マチカネフクキタルを襲う奇妙な怪異『ウマナリサマ』を収録。
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「アグネスタキオンは走らない」という企画用に書いた作品です。他にも幾つか投稿されているのでぜひ。
「この赤いのは『やる気が上がる薬』」
ほっそりとした指先の間に、理科の実験に使われるような試験管が挟まれていた。
振り子のように揺らめく試験管の中では、薄めた血のような赤色の液体がゆらゆらと波打っている。
「飲むと血行がよくなり、脳内物質であるドーパミンが分泌される。文字通りやる気が上がるというわけだ」
「違法薬物じゃあないぞ」「一応ね」
紅の向こう側で、宵闇のように曖昧な暗さの瞳が揺蕩っていた。
かちん、と音が鳴る。
音の正体は、試験管同士をぶつけ合わせたことによるものだ。中にある青の液体は、ぶつかったときの衝撃で紅の液体と鏡合わせのように波打っている。
「そして、こっちの青いのは『やる気が下がる液体』」「エンドルフィン系の分泌を操作する作用がある。正確には『落ち着く』為の薬だが……ま、対になる理解でいいよ。今回は」
そして二つの試験管をゆらゆらと持っているのは──研究者の着るような白衣の勝負服に身を包んだウマ娘。
彼女は徐に青の液体の中に赤の液体を入れる。小さな試験管の中で渦を巻き溶け込んだ二つの液体は、紫色に混合した。
「そしてこれを混ぜると──紫色の、『やる気が上がりも下がりもしない薬』。毒にも薬にもならないとはこのことだね」「…………あー、今のは少しばかり会長っぽかったか」
ウマ娘は少しだけバツが悪そうに頭を掻く。
誰もいない空間で、紫色の液体の波立つ音だけがむなしく響いた。非難するように揺れる液体を一瞥し、彼女は改めて、
「いい加減に自己紹介をしようと思うが──私はウマ娘のアグネスタキオン」「ウマ娘の速さの『果て』を研究している、一人のロマンチストさ」
簡潔に名乗ると、アグネスタキオンは白衣のポケットに紫色の試験管をしまい込んだ。
「速さの『果て』を研究しているのなら、なんでやる気なんてものを増減する薬を作っているのか? と疑問に思う人もいるかもしれない」「その疑問はごもっとも。だが競技の世界において、メンタルの影響は切っても切り離せないものなんだよ」「詳しい話はこの後のエピソードで……」
タキオンは白衣から今しがたしまった試験管を取り出し──
──一気に飲み干した。
けろっとした表情のタキオンは、空っぽの試験管を眺めて一言。
「うん。やはりおいしい。見事なブドウ味のジュースだ」
「ちなみにこれは
…………。
「被検体はモルモットくんの仕事さ。きちんとデータをとれないと、実験の意味がないだろう?」
「なあ、スカーレットくん」
「きみは『想いの力』を信じているかい?」
──ある日の昼下がりのことだった。
トレセン学園に備えられている学食カフェテリアにて、
虚ろな、しかし引き込まれるような
少しだけ、その瞳の昏さに魅入りそうになっていたダイワスカーレットだったが、すぐにハッとすると、慌ててタキオンの問いに答える。
「え、ええっと……!」「ハイ。『科学的』な考え方じゃあないと思いますけど……」「確かに『ある』と思います。『想いの力』……」
「『絶対コイツに勝ちたい! 負けたくない!』っていう想いの力で、いつも以上の力を発揮してレースに勝った経験、アタシだってありますもん」
「ふぅン……」
スカーレットの答えに、タキオンは興味深げな溜息をひとつ吐き、
「じゃあ……」「
──その言葉に、スカーレットはすぐに返事ができなかった。
意味が分からなかったから、ではない。逆に
「当然の疑問とは思わないかね?」
「仮に!」「『想いの力』が実在するとして──それは当然
「そうだろう?」「ではこの場合、発揮できなかった『想いの力』は」「どこに行ってしまったんだ?」
『ウマ娘の体内に残留して次のレースを待つのか? あるいは生命維持の一環で通常のエネルギーと同様に消費されるのか?』と大真面目に言うタキオン。
しかし、スカーレットの方は何も言えずに俯いていた。──己の不明を、恥じているのだ。
負けたウマ娘にだって『想いの力』は当然ある。にも拘らず自分が勝てた経験を『想いの力』という気持ちの問題にするということは、負けたウマ娘の『勝ちたいという想い』を否定するとても失礼な物言いだと気付いたからだ。
だが、タキオンはなおも笑う。
嘲笑っているのではない。楽しそうに、面白そうに笑っているのだ。そこに、スカーレットに対する呆れや叱責の感情はない。
「ああ! 悪いねェスカーレット君。そういう意味じゃあなかったんだ」「別に揚げ足取りをして君に説教しようなんてことは考えちゃあいない」
「結論から言えば、君の考えは『正解』だってことだ」
そこでタキオンはカフェテリアのテーブルに身を乗り出し、スカーレットの俯いた顔を覗き込むような形で顔を近づける。
急な接近に、スカーレットが軽く仰け反るのも気にせず、タキオンはさらに続けた。
「『ある』んだよ……」「レースの勝敗を左右する『想いの力』は」「確かに実在したのさ!」
「これから私が話すのは
スカーレットは、何も言えない。
だが今度は己の不明を恥じたわけではなかった。
──アグネスタキオン。
宇宙の闇のように底知れない知的好奇心────
「こんなことを話すのは、スカーレットくん。きみだけだ」「きみが一番、この研究結果を有効活用してくれそうだからねェ……」
コトリ、と。
指揮棒を置くように優雅にティーカップを置いたタキオンは、まるで聖書の一句でも読み上げるように厳かに、そして深遠にこう言ったのだった。
「『ウマナリサマ』」
「『想いの力』の行き先は、間違いなく
アグネスタキオンは走らない |
ウマナリサマ |
──その日、私はエアグルーヴくんに説教、もとい指導を受けていてね。
いや、いつもというわけではないんだよ?
