優れた戦闘能力にマスターやカルデア上層部に忠実でありながらも、英霊としての経験から間違っていると判断できる事柄に対しては意見する事が出来る思慮深さ。そして何よりも、マスターである藤丸立香の命を最優先に動いてくれるサーヴァントの加入は戦力の足りないカルデアにとって大きく特異点修復は当初の予定より、順調に進んでいた。これはその作戦記録である。
─第一特異点
本来の歴史ではフランスの為に尽力を尽くしたものの魔女として処刑される事となったジャンヌ・ダルクが蘇り竜とバーサーク・サーヴァント達を従え祖国フランスを火の海にしたとされる特異点。彼女達との邂逅は予想外なものでサーヴァントとして召喚されたジャンヌと合流し、訪れた町の跡地で遭遇する事となった。
「……気に入らないな」
「は?」
「気に入らないって言ったんだよ、この似非聖女が。裏切った祖国、国民、この世の全てを憎悪して復讐?そんな、真っ当な人間らしい感情を抱けるならお前は聖女なんて尊いものじゃねぇよ」
戦闘時に見せる何処までも冷え切った光の届かない深海の様な瞳ではなく、烈火の如く燃え滾るマグマの様な怒りを感じさせる瞳で竜の魔女を名乗ったジャンヌ・ダルクを睨み付ける影辰。復讐を語り、今の自らの行いが正しいと断じて嘲笑うその姿は彼がこの世界の誰よりも愛し、そして堕としてしまった穢れなき白い聖女とは程遠く、聖女という存在を馬鹿にされている様で──シンプルに言ってしまえば、愛する人を貶められて心底腹が立った。
「何を言って……私は歴としたジャンヌ・ダルクよ!」
「……なぁ、ジャンヌ・ダルク。アンタは、その身を差し出して誰かを守り礼を言われた時になんて思う?」
竜の魔女ではなく、自陣にいるジャンヌを見ながら問いかける。自分を無視するその姿に竜の魔女は苛立たしく言葉をぶつけるが何一つとして、影辰の耳には届いていない。
「当然の事をしたまででしょうか。勿論、お礼を言われて嬉しいという気持ちはありますが」
「だろうな。それが聖女と呼ばれる人間の思考回路だ、俺達が呼吸をして食事をするのと同じ様に目の前で困っている誰かを救う、救ってしまう。そして、その果てにどの様な結末が訪れようと助けた人達を憎む事はない。自分に出来る事を精一杯したのだと、報われない結果を受け入れて満足そうに逝く」
自分という悪を受け入れ、万人を救う事はなかったけれどただ一人の男を救って満足そうに微笑む彼女を思い浮かべながら影辰は言葉を続ける。竜の魔女にとって致命的な一言を。
「聖女、ジャンヌ・ダルクが抱くことのない想いを抱いている竜の魔女、お前は誰だ?」
「ッッ……知った様な口を!良いわ、そんなに死にたいのならお望み通り、此処で死になさい!!」
激昂した竜の魔女により、バーサーク・サーヴァント達が一斉に影辰へと襲いかかる。特に速かったのは、バーサーク・ランサーであるヴラド三世であった。本来ならあり得ないが、吸血鬼である事を受け入れている彼はその身を霧に変えて影辰へと迫り未だに動く素振りを見せていない影辰の血を啜ろうと槍を振り下ろそうとし、殴り飛ばされた。たった、一撃を胸元に受けただけだというのに自身の存在が揺らぐほどの攻撃を狂気の熱に浮かされながらもヴラド三世は理解し叫ぶ。
「この力……神に類するものか!」
「──吸血鬼殺しは専門でな」
生前、埋葬機関に所属し英霊となった後に神の力を宿した今の影辰と吸血鬼の相性は考えるまでもなく吸血鬼が圧倒的不利だ。ましてや、狂気により生前の武が衰えている者達に止め切れる訳もなく、バーサーク・セイバーとバーサーク・ライダーの攻撃はあっさりと避けられ未だに動けぬヴラド三世にトドメが刺されようとしていた。その隙を背後からバーサーク・アサシン、カーミラが襲い掛かるが。
「ガハッ……どうして……」
「……」
