別。

 他には物理役のノエルところね、極めて能力の近いフブキとラミィ、防衛型のロボ子とルーナ、攻撃無効のメルとみこ、など。

 役職ごとにうまく分かれ、どちら側にどんな困難が訪れても対処できる体制を構成する。

 その他は均等に。

 

 結果――

 

 右の森ルート――みこ、フブキ、はあと、あやめ、スバル、ちょこ、ミオ、ぺこら、マリン、フレア、ノエル、ルーナ、トワ、ぼたん。

 

 左の荒野ルート――そら、すいせい、ロボ子、まつり、メル、アキロゼ、シオン、あくあ、おかゆ、ころね、わため、ラミィ、ねね、ポルカ。

 

 均等に14人ずつの配分。

 

 そして、存在しない第3のルート。

 中央ルート――AZKi、かなた。

 

 AZKiの開拓能力を使い、中央突破を少人数で試みる。

 かなたは天使の加護で攻防ともに優れた存在。

 敵の目に付かぬよう小数で挑むが、万が一に備えての護衛兼回復役。

 もう数人を護衛につけようか悩んだが、かなたの一言「それは嫌な予感がする」で却下された。

 

「じゃあ、気をつけて」

「そっちもね」

 

 左右組がルート分岐前最後の言葉を交わす。

 

「かなた、しっかり頼むぞ」

「うん」

「中央は見つかりにくい代わりに、一度見つかれば木々に囲まれ過ぎて逃げ道がない」

「かなたん、ごめんね私強くないから」

「んーん、大丈夫。何があっても護るから」

 

 中央ルートは注目を集めない閉塞された空間であるため、バレた時は詰み。

 だからこそ、極力小数で挑むこととなった。

 

「城門前で会おう」

 

 こうして、3班に分かれ敵城を目指し始めた。

 

 

 

 そんなメンバー、右ルート――。

 

「さっさとクリアしちゃうわよー! はあちゃまについてきなさい! うおおおおおおおおぉぉぉぉ!」

「ちょ、はあちゃま! 危ないよ」

 

 突然はあちゃまが意気込んで1人勝手に突っ込んで行く。

 道は舗装されており、安定した通路ではあるが、先に何が待ち受けるか見えぬ中、この暴走はまずい。

 何一つ情報がない、闇の状態。

 数名が止めたが構わず遠くへ。

 追いかけようと、何人かが動きかけるが……。

 

「みこが追う、先が怖いからみんなは集団行動の方がいいにぇ」

「分かった、お願いする」

 

 くねった道の先に進み、既に見えなくなったはあちゃまをみこは追いかけた。

 全員立ち尽くして、呆然としていた。

 

「……狂ってないと、気がもたないよね」

「あれは……それとはまた別なんじゃない?」

「どうかな……」

 

 少し、談笑して気分を紛らせる。

 勝算が極めて低いこのデスゲームに参加させられたことにより、あのはあちゃまが更に狂気を持ったのかもしれない。

 精神的苦痛などから逃れたい時、その手段として本能的に新たな人格を作り出すことがある。

 二重人格はそんな風に生まれる。

 はあちゃまが二重人格になった理由は誰も知らないが。

 

「……行こうか」

 

 あやめが先陣を切って進み、他のメンバーも静かに続く。

 のだが、1人立ち止まり進もうとしない者がいる。

 

「……フレア?」

「どうしたん?」

 

 フレアが周囲を異様に見回して何かを警戒している。

 それに真っ先に気付いたのはノエル。

 ノエルの言葉で全員が反応した。

 道以外は殆ど木で埋め尽くされているため、何かが隠れていても気付けない。

 

「先行ってていいよ」

「は、何で?」

「いいから行ってて。後から必ず追いかける」

 

 マリンが不安げに眉を曲げ、フレアを呼ぶが拒否。

 何者にも屈さない凛々しい瞳に、皆が臆す。

 

「……みんないっとって。団長が残っとくけん」

「でも……」

「……行こう」

 

 2人ずつ削れていく想定外の展開に混乱するものが多いが、あやめなどの気を強く持てる存在が、的確に状況を見極める。

 ここで何人も脚を止める必要はない。

 ボスの存在と場所が分かる以上、手っ取り早くそこに人員を割いて、ゲームを終わらせる。

 急いては事をし損じると言うので、冷静に的確に、但し素早く詰めていく。

 

「2人とも、ちゃんと追いかけてこいよ」

「「うん」」

 

 姿も見えず、声も聞こえなくなる。

 それを待っていたように、ノエルが口を開いた。

 