たまに、たまにさ。心ならずも実験を失敗してしまった時なんかには、彼女も生徒会として生徒に指導をしなくてはいけない。ただそれだけさ。(まぁ空き教室とはいえ内装をほぼすべて粉微塵にした件については多少反省しているがね)
「……ハァ」「全く…………勘弁してくれ。ただでさえ今日はフクキタルが捕まらなくて困っているというのに……」
焦げ跡と化した空き教室の中で、エアグルーヴくんは
気になったのは私の方だった。
エアグルーヴくんといえば高等部のあらゆる厄介ごとを一手に担うお人好しだが、それと同時に学園の誰もが知るエリートウマ娘である。対するフクキタルくんはトラブルメーカーではあるものの、さして
ゴールドシップくんやタイキシャトルくんならともかく、エアグルーヴくんに捕まえられない道理などないはずだ。
「フクキタルくんが何かやらかしたのかい? 何なら私が捕まえる協力をしてもいーよ」
「……む。いや」
「別にあの子が問題を起こしたという訳じゃあない」「ただ個人的に……『懸念事項』があってな」
「『懸念事項』?」「……ふぅン?」
エアグルーヴくんは、私の表情を見て『失言した!』と言わんばかりに眉を顰めた。
まぁ、無理もないがね。自分で言うのもナンだが、私はこうして気になったことがあればそれが何であれしつこく調べ上げようとするヘキがある。エアグルーヴくんも満更付き合いが浅いわけじゃないから、それにすぐ気付いたんだろう。
もっとも、彼女は結果が分かり切っているからといって自分の持つ情報を易々と部外者に開陳するような性格ではないので、このときの私は聞き出そうというよりもなんとか失言を拾って、独自調査の足掛かりにでもできればいいくらいの心持だったのだが──
「…………まぁ、良いか」「満更、あなたにも無関係な話じゃあないしな」
「………………」
「……ほう?」
気まぐれか、あるいは計算か。
そのとき私に話を持ち掛けてくれた彼女は、あっさりと私に事情を話す決意を固めてくれたようだった。私にとっては都合のいいことにね。
「『ウマナリサマ』という言葉を聞いたことはあるか?」
──が、続いた言葉は私にとっては困惑を生む語彙だった。
何しろ、『ウマナリサマ』なんて言葉は聞いたことがない! 『様』というあたりおそらく人名か、それに類するものだと想像がつくが──まぁフクキタルくん関連の話題なのだから、十中八九オカルトだろう。
何にせよ、退屈な話ではなさそうだ。私は腰を据えて彼女の話を聞く姿勢に入った。
「いいや?」「私は科学のアプローチからウマ娘の速度の『果て』を追い求めているからね」「あくまでな……」「つまり、まだオカルトはカバーできていないのさ」
「……意外にまじめな回答だな」「こういった話題には眉に唾をつけて臨むものと思ってた」
「ハッハッハッ!」「言うねェ~きみィ」「私は別にシャカールくんほど
普段の様子には見合わない、きょとんとした表情を浮かべる彼女に、私は思わず笑ってしまいながら言う。
「私が目指すモノはそもそも『果て』、つまり『現時点では存在しないモノ』だ」「シャカールくんは目に見えるモノや実証されたロジックを好む傾向にあるが……」
「現時点で存在しないモノを追い求めているっていうのに、不確かなモノを排除していくのはおかしな話だろ?」
ま、これは観念的な話で、理解するのはなかなか難しいだろうがね。
私も誰にでもこの考えを理解してもらえるとは到底思っていないし──極論を言えば、トレーナーくんさえ分かっていれば、実証には何の問題もない。
「…………」
「つまり、あなたは『果て』とやらを見る為ならば」「科学的なモノだろうとオカルト的なモノだろうと関係なく……等しく取り入れると?」
……と思っていたが、向こうも理解は早いらしい。
少し驚きつつも、私は素直に頷いた。やはり、エアグルーヴくんにしては話が早い。……まぁそこは別にいいか。なんでも。
それよりも今の私は、『ウマナリサマ』という未知の概念に興味深々だった。
「それで」
私はテーブルに肘を突き、足を組みながら、
「『ウマナリサマ』とは一体なんなんだい?」「ここまで前振りしておいて教えないなんて、そんな話は許さないぞ、君ィ」
「もちろん話す。あなたが下手に手を出しても困るからな」
