R-type the endless danse   作:桜エビ

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月が地平から顔を見せ、子供たちは腰を下ろす

「…どうしてここに俺がいる?」

 

思わず俺は呟く。

 

ここはコロニーの一般人居住区画の街にある、人気のレストランだ。

ここは俺も気を紛らわしに来ているので、問題点はそこではない。

目の前の席には、先日助けたクリアアイズ4のコパイロット、イノノキ・トウゴとそのガールフレンドがいた。

俺の隣にはパイロットのクラウス・シンシア。この4人だ。

 

「だからぁ!俺達は助けてもらったんだ、早期警戒機の俺達じゃあ戦闘中には余り借りは返せないからな。こういう場でないと。」

 

だからって彼女との埋め合わせと同時並行でやるな。そう思わずにはいられない。

こちらとしては非常に気まずい。ひたすら気まずい。

 

「私からもお礼を言うわ。デートが潰れただけじゃすまなかったかもしれないんでしょ。」

 

「…ぁ、ああ。」

 

…トウゴがトウゴなら、彼女も彼女というわけか。あまり気にしていないようだ。

諦めて素直に受け入れる。

…隣のクラウスも苦笑いだ。

 

「にしても、あなたが噂のエアロファイターさんね…昔のジェット戦闘機みたいな戦い方をして、敵を墜としまくってるってパイロット」

 

「…話したのか?」

 

「いや、俺は話したことないぞ?」

 

彼女が俺のあだ名、TACネームを知っているとは驚いた。

俺のことを知っているのはミリタリマニアぐらいだと思ってたのだが…

 

「結構いい男よねぇ…トウゴったら、私を取られると思ってあまり話してくれないのよ?エアロファイターさん?」

 

「な、そんなことはないって!」

 

前言撤回、これはトウゴが質の悪いサキュバスのような女に引っ掛かっただけだ。

机の向こう側から乗り出して俺を品定めするように見る彼女の目は、確実にこちらを撃墜しようとロックオンしている。当然俺のアラートも鳴り出して止まない。

明日死ぬかもしれない俺達が、こういうのに引っ掛かってしまうのは多少仕方ない事ではあるが。

 

「…その呼び方は好きじゃないんだ。ミナモト・キョウヤ大尉相当官、そっちで呼んでくれ」

 

「あらそうなの、私はクレア・ミスティーナ。」

 

攻め方を間違えたかしら?

そんな心の声が聞こえそうな、ちょっと残念と言わんばかりの表情で乗り出した体を戻す。

ちょうど料理も運ばれてきたところでもあった。

 

「…クレアさん、だったか。」

 

「何かしら?次のお誘い?」

 

「おい待て!お、俺は!?」

 

どうやら完全にこっちに目が向いてしまっているようだ。

トウゴが浮気されそうで大変心苦しいが、幸いそうではないので安心てもらいたい。

 

「違う、俺達が何者か知ってるんだろう?」

 

「そうね、もし生き続けてもらったら先にこっちが逝っちゃうくらいは。」

 

どうやら、充分こちらを理解していて、なおというわけか。

俺達はまともじゃない、それが将来的に破局の理由になるのでは俺達まで傷つく、そんな気がした。

まあ、相性的にはどうかと言われたら自信がないが。

 

「そうか、なら思った以上の心配はなさそうだ。」

 

「な、なんだよぉ……」

 

「トウゴ、お前はもうちょっとどっしり構えてろ。」

 

トウゴはおちゃらけてて人と話をしたり交流関係を持つことが趣味と言ってもいい。

それゆえ、破局すると分かっている恋愛も毎度凹みながらやめられないのだ。

正直もっと芯がしっかりしていれば長持ちすると思わざるを得ない。

…正直、女性経験がない筈の俺に、この発想が何処からきてるのか俺にも分からないが。

 

そのまま話を交えつつ、食事が進んでいく。

俺は戦闘の話しか持ちえなかったが、どうやらクレアはむしろそれがいいらしい。

武勇伝、というと自分としては小恥ずかしいが、そういうのも俺を求める理由の一つなのかもしれない。

 

「こんな時間か。すまない俺は先に失礼する。」

 

「何かあるのか?撃墜された療養休暇だろ?」

 

「エースは撃墜されると研究に回されるんだ。撃墜した奴がどんなことをしてたかとかな。」

 

そういいながら、俺は席を立ってカバンから財布を取り出す。

しかし、その直後にクラウスに手を掴まれ止められた。

 

「おいおい、今日は俺達のおごりだって。」

 

「…そういえばそんな話だったな。じゃあ、お言葉に甘えるよ。」

 

財布をしまいながら、その場を後にする。

こちらとしては、被弾させてしまったのだから正直おごられるのはあまりいい気がしない。

今度なにかおごってしまおうか。

そんなことを考えながら、俺はコロニーの中を繋いでいるモノレールの駅へと歩みを進めていった。

 

 

「―ええ、報告書にも記載されていますが、理性を感じない追撃と、自機の慣性制御の恩恵をパイロットからすべて機体に譲渡するという異常性。ウォーレリック社はこの試作機を用いて何かしらの技術の実践データを収集していたと思われます。」

 

マクガイヤー社の上官の前で、敵試作機と思われる敵機の交戦における報告。事実上の二度目のデブリーフィングに俺はいた。

ホログラムに表示されるフライトレコーダーとカメラの映像を必要に応じて切り替えながら話を進めていた。

 

