歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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94話 指導者まつりLv.1

 

 絡繰迷宮(システムラビリンス)

 それは敵幹部システマーにより生成された、(トラップ)

 

 内部は様々な妨害システムが蔓延っている。

 しかも、人が入るたびに形を変える。

 出入り口は全員同じだが、挑戦している間は別空間に存在している。

 だから、人それぞれトラップも異なり、ルートも異なり、交わる事もない。

 完全なるランダム迷路。

 

 しかし、この迷宮で死が訪れることはない。

 敢えて、そんな設計が施されている。

 これはほんの余興。

 敵を翻弄し、混乱させ、カオスの中で弄ぶシステマーの為の舞台作り。

 

 見えない所で消えられては困る。

 システマーが最初に目撃するゲームオーバーは、ラビリンスを抜けた先。

 そこで1人を消し、心の整理をつかせないまま、門前へと誘い込む。

 門前へ来れば、後は楽しいシステムごっこ遊び。

 

 さあ……早く掛かれ、主人公気取りの脇役たちよ……。

 

 

 

          *****

 

 

 

 ラビリンスを突破したあくあは、帽子を深く被り慎重に出口をくぐった。

 突然に世界が広がる。

 迷宮が出現する前に目にした荒野が再び広がっている。

 一つ違うのは、遠くに見える敵の根城が近付いた事。

 あそこに、ボスと目玉、そして攫われたおかころがいる。

 

「……?」

 

 遅れて気づいた。

 ポルカがいる。

 正面で妙なポーズを取っている。

 

「……」

 

 雰囲気的に陽に寄っているポルカに話しかけるか。

 あくあは逡巡しあたふたとする。

 

 いやいや、デスゲームの途中、私情を挟んで進行を遅らせるわけには……。

 そっと帽子を外し、ゆーっくりと忍び足でポルカの背後まで……

 

「あ、あくたん!」

「うぴゃぁ‼︎」

 

 背後から掛けられた声に過剰反応し、飛び跳ねると、反射的に帽子を被り姿を消した。

 

「ちょちょちょ、あくたん! まつりだって」

 

 あくあのいた場所に駆け寄ると、無害を主張する。

 普段ならある意味有害だが、今は仲間だ。

 

「ってか、ぽるぽるもいんじゃん」

 

 更に先にポルカを発見。

 クリア者は現在この3名。

 この様子から、やはり入りの順番や能力、実力の差はクリアに影響しないと見ていい。

 

 ただの内部構造の運。

 

「何してんの?」

「……?」

 

 まつりやあくあの会話も聞こえたろうに。

 何故ずっと、同じポーズを取って動かない。

 まつりが近寄ろうと歩みを進め、あくあも漸く姿を現し、首を傾げる。

 

「ぽるぽる?」

 

 ガンっ!

 

「びゃぁ!」

「っ――!」

 

 2人の目前に、突如道路標識が降ってきた。

 まつりより距離のあったあくあの方が反応が大きい。

 そしてまた消える。

 

 降ってきた道路標識は赤と白で構成され、「止まれ」と書かれた逆三角形標識。

 

「どうしたの? ねえ、ぽるぽる?」

 

 まつりの問いかけにもやはり無反応で不動。

 標識が一度消え、もう一度降って来る。

 コレは……。

 

「ポルカちゃんの能力……だよね?」

「多分……」

 

 ポルカが止まれと指示を出している。

 そこまでは察しがつくが、何も情報がない。

 ポルカが動かない、という事が最大のヒントであることは確かだ。

 

「――! まつりちゃん」

「ん?」

「あれ……」

 

 あくあがまつりの服の裾をちょいちょいと引いた。

 そして落下した標識の少し先に視線を向けた。

 そこには特別目を引く物はない。

 だが、不自然が存在している。

 

「……あくたん、水出せる?」

「うん」

 

 不自然が共有され、今度は仮説を証明させるために動く。

 あくあがポルカの方へ水を放出させると――

 

「……嘘でしょ」

「こんなん……」

 

 水の流れが停止し、宙に浮く。

 そう、標識が落下した影響で起きた砂塵も、妙なポーズを取るポルカも、その領域に踏み得れた途端に、動けなくなった。

 

 つまり、この先の荒野は――

 

時間停止(タイムストップ)領域(エリア)

「――」

「出たな変質者」

 

 上空に突如出現するシステマー。

 相変わらず高みの見物か。

 

「ラビリンスをファーストクリアしたラッキーガールにプレゼントするこのアンラッキー」

 

 最速クリアしたポルカは何も知れず直進し、次なるシステムにかかる。

 後続はその異変を察知し止まるが、突破口を見出せず立ち往生。

 では次の段階へ。

 

「クリアできないゲームはナンセンス、てなわけで、システムプラスだ」

 

