歌姫伝承〜ホロの異能大戦ストーリー〜   作:炎駒枸

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99話 ねこだまし

 

 塔内は静けさに満ちていた。

 人も居らず、カラクリ一つなく、防音室で外の音も響かない。

 ただ上階へと続く階段が伸びているだけ。

 

 ぼたんのアシストで塔内へ潜り込んだラミィとロボ子。

 這いつくばった状態から直様起き上がる。

 手に土が付着する。

 

「……」

 

 ラミィはその土汚れを見つめた。

 

「……どうする? 待つ?」

「……」

 

 気を伺うようにロボ子は弱々しく尋ねた。

 ラミィはキョロキョロと周囲を見回している。

 

「いえ……進みましょう。2人がいない」

「みこちと船長?」

「2人じゃ、心許ない」

「だね」

 

 広場の戦いは、あの人数差で未だこの突破数。

 AZKiがいなければ全滅の可能性が高かった。

 そんな彼女の能力も、入塔と共に効果が切れている。

 ここに居ても、できる事は何一つない。

 

「行こうか」

「はい」

 

 ラミィとロボ子と言うレアコンビで階段を登る。

 塔がほぼ円柱状なため、階段は螺旋型。

 

 何の妨害もなく、2人は1つ上の階へ。

 特に何もない部屋だ。

 中央にポツンと椅子があるだけ。

 本来あそこには、誰かが座しているのだろう。

 

「何で誰も居ないんだろ」

「2人で倒したとは思えないし……」

 

 ラミィとロボ子は荒野ルート組。

 その目で確認している敵は、目玉、システマーAとB、剣士、そして魔王。

 確か幹部は4人のはず。

 システマーの正体を解剖できない今、アレらは別人と捉える。

 そうすれば、幹部4人と魔王1人で敵は出揃っている。

 だが、ラミィはもう1人、知っている。

 ぼたんから聴いた、炎の武闘家。

 記憶に当てはまるキャラは居ない。

 なら、システマーを2人で1人とカウントし、その武闘家が4人目だろう。

 

 まだ広場で戦っているのなら、剣士とシステマー1人、魔王はこの塔にいない。

 現在この塔にいる可能性があるのは、目玉、武闘家、システマー1人。

 ならばここは、剣士の席だと仮定するが自然。

 この仮定に何ら意味はないが……。

 

「行きましょう!」

「うん」

 

 2階を通過しもう一度螺旋階段を登る。

 そして3階扉前。

 

「――!」「……」「――」

 

 扉越しに声がする。

 耳を澄ませても、誰が何を喋っているのかわからないが、言葉を発しているのは1人だけ。

 1人が常に一方的に叫んでいる。

 

 頷きあって意を決すると、大きな2枚の扉をそれぞれ一枚ずつ押し開いた。

 

「っ――!」

『おやおやおやおやぁ〜。いらっしゃぁ〜ぃ』

「「うっ――」」

 

 扉を開くと眩しい照明。

 その中で照らされるみこが振り返る。

 そして、脳内に声が響いた。

 この吐き気を催す感覚……。

 加えて、一言たりとも発さない2名の存在……。

 

『3階はぼくちゃんの部屋だよ』

 

 何処から声がするか分からず、周囲を見回すと、扉の影にいた。

 たった一つの目玉が、浮遊していた。

 

「目ん玉……」

「おかゆんにころね……」

「2人とも気をつけてにぇ! この2人、なんか操られてるっぽいで」

 

 目玉の力を知らないみこが警鐘を鳴らす。

 生憎と2人は既にこのクソ能力を目の当たりにしている。

 正直、このゲームで最も嫌悪感が湧く相手。

 

「うん……マインドコントロール、ビーム、テレポート、テレパシー。ほんとに盛りだくさんの野郎だから」

「そっちのルート、なんかあった感じか……」

 

 2人の警戒心の高さや、既知の事実、更におかころが左ルートであったことから、みこでもその仮説に直様たどり着いた。

 ラミィとロボ子はそっと頷いた。

 

『ぼくちゃんのルールだから、文句はなしだよ。それに、君たちの知らないところでもちょーーっとだけ、楽しんじゃってるんだ』

「マジでこれ、気持ち悪りぃ!」

 

 みこが悪態をつく。

 ラミィもロボ子も共感しかない。

 

 …………?