「どしたんフレア、急に……」

「誰かがあたしのこと見てる」

「誰かが?」

「視線を、感じる」

 

 危険を察知し、その危険が仲間に及ばないよう距離を取った。

 話せば皆残ると言い張るだろう。

 だがこれは、城の敵を討つゲーム。

 ここで全員を足止めしてはいけない。

 それにフレアは、そこそこに強い自信がある。

 

「ヒヒヒヒヒ」

「「――‼︎」」

 

 脳内に、声が木霊した。

 耳からではなく、脳に直接声が吹き込まれる感覚。

 初体験だが、これがテレパシーか。

 言葉が直接響くので、籠る感情も完璧に伝わる。

 嘲笑だ。

 2人を揶揄う笑みの声。

 

「ノエル」

「フレア」

 

 2人は武器を取り、戦闘体制を取る。

 メイスと炎槍。

 

「ヒヒヒヒヒ!」

「――――」

「シヒヒヒヒヒ‼︎」

「ぐっ――――!」

「ぇ……?」

 

 フレアが奇妙な声?を漏らした。

 何かを喰らい、何かを吹いたような音。

 ノエルが素早く振り返ると、その肩に倒れかかってきた。

 そう、フレアが脱力して、ノエルに凭れたのだ。

 

「フレア――⁉︎」

「い″っ……」

 

 フレアが胸元を押さえている。

 その手が真っ赤に染まっている。

 血だ。

 しかもその位置……。

 

「心臓……!」

 

 心臓を何かで撃ち抜かれ、致命傷。

 苦悶の咳を響かせて吐血する。

 口、鼻、傷口の三箇所から流血し、フレアの意識は凄まじい勢いで現実と乖離しはじめる。

 ぐらぐらする視界の先、困惑で眉を寄せるノエルが見える。

 

「ヒヒヒヒヒ!」

「ぐっ……! 誰!」

 

 声が脳に直接響くため、主の居場所が特定できない。

 周囲に八つ当たりするように怒鳴った。

 

「上」

「うえ……⁉︎」

 

 見上げた先。

 一瞬何も見つからなかった。

 次の瞬間、目前に漂うそれを見て、脳がバグる。

 

「何だ……お前……」

 

 目玉が浮遊していた。

 右目か左目かもわからない、白い球体に赤い血管が通っており、正面には黒い瞳がある。

 至って普通の眼球が、ただ一つ浮遊している。

 

 得体の知れない無生物に感情もバグる。

 フレアを傷つけた怒りを、ぶつけたい。

 

「ぼくちゃんはただの目ん玉。ちょぉーっと色々できるね」

 

 目が合い、脳内に言葉を送信される。

 声の主だ。

 そしておそらく、フレアを傷付けた張本人。

 

「魔王軍の幹部の1人だけど、少し揶揄いに来たんだ」

「揶揄う……はは、これが⁉︎」

「そうだよ? 30人もいるんだ、1人や2人居なくなったっていいでしょ?」

「お前ッ‼︎」

「じゃあ、ぼくちゃんは別の所行くね」

「あ、まっ……」

「……ああ、ごめんごめん、苦しくてごめんね」

 

 宙を漂い、道を進みかけた目玉が思い止まった。

 2人を見て、妙なことを口走る。

 いや、口はないか。

 

「うぶっぉッ――!」

「――‼︎ フレア!」

 

 瀕死のフレアにレーザービームが放たれ、腹に風穴が開く。

 もう、内臓がどう吹き飛んだかも想像できない。

 なんだ、今の目から放たれたレーザーは。

 なんだあの、気色悪い生物は。

 

 木々の騒めきに乗せて、目玉の高笑いが遠ざかってゆく。

 

「フレア! フレア‼︎」

「目からビームだよ、じゃぁね」

「フレア‼︎」

「の……ちゃ……」

「フレア‼︎」

「ぶほっ、ごほっ……」

「死んじゃダメ……! 大丈夫、すぐにちょこ先生のとこに――!」

 

 内臓が破壊されてもう生命を保てない。

 フレアが口を開けば、言葉よりも血が多く飛び出る。

 ノエルの顔に吐血してしまうが、構いなし。

 必死に涙を堪え、抱えたフレアの傷口を手で覆う。

 無理だ、傷口が大きすぎて、どう覆っても塞がらない。

 

 そう、ノエルには何もできない。

 

「……まか……せ……」

「ダメっ!」

 

 パリンっ、とガラスが砕けるような音がした。

 

「…………ぁぁ」

 

 血に塗れた両手がわなわなと痙攣する。

 目前は滲み、どんな奇襲も避けられないだろう。

 

