理由は無い。ただ綺麗だと。
何も無かった少年が初めて何かに惹きつけられた。
けれど、そんな事はどうでも良かった。
ただ、彼女の力になりたいと。
軽い気持ちで見てくれると幸いです。
ある日、一人の男の子が生まれた。当然のようにその子供には名前が付けられた。その名前は誰かの為に頑張れるような人になりますようにという願いが込められたものだった。
その子供の家庭は父と母そして姉が二人の五人家族で少し貧乏だがある農家の村で幸せに暮らしていた。父は米や野菜を売りに街へ歩き、母は洗濯や掃除といった家事をしながら産まれたばかりの子供の世話を、姉達は村の子供達が通う寺子屋に行く。そんな平和な日々を何年も過ごしていた。
しかし、そんな日々も続かなかった。子供が二歳になる日のこと、父と母が祝いの物を買いに街に行ったきり、帰って来なくなった。その日は姉二人が子供の世話をしながら留守番をしていた。二人は不審に思ったが、数日すれば帰って来ると思い、子供に大丈夫だからと言って寝かしつけた。
だがそれから十日が経っても二人は帰って来なかった。流石に二人は不安になり、村の人達に両親の詳細を聞いたが、誰もが知らないと返した。その答えに不安が募る二人に村の人々はきっと急な仕事が入って帰って来れなくなったのかもしれないと言い、両親が帰るまで二人とその子供は色んな人々にお世話になった。
しかし、そんな生活も四年経ったある日突如壊れる。
あれから四年が経った。子供は六歳になり、姉の一人は十歳にもう一人は九歳なった。もう子供も少年と呼ばれる年になった。
その日、少年は姉に出掛けてくると言い、外に出た。何をしようかと悩んでるとふと昔の事を思い出した。それは両親が街に行ったきり帰って来なくなった。四年前の事を今更思い出してどうすると呆れたが、考えてみると街に行って帰って来なくなるのは少しおかしい。そう思い、一度街に行ってみようという好奇心が少年の心に湧いた。思い付いたら直ぐ行動と言う事で少年は街に行くことにした。
村を出る途中に人に出会ってはおはようと挨拶をし、これを持っていきなと優しい夫婦から水やおにぎりをもらった。前に村の人に聞いた所街は村から五十分歩けば着くらしい。
少年は心が高鳴るのを感じながら街へ向かった。
後にこの事が少年の在り方を形成する原因となる事を少年は知らない
村から五十分と言われたが少年にとってはかなりきつく更に十分もかかった。しかし、そんな疲れも目の前の光景に吹き飛んだ。
そこには村の何十倍もの人が歩き、お店というものが沢山並んでいた。街の事は姉や寺子屋で聞いていたが、少年が見たものは想像していたものを遥かに上回るほどだった。
そんな余韻に浸っていた少年が次に釘付けになった物は周りにある建物ではなく、一人の少女だった。数え切れない程の人がいる中少年の目はその少女を捉えた。自分と歳は同じ位かも少年には分からない。ただそんな事はどうでも良かった。それよりも少女の髪と目の色を見た瞬間少年の体は固まった。何色か分からないが白に近い美しく整った髪、そしてとても綺麗な赤い目。
綺麗だと心から少年は思った。少年の視線に気付いたのか、少女が此方を見た。ほんの数秒だけ視線が合ったが、少女の方が先に視線を反らした。恐らく偶々此方を向いただけではあるが、少年は顔が熱くなるのを感じた。
少年にはこの感覚が何であるかは分からないが悪いものでは無い。寧ろとても良いものだと感じた。早くこの感覚の事が知りたいと少年は行きよりも少し急いで村に帰った。
少年は行きよりも急いで帰ろうとしたが行きの疲れがあり、途中村の人から貰ったおにぎりを食べ、水を飲んだりして休んでいた。休みながらも少女の事が頭から離れなかった。もう一度会ってみたいと思いながら。まずは今日の出来事を姉に話したいということで休みを終え再び村へと歩き出した。
歩く事数十分漸く村に着いたが様子がおかしかった。まずは周りの田んぼや畑が荒らされている。村の子供達で遊んでいる時誤って入ってしまうことはあれど、此処まで荒らされる事はなかった。
そして次のおかしな点は家の扉が何かによって壊されていることだ。偶に扉を直すということで大人達が扉に何かを打ったりする事はあれど扉が道に倒されている所なんて見たことが無かった。
そして、これは今の二つと全く関係ないがこの村には門がある。その扉を開けることで入る事が出来るようになっている。
しかし
そして真っ先におかしいと思ったのは田んぼや畑、扉ではなく
少年は呼吸が速くなるのを感じた。全身からは汗が大量に出ている筈なのに体は恐ろしい程冷たい。何でと考える暇もなく恐る恐る倒れている人を起こし顔を覗いた途端、急な吐き気に襲われ道端に吐き出した。
少年が見たものは目が開いたまま口からは赤い液体を出して死んでいる人である。少年はこの赤い液体を知っている。以前姉に料理をを教えて貰ったときに野菜を切るのに誤って指を少し切ってしまった時に出た液体と一緒だと分かった。それを血だということも。至る所に転がる人を気にしながらも少年は自分の家まで歩く。
家に着いた少年が見たのは扉がある筈の所に転がっている姉二人の姿だった。再び吐き気に襲われ、今度は目から水滴が頬を滴り地面に落ちる。この水滴の正体が分からず、手で何度も目を抑え止めようにも止まらず溢れてくるばかり。足にも力が入らなくなり地面に座りこんでしまう。暫く座りこんでいると
「そこにいるのは少年か?」
急に聞こえてきた声に驚くも少年には聞き覚えのある声だった。
その声の主は一年前この村に訪れていた。今まである軍隊の兵士として活動してい たが怪我のせいで辞めることになり、彷徨っていたところこの村を見つけたらしい。
「生き残っているのは少年一人か?」
生き?少年にとってはよく分からない事だった。少年が寺子屋で習ったのはあくまで文字や数字の様なものであり、人の生や死などについては何も知らないのだ。
しかし、それは少年だけだった。他の子供は生や死などについて理解していた。誰もがそれは普通の事だと、だが少年には理解出来なかった。否、正確に言うのであれば実感が無かった。少年にとって自分が生きているのかも死んでいるのかも、誰もが理解出来るような普通を少年は理解出来なかった。故に分からない、知らない。しかし、少年は何となくだが自分が他の人達と何か違うという事だけは理解していた。
「少年…何故自分が泣いているか分かるか?」
――?泣いているって何?
「少年…悲しいか?」
――悲しい?
「そうか…君はそういう人間だったな…」
男は納得したのか少年に問うた。
「少年…私が一年前に聞いた事覚えているか?」
――目的とかいうもの?
「そうだ…少年が一番気になるものだ。」
気になるものと言われ少年の頭に思い浮かんだのは、あの時の少女だった。それを男に伝えると
「ならその子と一緒に居たいと思ったか?」
――それは違う。けど彼女の為になりたい。
「……少年。以前私が話した事は覚えているか?」
それは一年前男が村に訪れた際、少年が男に何故辞めたのか聞いた時だった。
――何で、おじさん名前言わないの?
男は今まで体験した事を少年に話はしたが自分の名を少年に言わなかった。その問いに男は
必要か?
――え?
私が少年に名乗る必要はあるのか?君が話を聞く時、私の名前を知る必要があったのかと聞いている。現に君は話を何となくでしか理解していないようだが、それは君の知識不足であって私の名前を知らないからと言う訳ではないだろう?
――?
少年には早すぎたか。なら少年には目的がないようだな。
――目的って?
何だ目的という言葉を知らんのか?では少年、君は何の為に生きている?まさかただ生きているだけではないだろう?何か願いは無いのか?
――ちょっと良い?
どうした?
―――――――
……少年。否、今は聞かないでおこう。では目的についてだ。私は兵士だったのでね国を守るという目的の為に生きている。
――それは少し違う気がする
…成程。言葉の意味が理解出来ていないだけか。否、それだけではないな。もっと重要な部分が欠けているのか、
――でも、寺子屋では誰か分かるように名前を
少年言いたい事も一理ある。実際、戦場で怪我をした場合看護師に症状と名前を言う必要があるからな。しかし、それならば怪我をしなければ良い。
――だけど、おじさん怪我してるよ?