「理性を感じない追撃は、確かに新人ではやりがちなことですが、次の慣性制御の譲渡という発想は新人では生まれません。ここに矛盾があります。」

 

「とは言ったものの、君もまた異常なマニューバを繰り返している。それについて行こうと行った、対抗的な奇行だったとも考えられないかね?」

 

「…だとよかったんですが…私が撃墜される直前のマニューバ。あ、これです」

 

ホログラムに表示されるデータが、すべて俺の撃墜前までのものに変化する。

複雑に入り混じった自機と敵の機動を描いた線が表示され、カメラも敵に機銃を撃とうとした瞬間のものが映っていた。

 

「これ、私もやった経験があるのですが、大抵の場合ここまでGがかかると、慣れていなければ気絶したり機体のコントロールを失います。慣れてくると逆に制御を確実に手放さないようにするため、程度によっては完全移譲はしません。しかし、この機体は不必要なまでに慣性制御を機体に対して行っています。」

 

「…ベテランなら加減できただろうがしていない。だが素人が見様見真似でやって、それで成功と辻褄をあわせようとすると、違和感があるわけか。」

 

「もちろんこの試作機が、ザイオング慣性制御システムにおいても多大な出力向上を可能にした試作機という線も捨てがたいです。ですが、そのためにR-13Tを素体とするのはいささか違和感を感じますね。」

 

全員が唸る。

不合理が通った機動を行われ、自社のエースが死にかけた。

利益を求める会社としては、これが配備された時の損失を考えると対策は必須。その損失が、たとえ替えの利く消耗品だとしても、少ないに越したことはない。

いや、これが発生させる損害は軽く見積もってもそんなものでは済まない。

それゆえ今回の報告は必要だったのだ。

 

「…そういえば諜報部が掴んだ情報、いや、確実性はかなり低い物ですが…いいでしょうか?」

 

「ああ、かまわん。」

 

集まっていた上層部のうちの一人が、その情報の信頼性に自ら疑問を持っていると思える口調で周囲に発言の許可を求め、この場の最高責任者であった副支社長が許可をした。

 

「―それが………」

 

 

 

「んぅ…!」

 

数時間ぶりの外の空気―コロニーの中なので語弊はある―を吸いながら伸びをする。

堅苦しい場はやはり慣れない。

 

ここはオフィスから出て少しのところにある展望台のような場所。

あたりは既に夕暮れ時で、春前ということで少し肌寒く感じ始める時間帯だ。

コロニーだから常に適温でもいいと思うのだが、そうすると体内の年単位のリズムが崩れて不調になるのが人体のままならないところだろう。

 

「やはり、コックピットの方が性に合うかい、キョウヤ。」

 

「…艦長」

 

後ろから声をかけてくる男は、ラリー・アデクス艦長。

俺達の母艦の艦長を勤めていて、俺を最初から見てくれている存在だ。

 

 

「…ええ、そうですね。まさか副支社長が来るとは思いませんでした。」

 

「それだけお前の存在がデカくなってるってことだ。ほれ。」

 

「…いただきます」

 

そういいながら手すりに手を置いて寄りかかり、労いと言わんばかりに缶コーヒーを手渡してくれた。

その好意を受け取り、俺は静かにタブを開ける。

 

「例えデカくなっても、俺はスコルです。経験を失うのは大きいかもしれませんが、似た物は作れるはずです。」

 

「経験こそ、消耗品が消耗品でなくなる要素の一つだよ。R戦闘機の初期経験はラーニングさせられるとはいえ、お前のような特異個体は本来戦場に出したくないのが上の考えだろうよ。」

 

そこで艦長はコーヒーを一啜りして、温まったことを実感するように息を吐く。

コロニー中央の人口太陽は徐々に光を落としていき、夜へと切り替わっていった。

 

「…本当に一生パイロットのままでいるつもりか?」

 

「それが生きがいですから。スコルは老けない。だから死ぬまでパイロットができる。」

 

それ以外の人生は考えられない。

俺の意見は変わらないと主張したくて、話を切るように俺もコーヒーに口をつけた。

正直、生まれたばかりの時はコーヒーの良さが分からなかった。

そんな俺も、姿が変わらなくとも7年をかけてこれが好きになった。

スコルにとっても、時の流れは押し寄せる物だと感慨に浸る。

 

「…任期を終えた者の特権がなければ、上層部はとっくにお前を教官に昇進させてただろうなぁ。」

 

任期。

作られた兵士である俺達が、兵士を辞められる時。

戦いを押し付けた人々にも罪悪感があったらしい。

5年戦い続けてなお生き延びた者には、戦場から離れ一般人と同じ生き方をできる権利を得られる。

だが俺はもう7年戦い続けている。

何故なら―

 

()を飛び続けられないというなら、喜んで辞退しますよ。」

 

「俺も死んだ目をするお前を見るくらいなら、首差し出してもお前をうちに居させるさ。安心しろ。」

 

「やはり…感謝しかないですよ。艦長。」

 

俺が飛び続けることを生き甲斐としていることに理解を示してくれていること。

そのための居場所をずっと作ってくれていること。

なにより、空戦に魅入られた俺に、大気圏内でかつての戦闘機と同じ挙動を再現できるR-9A2を近代化させて手配してくれたこと。

そのすべてに感謝して、俺は今も飛んでいる。

 

「いいってことさ。俺はお前のファンだからな。」

 

出会った頃より皺の増えた顔で、彼は微笑みかけてくれた。

 

 

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