四条家の養子   作:咲良 ‍☠️

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プロローグ

僕、一ノ瀬零は5歳の誕生日を迎えるはずだった日に四条零になった。

 

一ノ瀬家は四条家お抱えの医者の家系だ。四宮家お抱えの例の医者と並んで評価されるぐらいには有名だった。何故過去形なのかと言うと一ノ瀬家当主である父はもう死んでしまったから。そして僕には医者としての才能が無かったからだ。

 

まだ5歳にも満たない子供に才能を見出す方がおかしいと思うが、あの家ではそれが『普通』だった。四条の取り巻きに過ぎない一ノ瀬も、元はと言えば四宮に仕える駒の一つだ。四宮の教育は上に立つ者を育てる為にだけに特化している。ならば我が家門でも、と野心家で愚かな僕の曽祖父が考えたらしい。幼少期から動物の死体の解剖をさせ、人体の仕組みを理解し、大の大人でも分からないような医学というものを子供の頭に叩き込むのだ。それは時に暴力を持ってなされた教育という名の地獄であった。

 

前述した通り、僕には才能が無い。だから親にも見切りをつけられ、使用人達にも嘲笑われた。そんな屑みたいな父親でも医者としての腕は確かだった。だから命を狙われたのだろう。

 

無論、四宮が真に狙っているのは四条家当主の命だろう。しかし、当たり前のことながらガードは固い。ならば、時点に殺さねばならないのは後継者か当主が床に臥した時、邪魔となる医者である。

 

四条家の後継者である四条帝は秀知院には進学せず、友達の居る公立の高校に進学したため懐に入ることが困難となった。そのため父は常に命を狙われる立場にあったのだろう。

 

まあ、実際のところどうだったのかは分からない。常に神経を張り詰めて生活をしているストレスから幼少の僕に当たったのかもしれない。だとしても僕はあいつらを親だなんて思わない。

 

 

僕の親は僕を育ててくれた四条家の方のみ。四条の為ならば僕はなんだってしよう。その過程で僕が命を落とそうとも。

 

そのように誓ったのだ。あいつらの葬式の際、なんの価値も無い僕のことを拾ってくれたあの方々に。そこに腐ったみかんを排除したかったという裏事情もあっただろう。

しかしお優しい帝様、眞妃様の従僕として、身を粉にして働く所存だった。

 

しかし、お二人はそれを望まなかった。僕を本当の兄妹のように扱ってくれた。勿論、それでも僕が従僕であることには変わりなく、仕事はきちんとやらせてもらっている。

 

とは言っても仕事は眞妃様の警護及びサポートが中心だ。帝様はほとんど自分でなんでもこなしてしまうため、僕がやるのは一日の四宮の動向を報告するのみである。

 

 

僕が5歳の時から16歳になる今まで四条家と四宮家の抗争が収まる気配はない。だが、帝様と眞妃様は四宮との抗争をお望みではない。

ならば、僕のすることは一つである。お二人の手となり足となり、抗争を平和に終わらせることだ。

 

言うは易く行うは難しだが、必ずやり遂げてみせる。それがあの方々に返せる唯一のことだから。

 

今、四宮のご令嬢がどんな思いでこの抗争に巻き込まれているかは分からない。巻き込まれている、というのはこちらがそうだったらいいなという半ば理想に過ぎないがあながちそれが間違っていないことを僕は知っている。

 

僕はただの養子であり、有事の時には人柱となる身だ。秀知院は四宮の手先で溢れているはず。それなのに僕を何らかの形でも脅かさないのはそれなりに彼女が四宮に染まっていないという証でもある。

 

それを信じて行動を、なんてくだらないことはしないが少しぐらいは期待してもいいと思っている。

 

お二人のためなら命を賭けると言ったが命が惜しくない訳では無い。お二人をいつまでも支えるため長生きしたいのは事実だ。

 

また、高等部一年時は四宮のご令嬢が変化した時期である。その異様な変化の裏に一体何があったのかも調べなければならない。

 

 

したがって僕は、四条と四宮の抗争を平和的に解決し尚、長生きをすることを第一目標、四宮のご令嬢に何があったのかを調査しその秘密を明かすことを第二目標として秀知院学園高等部二年の活動を開始した。


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