念のため閲覧注意です。
今日はプラネテューヌ教会初出勤。念願の国家公務員だ! 厳しい試験に合格するために歯を食いしばりながら猛勉強した日々を思い出し感慨深くなる。
私が配属されたのは諜報員。志望していたのは教会職員だったのだが、私の影が薄いところと運動神経が良いところが諜報員としての適正があったとのこと。第一志望が通らなくて残念な気持ちは無くはないが、教会で働けるのならば配属先などどこでも良い。
そういえば、今年から採用された諜報員は、私ともう一人いるらしい。どんな人なのだろうか? 諜報員を元から志望していた人らしいから、暗殺者みたいな見た目をした厳つい人かもしれない。もしそうだったら怖いなぁ……
「……あら、あんたが同期の○○ね」
そんなことを思っていると、後ろから声をかけられた。振り向いた自分の目に映ったのは、茶髪のロングヘアーに双葉のリボンをつけ、ぶかぶかのコートを羽織った少女。少女といっても小柄なだけで私と年齢はあまり変わらないだろう。厳つい暗殺者じゃなくて可憐な少女で良かったと安堵した。
「なんでそんなに安心してるのよ?」
……おっと、顔に出ていたらしい。
「……まぁいいわ。私はアイエフ。せっかく同期なんだし、仲良くしましょ」
これがアイエフさんとの出会いだった。
*
プラネテューヌの諜報員は人材不足だったようで、片手で数えられるほどしか人員がいない。
イストワール様曰く、国同士の守護女神戦争が盛んだった昔は諜報員も仕事が多かったため人員も多かったのだが、今の女神様、つまりパープルハート様の代になってからは、守護女神同士があまり敵対することがなくなり、他国との関係も良好になり、諜報員の仕事も減ったことで人員も減ったとのこと。
「……はい、私の勝ち」
話は変わり、今私は同僚のアイエフさんに模擬戦でボコボコにされている。
彼女は見た目からは想像できないほどとても強い。教会における戦闘力では女神のネプテューヌ 様と女神候補生のネプギア様に次ぐぐらい。
そこまでは良い。問題なのが私もそれなりに戦闘の才能があったらしく、それでアイエフさんに目をつけられ、ここ最近はずっとアイエフさんにしごかれているのだ。
アイエフさん曰く「ネプ子とネプギア相手だと勝てないから、私が勝てるぐらいで尚且つ訓練にもなる丁度良い強さの相手がいて助かる」とのこと。付き合わされる私はたまったものじゃない。空いている時間はアイエフさんとの模擬戦に付き合わされ、ずっと地面を転がされている。
「アイエフさんは強いなぁ……」
「あんたも悪くないわよ。それよりも、いつになったら私にさん付けするのやめてくれるの? なんか距離感じて嫌なんだけど」
「……じゃあ、あいちゃん?」
「ひっぱたくわよ?」
「でも、ネプテューヌ様とコンパさんにはそう呼ばれてるよ?」
「やめてっつっても呼び続けるから諦めたの」
「じゃあ呼び捨てでいい?」
「構わないわ」
「……アイエフ」
「よくできました。さ、少し休んだから訓練再開しましょ」
「えっ……もう疲れたんだけど……」
「弱音吐かない。諜報員は少ないんだから、少しでも戦力は多い方がいいわ」
「私はアイエフみたいに強くなる気ないし、最低限の自衛力さえあればいいよ」
「何言ってんのよ。ほら、さっさと構える」
……うん、逃げよう。
アイエフとの訓練が嫌なわけじゃないし、私に期待してくれている気持ちは嬉しいんだけど、こうもボロ雑巾にされ続けると心にくるものがある。
「あっ! こら! 逃げるな! 待ちなさい!」
アイエフの静止の言葉を無視して一目散に逃げ出す。
「上等じゃない……! 『ゲイムギョウ界に吹く一陣の風』から逃げられると思わないことね!」
何その通り名? ……って速っ!
やばいやばい、このままじゃ捕まってまたボロ雑巾にされる!
「あはは! あんたの魂、冥界に送り返してやるわ!」
うわ、なんかすごく楽しそう……じゃなくて、逃げろ逃げろ!
