ぼたんのゲームオーバー、そしてラミィとロボ子の突破。
広場に残るのは、AZKi、はあと、メル、アキロゼ、まつり、あくあ、ちょこ、あやめ、スバル、ノエル。計10名。
敵は依然、魔王、剣士、システマー1人の計3名。
突破者は4名。ホロメンからすれば少なく、敵からすれば多い。
この戦場でのゲームオーバーは3名。こちらは逆にホロメンからすれば多く、敵からすれば少ない。
しかし、ホロメンがクリアorデスすれば、その分比率の差は狭まり、残された者の突破は難易度が上昇する。
マリンの開眼は詳細不明だが、みこ、ラミィ、ロボ子の3人が突破している事はかなり有益に働くだろう。
「剣士、システマー、ギア上げろー。こっからは突破ゼロ、デス7だ」
「承知」
「オーケー」
この鬼門を潜り抜けてこそ、勝利への道は開ける。
ここで何人が突破できるか。
「――――!」
先程見せた、システマーの吸引力がフィールド全体に働く。
魔王と剣士を除く、フィールド上の生命体がシステマーへと吸い寄せられる。
もう1人のシステマーとは打って変わって、無形物――概念や法則といった固定観念を捻じ曲げるシステムを使ってきた。
この引力から抜け出せるのは、抵抗するパワーを持つ、あやめ、メル、アキロゼの3名のみ。
他は纏めてシステマーの方へ。
「レッドストリングス、蜘蛛の糸」
はあとが全体に糸を張り巡らせる。
蜘蛛の糸のように弱い粘着力を持つ糸がホロメンを絡め取る。
その糸は一つの赤い糸に束ねられ、三強の方へ打ち出される。
「ふぎっ!」
アキロゼが糸をガッと掴む。
幾ら強化したとは言え、1人で7人の体重を支える事はできない。
「おっっっもっっ――――」
「浮力!」
じわじわと引き寄せられる。
それを見兼ね、スバルが即座に自分に連なる全てのものに浮遊を与えた。
重力が消え、体重分の負荷が減ったため、引力との勝負になる。
この力なら、保てる。
「あやめちゃんッ、メルちゃんッ、先、行ってーぇ!」
「そんな事、できないよ!」
アキロゼの叫びをメルは拒絶。
主に感情的な意味が強い。
だが、物理的にも結局できない。
システマーが今8人を止めている。
なら、あやめとメルには、魔王と剣士がつく。
タイマンになると、敵うどころか逃亡すら困難。
しかも、引力は変わらず働いている。
抵抗可能とは言え、動きの質への影響は絶大だ。
「アイツを何とかしないと」
まつりが言葉よりも先に行動する。
言葉を発した時にはもう、彼女は糸を切り離していた。
「――!」
引力に流されて、まつりはシステマーへ一直線。
抵抗は出来ないが、軸回転くらいはお茶の子さいさい。
バチを抜き、勢いと遠心力に身を任せて――
「汚ねぇ花火になりやが――でっ!」
「ステレオタイプなアタックは、キャッチしやすい」
腕が振り切れる前に、何かと正面衝突した。
痛覚からの反射で目を閉じて、開くと、目前にバリアのような平面上の円が障壁として張られていた。
不意打ちでなければ、まず攻撃は当たらない。
「リフレクションだ」
反射。
だとすれば、今のは2人のまつりが衝突したようなもの。
顔面が痛い。
それでもバチを――
「どっこいしょー!」
「――」
遠近法でまつりの背後に隠れ、引力に流されてきたノエルが、メイスを振るった。
まつりを押し除けてリフレクトバリア粉砕を試みたが、スカした。
同時に全員が引力から解放される。
「ストレートアタックも、デッドゾーンからのアプローチも、オールリフューズ、またはリフレクションだ」
システマーは上空に立っていた。
今の一瞬でテレポートし、回避したようだが、反応速度とシステム操作が早すぎる。
今のメンバーで勝ち切る算段がつけられない。
「そしてリスタート」
システマーが地上へ帰る。
が、場所を変更。そしてもう一度引力が発動し展開が同じになる。
はあとが直様ノエルとまつりを捕まえたが、この状況は数秒と保たない。
「急に意気消沈としたなぁ。群がって強がるタイプって感じだ」
「別に強がっとらん!」
「あー、それはもうつまんね」
「っぐ――」
引力を受けず駆け出す魔王にあやめが立ち向かうが、刀のひとつである阿修羅を掴まれ抑え込まれる。
しかもそのまま――
パキッ、と力のままへし折り、刀を割った。
その亀裂の入る音からカケラが地に舞い落ちる音までの全てが、裏世界での出来事をフラッシュバックさせる。
世界が雑音に埋もれた。
「なんだよ、いい顔できんじゃないの」
「――?」
自分なんて見えない。
自分の表情が分からない。
魔王にとっていい顔って……どんな顔?