 まつりとあくあよりやや後ろに、新たな機械が出現した。

 手形のついた認証装置。

 

「だれでもいい、そのマシンにプットオン、すれば30秒だけこのエリアのシステムがダウンする」

「……本当に?」

「イッツトゥルー。ウソはつかん」

 

 動けないポルカ、陰キャ発動で隠れるあくあ。

 まつりが情報を引き出す為に対話する他ない。

 言葉に嘘偽りはなしと言うのなら、綾があるはず。

 

「なら……あれを使った時に起こる事、全部教えてよ」

「いやだ」

「――チッ」

 

 アイドルラインを易々と超える舌打ち。

 クソゲーの参加者を高みの見物とは、コイツもアイツも腹が立つ。

 

「いやならUターンしてルートチェンジすればいい。盛大なタイムロスだがな」

 

 それが外れ択な事は織り込み済み。

 そんな顔をしている。

 結局、例えゲームオーバーになるとしても、この認証装置を使う以外の選択肢はない。

 

「――⁉︎ システムスルー? 誰だ……2人? 中央だと⁉︎」

「――‼︎」

 

 唐突に大量のホログラムを展開し操作と確認。

 莫大な情報を1秒ほどで把握し、アンサーを出す。

 中央はまずい。

 そこにはAZKiとかなたが――!

 

「ラストにスペシャルヒントだ」

「――は?」

「適度に人を待つがいい」

「あ、待て! ほら、こっち来いよ! ぶっ飛ばしてやるからさ!」

 

 ヒントを吐き捨てて、システマーは中央の密林ルートへ向かった。

 まつりの挑発に耳を貸さず、イレギュラーを潰しに。

 

「まずい、色々まずい!」

 

 突破口が相手の望む選択しかない事然り、中央組に気付いた事然り、既にポルカが罠にかかっている事然り……。

 

「使う? あの装置」

「いや……使うにしてももう少し人を待って――」

「どしたん?」

「――‼︎」

 

 再出現し、まつりと会話を始めたかと思えば、不意打ちに再三姿を消す。

 出たり消えたり、陰キャも大変だ。

 

「ラミィちゃん」

「アキちゃんもいまーす」

「おお!」

 

 ラビリンス突破者が加えて2名。

 頰などに擦り傷などはあるが、どちらも治療を要するほどの大怪我は負っていない。

 きっと、本番はここからだ。

 

「なるほどねぇ〜」

 

 まつりは簡潔に2人に状況を説明した。

 アキロゼの軽い相槌にラミィも合わせる。

 

「確かに決定打に欠けるメンバーだしね」

 

 ここで一度の危険を冒して突破させるにはやや実力が不釣り合い。

 素で闘えるラミィはまだしも、他4人は能力ありきのバトルになる。

 せめてあと1人、スキルを持つ人間が来れば……。

 そら、ロボ子、メル、シオンの誰かが……。

 

「あ、結構いる」

「わためぇ!」

 

 更に1人。

 そして待つ事2分。

 

「あ、みんな!」

「やほー、クリアしたよー」

 

 メルとロボ子も続けてクリア。

 

「これで残るは3人か」

 

 主力メンバーのシオンとそら、そしてラビリンス最初の挑戦者、すいせい。

 ここまで待ったらなら、もう最後まで待つか。

 いや、来ない可能性すら……。

 どうする。

 スキル持ちは3人になった。

 もう危険を冒すには十分な人材。

 

 だが、これだけ集まると別の問題も発生する。

 それは、誰が装置を使うか問題。

 

 ペナルティ発生を考慮すれば、最も危険が高いのは間違いなく使用者本人。

 ホロメンがそれを押し付け合う事はまず無い。

 起こるのは、むしろ争奪戦。

 

「もう使おうか」

「――――」

「なら私が――」

「その前に!」

 

 まつりの切り出しと同時に複数名が挙手をする。

 強い能力、弱い能力、スキルの有無、それらは一切考慮されていない。

 このゲームで情を扱う事は、全滅の確率を上げる事。

 だから冷酷に指揮する指導者がいる。

 それを、まつりは買ってでた。

 

「ラミちゃん、ろぼち、メルメルは使用禁止」

 

 理由は明確にスキルの有無。

 能力ありきのメンバーはシオンがゲームオーバーになって闘えるのかという疑問が浮かぶ。

 ここでデバフを受けるわけにはいかない。

 正直まつり自身が使用したい。

 だが、自分勝手はできない。

 もっと徹底的に、冷酷に……。

 

「あくたんとアキアキの能力は凡庸性が高いし、ポルポルは動けないから、選択肢はまつりと……」

「わため、だね」

 

 まつりの絞り込みを受け入れるように真摯な瞳と声で、自分の名を挙げた。

 いつもの温和な声は消滅し、まるで死を覚悟したような目をしている。

 