後ろを見ることもなく、カーミラの爪を避け無防備な霊核を手刀で貫きその存在を終わらすとヴラド三世を殺すべく腕を振り上げたところで竜の魔女が乗る邪竜が吐き出した火炎の邪魔が入り、舌打ちと共に跳躍し距離を取った。
「完全にタイミングを逃してしまったけれど、今だと思うわ。アマデウス」
「はしゃいで見ていたのは君だと思うけどねマリア」
そのタイミングで人理に呼ばれた英霊、マリー・アントワネットとヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトがその姿を現し宝具にて竜の魔女と残りのバーサークサーヴァント達を足止めしカルデア一行はその場を逃げ出した。竜の魔女に怒りを抱く、影辰を除いて。
結果的にカルデアの追撃に向かったバーサーク・ライダー以外のバーサークサーヴァント達を討ち倒し邪竜とジャンヌ・オルタを死ぬその瞬間まで足止めした事でカルデア一行はかなりの戦力を保持したままオルレアンでの最終決戦に挑む事となった。
「……あのね、怒りは分かるのだけど貴方も逃げてくれればもう少し楽になったのよ?」
「それはすまん、オルガマリー。どうしてもあの竜の魔女を許せなかったんだ」
「はぁ、助かったのも事実だからあまり強く言えないわね……というか、貴方随分と聖女に対して想いが強いのね。現代ならあまりそういう人居ないでしょうに」
「言ってなかったか。俺の妻が聖女なんだ」
「……え?貴方、聖女を口説き落としたの?」
「いや、どちらかと言えば口説き落とされた」
「え?」
「ん?」
以上、カルデアに再召喚された時の小話。続いて、第二特異点へと話は移る。
─第二特異点
レフによって複数のローマ皇帝を名乗る者達が率いる連合ローマ帝国と時の皇帝ネロが率いるローマ帝国が戦争を行っている特異点。レイシフトしたカルデア一行は連合ローマ帝国が特異点の原因と判断し、ネロ皇帝の申し出に同意しローマ帝国軍として戦争に参加していった。この戦いにおいても、単騎で軍勢に匹敵する働きを見せ、影辰は戦場で暴れ尽くす事となる。そして、そんな彼の目の前に友人が立ち塞がった。
「……うん。不完全燃焼かもしれないけど、此処で許して欲しい皇帝」
「好き放題言った上で、余に辞めろと申すか大王」
「そうだよ。君も皇帝なら分かるでしょ?臣下の願いは、叶えてあげたくなるって」
アレキサンダーがネロを煽る様に激励し戦い始めネロ有利となったタイミングで動きを止めた。後ろに控えているとあるサーヴァントとの約束でこのまま消える訳にはいかないアレキサンダーは、ネロの覚悟を確かめた事で満足し約束を違える訳にはいかぬと武器をしまった。
「……むぅ。色々と言いたい事はあるが皇帝の在り方を言われてしまえば、武器を下げるほかあるまい。此方の臣下も先程から熱を発しているしな」
「あはは、そうだね。じゃあ、先生今度は君の番だよ」
アレキサンダーのその言葉に英霊らしからぬスーツを着て現代的なライターと葉巻を持った英霊が前に出るとそれに呼応する様に草臥れたコートを着ている影辰も前に出る。お互いに手を伸ばせば握手が出来る距離まで近づき、その光景を見ている周囲の者達がごくりと唾を飲んだその瞬間、彼らは子供のように笑い出した。
「ふっ、ははははは!お前が神霊を宿す英霊になるとはもはや呆れを通り越して笑いが込み上げてくるな影辰」
「はははははっ!どうだ、凄いだろ!つか、お前は誰の力を借り受けてるんだ?軍師系なのは予想が付くが」
「聞いて驚け。諸葛孔明だ、まぁ力だけ継承したにすぎないがな」
「ほー、三国の大軍師か。流石は、ロードエルメロイII世殿だな」
一頻り笑いあった後、互いの状況を確認し合い影辰は懐から一本の煙草を取り出すとそれにロードエルメロイII世が火を点ける。先ほどまでの騒がしさとは打って変わり、煙草を咥え漢の顔になった二人はどちらからともなく、切り出した。
