歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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98話 ジェノサイド

 

 ぼたんのゲームオーバー、そしてラミィとロボ子の突破。

 広場に残るのは、AZKi、はあと、メル、アキロゼ、まつり、あくあ、ちょこ、あやめ、スバル、ノエル。計10名。

 敵は依然、魔王、剣士、システマー1人の計3名。

 

 突破者は4名。ホロメンからすれば少なく、敵からすれば多い。

 この戦場でのゲームオーバーは3名。こちらは逆にホロメンからすれば多く、敵からすれば少ない。

 

 しかし、ホロメンがクリアorデスすれば、その分比率の差は狭まり、残された者の突破は難易度が上昇する。

 マリンの開眼は詳細不明だが、みこ、ラミィ、ロボ子の3人が突破している事はかなり有益に働くだろう。

 

「剣士、システマー、ギア上げろー。こっからは突破ゼロ、デス7だ」

「承知」

「オーケー」

 

 この鬼門を潜り抜けてこそ、勝利への道は開ける。

 ここで何人が突破できるか。

 

「――――!」

 

 先程見せた、システマーの吸引力がフィールド全体に働く。

 魔王と剣士を除く、フィールド上の生命体がシステマーへと吸い寄せられる。

 もう1人のシステマーとは打って変わって、無形物――概念や法則といった固定観念を捻じ曲げるシステムを使ってきた。

 この引力から抜け出せるのは、抵抗するパワーを持つ、あやめ、メル、アキロゼの3名のみ。

 他は纏めてシステマーの方へ。

 

「レッドストリングス、蜘蛛の糸」

 

 はあとが全体に糸を張り巡らせる。

 蜘蛛の糸のように弱い粘着力を持つ糸がホロメンを絡め取る。

 その糸は一つの赤い糸に束ねられ、三強の方へ打ち出される。

 

「ふぎっ!」

 

 アキロゼが糸をガッと掴む。

 幾ら強化したとは言え、1人で7人の体重を支える事はできない。

 

「おっっっもっっ――――」

「浮力!」

 

 じわじわと引き寄せられる。

 それを見兼ね、スバルが即座に自分に連なる全てのものに浮遊を与えた。

 重力が消え、体重分の負荷が減ったため、引力との勝負になる。

 この力なら、保てる。

 

「あやめちゃんッ、メルちゃんッ、先、行ってーぇ!」

「そんな事、できないよ!」

 

 アキロゼの叫びをメルは拒絶。

 主に感情的な意味が強い。

 だが、物理的にも結局できない。

 システマーが今8人を止めている。

 なら、あやめとメルには、魔王と剣士がつく。

 タイマンになると、敵うどころか逃亡すら困難。

 しかも、引力は変わらず働いている。

 抵抗可能とは言え、動きの質への影響は絶大だ。

 

「アイツを何とかしないと」

 

 まつりが言葉よりも先に行動する。

 言葉を発した時にはもう、彼女は糸を切り離していた。

 

「――!」

 

 引力に流されて、まつりはシステマーへ一直線。

 抵抗は出来ないが、軸回転くらいはお茶の子さいさい。

 バチを抜き、勢いと遠心力に身を任せて――

 

「汚ねぇ花火になりやが――でっ!」

「ステレオタイプなアタックは、キャッチしやすい」

 

 腕が振り切れる前に、何かと正面衝突した。

 痛覚からの反射で目を閉じて、開くと、目前にバリアのような平面上の円が障壁として張られていた。

 不意打ちでなければ、まず攻撃は当たらない。

 

「リフレクションだ」

 

 反射。

 だとすれば、今のは2人のまつりが衝突したようなもの。

 顔面が痛い。

 

 それでもバチを――

 

「どっこいしょー!」

「――」

 

 遠近法でまつりの背後に隠れ、引力に流されてきたノエルが、メイスを振るった。

 まつりを押し除けてリフレクトバリア粉砕を試みたが、スカした。

 同時に全員が引力から解放される。

 

「ストレートアタックも、デッドゾーンからのアプローチも、オールリフューズ、またはリフレクションだ」

 