 

「ってかみこ先輩、船長は⁉︎」

 

 目に入る情報だけに気を取られ、目に映らない情報を無視していた。

 突破したはずのマリンが、ここにいない。

 

「マリンたんなら、まだ生きてる、大丈夫」

「……分かった」

 

 そう言うなら。

 3人は目玉と向き合う。

 

 目玉がテレポートし、おかゆところねの上に飛ぶ。

 誰の手も届かない位置。

 そんな所で見物か?

 ここの住人はどいつもこいつも高みの見物でムカつく野郎どもだ。

 

 不平等な3vs3の構図が完成する。

 

『ぼくちゃんは、2人に任せちゃおっかな〜』

 

 目玉は動かず、おかころは姿勢を低くした。

 2人の赤い瞳が光る。

 

 来る――

 

 おかころが、床を蹴り、3人に迫る。

 誰を狙うんだ。

 

「ころにぇ!」

 

 パワーのころねとテクニックのおかゆ。

 ころねの攻撃は、今のロボ子には重すぎると読み、みこはころねを誘った。

 素直に反応し、ころねの拳はみこへ向かう。

 

 パン、と現出した一枚の鏡で攻撃を相殺する。

 が、想像以上にパワーがない。

 

「――!」

 

 遅れてラミィの下へおかゆが辿り着くが、その寸前で姿が変貌した。

 咄嗟に氷柱を間に挟み威力を殺すが、氷を突き破って打撃がラミィへ届く。

 反射的に構えた腕に大きな衝撃が走り、顔を顰めた。

 攻撃に弾かれるように後方へ引く。

 

「こぉねー! 痛い!」

 

 無駄だと知りつつ、ラミィは痛みを訴えた。

 ころねのパンチ力は知っているつもりだったが、喰らうのは当然初めて。

 痛すぎる。

 

『本当に凄いよこの2人』

 

 比較的連携しやすい2人。

 その戦闘スタイルと見事なバランスを絶賛する。

 

「ちょっと黙ってろ」

「こんなつまらん『おかころ』があってたまるかって」

 

 おかころと言う究極のてぇてぇをご存知ないと?

 こんな眼球野郎に、2人の真の凄さは測れないし、語れない。

 いや、させたくない。

 おかころナメんな。

 

「どうする? このままじゃ、傷付けないなんて無理だよ」

 

 ロボ子が2人聞く。

 3対2とは言え、こちらが攻撃禁止となればまず勝ち目はない。

 2人には悪いがここは倒すしかないのか。

 

「でも倒した所で……」

 

 結局また次、誰かが洗脳されればキリがない。

 洗脳人数に上限があるのかないのか……。

 

 この層を突破しなければ、クリアは見えない。

 

「おかゆんの幻影……敵に回ると厄介すぎるで!」

 

 常に虚偽で身を覆い、敵に迫る。

 自分以外の存在がいる事で、その力は格段に価値が上がる。

 ころねかおかゆか、その2択が戦場では命取り。

 目玉も、今でこそ愉快な傍観者だが、いつ参戦するか読めない。

 

 広場の突破率を鑑みれば、もう最上階までに死者は出したくない。

 

「――!」

 

 おかゆところねが動く。

 姿勢を低くしてころねは拳を、おかゆは懐からナイフを抜き出し構える。

 

「ちょっ! その凶器どっから出した、っ!」

 

 ナイフでみこに切り掛かる。

 時折服に刃が通り、切れるが、怪我は負わない。

 

『システマーに作らせたんだあ〜』

 

 目玉がケタケタと苦笑混じりにテレパスで答える。

 うっせ!

 黙ってろ!

