右ルート。
あやめを先頭に道を進むも、はあととみこ、ノエルとフレアが逸れてしまう。
そして、しばらく進み、異変に気付く。
「ねえ、スバル先輩は?」
「……ルーナたんもいないわ」
目玉の悪戯により、分離された2人。
その不在にようやく気付く。
後尾を歩いていたぼたんの発言で皆が立ち止まり、見回すと、ちょこも更に気づいた。
顔を見合わせて不安感を共有する。
「まさか戻った……?」
ふと脳裏によぎるのは、スバルの一言。
声に反応し、ノエルとフレアの事を危惧していた。
あやめの有無を言わせぬ正論に怯み、声や存在感を潜めていたが……。
「いや、スバルに限って勝手はしないと思う……」
「そうぺこだね。スバル先輩なら、無理を通すにしても、何か言いそう」
「それに、ルーナもいないってなると、別の理由が……」
突如姿を眩ました2人。
こうなると、やはり敵の画策だとした方が納得だ。
「心配だけど……」
「進むしかない?」
あやめの表情が曇っている。
気丈に振る舞っているが、立て続けに離れる仲間たちへの心配で、既に精神に来ている。
強さの自覚があるからこそ、守らねばと言う責任感も強くなっている。
「…………」
あやめは無言で歩みを再開した。
一同、反論なく静かにその背に続く。
あやめ、ちょこ、ミオ、マリン、ぺこら、フブキ、ぼたん、トワ。
先頭からこの順で歩く。
こんな絶望的な環境でも尚心砕けないのは、きっとねねの存在あってこそ。
この場にはいないが、ゲーム内に生存し続ける事で、全ホロメンの精神を保っている。
不屈の歌姫の力は、ホロメンの力の源とも言えるだろう。
「――っ‼︎」
「っと……」
突如、あやめが絶句して立ち止まる。
そして、瞬時に刀を抜いた。
ちょこは危うく、正面のあやめにぶつかりかけた。
丁度死角で見えないため、小さく右へとズレる。
その動作は後方の仲間たちにも伝播する。
「随分と、俊敏な方ですね」
あやめの正面に、1人の男性が刀を回して立っている。
あやめの反射神経に感嘆し、素直な称賛を送る。
その余裕っぷりが恐ろしい。
「いつから――」
「今です。今あなた方の間を縫って、ここに来ました」
テレポートのように突然現れた。
それは間違いない。
あやめもその眼で見たさ。
二本の愛刀を構え、臨戦体制を取る。
それに倣い、他の面々も構えた。
「もう遅いですよ。斬ってます」
「あ――?」
男性はまるで、勝負を終えた武士のように、剣を鞘へ、すぅーとしまい――
カチン、と収納が完了した。
「ぶはっ……」
先頭、敵の不可解な力に警戒しつつも、猛々しく刀を握っていたあやめ。
そんな勇ましい背中が、前触れなくちょこの方へ倒れてきた。
誰1人、脳内処理が追いつかない。
「ぇ……」
あやめの背が迫り、動揺するちょこ。
そのあやめの向こう側に何か赤い……液体が飛沫となって弾けて……。
とん、とその身体を両腕で支えると、手には生温い液体が付着する。
飛沫同様の、鮮やかで濃い赤色。
「あやめ様!」「あやめ!」「あやめ先輩!」「あやめちゃん!」
十人十色の呼称が重なった。
ちょこは咄嗟に治癒をかける。
大丈夫、まだ息はある。
ちょこの人体干渉で、治せる。
温もりを感じる淡い光がちょこの手先から漏れはじめた。
早速干渉が始まるが、既にあやめの目は閉ざされ、動かない。
「致命傷を与えたつもりでしたが……」
あやめの覇気が、知らぬ間に放出され、オート防御を発動したようだ。
無意識下の防御である為、その硬度は高くなかったが、一命は取り留めた。
よって急患。
しかし、そんな暇があるか。
「コンポーズ・アイスソード」
フブキが氷の剣を創造し、構える。
ミオはタロットを手に。
ぺこらは脚の感触を確かめ、ぼたんは石を拾う。
トワとマリンは帽子に触れ、危機感を露わに。
ちょことあやめを護るように。
「私も幹部なので、1人ほどは――ゲームオーバーにさせていただきます」
「――消えた!」
これは目の錯覚か? 剣士が消滅する。
咄嗟に周囲を見回すが、姿は見えない。
この中に不可視の敵を捉えられる者は――
「よっ!」
「っ!」
ぼたんの投石が、虚無の位置で弾かれる。
そうだ、ぼたんは捕捉の力を持っている。
一度視認すれば、二度と逃さない。
ぼたんには見える。
剣士の位置が、完璧に。
力強く石を握るぼたんの瞳には、剣士の輪郭が靄掛かって見えている。
他のメンバーは、ぼたんの投石から位置を予測し、そこへ近付かぬよう心掛ける。
だが、投石の速度と、それを捌きながら動く速度は、明らかに剣士が上だ。
石乱れ打ち。
「船長!」
「へあ⁉︎」
ぼたんが突進するようにマリンを押し退ける。
ぼたんの右肩に剣が掠った。
まるで疾風。
見えていても、辛うじて反応できるか否かの速度で動いている。
その証拠に、剣士の通り道には風が吹く。
「そっち行った!」
「え!」
肩を並べるミオとフブキに警告する。
だが、見えない。
ぼたんが動いても当然間に合わない。
キラリとフブキのアイスソードが煌めいた。
併せて瞳をギラつかせ、アイスソードを誰も想像だにしない動きで操る。
「ぃっ――!」
「――⁉︎」
直感か?