彼女はそう言って、私の隣の椅子を引いて腰かけた。
つまり、『話が長くなる』ということだ。これはいよいよもって興味深い情報が得られるかもしれないぞ。そう思った私は、改めて居住まいを正した。
「『ウマナリサマ』とは……言ってしまえば、神様のような存在だ」
「ほう? 三女神像のようなものかい?」
「アレは伝承を紐解くと、もとは我々ウマ娘の祖先のようなもので、それが神格化された存在という研究もあるが──」
「三女神様のような清らかなものではないが」
彼女は、真っすぐにそう言い切った。
「『ウマナリサマ』は、頑張るウマ娘の味方」
「トレセン学園で最も『やる気』のあるウマ娘に『宿って』」「レースに勝てる『有難いチカラ』を与えてくれる」「……らしい」
「プッ!」
そこまで聞いて、流石の私も笑ってしまった。
『やる気』なんて非定量的な概念を厳密に選別しているオカルトの荒唐無稽さに──ではない。エアグルーヴくんの顔で、そんな眉唾モノのオカルト話を繰り出しているシュールさに笑ってしまったのだ。
だが、向こうはそうは思わなかったらしい。思いっきり不服そうな表情をして、
「……笑ったな?」「私の話を真面目に取り合っていないな? アグネスタキオン……」
「いやいやいや!」
「すまないね」「ウンゴメン」「クク……」「ちょっと、普段のきみとのギャップが大きくて、つい」
そう言うと、彼女の方もギャップがある自覚はあったのだろう。少し不満げな雰囲気が弱まった。いやあ、単純で可愛らしい。普段のエアグルーヴくんもこのくらい御しやすければ大分楽なのだが。
「だが、そんな都合のいいオカルトなら別に問題ないのではないかい?」
足を組みなおし、私はポケットの中からティーカップと保温ポットを取り出し、お茶を入れる。もちろん自分の分だけだが。
「『有難いチカラ』ならもらっても損はしないだろうし……」
「ウマナリサマ目当てにやる気を充実させたとして、たとえ空振りに終わっても」「それはそれで本人の為になるだろう」
「………………」
「
彼女はまだ少し機嫌が悪そうに、そっぽを向いてしまった。う~ん、しまったな。少しばかり迂闊な受け答えだったかもしれない。とはいえ、こうボカした言い方をするということは、彼女も『ウマナリサマ』の有害性についてはそこまで確証があるわけではない、というわけか。
……『効果はある』という確信こそ持っているようだが、だからこそ『確実に効果はあるが、有害性の有無が分からない存在の取り扱いについて警戒している』……といったところか? そもそもなぜ効果の有無について確信しているのか、そこの情報源が気になるところだが……この様子を見る限り、そこについて口を割ることはないだろう。
「まぁ、面白い話を聞いたよ」「『やる気』に応じて力を授ける存在か……」
「私の研究にはあんまり関係なさそうだが、このトレセン学園には興味深い話題に事欠かないね」「ま!」「フクキタルくんを見つけたならきみに連絡するくらいのことはしよう」
すると、目の前のウマ娘は初めて見せるような柔らかな笑みを私に見せてきた。
「助かる。では、私はフクキタルを探しに戻るよ」「あなたも彼女を見つけたら『ウマナリサマには手を出すな』と伝えておいてくれ」
「それじゃあ」
最後に軽く手を振って、彼女はそのまま去って行ってしまった。
……。
少しだけ彼女の背中を見送った私だったが、彼女の姿が廊下に消えたのを確認すると、さてどうしたものかと思案する。
『ウマナリサマ』……物理的要因によらず、ウマ娘の走力に干渉する存在……か。
少し……いや結構興味が出てきたな。
彼女から聞いた条件が『真』であれば、手持ちの薬剤のうち……アレを使えば、おそらく……。
「…………ム」
そこで、私の耳は左後方数メートルのところでゆっくりと動く衣擦れの音を感知した。
直観に従って振り返ってみると、そこにはまるで何かから隠れるようにそろりそろりと動く一人のウマ娘の姿が。
栗毛色をした外はねの髪。達磨の髪飾りに、何よりそれ自体が光を放っているような鮮烈な輝きの虹彩を持つ、彼女の名は──
「やぁやぁやぁやぁ!」
「フクキタルくんじゃあないか!」「こんなところで奇遇だねェ!」