 

「…………」

 

 しかし、そうか……。

 アイツはオブジェクトを生成する事も可能なのか……。

 

「こぉね! 無言で殴ってこないで!」

「――。――!」

 

 聞きなれた「ぉらよ」の掛け声もなく、ころねのパンチが放たれる。

 マジの顔にラミィは冷や汗が止まらない。

 この人、こんなに怖かったっけ?

 

 人間が内に秘めたる悪の部分か。

 

「…………」

「――!」

 

 ころねの機敏さに、ラミィは次第に遅れを取り始める。

 氷を使っても捌ききれない。

 

 みこはおかゆ相手に案外手一杯。

 ロボ子が手助けに動こうとすると――

 

『ダーメ』

 

 目玉がビームで妨害をしてくる。

 そのビームでラミィを狙えば倒せるが、そうしないのはゲーム要素として愉しんでいるから。

 

「――‼︎」

 

 ダメだ、当たる――ころねの一撃が……。

 

「っ――⁉︎」

 

 外れた。

 殆どが瞳孔を開いて、状況処理に時間を要した。

 

『よく避けたね』

 

 避けた?

 ころねが勝手に外しただけだ。

 まあいい。

 ラッキーに乗じて、奇襲チャンス。

 ラミィの手が空けば、遠距離攻撃の幅は無限大に広がる。

 

仙禽(せんきん)

 

 ラミィの背後に一羽の氷鳥が生まれる。

 足が長く、全体的にスマートなスタイル――恐らく鶴だろう。

 美しい氷結の鶴が大羽を広げた。

 

 ズダダダダッ――――――

 

 と、天井付近に居座る目玉へ大量の氷羽がヤイバの如く飛来する。

 羽は悉く躱され、全てが天井に突き刺さるか、天井に弾かれて砕けるかの運命。

 目玉の瞬間移動が早すぎて、攻撃が一発も当たらない。

 

『ぼくちゃんに加勢してほしいの?』

「――っ!」

 

 突然、ラミィの眼前に目玉が移動してきた。

 

『2人を倒してからね』

 

 イラっとして、氷塊を放った。

 

「待って――!」

 

 氷塊は空振り、そのまま背後から迫っていたおかゆに命中しかけた。

 が、間一髪、ロボ子が受けることで最小限の被害に収まった。

 

『あーあ、折角のチャンスだったのに』

 

 謀られた。

 死角を利用して相打ち?を狙った。

 ロボ子のナイスカバーでおかゆへのダメージは防がれるが、ロボ子の破損が拡がり、更に微かに凍る。

 そこへ立て続けにおかゆからの攻撃。

 ナイフがさらに傷口を抉る。

 

「ぐっ――」

「ロボち!」

 

 おかゆを相手取っていたみこは、いつの間にかころねと戦っていた。

 ころねを強めに弾いて退け、ロボ子に駆け寄る。

 ロボ子の右腕は、複数断線し、バチバチと放電していた。

 

「すみません!」

「いいの、僕はあまり戦えないから」

 

 ラミィも駆け寄り、謝罪しながら労る。

 ロボ子は魔法や銃撃を防ぐ装甲こそあれど、敵を攻撃するような銃火器は何一つ搭載されていない。

 

「おかゆん――」

 

 みこが弱い攻撃を放って、おかゆを退ける。

 直前に名前を呼んだのはきっと、避けろって意味だ。

 敵に塩を送る愚行を、どうしてもしてしまう。

 おかころを、敵と見做せない。

 

『ほらほら、早く2人を倒さないと、みんなゲームオーバーだよー?』

 

 目玉が天井付近から挑発してくる。

 ガン飛ばしても、意味をなさない。

 パッと作戦を浮かべてみる。

 

 ラミィが「エルフの一撃」を放つ――味方も巻き込んで全滅。

 みこが「神器」を使う――どれも決定打にならず。

 ロボ子は攻撃手段がほぼ無し。

 

