塔内は静けさに満ちていた。
人も居らず、カラクリ一つなく、防音室で外の音も響かない。
ただ上階へと続く階段が伸びているだけ。
ぼたんのアシストで塔内へ潜り込んだラミィとロボ子。
這いつくばった状態から直様起き上がる。
手に土が付着する。
「……」
ラミィはその土汚れを見つめた。
「……どうする? 待つ?」
「……」
気を伺うようにロボ子は弱々しく尋ねた。
ラミィはキョロキョロと周囲を見回している。
「いえ……進みましょう。2人がいない」
「みこちと船長?」
「2人じゃ、心許ない」
「だね」
広場の戦いは、あの人数差で未だこの突破数。
AZKiがいなければ全滅の可能性が高かった。
そんな彼女の能力も、入塔と共に効果が切れている。
ここに居ても、できる事は何一つない。
「行こうか」
「はい」
ラミィとロボ子と言うレアコンビで階段を登る。
塔がほぼ円柱状なため、階段は螺旋型。
何の妨害もなく、2人は1つ上の階へ。
特に何もない部屋だ。
中央にポツンと椅子があるだけ。
本来あそこには、誰かが座しているのだろう。
「何で誰も居ないんだろ」
「2人で倒したとは思えないし……」
ラミィとロボ子は荒野ルート組。
その目で確認している敵は、目玉、システマーAとB、剣士、そして魔王。
確か幹部は4人のはず。
システマーの正体を解剖できない今、アレらは別人と捉える。
そうすれば、幹部4人と魔王1人で敵は出揃っている。
だが、ラミィはもう1人、知っている。
ぼたんから聴いた、炎の武闘家。
記憶に当てはまるキャラは居ない。
なら、システマーを2人で1人とカウントし、その武闘家が4人目だろう。
まだ広場で戦っているのなら、剣士とシステマー1人、魔王はこの塔にいない。
現在この塔にいる可能性があるのは、目玉、武闘家、システマー1人。
ならばここは、剣士の席だと仮定するが自然。
この仮定に何ら意味はないが……。
「行きましょう!」
「うん」
2階を通過しもう一度螺旋階段を登る。
そして3階扉前。
「――!」「……」「――」
扉越しに声がする。
耳を澄ませても、誰が何を喋っているのかわからないが、言葉を発しているのは1人だけ。
1人が常に一方的に叫んでいる。
頷きあって意を決すると、大きな2枚の扉をそれぞれ一枚ずつ押し開いた。
「っ――!」
『おやおやおやおやぁ〜。いらっしゃぁ〜ぃ』
「「うっ――」」
扉を開くと眩しい照明。
その中で照らされるみこが振り返る。
そして、脳内に声が響いた。
この吐き気を催す感覚……。
加えて、一言たりとも発さない2名の存在……。
『3階はぼくちゃんの部屋だよ』
何処から声がするか分からず、周囲を見回すと、扉の影にいた。
たった一つの目玉が、浮遊していた。
「目ん玉……」
「おかゆんにころね……」
「2人とも気をつけてにぇ! この2人、なんか操られてるっぽいで」
目玉の力を知らないみこが警鐘を鳴らす。
生憎と2人は既にこのクソ能力を目の当たりにしている。
正直、このゲームで最も嫌悪感が湧く相手。
「うん……マインドコントロール、ビーム、テレポート、テレパシー。ほんとに盛りだくさんの野郎だから」
「そっちのルート、なんかあった感じか……」
2人の警戒心の高さや、既知の事実、更におかころが左ルートであったことから、みこでもその仮説に直様たどり着いた。
ラミィとロボ子はそっと頷いた。
『ぼくちゃんのルールだから、文句はなしだよ。それに、君たちの知らないところでもちょーーっとだけ、楽しんじゃってるんだ』
「マジでこれ、気持ち悪りぃ!」
みこが悪態をつく。
ラミィもロボ子も共感しかない。
…………?
「ってかみこ先輩、船長は⁉︎」
目に入る情報だけに気を取られ、目に映らない情報を無視していた。
突破したはずのマリンが、ここにいない。
「マリンたんなら、まだ生きてる、大丈夫」
「……分かった」
そう言うなら。
3人は目玉と向き合う。
目玉がテレポートし、おかゆところねの上に飛ぶ。
誰の手も届かない位置。
そんな所で見物か?