「ちょおッ!?」「タキオンさん……! 声が大きいですよ……!!」
「声……声小っちゃく……」「小っちゃく……」
「おっと失礼。ついね」
口元に手を当て、私はフクキタルくんが逃げられないよう私の『脚』の射程範囲までゆっくりと近づいていく。
ちょうど、フクキタルくんにコンタクトを取ろうと思っていたところだった。彼女一人からの証言だけでは、『ウマナリサマ』の情報としては心許ないからね。フクキタルくんからもリサーチして、それで初めて信頼に足る情報というものだ。
「な、なんなんですかぁ……?」「私、実は今、非常~~~に」「非常に!」「困っているのです……。何故だかエアグルーヴさんが私のことを朝から追いかけまわしていてぇ……!」
「アッ」「私何もしていないですよ? スズカさんの部屋に巨大招き猫を送り付けて、スペシャルウィークさんが圧し潰された件は……」「ちゃんと怒られましたし!」
「何やってるんだい、きみ……」
巨大招き猫って……そもそもどうやって送り付けたんだ? 部屋に入るものなのか? 圧し潰されるほどの巨大な招き猫が…………。
……いかん、気になるが今の主題は此処ではないな。
私は気持ちを切り替えて、
「エアグルーヴくんの要件なら分かっているよ。『ウマナリサマ』の件だろう」
「!」
フクキタルくんの反応が目に見えて変わった。
フムフム……この感じは期待、それと若干の警戒……といったところかな? やはり、フクキタルくんが『ウマナリサマ』を追っているという彼女の話は本当だったか……。
「ちなみに……フクキタルくん」「きみは『ウマナリサマ』についてどこまで知っている?」
「……ええと」
「そういうタキオンさんの方は……?」
「ええ~~~~」「質問に質問で返すのかい? 私、そういうのキライだぞ」
「ひ、ヒィ……」「すみません!」
「じゃあえっとですね……。『ウマナリサマ』っていうのは、神様なのです!」「……というのはご存じですかね?」
……ム、神様ときたか。
彼女の言いっぷりだと、『清らかな存在ではない』らしいが……フクキタルくんとは見解の相違があるようだな。
ただ、私は曖昧に、頷いているようなそうでもないような態度をとっておく。フクキタルくんは既に話に夢中になっているのか、問いかけておいて私のことなんか気にせずに話の続きを進め始めた。
「トレセン学園のウマ娘達が代々積み重ねてきた『勝利への祈り』!」
「その『歴史』に応えてくれた神様こそが」「『ウマナリサマ』なのです!」「『ウマナリサマ』は勝ちたいと願うウマ娘の前に現れて、その背中を押してくれるのです!!」
フクキタルくんは熱っぽく、そして訳の分からないことを話している。
イマイチ要領を得ない感じだが……要するに、『やる気のあるウマ娘のところに現れて、「有難いチカラ」を与えてくれる』という大筋は同じのようだ。ただ、『背中を押す』という言い回しに変わっているようでもあるが……。
「さあ!」「次はタキオンさんの番ですよ! 『ウマナリサマ』について、何をどこまで知ってるんです!?」
「さあーキリキリ吐いちゃってください!」「キリキリ!」「……あ、なんだかこれ刑事ものみたいですね」
「う~ん、悪いが、実は今フクキタルくんが話したことが全てなんだよねェ」
と言いながら、私は彼女から聞いた情報を意図して伏せることにした。
彼女は『ウマナリサマ』に対して何者をも
それに……私も満更『ウマナリサマ』に興味がないわけではない。彼女が探究をやめてしまえば、そこで道は途切れてしまうだろう。それは勿体ないからね。
「ありゃ。そうだったんですか……」「残念、新情報が出てくるかもと思ったのですが」
「……でもまぁ、タキオンさんがエアグルーヴさんの仲間じゃなくてよかったですよ!」
「……ふむ?」
安心しきった笑みを見せるフクキタルくんに、私は別種の興味を持った。
どうやらフクキタルくんは、この話題に関しては彼女をかなり警戒しているようだ。わたしは、フクキタルくんとエアグルーヴくんの交友関係にはあまり踏み入ったりしないが、しかし彼女達が頻繁に会話をしている姿は見たことがある。
フクキタルくんは、エアグルーヴくんに対して多少なりとも尊敬の念を持っていたようだが……?
