俺の霊圧は消えない   作:ディアブロー

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チャドの全身虚化……見たかったのについぞ見ることができなかったなァ。



チャドの戦う相手が……何…だと!?

 

 

 処刑執行場所である双殛の丘。

 

 ついに、朽木ルキアの処刑が執行されようとしている。

 

 焔が矛を包み、形を変えていく。巨大な焔の鳥……斬魄刀百万本分に値する破壊力を持つ矛"燬鷇王"。

 

 これが、刑の最終執行者だ。

 

 この燬鷇王が罪人を貫くことで、殛刑は終わりを迎える。

 

 処刑に賛同する者、反対する者。護挺十三隊内でも、朽木ルキアの処刑に対して意見が大きく割れているなか、それでも刑は執行される。

 

 朽木ルキアはただ、終わりの刻を待つのみ。

 

「ありがとう…皆。

 さようなら。

(ありがとう、一護)」

 

 朽木ルキアは覚悟を決め、死を受け入れた。

 

 大切な存在達への感謝の想いを口にする彼女の瞳から零れ落ちる涙──そしてついに、燬鷇王が裁きを与える。

 

 

 

 ◆

 

 

 

「よう」

 

「間に合ったようだな…朽木」

 

 数日ぶりの再会……黒崎一護が朽木ルキアの目の前に立っており、その2人の再会を邪魔させまいと燬鷇王の一撃を茶渡泰虎が右腕の盾で防いでいる。

 

「い、一護…チャド…」

 

 彼らは間に合った。

 

 朽木ルキアを助け出すべく、現世で生きる人間の身でありながら尸魂界(ソウル・ソサエティ)に侵入するという自殺行為に等しい無謀すぎる行動に出て、たった数人で護挺十三隊という大規模な組織を相手にし、数々の死線を潜り抜け、そしてようやくこの場所に辿り着いた。

 

『男子、三日会わざれば刮目して見よ』とは、よく言ったものである。

 

 尸魂界に侵入したたった数日で、チャドと一護は一皮剥けるどころではなく、大きく成長した。しかも、その成長度合いは無限に伸び続ける()を思わせるほどのもので、彼らの底はまだまだ見えていない。末恐ろしい潜在能力だ。

 

「おんやまあ、僕と戦った時と別人じゃないの…」

 

 燬鷇王を受け止めたチャドに向けられる隊長、副隊長達の視線。とくに、彼と戦った京楽春水は、たった数日で見違えるほどに成長したチャドの姿に目を見張る。

 

「七緒ちゃん、チャドくんの後ろにいるのが…チャドくんが言ってた子かな?」

 

「はい。外見的な特徴も、隊員達からの目撃報告と一致します。間違いなく、あのオレンジ色の髪の少年が"一護"という名の者でしょう」

 

 そして、チャドが戦う理由……その存在(黒崎一護)へと視線を移し、京楽は目を細める。思慮深い京楽は一護に対して既視感を覚えているようだが、その既視感の真実にまでは気付けてはいない。

 

「そうか…結局、()()()()()のは僕達じゃなく彼等の方だったって訳か…」

 

 ただ、どこか安堵を覚えているような表情だ。

 

 京楽もまた、朽木ルキアの処刑に対して疑問を抱いていた1人だ。止めてくれたのが己達"護挺十三隊"の死神ではないのは複雑な心境だろうが、それでもこの処刑を阻止するチャンスがやって来たことに……京楽も()()()()()と同時に動き出した。

 

 処刑台の方では、朽木ルキアだけではなく、処刑を妨害したチャドと一護もろとも排除しようと燬鷇王が第二撃の体勢へと入っている。

 

 もっとも、チャドは平然とした様子で、一護も燬鷇王に大した脅威を感じてはいない様子だ。

 

「ぬッ!?

(さて、一護には朽木白哉との戦いのみに集中してもらう為に他は俺が引き受けるとして、その後はどんな展開になるか──未知の領域だな)」

 

「な、何だ!?」

 

 そんななか……突如、燬鷇王に何かが巻き付き、丘の方が騒がしくなる。

 

「よう、この色男。

 遅れて登場するのは色男の(サガ)かい?随分と待たせてくれるじゃないの」

 

 チャドと一護が下に視線を向けると、京楽が地面に刺さった何かに手を置き、隣には燬鷇王に何かを巻き付けた張本人──十三番隊隊長・浮竹十四郎が立っていた。

 

「済まん。少々、コレの解放に手間取った。

 だが、これで()()()()()()()()!!」

 

 地面に切り込みの入った何かを打ち立てた浮竹。

 

 その何かを目にし、それが何なのかをすぐに理解した者は動揺する。浮竹が用意したそれには、四大貴族"四楓院家"の紋が印されていたからだ。

 

「と、止めろ!