 システマーは上空に立っていた。

 今の一瞬でテレポートし、回避したようだが、反応速度とシステム操作が早すぎる。

 今のメンバーで勝ち切る算段がつけられない。

 

「そしてリスタート」

 

 システマーが地上へ帰る。

 が、場所を変更。そしてもう一度引力が発動し展開が同じになる。

 はあとが直様ノエルとまつりを捕まえたが、この状況は数秒と保たない。

 

「急に意気消沈としたなぁ。群がって強がるタイプって感じだ」

「別に強がっとらん!」

「あー、それはもうつまんね」

「っぐ――」

 

 引力を受けず駆け出す魔王にあやめが立ち向かうが、刀のひとつである阿修羅を掴まれ抑え込まれる。

 しかもそのまま――

 

 パキッ、と力のままへし折り、刀を割った。

 

 その亀裂の入る音からカケラが地に舞い落ちる音までの全てが、裏世界での出来事をフラッシュバックさせる。

 世界が雑音に埋もれた。

 

「なんだよ、いい顔できんじゃないの」

「――?」

 

 自分なんて見えない。

 自分の表情が分からない。

 魔王にとっていい顔って……どんな顔?

 何となく、視界は歪んでいる。

 

「――! 囮に使うとは薄情なインキャだこと」

「――⁉︎」

 

 魔王が撃ちかけた拳を寸前で引き、引力の中心と化すシステマーの元へ超速で走った。

 疾風迅雷なんて言葉が生ぬるいほどの速さは、常人の目には止まらない。

 魔王が何かを捕まえた。

 その弾みで被り物が外れ、姿が現れる……。

 

「あくたん!」

「気配まで消してんのは有能だと思うが、俺にとっちゃ剣士と変わらんな」

 

 気配察知で人間を感知するあやめですら、帽子の気配削除は察知できない。

 それを魔王は初見で見破る。

 的確な位置まで見えていたようで、完全に首を片腕で掴み上げられた。

 少しずつ力を込め、首を絞めていく。

 

「ぁ……!」

 

 喉が塞がり、呼吸ができなくなる。

 酸欠は1秒で始まり、3秒ほどで脳の処理速度が低下を始める。

 10秒ほどで意識が朦朧とする。

 

「ぅぇ……ぁぁ……‼︎」

 

 右手の先からほんの僅かに水が垂れた。

 

「――! 離せ!」

「失礼」

「っ!」

 

 あやめが遅れて魔王を追うが、剣士に阻まれる。

 いまだに引力は働く。

 もう一度、ノエルが糸を千切り、引力に乗ってシステマーの元へ。

 メイスを振り翳す。

 

「「――⁉︎」」

 

 空中へテレポートした。

 つまり、一瞬引力が消滅する。

 

「いっけぇぇ!」

「どぁああ!」「いやっ!」「きゃっ!」

 

 負荷がゼロになった途端アキロゼが塔へ紐ごと放り投げた。

 そのまま門を潜れ!

 

 まつりが花火を起こして煙幕を張る。

 一帯に煙が蔓延して、誰も周囲が見えない。

 

「バキューム」

 

 その渦中でも、システマーは地面のどこかにテレポート。

 再び引力が働き、投げられたメンバーはシステマーの方へ逆戻り。

 煙もしばらくかけてシステマーに吸われ、視界が晴れる。

 もう一度、アキロゼが紐を引き、展開もまた逆戻り。

 あくあも未だに首を掴まれ、もう意識が昏倒している。

 

「――‼︎ ッチ!」

「っご、ほっ! ぉっ! ぇぁっ、ごぼっ……!」

「――⁉︎」

 

 魔王があくあを投げ捨て、どこかへ向かおうとする。

 

「3秒、付き合ってよ」

「――! おま、どこから」

「霧や靄は、感知できないもんね」

 

 魔王を僅か数秒メルが引き留めた。

 どうだ、この一連の流れ。

 ああ……完璧だ。

 

 

 ノエルの飛び出し、アキロゼのハンマー投げ、まつりの煙幕、はあとの糸、スバルの浮遊、メルの足止め――。

 全てはこの一撃のために。

 

