また夜が来る、西に沈んだ太陽の代わりに東から月が顔を出し一日の終わりを告げに来る。今思えばあれは金曜日のそれも満月の夜だった。私は月を夜空を眺めるのが好きだった。夜空にはたくさんの動物や願い事をかなえてくれる星がいると昔読んだ本に書いてあったからだ。だから月や星がみえる夜は好きだった。でも、そんな夜も君は泣いていた。いつものことだ。私は、君を抱いて「大丈夫」、「大丈夫」と口癖のようになった言葉で君をなぐさめた。いつも通りの夜。でもその日はなかなか泣き止んでくれなかった。「これもよくあること。」そう自分に言い聞かせ同じ言葉を繰り返した。でもそんな時間が長く続くと君への嫌な感情が少しずつあふれてしまう。しょうがないとは今でも思う。それでもそんな感情は願いは口に出してはいけないと心のどこかで分かっていた。本当に願うべきことも。だから私はそれらを飲み込み続けた。
しばらくすると君は泣きつかれたのか小さな寝息をたてて眠りについた。
私は一息つき夜空を見上げた。きれいな満月だ。本によればあそこにはウサギが住んでいてお餅をついて暮らしているらしい。夜空を回るお空のうさぎ。そんなところに私もいつか行ってみたかった。君と一緒ウサギを見たかった。少し前まではいつかそんな願いも叶うだろうと思っていた。いっぱい夜が来てそれを君と乗り越えたら必ずいつか必ずかなう思っていた。でも、そんな日は来なかった。たくさんのお月様が形を変え、夜の空を流れていったけど同じ明日が来るだけだった。だから私は今日君を連れて外に出た。べつにお月様に行けるなんて思ってはいない。ただ外に出れば少しでも明日を、自分を変えられるかもしれないと思ったのだ。足音を殺し、外へと駆け出した。君のためにもこれ以上明日に負けるわけにも背を向けるわけにもいかなかった。
あてなど何もなかった私は月に向かって歩いた。行けるわけもないとわかってはいるがなにか道しるべが欲しかったのだ。しかし、その月もしばらく歩いているといつの間にか見えなくなっていた。道しるべを失った私は背中の君と同じで今にも泣きだしそうだった。「泣かないで」と君に言った私の声も震えていて、涙目で見る夜空の隅が一瞬輝いた気がした。そんな私の言葉もむなしく君は泣き出しそれにつられて私も泣いた。私と君は泣いたまま歩き続けた。どのくらい歩いたかわからない。いつの間にか君は泣き止んでいて私は見知らぬ丘のてっぺんにいた。私は息をのんだ。そこには今まで見たことのない大きな月とたくさんの流れ星が降る空が広がっていた。我に返った私は「夢じゃない!」と胸を躍らせすぐに背中の君を見た。しかしそこにいた君は泣かずにただ静かに眠っていた。
気がつくと私は見知らぬ公園にいた。いつの間にか寝てしまっていたらしい。君も隣で一緒に眠っていた。私は君をゆっくりと抱き寄せ、震える声で「夢じゃない」とつぶやいた。