R-type the endless danse 作:桜エビ
書き溜め居たのですが、次の話に苦戦していたのとドッグファイト描写の難しさから筆が止まった直後、色々リアルで発生していたので完全に止まっていました。
取り敢えず書き溜め分を加筆修正してお送りすることになります。
次話も頑張ります…
「後ろには…ついた!」
俺はスピードを維持した狂犬の背後につくまでは成功した。
だが、敵は何度も切り返し、必殺の配置につくことを拒んでいる。
フォースをつけているとはいえ、不用意にその場でこちらに機首を向けないあたり、学習されているなと感じる。
速度を緩めず、こちらの隙を伺っている。
だが、ここは俺が乱戦に持ち込んだ宙域。お互い好きに飛べる空間ではない。
『…ッ!』
蛇行を続けていた狂犬が右旋回から左旋回に切り替えようとしたところで、狂犬の友軍機であるR-9D2の、流れ弾じみた圧縮波動砲に進路をふさがれて、直進に近い軌道を取らされる。
「今…じゃないっ……!く、そ。ままならない…!」
それを好機と見た俺は機銃の射線上に狂犬を捉えようとしたが、照準に入りきる直前で爆炎に煽られ敵機を視認できなくなる。
その隙に敵は俺の真似をしたような、慣性制御を機体に渡した急な宙返りで俺の後ろを取りにかかる。
この機動をモノにしたのか、以前よりかは無駄のないコントロールだ。
爆炎の衝撃で制御が僅かに鈍った俺は反応が遅れ、左に
しかしそのまま急旋回に喰いつかれ、後ろをほぼ取られた状態が続くことになってしまった。
「…しまった!」
立場が逆転し、俺が逃げ回ってあいつが追い回すことになる。
そこで、俺はずっと左回りに旋回し続けた。
機体の運動性は恐らくこっちの方が高い事。そして切り返せば一時的に敵の射撃範囲に入ることになり、ライトニング波動砲の餌食になることを考えてだ。
ライトニング波動砲は、照準を手動で付ける必要はない。範囲内に敵を捕らえた状態で解放すれば、勝手に敵が落ちる。
その範囲内に入ることだけは避けねばならなかった。
「…悪いが利用させてもらうぞ。」
ふと視界端、進行方向の近く上方に敵のR-9Kが移りこんだ。
旋回に上昇を加える――ハイヨーヨーとも呼ばれる機動に似た動きをする――ことでR-9Kを進路上に持っていき、ミサイルを撃ち込んだ。
不意打ちを喰らい、爆散するR-9K。
その爆炎を、機体の姿勢を変えずに慣性制御を利用した
敢えて左旋回をやめて直進を続けることで、敵の視界から俺の機体は爆炎で隠れ続ける。
敵は爆炎から黒煙の塊になったそれに突っ込んだ。
それは、こちらの読み通りだ。
視界が一時的に0になった瞬間に、俺はバレルロールを一周ではなく敵と頭上を取り合う形で止める。
キャノピーの上、真ん中に狂犬を捉える。
僅かにまだこちらが押し出され気味だが、予想通りとそれも受け入れる。
昔の空中戦なら、ここからシザース機動でチャンスを狙っただろう。
シザース機動とはお互いに急旋回して交錯を繰り返す機動で、重力やその他条件で交錯するたびに後ろを取れる側が入れ替わる形になる機動だ。
だがここは静止衛星軌道からも遠い超低重力宙域。
上という概念は、この宙域ではあくまで地球の北、北極星のある方向という意味でしかない。
つまり、位置エネルギーという概念はほぼ無視できる空間。ここでのシザース機動は旨味はなくはないが少ない。延々と敵の目の前を横切ることになるかもしれない。
ならどうする?