「どんなデバフやトラップが発生するか分からないけど……どうする?」

「わためでいいよ」

「……その心は?」

「この状況と、能力の実用性、かな」

 

 こんな展開で、臨機応変に且つ冷酷に分析して判断できる存在。

 それはこの先も必要だ。

 更にわための突進という能力は、言わば足が速いだけ。

 走り回る広大な土地はあれど、今回のシステムのような見えない障壁は今後幾らでもある。

 そうなった時、結局無闇に使えない能力。

 わための力は既に死んだも同然。

 

「それに、万が一避けれる何かなら、わためは早く動けるから、避けてみせるよ」

 

 ワンチャン回避を狙って。

 と言うが、それは0割だ。

 無い可能性。

 

「ほらみんな、走る準備」

 

 わためが認証システム装置の前に立ち催促する。

 それに合わせて、暗い顔のままシステムラインギリギリに立つ。

 マラソン競走のスタートのような光景。

 精神と状況が、まるでマッチしていない。

 それが余計に気持ち悪い。

 

「いつでもいいよ」

 

 まつりだけ、装置の少し後ろで屈んで待機する。

 地面にはS.S.Sと書かれ、この先に進むと動けなくなる。装置を使うと30秒だけ通れるけど、

 と書かれていた。

 その先はわためが装置使用後に書き足す予定だ。

 そして可能ならわための足を借りて突破する。

 

「いくよ」

 

 わための右手がシステムに触れた。

 ホログラムがその手をスキャンするとピコピコと電子音が鳴った。

 

『認証中……角巻わため、失格』

「え?」

 

 認証完了とともに停止システムがダウン、そして――角巻わためが消えた。

 強制ゲームオーバー。

 

「走れ‼︎」

 

 まつりの号令で全員が全力疾走。

 まつりも急いでこう書き足す。

 『使ったら死ぬ』と。

 

 指が痛い。

 地面擦ったから、少し皮が剥けた。

 でも関係ない。

 走らないと。

 あれ、でも、どこがシステムラインだ?

 スタートは、あくあの水でラインを割り出せたが、ゴール地点が不明だ。

 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ。

 これ、全員突破できなくね。

 ヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイヤバイ。

 後何秒?

 時間がない。

 

「くっ!」

 

 最後の最後。

 スタートの遅れたまつりは、皆より数歩背後にいる。

 バチを抜き取った。

 ダメだろ。

 ここで全員抜けなきゃ。

 地面に飛び込み、身体を半回転、地面にバチを打ちつけた。

 花火の爆発で、まつりの体は進行方向へ吹き飛ぶ。

 自分が叩きつけた犠牲を、自分が無駄にしたら、死にたくなる!

 

「来ちゃダメ‼︎」

「――‼︎⁉︎」

 

 誰かが叫んだ。

 え、何で?

 身体は宙に浮いている。

 もう、後には引けない……。

 

「だわっ……!」

 

 吹き飛んで、着地もできずまつりは地面を1メートルほど滑走した。

 様々なところが焼けた。

 痛い。

 痛いけど、心はもっと痛い。

 

「いっててて……」

 

 あれ、喋れる。

 動ける……。

 血も出てる。

 

「突破して――」

 

 顔を上げた。

 その前で、突破したメンバーが絶句していた。

 視線はまつりの後方やや上。

 そっと、祭りも振り返ると――

 

「――! すいちゃん!」

 

 停止システムの中で、星に跨るすいせいが美しく停止していた。

 まるでそれは、美麗イラストのように……。

 

「タイミングが悪かった! クッソ!」

「やっぱりみんなを待ってれば……!」

 

 なぜ待たなかったのか、と聞かれれば答えづらい。

 焦燥から、冷静でなかった。

 待つことが、焦ったいと思ってしまった。

 

 臨機応変に冷酷な判断が下せるだと?

 これで?

 ふざけんな!

 バカか!

 

 あの状況、待つ一択だった。

 後続がすいせい、シオン、そらの強力メンバーだ。

 つまり、その3人を残すと言う事は、強者を1人失うと言う事。

 わためが消えた瞬間、まつりが取るべき行動は、あの場で他3人を待つ事だった。

 それが最も賢い選択だった。

 でも、走った。

 

 皆が挙手するから、指導者を買って出たが、まつりは別に頭が良くない。

 何もかも、間違いだらけだった。

 

「……みんな行こう」

 

 奥歯を噛み締めまつりは表面上の冷酷を継続した。

 

「ここからじゃどうしようもない。解放する方法は、一つだけ浮かぶ」

「あ――」

 

 だが、これだけは間違いない。

 断言できる。

 

 標的は定めた。

 

「システマーっつったか。アイツを殺す」

 

 ゲームクリアへと通じる憎悪を、手に入れてしまった。

 

 

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