それは敵幹部システマーにより生成された、
内部は様々な妨害システムが蔓延っている。
しかも、人が入るたびに形を変える。
出入り口は全員同じだが、挑戦している間は別空間に存在している。
だから、人それぞれトラップも異なり、ルートも異なり、交わる事もない。
完全なるランダム迷路。
しかし、この迷宮で死が訪れることはない。
敢えて、そんな設計が施されている。
これはほんの余興。
敵を翻弄し、混乱させ、カオスの中で弄ぶシステマーの為の舞台作り。
見えない所で消えられては困る。
システマーが最初に目撃するゲームオーバーは、ラビリンスを抜けた先。
そこで1人を消し、心の整理をつかせないまま、門前へと誘い込む。
門前へ来れば、後は楽しいシステムごっこ遊び。
さあ……早く掛かれ、主人公気取りの脇役たちよ……。
*****
ラビリンスを突破したあくあは、帽子を深く被り慎重に出口をくぐった。
突然に世界が広がる。
迷宮が出現する前に目にした荒野が再び広がっている。
一つ違うのは、遠くに見える敵の根城が近付いた事。
あそこに、ボスと目玉、そして攫われたおかころがいる。
「……?」
遅れて気づいた。
ポルカがいる。
正面で妙なポーズを取っている。
「……」
雰囲気的に陽に寄っているポルカに話しかけるか。
あくあは逡巡しあたふたとする。
いやいや、デスゲームの途中、私情を挟んで進行を遅らせるわけには……。
そっと帽子を外し、ゆーっくりと忍び足でポルカの背後まで……
「あ、あくたん!」
「うぴゃぁ‼︎」
背後から掛けられた声に過剰反応し、飛び跳ねると、反射的に帽子を被り姿を消した。
「ちょちょちょ、あくたん! まつりだって」
あくあのいた場所に駆け寄ると、無害を主張する。
普段ならある意味有害だが、今は仲間だ。
「ってか、ぽるぽるもいんじゃん」
更に先にポルカを発見。
クリア者は現在この3名。
この様子から、やはり入りの順番や能力、実力の差はクリアに影響しないと見ていい。
ただの内部構造の運。
「何してんの?」
「……?」
まつりやあくあの会話も聞こえたろうに。
何故ずっと、同じポーズを取って動かない。
まつりが近寄ろうと歩みを進め、あくあも漸く姿を現し、首を傾げる。
「ぽるぽる?」
ガンっ!
「びゃぁ!」
「っ――!」
2人の目前に、突如道路標識が降ってきた。
まつりより距離のあったあくあの方が反応が大きい。
そしてまた消える。
降ってきた道路標識は赤と白で構成され、「止まれ」と書かれた逆三角形標識。
「どうしたの? ねえ、ぽるぽる?」
まつりの問いかけにもやはり無反応で不動。
標識が一度消え、もう一度降って来る。
コレは……。
「ポルカちゃんの能力……だよね?」
「多分……」
ポルカが止まれと指示を出している。
そこまでは察しがつくが、何も情報がない。
ポルカが動かない、という事が最大のヒントであることは確かだ。
「――! まつりちゃん」
「ん?」
「あれ……」
あくあがまつりの服の裾をちょいちょいと引いた。
そして落下した標識の少し先に視線を向けた。
そこには特別目を引く物はない。
だが、不自然が存在している。
「……あくたん、水出せる?」
「うん」
不自然が共有され、今度は仮説を証明させるために動く。
あくあがポルカの方へ水を放出させると――
「……嘘でしょ」
「こんなん……」
水の流れが停止し、宙に浮く。
そう、標識が落下した影響で起きた砂塵も、妙なポーズを取るポルカも、その領域に踏み得れた途端に、動けなくなった。
つまり、この先の荒野は――
「
「――」
「出たな変質者」
上空に突如出現するシステマー。
相変わらず高みの見物か。
「ラビリンスをファーストクリアしたラッキーガールにプレゼントするこのアンラッキー」
最速クリアしたポルカは何も知れず直進し、次なるシステムにかかる。
後続はその異変を察知し止まるが、突破口を見出せず立ち往生。
では次の段階へ。
「クリアできないゲームはナンセンス、てなわけで、システムプラスだ」
まつりとあくあよりやや後ろに、新たな機械が出現した。
手形のついた認証装置。
「だれでもいい、そのマシンにプットオン、すれば30秒だけこのエリアのシステムがダウンする」
「……本当に?」
「イッツトゥルー。ウソはつかん」
動けないポルカ、陰キャ発動で隠れるあくあ。
まつりが情報を引き出す為に対話する他ない。
言葉に嘘偽りはなしと言うのなら、綾があるはず。
「なら……あれを使った時に起こる事、全部教えてよ」
「いやだ」
「――チッ」
アイドルラインを易々と超える舌打ち。
クソゲーの参加者を高みの見物とは、コイツもアイツも腹が立つ。
「いやならUターンしてルートチェンジすればいい。盛大なタイムロスだがな」
それが外れ択な事は織り込み済み。
そんな顔をしている。
結局、例えゲームオーバーになるとしても、この認証装置を使う以外の選択肢はない。
「――⁉︎ システムスルー? 誰だ……2人? 中央だと⁉︎」
「――‼︎」
唐突に大量のホログラムを展開し操作と確認。
莫大な情報を1秒ほどで把握し、アンサーを出す。
中央はまずい。
そこにはAZKiとかなたが――!
