現代に生きる結界師は頼られがち   作:固形炭酸

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52話 掴め勝利

 

 

 

 圧倒的な速度。

 圧倒的なパワー。

 圧倒的な耐久力。

 そんな、シンプルな強さ全てが桁外れ。

 

 対峙して改めてわかる。

 この男は"世界一高い壁(最強のヒーロー)"なのだと。

 

「終わりだ!!」

 

 デクを放り投げ、オレを埋めるという。

 オレが負ける?

 いや、まだ負けてねェ。

 

 そもそもクッソ不本意ながらもクソナードを利用してまで、勝ちに拘ったんだ。

 

 猫毛ヤロウが、負けて強くなったってんなら、オレは勝ち続けて強くなる。

 ホンモノのヒーローになる……!!

 

「うるせぇ…!」

 

──FABOOOOM!!!

 

 掌がチリチリと痛むが、構わない。

 オレ一人でも勝つ。

 それを捻じ曲げてでも勝ちを取りに来たんだ。

 

 癪だが、

 

「スッキリしねぇが、今はまだこんな勝ち方しかねえ」

「ちょ、まさか!」

 

 あの火力じゃオールマイトはいつ戻ってきてもおかしくねえ。

 デクをブン投げて、ゴールゲートを潜らせりゃあオレらの勝ち…!

 

「死ね!!!」

 

 汗腺の痛みは限界にチケェし、ノーリスクで最大火力を放つ籠手はもうない。

 最後に、コレで終わる訳ねぇナンバーワンヒーローをブッ飛ばす必要が、まだある…!

 

「ニューハンプシャー」

 

 だよなぁ。

 爆炎の中で聞こえる声。

 今デクを潰させるわけには──

 

「SMASH!!」

 

 爆炎が晴れ、巨大な塊が目にまとまらぬスピードでデクを叩き落としやがった。

 バケモンか…!?

 構えてたのに、なにもできなかった。

 

「チッ…!」

 

 想像以上に、想像以上…!

 叩き落とす気だったが、足止めするしかねぇ。

 

「あの籠手は、最大火力をノーリスクで撃つためだ…!」

 

 リスクなんか考えてたら、この男を止められるワケなねえ。

 オレはバカか……!

 リスクなんざ知るか!

 

「行け!!!デク!!!!」

 

 FABOOOOOOM!!!

 

 タダでさえ、威力高めを連発してるんだ。

 痛みもどんどんと増してきやがる。

 最大火力は、これが限界か…

 

「早よいけ!にわか仕込みのテメェよかオレの方が立ち回れんだ!!役に立てクソカス!!」

 

 そう叫ぼうと、オールマイトはオレにはかかってこねえのはわかってる。

 狙いはゴールを狙う、デクだろう。

 

「ク…!」

「遅いよ」

 

 割り込んだと思ったら、既にオレに肉薄してやがる…!

 顔を掴まれた瞬間、負けが過ぎった。

 そんな訳…ねェだろう!?

 もっと、リスクを攻めなきゃアンタ相手じゃあ結果は出ねぇよなぁ……

 

 限界だぁ?

 知るか。

 オレの限界なんか、オレだって知らねェよ!!!

 

 

「くらえや!!!!」

 

 この戦闘だけで3回目の、最大火力。

 ゼロ距離で当ててんだ、ちったぁ堪えたろ。

 それに、この距離ならあと数回の跳躍でゴールまで翔べんだろ。

 

「寝てな。爆豪少年」

 

 突如、後頭部に強烈な衝撃。

 

「そういう身を滅ぼすやり方は、悪いが私的に少しトラウマもんでね」

 

 最大火力でも、退きもしねぇのかよ…クソ。

 限界……なワケねえ!!

 オレはまだ──

 

 BOOM!!

 

「早よいけ、クソナード…!」

 

 最後の爆破もイテェっつーだけってなんだそりゃあ。

 届かない、まだ。

 そんな事は……

 ならせめて、この試験の勝利条件ぐらいは達成しねぇと、な。

 

「折れて、折れて……自分を捻じ曲げてでも選んだ勝ち方……」

 

 トラウマ…?