だから辞めたのさ。所詮一人の兵士がどうなろうと国からしたらどうでも良い事だ。結局国の経済が回れば兵士が死のうと関係ないからな。それに戦場では人一人簡単に殺せる武器が沢山あるからな。死ねばそいつの自己責任だ。
ん?あぁ…少年にはまだ早かったか。今のは聞き流してくれ。
まぁ目的の前に少年は気になるものを見つけろ。
――気になるもの?
そうだ。それを見た途端、少年の意識がそれにしかいかなくなるようなものだ。それと私は暫くしたらまた出るのでな。
そうだな…一年だ。一年後にまた此処に来る事にするよ。その時に少年の知らない事を沢山教えるよ。その時までに目的を探しておいてくれ。
――分かった。
覚えている。と少年は返した。
「そうか…では少年もう一度聞く。彼女の力になりたいか?」
――なりたい。
「ならば、少年。君は強くならないといけない。だが、ただ強くなるだけでは駄目だ。賢くもならなくてはいけない。そして技術もいる。」
――力だけじゃあ駄目なの?
「そうだ。力だけあっては駄目だ。技術というのは力や体をどのように動かすかを、そしてそれを考える賢さが必要になる。そして一番の問題は少年、君が村で育った事だ。街では学校というものがあるが、それは少年が通っていた寺子屋とは比べにもならん程の人の数、そして此処では習わない様なものを教えている。つまり少年は街の子供より遥かに劣る。いわゆる弱者だ。弱者に居場所なんてない。そして弱者に待っているのは死だけだ。
戦場でも同じことがいえる。強者が生き残り、弱者は死ぬ。まぁ弱者の全員が死ぬって訳じゃない。運が良くて生きている奴もいれば、強者に利用され続けている奴もいれば、貴族の奴隷として働かされている者もいる。稀に何処かで幸せに暮らしている奴もいるが、大抵は長くは続かん。言い出したら切りがないが、弱者はそういうものだと理解しておけ。」
――分かった
「そうか。なら早速始めよう。時間は有限だ。それに少年から聞いた少女だが恐らく貴族の子供だ。並の能力では近づけん。近づけたとしても少年は村育ちという事で下にみられるのは当たり前だ。その少女に近づくには兵士として強くなる事だ。そうすれば貴族の社交場での警備員もしくは直々の護衛にもなれる。また、戦果を上げればその優秀さで少女と一緒にな」
――?さっき言ったじゃん。ただ力になりたいんだ。
「……もう一度聞く。本当にそれで良いのか少年?少女が他の者と添い遂げたとして少女を祝えるか?少年、途中で考えを曲げないと言い切れるか?もし曲がるようならそんな甘い考えでは力になる以前に兵士にすらなれんぞ?貴族が庶民を相手にするわけがない。まず相手にされるには少年には兵士になるしか道がないことを理解しているか?」
――俺、寺子屋で習ったんだ。欲張りは駄目だって。欲張りには罰っていうものがくるんだって。だから俺にくる罰であの子に迷惑かけたくないんだ。
「…後で後悔はしないな?」
――しないよ。
「よし、では少年始めるとしよう。その前に少年の名前を聞いてなかったな。少年、名前はなん」
――必要なの?
「!……フッ、すまん。私から言ったことだったな。確かに少年の名前を聞く必要はないな。では始める前に一つ。私はこれでも元兵士でね。兵士達には顔が広くてね、それに街には私の家がある。少年が兵士になれる手配はするがなれるかどうかは少年次第だ。その為に十年間、少年に教える。もし兵士に成れたのならば私の家を好きに使って良いが、もし成れなければ諦めてくれ。」
――分かった。
「ではまずは……」
そこから少年は男に色々教わった。先ずは少年は生死について実感がない。よって男は少年を死ぬ寸前まで攻撃した。周りからしたら子供に手を挙げる親だ。だが少年に実感させるにはこれしか無いのだ。最初は痛みに声をあげたが段々と痛みが無くなり、意識が切れるのを少年は感じた。そしてこれが死ぬという事を実感した。それから数日寝込んだが、目覚めた後少しして自分が生きている事を実感した。そして少年は生きていることがとても素晴らしい事だと理解した。
そしてそこから少年が十二歳になるまでは自分の体がどのように動くか、その時どこに力が働いているかを徹底的に教わり、それを体と脳で覚えた。それと同時に言葉や文字を使った文章を読んだり書いたり、数字や変な文字列を使い男が持ってきた教科書というものにある問題を解いたりして思考力、想像力を高め、地面を足で蹴るとどんな音がするか、また蹴った足にどれぐらいの負担が掛かるかを想像し、実際はどうなのかと調べたりした。その時地面を手で思い切り殴った時は痛い思いをした。
その後の四年間は実際にナイフや銃を使ったり、人の構造を覚え、何処にどう切り込みを入れれば致命傷になりうるかを知り、体術を教わった。だが教わった所で実戦で使えるかは別の話だ。
一年経ったある日、街とは真逆に数時間歩いた所にある地域に少年は行った。そこには柄の悪い人間達がいる所謂無法地帯である。実は此処にいるのは全員犯罪を犯した人間である。
そして男は少年に
少年は驚かなかった。いつかその時が来ると何となく分かっていたからだ。少年はナイフと銃を渡された。
少年
戦闘において必要なのは三つだ
それは
力で劣るのなら技と脳で殺せ
技で劣るのなら力と脳で殺せ
脳で劣るのなら力と技で殺せ
そして二つまたは全て劣るのなら
非情に成れ
自分を甘やかすな
目的を見失うな
敵に同情なんてするな
仲間だろうが友だろうが敵に成れば
やることは一つだ
何も望むな、見返りを求めるな
何故なら
君は
男の言葉が少年の脳内を埋め尽くす。そして少年はナイフを左手、銃を右手に捕り、遠くの敵へと走り出す。銃に入れてある玉の数はたったの三つ。それを使い終えれば武器はナイフとこの体だけ。
相手は二人。一人は背が170cm前後で格好は肘から少し上が出るぐらいのボロイシャツに所々に穴が空いている長ズボンを履いた男。
もう一人は隣の男より数cm程度高く、着用しているのは太腿の三分の一までしかない短パンを履いた男。だがこの男、全身にバランスよく筋肉がついている。特に上腕三頭筋と背筋特に広背筋の筋肉が遠くからでもわかる程鍛え抜かれている
何やら二人は背を向け話し込んでいる。そこに走り出していくのは少年にとって愚策だ。
そう少年にとってこれが初の殺しである。いくら殺す方法を知っていても体が動かなくては意味がない。正当な試合と殺し合いは違う。殺し合いには法がない。故に勝てば生きる、負ければ死ぬだけ。自分が何かを得る事も失う事もない。
もし何かを得るんだとしたら自信や自負、失うとすれば自身の命、名声だろう。だがそんな物は必要ない。戦場に希望なんてない。勝って生き残っても、それは誰かを殺したという事実の上にしか成り立たない。
そう少年は男から学び、自身に言いつけた。
そして先ずは少年から見て右側に立つ背の高い男の後頭部に走りながら狙いを定め引き金を引く。音と同時に脳に命中した男は前に倒れる。音に気付いた隣の男が振り向く前に、右足で思い切り踏み込み一気に間合いを詰め、相手の右足の大腿四頭筋に対し垂直にナイフで削る。急激な右足の痛みに相手は膝をついてしまう。
しかし、それを逃す程少年は甘くなく、背後に廻り込み後頭部目掛けてナイフを下ろす。しかしこれで終わる少年ではない。例外もあると男から教わった。故に油断をせず確実に相手を殺す。二人の目をナイフで削り、首と心臓にナイフを下ろす。これを以て事は終わった。そして少年の中で何かが消えた。それは何なのか分からない。だがこれだけはいえる。少年は強くなったと。
音を聞きつけたのか、何十人もの少年よりも大柄な人間が近付いてきた。けれどやることは一つ。数という力で劣り、十人分の技術に劣り、脳でも劣る。ならば少年のすべき事は
あらゆるものを駆使し殺す事
何があっても、必ず殺す
少年はまた一つ強くなる。そしてこの日、少年から人間にとって大切な何かが消えた。
「まだ三年の猶予があるというのに此処までやるとは…」
それは男から少年に向けた感嘆の一言。だが少年は何も思わなかった。相手が血を出して倒れるのを見ても何も思わない。死体は見慣れた覚えは無い筈なのに初めて見たあの時の様に吐き気に襲われることも無く、涙が出て悲しむということも無い。少年にあるのは人を殺したという実感だけだった。
男と少年は村に戻り、再び少年は男に教わった。後の三年間は今までよりも厳しかった。特に残りの二年はほぼ体を鍛える事ばかりだった。男は何度も少年に自分を甘やかすなと喝をいれた。体を鍛えでそれを脳でどのように使えるか、それを体で表す力をひたすら高めた。最初と同じ事をやっている事に疑問に思い、男に聞いた所
「いいか?人間の体はな複雑でな。自分がしたい動きと実際の動きというのはかなり違う。視覚外にある自分の体がどう動いているかも分からないまま無理な鍛錬するのは無駄と言い切るにはちと根拠は薄いがあまり良い事ではない。
だから先ずは自分が思った通りに動くような体にするのが先だ。鍛えるのはその後からでも出来る。少年はあの時よりも背も伸び、体も大きくなり、筋肉も付いて来た。幾ら体を思ったように動かせるようになっても、自分の力量が分からない馬鹿では勿体無いからな。だから今やってるのは自分の力を制御する事だ。
もしこれを逆にしたらどうだ?自分の体を思ったように動かせないまま力の制御なんて出来ない。例えば腕の角度が少し違うだけでも力の掛け方も掛かり方も違ってくる。そんな事をずっと続けていては強く成ろうにも成れない。まぁ一部にはそんな事を無意識にやってのけるやつもいるが少年はそんなに器用ではないからな。だが、私の意見は全てが正しい訳ではない。あくまでもこれは私の持論だ。そういう意見もあると受け止めれば良い。話がかなり長くなったな。さぁ続けるぞ。」
――他には?