この日はこんな感じでずっとアイエフから逃げていた。正直疲れたけど、それ以上に楽しかった。年甲斐もなく追いかけっこではしゃいでしまったな。
……そんなことを繰り返しているうちに、歳も近いこともあってアイエフさんと仲良くなり、仕事の話だけではなく、趣味や休日何してるかなどの話もするようになった。休日もアイエフさんと遊びに行くことが増えた。
*
最近、巷で『犯罪組織マジェコンヌ』という名を多く聞く。『犯罪神マジェコンヌ』を信奉する宗教団体で、違法コピーツールである『マジェコン』を世界中に広め、女神様のシェアを奪っているとのこと。
犯罪組織の活動を日々拡大していき、教会だけでなく国を超えた対策が取られた。
しかし、最悪の事態が起こった。
パープルハート様とパープルシスター様が他の国の女神様達と共に、犯罪組織壊滅のために奴らがアジトとしている『ギョウ界墓場』へと乗り込んだが、犯罪組織の四天王に敗北し囚われの身となった。
教会は慌ただしくなった。イストワール様も平静を装っているが、焦燥しきっていた。教会職員の中には女神様の敗北に絶望し、退職する者もいた。
女神様が捕まって数年後、ついにイストワール様とアイエフにより救出作戦が組まれた。作戦内容は『ギョウカイ墓場』に乗り込み、シェアクリスタルで女神様を救出するというもの。
危険な任務だからか出動要請はされなかったが、私は自分からそれに志願した。女神様を助けたい気持ちもあるが、そんな危険な場所にアイエフとその親友のコンパさんだけで行かせたくなかったという気持ちの方が大きい。
任務が開始され、ギョウカイ墓場に到着した。怨念のような瘴気が渦巻く死の大地。正直言って怖い、帰りたい。けど、教会員として為すべきことを為さねばならない、と自分に言い聞かせる。
ギョウカイ墓場を歩くこと数十分。遂に女神様たちを見つけることができた。女神様たちは触手みたいなコードに絡みつかれて捕まっていた。
「ひどい……」
「とりあえず助けましょう」
私たちが女神様を助けようと近づくと……
「そうは、させるかああああーー!」
……犯罪組織マジェコンヌ四天王のうちの一人『ジャッジ・ザ・ハード』に見つかった。
私とアイエフで奴を引きつけ、その間にコンパさんが女神様たちを救出することにした。
正直勝てる気がしない相手だが、私たちの目的はこいつを引きつけることだけ。倒す必要はない。
「見せてやるわ! 私たちのコンビネーション!」
「えっ」
今さっき倒す必要はないと言ったばかりだが、どうやらアイエフは倒す気満々な様子。マジかよ……
「何年もこんなところで見張りをしてて退屈だったんだ…… 楽しませてもらうぜええええ!」
なんか敵もやる気だし。アイエフはともかく、私と戦っても面白くないですよ……?
「私は右から攻めるわ! あんたは左から!」
「りょ、了解……」
ジャッジ・ザ・ハードの鎌のような斧のようなどでかい武器による大振りの攻撃を上手く掻い潜り、アイエフのカタールと私のダガーで少しずつダメージを与えていく。
「ちぃ……っ! やるじゃねえか! へっへっへ、楽しくなったきたぜえええ!」
……しまった。私たちのコンビネーションが上手くいきすぎて、逆に相手のやる気を出させてしまった。コンパさんによる女神様たちの救出が終わるまで時間いっぱい逃げ回ろうと思っていたのに、これではもう戦うしかない。
けど、何故だろう。怖いはずなのに、少し楽しくもある。アイエフと力を合わせれば負ける気がしない。
「オラァッ!」
「うわっ!」
……と思ったけど、敵の武器が自分スレスレの位置の地面を抉ると負ける気しかしなくなった。
ほんとごめんなさい、調子に乗ってすみませんでした。
「あいちゃん! ○○さん!」
「コンパ! そっちは済んだのね……ってネプギアだけ?」
「シェアクリスタルの出力が足りなくて、ぎあちゃんだけしか助けられなかったです……」
「ごめんなさいアイエフさん……」
「いや、責めてるわけじゃないわよ」
よし! 任務完了ってやつだ。女神様を一人しか助けられていないが、シェアクリスタルの出力が足りないならどうしようもないのでしょうがない。不可抗力ってやつだ。
「とりあえず逃げましょうすぐ逃げましょうさぁ早く逃げましょう」
アイエフに撤退を提案する。そりゃもう本気で撤退を提案する。
教会員として為すべきことを為すって言ったけど、もう為すべきことは充分為したでしょ⁉︎
「……」
アイエフが何か言いたそうにジト目で睨みつけてくるけど、しょうがないじゃん。流石に勝てないよこんなやつ。
「……そうね、一先ずは撤退しましょ」
どうやら納得してくれたようで安心。
「逃がすかよぉおお! やっと楽しみを見つけたんだ! もっと戦おうぜええええ⁉︎」
逃げようとする私たちをジャッジ・ザ・ハードが当然追いかけてくる。