 知るかよ。

 体育祭で同世代に初めて、面と向かって負けた。

 あんな惨めな思いはもうしたくねぇんだ…

 

「それすらも、敵わねぇなんて……嫌だ!!!」

 

 最後に出せるだけの、全力の爆破。 

 

「爆豪少年……」

 

 カスみたいな威力しかでねェか。

 これ以上は、汗腺に血が混じりすぎて、個性の発動もできない。

 だが、まだヤレる。

 まだ、勝ってねえんだから。

 

「負け……ねぇ……!」

 

 オレがこのままオールマイトを齧ってでも、気絶してでも、離さず掴んどきゃあ、あのクソナードでも……ゴールまで行けるだろ。

 

 

 

 その後の記憶は、医務室からだった。

 そこで聞いた試験の最終内容で、またもイラつく事になるとは思っても見なかった。

 

 

 

 

 

 

 必殺でなくても良い。

 私は、それまでの補助でいいんだ。

 

 さっきアナウンスあるって事がわかった。

 既に試合が終わってるのは、轟くんとヤオモモのとこ。

 つまり、他のチームはまだ誰も合格してないってことだよね。

 

 ふーーーっと息を吐き、自分のやるべきことを再認識。

 

 今は口田くんがこの森にいる虫を集めてるところ。

 それこそが、主攻。

 だから私のオツトメは、その邪魔をさせない事と、虫集めを手伝う事。

 

『どーしたーどーしたぁー!!!』

 

 先生の個性は相変わらず、あたり一体を巻き込むなぁ……

 でも、声は出さない。

 口田くんに攻撃が向かないように、注意を引きつつも、私が今は目立つ必要がある。

 必死で耳を押さえながらも、森を走る。

 時に枝葉が体に当たるし、踏みしだく大地は草や枯れ木、時に石もあるけど呪力の集中で痛みは少なくて済んでる。

 

 開始から、20分は経った頃だと思う。

 ヤオモモチームを筆頭に、既に何組か合格してる。

 だから、仕掛けるなら……今!!

 本気の本気の、インビジブルヒーロー。

 見えない力を、とくと見よだ!

 

 光の鞭、光糸をあたり一面に伸ばすと、森の木々を揺らしに揺らす。

 

『撹乱のつもりか〜全部吹き飛ばせば、終わりだぜぇ〜!!』

 

 くぅぅぅ。

 声は出さない。

 結構な広範囲で音を鳴らしてるんだから、緩む隙は必ずくる。

 場所を変えて、更に音を立てて行く。

 その都度、先生からの衝撃波が飛んでくるけど、私と先生に吹き飛ばされたり揺らされたりして、きっとこの森中の虫達は怒り狂ってる事だろう。

 そんな怒り狂った状態の虫達は口田くんの元へと集まり、復讐を誓っているはず。

 

 そして、緩んだ!今!!!

 

 前へと全速力で駆け出す。

 タイミングはひとつ。

 脱出ゲートはまだ遠い、そして、先生の顔が私を向く少し前。

 

 集光、屈折……

「ハイチーズ!!」

「おわっ!なんだ……!」

 

 上手く先生の目に光は当てられたけど…

 

『だが!目を潰したくらいじゃあ止めらんねぇぞぉーー!!!!』

 

 サングラス越しだし声だとそうなるよね…

 でも、耳を塞ぎ、しゃがみ込む。

 まさしく全方位にぐるぐると衝撃波を撒き散らす先生だけど、その足元がお留守になってて、大丈夫…?

 

 口田くんが上手くやったのだろう。

 先生の足元、そこから私も思わず寒気がするほどの虫が先生の身体をよじ登って行く。

 

 甲虫にクモに、アリに、ムカデにヤスデとそれはもう様々な虫が先生を覆っていく。

 

『なんだぁ!こんな……』

 

 ようやく身体の異変に気付いたらしい先生。

 気づかない方が幸せとはきっとこの事だろう。

 

「き…………」

 

 声にならない悲鳴を上げて、先生は気絶した。

 

 よしっ!勝った!勝てた!