ここの住人はどいつもこいつも高みの見物でムカつく野郎どもだ。
不平等な3vs3の構図が完成する。
『ぼくちゃんは、2人に任せちゃおっかな〜』
目玉は動かず、おかころは姿勢を低くした。
2人の赤い瞳が光る。
来る――
おかころが、床を蹴り、3人に迫る。
誰を狙うんだ。
「ころにぇ!」
パワーのころねとテクニックのおかゆ。
ころねの攻撃は、今のロボ子には重すぎると読み、みこはころねを誘った。
素直に反応し、ころねの拳はみこへ向かう。
パン、と現出した一枚の鏡で攻撃を相殺する。
が、想像以上にパワーがない。
「――!」
遅れてラミィの下へおかゆが辿り着くが、その寸前で姿が変貌した。
咄嗟に氷柱を間に挟み威力を殺すが、氷を突き破って打撃がラミィへ届く。
反射的に構えた腕に大きな衝撃が走り、顔を顰めた。
攻撃に弾かれるように後方へ引く。
「こぉねー! 痛い!」
無駄だと知りつつ、ラミィは痛みを訴えた。
ころねのパンチ力は知っているつもりだったが、喰らうのは当然初めて。
痛すぎる。
『本当に凄いよこの2人』
比較的連携しやすい2人。
その戦闘スタイルと見事なバランスを絶賛する。
「ちょっと黙ってろ」
「こんなつまらん『おかころ』があってたまるかって」
おかころと言う究極のてぇてぇをご存知ないと?
こんな眼球野郎に、2人の真の凄さは測れないし、語れない。
いや、させたくない。
おかころナメんな。
「どうする? このままじゃ、傷付けないなんて無理だよ」
ロボ子が2人聞く。
3対2とは言え、こちらが攻撃禁止となればまず勝ち目はない。
2人には悪いがここは倒すしかないのか。
「でも倒した所で……」
結局また次、誰かが洗脳されればキリがない。
洗脳人数に上限があるのかないのか……。
この層を突破しなければ、クリアは見えない。
「おかゆんの幻影……敵に回ると厄介すぎるで!」
常に虚偽で身を覆い、敵に迫る。
自分以外の存在がいる事で、その力は格段に価値が上がる。
ころねかおかゆか、その2択が戦場では命取り。
目玉も、今でこそ愉快な傍観者だが、いつ参戦するか読めない。
広場の突破率を鑑みれば、もう最上階までに死者は出したくない。
「――!」
おかゆところねが動く。
姿勢を低くしてころねは拳を、おかゆは懐からナイフを抜き出し構える。
「ちょっ! その凶器どっから出した、っ!」
ナイフでみこに切り掛かる。
時折服に刃が通り、切れるが、怪我は負わない。
『システマーに作らせたんだあ〜』
目玉がケタケタと苦笑混じりにテレパスで答える。
うっせ!
黙ってろ!
「…………」
しかし、そうか……。
アイツはオブジェクトを生成する事も可能なのか……。
「こぉね! 無言で殴ってこないで!」
「――。――!」
聞きなれた「ぉらよ」の掛け声もなく、ころねのパンチが放たれる。
マジの顔にラミィは冷や汗が止まらない。
この人、こんなに怖かったっけ?
人間が内に秘めたる悪の部分か。
「…………」
「――!」
ころねの機敏さに、ラミィは次第に遅れを取り始める。
氷を使っても捌ききれない。
みこはおかゆ相手に案外手一杯。
ロボ子が手助けに動こうとすると――
『ダーメ』
目玉がビームで妨害をしてくる。
そのビームでラミィを狙えば倒せるが、そうしないのはゲーム要素として愉しんでいるから。
「――‼︎」
ダメだ、当たる――ころねの一撃が……。
「っ――⁉︎」
外れた。
殆どが瞳孔を開いて、状況処理に時間を要した。
『よく避けたね』
避けた?