俺が出した答えは力技だ。
「ぐんぅうううううう!」
かつてコブラと呼ばれた特殊マニューバ。
R戦闘機なら、そこまで変わった動きではないかもしれない。
信じられないほどの急減速だという部分を除けば。
進行方向に機体の腹を見せるように、機首を狂犬に向け瞬時に下げる。
それと同時に姿勢制御用バーニアと慣性制御で、空気抵抗を再現するように機体を急減速させる。
―捉えた
機首が完全に狂犬に向く。
それに合わせて機銃と20%程度のチャージをした波動砲を撃ち続けた。
波動砲が、奴の機体右側面を持っていった
機銃もいくらか当たったようだ。
敵は機体を左右に揺らしてこちらの狙いを外しにかかるが、こちらもコブラを解除。狂犬に機首を向け続けながら、逃げに入った狂犬の後ろに移動するまで撃ち続けた。
しかし、揺れるように動く敵に当てるのは難しく、最初の攻撃以外は当たらなかった。
攻撃は切り上げ、敵の後ろから離れないように機体を制御していた。
だが、敵はこの小休止めいた俺の隙を見逃さなかった。
敵は今度は360度バレルロール。
パイロットの慣性制御をギリギリに絞った、例の急激な機動。
先程急激にGのかかる機動をしたばかりで、敵の後ろを確実に取ろうとしていた俺はそれに反応が追いつかなかった。
「くそっ!」
操縦桿を左前に引く。
左に回避した俺のすぐそばを狂犬のフォースが飛んで行く。
フォースシュート。基本的に破壊できないエネルギー体であるフォースは、衝突すれば必ず相手が破壊され無傷のフォースが残るということになる。それを利用するため、フォースを射出し衝突を狙う攻撃。
しかし、これはブラフだったか。旋回が甘かったのか、後ろに食らいついてくる狂犬。
波動砲のチャージを検知した機体COMがアラートを鳴らす。
このままでは確実にライトニング波動砲が俺を撃ち抜くだろう。
一か八か、俺は可能な限り全力で右に切り返した。
激しいGが機体を軋ませ、体が悲鳴を上げるが無視し続けた。
しかし、賭けはほぼ負けたらしい。
狂犬の機体側面に近い位置にいた俺に、回り込むように追尾してきた稲妻が突き刺さる。ここはまだライトニング波動砲のギリギリ射程内だった
不完全なチャージとはいえ機体装甲は破壊できる出力はあった。
俺の愛機の左ブロックが大きく抉れ、エンジンが火を噴いた。
衝撃に俺は激しく揺さぶられ、意識が途切れ―
◇
レストランのディスプレイに、宇宙とそこに散らばる閃光が映る。
少しして画面が切り替わり、公開情報となった今回の両者の作戦内容と進軍経路が示された図へと切り替わる。
そのディスプレイが見えるテーブルで、一人座る女性がいる。
クレア・ミスティーナ、先日キョウヤ達と共にいた女。
「まさかここまで出来る子がいたなんてね……案外、彼の時代が来てるのかしら。それとも彼を超えるパイロットが現れたってこともありうるわね……」
彼女の手持ちの端末でもまた、今の戦闘が流れていた。
そこに映っているのは、戦場の様子。
遠方のカメラから望遠モードで捉えている、アンティークが主体の戦場の中でさらにアンティークのR-9A2+とR-13Tの激しいドッグファイトの様子だった。
レストランのモニターもそこに切り替わり、モニターを見ている人々はそのドッグファイトに見入っていた。
そして今、その画面の中で稲妻がR-9A2+の側面を捉え、左エンジンの機能を低下させていた。
「…まくられた…本格的にまずいかしらね。」
少し深刻そうに、だが心配は言葉ほど感じない様子で呟いた。
どちらも中破状態、次に派手な攻撃を喰らったほうが墜ちるという状態。
その様子に、魅了された者達はモニターから目が離せない。
ショーとしての戦争で、キョウヤが持つ潜在的人気は彼の想像を遥かに超えるほど高い。
元々この戦争そのもののファンであったクレアは、ある日見つけた彼に深く興味を持った。
