剣士の斬撃でミオとポルカがゲームオーバーとなり、ちょこが致命傷を負った。
スバルがちょこを抱え、ちょこは朦朧とする意識の中で必死に能力で自身の命を繋ぐ。
今現在、唯一の回復役であるちょこは、まだゲームオーバーになれない。
敵味方のワザが入り乱れ、混戦状態のフィールド。
そんなカオスの中に、ぽっと出の覚醒者。
「あー……」
「……船長?」
マリンから放たれる覇気で、皆に重圧が掛かる。
「…………」
「開眼……」
剣士が呟いた。
開眼?
開眼って、なんだ?
「されど無能力。そのオッドアイも、力無くては宝の持ち腐れ。宝を腐らすとは、海賊らしい」
剣士の姿が消滅する。
透過の発動。
どこへ行く?
誰を狙う?
「――」
ああ、すげぇ……見える……。
見える、分かる、感じる。
これがマリンのオッドアイ――。
「――!」
クソ、剣士の位置は分かるのに、運動能力で圧倒される。
迫る攻撃をギリギリ回避することがやっとだ。
「見えとるよ」
「――⁉︎」
マリンの開眼に唯一反応した剣士は、執拗にマリンを狙う。
その背後をあやめが取った。
透過で視覚は使えない。
なら、何故見切ったのか。
剣と刀の交差。
先刻切られた雪辱を晴らす。
「正確には見えんけど、意識すれば気配くらい感じれる」
あやめが長年培ってきた、強敵へのセンサーのような物。
その第六感で見えない敵をも討ってみせる。
あやめが見えるなら、マリンよりも厄介だ。
剣士はすぐさまターゲットを変更する。
――――。
そんな戦場の一角で……。
「ちょっとししろん! 何やってるの」
戦場で座り込むぼたんの腕を引く。
剣士はあやめが止めているが、システマーは自由だし、魔王も結界を壊している。
そして依然、壁は立ちはだかったまま。
アキロゼやメルが何とか破壊しても、抜け出す前に修正される。
皆で力を合わせて、システマーだけでも倒さなければいけない状況下で、ぼたんは戦意喪失したように動かない。
スバルに連れられて来たが、本当に、あれから一歩も、動いていない。
「ちゃんとしなよ! 死んじゃうよ」
「…………」
無理に引いても、もちろん押しても、動かない。
動かない事に力を使っている。
今のぼたんは恰好の餌食。
だが敵は無視を決め込んでいる。
幾ら無防備でも、フィールド内に居続ける限り、敵にとってはメリットになる。
それだけホロメンが条件をクリアし辛いからだ。
ラミィもその思考はできている。
ならぼたんにも、出来ないはずがない。
そんなデメリットを忍んででもぼたんは居座る。
それに対して微かに怒りが湧く。
だが、潜り抜けた死戦を想像すると憂慮が勝る。
右ルートで何かあったんだ。
「何が、あったの……」
「…………」
強引に顎を上げて、視線を合わせる。
「らみ、ちゃん……」
「……!」
掠れた声が出た。
彩度の低い瞳が、潤みながらラミィを見つめる。
「ぺこ、ら……先輩が……。トワ様が……」
「……ん、誰に?」
この場にいない2人の名前が上がり、その先は読めた。
相手は誰だ。
「炎の……武闘家……」
「炎の武闘家だね、分かった」
ここにはいない。
だがラミィは、標的を定めた。
「ししろん起きて」
「…………」
「そいつぶっ飛ばして、仇取るために、ここを突破しないと」
何をするにもここを制覇する必要がある。
ぼたんが動けば戦力になる。
逆に動かなければ、邪魔だ。
自覚しているなら、動くはずだ。
「……うん」
無気力ながらも、ゆらっと立ち上がる。
吹けば飛ぶような佇まい。
どごん……。
「「――?」」
遠方で音がした。
遅れて振動が周辺一帯に伝わる。
どがん、どこん……。
音が近づき、振動が強まる。
何かが――押し寄せる。
「――! 剣士、10番ケアしろ!」
「――? まあ」
システマーが剣士へ暗号化した指示を送る。
呼応した剣士は透過したまま何処かへ走る。
何が起きている!
