歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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95話 紡いだ希望

 

 ラビリンスを突破した先にあったのは荒野だった。

 その荒野にポツンと佇む謎の機械と、空中で星に跨り静止しているすいせいがある。

 あたかも2番目の突破者のように錯覚したそらは、すいせいの方へ駆け寄った。

 

「すいちゃ――」

 

 その僅かな歩幅の範囲内で、地面に書かれた文字を発見し、踏み止まる。

 文字を読んで止まったのではなく、読むために止まった。

 普段の鷹揚さなどは振り捨てる。

 それが今後の展開を左右する一手などとは露とも思わず。

 そして、文字を読み、大方理解した。

 

 装置の存在理由と停止したすいせいの因果関係。

 誰かがゲームオーバーになったと言う推定の事実。

 そして、そらたちは後続のメンバーである事。

 

「どうしよう……もう、2人だけなのかな……」

 

 ラビリンス突破者が書いてない。

 残りのメンバーも。

 もし、そらで最後なら、そらが装置を使用してすいせいの道を拓く以外、文字通り道はない。

 唐突にそらは剣呑さに心が揉まれる。

 だが、一つだけ気になるのは……。

 

「S.S.Sって……何?」

 

 ホロのオリ曲がパッと頭に浮かぶ。

 何となく脳内で歌ってみる。

 

「点はつかないよね……」

 

 曲を示すならsssかSSSと記す。

 ドットが付随する意味は。

 

「S……S……さしすせそ……」

 

 同じ場所をグルグル巡回し、立ち止まり、すいせいの背中を眺める。

 

「そら……すいちゃん……!」

 

 答えは直ぐに出た。

 Sは名前の頭文字。

 これは、未クリアのメンバーを示している、と予想。

 なら、あと1人のSは――

 

「シオンちゃんだ」

 

 ラスト1人は意外も意外な紫咲シオン。

 彼女がいるなら、待つ。

 奇抜な案が出るかも知れない。

 案がなくとも、シオンの突破は必須だ。

 

 幾らでも待つ。

 その腹積りで待つ事僅か1分。

 

「随分遅くなった――!」

 

 汗だくのシオンが肩で息をしながらクリアゲートを潜った。

 開ける視界の先に、2人の影と1つの不純物があることに気付くのは早い。

 滅多に会話をしない相手、そら。

 他に人も居らず必然的に目が合った。

 

「お疲れシオンちゃん」

「お疲れ様です」

 

 そらの労いに他人行儀な返答をする。

 借りてきた猫のようだ。

 だが、その態度ではいられない。

 シオンは常にキーパーソン。

 途絶えない汗を拭い、小走りに駆け寄った。

 

「どうしたらいいかな……」

 

 地面の文字を見せ、状況を説明。

 これからの策を乞う。

 

「……すいちゃん! 聞こえる?」

 

 シオンは声を張り上げてすいせいを呼んだ。

 当然動けないので返事もできない。

 

「聞こえたら何かして!」

 

 瞬間――星が現れた。

 動かない小さな星屑だ。

 

「聞こえてるね」

「……」

 

 シオンの強引な確認方法にそらは唖然としていた。

 だが、シオンが調べたいのは、聞こえるか否かではなく、あの空間で能力が使えるか否か。

 使えるのなら選ぶ策は一つ。

 

「シオンとすいちゃんの場所を入れ替えます」

「え⁉︎ でも、そんな事しても先には――」

「進めますよ。すいちゃんの能力で星に乗って、中央の森を越えて右ルートを通ればいいんですよ」

「え、あ……」

 

 右ルートの造りは不明だが、分岐させるなら構造は異なるはず。

 同じギミックを立てるのはゲームとしては駄作になる。

 

「でもだったら、私とすいちゃん入れ替えた方が……」

 

 シオンが犠牲になる理由がない。

 そらの歌姫の力は本物か真偽不明で、他には戦う力がないのだから。

 懐疑的な力よりも、絶対的な力を。

 

「……実は魔力が枯渇気味で、あまり戦えないんです」

「そうなの?」

「はい……裏世界の時の、反動が来てて……」

 

 シオンの貴重な敬語に苦笑を堪えながら、そらは首を傾げた。

 確かに、ラビリンスだけでここまで汗はかかない。

 だが反動って……?