何となく、視界は歪んでいる。
「――! 囮に使うとは薄情なインキャだこと」
「――⁉︎」
魔王が撃ちかけた拳を寸前で引き、引力の中心と化すシステマーの元へ超速で走った。
疾風迅雷なんて言葉が生ぬるいほどの速さは、常人の目には止まらない。
魔王が何かを捕まえた。
その弾みで被り物が外れ、姿が現れる……。
「あくたん!」
「気配まで消してんのは有能だと思うが、俺にとっちゃ剣士と変わらんな」
気配察知で人間を感知するあやめですら、帽子の気配削除は察知できない。
それを魔王は初見で見破る。
的確な位置まで見えていたようで、完全に首を片腕で掴み上げられた。
少しずつ力を込め、首を絞めていく。
「ぁ……!」
喉が塞がり、呼吸ができなくなる。
酸欠は1秒で始まり、3秒ほどで脳の処理速度が低下を始める。
10秒ほどで意識が朦朧とする。
「ぅぇ……ぁぁ……‼︎」
右手の先からほんの僅かに水が垂れた。
「――! 離せ!」
「失礼」
「っ!」
あやめが遅れて魔王を追うが、剣士に阻まれる。
いまだに引力は働く。
もう一度、ノエルが糸を千切り、引力に乗ってシステマーの元へ。
メイスを振り翳す。
「「――⁉︎」」
空中へテレポートした。
つまり、一瞬引力が消滅する。
「いっけぇぇ!」
「どぁああ!」「いやっ!」「きゃっ!」
負荷がゼロになった途端アキロゼが塔へ紐ごと放り投げた。
そのまま門を潜れ!
まつりが花火を起こして煙幕を張る。
一帯に煙が蔓延して、誰も周囲が見えない。
「バキューム」
その渦中でも、システマーは地面のどこかにテレポート。
再び引力が働き、投げられたメンバーはシステマーの方へ逆戻り。
煙もしばらくかけてシステマーに吸われ、視界が晴れる。
もう一度、アキロゼが紐を引き、展開もまた逆戻り。
あくあも未だに首を掴まれ、もう意識が昏倒している。
「――‼︎ ッチ!」
「っご、ほっ! ぉっ! ぇぁっ、ごぼっ……!」
「――⁉︎」
魔王があくあを投げ捨て、どこかへ向かおうとする。
「3秒、付き合ってよ」
「――! おま、どこから」
「霧や靄は、感知できないもんね」
魔王を僅か数秒メルが引き留めた。
どうだ、この一連の流れ。
ああ……完璧だ。
ノエルの飛び出し、アキロゼのハンマー投げ、まつりの煙幕、はあとの糸、スバルの浮遊、メルの足止め――。
全てはこの一撃のために。
「ッッ――!」
「だぁぁぁぁぁっっっ!」
天上から一撃、スバルがメイスを叩き込んだ相手は――システマー。
攻撃ヒットまで気付けなければ、なす術なく喰らう。
頭をカチ割る、全身全霊の一撃に、大地が激震し、人々は震撼する。
この一撃のカラクリはこうだ。
ノエルが飛び出して引力を止める。
その際、ノエルのメイスには予めはあとの糸を繋げておく。
引力停止後アキロゼが塔にメンバーを投げ、まつりが煙幕を張る。
煙幕で視界が曇っている隙に、糸を伸縮させてメイスをスバルの手へ移動。
引力発動と共にスバルのみが超高所へと浮遊。
本来であれば、これでクリアだが魔王は人を察知する。
だから足止め役がメル。
あくあの気配殺しは利かないが、メルが生物の形を崩せば、流石の魔王も感知できないと、事前に実験済みだった。
これを、一同はアドリブで行った。
お前らにできるか、この連携が。
「……はぁ」
魔王の嘆息が聞こえた。
「気分いいか? お前ら」
地面にめり込んで気絶したシステマーを横目に問う。
1人の幹部を倒して、いい気になってるなよ、と威嚇を込めて。
だと思った。
皆、怒っているのだと思った。
「言っただろ、ギアあげてんのよこっちは」
「と言う事で――御免」
ビシャァッ――と鮮血に塗れた。
「「…………」」
微かな煙幕の中、一塊になっていたホロメン。
AZKi、はあと、まつり、アキロゼ、ちょこ、あやめ。計6名。
今この瞬間、剣士の納刀と共に斬撃が炸裂した。
空にいたスバル、大きく離れていたノエル、霞と化していたメル、魔王に捕まっていたあくあは難を逃れたが、他全員は生身で喰らえば死に至る一撃。
アキロゼ、あやめの2人は強化された肉体が威力を抑えたが、一般女性4名が耐えられるはずもなかった。
AZKi、はあと、まつり、ちょこ――4人、消滅。
「は……ぁ?」
脳内が混線している。
システマー1人を潰し、リードが取れたと錯覚した途端、4人の脱落と2人の重症。
ウソだろ……。
「あと6人だけどよ、もう突破口ねぇんだろ」
「は……? ぇ、ぁ……!」
魔王の一言一言で、少しずつ現実として受け入れる。
残りが6名である事。