「ラストにスペシャルヒントだ」
「――は?」
「適度に人を待つがいい」
「あ、待て! ほら、こっち来いよ! ぶっ飛ばしてやるからさ!」
ヒントを吐き捨てて、システマーは中央の密林ルートへ向かった。
まつりの挑発に耳を貸さず、イレギュラーを潰しに。
「まずい、色々まずい!」
突破口が相手の望む選択しかない事然り、中央組に気付いた事然り、既にポルカが罠にかかっている事然り……。
「使う? あの装置」
「いや……使うにしてももう少し人を待って――」
「どしたん?」
「――‼︎」
再出現し、まつりと会話を始めたかと思えば、不意打ちに再三姿を消す。
出たり消えたり、陰キャも大変だ。
「ラミィちゃん」
「アキちゃんもいまーす」
「おお!」
ラビリンス突破者が加えて2名。
頰などに擦り傷などはあるが、どちらも治療を要するほどの大怪我は負っていない。
きっと、本番はここからだ。
「なるほどねぇ〜」
まつりは簡潔に2人に状況を説明した。
アキロゼの軽い相槌にラミィも合わせる。
「確かに決定打に欠けるメンバーだしね」
ここで一度の危険を冒して突破させるにはやや実力が不釣り合い。
素で闘えるラミィはまだしも、他4人は能力ありきのバトルになる。
せめてあと1人、スキルを持つ人間が来れば……。
そら、ロボ子、メル、シオンの誰かが……。
「あ、結構いる」
「わためぇ!」
更に1人。
そして待つ事2分。
「あ、みんな!」
「やほー、クリアしたよー」
メルとロボ子も続けてクリア。
「これで残るは3人か」
主力メンバーのシオンとそら、そしてラビリンス最初の挑戦者、すいせい。
ここまで待ったらなら、もう最後まで待つか。
いや、来ない可能性すら……。
どうする。
スキル持ちは3人になった。
もう危険を冒すには十分な人材。
だが、これだけ集まると別の問題も発生する。
それは、誰が装置を使うか問題。
ペナルティ発生を考慮すれば、最も危険が高いのは間違いなく使用者本人。
ホロメンがそれを押し付け合う事はまず無い。
起こるのは、むしろ争奪戦。
「もう使おうか」
「――――」
「なら私が――」
「その前に!」
まつりの切り出しと同時に複数名が挙手をする。
強い能力、弱い能力、スキルの有無、それらは一切考慮されていない。
このゲームで情を扱う事は、全滅の確率を上げる事。
だから冷酷に指揮する指導者がいる。
それを、まつりは買ってでた。
「ラミちゃん、ろぼち、メルメルは使用禁止」
理由は明確にスキルの有無。
能力ありきのメンバーはシオンがゲームオーバーになって闘えるのかという疑問が浮かぶ。
ここでデバフを受けるわけにはいかない。
正直まつり自身が使用したい。
だが、自分勝手はできない。
もっと徹底的に、冷酷に……。
「あくたんとアキアキの能力は凡庸性が高いし、ポルポルは動けないから、選択肢はまつりと……」
「わため、だね」
まつりの絞り込みを受け入れるように真摯な瞳と声で、自分の名を挙げた。
いつもの温和な声は消滅し、まるで死を覚悟したような目をしている。
「どんなデバフやトラップが発生するか分からないけど……どうする?」
「わためでいいよ」
「……その心は?」
「この状況と、能力の実用性、かな」
こんな展開で、臨機応変に且つ冷酷に分析して判断できる存在。
それはこの先も必要だ。
更にわための突進という能力は、言わば足が速いだけ。
走り回る広大な土地はあれど、今回のシステムのような見えない障壁は今後幾らでもある。
そうなった時、結局無闇に使えない能力。
わための力は既に死んだも同然。
「それに、万が一避けれる何かなら、わためは早く動けるから、避けてみせるよ」
ワンチャン回避を狙って。
と言うが、それは0割だ。
