歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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91話 剣士と武闘家

 

 右ルート。

 

 あやめを先頭に道を進むも、はあととみこ、ノエルとフレアが逸れてしまう。

 そして、しばらく進み、異変に気付く。

 

「ねえ、スバル先輩は?」

「……ルーナたんもいないわ」

 

 目玉の悪戯により、分離された2人。

 その不在にようやく気付く。

 後尾を歩いていたぼたんの発言で皆が立ち止まり、見回すと、ちょこも更に気づいた。

 顔を見合わせて不安感を共有する。

 

「まさか戻った……?」

 

 ふと脳裏によぎるのは、スバルの一言。

 声に反応し、ノエルとフレアの事を危惧していた。

 あやめの有無を言わせぬ正論に怯み、声や存在感を潜めていたが……。

 

「いや、スバルに限って勝手はしないと思う……」

「そうぺこだね。スバル先輩なら、無理を通すにしても、何か言いそう」

「それに、ルーナもいないってなると、別の理由が……」

 

 突如姿を眩ました2人。

 こうなると、やはり敵の画策だとした方が納得だ。

 

「心配だけど……」

「進むしかない?」

 

 あやめの表情が曇っている。

 気丈に振る舞っているが、立て続けに離れる仲間たちへの心配で、既に精神に来ている。

 強さの自覚があるからこそ、守らねばと言う責任感も強くなっている。

 

「…………」

 

 あやめは無言で歩みを再開した。

 一同、反論なく静かにその背に続く。

 あやめ、ちょこ、ミオ、マリン、ぺこら、フブキ、ぼたん、トワ。

 先頭からこの順で歩く。

 こんな絶望的な環境でも尚心砕けないのは、きっとねねの存在あってこそ。

 この場にはいないが、ゲーム内に生存し続ける事で、全ホロメンの精神を保っている。

 不屈の歌姫の力は、ホロメンの力の源とも言えるだろう。

 

「――っ‼︎」

「っと……」

 

 突如、あやめが絶句して立ち止まる。

 そして、瞬時に刀を抜いた。

 ちょこは危うく、正面のあやめにぶつかりかけた。

 丁度死角で見えないため、小さく右へとズレる。

 その動作は後方の仲間たちにも伝播する。

 

「随分と、俊敏な方ですね」

 

 あやめの正面に、1人の男性が刀を回して立っている。

 あやめの反射神経に感嘆し、素直な称賛を送る。

 その余裕っぷりが恐ろしい。

 

「いつから――」

「今です。今あなた方の間を縫って、ここに来ました」

 

 テレポートのように突然現れた。

 それは間違いない。

 あやめもその眼で見たさ。

 

 二本の愛刀を構え、臨戦体制を取る。

 それに倣い、他の面々も構えた。

 

「もう遅いですよ。斬ってます」

「あ――?」

 

 男性はまるで、勝負を終えた武士のように、剣を鞘へ、すぅーとしまい――

 

 カチン、と収納が完了した。

 

「ぶはっ……」

 

 先頭、敵の不可解な力に警戒しつつも、猛々しく刀を握っていたあやめ。

 そんな勇ましい背中が、前触れなくちょこの方へ倒れてきた。

 誰1人、脳内処理が追いつかない。

 

「ぇ……」

 

 あやめの背が迫り、動揺するちょこ。

 そのあやめの向こう側に何か赤い……液体が飛沫となって弾けて……。

 とん、とその身体を両腕で支えると、手には生温い液体が付着する。

 飛沫同様の、鮮やかで濃い赤色。

 

「あやめ様!」「あやめ!」「あやめ先輩!」「あやめちゃん!」

 

 十人十色の呼称が重なった。

 ちょこは咄嗟に治癒をかける。

 大丈夫、まだ息はある。

 ちょこの人体干渉で、治せる。

 温もりを感じる淡い光がちょこの手先から漏れはじめた。

 早速干渉が始まるが、既にあやめの目は閉ざされ、動かない。

 

「致命傷を与えたつもりでしたが……」

 

 あやめの覇気が、知らぬ間に放出され、オート防御を発動したようだ。

 無意識下の防御である為、その硬度は高くなかったが、一命は取り留めた。

 よって急患。

 しかし、そんな暇があるか。

 

「コンポーズ・アイスソード」

 

 フブキが氷の剣を創造し、構える。

 ミオはタロットを手に。

 ぺこらは脚の感触を確かめ、ぼたんは石を拾う。

 トワとマリンは帽子に触れ、危機感を露わに。

 

 ちょことあやめを護るように。

 

「私も幹部なので、1人ほどは――ゲームオーバーにさせていただきます」

「――消えた!」

 

 これは目の錯覚か? 剣士が消滅する。

 咄嗟に周囲を見回すが、姿は見えない。

 この中に不可視の敵を捉えられる者は――

 