 正直、詰んでいる。

 おかゆさえ、こちら側に戻せば、騙し討ちが打てるのに。

 2人の意識を戻すためには目玉を倒す必要がある。

 この矛盾を打破する策がない。

 

「…………」

 

 人形の使用覚悟で、おかゆところねを窓の外に捨てる、という超絶過激な策もあるにはあるが……例え3人で目玉を相手にしても、勝ち切る未来が描けない。

 どんな行動を起こすにしても、最重要になるのが、テレポートの阻止。

 際限無く移動されては、あらゆる攻撃が無に帰す。

 

「勾玉があれば……」

 

 八尺瓊勾玉さえあれば、あらゆる厄を祓う事ができた。

 こいつの洗脳も恐らく祓えた。

 大幣では祓えない強力な力をも祓う事ができるのが、八尺瓊勾玉。

 だが、使用用途がほぼないと判断し、唯一持っていない神具だ。

 今度、絶対に取っておこう、あの免許的なやつ。

 クッソ面倒だけど。

 

「仕方にぇ……変わらず攻めっぞ」

「うん」

「はい」

 

 策を弄することすらできず、3人はパターンに変更を加えないままバトル続行。

 

「霧氷」

 

 空気が冷え込み、霧がかかる。

 皆の吐く息が白く染まり、視界が悪くなってゆく。

 

『っ――』

「「「――⁉︎」」」

 

 目玉が息を詰まらせたような音が、頭で響く。

 まさか、コイツの弱点って――!

 

「仙禽」

 

 視界不良の中で、ラミィが先ほどの氷羽を連射した。

 敵の位置が自分でも見えないので、もうテキトー。

 少なくとも天井付近に味方はいない。

 

「わっと! おかゆぅ!」

 

 ロボ子の頬にナイフが掠る。

 このナイフ、システマーが作っただけあって、ロボ子の強靭な装甲にも容易く刃が入る。

 もっと言えば、みこのバリア(結界)までも破壊する。

 

 天井に氷羽が衝突し、氷の破片が雹の如く降り注ぐ室内。

 その音を背後に、ロボ子はおかゆの攻撃を躱す。

 うまくいなして、怪我せず、怪我させずを心掛ける。

 

 みこにはころねがつく。

 互いに視界が悪いが、どちらも研ぎ澄まされた感覚や、嗅覚、勘を頼りに交戦する。

 正面からのパンチを八咫鏡で相殺し――後方からのパンチを結界で防ぐ。

 正面はころね、後方は――神獣・犬神だ。

 憑依神獣の実体化も、鍛錬によって安定しているようだ。

 

 ころねの一撃を躱せば、神獣の一撃。

 その一撃を躱せば連鎖するように再度ころねの攻撃、と勢いは止まない。

 それをみこは、神具や神器を頼りに防ぐ。

 が、定期的に防ぎきれず、脇腹や頬などに喰らう。

 急所だけは守り切っているが、それも時間の問題だ。

 

 ピュン――ピュン――ピュン――ピュン――ピュン――。

 

 数本の光線が薄暗い霧氷の中を照らした。

 

「ぅぐっ――」

 

 呻き声を上げたのは、みこ。

 猛攻の対処に精一杯で、光線を腹部に直に喰らった。

 人形での肩代わりも間に合わず、血を吐き、傷口から血が垂れる。

 更に――

 

「どがッ――!」

 

 傷口に塩を塗るように、ころねの拳が直撃。

 みこは受け身も取れず後方へ吹き飛んだ。

 

「みこち!」

 

 突如視界内に現れたみこに巻き込まれかけたロボ子が、体勢を崩しつつキャッチした。

 そこへ側にいたおかゆの追撃。

 

北冠(ほっかん)

 

 おかゆの足が届く前に、瓦のような氷が幾重にもなって2人を囲った。

 氷のドームに2人を庇い、ラミィはおかゆと対峙する。

 

「――!」

 

 自分で冷気の霧を張ったが、目玉が見えなくなった。

 攻撃が命中したとも思えない。

 加えて、おかころをこの状況で相手にしなければならない。

 