 魔力不足でどうこうとは聞いたが……。

 

「あの空間は動けない、いわば無敵空間」

「でも……動けないんじゃ……」

「だから今試したんですよ。あの中でも魔法とかが使えるのか」

「なるほど!」

 

 シオンの発想の転換に目を輝かせ、食い気味になるそら。

 シオンは数歩後退した。

 

「シオンがいなくなると、皆が能力を上手く使えなくなるから、この無敵空間を逆手に取って制御に専念します」

「分かった」

「このこと……できれば誰にも言わないでください」

「……うん、黙っておくね」

 

 最後に関しては、疑問に思いつつも、理由は聞かず承諾した。

 多分、ホロメン特有のプライドと杞憂封じ。

 

「聞こえてたかも知れないけど、すいちゃんにも説明お願いします」

「うん、任せて」

「それと――」

 

 シオンは一瞬躊躇した。

 これは言うべきか。

 自覚しておく必要があるが……果たしてシオンがこの場で伝えていいのか。

 

 いや、言った方がいい。

 今回みたく、シオンと自分を天秤にかけて、シオンを選んで欲しくない。

 自分がもっと、偉大な存在であると、自覚してもらうために。

 シオン含め、強い者の策や案に迎合するのは、このチームの悪い癖だ。

 

「――そら先輩は間違いなく、歌姫ですよ」

「え――?」

「っどぁっ⁉︎」

「きゃっ!」

 

 シオンのセリフを言及する間もなく、唖然として瞬きした途端に2人の位置が入れ替わる。

 目前の低位置にあった銀髪が、一瞬で少し高い青髪に変わる。

 入れ替わった少女は前触れなく前のめりに転倒した。

 停止していたのは彼女に働いていた慣性も同様らしい。

 

 受け身も取れず盛大に転ぶすいせい。

 そらも驚いて悲鳴をあげた。

 

「いったーい……」

 

 棒読みで声を上げながら立ち上がる。

 鼻血が垂れてきた。

 

「……マジで痛い」

 

 遅れて顔面に痛みが走る。

 痺れるような痛み。

 腕や脚、頬に擦り傷ができた。

 痛い。

 かなり痛い。

 

 全身の患部を見回して、状態を確認する。

 

「すいちゃん……大丈夫?」

「だいじょぶだょぉ〜」

 

 高い声で返された。

 大丈夫そうだ。

 

「ええっと、話聞こえてた?」

「聞こえてた」

 

 グッと親指を立て、ウインク。

 瞳の星が輝く。

 今はアイドルでなくてもいい。

 

「行こっか」

 

 星を現出させ、上に跨る。

 停止したシオンを一瞥し、そらと目を合わせた。

 そして、服で手を拭いて差し伸べる。

 その手を、そらはパシッと掴んで、星に乗る。

 意外と悪くない乗り心地。

 

「落ちないように気をつけて」

「うん!」

 

 そらはすいせいにしがみついた。

 すいせいは眩しくニッコリと笑う。

 

「レッツ、殺し」

 

 2人を乗せて、星はルート横断した。

 荒野に1人、紫咲シオンを残して。

 

 

 

          *****

 

 

 

 大陥没した右ルートのとある道中。

 トワの咆哮が空気を震撼させる。

 

「ないす……トワ様……っ……!」

「ぼたんちゃん!」

 

 顔を歪めて笑うぼたんの両腕は、もう機能していなかった。

 腕が破損し、平衡感覚がぶれ始めたぼたんは歩く時でさえ足が縺れる。

 そのぼたんの下へ駆け寄ったのはぺこら。

 急いで肩を貸す。

 最大限の配慮をしながら。

 

「すみ、ません」

「いや、完璧なアシストだったぺこ」

 

 今回ばかりは皆、多少なりとも貢献できたと自負できた。

 嵐のような砂塵も風で流れ、漸く進行路が開けて――

 

「ひっでぇな……」

「「「――‼︎」」」

 

 トワの着地と同時に、陥没した地面の中心から影が起き上がった。

 アレで、生存だと?

