左ルート。
道を進むと荒野に出た。
何もない荒野。
本当にただの荒野で、ずっと先の木々の背後に、わずかに城が見える。
「拍子抜けする感じ……」
「気ぃ抜いたら死ぬよ」
「だろうな……」
こちらは誰1人先行する事も、逸れることもなく集団行動ができている。
「何もないとは思えんし」
城まで何もない、とは到底考えられない。
道中の魔物を倒し、レベルを上げて、装備を整えて、魔王に立ち向かう。
セオリー通りには行かないにしろ、魔王オンリーとの戦いとはなるまい。
幹部も4人いると言っていた。
公平を期すならば右に2人、左に2人、城にボス。
もしくは、城の各階に一幹部、最上階にボス。
「――っ!」
「うわぁおぅ!」
「「――⁉︎」」
シオンが気配を察知して攻撃を受ける。
光線を魔術の光線で相殺すると同時に、仲間を攻撃から守るため、一時的にバリアを展開した。
シオンの瞬発力に、襲撃者は驚く。
そして、感嘆の声を響かせた。
「テレパシー……」
「キショいなこれ」
「何あれ!」
「エグ」
この場の誰も知らぬ事だが、フレアとルーナを死へ追いやった化け物、目玉が姿を表す。
「硬いバリアだね」
数発ビームが投下されるが、シオンのバリアはびくともしない。
シオンも反撃の光線を見舞うが、瞬間移動で回避される。
すいせいが星を撃っても、あくあが水を撃っても、ラミィが氷を放っても、ポルカが様々ばら撒いても、命中しない。
「バリア内に入れないのはシステムかなぁ」
「じゃあ、天気が変わらないのもシステムかな」
シオンのバリアを突破できない目玉の発言に、メルが合わせる。
天候が快晴に固定されているため、天候操作ができない。
「システマーも暇してるし……」
「……?」
システマー?
人か?
だとしたら、幹部の1人の可能性が高い。
「決めた。1人だけ倒して帰ろう!」
皆の警戒心が一段と高まる。
闘争心と生への欲求を全開にする。
目玉がメンバー一人一人を見つめる。
バリアを解いて総攻撃を仕掛けたいが、瞬間移動が極めて厄介。
ビームの距離と精度も相まって、バリアを解く余裕はない。
「だ、れ、に、し、よ、う、か、な、て、ん、の、か、み、さ、ま、の、い、う、と、お、り!」
数名、目が合った気がしたはずだ。
目玉の標的は定まる。
「こっちおいで」
目玉が笑った。
目しかないが、目玉の動きで表情が分析できてしまう。
「誰が――!」
バリア内にいれば安全。
的になると分かって自らバリアを出るものなど――
「っえ?」
ピュン――。
と、バリアを前のめりに飛び出したねねに光線が突き刺さる。
それが幾つも。
「ぅっ……そ……」
桃鈴ねねが消えた。
宣言通り早速1人を倒してしまう。
だが、何故ねねは、バリアを出たのか。
そんな事、もう気付いている。
シオンはバリアを咄嗟に解いた。
すると、全員があるメンバーからずざっと距離を置く。
「なに、してんの……ころね……?」
ねねをバリア外に押し出したのは、ころね。
他の視線をものともせず立ち尽くす。
「おいで、こっちに」
目玉の呼びかけにだけ反応し、目玉へと歩み寄る。
目玉の力、洗脳の発覚。
しかし、手遅れである。
「ころね!」
「ころさん!」
誰の声も届かない。
ころねは目玉と並ぶと、全員を見渡す。
その赤い瞳で。
「お前……!」
「じゃあね。お城で待ってるよ」
「ころさん!」
「だめ、おかゆ!」
テレポートの瞬間、おかゆが駆け出しころねに手を伸ばした。
どうにか、引き留めたい一心で。
世界がスローモードに切り替わるような感覚。
ゆっくりと進む時間で、おかゆの手はころねに触れ――!