ころねが勝手に外しただけだ。
まあいい。
ラッキーに乗じて、奇襲チャンス。
ラミィの手が空けば、遠距離攻撃の幅は無限大に広がる。
「
ラミィの背後に一羽の氷鳥が生まれる。
足が長く、全体的にスマートなスタイル――恐らく鶴だろう。
美しい氷結の鶴が大羽を広げた。
ズダダダダッ――――――
と、天井付近に居座る目玉へ大量の氷羽がヤイバの如く飛来する。
羽は悉く躱され、全てが天井に突き刺さるか、天井に弾かれて砕けるかの運命。
目玉の瞬間移動が早すぎて、攻撃が一発も当たらない。
『ぼくちゃんに加勢してほしいの?』
「――っ!」
突然、ラミィの眼前に目玉が移動してきた。
『2人を倒してからね』
イラっとして、氷塊を放った。
「待って――!」
氷塊は空振り、そのまま背後から迫っていたおかゆに命中しかけた。
が、間一髪、ロボ子が受けることで最小限の被害に収まった。
『あーあ、折角のチャンスだったのに』
謀られた。
死角を利用して相打ち?を狙った。
ロボ子のナイスカバーでおかゆへのダメージは防がれるが、ロボ子の破損が拡がり、更に微かに凍る。
そこへ立て続けにおかゆからの攻撃。
ナイフがさらに傷口を抉る。
「ぐっ――」
「ロボち!」
おかゆを相手取っていたみこは、いつの間にかころねと戦っていた。
ころねを強めに弾いて退け、ロボ子に駆け寄る。
ロボ子の右腕は、複数断線し、バチバチと放電していた。
「すみません!」
「いいの、僕はあまり戦えないから」
ラミィも駆け寄り、謝罪しながら労る。
ロボ子は魔法や銃撃を防ぐ装甲こそあれど、敵を攻撃するような銃火器は何一つ搭載されていない。
「おかゆん――」
みこが弱い攻撃を放って、おかゆを退ける。
直前に名前を呼んだのはきっと、避けろって意味だ。
敵に塩を送る愚行を、どうしてもしてしまう。
おかころを、敵と見做せない。
『ほらほら、早く2人を倒さないと、みんなゲームオーバーだよー?』
目玉が天井付近から挑発してくる。
ガン飛ばしても、意味をなさない。
パッと作戦を浮かべてみる。
ラミィが「エルフの一撃」を放つ――味方も巻き込んで全滅。
みこが「神器」を使う――どれも決定打にならず。
ロボ子は攻撃手段がほぼ無し。
正直、詰んでいる。
おかゆさえ、こちら側に戻せば、騙し討ちが打てるのに。
2人の意識を戻すためには目玉を倒す必要がある。
この矛盾を打破する策がない。
「…………」
人形の使用覚悟で、おかゆところねを窓の外に捨てる、という超絶過激な策もあるにはあるが……例え3人で目玉を相手にしても、勝ち切る未来が描けない。
どんな行動を起こすにしても、最重要になるのが、テレポートの阻止。
際限無く移動されては、あらゆる攻撃が無に帰す。
「勾玉があれば……」
八尺瓊勾玉さえあれば、あらゆる厄を祓う事ができた。
こいつの洗脳も恐らく祓えた。
大幣では祓えない強力な力をも祓う事ができるのが、八尺瓊勾玉。
だが、使用用途がほぼないと判断し、唯一持っていない神具だ。
今度、絶対に取っておこう、あの免許的なやつ。
クッソ面倒だけど。
「仕方にぇ……変わらず攻めっぞ」
「うん」
「はい」
策を弄することすらできず、3人はパターンに変更を加えないままバトル続行。
「霧氷」
空気が冷え込み、霧がかかる。
皆の吐く息が白く染まり、視界が悪くなってゆく。
『っ――』
「「「――⁉︎」」」
目玉が息を詰まらせたような音が、頭で響く。
まさか、コイツの弱点って――!