 京楽と浮竹はッ──()()()()()するつもりだ!!」

 

「ええ!?俺がっすか!?んな無茶な!!」

 

 四楓院家と深い関係のある現二番隊隊長・砕蜂は事態の深刻さをすぐに理解するも、動揺しすぎているのか部下の副隊長に不可能な無理難題を言い渡す。

 

 護挺十三隊の隊長達の中でも古参の2人を相手に、卍解すら会得していない副隊長如きが手も足も出るはずがない。赤子扱いされるだろう。その点に関して、部下の方がしっかりと格の違いを理解できているようだ。

 

 そもそも、自ら対処すれば可能性はあったかもしれないのに……時はすでに遅し。京楽と浮竹が斬魄刀を抜き、打ち立てた板のようなものに斬魄刀を突き刺した。

 

「ッ──京楽!浮竹!貴様等ァァァ!!」

 

 すると、燬鷇王が一瞬で姿を消し、矛へと姿を戻す。

 

 双殛が解除されたのだ。

 

 護挺十三隊の隊長の手によって処刑が阻止される……これは予期せぬ緊急事態。

 

 しかし、まだまだこれだけで終わるはずがない。

 

「チャド、やるぜ!」

 

「ああ」

 

「な、何をするつもりだッ、一護、チャド!?」

 

 処刑台の上に立ったチャドと一護が次の行動に移る。

 

「む…何をするつもりと聞かれても…」

 

「決まってんだろ。

 今から壊すんだよ…この処刑台をな!」

 

 目を見開き驚愕する朽木ルキア。

 

「なッ!?」

 

 彼女が驚くのも無理はない。壊せるはずがない物を壊すのだから当然だ。

 

 だが、そんか彼女の様子などお構い無しに、チャドは処刑台の上で屈伸を始め、一護は斬月のサラシを持って勢いよく回している。よく見ると、チャドの靴が膝元にそれぞれ違った髑髏模様が入った灰色のニーハイブーツへと変化している。

 

「よ、止せ!そんなこと無茶に決まっている!

 いいか!聞くのだ一護、チャド!

 この双殛の磔架はッ──」

 

「うるせェよ…とにかく黙って見てろ」

 

「朽木…俺と一護を信じろ」

 

 必死に止めようとする朽木ルキアの意見を一蹴し、一護は斬月の柄を掴み処刑台に鋒を突き立て強大な霊圧を一気に放出する。

 

 それと同時に、右脚を上空に向けて上げたチャドは勢いよくその右脚を処刑台に向かって振り下ろし叩き込む(踵落とし)

 

 チャドが拳のみでしか攻撃しないと思っていたならば、それは勘違いで錯覚だ。チャドは脚技も使う。

 

 黒と白が混ざり合い、灰色に変化したチャドの脚は腕同様に強大な力を宿している。

 

 

滅脚悪魔(ディアブロ・デストルクシオン)

 

 

 チャドと一護の強烈な一撃が朽木ルキアを解き放ち、処刑台を木っ端微塵に破壊する。

 

 その一撃は護挺十三隊だけではなく、尸魂界(ソウル・ソサエティ)を震撼させるほどのものだ。

 

 

 

 

 

 ▪️▪️▪️▪️

 

 

 

 

 

 少しやり過ぎてしまったかもしれない。

 

 俺の記憶にある一護ですら、双殛の磔架の一部を破壊できていたのだ。今の一護と俺が2人で攻撃したらどうなるか……もう少し真剣に考えておくべきだった。

 

「チャド…やり過ぎちまったな…」

 

 尸魂界というか、瀞霊廷に於いて双殛の磔架は歴史的建造物でもあるはず。それを木っ端微塵に破壊してしまった。一護も珍しく少し反省している。

 

 俺が憧れるダンディーな男……京楽春水からも、『やっちゃったね』と言いたげな憐れみのこもった瞳を向けられている。

 

 しかもさっきから、護挺十三隊総隊長兼一番隊隊長・山本元柳斎重國にガン見されているのだが、俺の戦う相手が総隊長になったりしないか心配だ。明らかに拳骨では済まされないだろう。

 

 ただ、ここからは俺達と護挺十三隊の戦いではない。護挺十三隊内でも処刑に疑問を抱いていた死神達と、上の指示は絶対という頭の固い死神達の内輪揉めのようなものまで勃発し、混迷極まる事態へとなってしまう。

 

 一護はこれから、朽木白哉との戦いが控えているが…。

 

「い、一護、チャド…訊くが…これからいったいどうするつもりなのだ?」

 

 もっとも、今後の展開を知ってるのは俺のみ。朽木ルキアが助けられたことを喜びつつも、今後の展開を不安視するのは当然だ。

 

「逃げるに決まってんだろ」

 

「なッ!?