フブキの振るった剣が、正面から敵の斬撃を受け止めた。
ぼたん以外には見えない戦況が、フブキの剣の軋む音から伝播する。
剣士も見切られたことに僅かな動揺を見せる。
その刹那の隙にぼたんが声を上げた。
「こいつはあたしとフブキ先輩でなんとかする!」
「みんな行って!」
この一瞬で、不可視の剣士とやり合える存在が明確化した。
フブキも便乗し、コクリと頷くと手汗で溶けそうなほど強く、剣を握る。
2人の合図で真っ先にちょこがあやめを抱えて駆け出した。
他のメンバーも一切迷わない。
「もういいですよ」
剣士が誰かへと指示を出す。
まだ敵が――
ビュン、と熱風がぼたんとフブキの傍を吹き抜ける。
ぴこぴこと、ぺこらの耳が揺れた。
「んっ……!」
「ひゃぁ……止めるか、そうか、すげえぜ」
背後への蹴り。
それは敵の襲撃に抗うもの。
見えない敵がもう1人戦場へ羽ばたいて来た。
その敵は突如姿を見せた。
武闘家のような服を着た男性。
ぺこらの片足に己の片足を衝突させている。
更なる襲撃に、殆どのものが足を止める中、ちょこだけは自分の価値を理解し、あやめを担いで進んだ。
ぺこらは足の抵抗を操作し、全力で武闘家の攻撃を押し返す。
「ぐぐぐ……」
「俺は優しいなぁ――!」
武闘家も片足に力を込め、力比べに出る。
その背後にトワが回り込んだ。
「っラァッ!」
会心の回し蹴りを振り抜く。
「っと、優しさにつけ込むとは、悪魔っぽいな!」
回し蹴りを右腕で受け止める。
同時に2人の蹴りを受け止め、未だに力を拮抗させている。
「大丈夫2人とも!」
ぼたんがさっと武闘家に視線を逸らした。
そんな刹那、剣士が動く。
姿を眩まして、剣を引き抜いた。
フブキは鋭く目を光らせる。
氷の剣をへし折るほどの腕力で握り、剣士を探す。
「くそぅっ!」
「船長⁉︎」
マリンが直角に道を逸らして、鬱蒼と生い茂る木々へと突入した。
その奇行に敵含む全てのものが驚愕する。
真っ先に意図を理解したのは敵側の剣士。
次いでミオとフブキと武闘家だ。
「はっ、乗ってやれよ剣士」
「では、そうします」
武闘家の冗談めかした一言を真に受け、剣士は姿見せぬままマリンの後を追う。
タイミング同じくミオとフブキも追う。
「行かせるわけ――」
「タア! ウオリャァッ!」
「ぎっ……てぇなぁ」
ぼたんが全力投球のポーズをとると、武闘家がようやく2人の蹴りを弾いてぼたんに拳を打ち込んだ。
脇腹に捩じ込まれた一撃に意識が揺らぐが、すぐに視界を固定し直す。
「3人か、丁度いいなあ」
ぺこら、トワ、ぼたん。即ちPEBOT。
敵は武闘家。
逃げるマリンを追う剣士。
を追うフブミオ。
ちょこは負傷したあやめを抱え逃走。
右ルートのチームは、完全に分離された。