 ころねが冷気に潜んで襲いくる。

 自分得意環境下で、流石に遅れは取らない。

 危機察知し、飛び退いた。

 地面を殴る音と、その振動が聞こえた。

 

 このタイミングを境に一度攻撃が止む。

 霧を消滅させると、晴れた視界の先――進むべき扉の前におかゆところねが佇んでいる。

 目玉は――

 

『危ないなぁ〜』

 

 ヒュッ、とおかゆところねの側に出現し、ラミィをギョロリと見つめる。

 脳内に響く声は嗤っていた。

 

「さっきの光線、あなた?」

『そうだよ。当たったのは偶然だけどね』

 

 ケラケラと笑いを含んだ声が耳を介さずして聞こえる。

 やはり、何度聞いても気持ち悪い。

 目玉の背後で、ころねとおかゆは静かに待機している。

 

『さぁてどうする? そろそろお友達を殺す気になった? それとも、死ぬ気になった?』

 

 内面に語りかけてくる。

 ラミィは深く息を吸い、そっと瞼を閉じる。

 深呼吸――。

 目を開ける。

 

「ふぅー……」

 

 背後にドーム内に庇う2人の息遣いを感じる。

 特に、みこの荒々しい息遣いを。

 攻撃を無効化する分、みこは打たれ弱い。

 ロボ子も、片腕すでに損壊して、まともに動かせない。

 そこからの漏電による、全身への定期的な負荷。

 

 このまま戦っていては、目玉に傷一つ与えられず、3人は負ける。

 おかゆもころねも、みこもロボ子も、例えこの場の4人がゲームオーバーになるとしても、この一撃で目玉を倒し先へ進めるのなら――。

 価値はある。

 出し惜しみしている人なんていない。

 

「私は覚悟、決まったけど――あなたはできた?」

『おひょ?』

「負ける覚悟」

 

 ラミィの吐息が、触れた空気を瞬間冷凍させ、空中の水滴や一部の空気が凍り、パラパラと床に転がる。

 右腕が凍り付くような冷気で覆われ、本物の氷を纏い、それが右半身を埋め尽くしてゆく。

 ラミィは雪国出身ながら、寒いが苦手だ。

 氷の精霊術を扱うが、寒いのは苦手なのだ。

 

 おかゆところね、みことロボ子、そして目玉。全員の体が悴む。

 吐息は冬の日よりもさらに白く、氷河期を誘うように。

 

「ゆきよ…………」

 

 ラミィが放射する冷気も最高潮に達し、技名だろうか?何かを呟きかけた。

 が、ふと、言葉を止めた。

 冷気が引いてゆく……。

 

『……?』

 

 警戒していた目玉は、面食らっていた。

 

 …………。

 

 ガシッ――

 

『ぇ?』

 

 目玉の困惑が、皆に伝播する。

 

 キラリと光る、金属光沢。

 

 ――グシャっ。

 

『アギあ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁ‼︎』

「うぅっ‼︎」

 

 目玉の塞ぐことのできない絶叫が、戦場に立つ者たちの脳に響き渡る。

 頭が割れるほど痛い。

 反射的に耳を抑えても、意味を成さない。

 

『お゛、お゛まっ゛!えぇ゛!』

 

 呻吟の中から発される怨恨の言葉。

 目玉を貫通する1つの刃物。

 傷口から大量に血液が流れ出て、目玉を掴む者――おかゆの左手を伝って、ポタポタと石のタイルに垂れる。

 目玉は充血していた。

 

「おかゆ……先輩……?」

 

 冷気が完全に消失し、みことロボ子を囲う氷のドームも崩壊していた。

 ラミィの驚愕の言葉。

 みことロボ子もその光景に絶句していた。

 自身の身体の痛みすら、忘れるほどに。

 

「ぜーんぶ、ウソでした」

 

 べっ、と舌を出した。

 イタズラ猫の本質が現れる。

 

『洗脳は、どう゛した!』

 

 怒りに塗れたテレパシー。

 