「――」
その場から、目玉と共に、おかゆ、ころねが姿を消した。
「………………」
…………………………。
しばし放心する。
「なんだ……このクソゲー……」
脳が正常に戻ったかと思えば、口を突いて出るのはそんな言葉。
ねねのゲームオーバーところねの洗脳、そしておかゆまでも着いて行った。
実質3人の脱落。
しかも、相手への打点も情報も無し。
「……急ごう」
「……⁉︎」
「城で待ってるって言った。城へ急ごう」
まつりが瞳に炎を灯した。
目玉への殺意に似た何かを滾らせて。
その思いは、周囲に伝染する。
「これはゲームだ。ゲーム内のキャラが相手なら――」
「うん」
「躊躇なく潰せる」
最大の救いは、そこにある。
どれほど強いメンバーでも、生物が相手では殺さない程度にセーブする。
だが、相手が無生物ならば、殺す事を容易く視野に入れられる。
本気で戦える。
ゲームで殺人鬼と化すホロメンは少なくない。
これがゲームである事を、マスターに後悔させてやる。
「急ぐのは結構、だが」
「――⁉︎」
「この
「――⁉︎⁉︎⁉︎」
何もない荒野、それが進路だった。
何もない荒野に、突如として出現する巨大な壁。
言葉通りならこれは、迷宮。
だが、これは一体……?
「あらゆるシステムをコントロールするこのゲームのキーパーソン」
「また、浮いてんのか……!」
「システマーだ、よろしく」
身だしなみの整ったスーツ姿の男性が空に立つ。
丁寧に腰を折る礼儀正しさとは裏腹に、天高くから蔑視する。
このゲームに存在する4人の幹部、その1人。
システマー。
様々なゲームシステムに関与して、波乱を巻き起こす敵。
「迷路なんかやってられんし! 紫苑砲!」
シオンがかつて無いほど力強い光線を放った。
間違いなく、シオンの最大火力。
紫苑に煌めく光線が天高く打ち上がり、システマーを焼き尽くす。
シオンのフルパワーに、仲間でさえも絶句した。
初披露がこのタイミングとは確かに驚くし、意外性抜群。
「次そのビームをシュートしたら、リフレクションすんぞ」
弾けて霧散するビームの中から、バリアのような小さな空間に守られたシステマーが微かに怒気を含んで言った。
「……」
シオンの本気をものともしないその様に、絶望感は増すばかり。
暗雲が立ち込める。
「……無理だ、こんなの」
「クリアできるはずねぇよ……」
わためやポルカなどの発言を火切に、恐怖への感情が決壊し、ゲームへの畏怖を表し始める一同。
シオンやロボ子、メルなどの強力なメンバーにも例外はいない――
と思われたが……。
「大丈夫……!」
声を上げたのは、星街すいせい。
滅茶苦茶な笑顔を振り撒いて、仲間を鼓舞する。
珍しく似合わない行為。
皆、すいせいに奇妙な思いを抱き始める。
だがまさか、この空気に当てられて、壊れたわけではあるまい。
「すいちゃん……?」
そらがすいせいの顔を覗き込む。
いつも通り、目に星が宿っている。
「……で? どう、したらいい?」
「トークがコネクトするガールだな」
すいせいの問いかけに微笑で返し、システマーはうんうんと頷く。
「ラビリンスをクリアする、それオンリーだ」
「……なわけ」
「そう、ラビリンスにはシステム、つまりトラップがある」
「トラップ……」
「そのバリエーションはたくさんだ」
迷路の入り口が開く。
遠隔操作で石の壁がじならしして動いた。
「クリアしたら、またルートをゴーだ。ではスタート」
システマーが消滅した。
「…………私、行くよ」
魂に星の輝きを灯して、すいせいは迷路に迷い込んでいく。
ただ、迷路の内部を一度確認し、
「複雑で入り組んでる。トラップもあるみたいだから、それぞれルートは分けたほうが良さそう」
「…………」
「ゴールで会おう」
迷宮に消えていく。
誰1人、言葉を発さず見守った。
すいせいが迷路へ入り1分後――
「何ですいちゃん……あんなに……」
カッコよく、めげずに立ち向かえるのだろう?
誰もが戦慄し、恐れ慄き、足が震える状況で、前を向けるのだろう?
「ボクも、行ってくる」
次いでロボ子も迷宮へ足を踏み入れる。
トラップが発動しようものなら、音くらい聞こえそうなものだが、無音だ。
システムとしてランダムで流れる鳥の囀りや、そよ風があるだけ。
ロボ子の勇気を前に、暗雲を必死に振り払うような仕草を見せる一同。
その後は時間の間隔を大きく開けることもなく、全員その身をラビリンスに置いた。