「くらえ、光魔法!」
アイエフから教わった光魔法『ラ・デルフェス』を自分なりにアレンジし、攻撃性能をほぼ全て捨て、目眩しに特化させた魔法を放つ。
「うわぁぁっ! 目がぁ! 目がぁあっ!」
上手く目眩しが決まり、奴の動きを止めることに成功した。カウンターを考慮し、それ以上攻撃は加えず、私たちはあくまで逃げに徹する。
「あんたそういう戦い方は得意よね」
「弱者の知恵ってやつかな」
「何よそれ」
こうして私たちの女神様救出任務は一応成功した。
教会に戻り、ネプギア様を休ませた後、アイエフと二人きりになると、申し訳なさそうに声をかけられた。
「さっきは悪かったわ。熱くなっちゃって、わたしだけじゃなくてあんたも危険に晒したわ。あんたが冷静に逃げるって選択肢を取ってくれてなかったら全滅してたかも……」
必死こいて逃げようとしてたことを咎められるんじゃないかと思ってヒヤヒヤしていたけど、まさか謝られるとは思わなかった
けど、冷静っていうのは違う。アイエフに対して見栄を張る気なんてないから、自分の思いのままを伝えよう。
「冷静だったわけじゃない、私は臆病なだけだよ。いつも勇敢なアイエフが引っ張ってくれていてこっちが助かってるよ」
「……それが臆病でも、自分の実力に応じた立ち回り方ができるのは誰にでもできることじゃないわ」
褒めすぎだと思うけど。ここで否定しすぎるのもなんだし、とりあえずその言葉を素直に受け取っておこう。
「だから、私が熱くなりすぎた時はあんたが私を落ち着かせてよ」
「わかった。頑張るよ」
「ふふ、ありがと」
*
そんなこんなで、救出したネプギア様がめちゃくちゃ活躍して他の国の女神候補生たちと協力し、女神様たちを救出し、復活した犯罪神マジェコンヌまで倒した。
やっぱ女神様ってすごい、改めてそう思った。
犯罪組織残党の掃討も日々進んでいる。この調子でいけばすぐに犯罪組織を壊滅させることができるだろう。
今日は久々に休暇を貰ったので、アイエフを誘って一緒に街中を歩いていた。「アイエフとデートだ」と冗談を言ったら「ひっぱたくわよ?」と言われた。手厳しい。
「ねぇ○○」
「なに?」
「正直、あんたを最初見た時は頼りなさそうなやつだって思ったけど、そんなことはなかったわ。信頼してるわよ、相棒」
「相棒……?」
「嫌だった?」
「いや、むしろ嬉しい」
「そう、ならいいわ。これからもよろしく頼むわね」
相棒……アイエフにそう言ってもらえたことを思った以上に嬉しく思っている。
正直、教会員になろうと思った理由は女神様への信仰心ではなく国家公務員という肩書きだったけど、最近はこの仕事にやりがいを感じている。何より、この
…………そうか、私はきっとアイエフのことが好きなんだ。
「どうしたのよ? 私のことじっと見て」
「な、なんでもない」
それを自覚すると急にアイエフを見るのが恥ずかしくなってしまった。
「……ん?」
アイエフから目を逸らすと、ふと挙動不審な人物が目に入った。
「……」
不審者は私たちを見ていて、その視線からは明らかに殺気を感じられ、手には魔法を構えていた。
やばい……!
アイエフはまだ気付いてない、そして隠れる場所もない。
「……っ! アイエフ!」
だから、こうするしか思いつかなかった。
「……きゃっ!」
自分の背中で隠すようにアイエフを抱きしめる。そして、無防備な私の背中に、魔法のエネルギー弾が炸裂した。
「……えっ?」
「ちっ、一人だけか……っ」
今ので魔力を使い切ったらしく、その不審者は逃げて行く。
おそらくは犯罪組織の残党で、教会員である私たちを暗殺しようとしたということだろうか。
確かに、犯罪組織残党狩りは女神様よりもアイエフや私たち諜報員の方が積極的に行っている。だから、そいつらの恨みを買っていてもおかしくはない。
「かは……っ」
殺すつもりで放たれた魔法をモロに喰らえば無事で済むはずはなく、衝撃で内臓までズタボロになり口から血が流れ出る。背中がどうなってるかなんて考えたくもない。
「血……? 嘘、何で……?」
ずるり、とその場に倒れ込む。
あ、やば、これは死ぬ。死ぬってわかる。
体の外も中もボロボロのはずなのに痛みがないんだもん。
何か言い残すべきかと思ったけど、下手なことを言えばそれはアイエフにとって呪いになりかねない。だからこのまま黙って息耐えればいい。
「嫌……目を開けてよ……! ねえ!」
意識が途切れていく。
ここで終わりかぁ……
良い人生だったのかなぁ? 若すぎてわからないや。
まぁでも、
「ぁ……ぁぁ……」
こうして、私という人間の生涯はここで幕を閉じた。
「……嫌ぁああああああああッッ‼︎‼︎」
『アイエフと同期の諜報員になってアイエフの目の前で死ぬ』
-終わり-
主が死んだ後を書こうと思ったけど蛇足なのでやめました。