無い可能性。
「ほらみんな、走る準備」
わためが認証システム装置の前に立ち催促する。
それに合わせて、暗い顔のままシステムラインギリギリに立つ。
マラソン競走のスタートのような光景。
精神と状況が、まるでマッチしていない。
それが余計に気持ち悪い。
「いつでもいいよ」
まつりだけ、装置の少し後ろで屈んで待機する。
地面にはS.S.Sと書かれ、この先に進むと動けなくなる。装置を使うと30秒だけ通れるけど、
と書かれていた。
その先はわためが装置使用後に書き足す予定だ。
そして可能ならわための足を借りて突破する。
「いくよ」
わための右手がシステムに触れた。
ホログラムがその手をスキャンするとピコピコと電子音が鳴った。
『認証中……角巻わため、失格』
「え?」
認証完了とともに停止システムがダウン、そして――角巻わためが消えた。
強制ゲームオーバー。
「走れ‼︎」
まつりの号令で全員が全力疾走。
まつりも急いでこう書き足す。
『使ったら死ぬ』と。
指が痛い。
地面擦ったから、少し皮が剥けた。
でも関係ない。
走らないと。
あれ、でも、どこがシステムラインだ?
スタートは、あくあの水でラインを割り出せたが、ゴール地点が不明だ。
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ。
これ、全員突破できなくね。
ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ。
後何秒?
時間がない。
「くっ!」
最後の最後。
スタートの遅れたまつりは、皆より数歩背後にいる。
バチを抜き取った。
ダメだろ。
ここで全員抜けなきゃ。
地面に飛び込み、身体を半回転、地面にバチを打ちつけた。
花火の爆発で、まつりの体は進行方向へ吹き飛ぶ。
自分が叩きつけた犠牲を、自分が無駄にしたら、死にたくなる!
「来ちゃダメ‼︎」
「――‼︎⁉︎」
誰かが叫んだ。
え、何で?
身体は宙に浮いている。
もう、後には引けない……。
「だわっ……!」
吹き飛んで、着地もできずまつりは地面を1メートルほど滑走した。
様々なところが焼けた。
痛い。
痛いけど、心はもっと痛い。
「いっててて……」
あれ、喋れる。
動ける……。
血も出てる。
「突破して――」
顔を上げた。
その前で、突破したメンバーが絶句していた。
視線はまつりの後方やや上。
そっと、祭りも振り返ると――
「――! すいちゃん!」
停止システムの中で、星に跨るすいせいが美しく停止していた。
まるでそれは、美麗イラストのように……。
「タイミングが悪かった! クッソ!」
「やっぱりみんなを待ってれば……!」
なぜ待たなかったのか、と聞かれれば答えづらい。
焦燥から、冷静でなかった。
待つことが、焦ったいと思ってしまった。
臨機応変に冷酷な判断が下せるだと?
これで?
ふざけんな!
バカか!
あの状況、待つ一択だった。
後続がすいせい、シオン、そらの強力メンバーだ。
つまり、その3人を残すと言う事は、強者を1人失うと言う事。
わためが消えた瞬間、まつりが取るべき行動は、あの場で他3人を待つ事だった。
それが最も賢い選択だった。
でも、走った。
皆が挙手するから、指導者を買って出たが、まつりは別に頭が良くない。
何もかも、間違いだらけだった。
「……みんな行こう」
奥歯を噛み締めまつりは表面上の冷酷を継続した。
「ここからじゃどうしようもない。解放する方法は、一つだけ浮かぶ」
「あ――」
だが、これだけは間違いない。
断言できる。
標的は定めた。
「システマーっつったか。アイツを殺す」
ゲームクリアへと通じる憎悪を、手に入れてしまった。