「「んじゃあ、やるか」」
ニヤリと笑い、エルメロイII世が軍扇を振り下ろすと影辰の頭上に岩が降り注ぐ。それらを影辰が砕いている間に、距離を取ったエルメロイII世が再び軍扇を振るうと突風が刃の様に襲いかかる。
「ふっ!」
その風の刃を拳圧だけで打ち消すと影辰は腰を沈め、獣の様にエルメロイII世へと接近しその邪魔をする魔術を全て力づくで突破していく。やがて、その拳がエルメロイII世へと当たる瞬間、横からアレキサンダーが現れ剣で影辰の攻撃を防ぎ、弾き飛ばす。軍師の戦力に兵であるアレキサンダーが含まれるのは当然の事であり、影辰はより楽しそうにエルメロイII世へと視線を飛ばす。
「期待は裏切らんさ。──これぞ大軍師の究極陣地、
空から石柱が降り注ぎ、影辰がいるその場所をエルメロイII世にとって有利な環境へと一瞬で作り替える。諸葛孔明となった彼が持つ宝具は三国志演義にて侵入した者を死に追い込んだとされるもので精神負荷に対して圧倒的耐性を誇る影辰でなければ、この宝具が発動した瞬間に動きを封じ込められていただろう。
「影辰さん!」
石柱により視線が遮られ、不安に駆られた藤丸が大声を出して彼の名を呼ぶ。
「大丈夫だ。それより、魔力を少しばかり多く貰っていくぞ」
彼女の心配を他所に力強い返事を返すと同時にマスターから魔力を普段より多く持っていく。それら全てを身体強化に使い、石兵八陣のカラクリを知能で解くのではなく、目の前の石柱をがむしゃらにぶん殴る事で踏破しようとしていく影辰。
「……脳筋具合に拍車がかかってないかアイツ」
その行動に素が出るほど呆れるエルメロイII世だったが、即座にアレキサンダーに指示を出しブケファラスに乗った若き王が臣下の友と刃を交える事となる。石兵八陣によって、有利な環境をブケファラスの機動力を活かし縦横無尽に駆け回るアレキサンダーと軍師の息が合った攻撃を単純な力と、戦闘センスを持って抗う影辰。それでも決して浅くない傷が次々とその身体に刻まれていく。
「……ふぅぅ」
「空気が変わった?……先生!」
「あぁ、分かっている!!畳み掛けるは今だ、その男にやりたい事をさせるな!!」
ブケファラスに乗ったアレキサンダーが一度、大きく距離を取り魔力を高める。腰を深く落とし、石柱へと正拳突きを放とうとしている影辰へ向けて宝具を高らかに謳う。
「いずれ、彼方に至るため──
真名解放によりその力を解放したアレキサンダーとブケファラスが影辰に迫るその刹那──
「令呪を持って命じる!マシュ、影辰さんを守って!!」
「はい、先輩!!」
軍師の力に兵が含まれるのなら逆もまた然り。兵である影辰を守る為に、軍師である藤丸は令呪を使いマシュを強化し影辰と背中を合わせる様にマシュが降り立ち、その盾でアレキサンダーの宝具を防ぎきってみせた。
「あとはお任せします!」
「おう。ありがとな、マシュちゃん」
返事と共に轟音が響き渡り石兵八陣が粉々に砕け散る。巻き上がる石埃の向こう、己に迫る影辰を見ながらエルメロイII世いや、ウェイバーは悔しそうにしながら握り拳を作り構える。そこに軍師としての姿はなく、ただ友に負けたくない一人の漢の意地があった。
「ぐあっ!」
「良い拳だ」
影辰の拳は思いっきりウェイバーを殴り飛ばし、ウェイバーの拳は影辰の頬にぺちっと軽い音を立てた。全てを出し切り、清々しい気持ちで青空を眺めていたウェイバーへと近寄り影辰は手を差し出しそれをウェイバーが掴み、立ち上がった。
「あー、負けた負けた!たくっ、サーヴァントになった今ならもう少しやれると思ったけど戦闘に関しちゃお前が上だな」
「抜かせ、俺一人の勝ちじゃない。マスターとマシュちゃんのお陰だ。頭の良さじゃ、どう足掻いても勝てねぇな」