「そうそう、聞いてください!」「エアグルーヴさんってば、私が朝起きて、噂に聞いていた『ウマナリサマ』を呼び出すためにやる気を高める『詠唱』をしていたら……」
「急に怖い顔して『ウマナリサマはやめておけ』って言いだすんですよ!」
「…………
そこで、私の中で渦巻いていた漠然とした疑念が、明確な形を持ってくる。
紅茶片手にちまちまと作っていたジグソーパズルが、ようやく元の絵が見えかけてきたときのように──全体像を意識して、思考が収束していくような感覚。
「今回は誰かに迷惑をかけたりするタイプじゃあないって言っても聞いてくれないんですよ!」「『ウマナリサマ』はやめておけの一点張りで……」
「いつもよりもすごく怒った感じで。私なんだか不気味になっちゃって、走って逃げてきたんですけど」「なーんかずっと私のことを追いかけてるみたいなんですよねぇ……」
「何か怒らせるようなことしちゃったんでしょーか……」
「さてねェ」「私は分からないが……。ちなみにフクキタルくん」「詠唱っていうのはどんなものだったんだい? 『エロイムエッサイム』みたいな?」
「それじゃ悪魔を呼んじゃうじゃないですか! 縁起でもない!」「……ただの、ありがた~いおまじないですよ。え~と、内容は……」
「『かしこみまきこみリプライげんきん』……」「アレ……?」「かしこみ……、えーと……」「かしこみ……かしこみ……」
しばし考え込んでいたフクキタルくんだったが、やがて考えるのをやめてこちらにパッと輝くような満面の笑みを浮かべると、両手でグッドサインを作り、
「…………忘れました!!」
……そんなテキトーな……。
いや、しかしそうだった。フクキタルくんはオカルトに傾倒しているが、実のところオカルト的な教養は一切ないというか、オカルトに傾倒している割にオカルト部分はどーでもいい感じなんだった。ま、彼女にとってのオカルトとは、自分の背中を押す為の最後の一手のようなものだから、そういうものでいいのだろうが……。
むしろ、霊感は『皆無』なのがフクキタルくんだった。まるで霊自体が、彼女のことを避けているかのように……。彼女のオカルト探究に付き合わされたウマ娘が、『科学の力で除霊してくれ』と縋りついてきたこともあったしな。(あのウマ娘はその後しばらく良いモルモットになってくれて助かったが……)
それに、これで確定だ。
「忘れたのなら仕方がないね」「そうだフクキタルくん。『ウマナリサマ』のチカラを借りたいと言っていたね」
「それなら…………此処に良いものがあるんだ」
私は、制服のポケットから一本の試験管を取り出す。
ゴム栓で密閉された試験管の中には、薄めた血の色をした液体が入っている。
「摂取することによってドーパミンの分泌を促し、血行を良くする薬品だよ」「ドーパミンは脳の『報酬系』と呼ばれる分野に干渉する脳内物質で、平たく言えば、
「や、やる気……! で、でも何か……副作用とかは……?」
「…………さて、そういえば何かあったような、なかったような」
ここでないと言ってしまうのは簡単だが、薬効や副作用を偽って引っ掛けるようなのはこの私の美学に反する。
ああ、もちろん過剰なドーパミン摂取は身体に悪影響を及ぼすので、そういう意味での副作用がないとはいえないが──ま、ウマ娘は代謝機能も人間のそれとは桁違いだ。大した問題ではないだろう。
「
「うッ!」
「うう……!」
試験管を差し出すと、フクキタルくんは私の勢いに押されるようにしてそれを受け取った。これはあともう一押しだな……。
「ちなみにその薬、味はイチゴ味で美味しいぞ。私が味見したからね」「味は保証するよ」
「あっ、もう飲んだことあるんですか? じゃあ安心ですね!」
……何故かフクキタルくんはそう言って、普通に薬品を飲んでくれた。
おかしいな……。何故味への反応が薄い? イチゴ味だというのに……甘くて美味しいんだぞ? そこに第一に反応して然るべきじゃあないのか? 合成甘味料を使わず、自然のイチゴ由来の甘味や風味を損なうことなく抽出することにどれだけの手間がかかったか分かっているのだろうか……?
まぁいい。これで私の目的は半分達成だ。
私特製のやる気UP薬を飲んだのだ。今の彼女は、トレセン学園で最もやる気に満ち溢れた存在となる。もしも仮に『ウマナリサマ』が実在するのであれば、ほぼ確実にフクキタルくんに
……あとは、彼女がここを嗅ぎつけるのにもう少し時間がかかればベストだが……。
「…………ハァッ……!」「遅かったか……!!」
そう上手くはいかないらしい。
チラリとひび割れた窓に反射した景色を見ると、私の背後で肩を上下する『エアグルーヴ』の姿があった。
「やあやあ、早かったね」「先に実験を進めさせてもらっているよ」
「アグネスタキオン!」「何故だ!? 何故フクキタルの『やる気』を……!?」
「何故って……そりゃあフクキタルくんが望んでいて、私も興味があったからだが」「きみこそ何なんだい」「フクキタルくんのことをずっと付け回していたらしいじゃあないか。……正直言って異常だよ。疲れているのかい?」「それとも……
「…………!」
必要な前提は一つ。
『オカルトは実在する』。
その変数さえ確定すれば、あとは自動で計算は完了する。
何故、彼女はフクキタルくんがテキトーな呪文を唱えているだけで『ウマナリサマ』と接触をはかろうとしていると分かったのか?