「ッッ――!」

「だぁぁぁぁぁっっっ!」

 

 天上から一撃、スバルがメイスを叩き込んだ相手は――システマー。

 攻撃ヒットまで気付けなければ、なす術なく喰らう。

 頭をカチ割る、全身全霊の一撃に、大地が激震し、人々は震撼する。

 

 

 この一撃のカラクリはこうだ。

 ノエルが飛び出して引力を止める。

 その際、ノエルのメイスには予めはあとの糸を繋げておく。

 引力停止後アキロゼが塔にメンバーを投げ、まつりが煙幕を張る。

 煙幕で視界が曇っている隙に、糸を伸縮させてメイスをスバルの手へ移動。

 引力発動と共にスバルのみが超高所へと浮遊。

 

 本来であれば、これでクリアだが魔王は人を察知する。

 だから足止め役がメル。

 あくあの気配殺しは利かないが、メルが生物の形を崩せば、流石の魔王も感知できないと、事前に実験済みだった。

 これを、一同はアドリブで行った。

 

 お前らにできるか、この連携が。

 

「……はぁ」

 

 魔王の嘆息が聞こえた。

 

「気分いいか? お前ら」

 

 地面にめり込んで気絶したシステマーを横目に問う。

 1人の幹部を倒して、いい気になってるなよ、と威嚇を込めて。

 だと思った。

 皆、怒っているのだと思った。

 

「言っただろ、ギアあげてんのよこっちは」

「と言う事で――御免」

 

 ビシャァッ――と鮮血に塗れた。

 

「「…………」」

 

 微かな煙幕の中、一塊になっていたホロメン。

 AZKi、はあと、まつり、アキロゼ、ちょこ、あやめ。計6名。

 今この瞬間、剣士の納刀と共に斬撃が炸裂した。

 

 空にいたスバル、大きく離れていたノエル、霞と化していたメル、魔王に捕まっていたあくあは難を逃れたが、他全員は生身で喰らえば死に至る一撃。

 アキロゼ、あやめの2人は強化された肉体が威力を抑えたが、一般女性4名が耐えられるはずもなかった。

 

 AZKi、はあと、まつり、ちょこ――4人、消滅。

 

「は……ぁ?」

 

 脳内が混線している。

 システマー1人を潰し、リードが取れたと錯覚した途端、4人の脱落と2人の重症。

 ウソだろ……。

 

「あと6人だけどよ、もう突破口ねぇんだろ」

「は……? ぇ、ぁ……!」

 

 魔王の一言一言で、少しずつ現実として受け入れる。

 残りが6名である事。

 そしてAZKiの脱落により……塔への侵入が不可能となった事。

 

「お前らも全員、ここで終わりだ」

「は……? な、言ってんだよ……」

 

 ルールが――話が違う。

 

「ルールは守るって。でもいいか、今あんたらん中にいた唯一のヒーラーも落ちたんだ。つまり、このままギリギリ殺さん程度に負傷させて放置すれば、いずれ全員死ぬ。6人の生存状態を維持する事は簡単だ」

 

 この挑発に、とある2人の反応と判断は素早い。

 

「それとも――」

 

 ノエルがあやめへ、メルがアキロゼへ飛んでゆく。

 

「自殺すっか?」

「「ダメ――‼︎」」

 

 2人の即決を許さない2人が何とか押さえつけて自害を阻止。

 あやめの刀と腕を押さえ、アキロゼの両腕を押さえる。

 

「ギアアップは継続中ですので、問答無用に」

 

 半仲間割れ状態の中、剣士が再び消え、風と一体化する。

 4人が纏まりいい的だ。

 回避不能とも思える態勢だが、この4人なら何とかなる――

 

「あくあ!」

 

 自身が格好の餌食だからこそ、まさか他を狙うとは思うまい。

 標的があくあとスバルである事を直感したのはスバルだけ。

 浮遊を駆使してあくあをタックルで弾こうとしたが……

 

「サシのシチュで遅れを取るとでも?」

「っガッ――‼︎」

 