トウゴを彼氏にした理由に彼がいたわけではない、むしろ後になってトウゴがキョウヤと同じ飛行隊に属していたことを知ったのだ。クレアにとってトウゴがキョウヤの戦友であることはうれしい誤算と言ったところ。
その彼が、今にも負けそうなのだ。
左エンジン損傷、これは機動戦において大幅なハンデを負わされる。
その状態でいくら敵も損傷しているとはいえ、ほぼ互角のドッグファイトを行った敵を相手にするのだ。
…いや、それ以前に
「――ああ、制御すら……」
きりもみするように回転しながら慣性に任せて直進、まるで墜ちていくような姿に彼女も含めて皆エースは撃墜されたのだと落胆する。
敵に新しいエースが生まれ、それに敗北した――
その筋書きを完成させるように、敵のR-13TがR-9A2+に追撃をかける。
確実な撃破。それを相手は求めている。
だが次の瞬間、その先から青い光が煌めいた。
レストランにいた者の中には、肩を跳ね上げるほど驚く者もいた。
それだけ予想外な出来事だった。
R-13Tは咄嗟に機体を沈み込ませようとするが、先程ダメージを受けている右側面を閃光が通る。
そしてエンジンが火を噴いた。
「死んだふり……そういうこともできるのね。」
クレアもまた、純粋に驚いていた。
彼の機体は制御を失っていた。誰もがそう思うほどだったのだ。
だが、同時に敵のR-13Tだけが標的ではなかったことを、クレアは悟った。
◇
『くそっ!喰らった!』
『墜ちる!!!墜ちる!!!』
何が起きたの?
相手が死んだフリをしていたのまでは理解した。
敵が強引にその場で振り返って拡散波動砲を発射したことも、機体が損傷したことも別に吞み込めないわけではない。
だけれども、あれほど私を占拠していた衝動がプツンと途切れるように消えた。
その影響で思考が人に戻る。
その事と通信を埋め尽くす悲鳴。困惑だけが私を支配していた。
――振動
敵のデルタがすぐ脇を正面から通り過ぎたのを見て我に返り、急いで機体をチェックする。
損傷は激しいけど、まだ戦えないことはない。
先程までの激しい機動戦を行えるわけではないが、それは相手とて同じ事……
「光学チェーン、リンク先ロスト……?」
私自身と接続していたフォースが見つからない。繋がっていない。
モニターから目を放した私の、その視界の端に見えた物。
衝動となぜかある僅かな理性による必死のドッグファイト。それに夢中になって回収していなかった私のフォース。
そのコントロールロッドの一部が焼け爛れていた。よりにもよって光学チェーン用の接続部分が。
「そんな……」
光学チェーンがなければ、フォースリンクは使えない。
暴走を阻止するため、チェーンによる制御を失ったフォースは強制休眠させられていた。
敵は別にチェーンの部分を狙撃したつもりはないんだろう。
むしろ破壊する気でいたのに的を外したのが正解かもしれない。
だけど無力化はされてしまった。
それだけではない、こちらの味方も酷くやられた。
拡散波動砲が乱戦の中撃ち込まれたのだから。
その上、事前に連絡していたのかフレンドリーファイアは見当たらない。
目の前にいる相手が、正真正銘のエースであることを今まで以上に強く意識する。
あそこまで損傷しながら、ここまでの戦果を挙げる化物以上の化物。
「…あれ?」
機体を復旧させるため停止していた私の機体。その視界の端で休眠していたフォースが少し明るさを取り戻した気がした。
何かと共鳴している。
私とではない何かと。
ただただ嫌な予感が私を支配する。それはもう、悪寒にも近いほどの。
フォースと共鳴する存在など、数が知れている。
私のような禁忌の機体。
それか――
『なんだ…なんだよこの反応!!!』
『終わったんじゃないのかよ!クソッタレ!!!』
『総員!バイドの襲来に備えろ!』
悲鳴にも近いエドガーの宣言が無線から放たれたのは、それからすぐの事だ。