ホロメンは誰1人展開に追いついて――
「中央ルート! 道を開けて!」
いや、ただ1人……全てを見通す存在――開眼者マリン。
苦手だが指揮を取る。
今この状況変化に対応できるのは、マリンだけだ。
司令塔としてこの場を突破する。
「了解!」
剣士を追うあやめ。
戦えない者は中央の密林周辺から距離を取る。
数秒間で、振動は強まる。
「見えても当たらなければ意味はないですよ」
あやめが剣を振るうが、剣士に命中する事はない。
マリンだろうとぼたんだろうと、見る事は可能だが、当てる事は叶わない。
「これなら当たるんじゃろ?」
駆け込むノエルがメイスを振るう。
名工のメイスはあらゆる能力を無視、阻害する。
剣士の透過も例外ではない。
「俺も混ぜろよ、楽しそうだなぁ」
メイスが掴まれた。
威圧感で感じる正体と、声がマッチした。
魔王に素手で捩じ伏せられる。
「操作できるオブジェクトが少なすぎる……早く来い……」
システマーも妙なことをぼやきながら強者の密集地帯へ。
その背を執念だけで追跡するのはまつり。
はあとの言葉を心に留めつつ、憎悪と厭忌の瞳でバチを握り、追いかける。
「……鬱陶しいよ、ちっこいの」
「テメェほど鬱陶しい奴はいねえよ」
まつりの執拗な追跡に痺れを切らし、システマーは地面を操作し先程のように周囲に針を――
「芸のないシステムエンジニアだこと」
システマーの操作が実現する前に、ラミィが一帯を氷漬けに。
地面を固め、オブジェクト操作を妨害する。
「お前こそ、滑り芸がお得意か?」
氷で僅かに針の出現を遅らせたが、流石に耐久性が低く、地面の突出には耐えられない。
氷は砕け、針があたり一面に拡がる。
氷如きがシステムに対抗はできない。
針に行く手を阻まれ、一部の物は行動不能となる。
相手に先手を打たれれば、凌ぐのは至難の業。
だが、振動もさらに近づき、敵も味方もそれどころではなかった。
どごん、どがん、どどど、どどん。
荒々しい地響きが駆けてくる。
中央ルートで一体何が――
ビシビシっと、密林への道を塞ぐ壁に亀裂が入る。
「ヤッベぇ――‼︎」
中央ルート付近へ集った物が、一斉に散開する。
間も無く壁が崩壊する。
そうしたら、逃げ道ができる。
敵も味方も、そこが狙い目。
いざ――
っす――と、壁をすり抜けて一人の少女が駆け込んだ。
「――! みんなぁ!」
「あずきち!」「AZKi先輩!」「あずちゃん⁉︎」
中央ルートの1人、AZKiが壁を突破してこの広場へようやく到着。
新たにゲームに加わる。
「どうなってるの⁉︎」
誰よりも早く尋ねたのはAZKiの方。
壁に囲まれた一帯と、3人の敵。
状況が飲めない。
「――! それが今大変なことに――」
「ダァああ! 私のプランをクラッシュさせやがってぇ――!」
「「――⁉︎」」
ドガァッ――。
中央ルート封鎖の壁を大破させて、1人の男が乱入してきた。
その容姿はまるで……
「システマー」
「――⁉︎」
次々と投入される情報に処理が間に合わない。
システマーが2人?
どうなっている⁉︎
戦場は大混乱へ。
「では、私は戻る」
「あ、待てコラっ!」
まつりの追っていたシステマーがテレポートで消える。
塔へ戻った。
システマーが消え、システマーが投入される。
あの2人は、同一人物なのか?