 む、無理だ!相手は隊長達なのだぞ!?」

 

 その不安が一護の言葉でさらに強くなるのも仕方ない。一護は全員倒して逃げると強気に宣言してるが、それは俺も不可能だと思っている。

 

 それに、予想外の展開は必ず起きるはずだ。そもそも、茶渡泰虎がこの場所に存在している(霊圧が消えていない)時点で、俺の知る物語と何もかもが違っている。総隊長に追われでもしたら、俺も一護も一巻の終わりだ。総隊長とだけは、何がどうあっても戦いたくない。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 総隊長とは戦いたくない……そう思ってしまったのがフラグだったのか…。いや、俺はそう思いつつも、心の奥底ではそのような展開になることを面白そうだと思い、無意識に望んでいたのかもしれない。

 

 迂闊だった。周囲にいる者の精神に反応し、その願いを叶えるという便利アイテムがすぐ間近にあったのに…。俺の無意識な望みを、それが叶えてしまっていたとしたら……本当に有り難迷惑である。さすがに、それが原因だとは思いたくないが…。

 

「瀞霊廷を随分と引っ掻き回してくれたのォ…小童(こわっぱ)。じゃが、おぬしら"旅禍"の蛮行もこれで終いじゃ」

 

『万象一切灰燼と為せ』とはよく言ったものである。骨一つ残らないかもしれない。

 

 俺は現在、双殛の丘からかなり離れた場所へと移動し、これから護挺十三隊総隊長兼一番隊隊長・山本元柳斎重國と戦おうとしている。

 

 唯一の救いは、京楽春水と浮竹十四郎が共にいることだ。

 

 朽木を助け出した後、双殛の丘に朽木白哉に敗北した阿散井恋次が遅れて到着し、一護がその阿散井に朽木をブン投げるという暴挙に出たのは俺の記憶通りの展開だった。

 

 そして、朽木を抱えて逃げる阿散井を二番隊隊長・砕蜂の指示で追う副隊長達──その副隊長達は、一護に代わって俺が一撃で意識を刈り取ったが…。その内の1人の、四番隊副隊長(隠れ巨乳)・虎徹勇音さんだけは、かなり手加減した"首トン"にしておいた。あとで機会があったら謝罪しておこう。

 

 ちなみに、副隊長達に命令した砕蜂は、俺に襲いかかってきたが、颯爽と登場した夜一さんに連れ去られていった。さすが夜一さん……出てくるタイミングが完璧である。

 

 そんなこんなで、一護に朽木白哉との戦いにのみ集中してもらう為に他一切を引き受けたのだが、そこからが怒濤の急展開を迎えた。

 

 一護と朽木白哉が戦い始めた後に、俺に向けて重力の如く強大すぎる霊圧が乗し掛かってきたのである。それと同時に、重い拳が俺に襲いかかってきた為に、その拳を"巨人の右腕(ブラソ・デレチャ・デ・ヒガンテ)"で防ぐと、けたたましい轟音が双殛の丘に響き渡った。我ながら、よく防げたと思う。

 

 筋肉ムキムキな上半身を露にした老人に殴りかかられてきたのは人生初だった。しかも、拳を防いだことに驚きつつも、口角を上げてさらに殴りかかってくるという…。京楽春水と浮竹十四郎が助けてくれなかったらヤバかったかもしれない。

 

 かつてない身の危険を感じたほどだ。いや、身の危険は今も常に犇々と感じている。

 

 場所を移してからは身の危険もだが、それだけではなくとにかく熱い。

 

「斬魄刀を解放したのも久し振りじゃ」

 

 炎熱系最強にして、最古の斬魄刀が俺に牙を剥いている。

 

 運命とはどこまでも残酷だ。

 

 






尸魂界編読み返してみて思う。砕蜂って、わりと初期からポンコツやったんやなって。京楽と浮竹が双殛を破壊するところで、大前田が阻止できるわけないやんって…自分で行けばいいのにって…w
まあそれでも、砕蜂に阻止できたか可能性は低い?orz

でも、そんなポンコツな砕蜂が可愛いと思うんだ。

チャドの脚も強化。チャドは脚技を会得した!
滅脚悪魔(ディアブロ・デストルクシオン)。膝元にそれぞれ、巨人の右腕と同じ模様と、魔人の一撃の髑髏と同じ模様が入った灰色のニーハイブーツへと変化。

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