「他か?少年は変わってるな。こんな話を聞きたいと言ったのは少年だけだぞ。」
――正しいか間違っているかなんて聞いてみないと分かんないだろう?
「確かにそうだな。だが人間が言うことなんて大体が間違っているからな。良くても半々だな。どんなものにも必ずメリットとデメリットがある。だが、人間というのはメリットが大きければ大きい程そこに隠されたデメリットから目を背けるからな。等価交換という言葉があるがそんなものは通用しない。例えば自分が十の労働をしたとしても必ずしも見返りがある訳ではない。まぁ多少はあるかもしれないがな…」
――それだとメリットよりもデメリットの方が大きいって事になるけど?
「あぁ、そうだ。事によっては同等になりうるかもしれんがこれだけはいえる。」
メリットがデメリットを上回ることは絶対にない
「メリットが十に対してデメリットはそれと同等かそれを必ず上回る。これから先どんな便利な道具がでたとしてもこれは変わらない。おっと、さっきも言ったが人間の言うことは大抵は間違っているからなあんまり信用するなよ。」
――おじさん、先生になれば?
「現在、少年の先生になってるんだがな。兎に角常にそういうことを考えながら生き、人の話を直ぐ信じるなってことだ。それよりも他の奴よりも自分の事は絶対に信じるなよ。」
――信じたら、停滞するから?
「そうだ。中にはしない奴もいるが大抵は停滞する。自分が強いと自信を持つことは悪い事ではないが、自信と慢心は違うからな。自信から慢心に変わっても自分では気付かないのさ。大抵気付くときには死んでいるか大切な人間が居なくなった時ぐらいだからな。それに自信なんて物は必要ない。あったとして何がどうなる訳でもないからな。強いて言えば自分の士気が上がるぐらいか。さて私の話はここまでだ。続けるぞ少年。」
そして再び始まる。何故かは分からないが残りの二年間はあっという間だった。
そして少年が兵士に成ろうとする日。
少年は十年前よりも当たり前だが体が成長していた。
身長は約167cmになり、顔つきも男らしく、目は少し大きく吊り目で強気にみえるが人によっては怖がれるぐらい目つきが悪い。
格好は服の色が全て黒で統一されており、薄いシャツの上に太腿の半分に至るぐらいのレイヤード、その上に膝に至るまでのコートを羽織り、長ズボンにブーツといったものだが、本人が少し改造をした為に肘が見えるぐらいまで袖が切られている。元は全て男が街で買って来たものだったのだが、少年の行為に文句があるなら自分でやれと言い服の材料や道具を少年に渡した所勝手に自分で造り始め完成させた物が少年の着ている服である。実は男から一人で生活出来るぐらいまでの家事を教えて貰っていたのだ。
特にズボンはかなり弄ったのか、腰あたりには銃が収まる程度の、その下にナイフが入るぐらいのポケットが付いている。
そして十年経った体は鍛え抜かれており、何処にも無駄がないが服を着てるせいか余りそうは見えない。
「少年…ここまでよく頑張ったな。」
――まだ兵士になってないけどな
「ハハ、随分と口調が男らしくなったな。でも十年間よく続けれたものだ。少しは自分を褒めても良いんじゃないのか?」
――自分を甘やかすなって言ったのアンタだろ…
「それとこれは別だぞ?それに私の言ったことに真に受けてどうする?あまり人の言う事を簡単に信用するなと教えた筈だが?」
――確かにな…それと一つ聞いていいか?
「お!行く前に何かやって欲しいのか?」
――別にそんなじゃねぇよ…
そして少年は右腰に収めている銃を男に向け
俺の家族と村の人達殺したのアンタだろ?
急な少年の言葉に驚いた男だが
「……何故そう思う…」
――これだからという根拠は無い。だがアンタがこの村に彷徨って辿り着いたのと俺が村に帰った時にアンタが俺を見付けたのが少しおかしいと思っただけだ。まぁ他の奴からは偶々だとか言いがかりなどと言われるかもしれないが、ただ
何となくそう思ったんだ
「…そうか。」
暫く沈黙が続いたが少年は決して銃を降ろさなかった。そして男も流石元兵士。銃を向けられても臆す事なく少年を見ていた。
最初に沈黙を破ったのは
殺したのは私だ
男の方だった。
――そうか
「…何も思えなくなったか…正確にはどう感じたのか自覚出来なくなったということか……」
――兵士の時に、裏切られでもしたか?
「何となくでそこまで考えつけるとは…理由を聞いてもいいか?」
――疑問に思い始めたのは俺が初めて殺しをした時だ。だが、確信したのは今だ。考えてみればアンタが俺を強くする理由が分からなかった。最初は気まぐれかと思った。俺の目的の為にアンタが協力する意味なんて無いからな。それにアンタよく言ってたろ。
それは必要か?ってな
――思えばアンタが俺を強くする必要なんて無い。何故ならアンタに何のメリットも無いからな。昔アンタの事を聞いた事を思い返すと何処にもおかしな所なんて無かった。家族関係にも異常なんて無かった。だが、兵士を辞めてアンタは一度家に帰ったと言った。その時、いつもする家族の事が出てこなかった。もしかしたら、そこで何かあったかと考えたが、問題はその前だ
――そこで考えたのが兵士を辞める理由だ。一つ目は死んだときだがこれは当て嵌まらない。
二つ目は怪我をした時、確かにアンタは怪我をしたが戦える余裕は十分にある。
三つ目はアンタが言った自分で辞めた時、怪我をしたからと言っていたがさっき行った通りだ。だがこの理由だけでは不十分だ。そこでだ、アンタが俺に目的の話をした時、アンタは国の為に兵士をしていた。そんな人が自分が怪我をしたからと言って国を捨てる訳がない。それにアンタ、自分を甘やかすなって言ってただろう。まぁ正直アンタが認めない限り俺の言い分は成り立たないから、これ以上挙げても意味がない
そして、最後の四つ目だ。これは理不尽な事で辞めさせられたか、辞めざるを得なかった。という事になる。
で?実際どうだったんだよ?