 

「不死身かよ……!」

 

 トワが気味悪そうに悪態をついた。

 もう一度、臨戦態勢。

 ぺこらも一度ぼたんの補助から離れ、迎撃準備をした。

 

「仲間だな、ライオン」

「――一緒にすんなよ、1匹粗大ゴミ」

「俺は生きてるっての」

 

 爆心地中央で立ち上がる武闘家の両腕は、肘から不自然に折れ、宙ぶらりんの状態。

 両腕を失ったも同然だが、割に合ってない。

 今のトワの破壊力を、どう防げばその被害で収まるのか。

 

 この状況下でも、武闘家は泰然として口角を上げていた。

 

「脚だけで凌げんのか?」

 

 トワの挑発に、苦笑して頭を抱えた。

 

「キツイかもな」

 

 言質取ったり。

 押し切る。

 

 トワとぺこらは別方向へ飛び出す。

 左右に分かれ、両方向から討つ。

 ぺこらの蹴りが、数秒早く届く。

 武闘家は自由の効かない壊れた右腕をぶつけた。

 右腕の肘から先が吹き飛ぶ。

 

「――⁉︎」

 

 ぺこらの攻撃を受け流すために、右腕を切り捨てた。

 受け流しの勢いをそのまま遠心力とし、右足を軸に回転、左脚でぺこらを蹴る――ような動作で連鎖するトワの攻撃を回避。

 全身を翻し、右脚でトワの腹部目掛け、全力で振り抜く。

 

「ゔぉ――っ!」

 

 右脚は二次関数のような弧を描いた。

 勢いを殺せず、トワは上空へ投げ出される。

 

「キツくないかもなあ」

 

 挑発を返すように嗤笑し、足裏から発火。

 ブーストを行い宙へ躍り出ると、トワに次なる蹴りを打ち込もうと全身を捻る。

 

 ここを狙いに来るんだろ、ウサギ。

 

「させねえよ」

 

 武闘家の思惑通り、ぺこらは勢いに乗せて天上への蹴り上げ。

 

「は――」

 

 武闘家の笑みが、闇深くなり、彼の勝利を彷彿とさせた。

 何も掴めないぺこらは、何故か脳裏に走馬灯が過る。

 世界がスローモーションになった。

 

 武闘家の全身から発火音がする。

 ぱち、ぱち、ぱち……って。

 あ、トワが呻きながら手を伸ばしてる。

 待って止まれない。

 勢いってどう殺すの?

 あ、発火が強くなった。

 つか眩し――

 

 ――――――――――――。

 ――――――――――――。

 ――――――――――――。

 

 ドゴォォォォォッッ――――――――。

 

 嘗て無い、大爆撃が起きた。

 

 赤白い光が見えて、身体が吹き飛んで、音がした。

 吹き飛ぶ。自分の叫び声を置き去りにして。

 身体が焼けそう。

 いや、焼ける。

 熱い。

 クソ熱い。死ぬほど熱い。死ぬ。やばい死ぬ。

 

 唯一、そう思えたのはぼたんだ。

 爆心地から最も離れていたぼたんでさえ、喉がかすかに焼け、爆風に揉まれた全身が森の木に激突した。

 中心地にいた2人は――。

 

「――――――――」

 

 何十秒も音が止まず、音が止んでも耳鳴りが止まず……。

 それらが途絶えても、情報処理が止まず……。

 ただ弾ける火の粉と燃え盛る森林を眺めていた。

 空いた口が塞がらず、喉はじわじわと焦がされてゆく。

 

 周囲は、火の海だった。

 

「ぇ――!」

 