何故、フクキタルくんのことを『あの子』なんて親し気な様子で呼ぶのか?
フクキタルくんはオカルト探究の一環で『本物』に触れてしまうことも多い。フクキタルくん自身は気付いていないようだが……フクキタルくんが不要に触れたオカルトの被害者が、私に助けを求めてきたりすることもあるくらいに。
つまり、フクキタルくんのことを勝手に慕って憑いてくる……そして彼女を苦しめるオカルトがどこからか出てきても、不思議ではない。
そしてそんな傍迷惑な怪異と、『ウマ娘の味方』である『ウマナリサマ』が出会えばどうなるか。
……なるほど、『ウマナリサマ』の降臨を阻害しようとする論理的動機が生まれたじゃあないか!
「知っているかい、きみ」「エアグルーヴくんはアレで上下関係にはかなり厳しいんだ」「長く苦楽を共にしている会長に対しては未だにヒラ社員が廊下で偶然バッタリ出会った社長みたいに畏まっているし、逆に私のような
私は、証拠を突き付けるように、
「
結論。
目の前のウマ娘の姿をした何者かは、エアグルーヴくんではない。
必然。
エアグルーヴくんではないのにエアグルーヴくんの姿をしているこの何者かは、常識では語ることのできない怪異──即ち、オカルトである。
「デジタルくん風に言うならば…………」「『履修』が甘いんじゃあないのか?」「オカルト」
エアグルーヴくんの姿をしたオカルトは反論の言葉を持たないらしかった。
実験は成功だ。
フクキタルくんのやる気をどうにかして上げれば、『ウマナリサマ』を排斥したがっているこのオカルトは慌ててやって来ると思っていたが……此処まで上手くいくと少しばかり不気味だな。
こちらにゆっくりと近づいてくるオカルトに対し、横へ跳躍して距離を取る。
その、次の瞬間だった。
一瞬前まで私の胴があった空間に、鋭い蹴り脚が閃いたのは。
「なッ……」
いや──表現をより正確にしよう。
「なにィィ────ッ!?」
「フクキタルくんッ!」「いきなり何をッ」
「ウマナリ……に……ウマナリ…………にィ……」
……!
正直に言って、私の心臓は殆ど凍り付いたかのようだった。そのくらい、フクキタルくんの口から発せられる呻き声は──耳を塞ぎたくなるくらいに冒涜的な感情の色を伴っていた!
「おいオカルト!」「アレは……アレはいったいなんだ!?」
蝶が蛹を脱ぎ捨てるように。
蝉が殻から割り出るように。
フクキタルくんの脚、薄皮一枚を隔てた奥に…………
それは面長の獣だった。
ウマ娘と同じような耳を持っていることは変わらないが、大きく広がった鼻の穴、膨らんだ口吻は我々のそれとは似ても似つかない。
ウシか、キリンか……そうした生き物を彷彿とさせる異様な姿の『何か』が、ミシミシと音と立てて、フクキタルくんの脚から『羽化』しようとしている……!!
「アレが……アレが『ウマナリサマ』だ」
「なんだと!? 『ウマナリサマ』はウマ娘に『有難いチカラ』を齎す存在なのだろう!?」「多少のリスクはあるかもしれないが……」「あんなあからさまに『ヤバイ』ものだなんて、きみも言っていなかっただろうッ!」
「……アグネスタキオン。あなたは『想いの力』の存在を信じるか?」
…………。
「なんだって?」
「『想いの力』だ」「大きなレースで勝つウマ娘はみな、レースで土壇場! って時には自分の実力を超えた力を発揮する」「……『想いの力』だよ」「だがそれは……『勝ったウマ娘だけの特権なのか?』」「負けたウマ娘には『想いの力』はなかったのか?」
フクキタルくんがこちらに向き直る。
『何か』が胎動する右脚を踏みしめて、ゆっくりとこちらに近づいてきた。
「ヤバいッ!」「無駄話をしている場合じゃあないぞ! フクキタルくんを元に戻す方法を考えなくてはッ!」
「いいから聞けッ!」「いいか、負けたウマ娘にも『想いの力』はある。ただ、結実しなかっただけだ」「そして結実しなかった……行き場を失った『想いの力』は肉体から抜け落ちて……」「滞留する」
「…………」
チラ、と私はオカルトの方へ視線を向ける。
このタイミングでこの話をする意図。それはつまり……。
「『ウマナリサマ』は…………負けたウマ娘達の」「願いが叶わなかった『想いの力』の集合体だと?」
「そうだ。だから倒すことはできない……!」「物理的に無敵だ」「『ウマナリサマ』を形作るのは『想いの力』なのだからな……」
…………。
そこで改めて、私はフクキタルくんのことを見た。
確かに、フクキタルくんのコンディションは良いだろう。薬の影響か、見てわかるほどに血色はいいし──前身の筋肉が活き活きと隆起している。特に右脚は顕著で──ああ、なるほど、さっき私が何者かが羽化しかけているかのように見えたあの脚は、筋肉が隆起したことによるものだったんだな。ひとつ安心。……だが、あれほどの筋隆起だ。本気で走ったりすれば、フクキタルくんの故障のリスクは時間と共に高くなる一方だろう。
このオカルトが警戒していたのは、この事態だったのだ。まさか自我を失うほどとはな……。
「実験において!」
私は心を決めて、一歩踏み出す。
これは明らかに私の失態だった。『ウマナリサマ』の……実験体の危険性も考えずに実験に利用するなど、流石に迂闊だった。
ならばこそ、被害が致命的にならないうちにカタをつける責任が、私にはある!