男は少年の言葉を聞いて笑った。ここまでとはなと
「全て正解と言いたいが、一つだけ間違っているぞ少年…」
――何処だよ?
「私が少年を強くするメリットが無いという所だ。」
――否、実際無いだろう。もし罪滅ぼしの為だったとして俺を強くするメリットは無い筈だ。
「確かに少年から見たらそうなるな…だがな、私にはあるんだ。少年を強くすることで君を助ける事が出来るというメリットがな…」
――俺を助ける?そんな事して何かあるのかよ?
「まぁ聞いてくれ少年。私はこれでも優秀な兵でな、周りからはかなり期待されていたんだ。」
――そんなの見れば誰でも分かるだろうが。それにアンタの考え方も客観的に見れ……そう言えば、アンタの話を聞こうとしたのは俺だけって言ってたな。他の奴らは…
「少年の考えている通りだ。私の考え方はちと変でな、周りには理解されなかったんだ。それでも強いという事から何人かの兵士を率いた隊長になってな、けど強くあっても考え方はどうしても分からないと他の兵は言っていた。それで私は他の兵の言う事に耳を傾けず自分の考え方を押し付けてしまったのだ。そんな事をすれば、兵の不満が募っていくばかりだ。だが、私はそんなの必要無いと国を守れればそれで良いとな。
それでいつだったかな。突如、私の率いた兵がとある法を破ってな、私のいた国では兵士が法を破った場合死刑になるんだ。法を破る兵士なんて信用出来んとな。そして隊長である私が兵士達の始末をつけなくてはならなくなった。その時、私はその兵士を殺さなかった。どんなに嫌われても仲間だからという理由で殺せなかったのだ。
しかし、それが最悪を生んだのだ。私は兵士達を殺さなかったから辞めさせられた。そして家に帰った。そこで家族が待っている筈だった。だが、家に帰ると家族は全員死んでおった。妻も子供も全員私が生かした兵士達に殺されたのだ。私は悲しむ暇もなく怒りに狂い、その兵士達の居場所をありとあらゆる手段で探し当て全員殺したよ。その時、一人か言った言葉を今でも覚えている。」
ザマァみろ!この人殺しが!
「あの時は堪えたよ。その時、私はやっと自分が愚かだったと気付いたよ。」
――……その後は?
「街に引っ越したよ。まぁそこで私は殺しをしていてね。その時だよ、少年の両親と出会ったのは。どうやら君の誕生日の為にプレゼント買うというので街に来たらしい。服装を見れば二人が街生まれではないことぐらい。彼らはとても優しくてね。私の質問に全て素直に答えてくれたんだよ。
その時、少年の事を知ったんだ。そして君が村にいる人とは何か違うという事を知ったのさ。これは好機だと思った。やっと私は死ぬ事が出来るとね。」
――で?何処に俺を助ける理由がある?
「少年、今から言う事をしっかり聞いておいてくれ。世の中には色んな人間がいる。その中で互いにそれらを共有しあい、時に競い合うことで己を高める事が出来る。
だが、そんな綺麗事は通じない。例えば、ある部屋に三十人子供がいたとする。その内一人以外は全員同じ国の人間、一人の方はその子達からすれば異国の人間。この場合何が起きると思う?
集団による苛めだよ。まぁ国よっては差別などと言ったりするかもしれないがな。馬鹿だと思わないか?自分の知らない事を知っている子供がいるのにそれを学ぶ、学ばないは個人の自由だが、そんな事よりも苛めるのだぞ?誰もおかしいと思わないんだよ。やっている本人もそしてその親も。勿体無いと思うだろう?だが人間達はそんな事を考えもしない。それが普通だと間違った事を子供に教えて、自分は知らないフリをすればいいのだから。」
――それで、俺を異端だと分かったアンタは俺がそうならないようにする為に親を殺して、村の人達も殺して、俺を強くして、アンタは満足ってことか…
「そうだ。これから先何十年、何百年後の若者為に私が出来る事は若者に正しい知識をそして物事の良し悪しを考えれるように教える事だ。この子は運が無かったで済ませては駄目だ。未来の為に我々大人が出来る事は少しでも多くの間違いを正し、それを伝えていく事だけだ。
それに時が経てば、新しい物はどんどん生まれる。その中で生きるには古い考えを捨てろとは言わない、けど生きるには新しい物を吸収していかなくてはならない。その時、古い物と新しい物を比べる事で見えてくるものだってある。そして、そこからまた新たな物が生まれるかもしれない。それを他者と共有し合う事で人間は少しづつ進化していくんだ。」
――………
「すまないな。これから兵士になるという少年に話す事ではないな…そして、これが最後の教えだ。」
私を殺せ
――………
「簡単な話だ。前に言っただろう?仲間だろうが友だろうが敵になればやることは一つだと。それに私を殺せば、強者にまた近づけるぞ?こんなに良いことは無いぞ。」
――………
「…………強者と弱者の違いという話を前にしたのを覚えているな?あれに一つ足してくれ。弱者とは何時までも過去に囚われ、ずるずる引きづっている私の様な愚か者の事を指す。
逆に強者とは、時に大切なものを失い、時には大きな壁にぶち当たり逃げたりする事もあれば、時にはもう立ち直れないぐらいの挫折を味わっても、前に進もうと無様に足掻いている者を指す。少年は少女の力になりたいのだろう?ならば強者になれ。その為に私は少年を強くしたのだ。」
――分かった……じゃあ引くぞ。
「その前に一つだけ。少年の思う少女について調べておいた。よく聞いておけ、言うのは一度だけだ。」
彼女の名は
――フローレンス・ナイチンゲール…
「さて少年。」
――あぁ…分かってる。
「そうか……」
――……………
「……………」
――アンタは
少年は引き金を引く指に力を入れ
――俺にとって
少年の言葉に男は心の底から嬉しいと言わんばかりの笑顔を浮かべ、その命を断った。
そして少年は何も言うことも感じることも無く、歩き出した。
それから数年後、イギリスの首都ロンドンのとある軍隊では一つの噂があった。
化け物みたいに強い兵士がいる
その兵士は一人である
誰とも会話をしようともしない
その兵士はまるで戦闘機らしい
その兵士の格好は黒で染められている
その兵士は何に対しても何も感じないと
感じたとしても本人は自覚出来ないと
その兵士は必ず無傷で生還してくると
どんな状況でも敵を全て殺し、勝つと
と様々な噂が広がっていた。そしてこれは他の兵士全員が同じことを言っていた
その兵士には
一人の兵士が無名の兵士に何か名前があったほうが良いと提案をしたが返ってきたのは
戦うのに必要か?
此処で過ごすのに必要か?
お前らは特に困ってないだろう?
なら必要ないだろう?