互いを称え合う様に背中を叩き合うと──ウェイバーは咳き込んでいたが──時間が来た様でアレキサンダーとウェイバーの身体がキラキラと光を放ちながら魔力へと変わり始める。元より野良サーヴァントの二人、ネロと戦いその後休憩もなく影辰と戦った事で魔力が枯渇した様だ。
「なんだ、協力してくれないのか?」
「そちらに呼ばれれば手を貸すさ。此度は、私も王も満足してしまったからな」
「そうか。んじゃ、仕方ないな。待ってるぞウェイバー」
「あぁ、お前と肩を並べる日を楽しみにしているよ影辰」
パンっとハイタッチの音を響かせ友を見送った。二人の間に悲しみも寂しさもなく、『まぁ、また会えるだろう』そう確信して別れる。そんなまるで青春の一ページの様なやり取りをした後、捕らわれていたブーディカを救い出すといよいよカルデア一行は黒幕であるレフ・ライノールと再会する事になる。神祖、ロムルスを破ったカルデアの前に彼は現れた。
「いや、いやぬおっ!?!?」
「チッ、油断してれば首の一つでもへし折ってくれたものを」
『……ンンッ、久しぶりねレフ。王の危機を無視するとは、裏切り者はどこまでいっても裏切り者ね。それと影辰、怒ってくれるのは嬉しいけど彼からは聞きたいことがあるから話を終わらせた後にしてくれる?』
「……分かった」
オルガマリーに嗜められる形で不服そうに影辰はレフの首をへし折ろうと未だに伸ばしていた腕を下げマスターの元へと戻る。こういうところがバーサーカー足る所以なのだろう。
『さてと、ねぇレフ。貴方の後ろに居るのは誰?まさか、貴方一人で人理焼却なんて大事を引き起こした訳じゃないわよね?』
「それを答えると思うかね?全く、抵抗しても意味がない、既に結末は定まっているというのに。そんな事すら分からない無能は問いかけすら無能だな!やはり、君はあの時に死ぬべきだったよ!そうすれば、この様に生き恥を晒す事はなかったのだからね」
かつて己が最も信頼していた者に嘲笑われながらもオルガマリーは、毅然とした態度と声で言葉を紡ぐ。
『そう。本当に堕ちるところまで堕ちたのね。それと、勘違いしないでレフ・ライノール。貴方は私達、カルデアの命を全て奪えなかったまだ生きている者がいる。なら、未来は誰にも分からないわ……生き恥を晒さないと良いわね?』
「ふっ」
見事に煽り返されるその姿を見て影辰が我慢出来ないと言った様子で吹き出す。それに顔を赤くしながら、レフは真の姿を現した。人理焼却を目論むもの、七十二柱の一柱、フラウロスとしての姿を。だが、諦める事をしないカルデアはこれを見事に撃破、続いて召喚されたアルテラによってレフは両断され聖杯は彼女の手に渡った。ローマの首都へと向かう彼女をカルデアは全力で戦い、そして
「今だ、ネロ皇帝!」
マシュがアルテラの攻撃を防ぎ、生じた隙に影辰がアルテラを背後から羽交締めにし拘束する。そこをネロ皇帝が一閃し、見事にアルテラを撃破する事に成功。無事に第二特異点は修復される事となった。
「あ、影辰さん!お疲れ様です」
「あぁ、マシュちゃんお疲れ。あ、そうだ特異点では助かったよありがとう」
「い、いえ先輩の指示に従っただけですからお構いなくってきゃっ!?」
「そこは素直に受け取って良い場面だぞ。マスターには会った時にお礼する。俺は君に助けられたと思ったから礼をしているんだ」
「……はい。ありがとうございます」
「マシュちゃん、お礼を言われた時の返事は?」
「どう、いたしまして……」
「ん。よく出来ました」
「……良いなぁ、私も頭撫でられたい」
「素直に言えばアイツは撫でてくれると思うぞオルガマリー・アニムスフィア」
「うわぁぁ!?ロードエルメロイII世!?」
以上、第二特異点攻略後の一コマである。
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