一本、試験管を取り出す。
「一番大事なことは」「被検体の安全さ。でないとちゃんとしたデータが取れないだろう」「『
選ぶは血の赤。
フクキタルくんに取り憑いた『ウマナリサマ』が次に何かをする前に、私は素早い動きでその溶液を飲み干した。
「アグネスタキオン!?」「あなた……いったい何を!? その感じ……!」
「『ドーパミン分泌液』」
「私自身のやる気を無理やり上昇させた……」「さて、『ウマナリサマ』。きみはいったい
結果は、劇的だった。
活き活きとうねっていたフクキタルくんの脚の筋肉は見る間に収縮して平常時に戻り──代わりにその肩口くらいから、蜃気楼のような
フクキタルくんは……よし、安定しているな。『ウマナリサマ』に憑かれて体力を消耗しているのか、先ほどまでの『やる気』はほどよく平常値に戻っているようだが……。
……。
「さあ、どうだ『ウマナリサマ』」「同じ薬品を投与されたなら、元の『やる気』の勝負だろう。まぁフクキタルくんにやる気がないとも思わないが……」「私のは『実績』ありだぞ。ヒト一人狂わせた実績が、な」
「アグネスタキオン!!」
「逃げろッ! すぐにあなたも取り憑かれるぞォォ──────ッ!!」
「逃げる? いいや違うね! 逆だッ!」
「逆に………………」「コイツは
両手を広げ、『ウマナリサマ』を迎え入れる。
その瞬間、私は悟った。
『ウマナリサマ』とは──トレセン学園に通い、そして夢破れて行ったウマ娘達の無念の集合体だ。『想い』を秘め、しかしそれを正しく発揮する術を知らなかったウマ娘達の、フラストレーション、行き場のない悲憤、未練……そうしたものの積み重なった存在。
「だが……おかしくないか?」「もしもリベンジ希望なら、どうして自分の肉体を手にしない?」
「同じ怪異であるオカルトは恐れ知らずにもエアグルーヴくんの似姿を作ってまで私達に干渉してきたというのに」
私には……『ウマナリサマ』の心理が分かる。
『ウマナリサマ』を取り込んだから、
『プランB』。
かつて私は、早晩壊れるこの脚に見切りをつけ、私の代わりに別のウマ娘を使って『果て』を見る計画を立てたことがあった。
もしも順調に事が進めば、カフェかスカーレットくんか……多分そのあたりに白羽の矢が立っていただろうが……。
「……人の振り見て我が振り直せとは先人も上手いことを言ったものだ。……こんな醜悪なモノを、私は他人に押し付けるところだったのか」
妄執。
眼前に迫る靄は、そう呼ぶほかないほど鬼気迫る勢いだった。
未練を、後悔を──手の届かなかった希望を、誰かに託す。それ自体は間違いじゃないだろう。尊いものだろう。だが……狂おしいほどの執着を他者に押し付けるのは、それは『託す』のではない。
それも、『託し』た相手よりもやる気のあるヤツを見つけたならすぐさま乗り換える。『託す』ことすら目的としていない──己の目的の為に、己は何も費やさず、無関係の向上心に溢れたウマ娘を利用する煤けた欲望。
コイツは、この世界において『最悪』の邪悪だ。
……やれやれ。
あまり、こういう身体を張った熱血は私じゃあなくてスカーレットくんとかの役回りなんだがな……。
「きみを形作ったウマ娘達の未練には強く共感する」「だがな……だからこそ、彼女達の未練をこれ以上きみのような邪悪に貶めさせるわけにはいかない」「だから」
靄が身体に滑り込む。
徐々に意識が黒く染められていく中で──私は抗い、そして一つの薬品を取り出し、飲み干した。
色は青。
「『エンドルフィン分泌薬』」「
「……『合わない器』に入ったときの気分はどんなだい? 私が思うに、陸に上げられた魚程度には辛いんじゃないかと思うが……どうだね」
『ウギョアアアアアアアアッガバ────ッ!!』
のたうち回るように、靄は私の身体から勢いよく飛び出た。
そして、やがて靄は一つの形となる。
ツギハギの目立つパペットのような、それでいて歯車がむき出しのオンボロ機械のような。そんな二足歩行の『ガラクタ』の肉体の随所から、獣の体毛がコンクリートを突き破って映える雑草のように伸びている。
頭は私がフクキタルくんの脚部に幻視したような、面長の、ウシのようにもキリンのようにも見える生物。それは怪異というより──もはや『生命体』だった。
思った通り、コイツは……『想いの力』を食う、それ自体が生態の、ある種の『生命体』なんだ。