では何でそんなに強いのかと聞けば
俺は
力で劣るのなら技と脳で殺す
技で劣るのなら力と脳で殺す
脳で劣るのなら力と技で殺す
もし二つ以上もしくは全て劣るのなら
俺には
その在り方で青年を表す事が出来る。
故に
青年に名前は
必要無い
青年には目的がある
彼女の為なら
この身がどうなろうと構わない
自分に出来る事は全てやる
彼女の為に
名前は?/必要無い
感情は?/必要無い
彼女が俺を知ることは?/必要無い
彼女に好意を伝える?/必要無い
彼女の側に俺は?/必要無い
彼女の幸せに俺の存在は?/必要無い
彼女の為だけに動け
それが俺に出来る事
それからまた時は経ち青年の歳は三十を過ぎた。
村を出たときよりも背が約5cm伸びたが、そこからは一向に伸びなかった。格好も特に変わらずのままだが、変わった所といえば、青年は二本の剣を背中に背負っていることである。この剣は明らかに異国の剣であり、どうやら異国の兵士と戦っている際に気に入ったのか、それを奪い取ったものらしい。
青年はロンドンのある病院にいた。
実は一部の兵士が怪我をし病院に運ばれたのだ。その様子を見て来て欲しいと頼まれたのだ。因みに青年、器用にも料理や怪我の手当てなどが出来る。その理由もあって様子を見て来いと言われたのだ。
「お〜い。無名!」
青年が振り返れば此方に手を振る一人の男が立っていた。
この男の名はシヴァ・ダストラ。青年に名前を付けようとした時に青年の在り方に興味が湧いたのか、暇さえあれば無名と絡んでくる。かなりお調子者だが戦闘ではかなり頼りにされている。八極拳と呼ばれる武術を使うらしいが、あくまでも護身術と本人は言っていたが明らかに殺人拳の類いである。
「何だ?今日の飯はお前が作るのか?」
――知るか
「なんだよ~。あ、そうそう。此処に新たな看護師が来るらしいけど知ってるか?名前は確か」
――フローレンス・ナイチンゲール
「そうそう…ってお前知ってたのか?何事にも必要無いって言って切り捨てるお前が知ってるってどんな人なのよ?」
――………
「おい!?無視すんなよ!ったく…相変わらずだな…それしても無名のやつ、さっき少し笑ってた様な気がするけど…気のせいか?」
面倒くさいと思いながら歩く青年。ある日まで青年はずっと一人だった。青年もそれを望んでいた。だが、シヴァを含めた六人の兵はことあるごとに青年に絡んでいる。何故か分からないが。
――何作るか…
「見つけたわよ!無名!!」
と病内にも関わらず此方に走ってきた女はレイン・マーク。
口調が荒く、常に怒っているじゃないかと言われ、青年が歩く怒りマーク(笑)とつけた。それを聞いたシヴァは大爆笑。
レインは激怒し、青年に勝負を挑むも全く相手にされず、一度だけ青年と勝負したが一瞬で負かされた。かなり負けず嫌いなのかしつこく勝負を挑んでくる。マジで止めろ。
とはいっても、兵士の中では女性は珍しく、まぁもう一人いるがそちらの方が女らしいが、それは兵士達の中で暗黙の了解である。
彼女もかなり強くナイフ2本を主流にして戦う。強いといっても青年には遠く及ばないと言われているが彼女には禁句である。
「無名!私と勝負しなさい!」
――……
「ちょっと!?聞いているの!?」
――うるせぇ、今忙しいから後にしてくれ
「!ちゃんと守りなさいよ!」
走り去るレインに病内で走るなと溜め息を吐く青年。
――常に思っていたが、無名って何だよ……
これはシヴァとの初対面の時、『お前って言うの不憫だから今から無名って呼ぶわ!』と訳の分からん事を言い出したのが原因である。
他人と共有し、時には競い合え
師であった男の言葉が蘇る。
――そもそも俺にそんなもの無いんだがな……
調理を終え、それぞれを皿に移す。量は少ないが栄養は摂れる料理を得意とする青年だが今回は兵士の人間が多いので必然的に量を多く作らないといけないので、正直面倒くさい。
そもそも兵士達に青年が料理できると知れ渡ったのは、ご飯を作ってくれる料理人が体調を崩した時だった。基本兵士達は食堂で料理人が作った料理を食べるのだが、お世辞にも美味いとは言えない、というか正直かなり不味い。しかし、以前までは今よりも味が良い食事を食べる事が出来ていた。
18世紀後半のイギリスで起きた、産業革命や19世紀始めに起きた農業革命などでイギリスは発展をしたが、1840年後半あたりでイギリス領であるアイルランドでジャガイモの不作により飢饉が起きたが、政府は救いの手を差し伸べずひたすら帝国の拡大ばかりに努めていた。
これにより、イギリスの食事は不味いという印象になったのだ。
そんな中で、料理人が体調を崩したことで、兵士達は食べるものが無いと唸っていたが、一人だけ食事をしている兵士が居た。それが青年だった。青年は料理人が作ったものでは無く、常に自分が作ったものを食べていた。
『無名!何だその美味そうなもんは!?』
――何って見れば分かるだろう…
『一口!一口だけくれ!』
――……ん
『おおー!サンキュー!いただきまーす!……美味い!!』
結局その後、全員分作る羽目になり、偶に食事担当をする事になった。青年の料理は量は少ないが、栄養満点、美味ということでかなり好評された。
青年が師であった男に言われたのは
『どんな食材でも栄養が摂れ、かつ美味に作れ。量ではなく質に拘れ。』
『食べれることは当たり前ではない、作り手が居るからこそそれは成り立つこと。』
『彼等も常に作れるとは限らん。』
『作って貰えるだけで有り難いことだ。文句を言うな、』
『甘えるな、自分の体ぐらい自分で管理しろ。』
それを青年を今でもやっているだけで、青年自身何故好評されるか分かってない。あくまでも凄いのは師であった男なのに、自分はそれをやっているだけだと。
――言っても…仕方ないな…
「無名さん!」
――どうした?
「運ぶの手伝いますよ!」
この小柄で明るい女……ではなく男はフウカ・ルー。
女性の名前に聞こえるが男である。容姿が女にしか見えないが男である。
戦闘では銃を主流にして戦い、時に背中に背負っている弓を使うがこれはコンパウンドボウというもので北アジア、アラビア等で使われているらしく、ロングボウよりも小さいがその分少しの力で引けるので小柄なフウカでも扱える。唯一の欠点はかなり壊れやすいという事だ。
だが、彼女…ではなく彼は弓矢を近接戦闘に使用するというかなり変わった事をする時もある。
「今日は無名さんの料理ですか!」
――多分、暫く俺が作ることになる…面倒くさい…
「ほ、他に作れる人がいませんから…」
――まぁ、もう諦めたが…
「だって無名さん、何だかんだ皆さんの話とかちゃんと聞いてくれるし、最終的にやってくれるから甘えちゃうんですよ。」
――(甘えるか……)
自分に甘えるな
人に自分の考えを押し付けるな
――(分かってるよ……)
「?どうしました?」
――何でも…これ、運んでくれるか?
「分かりました!」
フウカを見送り、残りの皿を運ぶ青年。
今更だが何故青年が兵士達の食事を用意してるのかというと、この病院には看護師がいたのだが、生憎看護師に対しての扱いが酷く目指す人がそんなにいないうえ、その扱いに辞めてしまう者もいるらしく所謂人手不足なのだ。そんな中で兵士の中で健康管理、栄養のある食事、怪我の手当て、掃除などが出来る青年がやっているのだが、一人でやるのは流石に厳しい。
「無名殿、何か手伝いますよ。」
「無名!元気にしとったかのぅ?」
「無名…ちゃんと休んでる?」
この騎士みたいな男はレース・クロード。
戦闘ではレイビアを主流にして戦う。青年を含めた7人の中で唯一軍隊の主流武器を使う男だ。この男、青年に対してだけは殿とつけて慕っている。理由は分からないが。
次に青年とほぼ同い年だが年寄り臭い喋り方をする大柄な男は
クラウン・バート。
クラウンという大層な名前だが、これは彼の親が何か格好良い名前が良いということでつけたらしい。
戦闘では斧を主流にして戦う。彼は純粋な力勝負で青年を圧倒する程の力がある。
最後に青年より少し背が高く、静かでおっとりとした女は
シアン・マロ。
名前にコンプレックスがあるらしく、名前の事で弄ると彼女自慢の槍で風穴を開けてくる。謝罪するまでずっと追いかけまわす。現にシヴァが一度だけ追いかけまわされて、寝ることも出来なかった。かなり執念深いが一度謝れば追いかけては来ない。
戦闘では槍を主流にして戦う。槍を使っている最中は無表情かつ無言ゆえ、かなり恐ろしい。
――じゃあ、この皿運んでくれ。俺は他の方に廻る。
「お気を付けて。」
「お前さんも大変じゃのう…」
「……休み……」
――分かってるよ。
三人と別れ、病内を廻る。
――何処から、対処したものか…
現状、この病内の空気はあまり良くない。ベッドのシーツなどは全部変えたいが人手が足りない。青年も暇ではないので、常に病院内に居る事はない。また兵士としての活動に戻らなければならないので、今、出来る事はやっておきたい。
――看護師達をどうにかして説得……は少しキツイか…
実は看護師はいるにはいるが、動こうとはしない。やはり扱いがかなり酷かったせいか、ナースコールをしても来ないというのが最大の問題。
――彼女に負担は掛けたくない…
策を考えながら廊下を歩いていると。
「そこの貴方。」
――?……!?