「仙禽」
視界不良の中で、ラミィが先ほどの氷羽を連射した。
敵の位置が自分でも見えないので、もうテキトー。
少なくとも天井付近に味方はいない。
「わっと! おかゆぅ!」
ロボ子の頬にナイフが掠る。
このナイフ、システマーが作っただけあって、ロボ子の強靭な装甲にも容易く刃が入る。
もっと言えば、みこのバリア(結界)までも破壊する。
天井に氷羽が衝突し、氷の破片が雹の如く降り注ぐ室内。
その音を背後に、ロボ子はおかゆの攻撃を躱す。
うまくいなして、怪我せず、怪我させずを心掛ける。
みこにはころねがつく。
互いに視界が悪いが、どちらも研ぎ澄まされた感覚や、嗅覚、勘を頼りに交戦する。
正面からのパンチを八咫鏡で相殺し――後方からのパンチを結界で防ぐ。
正面はころね、後方は――神獣・犬神だ。
憑依神獣の実体化も、鍛錬によって安定しているようだ。
ころねの一撃を躱せば、神獣の一撃。
その一撃を躱せば連鎖するように再度ころねの攻撃、と勢いは止まない。
それをみこは、神具や神器を頼りに防ぐ。
が、定期的に防ぎきれず、脇腹や頬などに喰らう。
急所だけは守り切っているが、それも時間の問題だ。
ピュン――ピュン――ピュン――ピュン――ピュン――。
数本の光線が薄暗い霧氷の中を照らした。
「ぅぐっ――」
呻き声を上げたのは、みこ。
猛攻の対処に精一杯で、光線を腹部に直に喰らった。
人形での肩代わりも間に合わず、血を吐き、傷口から血が垂れる。
更に――
「どがッ――!」
傷口に塩を塗るように、ころねの拳が直撃。
みこは受け身も取れず後方へ吹き飛んだ。
「みこち!」
突如視界内に現れたみこに巻き込まれかけたロボ子が、体勢を崩しつつキャッチした。
そこへ側にいたおかゆの追撃。
「
おかゆの足が届く前に、瓦のような氷が幾重にもなって2人を囲った。
氷のドームに2人を庇い、ラミィはおかゆと対峙する。
「――!」
自分で冷気の霧を張ったが、目玉が見えなくなった。
攻撃が命中したとも思えない。
加えて、おかころをこの状況で相手にしなければならない。
ころねが冷気に潜んで襲いくる。
自分得意環境下で、流石に遅れは取らない。
危機察知し、飛び退いた。
地面を殴る音と、その振動が聞こえた。
このタイミングを境に一度攻撃が止む。
霧を消滅させると、晴れた視界の先――進むべき扉の前におかゆところねが佇んでいる。
目玉は――
『危ないなぁ〜』
ヒュッ、とおかゆところねの側に出現し、ラミィをギョロリと見つめる。
脳内に響く声は嗤っていた。
「さっきの光線、あなた?」
『そうだよ。当たったのは偶然だけどね』
ケラケラと笑いを含んだ声が耳を介さずして聞こえる。
やはり、何度聞いても気持ち悪い。
目玉の背後で、ころねとおかゆは静かに待機している。
『さぁてどうする? そろそろお友達を殺す気になった? それとも、死ぬ気になった?』
内面に語りかけてくる。
ラミィは深く息を吸い、そっと瞼を閉じる。
深呼吸――。
目を開ける。
「ふぅー……」
背後にドーム内に庇う2人の息遣いを感じる。
特に、みこの荒々しい息遣いを。
攻撃を無効化する分、みこは打たれ弱い。
ロボ子も、片腕すでに損壊して、まともに動かせない。
そこからの漏電による、全身への定期的な負荷。
このまま戦っていては、目玉に傷一つ与えられず、3人は負ける。
おかゆもころねも、みこもロボ子も、例えこの場の4人がゲームオーバーになるとしても、この一撃で目玉を倒し先へ進めるのなら――。
価値はある。
出し惜しみしている人なんていない。
「私は覚悟、決まったけど――あなたはできた?」
『おひょ?』
「負ける覚悟」
ラミィの吐息が、触れた空気を瞬間冷凍させ、空中の水滴や一部の空気が凍り、パラパラと床に転がる。
右腕が凍り付くような冷気で覆われ、本物の氷を纏い、それが右半身を埋め尽くしてゆく。
ラミィは雪国出身ながら、寒いが苦手だ。
氷の精霊術を扱うが、寒いのは苦手なのだ。
おかゆところね、みことロボ子、そして目玉。全員の体が悴む。
吐息は冬の日よりもさらに白く、氷河期を誘うように。
「ゆきよ…………」
ラミィが放射する冷気も最高潮に達し、技名だろうか?何かを呟きかけた。
が、ふと、言葉を止めた。
冷気が引いてゆく……。
『……?』
警戒していた目玉は、面食らっていた。
…………。
ガシッ――
『ぇ?』
