俺の霊圧は消えない   作:ディアブロー

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四魂の玉と崩玉って似てるよね……。

お待たせしましたである。更新頻度は不定期というか遅めですが、お待ち下さいまし。
感想とご評価お待ちしてます。



チャドが天に立つ……だと!?

 

 

 白く美しい雪に覆われた双殛の丘。

 

 刀身が雪へと変化した朽木ルキアの斬魄刀。失っていたはずの力が今この瞬間に目覚めた。

 

 それはきっと、大切な存在を護りたいと強く思う彼女の心に……()()()()()()()したのだろう。そして、彼女に強力な力を与えてくれた。

 

「ほぅ、死神の力を取り戻したか。

 だが、君が力を取り戻したところで意味はない。蟻が一匹増えた程度だ」

 

 しかし、勝てるかどうかはまったく別の話だ。この状況に、今回の一連の騒動の首謀者である藍染惣右介は驚きつつも、至って冷静に斬魄刀を一閃する。

 

 藍染の太刀筋をルキアはまったく見切れていない。

 

 せっかく死神の力を取り戻しても、藍染の言葉通り……ルキアの力では護ることなどできない。相手が藍染でなければ、もしかしたら可能性はあったかもしれないが、運命はどこまでも残酷だ。万に一つの可能性もない。

 

 それはつまり、朽木ルキアはどうあっても死ぬべき運命にあるということなのだろうか…。

 

 迫る凶刃は容赦なく無慈悲だ。

 

「…!」

 

 だが、その刃が朽木ルキアに届くことはなかった。

 

「ま、間に合った…か。

(な、なんつー斬撃してんだよ!?右腕が斬り落とされるかと思った…やっぱこの人、パネェよ!!)」

 

「チャ、チャド!?」

 

 藍染の刃から身を挺して防いだのは、ルキアを救い出すべく尸魂界(ソウル・ソサエティ)に乗り込んできた人間の1人──茶渡泰虎である。身を挺してといっても、右腕の盾で防いでおり、防御力の高さは相変わらずだ。とは言え、藍染の斬撃はチャドの想像を遥かに超えたものだった。たった一太刀防いだだけで、一生分の運を使いきったかと思うほど…。

 

「待っていたよ茶渡泰虎。

 総隊長と戦ってその程度の傷で済んでいるとは大したものだ」

 

 そのチャドを心待ちしていたらしい藍染は、不敵な笑みを浮かべながら、間髪入れずに次の攻撃を仕掛ける。

 

「!?」

 

 藍染の掌で渦巻く黒い霊力にチャドは驚愕する。

 

 同じ隊長格をたった一撃で仕留めたほどの鬼道。しかも、詠唱破棄で放たれたそれは、本来の破壊力の三分の一も出せていないとのことだが……普通に考えて、人間に放つものではない。

 

 つまりはそれだけ、チャドを評価しているということか…。

 

破道の九十・黒棺

 

 九十番台の鬼道を詠唱破棄で扱える死神は、同じ隊長格でもほとんどいない。藍染でも三分の一の破壊力しか出せないということは、それだけ扱いが困難であるということ。

 

 もっとも、タフなチャドがこれを受けてどうなるかは定かではないが、ルキアはただではすまないだろう。

 

「え!?」

 

 黒い直方体状の重力の奔流が囲うなか、チャドは咄嗟にルキアを抱き寄せる。

 

 予想外のチャドの行動に驚くルキアではあるが、これは致し方なし。チャドにはこうすること以外に彼女を護る方法がなかったからだ。

 

 

 

巨人の拒絶(レチャゾ・ヒガンテ)

 

 

 

 あらゆる攻撃を拒絶して身を護るチャドの絶対防御。

 

 このバリアによって、チャドは抱き寄せたルキアを黒棺の脅威からどうにか護り抜いた。

 

「ふッ、詠唱破棄した黒棺とはいえ、これを防ぎきるとは…総隊長を相手に生き延びただけはある」

 

 藍染もチャドを絶賛するほどだ。

 

 だが、チャドは理解してしまった。藍染の強さを……己との間に、どれだけの差があるのかを…。

 

「チャ、チャドッ、大丈夫か!?」

 

「はあ、はあ…く…そッ…(本気で…死ぬかと思った!今ので来世の運まで使いきったんじゃねェかな!?)」

 

 どうにか己とルキアの身は護れたが、たった一撃防ぐだけで大量の霊力を消費したのである。

 

 地に膝を突き、もはや限界ギリギリだ。

 

「だが、私に君の拳は届くことはなさそうだ。

 もう限界のようで残念だよ、茶渡泰虎」

 

 もう戦う力は残ってはいない。そもそも、つい今しがたまで護挺十三隊総隊長・山本元柳斎重國と戦っていたのだから、それも当然だろう。

 

 一見、チャドが防戦一方の状況ではあるが、寧ろよく藍染の攻撃を二度も防げたものだ。

 

 己の力に絶対的な自信を持っている藍染は、だからこそチャドを高く評価している。

 

「茶渡泰虎。

 私を楽しませてくれた礼だ」

 

 藍染はチャドをこのまま始末するつもりらしく、鬼道を放った際に鞘に戻していた斬魄刀の柄に手を伸ばしている。

 

「く…そ…」

 

 この状況……チャドが生き残る為に残された道は、()()()()()しかない。

 

「ッ!?