それが栄養であり、存在の根拠だから、より強い『想いの力』を食う。そのための行動原理。
取り憑いたウマ娘が発揮する能力の上昇は、コイツにとっては単なる老廃物でしかないのだろう。とことんふざけきった……そしてグロテスクな生命体だ。
だが、フクキタルくんのやる気はコイツ自身が食らったことで失われ、私のやる気を食らおうとしたところで『エンドルフィン分泌薬』だ。コイツは食事ができなかったどころか、私のやる気ダウンに巻き込まれてかなりのダメージを食らったはず。
あとは今のと同じことを何度か繰り返せば……この化け物は跡形もなく消し去ることができる。
「……アグネスタキオン。これ以上はもうやめておけ」
「なんだオカルト。ここでやめれば元の木阿弥さ」「大事なフクキタルくんを守る為にもコイツは完全に消し飛ばす必要があるだろう?」
「ああ、その通りだ。
一歩。
たったそれだけ動いた──と思ったその次の瞬間には、オカルトは私の横を通り過ぎ、ボロボロになった『ウマナリサマ』の傍らに膝を突いた。
オカルトはそれをゆっくりと抱きしめると──
「な……何をしているッ! おい!」
「『想いの力』ならば、依り代の想いに引きずられて消耗する……」「流石は学園でも随一の奇人・アグネスタキオンだ。私ではなかった発想をする……だが、コイツの『処理方法』は決まっていたんだ」「最初からな……」
ずぶずぶと、ゆっくり押し込んだときの『ダイラタンシー流体』のように……『ウマナリサマ』がオカルトの身体の中へと沈み込んでいく。
『アギ……アギギ……ウマ……ナリィ……』
「ウマ娘の『想いの力』……」「私も似たようなものだ」「ならばコイツも、私の中に
そうしているうちに、オカルトは完全に『ウマナリサマ』を呑み込んだ。起きた事象を説明していくだけなら、単細胞生物の捕食シーンのようなオゾましさだったにも拘わらず──それはどこか、宗教画のような荘厳さを感じさせた。
『ウマナリサマ』を呑み込んだオカルトは、ボケーっとしているフクキタルの頬をパシパシと叩いて気付けする。
「ハッ!!」
「エアグルーヴさん!?」「ヒィ!」「私今回は誰にも迷惑かけてませんよぉ~……悪くありませんよぉ~……」
「ですのでなにとぞ!」「なにとぞぉ~!」「お許しください、お許し下さい!この開運お守りをちょっとだけ貸して差し上げますからぁ~」
「私には要らん」「……それに、『ウマナリサマ』の件はもう片付いた。もう好きにしてくれていい」
「はぇ? そうなんですか?」
「…………頼むから危ないことには首を突っ込まないでくれよ……。寿命が縮む……(そんなものないが)」
エアグルーヴくんそのものの動作で溜息を吐くオカルト。
フクキタルくんはオカルトへの気遣いもそこそこに、早速己の奉ずる神への祈りを再開していた。
「仕方がありません! やはり私はこうしてお祈りする方が性に合っているのです!」
「ふんにゃかはんにゃかうららかほがらか……シラオキー!!」
「そーいえば」「フクキタルくん、シラオキ様とやらがいるのに『ウマナリサマ』を頼ったのは……」「きみ」「そいつは『浮気』ってことになるんじゃあないか?」
「うッウワキッ!?」「そそそそ、そんなぁ~!」
「違うのですシラオキ様! アレは……アレはセカンドオピニオンッ!」「私の主治医はシラオキ様ですよ~~ッ!!」
そんな必死な様子を見て、オカルトは本当に愛おしいものを見るような目をしたまま苦笑し、私を一瞥する。
最後に私の方を見たオカルトは、ぺこりと頭を下げると、そのまま立ち去って行った。
……ああ、そうか。
きみは…………。
そんな彼女の気持ちも知らず、フクキタルくんは楽し気に祈りを天に捧げ続けていた。その祈りの対象が、今しがた歩き去っていったことにも気付かず。
「……『想いの力』……か。『怪異のリスク』を軽視したのは素直に反省だが……」
「ひとつ学ばせてもらったよ」「…………シラオキ様」
──なお、身に覚えのない目撃情報に翻弄されてエアグルーヴくんの苦労がまた一つ増えた件については…………、また別のお話としようか。
『ウマナリサマ』 | ⇒完全消滅。正常化。 |
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シラオキ様 | ⇒優秀な姉は、妹の明るさに憧れている。 |
『ウマナリサマ』 END