「キミのテレパシーはいいね。言葉だけで全ての感情、意図が読める。しかも、こっちの脳内は見えないなんて」

『あ゛あ゛あ゛あ゛⁉︎』

「洗脳された『フリ』も、凄くやりやすかった」

「『‼︎⁉︎』」

 

 理解が追いつかない目玉の絶句とシンクロして、皆も絶句する。

 

『どういこと⁉︎ ぼくちゃんはお前に洗脳を――』

「こっちにテレポートした後の事? もし僕に洗脳をかけたと思ったんなら……それはただの、『見間違い』じゃないかな?」

『みまちがい……だと……!』

「キミが僕だと思って洗脳をかけたのはころさん。キミは、あの時、ころさんに洗脳を掛け直してただけなんだよ」

『――! 幻影――!』

 

 おかゆはずっと、正常だった。

 正気でありながら、ずっと洗脳にかかった愚者を演じていた。

 マリオネットになって見せたんだ。

 

「ごめんね、ほらよく言うでしょ、『敵を騙すにはまず味方から』ってさ」

 

 仲間に向かってウインクを決めた。

 希望が芽生える。

 見事に、死者を出さずに目玉を仕留めた。

 

「コイツが語ったことも聞いてる。テレポートは視界の悪い中使えない、ビームも目玉から出るから潰れれば使えない、洗脳も目を見て行う、コイツが消えれば洗脳は消える、コイツを倒す事で、扉のロックが解除される」

 

 目玉という形而上物ありきなスキルばかり。

 使用できる要素はもう残されていない。

 この目玉は、このまま死んでゆく。

 

「そして、死ぬ事をトリガーに、周囲を巻き込む爆発が起きる事も」

「「――⁉︎⁉︎」」

『殺せ‼︎』

 

 おかゆの独白じみた証言に目玉が雄叫びをあげた。

 共鳴するようにころねがおかゆを襲う。

 

「こぉね! あんた強いんだから自我を保って!」

 

 ラミィがころねを足止めする。

 わずか一瞬で振り払われた。

 

「ころにぇ!」

 

 手負のみこが追いつく。

 数秒で振り払われる。

 損傷したロボ子も間に合う。

 数秒で振り払われる。

 ラミィとみこがまた起き上がり、追いつく。

 振り払われる――

 これを延々と繰り返す。

 

「――! 道連れはごめんだよ」

 

 おかゆはその隙に窓へ駆け寄る。

 ワザワザ投げ捨てる窓を用意するとは、ゲーム開発も優しいもんだ。

 

「っ!…………」

『へへへへ』

 

 苦し紛れの嘲笑が脳に響く。

 最後の最後に、後出し情報の開示。

 

『ぼくちゃん、粘着質なんだぁ……1人で死ぬのはごめんだよ』

 

 おかゆの左手も、突き刺したナイフも――目玉から離れない。

 逃げれない空間で、窓を用意し、捨てられると錯覚した誰かが目玉に触れれば、1人は既に術中だ。

 

「後出ししやがって……」

 

 おかゆが歯軋りする。

 隠し球は誰にだってある。

 ラミィにもあったように。

 

「はぁ……」

 

 皆に声は届いている。

 状況は飲めているはず。

 

「みんな、そう言うわけだからさ、ころさんのこと頼むね」

「「「ちょっ――」」」

 

 ころねを抑える事に必死な3人へ掛けられた最後の言葉。

 止める間もなく、おかゆは敵を片手に窓の外へ飛び出した。

 

 パリンっと派手な音を立て、豪快に窓ガラスが割れる。

 宙で体を丸め、抱え込んだ爆弾を包むように、衝撃を抑えるように。

 

(やばっ、僕、超かっこいいかも……)

 

 輝く。

 世界が白く、明滅した。

 

(クッソ……活躍はこれだけか……)

 

 

 ――空気が爆ぜた。

 

 それと共に、おかゆは脱落。

 そして、ようやく幹部を1人――目玉を倒す事に成功した。

 

 

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