(は、早く()()()()

 そ、それから…きっとこれが最後のチャンスだ!

 "崩玉"!お別れする前に最後のお願いだ!)」

 

 ただ、こんな限界ギリギリの危機的状況でも、チャドは忘れることはない。やることはちゃっかりきっちりとやる。

 

 この男は死なない(霊圧が消えない)為に、どこまでも貪欲だ。

 

 チャドの心の内は藍染にもわからない。そもそも、チャドが崩玉の真の力を理解した上で行動し、そのおかげでここまでの力を手にしたとは藍染ですら思うまい。予想の遥か斜め上をいっているはずだ。

 

 藍染だけではなく、チャドとイイ感じになりつつある夜一ですらも、親友の一護ですらも、茶渡泰虎という男が霊圧が消えない為に必死に行動していることを知らない。

 

 藍染惣右介という強大すぎる敵を前にしても、内心で慌てふためいてこそいるが、チャドは決してブレない。

 

 如何に危機的状況でも……いや、だからこそなのだろう。チャドは強く望む。

 

 チャドが崩玉に願い事をしていることなど知るはずもなく、藍染は鞘から斬魄刀を抜こうと柄に手を添える。

 

「人間にしては、()()は実に面白い存在だった」

 

 そして、チャドだけではなく、立つことすらできない重傷を負わされた黒崎一護にも向けてそう告げる藍染は、その一護の視線の先でチャドにトドメを刺すつもりだ。

 

 無慈悲な凶刃がチャドへと迫ろうと……だが、その凶刃がチャドの血を浴びることはなかった。

 

「動くな、藍染。チャドに手出しはさせん」

 

「よ、夜一…さん。

(このタイミングの良さと風格…マジで惚れちまう!)」

 

 颯爽と登場し、藍染を動きを封じた夜一。その姿に、チャドは惚れ惚れとしている。

 

「茶渡泰虎を殺してから大人しくしろ」

 

 ただ、夜一ともう1人……おかしなのがついて来てしまっているが…。言動が明らかにおかしい。

 

 斬魄刀に伸ばされた藍染の腕に布を巻き付けることで抑え込んでいる夜一と、首に斬魄刀を当てる砕蜂だが、砕蜂の敵意は藍染だけではなくチャドにも向いてしまっている。

 

 こんな状況だろうと、夜一至上主義は絶対に変わることがないようだ。その執念は凄まじく、恐ろしさすら感じてしまうが、チャドは心の中でこう呟く。

 

『101年前…夜一さんがいなくなった時に頭のネジも喪ったんだな。だからポンコツなのか…可哀想に』

 

「砕蜂」

 

 どうやら、そう思ってしまったのは夜一も同じらしい。己の妹分が、まさかこんな残念に成長していようとは想定外のようだ。しかし、今は砕蜂のことなど後回しだ。

 

 宿敵──藍染惣右介を討つ絶好の機会。

 

「こほん…おぬしの計画もこれで終いじゃな、藍染」

 

 夜一が気持ちを切り替えたのと同時に、双殛の丘に続々と到着する隊長、副隊長達。

 

 藍染は夜一と砕蜂が抑えており、部下の市丸ギンと東仙要も斬魄刀を首筋に当てられている。

 

 形勢逆転。

 

 さすがの藍染でも、総隊長を含む隊長達を相手に勝つことはできないだろう。

 

 101年前──いや、それ以前から藍染が用意周到に画策していた計画もこれで終わり、尸魂界(ソウル・ソサエティ)に平和が訪れることとなる。

 

 

 

 ◆

 

 

 

 平和が訪れる……はずだった。

 

 しかし、そうは問屋が卸してくれない。そもそも、藍染がこの程度で終わるはずがない。もしここで終わりなのならば、ここまで事は大きくなっていないはずだ。

 

大虚(メノス)とまで手を組んだのか…いったい何の為にだ」

 

 一見、藍染とその部下達──市丸ギンと東仙要は追い詰められているように見えたが、藍染は死神の敵であるはずの(ホロウ)すらも従えていた。

 しかも、虚の中でも上位種の虚が藍染の支配下にあり、藍染達は"反膜(ネガシオン)"という光に包み込まれ、この場から離脱してしまう。この光に包み込まれたが最後、光の内と外は干渉不可能な完全に隔絶された世界となり、触れることすらできない。