青年はその女性を知っている。青年はその女性と二度会見かけた事がある。
一度目は青年がまだ少年と言われていた頃、初めて街に出掛けた日。
二度目は青年が兵士になって数年経ったある日、一つの依頼が届いた。それは貴族達が集まる社交場の警備をして欲しいと。その時に女性自身、青年の事に気付かなかった。
初めて会った時よりも当然だが背丈は伸び、髪は今は結んでいるがあの時は髪を下ろし、雰囲気も大人の女性らしかった。何よりただ綺麗だった。純白のドレスを纏い歩く姿に青年は夢中になった。女性が青年に気付く事はなかったけれど、そんな事はどうでも良かった。
彼女の姿が見れるだけで有り難いことだと。
傍から見れば、青年は彼女を見れた事で嬉しそうに見えるが、青年は自身の在り方により『嬉しい』というものを感じることは無い。
「此処の看護監督はどちらに?」
――あ、あぁ…実はいないんだ。だから、代理みたいなもので俺がや
「私がやります。」
――い、いや、来たばかりだろ?だか
「部屋は何処にありますか?」
――……此方だ。
彼女の圧に押されながらも彼女を監督室に案内した。
そこからの彼女の行動は凄いの一言だった。先ずどうやったのか、看護師達を説得しナースコールの改善、食事のリフトを導入、ベッドのシーツも全て清潔に、部屋のカーテンも綺麗にし空気を良くした。青年も彼女の指示に従いながら、他に出来ないかを探した。
そして病院を大きく変えた彼女の名は国に広まった。
――やっぱり凄いな…だいぶ変わったなぁ……
「失礼します。」
――どうした?
「今日の食事について相談をと。」
――わるい、少し待ってくれ…これを書き上げるから。
「いえお気になさらず。」
――(最近、ロシアの動きが妙だな…それよりも外交の方は大丈夫かよ…首相のやる事にこちらは口を出せねーからな。)
「………」
――(選挙法がどうかとかで内部で揉めてると聞いたが…くれぐれも分裂だけは避けてくれよ…つっても兵士でしかない俺に何が出来るわけでも無いし…)
「…貴方は変わってますね…」
――…そうか?
「此処にいる看護師達が言ってました。貴方の様な人が沢山いれば良いと。それは私もです。私が兵士の皆さんに頼んだ時、誰も聞いてくれませんでした。ですが、貴方が私の変わりに言ってくださった時、兵士達は素直に貴方に従っていました。これは貴方に絶大な信頼を置いているらでしょう。
しかし、私が変わっていると感じたのは、貴方の在り方です。」
――………シヴァか?
「…すみません。私から彼に聞いたのです。」
それはナイチンゲールがこの病院に来て数日経った日の休憩中
『シヴァ・ダストラですね?』
『ん?確かにそれは俺だけど、どうしたのよ?』
『彼は何故私の言う事を聞いてくれるのでしょうか?』
『彼?無名の事か?』
『?無名とは?』
『アイツだよ。ほら全身真っ黒の奴。』
『彼の事だったのですか…すみません、先程の無名とは?』
『実はアイツさ』
名前が無いんだってよ
彼女はあまり表情が変わる事はないが、シヴァの言葉に驚きを隠せなかった。
『名前が……無い…』
『名前が無いって言ったけど、正確には自分の名前は知ってるけど、俺達に言わないだけだと思うけどな…』
『何故自分の名前を言わないのですか?』
『俺もアイツに似たような事を聞いたよ、その時にアイツ何て返したと思う?』
必要か?だってさ
『アイツには目的があるらしくてな。その目的がとある女の力になりたいって事らしくてな。でもさ、無名の奴は力になれればそれで良い、その為なら自分は何だってやる。
だから、その子に名前を言う必要があるのかだってさ。これは俺達にも言える事でよ。無名の奴はその子の為に尽くすのに、俺達に名前を必要は無い。だとさ。』
『………』
彼女は青年の在り方に自分を重ねた。
彼女は多勢の為、青年は個人の為、方向性は違うが自己を顧みず事を為すという点では二人は一致している。そして、羨ましいと思った。それは青年に対してだけではなく、彼にそこまで思われている女性に。何故こんな感情を抱いたのかは彼女は分からなかった。青年と出会って、まだ数日しか経っていない。彼の話を聞いて少しだけ青年の事が分かった気がした。それと同時にちょっとした優越感を抱いた。
貴女より私の方が彼を知っている
ふと浮かんだ言葉が脳内で何度も再生される。だが、彼女はすぐその言葉を打ち消し、自分のすべき事を何度も脳に言い聞かせる。このまま青年の事を聞くのは良くないと判断し、彼に礼を述べ立ち去った。それを見た彼は
『…あれは間違いないな。ったく、下手に刺激すると共倒れするなあれは。……無名さっさと此処を去った方が良さそうだぞ…』
――………
「……患者の事を知らなければ、治療も出来ません。ですので名前を…」
――必要無い。俺は怪我をしない。したとしても自分の傷ぐらい自分で治す。
「貴方は専門的な知識を持っていない。それに万が一というのもあります。」
――確かに俺にはそんなものは無いが、俺が怪我をしようがアンタには関係ないだろう…
「関係あります。」
――ないな。それに一人の兵士に固執するより、他の多勢の兵士を治した方が良いんじゃないか?
「貴方は勘違いをしている。貴方もその多勢の中に入っています。」
――……なら今すぐそこから除外してくれ。
青年の言葉を彼女は強く否定する。
「貴方が強いことは、他の兵士から散々聞かされました。ですが
物事には必ずメリットとデメリットがある
――……分かってるさそんな事…だが、アn
「おい、無名いるか?緊急の呼び出しだとよ。」
そこにシヴァがやってきた。これは青年にとって運が良かった。それに緊急と言えば彼女も止めはしないだろう。
「お?何か話し中だったか?悪いけど、緊急なんでねコイツ借りるわ。」
「……お気になさらず…」
「そうか。」
部屋を出て、暫く無言で廊下を歩く二人。
「……間一髪ってところか?」
――……あぁ…
「彼女、押しが強いというか圧があれだな…けど、それ程患者の病気を治したいという気持ちが強いのかもな。」
――……緊急は?