 透明な私を見つけられない口田くんはキョロキョロとしながらも、声をかける。

 

「葉隠さん…!」

「口田くん!ココだよーー!やったねっ!ありがとーーー!!!」

 

 私達のチームもゴールゲートを潜り抜けると、達成報告のアナウンスもなり、ようやく一安心。

 口田くんも、笑顔で笑いかけてくれた。

 

 唯くん達はまだみたいだね。

 二対二って、ちょっと難しそうだけど……

 ひと足先に、待ってるね。

 

 

 

 

 

 拘束されているはずなのに笑顔を浮かべた唯守に、少し警戒を強めた様子のブラドキング。

 

「まだ、つかまってはないんすよね」

 

 纏界にも個性が効くのは検証済み。

 俺が絡む要素には基本的に個性は働く。

 

 仮に空中から落ちるという現象ですら、俺が基準であれば【先送】する事すらも可能なんだ。

 

「なん──」

 

 拘束されたはずのブラドキング先生の血の虎挟みから、跳躍で簡単に抜け出す。

 纏界が固まることを先送りにしたので、少し小さめの穴から飛び出すくらいにしか感じない。

 

「一対一でもないですしね」

 

 超速の反応で唯守を鎮めんと動くブラドキングだが、既に頭と左右の鎖骨、膝、腰と七点を結界で覆われている。

 更に、その頭の結界にはプラグが刺さっていた。

 

「ぐぅぉぉぉおお!!!!」

 

 ブラドキングの頭を覆う結界の内部では、爆音がきっと反響しまくっているであろう。

 そんな状況でアレど、ブラドキングは血剣で結界を払い破壊し、更に唯守の眼前に剣を振り上げたところで。

 

──ドンッ!ドドンッ!

 

 明らかに、第三者の発する音がしたが、唯守は血剣で頭部の結界を破壊される直前、"三人"が肉薄する足場ごと、全てを結界で囲っていた。

 

「流石に、危なかったね……」

 

 その声にブラドキングもマズイという顔をしたが、もう遅い。

 

──ガチャリ

 

「話した時よりも早すぎるって」

「一撃で無効化できるモンがあるなら、速攻で使うべきには響香も同意してたろ?」

 

 既にハンドカフスをブラドキングの腕に掛けている響香はまるでブラドキング自体を盾にするように、一点を見つめる。

 

【報告だよ。条件達成最初のチームは、轟・八百万チーム】

 

 そこで、リカバリーガールの声でアナウンスが流れた。

 

「え?こんな報告入るんか」

「うん…ウチらも負けてらんないけど」

 

 銃声の方向を見つめる響香に、ブラドキングは大人しく柱を背にドカリと座り込むとニヤリと笑う。

 

「やってくれたな。ヒーローは一芸じゃあ務まらない。スナイプをただの遠距離戦特化だと思っているなら、痛い目を見るぞ」

 

 B組の担任ということもあり、生徒に甘いブラドキングの助言とも取れるその言葉に二人は気を引き締めた。

 

「やれやれ、敵に塩を送られては困るのだがな」

「なんか、雰囲気変わったような…」

 

 響香にしか聞こえていないが、ガチャガチャと何かをいじる音と、先程の声が隠そうともせずに聞こえてくる。

 そして、堂々と目に見える位置にスナイプは現れた。

 

「耳郎がいる以上、かくれんぼも私が不利。ブラドキングが私の戦闘スタイルを多少話してしまったようだが…そもそもそちらの個性、特性はわかってるんだぞ?ヒーロー」

 

 スナイプがポイっと投げた缶のようなものは、カランと軽い音がして三人のいた足場上を転がる。

 その場を跳躍で離れる唯守と、下へと飛び降りた響香。

 そんな二人が爆発を警戒した場合、逃げる方向が分かれるであろう絶妙な位置へと転がった缶。

 それは爆発することはなく、シューと音を立てて煙がそこら中へと充満していく。

 

(視覚を遮るのは、響香がいる以上は自分の不利になるんじゃないのか?)

 

 そう考えていたのだが、次の叫び声で自分はバカかと殴りたくなる。

 

「唯守!スナイプ先生の狙いは──」

「君を潰せば、またかくれんぼの始まりだ」

 

 何発かの銃声に、不慣れな探知結界を使用しようとしたところで大きな音。

 

 ZUM!ZUM!ZUM!