 ぺこらの名前を、叫べなかった。

 

「とぁ――さぁ」

 

 トワの名前も叫べない。

 言葉はまだ焼かれてないが、口が震えて……全身が凍えるように震えて、声が……出せ、ない。

 

 腕の痛みが無いほど熱い。

 

 涙が頬を伝い、地に溢れる直前には蒸発していた。

 

 燃える木に肩を預け、爆心地から血眼になって人影を探す。

 ぺこらか、トワか、2人ともか、どちらか、どっちか、どっちか、生きてないのか、なあ、おい、なあおい。

 

「――!」

 

 熱気と涙で幾重にも揺らめく視界の先に、人影が生まれた。

 誰だ。

 まさか武闘家じゃ――。

 真っ先に思い浮かんだのは、アイツだった。

 

「――」

 

 頼む、ぺこらかトワかであってくれ。

 

「いやぁ」

「…………」

 

 声がした。

 絶望した。

 心が死んだ。

 

「ここで使うことになるとは思いもしなかったよ」

 

 影がゆらゆらと迫って来る。

 滅茶苦茶、千鳥足に見える。

 

「圧勝する予定が、差し違えとは情けない」

 

 うそだろ……こんなこと……。

 

「しかも1人は生きてるし」

 

 ぶとうかがぼたんのまえにあらわれた。

 ぜんしんにきずがない。

 うでがおれてない。

 やけどあともない。

 きずがひとつもない。

 

「なんで……」

 

 かいふくとか、そんなやつか。

 

「ゲームでよくあるだろ。特に強い敵だとさ。ほら、複数残機のやつ」

「ああ……ね……」

 

 もうことばがでない。

 

「まあ、俺の残機は2つだ。つまりあと1つ」

「なる、ほど、ね……」

「安心しろって、幹部で複数残機は俺だけだ」

 

 あんしんしたわー。

 すっげーあんしんしたー。

 

「じゃあなライオン」

 

 ああ、うん、じゃあね、みん――

 

「ふんっ!」

「――⁉︎」

 

 ぼたんの身体がふわっと浮いた。

 遠ざかる炎の海の中で土煙が舞う。

 

 誰かがぼたんの身体に触れている。

 もう1人、ぼたんの後ろにもいる。

 誰か2人が……。

 

「あっちゃちゃちゃちゃちゃーー!」

「おいノエル急げ!」

「あっ、あいよー!」

 

 スバルに攫われたぼたん。

 ノエルに殴り飛ばされた武闘家。

 

 スバルの浮遊で3人は炎の通路を突破し、塔への道を突き進む。

 

「遅れた、悪い」

「あっち! あっちい!」

 

 ぼたんを浮遊状態にして担ぐスバルと、走りながら奇怪な動きをするノエル。

 甲冑が熱を吸収して、サウナ状態なのだろう。

 

 後発組が、救助に来た。

 

 フレアを失ったノエル、ルーナを失ったスバル。

 その失墜していく気力の中でも立ち上がり、出会い、ここまで来た。

 そしてぼたんを救った。

 

「……追ってこんね」

「好都合だ、急いで塔へ行こう」

 

 ぼたんは無口になっている。

 スバルとノエルが意思疎通を図り、ルートを進み――

 

 到達した塔の門前広場。

 何も無い草原のような広場。

 まるで、戦闘ステージのような広さ。

 

 そこに集うは、命繋いだ強者ども。

 

 ここが、全ルートの交差地点であり、真のスタート地点。

 

 

 現在、門前広場に立つ者。

 ロボ子、みこ、はあと、アキロゼ、メル、まつり、あくあ、あやめ、ちょこ、スバル、ミオ、マリン、ノエル、ポルカ、ぼたん、ラミィ。

 計16名。

 一足先に、挑戦を開始する。

 

 

「――ァァァァァァァ! 昂る!」

 

 1人の男が城の頂上より飛び降りた。

 遂に動き出す。

 

「俺こそが魔王、ヨロシク、勇者共」

 

 

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