 

 "崩玉"を手に入れた藍染に、もうこの場所にはまったく用はない。

 

「ふッ──高みを求めて」

 

「そこまで…地に堕ちたか、藍染」

 

 去り行く藍染に問いかけた浮竹十四郎は藍染の返答に表情を歪め、藍染を強く非難する。

 

「傲りが過ぎるぞ、浮竹。

 初めから、誰も天になど立ってなどいない」

 

 対して藍染が浮竹にそう返すと、トレードマークであった眼鏡を粉々にして髪型をオールバックへと変え宣言する。

 

「だが、天の座の空白も今日で終わりだ。

 これからは…私が天に」

 

 ただ、藍染の宣言はけたたましい轟音によって遮られてしまう。その轟音は、反膜(ネガシオン)と何かが衝突し合うことで起きた音だが、本来は死神が触れることすらできないものだ。

 

 ならばいったい何が──誰が何をしたのか…。

 

「い、いったい何をしておるのじゃ()()()!?」

 

「む…夜一さんを苦しめる敵をこのまま逃がすのもどうかと思ったのだが…。

(何か知らないけど霊力があっという間に回復したし、何か知らないけど力が内から沸き上がってくる。

 それに、茶渡泰虎の力は()()()()()()ものだ。それなら…この拳ならこの光にも干渉できるはずと思ったんだが…)」

 

 

 

魔王の咆哮(ルヒド・デル・サタナス)

 

 

 

 死神が触れることすらできない光に、チャドは自身が導き出した考えを信じて"悪魔の左腕(ブラソ・イスキエルダ・デル・ディアブロ)"を叩き込む。

 

 総隊長・山本元柳斎重國に膝を突かせた一撃だ。

 

「チャド」

 

 そんなチャドの勇ましい姿を、惚れ惚れとした様子で夜一は眺めていた。

 

「何…だと…」

 

 そして、その光に僅かな皹が入っており、藍染もその皹を凝視している。

 

「む、硬すぎる。

(どうやらオレの考えは間違ってはいなかったらしい。けど、()()()()が相手ならこの光の中からどうにか引き摺り出して、あとは総隊長達がどうにかしてくれると思ったけど、やはりそう上手くはいかないか…。

 触れることはできたし、皹は入ったけどこの程度だ。割るのに何時間…下手したら1日かけても割れないかも)」

 

 チャド自身は粉砕できなかったことに悔しさを覚えているが、そもそもチャドの行動は死神達からしたら常軌を逸している。いくら特別な力を持った人間といえど、まさか干渉不可能な隔絶された世界に踏み込もうとするなど予想外だったはずだ。

 

 とは言え、反膜(ネガシオン)にすら皹を入れたチャドの力を、誰もが認めたはずだ。

 

「茶渡泰虎…君は見ていて飽きないな。

 面白いものを見せてもらった…ありがとう」

 

 藍染もチャドに対する認識を再び改めている。

 

 チャドはこれから、間違いなく大きな渦に巻き込まれてしまうだろう。少しだけだが、過程を変えてしまったのだから、それは当然の結果で致し方なし。

 

 迂闊に行動するべきではなかったと痛感しているはずだ。

 

 表情こそ平静を装ってはいるが、内心は調子に乗ってしまったと悔いていることだろう。

 

「また会う日を楽しみにしているよ」

 

 藍染は不敵な笑みをチャドに向けて、闇の中へと消えていく。

 

 こうして、尸魂界(ソウル・ソサエティ)を震撼させた大事件は束の間の終息を迎える。

 

 しかし、茶渡泰虎にとっては一時も気が休まらない日常の始まりとなってしまった。

 

「……。

(ああ…どうしてこう余計なことしちゃうかな…オレ)」

 

 チャドは知らない。

 

 藍染がその行方を追っている"崩玉の欠片"が、いつの間にやら己の魂魄と融合してしまっていることを…。これまで、身近でここまで強く求めてくれた者が存在しなかった崩玉は、チャドに求められることに悦びと嬉しさを感じるようになり、チャドが最後のお願いを望んだ時、別れを寂しく感じたのだ。

 

 その結果、崩玉は自身の一部(欠片)をチャドの魂魄へと転移させて融合したのである。

 

 困難に立ち向かうこの男の歩む道を最も近くで見続け、力になりたいと思い…。

 

 チャドは知らない。

 

 己がもう、噛ませ犬などではないことを…。

 

 






タイトルはBLEACHからCHADに変わる!?

これにて尸魂界編はお終いである!!

さてはて、今後のチャドの運命は如何に!?

チャドに新しい力が目覚めた!魂魄に崩玉の欠片がIN!

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