 

 低い音が何度も響く。

 つまりこれは、自分の位置をあえて唯守へと伝えているということ。

 

「結!!!」

 

 その音を取り囲むように結界を成形したのだが、やはり相手はプロヒーロー。

 そう甘くはない。

 

「なら、相手を変えるまでだよな」

 

 煙の中から唯守の眼前へと飛び出てきたスナイプ。

 その大きな銃の銃口は既に唯守を捉えていた。

 

歩撃(ふげき)

「チッ!!」

 

 纏界の出力を上げて、その銃弾を滑らせるように弾くと、下から飛び上がってきた体勢のスナイプへと踵落としを放つ。

 

桂馬軌弾(けいまきだん)

 

 もう一つ構えた銃から打ち出されたのは、ワイヤー付きのフック。

 ワイヤーを巻き取る勢いで、下の煙の中へと高速で消えていったスナイプを目で追ったのだが、それこそが術中だったらしい。

 

「唯守!回り込まれてる!!」

「!?」

 

 ワイヤーガンは任意で切り離すことが可能。

 唯守には煙で見えていなかったが、足場を巻き込むように急降下したスナイプは、その勢いのまま、円を描くよう勢いよく唯守のいた足場の後ろへと回り込んだところでワイヤーを切り離し、今は唯守の後方であり、更には高所を取る事にも成功している。

 

「狙いを絞らせないのも戦闘の常。なかなか硬いようだが、これなら破れるか?」

 

 また別の、今度はリボルバーの激鉄に手のひらを乗せて、もう片方の手はグリップを強く握り込んでいるが、そのトリガーにかけられた指だけは高速で動く。

 

飛車滅撃(ひしゃめつげき)

 

 第一と第二の銃弾に、響香の声で成形した大きめの結界にはヒビでも入ったかのようにビリビリと輪郭は乱れ、第三の銃弾により結界は完全に破壊される。

 マズイと纏界に呪力を込めようとするよりも速く、第四の銃弾は唯守の右足を撃つが、纏界は破れてはいない。

 だが、直線の攻撃にその衝撃を流せてもいない。

 第五の銃弾が寸分違わず同じ位置に撃ち込まれ、痛みに歯を食いしばったところで、第六の銃撃もまた、狂いもなく同じ場所に撃ち込まれ、纏界を完全に貫通。

 唯守の右太ももの部分はそのコスチュームを赤く染めていく。

 

「イッツゥ……銃声が一発にしか聞こえないとか、どんな早撃ちだよ……」

「さて、トドメといこうか」

 

 打ち尽くした為か、また別の銃を取り出したスナイプへと唯守は笑いかけた。

 

「ライブは好きっスか?」

「?」

「フロア揺れるんで、足元に注意って事すよ」

 

 ワイヤーで飛び出した後、高所を取ったのは耳郎と距離を取るためだ。

 彼女の音波もここまで距離が開けば届く事は無い。

 足場にも異変はない。

 ただの時間稼ぎかブラフかと、引き金を引こうと思ったところで、衝撃が訪れる。

 

 ZUMZUMZUMZUM!!!!!!!

 

 下層からは重低音が響き渡り、スナイプの足場がついてる柱は大きく揺れる。

 

「こ、これは……」

「その柱だけ、内部を結界でくり抜いてるんすよね。気柱共鳴って知らないスか?」

 

 結、滅、といつもの流れで、スナイプの寄りかかる小さな柱へと穴を開けたところで。

 

 ZUUUUUUUUUM!!!!!

 

 共鳴し異常に増幅された音は爆音となり、その出口を求めてスナイプの顔のそばの小さな穴から溢れ出す。

 

「ぐっっっっ!!!!」

 

 耳を押さえて蹲るスナイプの手足の関節全てを結界で固定したところで、ようやく音は鳴り止む。

 

「ギリギリだった、かな?ほら、カフス貸して」

「……あの、耳キーーン鳴ってて、なんて言ってんの?」

 

 そう言って座り込んでいる唯守に響香は思わずプッと声を出して笑う。

 そして、唯守の腰につけていたカフスをそっと外した。

 

「信じてくれてありがと。ウチ、唯守とペアでよかったよ」

 

 またも口を動かしているだけにしか見えない響香に対して?を浮かべる唯守。

 そして、慣れないことを言ったと顔を少し赤くした響香がスナイプにもハンドカフスをかけたところで、演習試験は終了した。

 

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