そしてAZKiの脱落により……塔への侵入が不可能となった事。
「お前らも全員、ここで終わりだ」
「は……? な、言ってんだよ……」
ルールが――話が違う。
「ルールは守るって。でもいいか、今あんたらん中にいた唯一のヒーラーも落ちたんだ。つまり、このままギリギリ殺さん程度に負傷させて放置すれば、いずれ全員死ぬ。6人の生存状態を維持する事は簡単だ」
この挑発に、とある2人の反応と判断は素早い。
「それとも――」
ノエルがあやめへ、メルがアキロゼへ飛んでゆく。
「自殺すっか?」
「「ダメ――‼︎」」
2人の即決を許さない2人が何とか押さえつけて自害を阻止。
あやめの刀と腕を押さえ、アキロゼの両腕を押さえる。
「ギアアップは継続中ですので、問答無用に」
半仲間割れ状態の中、剣士が再び消え、風と一体化する。
4人が纏まりいい的だ。
回避不能とも思える態勢だが、この4人なら何とかなる――
「あくあ!」
自身が格好の餌食だからこそ、まさか他を狙うとは思うまい。
標的があくあとスバルである事を直感したのはスバルだけ。
浮遊を駆使してあくあをタックルで弾こうとしたが……
「サシのシチュで遅れを取るとでも?」
「っガッ――‼︎」
魔王の重たい拳がダイレクトにヒット。
目にも止まらぬ速度で壁へ吹き飛ぶ。
「スバル――」
「はい、斬りました」
「っ――」
「残り5人」
あくあまでも、剣士の一太刀を浴び、倒れた。
数秒程、死の淵で争ったが、抵抗も虚しく、消失した……。
「あー……しまった……」
「ん?」
「あの陽キャ、場外まで飛ばしちまった」
一撃で多大なるダメージを負うも、生存したスバル。
壁を突き破り、場外で倒れていた。
悪運強く、奇跡的にもクリア。
「では、残り4で」
剣士の振り向きに走馬灯が巡る。
その走馬灯を破壊して、脳内で生存法を探っていた。
魔王の言い分が通るなら、剣士の力で4人まとめて屠れる。
元より彼らにルールは有って無いもの。
ここで4人が死ぬくらいなら、3人を生かすべきである。
「余を切れ! 斬らせろ!」
「待ってあやめちゃん!」
「待つ暇なんてない!」
「でもそれは――」
「アキロゼを斬って!」
「それはできない!」
「誰かを斬れ」
「早く!」
「出来ない!」
「やれ!」
「どっちか選べ!」
「無理だって!」
「早くしろぉ‼︎」
押し問答。
互いを尊重し合う愚かな情が、死を招く。
向かい合うからこそ見える表情。
4人とも怒り、そして泣いていた。
「「クッソガァ‼︎」」
仲間への横暴を良してせず、躊躇っていたが、背に腹は変えられない。
ここは目を瞑ってくれ。
あやめとアキロゼは同時に、枷であるノエルとメルを全力で投げた。
――――――――――――――――――。
全てが交差した。
アキロゼが魔王に襲いかかり、あやめが剣士に襲いかかる。
敵も同様に。
そして、決着する。
かた……かたかた……と、鉄の震える音が鳴り響く。
剣士の納刀しかけた腕が、痙攣している。
いや……腕だけに収まらない。
脚も、胴体も……全身が凍えるように、怯えるように、震えている。
震えて、身体が動かせない。
納刀できず、斬撃が発動しない。
「剣士……?」
剣士の武者震いに魔王は眉を顰めた。
が、次の瞬間――
「ゔっ――」
「おっぁ――!」
2人の傷口に魔王の拳が炸裂し、2人の流血が勢いを増す。
ほんの数秒で致死量が流れ、2人はゲームオーバーとなった。
ポタポタと地面に雫が数滴垂れた。
快晴で固定された空からではなく、空中を飛ぶ、ノエルとメルから。
涙が溢れた。
「……ごめん」
2人にとっては不本意であり、後悔の残る締めだが……ミニゲームは終わった。
「……はあ、しまいだなぁ。結局あんま動いちゃいねぇが、まあ構わねぇか」
魔王がズシズシと剣士に歩み寄る。
ドンっと軽く?背中を叩くと、剣士の肩がビクッと跳ね、痙攣からの硬直が解かれた。
「俺は戻るぞ」
「…………はい、申し訳ない」
「面白いもん見れただけマシさ」
小さな会釈に鼻で笑って返す。
そして消える。
すると、周囲の壁が雪崩れるように完全崩壊し、地面の底へと溶け込んでいった。
「私は武闘家でも探しに行きますか……」
剣士も森の方へと姿を消して行く。
「…………」
ノエルとメルは、気絶したスバルの側へ舞い降りた。
「ありがと、メル先輩」
「ん……」
倒れるスバルを見ても、表情が変化しない。
軽くスバルを揺すってみた。
呻き声を漏らす。
……これから、
「どうしよっか……」
――ゲームは、刻々と終盤へ向かって行く。
流石に良くないと考え直し、題名変更しました。