 魔王の重たい拳がダイレクトにヒット。

 目にも止まらぬ速度で壁へ吹き飛ぶ。

 

「スバル――」

「はい、斬りました」

「っ――」

「残り5人」

 

 あくあまでも、剣士の一太刀を浴び、倒れた。

 数秒程、死の淵で争ったが、抵抗も虚しく、消失した……。

 

「あー……しまった……」

「ん?」

「あの陽キャ、場外まで飛ばしちまった」

 

 一撃で多大なるダメージを負うも、生存したスバル。

 壁を突き破り、場外で倒れていた。

 悪運強く、奇跡的にもクリア。

 

「では、残り4で」

 

 剣士の振り向きに走馬灯が巡る。

 その走馬灯を破壊して、脳内で生存法を探っていた。

 魔王の言い分が通るなら、剣士の力で4人まとめて屠れる。

 元より彼らにルールは有って無いもの。

 ここで4人が死ぬくらいなら、3人を生かすべきである。

 

「余を切れ! 斬らせろ!」

「待ってあやめちゃん!」

「待つ暇なんてない!」

「でもそれは――」

「アキロゼを斬って!」

「それはできない!」

「誰かを斬れ」

「早く!」

「出来ない!」

「やれ!」

「どっちか選べ!」

「無理だって!」

「早くしろぉ‼︎」

 

 押し問答。

 互いを尊重し合う愚かな情が、死を招く。

 向かい合うからこそ見える表情。

 4人とも怒り、そして泣いていた。

 

「「クッソガァ‼︎」」

 

 仲間への横暴を良してせず、躊躇っていたが、背に腹は変えられない。

 ここは目を瞑ってくれ。

 あやめとアキロゼは同時に、枷であるノエルとメルを全力で投げた。

 

 ――――――――――――――――――。

 

 全てが交差した。

 アキロゼが魔王に襲いかかり、あやめが剣士に襲いかかる。

 敵も同様に。

 そして、決着する。

 

 かた……かたかた……と、鉄の震える音が鳴り響く。

 剣士の納刀しかけた腕が、痙攣している。

 いや……腕だけに収まらない。

 脚も、胴体も……全身が凍えるように、怯えるように、震えている。

 震えて、身体が動かせない。

 納刀できず、斬撃が発動しない。

 

「剣士……?」

 

 剣士の武者震いに魔王は眉を顰めた。

 が、次の瞬間――

 

「ゔっ――」

「おっぁ――!」

 

 2人の傷口に魔王の拳が炸裂し、2人の流血が勢いを増す。

 ほんの数秒で致死量が流れ、2人はゲームオーバーとなった。

 

 ポタポタと地面に雫が数滴垂れた。

 快晴で固定された空からではなく、空中を飛ぶ、ノエルとメルから。

 涙が溢れた。

 

「……ごめん」

 

 2人にとっては不本意であり、後悔の残る締めだが……ミニゲームは終わった。

 

「……はあ、しまいだなぁ。結局あんま動いちゃいねぇが、まあ構わねぇか」

 

 魔王がズシズシと剣士に歩み寄る。

 ドンっと軽く?背中を叩くと、剣士の肩がビクッと跳ね、痙攣からの硬直が解かれた。

 

「俺は戻るぞ」

「…………はい、申し訳ない」

「面白いもん見れただけマシさ」

 

 小さな会釈に鼻で笑って返す。

 そして消える。

 すると、周囲の壁が雪崩れるように完全崩壊し、地面の底へと溶け込んでいった。

 

「私は武闘家でも探しに行きますか……」

 

 剣士も森の方へと姿を消して行く。

 

「…………」

 

 ノエルとメルは、気絶したスバルの側へ舞い降りた。

 

「ありがと、メル先輩」

「ん……」

 

 倒れるスバルを見ても、表情が変化しない。

 軽くスバルを揺すってみた。

 呻き声を漏らす。

 

 ……これから、

 

「どうしよっか……」

 

 

 ――ゲームは、刻々と終盤へ向かって行く。

 





 流石に良くないと考え直し、題名変更しました。
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