「よっ!」

「っ!」

 

 ぼたんの投石が、虚無の位置で弾かれる。

 そうだ、ぼたんは捕捉の力を持っている。

 一度視認すれば、二度と逃さない。

 ぼたんには見える。

 剣士の位置が、完璧に。

 力強く石を握るぼたんの瞳には、剣士の輪郭が靄掛かって見えている。

 

 他のメンバーは、ぼたんの投石から位置を予測し、そこへ近付かぬよう心掛ける。

 だが、投石の速度と、それを捌きながら動く速度は、明らかに剣士が上だ。

 

 石乱れ打ち。

 

「船長!」

「へあ⁉︎」

 

 ぼたんが突進するようにマリンを押し退ける。

 ぼたんの右肩に剣が掠った。

 まるで疾風。

 見えていても、辛うじて反応できるか否かの速度で動いている。

 その証拠に、剣士の通り道には風が吹く。

 

「そっち行った!」

「え!」

 

 肩を並べるミオとフブキに警告する。

 だが、見えない。

 ぼたんが動いても当然間に合わない。

 

 キラリとフブキのアイスソードが煌めいた。

 併せて瞳をギラつかせ、アイスソードを誰も想像だにしない動きで操る。

 

「ぃっ――!」

「――⁉︎」

 

 直感か?

 フブキの振るった剣が、正面から敵の斬撃を受け止めた。

 ぼたん以外には見えない戦況が、フブキの剣の軋む音から伝播する。

 剣士も見切られたことに僅かな動揺を見せる。

 その刹那の隙にぼたんが声を上げた。

 

「こいつはあたしとフブキ先輩でなんとかする!」

「みんな行って!」

 

 この一瞬で、不可視の剣士とやり合える存在が明確化した。

 

 フブキも便乗し、コクリと頷くと手汗で溶けそうなほど強く、剣を握る。

 2人の合図で真っ先にちょこがあやめを抱えて駆け出した。

 他のメンバーも一切迷わない。

 

「もういいですよ」

 

 剣士が誰かへと指示を出す。

 まだ敵が――

 

 ビュン、と熱風がぼたんとフブキの傍を吹き抜ける。

 ぴこぴこと、ぺこらの耳が揺れた。

 

「んっ……!」

「ひゃぁ……止めるか、そうか、すげえぜ」

 

 背後への蹴り。

 それは敵の襲撃に抗うもの。

 見えない敵がもう1人戦場へ羽ばたいて来た。

 

 その敵は突如姿を見せた。

 武闘家のような服を着た男性。

 ぺこらの片足に己の片足を衝突させている。

 

 更なる襲撃に、殆どのものが足を止める中、ちょこだけは自分の価値を理解し、あやめを担いで進んだ。

 

 ぺこらは足の抵抗を操作し、全力で武闘家の攻撃を押し返す。

 

「ぐぐぐ……」

「俺は優しいなぁ――!」

 

 武闘家も片足に力を込め、力比べに出る。

 その背後にトワが回り込んだ。

 

「っラァッ!」

 

 会心の回し蹴りを振り抜く。

 

「っと、優しさにつけ込むとは、悪魔っぽいな!」

 

 回し蹴りを右腕で受け止める。

 同時に2人の蹴りを受け止め、未だに力を拮抗させている。

 

「大丈夫2人とも!」

 

 ぼたんがさっと武闘家に視線を逸らした。

 そんな刹那、剣士が動く。

 姿を眩まして、剣を引き抜いた。

 フブキは鋭く目を光らせる。

 氷の剣をへし折るほどの腕力で握り、剣士を探す。

 

「くそぅっ!」

「船長⁉︎」

 

 マリンが直角に道を逸らして、鬱蒼と生い茂る木々へと突入した。

 その奇行に敵含む全てのものが驚愕する。

 真っ先に意図を理解したのは敵側の剣士。

 次いでミオとフブキと武闘家だ。

 

「はっ、乗ってやれよ剣士」

「では、そうします」

 

 武闘家の冗談めかした一言を真に受け、剣士は姿見せぬままマリンの後を追う。

 タイミング同じくミオとフブキも追う。

 

「行かせるわけ――」

「タア! ウオリャァッ!」

「ぎっ……てぇなぁ」

 

 ぼたんが全力投球のポーズをとると、武闘家がようやく2人の蹴りを弾いてぼたんに拳を打ち込んだ。

 脇腹に捩じ込まれた一撃に意識が揺らぐが、すぐに視界を固定し直す。

 

「3人か、丁度いいなあ」

 

 ぺこら、トワ、ぼたん。即ちPEBOT。

 敵は武闘家。

 

 逃げるマリンを追う剣士。

 を追うフブミオ。

 

 ちょこは負傷したあやめを抱え逃走。

 

 

 右ルートのチームは、完全に分離された。

 

 

 

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