目玉の困惑が、皆に伝播する。
キラリと光る、金属光沢。
――グシャっ。
『アギあ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁ‼︎』
「うぅっ‼︎」
目玉の塞ぐことのできない絶叫が、戦場に立つ者たちの脳に響き渡る。
頭が割れるほど痛い。
反射的に耳を抑えても、意味を成さない。
『お゛、お゛まっ゛!えぇ゛!』
呻吟の中から発される怨恨の言葉。
目玉を貫通する1つの刃物。
傷口から大量に血液が流れ出て、目玉を掴む者――おかゆの左手を伝って、ポタポタと石のタイルに垂れる。
目玉は充血していた。
「おかゆ……先輩……?」
冷気が完全に消失し、みことロボ子を囲う氷のドームも崩壊していた。
ラミィの驚愕の言葉。
みことロボ子もその光景に絶句していた。
自身の身体の痛みすら、忘れるほどに。
「ぜーんぶ、ウソでした」
べっ、と舌を出した。
イタズラ猫の本質が現れる。
『洗脳は、どう゛した!』
怒りに塗れたテレパシー。
「キミのテレパシーはいいね。言葉だけで全ての感情、意図が読める。しかも、こっちの脳内は見えないなんて」
『あ゛あ゛あ゛あ゛⁉︎』
「洗脳された『フリ』も、凄くやりやすかった」
「『‼︎⁉︎』」
理解が追いつかない目玉の絶句とシンクロして、皆も絶句する。
『どういこと⁉︎ ぼくちゃんはお前に洗脳を――』
「こっちにテレポートした後の事? もし僕に洗脳をかけたと思ったんなら……それはただの、『見間違い』じゃないかな?」
『みまちがい……だと……!』
「キミが僕だと思って洗脳をかけたのはころさん。キミは、あの時、ころさんに洗脳を掛け直してただけなんだよ」
『――! 幻影――!』
おかゆはずっと、正常だった。
正気でありながら、ずっと洗脳にかかった愚者を演じていた。
マリオネットになって見せたんだ。
「ごめんね、ほらよく言うでしょ、『敵を騙すにはまず味方から』ってさ」
仲間に向かってウインクを決めた。
希望が芽生える。
見事に、死者を出さずに目玉を仕留めた。
「コイツが語ったことも聞いてる。テレポートは視界の悪い中使えない、ビームも目玉から出るから潰れれば使えない、洗脳も目を見て行う、コイツが消えれば洗脳は消える、コイツを倒す事で、扉のロックが解除される」
目玉という形而上物ありきなスキルばかり。
使用できる要素はもう残されていない。
この目玉は、このまま死んでゆく。
「そして、死ぬ事をトリガーに、周囲を巻き込む爆発が起きる事も」
「「――⁉︎⁉︎」」
『殺せ‼︎』
おかゆの独白じみた証言に目玉が雄叫びをあげた。
共鳴するようにころねがおかゆを襲う。
「こぉね! あんた強いんだから自我を保って!」
ラミィがころねを足止めする。
わずか一瞬で振り払われた。
「ころにぇ!」
手負のみこが追いつく。
数秒で振り払われる。
損傷したロボ子も間に合う。
数秒で振り払われる。
ラミィとみこがまた起き上がり、追いつく。
振り払われる――
これを延々と繰り返す。
「――! 道連れはごめんだよ」
おかゆはその隙に窓へ駆け寄る。
ワザワザ投げ捨てる窓を用意するとは、ゲーム開発も優しいもんだ。
「っ!…………」
『へへへへ』
苦し紛れの嘲笑が脳に響く。
最後の最後に、後出し情報の開示。
『ぼくちゃん、粘着質なんだぁ……1人で死ぬのはごめんだよ』
おかゆの左手も、突き刺したナイフも――目玉から離れない。
逃げれない空間で、窓を用意し、捨てられると錯覚した誰かが目玉に触れれば、1人は既に術中だ。
「後出ししやがって……」
おかゆが歯軋りする。
隠し球は誰にだってある。
ラミィにもあったように。
「はぁ……」
皆に声は届いている。
状況は飲めているはず。
「みんな、そう言うわけだからさ、ころさんのこと頼むね」
「「「ちょっ――」」」
ころねを抑える事に必死な3人へ掛けられた最後の言葉。
止める間もなく、おかゆは敵を片手に窓の外へ飛び出した。
パリンっと派手な音を立て、豪快に窓ガラスが割れる。
宙で体を丸め、抱え込んだ爆弾を包むように、衝撃を抑えるように。
(やばっ、僕、超かっこいいかも……)
輝く。
世界が白く、明滅した。
(クッソ……活躍はこれだけか……)
――空気が爆ぜた。
それと共に、おかゆは脱落。
そして、ようやく幹部を1人――目玉を倒す事に成功した。