公開については事前に本人様の了承を取っています。
窓の外はふわふわと雪が舞い落ち、今日もウィンターローズの街に白化粧をしていく。部屋の端では暖炉が寒さを忘れさせようと燃え続けており、時折パチ、パチと音を立てている。朝から燃やしていたおかげか部屋の中はだいぶ暖かく心地の良い空間になり、その心地の良さが眠気を誘ってくる。
──そんな昼下がり。
最後に署名を書入れる。今日やるべき事はこれで終わりだ。
「終わり……っと」
無意識に言葉に出る。 本日は緊急の討伐任務はなく、上から出された指示は本部待機だったので事務作業をこなしていた。執務机の上には処理済みの文書が束になって綺麗に積まれている。こうしてみると達成感がじわじわと込み上げてくる。
「ご主人、今日のお仕事終わり?」
大きく伸びをしていると向かいのソファーから声をかけられる。独り言のように呟いたつもりであったが聞こえたみたいだ。
「ああ、イヌタデも手伝いありがとな。お陰で早く終わったよ」
団長は傍にやってきたイヌタデの頭を撫でる。小豆色の髪はサラサラとした手触りで指と指の間を通っていき、長時間ペンを持って若干の痛みを覚えていた右手を優しく包み込んでくれる。
「えへへ、お役に立ててボクも嬉しいよ」
イヌタデは満足そうな笑みを浮かべながら気持ちよさそうにしている。団長が書き作業に徹している傍らで彼女は未処理の書類の分類をやってくれた。夕暮れには終わるだろうと思っていたはずが、彼女のおかげでだいぶ早く終わることができた。
「お仕事終わったならこの子と一緒に遊んできてもいい?」
そう言うとイヌタデの影から白い毛玉がひょっこりと顔を覗かせてきた。山犬に育てられた彼女の大切な妹だ。仕事中は静かにソファーに座っていたが、今は自由になった姉と遊びたそうにこちらを見ている。
「暗くなる前に帰るんだぞ──っと、その前にちょっと待ってくれ」
団長は机の引き出しから綺麗に包装された細長い箱を取り出し、イヌタデに手渡す。
「これなぁに?」イヌタデは首を傾げ、すん、と箱を嗅ぎ、「食べ物……じゃあないよね?」と聞いてくる。こういう時に食べ物がでてくるのは彼女らしいと思ってしまう。
「開けてごらん」
団長に言われ、彼女はビリビリと音を立てて包装紙を破いていき、箱の蓋を開ける。
「これ……手袋とマフラーだ!」
彼女が手に取ったものはふわふわの白いマフラーとモコモコとした桃色の手袋だった。
「最近だいぶ助けられているからな。 これはそのお礼だ」
花騎士は世界花の加護の力のお陰で極寒のウィンターローズでも軽装で活動ができる。が、加護の力というのは万能なものでは無いらしく、寒さを吹き飛ばしてしまうほど元気いっぱいなイヌタデでも任務中に妹を抱いて暖をとっている姿を何度か見ていた。
「ありがとうご主人っ!」
かさばるような衣装はあまり好まない彼女のことだからと、持ち運びしやすくて簡単に身に着けられるものを選んでみたがお気に召してくれたようだ。早速手袋をはめて両手を握ったり開いたりしている。次にマフラーを手に取り、両手で広げた。横いっぱいに伸ばしてもマフラーは雲をそのまま持ってきたかのような柔らかさを維持している。その様子をイヌタデはキラキラとした目で眺めている。ひとしきり眺めたあと、彼女は「ねぇねぇっ、ご主人が巻いてよ」と団長にマフラーを渡してきた。
「おっしゃ、任せろ」
マフラーを受け取り、彼女の首にそっとかけ、ゆっくりと巻いていく。嬉しさで火照り若干赤くなった顔に雪のように白いマフラーが添えられる。
「これで良し。どうだ、暖かいか?」
団長が聞いてみるとイヌタデは巻かれたマフラーに少し顔をうずめ、「うん、すっごくふわふわであったかいよ!」と弾けるような笑顔を見せた。こうも嬉しさを全身で見せてくれるとこちらも嬉しくなってくる。
そんな様子をじっくりと見ていたいところだったが、扉のそばを見れば彼女の妹が早く遊びに行きたいとこちらをじっと見ている。これ以上待たせたら悪い。団長は「待たせて済まなかったな。それじゃ、遊んでらっしゃい」と妹にもはっきり聞こえる声で言う。イヌタデははっと思い出し「そうだった! またせちゃってごめんね!」と妹へ駆け寄る。そうして執務室のドアを開け
「これ、大事に使うね! それじゃあ、行ってきます!」
そう言って妹とともに元気よく走り去っていった。
「行ってらっしゃい──……さて、と」
イヌタデと妹が遊びに行った今、執務室には団長ただ一人しか居ない。彼女が座っていたソファーで横になり、目を瞑る。やることが終わった今、残るのは眠気のみだ。朝から目と頭を使っていたからだいぶ疲れた。今日の夜は近郊での巡回任務が控えている。それに備えるため、団長は静かで暖かい執務室で昼寝をするのだった。