「無視かよ。陸軍の要請だとよ。お前も感じてると思うが、ここの所他国の動きが妙だから何時でも行けるよう戻れだとよ。」
――……そうか。
「死ぬなよ。」
――………
何も言わず、青年は去って行った。
「それしても…対応が全然違うじゃねぇか…」
それは彼女に対する青年の態度ではなく、青年に対する彼女の態度だ。
シヴァが知っているフローレンス・ナイチンゲールという看護師は人の話を全く聞かない。他の兵士達が何を言おうが問答無用で治療する。彼女は誰も聞いてくれないと言ったが、実際は無理矢理聞かせたのだった。どうやら、彼女は治せない病気と治ろうとしない者を嫌うらしい。これは治ろうという気力がなければ、治療する事が出来ないからである。
しかし、青年の前ではどうだ。自分の意見を押し通す所は変わりないが、ちゃんと青年の話を聞いていたのだ。まぁちゃんとかどうかは分からないが。それでも彼女の態度が少し柔らかく見えた。
「……此処で突き放せたのは正解だったな…」
彼女かがシヴァに青年の事を聞こうとした時、シヴァは少し驚いた。恐らく、彼女には自覚がない。けれどシヴァからすれば、看護師としてではなく女として青年の事を知りたがってるように見えた。直ぐに勘違いだと思ったが、青年が一人の女の為に尽くそうとしていると言った時、彼女から少しの嫉妬心を感じ取った。
しかし、それは直ぐ無くなったがその後ほんの一秒にも満たない時間、一瞬彼女の口角が少し上がった。
「女としての自分を看護師としての信念が抑えたか…だが、何時まで持つか…」
しかし、そんな考えは直ぐに消えた。確かに互いに無自覚ながら惹かれあってはいるが、絶対に交わる事は無いと分かってしまったから。恐らく、青年は分かっている。例えそんな奇跡があったとしても青年は彼女と共に生きる事はしないだろう。それは彼女にも言える事だ。
「良い夫婦になりそうなのに……」
それからというもの、彼女はあらゆる病気、怪我を治した。患者達は彼女に感謝を述べ、笑顔で病院を出て行った。誰もがそんな日々が続けば良いと思っていた。
しかし、数年経ったある日、イギリスはフランスとともにオスマン帝国と同盟を結び、ロシアに宣戦布告し、イギリスは大規模な遠征軍を編成した。青年はロシア黒海艦隊の基地があるクリミア半島の要衝セバストポリへの進軍に派遣された。シヴァを含めた六名は三人ずつに別れ、バルト海、カムチャッカ半島に派遣された。
青年は夜の海岸でフランス軍と合流したが、そこでは兵士達が論争していた。いくら同盟を結んだとはいえ、考え方が異なるのなら争いが起きるのは当然。だが、此処は敵地だ。論争している暇はない。ただでさえ、今は夜。敵がいつ来てもおかしくない。それにこの地の特色、気候等は未知なものである。
論争が絶えぬ間青年は周りに警戒していた。夜だから当然だが、あまりにも静かすぎる。青年は気付かれないように立ち、探索をは始めた。
――(…何も無い……)
青年は足を進めていく。だが、やはり静かだ。気の所為かと思いきや、その考えはある音にかき消された。
――(?……地面を歩く音……否、これは人じゃない…)
音は続く。
――!馬か!
音の正体に気付いた青年は音の方向へと走る。そして、視線の先で敵を捉え、足を踏み込み、敵との距離を一気に縮める。敵は青年に気付き、武器を構えるがそれよりも先に青年が馬の足を斬る。敵の体制が前に崩れ、その空きに銃を取り出し後頭部目掛けて、引き金を引く。これは味方に戦闘の合図を送るためでもある。敵を殺したのと同時に馬の首を斬り落とす。動物の体は死に体になっても、肉盾等に使える。
――…ッチ…やはり、来るか…暫くは休み無しだな…
青年は悪態をつきながらも、次が来るであろう方向を見据え走り出す。
戦いは続いた。イギリス軍は壊滅状態に、フランス軍は黒海特有の天候を調べていなかったために停泊していた艦隊が嵐に巻き込まれ、大半を失った。青年はそれを気にする事もせず、ただ敵を殺しつくした。
しかし、此処で好機が訪れた。実戦経験豊富のフランスの部隊と戦闘犬を擁する連帯の活躍でセバストポリへの進軍が可能になった。だが、進軍の前にロシア人士官が化けた偽指揮官たちによる攪乱工作による被害が著しく、セバストポリを立ち往生する羽目になった。
「おい、そこの兵士。」
――?
「貴様は相当優秀な兵と聞いている。貴様は前衛だ。やる事はわかっているな?」
――……
「分かっているなら良い。だが、我々の足は引っ張るなよ。ただでさえ、貴様の所の兵はもう使いものにならないからな…」
そう言って、フランス軍の兵士は戻っていった。
――(……まだ全滅はしていないが…こっちは化学兵器を使ってる。戦死より病死が多いな…問題はたとえ勝ったとしても、帰れるかだな…)
――(増援が来るらしいが…それまでにどれ位減らせるかだな…)
青年は塹壕を掘っている兵士とは別に前衛で敵を減らせるだけ減らさなくてはならない。この中で唯一未だ無傷でいるのが青年だけだ。だが、疲労は溜まっていく。
――(あれから、何ヶ月経ったっか……否、何年だったか…)
青年には分からない。戦闘にだけ特化した兵士にとって、時間の経過などどうでも良いことだ。しかし、青年が思ったのは、戦いが始まっての事ではなく、彼女と最後に会話をした事だった。
――(…考えるな…やるべき事を思い出せ……)
自身に言いつけて、青年は武器を取った。ふと脳内に浮かんだ言葉を振り払う様に。
会いたい
「何だよコイツ!?」
「化け物かよ!?」
ロシア軍は単独で戦う兵士に恐怖を覚えた。その青年からは何も見えない。殺しに対する罪悪感も、疲労している筈なのにその顔からはそれを一切感じない。ただ斬る。
複数で掛かっても、遠距離からの射撃を持ってしても、無数の弓矢を持ってしても、青年は全て斬り伏せる。しかし、青年は斬り伏せた事へ何も思うことが無いのか、また青年にとっては出来て当たり前なのか。味方に当たってでも良いと兎に角青年に傷を負わせなければと攻撃するも、何もかも青年の前では無力。
「まるで
一人の兵士がそう呟いた。
「人にも機械にも成れない
ある男がそう言った。
「お前、おかしいよ」
ある村の人間達がそう言った。
「人間じゃないよ…」
ある兵士達がそう言った。
けれど
手伝って下さってありがとうございます
彼女はそう言ってくれた。
何に対しての感謝なのか分からない。
でも、あの時、微笑んだ彼女の顔を見て
綺麗だ
初めて彼女を見たあの時と同じ事を思った。
君に会いたい
――……考えるな…
一つの軍隊を全滅させた青年はただ立ちすくんでいた。少しの乱れすら許さない否定の言葉。それを繰り返す程あの顔がちらつく。
あたり一面に広がる荒野。そこに青年は立っている。
周りには無数の兵士が倒れ、兵士の体には槍や剣、矢が刺さっている。その光景は青年の勝利を現している。そして未だ無傷。返り血は浴びれど、自身から流れることはない。けれどその姿は孤独。
――………
そこに一人の兵士がやってきた
「あ、あの~」
――………
「み、味方です!ほ、本当です!伝言を伝えに来ただけです!」
――………
「フランス側がこれ以上の戦闘を望まないらしいので帰還せよとの事です。」
――……分かった…こちらはどれくらい残った?
「…それがほぼ残っていません……でも、帰りの船はまだ残ってますし、船を動かす人員ぐらいいますので…」
――…そうか…俺も後から戻るから、先に戻れ。
「はい!ではちゃんと伝えましたから戻りますね。」
そう言って、その兵士は去って行った。その後、暫く仕留めそこがないか確認する青年。
――……戻るか…
青年は戻る
筈だった。
そして、ふと
目的を見失うな少年
――……
自分を甘やかすな
思い出した。
会いたい/目的を見失うな
⬛い⬛い/自分を甘やかすな
君⬛⬛いた⬛/何も望むな
そうだ。俺には
青年のやる事は決まった。
戻ろうとした方向とは逆の方に足を進める。
恐らく、もう二度と引き返す事はしない。
待っているのは死だけ。
無様に足掻き、苦しみながら散っていくであろう。
けれど、自分にはそれしか出来ないから。
ある軍の休息場
「俺達、結局負けたのか?」
「知るかよ…そんなことより戦いは終わったんだから別に良いだろうそんな事。」
「そうだそうだ!」
そこには何千、否、何万もの兵士が戦いで得た疲労、怪我を癒やしていた。
そして、そんな束の間の休息もたった一人の青年によって壊された。
「?何だお前?」
その青年は突如現れた。否、正確にいうのであれば青年は少し前に此処に入ってきた。だが、誰も青年の気配に気付きもしなかった。戦いが終わったという気の緩みかそれとも青年が空きを突いたのかなんて些細なことだ。居ない筈、居るべきではない人間が何の音沙汰も無く現れた。けれど、青年からは何も感じ取れない。
故に、誰もが味方だと勘違いした。しかし、そんな事は有り得ない。何故なら、此処に居る兵士は全員点呼をとった。誰が死んだのか、誰が生きているのかを。よって青年は味方ではないと判断がついた。
否、つくはずだ。否、つけなければならない。
だが、誰もが錯覚した。この青年は味方だと。
しかし、実は重要なのはそこではない。だが、誰も気付かない。
そう応えた男に周りも何だと反応した。その刹那何かが落ちる音がした。誰かが持っていた武器ではなく、何かの肉片が落ちる音。
それは青年に問を投げた男の頭だった。
「っぜんいn」
誰かが口にする前にその首を斬る。
そして周りの兵を斬る。そして斬る、斬る、斬る。
青年はただ繰り返す。
しかし、その背に二本の剣が突き刺さる。それでも、斬る。
たとえ、何本もの剣や矢が突き刺さろうとも、何発もの銃弾を撃ち込まれようとも、斬る。身体からは血が流れ、骨が軋む。全ては青年のものだ。だが、関係ない。斬る。
急に何十もの数のナニカがみえた。
斬る 斬る 斬る 斬る 斬る 斬る 斬る 斬る 斬る
青年の一振りで何故か
それとも
その問いに対する答えは不明。何がおかしい。けど、斬る。
どれくらい経った? 分からない。
どれくらい斬った? 分からない。
足掻け 動け 動け 動け 動け
残りは? 分からない。
テキはナにをシテいる? ワカラナイ
斬る ⬛る 斬⬛ キル ⬛⬛ キ⬛
ダレの⬛び声だ? ⬛⬛⬛ナイ
⬛⬛は? ⬛⬛⬛⬛⬛
⬛⬛⬛⬛⬛? ⬛⬛⬛⬛⬛
急に
だが
⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛
ソレは動き出した。
ソレの発する⬛は人のものでは無い。
では機械の音か 否 それこそ有りえない。
ではソレは何なのか?