「フレアァァァァァァァッッッッ‼︎」

 

 天を仰ぎ絶叫した。

 滲む視界の先に晴天が広がっている。

 当然ながらその場にはもう、不知火フレアの姿はなかった。

 

 

 

          *****

 

 

 

「……今、声したよな?」

 

 微かに響いた何者かの声。

 それを感知したのはほぼ最後尾のスバル。

 前を歩くメンバーや真後ろのルーナにも尋ねる。

 

「2人に何か……あったんじゃ」

「戻っちゃいけんよ」

「…………」

「進んだ意味を考えて」

 

 キツくなるが、あやめは振り向くことなく淡々と告げた。

 皆の顔に影が落ちようとも、あやめだけはこの態度を貫かなくてはならない。

 腐りそうなほど暗く重い空気の中、歩みを進める一同。

 会話を弾ませようとする者もいない。

 心こそ屈してはいないが、気分は最悪。

 

「ねぇしゅば、おんぶして」

「……しねえよ」

「おんぶちて」

「……んな気力ねえって」

「…………」

 

 ルーナが元気付けようと甘えるが、スバルは苦笑して流す。

 ルーナも2度目で諦めた。

 トボトボと重たい足を引き摺るように歩き……。

 数秒後。

 

「しゅば…………」

「おんぶはしねえって……」

 

 バタっ、と倒れた。

 

「ん……?」

 

 急いで振り向き、うつ伏せのルーナに駆け寄る。

 

「おいルー――! どうしたこれ⁉︎」

 

 ルーナを仰向けにし、手の中に抱える。

 その胸……心臓には穴が空いており、致命傷を負っていた。

 

「ちよこ!」

 

 ………………。

 

「おいちよこ!……? は? おい! 何で誰も……」

 

 いない。

 この場には、ルーナとスバルだけ。

 そう言えば、周囲の木々が静かだ。

 鳥の囀りがない。

 あるのはスバルとルーナの乱れた呼吸音だけ。

 

「結界だよ」

「――! なんだ!」

「こっそり結界内に招待したんだ」

「――! 目……」

 

 空に目玉が浮遊している。

 スバルは得体の知れない存在に戦慄しながらも、しっかりとルーナを抱きしめ、その身を庇うように覆う。

 テレパスには一切触れず、スバルはただ単に怒りと恐怖に震えていた。

 

「ルーナに何した!」

「こうした!」

「お″ぉぇっ!」

「っ! ヤメロォッ!」

 

 眼球から発射されたビームがルーナに直撃する。

 ルーナが激しく吐血し、グッタリと力をなくす。

 スバルは咄嗟にルーナを抱きしめる。

 

「ヒヒヒヒヒ、じゃあね」

 

 目玉が消えた。

 

「ルーナ! 頑張れ! すぐちよこのとこに連れてくからな!」

「…………」

 

 お姫様抱っこして、スバルは立ち上がる。

 重たい。

 軽く走るが、速度が出ない。

 道を囲う森が騒ぎ始めた。

 

「…………」

「抱っこで悪いな。治したらおんぶなんて、いくらでもしてやるから」

 

 必死に足を動かす。

 ルーナの絶え絶えの呼吸音が、スバルの心拍を上げる。

 

「ご……ぇん……」

「大丈夫だ! スバルに任せろ!」

 

 聞こえぬように振る舞い、スバルは一心不乱にちょこを求める。

 ルーナの血塗れた泣き顔も、今のスバルには映らない。

 

「大丈夫だ! 安心しろ!」

 

 軽い……。

 重さが、体重が、消えていく。

 見るのが怖くて、一瞬だけ視線を落とすと、血塗れた微笑が映る。

 

「……あり、がとぅ」

 

 手元には、何も残らなかった。

 

「…………ぉい」

 

 消えゆく命を、手中で感じた。

 手の中にいた大切なものが、消え去り、鮮血で汚れた両腕が瞳に映る。

 

 スバルには何もできなかった。

 

「ぐッ――! ッンだよコレ‼︎」

 

 これが、デスゲームか。

 

「クッソがァァァァァァァ‼︎‼︎」

 

 姫森ルーナが、消えた。

 





 どうも、作者です。
 これで本格的にデスゲームっぽくなりましたね。
 このように、この章では消えていく感じなのですが、極力グロテスクな表現は控えます。

 そして、今回の敵はメチャクチャ強いです。
 4章の敵の平均戦力の6、7倍くらいかなと。
 まあ、ゲームなので。

 今章のキーは、誰になるでしょうか……。
 ではまた次回。
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