「ソードマスター、デビルキング、そいつがスーパーエクストラだ!」
システマーの指示で魔王、剣士と合わせて3人が纏めてAZKiを狙う。
AZKiは止まらず走り続ける。
このまま平原をも中央突破すれば、真っ直ぐ門に直撃する。
AZKiでなければ。
「全員、AZKi先輩に触れて!」
「――あ、なるほどそう言うことね!」
マリンの号令でAZKiも状況把握が完了。
そして一同はなりふり構わずAZKiへ猛進する。
周囲を確認し、半分を過ぎたあたりまで来るとAZKiは急遽方向転換。
3人の強敵を前に立ち止まった。
「みんな! 私に触れて!」
大の字になり、そう叫ぶ。
魔王の拳が目前まで迫っている。
「暴力、ダメ絶対」
「っは、やるぅ」
メルが横から割り込み、軌道を逸らした。
AZKiの開拓は本来、任意の物質を無視するため、攻撃は命中しない。
だが、システマーに追われていた事実がある。
しかも、かなたがいない。
システマーのシステム操作か何かで、攻撃が当たる設計に変更されたのだろう。
魔王は空振りにも関わらず嬉々として笑う。
追撃の回し蹴りがメルの腹を撃ち抜くが、透かして回避。
回し蹴りで発生した風がメルの靄を霧散させる。
メルが形を保てない内にもう一撃拳を打ち込む。
今度は見えないが剣士と同時攻撃。
「だから――」
「させんってば!」
アキロゼとあやめの介入。
自身を強化したアキロゼが拳を両掌で受け止め、剣士の斬撃はあやめの刀が喰い殺す。
ふと足下に不自然な影があると気付く。
上空を見上げればシステマー。
ホログラムを展開しシステムを操作している。
ちょうどAZKiの真上。
「グラビティシステムのプレゼントだ」
高速タイピング。
ラストのエンターキー手前――
ドカンと大爆発。
ホログラムが砕け、システマーが地上へ真っ逆様。
システマーの焦げた視界の先、同じく落下するまつりの姿。
「一矢報いたり」
にっと、悪どい嘲笑を浮かべ地面へ激突――せず、ノエルのナイスキャッチ。
代わりにシステマーが大地へ激突。
この瞬間に――
「すみません!」
「ありがとう!」
マリンとみこがAZKiにタッチ。
開拓の能力の一部と化した2人は門へ直進。
見事にすり抜けて突破。
これで2名がクリア。
「ししろん! 大丈夫⁉︎」
ラミィがぼたんを担いでいる。
いつの間にか再び両腕を壊していた。
原因は先ほどのまつり。
ぼたんのスーパーパワーで、音速花火を放ったために腕が壊れた。
代償こそ大きいが、システマーを負傷させることに成功している。
「このまま抜けるよ」
ぼたんを担ぎ、AZKiの元へ。
その間にいる敵は2体。
だが奴らは今、メル、アキロゼ、あやめに手一杯。
この機を他のホロメンも皆狙っている。
「剣士、システマー。ここで複数人突破されんのはちと癪だ」
「承知です」
野暮な事を呟く。
お遊びは終わりのようだ。
「はっ!」
「ちょまっ――」
――――。
ヒュッ、とアキロゼが吹き飛んだ。
魔王のパワーが格段に上昇する。
もとより人智を超えていたが、さらに凌駕し神の域まで達している。
剣士と刀交えるあやめの背後に周り一発の蹴り込み。
それをメルが捌く――事はできず、メルも吹き飛ぶ。
さらにもう一撃、あやめへ追撃。
あやめも吹き飛ぶ。
これらの動作、僅か2秒ほど。
反射でも追いつけない速度に成すすべなく強者どもが薙ぎ倒される。
「おいシステマー、何してる」
地面に上半身が突き刺さったシステマーを魔王が引っこ抜いた。
普通に生きている。
「早くシステムを作動させろ」
「いやそれが……」
「なんだ?」
「さっきので、システムのパーツがブレイクされて……」
「使えないのか?」
「はい……」
「んじゃせめて、できる範囲でやっとけ」
まつりとぼたんの攻撃が効いていると公言した。
いいぞ。
魔王が強者3人とシステマーにかまけている内に、ラミィとぼたん、ロボ子がAZKiにタッチ。
しかし――
「カモン、アトラクション」
システマーへと吸い寄せられ始めた。
正体不明の引力が働き、人力で進めない。
合わせてそこへ剣士と魔王が駆けてくる。
特に魔王の速度は目で追えない。
瞬きすれば姿は目前に。
「取ってね、2人の仇」
ポンと、ぼたんはロボ子とラミィに後ろ手で触れた。
その瞬間、ぼたんを置き去りに、2人は扉へ一直線。
捕捉した門に、2人が引力を無視して引き寄せられる。
「……取るよ、ししろんの分も」
ラミィとロボ子の突破と同時にぼたんが消えた。
27話より伏線回収――。