分からない。
⬛⬛を⬛失⬛な/⬛⬛
彼⬛の⬛に/⬛⬛!
⬛⬛⬛名⬛/⬛す!
必⬛無⬛/殺⬛!
ふいにある音が消えようとしていた。
ソレの⬛⬛が止まる。否、
それでも、ソレは動く。
絶対に殺す
あらゆるもの全て使ってでも
何があろうとも
必ず
殺す
それしか出来ない
故に
他のものは
必要無い
そして⬛⬛は⬛⬛した。
だが、 は立っている。恐らく、倒れる事はないだろう。
周りには無数の兵が転がっている。
は が無い。そんな時はこないだろう。
そして も無い。正確には分からない。
それでも、はっきり分かることが二つだけ。
それはあの の とあの時見た 顔ぐらいだ。
そして、最後に一つだけ には分かったものがあった。
完全に する。ほんの一瞬、に芽生えた 。
に なんて無い筈なのに。
にゆく瞬間
フローレンス・ナイチンゲール
俺は君と一緒に
居たかった。
それだけで良かったのに
そして青年は笑みを浮かべて
死んだ。
長い戦いが終わり。数年が経った。
コンコンと扉をノックする音。それにどうぞと女性は応えた。
「おっすー元気か婦長さん?」
「はい。元気ですよ。そちらはどうですかシヴァ?」
「俺は相変わらず、ずっとこの調子よ!」
「それは素晴らしいですね。皆、貴方を見習ってほしいです。」
「俺は元気すぎるからな〜逆にうるさいだろ?」
「何事にも健康が一番ですから。」
「確かにそれもそうだな!」
ナイチンゲールは無休で働き続けた結果、自身の体を壊し寝たきりを余儀なくされた。それで今はベッドでの生活が続いている。シヴァはその見舞いだ。体は別として精神状態が心配なのだ。
何故なら戦いが終わっても、帰って来なかった。その事にやはりあの時、一人で行かせるのではなかったと後悔した。あの後捜索をしたが結局、見つからなかった。それを彼女に報告したが、そうですかと言うだけで他に何も言わなかった。だから
「……大丈夫か?」
とても心配だ。
「?何がですか?」
「………否、何でも無い。元気そうで安心したよ。俺も色々やる事があるから行くわ…お大事に。」
「はい。態々ありがとうございます。そちらもお気を付けて。」
ガチャリと扉の閉まる音が部屋全体に響き渡る。
「………大丈夫では、ありません……」
あの報告を聞いた後、声を殺して泣いた。誰もが見れば彼女らしくないと言うがもっと言えば、彼女が落ち込んだり、泣いたりする所なんて有りえないというのが誰もが抱いている事だ。
それからは毎日夢を見た。彼を追う自分の夢だ。彼は止まっていてそこに走って向かおうとするも、距離は縮まるどころか離れていく。そこで漸く自分の気持ちに気付いた。
「……私は貴方とずっと一緒に居たかった…」
けれど、それは一生叶うことはない。
「…貴方が好きです…愛しています…」
けれど、もういない。
「…ズルイ。貴方は私の事を知っているくせに私は貴方の事は何一つ知らない…ズルイです…本当に。」
看護師としてではなく一人の女の子として思ったこと。
「せめて…名前だけでも教えて下さいよ…」
恐らく、誰もが見ても「婦長が壊れた!」と言いかねる程である。
暫く、文句を言い続けた。けれど、返って来るのは外から吹く風の音だけだ。心地良い風が吹くこの部屋は彼女にとって良い環境だ。
ふと急に「よし」と呟くと彼女は筆を持った。もう体は動かないが出来る事はまだ沢山ある。少しでも動くうちにやっておこう。
そう意気込み、今日も筆を走らせる。
更に時は経ち、
「おはようございます!婦長!」
「おはようございます。マスター。」
「婦長。実はカルデアにまた新しいがやってきました!」
「成程。どんなサーヴァントだろうと怪我をすれば私が治しましょう。」
「た、頼もしいですね…そ、そうだ!そのサーヴァントの方が婦長に用があるみたいで医務室にいるみたいで「分かりました。」…ぁ」
彼女に未だ慣れない。カルデアのマスターこと藤丸立香。
「や、やっぱり…止めておくべきだったかなぁ…」
新しいサーヴァントを召喚した立香は困り果てていた。それは真名を名乗ってくれなかった。何度聞いても「必要無い」と切り捨てられ、彼女の事を聞かれ答えたところ、部屋に案内してほしいと言われた。どうしたもんかと思ったが、ダ・ヴィンチに「面白そう!」と言われ案内したが、心配だ。
「大丈夫だよね…」
うん!きっと大丈夫と言いつけて、立香は現実逃避をした。
「新しいサーヴァント……」
ナイチンゲールは自室に向かう途中、他のサーヴァントのある言葉が気になった。
『アイツ、真名聞いても必要無いって教えてくれないらしい。』
「必要無い…」
その言葉をよく使っていた男を知っている。
だからか、部屋開けた時ナイチンゲールは驚かなかった。
「………」
男は椅子に胡座をかいて座り、時計をじっと見ていた。
やがて、気配に気付いたのか男は振り返った。二人は暫く見つめ合った。すると男は立ち上がり、彼女の前に立つ。
そして
「サーヴァント、クラスはバーサーカー。
真名はフローレンス・ナイチンゲール」
バーサーカーという所に彼はクスッと笑った。その仕草に不覚にもドキッとしたナイチンゲール。彼女の知る限り、彼のそういった所は見た事がない為、不意をつかれた。自分と別れた後に何か有ったのだろうか。明らかに雰囲気が違っている。そんな事を考えている内に彼が宜しくという意味で手を差し出す。しかし
「…私だけですか……」
とムゥと少し頬を膨らませる。そんな彼女に彼は心底驚いたと言わんばかりに目を見開いた。彼も自分の知る彼女と雰囲気が違いすぎて驚いている。けれど、意図が伝わったのか一度深呼吸をして
サーヴァント、クラスはアサシン。
真名は
宜しくと。そして
俺は君と一緒に居たい
彼女の答えなんてもう既に決まっている。
「 私も貴方と一緒に…
それと、君ではなく
どうかナイチンゲールと呼んでください
」
主人公のストーリー長すぎ。 だが、悔いはない。
ナイチンゲールの性格違う? な、何の事でしょうか
まぁこんな感じで主人公とナイチンゲールの物語を妄想して執筆させていただきました。どうだったでしょうか?正直ナイチンゲールあんまり出てこないじゃんと思った方、というか全員が思っている筈。この後のカルデアでの二人の日常など執筆する予定です。